魔法が嫌いだった。
私のお父さんとお母さんは偉大な魔法使いで、危険な魔法に失敗して文字通り消滅してた。
何もかもがどうでもよくなって、アルスが私なんかの為に無理をして辛い思いした事がある。
だから自分自身も嫌いだ。
それでもアルスと居るのが楽しくて、みんなと居るのが楽しくて、自然に笑えた。
みんなは優しいって言ってくれる。
ちょっとだけ私というものが好きになった。
「本当にすまないと思っている」
私を引き取ってくれた神父さんが頭を下げてきた。
どうやら私は棺おけの加護という特別な力の素質をもっているらしい。
存在を消してアルスの助けになればいい。
もちろん私はアルスの為ならこの身を捧げてもいいと思っている。
私のことを心配して毎日やって来てくれたのに、私は酷い態度をしてしまった。
私のせいでアルスは苦しい思いをした。
それでもアルスは私の友達で居てくれた。
存在がなくなったらアルスにはもう会えない。
みんなとも会えない。
これは私が悪い子だった罰なんだと思う。
私は魔法が嫌いだ。
「顔色、悪いよ?」
アリスちゃんに心配された。
アリスちゃんは鋭いから作り笑いをしてもすぐにバレてしまう。
だけどアリスちゃんは優しいから他の人の前では気付かない振りをしてくれる。
「大丈夫だから。ちょっと気分が悪いだけだよ」
後一週間もすれば、私の存在の力を強制的に引き出すらしい。
だから今日でみんなとはお別れだ。
ずっと一緒にいたいなんて私はわがまま言えない。
それに私が【棺おけの加護】にならないと、もしもの時アルスが死んだら助けてあげられない。
分かってる。
分かっているのに私は泣いていた。
「消えたくないよ……」
望んではいけないことを望んでしまった。
「みんなともっと一緒にいたい……」
望まなければよかった。
「みんなと一緒に笑って、お話をして、ご飯を食べて……友達でいたいよ……」
当たり前の日常。
友達と会える日常。
それを望んでしまったのが私の罪。
泣いている私にアリスちゃんは笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、代わってあげる」
私は悪い子だ。
アリスちゃんに嫌なことを押し付けてしまった。
「私はティナよりも上手に力を使えるから」
私はそれを止めようとしなかった。
しようとしても声が出なかった。
私はそんな泣くだけの私が何よりも嫌いだ。
アリスちゃんは自分の力を見せて、自分の方が適任だと【棺おけの加護】を引き受けた。
私の代わりに引き受けてしまった。
アリスちゃんはとてもいい子で悪いことは何もしていない。
それなのに私は私は!
私の存在はアリスちゃんが代わってくれなかったらここに存在しない。
だからこれ以上の事は何も望んだらいけない。
友達と一緒に居られるだけで私は幸せだ。
アリスちゃんは触れ合うことすら出来ないんだ。
見ていることしか出来ないんだ。
私にはとても耐えられない。
でも代わってあげたい。
それでも言い出せない。
私は魔法も私も大嫌いだ。
アリスちゃんが【棺おけの加護】になるその日は午後からずっと雨だった。
胸が苦しい。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は泣いていた。
誰もいない部屋で謝っていた。
やっぱり私がなればよかった。
私なんかがいてもみんなに迷惑を掛けるだけだ。
お父さんとお母さんが消えてしまった時の無関心な私に戻りたい。
そうすれば何の抵抗もなく棺おけの加護という使命を受け入れて仕事を果たせた。
「ティナ、思いつめないの」
いつの間にかアリスちゃんが私の後ろに立っていた。
ドアを開ける音はしなかった。
多分存在を消してやって来たんだ。
アリスちゃんは雨に濡れてびしゃびしゃだ。
慌てて私は洗面所からバスタオルを取ってきてアリスちゃんに渡してあげる。
「ありがとう」
「何で……」
何で代わってくれたのか。
「【棺おけの加護】は非情にならないとダメな時もあるから。優しいティナには無理だよ」
今日が終わったら存在を完全に消さないとダメなのにアリスちゃんは笑っていた。
私は優しくない。
ぜんぜん優しくなんてない。悪い子だ。最低の女だ。
「優しい子はね、そうやって自分ばかり責めて、押しつぶされて……」
アリスが後ろから優しく抱きしめてくれる。
雨で体はとても冷たくなっていた。
だけど暖かい優しさが伝わってくる。
私なんかに優しくしないでほしい。
「何のために生まれたのかな、って思ったことがあるんだ。私ね、捨て子だったの。お父さんもお母さんも本当の親じゃない。だけど大好き」
初耳だった。
何度もアリスちゃんの家に遊びに行ったことがあるけど仲のいい家族だった。
「それでね、恩返ししようって……最初は仕事で疲れてるお父さんに肩たたきをしてあげたの。そうしたらありがとうって言われて……なんだか心が温かかった。近所のおばあさんが道に迷ってて道案内してあげたらありがとうって言われた。やっぱり温かかった。だからね、私はありがとうって言葉が好き。本当の家族でなくてもいい。みんなにありがとうって言われたい。ただ、それだけなのかな」
アリスは笑っている。
「みんなの笑顔を守りたい。だから私は行くの。どこまでだって……それが私の生きる道だって思いたい」
「ならなんで私の代わりなんて……存在が消えちゃったら何も出来ないのと同じなんだよ!?」
「ティナに笑っててもらいたいから」
当たり前のようにそう言った。
ただ泣くことしかできない私なのに、アリスちゃんはそう言ってくれた。
時計の鐘が鳴った。
振り向いて柱時計を見てみると0時だ。
慌ててアリスちゃんを見るとそこにはもう誰もいなかった。
私も少しくらいなら存在を操る力を持ってるんだ。
忘れない。忘れたくない。
もうアリスちゃんの顔は思い出せないけど存在だけは忘れない。
だって私の代わりに消えたのに私が忘れてしまったら悲しすぎる。
アリスちゃんが可愛そうだ。
名前は思い出せない。
だけど友達が私の代わりに消えてしまったことは覚えている。
とても優しい子でみんなの笑顔を守りたくて消えた子がいる。
私は笑わないとダメなのかな。
消えた誰かのためにも笑っていないとダメなのかな。
もう私は何も望まない。
望んでしまって悲しい思いをするのはもうたくさん。
みんなに優しい子でいよう。
少しでも消えてしまったあの子に近づけるように努力しよう。
アリスちゃんが戻ってきた時笑顔で「お帰りって」言ってあげよう。
いつかきっと笑顔で会えることを信じて。
魔王『バラモス』は強大な敵だ。だけど俺には仲間がいる。
復活させた『ラーミア』でアリスを助けに『バラモス城』に飛んだ。
今度はもう負けない。
あまり気張らずにアルスのペースで行け。行く手を阻むものは全て私が切り開いてやる。
私もアリスを助けたいんだから一人で勝手に突っ走らないこと。いいわね?
絶対にアリスちゃんを助けようね。 ティナより
ティナの闇は深い。
それに対してアリスはどこまでもお人好しな少女でした。
アリスのモチーフはパンの英雄ですが、このくらいなら歌詞の転用にならない、はず?