なんだかすがすがしい朝だ。
なんていうか戦ってもいないのにもう『バラモス』に勝った気分だ。
皆を起こして早速【ルーラ】で船まで戻ろう。
「ありゃ?」
【ルーラ】で飛んだら見えない壁に頭をぶつけた。
『バラモス城』の淀んだ空気が邪魔しているのだろうか。
いや、それなら火口に『ガイアの剣』を投げ込んだ時も【ルーラ】出来なかった筈だし、全滅した時もアリスは【ルーラ】で俺達を運んでくれた筈だ。
考えられるとしたら何者かが俺達を逃がさないように結界を張ったのだろう。
でも魔物の気配はない。
不意打ちもないので歩いて帰るとしよう。
『ネクロゴンドの洞窟』も魔物が出ないのは不気味だ。
だが『ネクロゴンド』を下って出口から出るとようやく魔物が出てきた。
「アルス……団体さんがきたみたいよ?」
魔物の群れが出てきた俺達を取り囲まむように配置されている。
『バラモス城』の方からは空の飛べる魔物が次々と飛び立っていて、青空が魔物で黒く塗りつぶされている。
「多いけど……大丈夫だよね?」
「当たり前だろ」
祠で襲ってこなかったところを見ると狙いは完全に俺達だけか。
いよいよもって『バラモス』も久々の力押しで攻めて来たようだ。
「【イオラ】!」
「『稲妻の剣』よ敵をなぎ払え!」
爆発で『フロストギズモ』を吹き飛ばして抜け道を作る。
が、『ミニデーモン』の群れが上空から【メラミ】を撃ってきた。
狙いは完全に俺だ。
『魔法の盾』のおかげで何とか助かったがダメージは大きい。
「今治すから!」
ティナの【ベホイミ】で体力が回復したところで、チェーンソードを振り回しまとめて『ミニデーモン』を薙ぎ払う。
「アリシア!」
「分かってるわよ!」
怯んだところにアリシアは【ヒャダルコ】で打ち落としてくれた。
だが、まだ敵は多い。
地上の敵まで走ってやってきた。
『トロル』と『地獄の騎士』に『ライオンヘッド』まで混ざっている。
ここで【マホトーン】を食らったら不味い。
アリシアとティナには【ヒャダルコ】と【バギマ】で集中的に狙ってもらおう。
補助魔法を使う暇もないのが正直辛い。
「『稲妻の剣』!」
接近戦主体の奴に接近されると不味いから辺りを爆発させて牽制する。
これならいけそうだ。
そう思った時目の前から【ザキ】が飛んできて『命の石』が砕け散った。
団体の中に『ホロゴースト』が移動しながら【ザキ】を撃ってきている。
見失う前に方をつけなければ不味い。
「【ライデイン】!」
【ザキ】が飛んできた方向に【ライデイン】を落とす。
周りの景色はもう魔物で埋め尽くされているんだ。
【ホロゴースト】に当たらなくても敵には当たる。
だが、その考えが甘かった。
【ライデイン】は何かに当たると俺の方に跳ね返ってくる。
【マホカンタ】の掛かった『ガメゴンロード』とペアなのか。やられた。
「アルス!」
「待っててすぐに」
「そのまま二人は攻撃! 【マホトーン】だけは避けろ!」
今ティナが回復に回ったら【マホトーン】が来る。
目の前の『地獄の騎士』の【焼け付く息】はかわせたが、『トロル』の攻撃は直撃してしまった。
とりあえず【ベホマ】で失った体力を全回復して、『祈りの指輪』もひそかに使っておく。
「【火炎切り】!」
これなら跳ね返されない。
そこから【ライデイン】を適当なところに落として敵を粉砕する。
その際『ライオンヘッド』の【ベギラマ】を直撃したが、【マホトーン】よりマシだ。
また【ザキ】が飛んできたからそれを避けるが、今度は『地獄の騎士』の打撃をまともに受けた。
「【稲妻切り】!」
【ライデイン】の宿った剣で周りの敵を吹き飛ばした後、すぐに『稲妻の剣』を使って近付く敵を少し後ろに下がらせる。
手が足りない。
俺は一度【ルーラ】で上がれるところまで飛び上がって敵の配置を確認した。
地上ではモンスターの陰で見えなかったが『ガメゴンロード』が網の目のように配置されている。
これを仕留めなければどうしようもない。
居場所は全部頭の中に叩き込んだ。
逃げられないようにこの周辺にドーム状の結界が張られているようだが、結界内から結界内に【ルーラ】をする分には支障はない筈だ。
「アリシア! ティナをつれて少しの間飛べ!」
俺の言葉に反応してアリシアがティナを抱えて俺のところまで【ルーラ】で飛んだ。
これで思いっきりやれる。
俺は“ライデイン”の電撃を一点に収集させて溜めたて一気に解き放つ。
「吹き飛べ【ギガデイン】!」
魔物の中心で放った電撃は次々に魔物を吹き飛ばしていく。
『ガメゴンロード』に当たって跳ね返った電撃も『トロル』などの大型モンスターが邪魔で俺には届いていない。
大勢で行けばいい訳ではない。
並べたところで広範囲高火力の前では一体も百体も同じだ。
まだ【LV】が足りないのか体から力が抜けていく。
でも大半の魔物は今の電撃で倒せた。
後は、
「ティナ、アルスをお願い!」
「任せて!」
アリシアが『理力の杖』を構えて空中から甲羅を貫いて、ティナは俺に駆け寄って『ベホイミ』を掛けてくれた。
『祈りの指輪』で【MP】も回復しようとしたが全然回復してくれない。
やはり無理矢理まだ使えない魔法を使うのは反動が大きいらしい。
だけど残りはアリシアだけで何とかなるだろう。
今の【ギガデイン】の威力を見てほんの僅かに残った魔物の指揮は崩れているし、『バラモス城』からの増援も止まった。
俺をここで倒すつもりだったようだけど、逆に痛手を負ったのは『バラモス』の方だ。
ざまあみろ。
「きゃっ!?」
アリシアがこっちの方に吹き飛ばされてきた。
残りは『ガメゴンロード』数体と『ミニデーモン』くらいかと思っていたのに、まだ大型でも残っていたのか。
大きな影が俺の目の前に映った。
「勇者よ。
そいつはまるでプテラノドンのようなふざけた頭をしていた。
緑のローブを身にまとい、赤いスカーフをしたよぼよぼのモンスター。
だが圧倒的な威圧感を持っている。
「自己紹介が遅れたな。余は魔王“バラモス”。そなた達を滅ぼすモノだ」
どうりで威圧感があるわけだ。
それにやはり知略に長けている。
こいつは俺が【ギガデイン】を撃つと動けなくなるのを知っていて、わざと撃たせてから姿を現した。
アリシアとティナが俺を庇うように前に出る。
「【イオナズン】」
だがそれを巨大な爆発が飲み込んだ。
衝撃で俺の体も吹き飛ばされる。
「ティナ! アリシア!」
一瞬跡形もなくバラバラにされたのではないかと背筋が凍りついた。
それほどの威力はある攻撃だった。
二人の安否を確認する。
よかった。
二人とももう虫の息だがなんとか生きている。
「さて勇者よ。貴様は二度と復活できぬよう腸を食らいつくしてやろうか。それとも跡形もないほどバラバラにしてやろうか」
『バラモス』が俺の頭を掴んで持ち上げる。
動けないと思って油断しすぎだ。
俺は最後の力を振り絞って『バラモス』の左胸に『雷神の剣』を突き刺して爆発を引き起こした。
いくら魔王といっても今の攻撃は効いた筈だ。
「……さあどちらがよいか答えよ」
そう思ったのに『バラモス』の傷は致命傷にはならずにすぐに再生してしまった。
自己再生するなんてなんていう生命力だ。
「アルスから手を離して」
アリシアが立ち上がっていた。
今にも倒れそうだった。
圧倒的な力を前にしても怯まずにまっすぐ『バラモス』を睨みつけて【メラミ】を後頭部に当てる。
「倒れていれば死ななかったものを」
効いていない。
こいつは【メラ】系は効かないのか。
アリシアに顔を向けて、次に手の平を向ける。
さっきは【イオナズン】だった。
こいつは上級魔法も使える。
「アリシア逃げろ!」
「【メラゾーマ】」
このままだと直撃コースだ。
「このっ」
『バラモス』の腕を蹴り上げて標準を少しだけ逸らせた。
アリシアの真横に巨大な炎が落ちて火柱を上げる。
「くぁっ」
直撃は避けたが衝撃でアリシアがまた吹き飛ばされた。
しっかりと【ギガデイン】を習得さえ出来ていればまだ勝ち目があったかもしれない。
動かない体じゃどうすることも出来ない。
「肉の塊と化すがよい」
アリシアには興味がないのか『バラモス』は俺を掴んだまま【イオナズン】を放った。
意識が遠のいていく。いや、体が遠のいていく?
よく分からない感覚だ。
なぜか【イオナズン】を食らった筈なのに痛みは感じない。
それに掴まれていた筈なのに遠くの方で【イオナズン】が巻き上げた砂埃が立っていて『バラモス』の影が揺らいでいる。
「まだ動けるか勇者よ」
煙が、晴れた。
いつも通り俺の格好をしたアリスが無傷でそこに立っている。
どうやら食らう前に助け出されたらしい。
例の存在に割り込むというアリスの特技か。
助けに行こうにも体がまだ動かない。
「だが力尽きた貴様に何が出来る?」
「……みんなを守れる」
『バラモス』の右爪をアリスは盾で弾いて剣を『バラモス』の喉元に突きつける。
だが、『バラモス』の左手はアリスの腹部に当てられて【イオナズン】の準備は整っていた。
「『バラモス』。止めよう? 人と魔物だって共存できるよ」
「残念ながらそういう問題ではないのだよ」
【イオナズン】が爆発する。
だがアリスはあまりダメージを受けているようには見えない。
俺の姿というメッキが吹き飛んで金色のドレスがふわりと宙を舞う。
おそらく魔法体勢のついたドレスだ。
切られたのか『バラモス』は喉から血を吹き出すがすぐに自己回復してしまう。
「勇者ではない、だと? そうか。貴様が【棺おけの加護】か。おびき出すつもりではいたがまさか本当に現れるとはな!」
『バラモス』は口から【激しい炎】を吐き出した。
アリスはそれを左手の【ベギラマ】で相殺して、右手の【ライデイン】を剣から『バラモス』に向けて放った。
『バラモス』はそれを寸前のところで体を捻って回避する。
その攻防が終わるとようやくアリスが地面に着地した。
まさかアリスがここまで強いとは思わなかった。
いや、魔法の威力自体は俺と同じだが使い方が上手い。
「あんた……アリスなの!?」
「うん。都合で記憶からも消えてたけど説明は後で」
重症のアリシアに【ベホマ】を掛けている。
ティナは自分で何度か【ベホイミ】を掛けていたのか、立ち上がってアリスの下に駆け寄って笑顔を作る。
「おかえり、アリスちゃん」
「ただいま」
それにアリスも笑顔で答えた。
「アルス君が後ろの方に倒れているから連れて逃げてもらえるかな?」
アリスがとんでもない事を言い出した。
俺のことは構わなくていい。
三人で『バラモス』を倒すか逃げるかしてくれ。
「アリス、あんたはどうするのよ」
「『バラモス』を抑える」
言い終わる前に『バラモス』が【メタパニ】を唱えてから、アリスに爪を振り下ろした。
だがアリスは【メタパニ】を受けた様子もなく剣で爪をさばく。
「存在を操る私に小細工は通用しないよ?」
「なるほど。面白い能力だ。だが仲間はそうもいくまい?」
ティナが右腕をアリシアが左腕を掴んで自由を奪う。
「まとめてあの世に送ってやろう。“イオナズン”!」
「っ」
アリスは二人を【イオナズン】の射程から突き飛ばして直撃を受けた。
対魔法装備のおかげでやられてはいないがダメージは確実に食らっている。
でも【MP】の節約かまだ回復呪文は使おうとしない。
「え……あ、アリスごめん!」
アリシアは突き飛ばされたので正気に戻ったようだ。
自分のやったことにアリシアの顔が青ざめる。
「気にしないの」
アリスはそう笑ってからアリシアの目の前まで一気に地を蹴った。
それと同時に【メラゾーマ】がアリシアに向けて放たれる。
盾はもう無いのでアリスはそれを左手で受け止めようとしたが、途中で左手を引っ込めて右手を盾にし、右腕から火柱が上がった。
腕に火がついているのをお構いなしに【ライデイン】を“バラモス”に直撃させる。
アリシアは慌てて【ヒャダルコ】をコントロールして火を消した後、アリスの腕を低温で冷やす。
冷やし終わる前に『バラモス』はまだ倒れているティナに【激しい炎】を吐き出した。
完全にアリス以外を狙ってアリスを消耗させる気だ。
アリスはアリシアを引っ張りながらティナの前に移動して【ベギラマ】で炎を相殺する。
そうしたらまた【イオナズン】がきた。
突き飛ばしてアリシアとティナを射程外に逃がしてまたアリスだけが直撃を受けた。
完全にローテーションにはまっている。
繰り返されていくうちにどんどんアリスの動きが鈍くなっている。
「アリスちゃん!」
ティナが気を取り戻して【ベホイミ】をアリスに掛けた。
回復役が起きたのは大きい。
だけどアリスの傷はほんのわずかしか回復しなかった。
『バラモス』の爪がアリスに迫っている。
アリシアが【ヒャダルコ】で攻撃しているが、ダメージを無視してアリスの命を狙っている。
見てられない。
少し休んだからある程度なら無理できる。
俺は『稲妻の剣』の爆風を利用してアリスの目の前に飛んだ。
痛みを感じたのは一瞬だった。
『バラモス』の爪が俺の腹を貫通して引き抜かれたが、アリスの【ベホマ】だと思われる魔法ですぐに俺の傷を塞いでくれる。
だが二撃目が俺の頭を潰そうと振り下ろされていた。
攻撃は見えているのに体が反応してくれない。
これを食らったら、完全に兜ごと頭が潰されて復活も出来ないんだろうな。
「アリスちゃんダメ!」
ティナが叫んだ。
痛みは感じない。体も動かない。俺の頭が“バラモス”の爪を弾いた。
息もしてないのに苦しくない。
これは……【アストロン】か。
俺とティナとアリシアの体が鋼鉄になる。
アリスはそのままだ。
補助魔法は一切掛からないということだろうか。
「アルス君をお願いね」
更に鋼鉄になったアリシアを【バシルーラ】に似た魔法で空の彼方に送った。
続いてティナも飛ばす。
どうやら今の魔法は結界の効果は受けないようだ。
いや、そんな事どうでもいい。
アリシア、ティナと続いて俺を飛ばさない訳が無い。
止めろ、俺も戦う。俺はまだ戦える。ようやく体が少し動いたんだ。
「離脱ではなく飛ばすことで仲間を逃がすか。だが勇者は送らせん!」
『バラモス』が動いた。
アリスに向けて爪を振り下ろす。
だが『バラモス』の動きがそこで止まった。
周りの風景も止まっている。そんな感覚だった。
気付いたら『アリアハン』の広場にいた。
「あのバカっ」
あの結界の中でアリス自身も離脱できるのなら初めから皆で逃げていた筈だ。
多分さっきの転送魔法は自分を転送させることは出来ないのだろう。
今アリスは一人で戦っている。魔王と一人で戦っている。
「待ってアルス! その体じゃ無理よ!」
「放せ! 俺はまだ戦える!」
そう思っていた。
なのに急に腹部が痛み出す。
血が出ている。
アリスに回復してもらった筈だ。
いや、アレは本当に回復だったのか。分からない。
アリスの能力は未知数すぎる。でも俺はまだ戦えるんだ。
「その体じゃ戦えない。今の私達は……今の私じゃアリスの側に居てもアリスを苦しませるだけ。少し頭冷やして冷静に考えなさいよ!」
アリシアが涙を必死にこらえて俺を睨めつけている。
アリシアも辛いのは分かっている。
でも俺はそんなアリシアの手を振りほどいた。
それと同時にパチンと音を立ててはたかれた。
「いい加減にして」
初めはアリシアにはたかれたのかと思った。
でも違った。
「アリスちゃんの気持ちを無駄にしないで。万全の状態でちゃんとアリスちゃんを助けて」
俺のほほをはたいたのはティナだった。
そこで立っているのも限界だった俺は力尽きて倒れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
フラグを回収しました。
乱立する死亡フラグの中アリスの運命は如何に。
昔からこういうことを平気でやってしまう作者でした、まる。
それにしてもこの魔王様アクティブである。