左腕しかなかったけどアリスの墓は出来た。
アリスの物の他に、俺の『祈りの指輪』も一緒に入れてもらった。
せめて俺の気持ちだけでも向こうに届いてくれれば幸いだ。
アリシアは人前では泣かなかったけど、多分一人の時にたくさん泣いている。
ティナとニーナはずっと泣いていた。
俺は、もう流す涙は全部流した。
モンスターは大人しくなる様子はなくまだ人間を襲ってくるらしい。
魔王を倒してもすぐには大人しくならないといったところか。
当分は人助けの旅を続けることになるだろう。
『アリアハン』の王に急に呼び出された。
世界を救ったお礼をしたいそうだ。
別に気を遣わなくてもいいのに。
「アルス。そなたになんと侘びをすればいいことか。父を亡くし愛する者を亡くし……本当にすまなかった」
別に王のせいじゃない。
「こうして平和になったのだから親父もアリスも喜んでくれた筈です」
そう信じたい。
「そうか……そう言ってもらえるとわしも少しは気分が楽になる……。そうじゃ、これから祝いの宴を開こう。この宴で少しは気を晴らしてくれ」
多分アリシア達はそんな気分じゃないだろうから呼ばないで適当に参加しよう。
魔王を倒した勇者が宴に参加しないなんて街のみんなを不安にさせるだけだ。
兵士達がファンファーレを吹いた。
その直後だった。
黒い稲妻が兵士達を焼き尽くす。
何が、起きたのか分からない。
だけど『バラモス』を前にした時のような威圧感が、いやそれ以上の威圧感がこの王の間を包み込む。
「わははははははっ! 喜びの一時に少し驚かせたようだな」
声がした。
「我が名は“ゾーマ”。闇の世界を支配する者」
不気味で恐ろしい声だ。
姿は見えない。
遠距離魔法で攻撃して信念波のようなもので語りかけてきたのだろうか。
もしそうだとしたら魔力の桁が違う。
「このわしがいる限り、やがてこの世界も闇に閉ざされるであろう」
王の真上が光った。
俺は慌てて王を突き飛ばす。
次の瞬間には黒い稲妻が玉座を貫いていた。
「さあ苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしの喜び……命ある者すべてをわが生贄とし絶望で世界をおおいつくしてやろう」
黒い稲妻はもう落ちてこない。
「我が名はゾーマ。闇の世界を支配する者。そなたらが我が生贄となる日を楽しみにしておるぞ!」
そして不気味な声は背筋が凍りつくような笑い声と共にゆっくりと遠ざかっていった。
明らかにこれは宣戦布告だ。
『バラモス』を倒した勇者である俺への宣戦布告だ。
「なんとしたことじゃ……。やっと平和が取り戻せると思ったのに……。闇の世界が来るなど皆にどうして言えよう」
王は今の出来事で完全に生気を無くして呆然としている。
親父とアリスが守ろうとした世界をそう簡単に闇に閉ざされてたまるか。
確か『ギアガの大穴』から『バラモス』は来たんだ。
なら今度はそこから魔王『ゾーマ』が出てくる前にこっちから倒しに行けばいい。
皆には……知らせない。
もうあんな悲しみはごめんだ。
『ゾーマ』は俺一人で倒す。
俺は心配させないように母さんに「困っている人を助けてくる」とだけ言ってアリスの墓に報告しに行った。
「今度こそ世界守ってくるからな」
やることは全てやった。
俺は『ラーミア』に乗って『ギアガの大穴』を目指した。
自称闇の世界を支配する者『ゾーマ』に宣戦布告された。
長距離魔法に信念波と桁外れの魔力だが魔王は勇者に敗れるのはお決まりだ。
やることはやったし今度は俺の方から『ゾーマ』の住んでいる所に攻め込もう。
『ラーミア』で『ギアガの大穴』にGOGOGO!
アルスは空元気で冒険の書に筆を走らせゾーマに挑む。
人間はそんなに強くはない。けれど勇者だからやらなければならない。
何よりも失った大切な人が平和を願ったのだから。
もう誰も失いたくない想いから一人旅立ちます。