打ち切り作品ですが、考察できる場所は考察して遊んでくださると嬉しい限りです。
この青空に約束を-No.xxxアリス
大きな岩をひたすら運ぶ夢を見た。
森に差し込む光に当てられながら黙々と運び続けた岩は、運んで来た道に積み重なり、今では果てしない岩の道が出来上がっている。
もう新しく出現した岩を西に動かすスペースはない。
俺は近くに有った大樹を背に腰を下ろし一息つくことにした。
木々の隙間から見える空は澄み渡る青空で、差し込む日の光がとても温かい。
これからだというのに色々あって身も心も疲れた。
少しくらい休んでもバチは当たらないだろう。
「こんなに運んでどうするのかな? 通行の邪魔になっちゃうよ?」
休憩する俺をアリスが見下ろす。
顔を上げ、その瞳を見つめると、いつものように「おはよう」と笑みを返してくれた。
「俺以外誰も通らない道だからいいだろ」
「それはそうだけど、いくら頼まれたからってこんなになるまで普通岩を押し続けるかな?」
アリスは俺が頼みごとを断れなくて永遠と岩を運び続けていると勘違いしているようだ。
いくら俺でも知らない奴の為にこれほどの岩を苦労して運んだりはしない。
「今度は岩を積み上げていく予定なんだ」
「あはは、その岩をよじ登っていく気なのかな。でも、そんなことをしても私に会えないよ?」
それも知っている。
いくら空を目指してもアリスに会うことは出来ないし、天国でアリスに会いに行くなんてバカな考えもない。
「空まで登って、神様ぶん殴ってシナリオ変えてもらう」
「わ、予想の斜めを行く飛んだ発想」
「資格があればさ、神様に挑めるらしいんだ。何度試してもアリスかマリアを失うから、腹いせに神様ぶん殴る」
『ネクロゴンド』にマリアを連れて行けば『バラモス』をその場で倒せてアリスは助かるけど、マリアの体が限界を超えて蘇生すら受け付けなくなる。
他のメンバーを連れて行っても、モンスターの群れで消耗したところで『バラモス』が来るので、結局アリスの力を借りることになり同じ結末を迎える。
アリスと共に最初から全員で戦うと、『バラモス』は倒せても【棺桶の加護】の存在がバレて今度は『ゾーマ』にアリスを殺されてしまう。
この積み上げていった岩は、そんな可能性の数々で、俺は今だ全員で笑顔を迎える未来をつかみ取れていない。
「アルス君。私のことでそんなに思いつめないで。ほ、ほら、私が居なくても可愛い子はいっぱいいるよ?」
「却下。全員揃ったハーレム以外認めない。皆俺に気があるってなら全員俺の嫁にする。勇者の子孫残すのに嫁は多いに越したことはないだろ。異論は認めない」
「うわ、最低な発想だ。あれ、でもニーナやマリアさんは普通に受け入れそうだよね。フィリアちゃんは気にしなさそうだし、ステラちゃんはアルス君と一緒に居られればと妥協しそうだし……アリシアもなんだかんだ言うけど、最終的には折れちゃいそうな気も……」
「アリスは拒否権ないしな」
「本当、何で私はこんな人好きになっちゃったんだろうね」
アリスはたははと苦笑して、好きなことを否定できないことを誤魔化すように自分の頬を軽く人差し指でかいた。
「俺ってさ、我儘なんだよ。誰かが欠けてるのは嫌なんだ。皆笑っているハッピーエンドの方がいいに決まってる。アリスが居てさ、皆が居てさ、母さんの隣には親父がいてさ、どうせ苦労するならそんな未来をつかみ取りたいだろ?」
それがこの果てしなく続く岩の道。
諦めきれなかった【くろうにん】の望んだ夢は果てしなく遠い。
「本当にアルス君は【わがまま】で【あまえんぼう】で【くろうにん】なんだから。だけど、子供じみた夢だけど、私は嫌いじゃないな、そういうハッピーエンド。皆に笑ってもらうの、私も大好きだから」
アリスがそっと俺に手を差し伸べる。
休憩時間は終わりだ。
俺はその手を取り立ち上がった。
「それじゃあ
「うん、
もうアリスの姿はどこにもない。
けれど、夢の中だけど確かに『またね』と約束をした。
澄み渡る青空の下で交わした小さくも大きな約束。
その約束を果たす為に俺は再び岩を運び始めた。
あたらしい すごろくが したい
ちちオルテガを いきかえしたい
エッチな ほんが よみたい
アリスを いきかえしたい
▶うしなわれた ときを とりもどしたい
何一つ手放すことが出来ず、全てを得るまで勇者は岩を押し続ける。
記憶の受け継ぎも力の受け継ぎのなく、様々な選択肢を選んでは繰り返すことになる勇者。
そんな【わがまま】で【あまえんぼう】で【くろうにん】な勇者の冒険の書でした。
最後の選択肢はおなじみ神龍の選択肢に二択追加されたもの。
最後まで雑な文でしたが、ご愛読ありがとうございました。