転生から冒険者になるまでの話です。
ではでは!
八幡「ここは...」
光の渦に巻き込まれた直後、今、自分が居るであろう場所を確認すべく周りの景色を見渡すと...
街を囲む城壁。 花崗岩やレンガ、石灰岩や漆喰の壁。 赤い瓦の屋根。 太い丸太小屋。 屋根より高い煙突。 町の中を流れる川。 そして、川の上の石橋。 石畳の道。 鉄の轍の馬車。 ゴッホの絵に出て来るかの様な服装をした住民。 そして、底抜けに蒼い空と白い雲。 そこはまるで中世の田舎町みたいな、そんなRPGの始まりの町の様な景色が眼前に広がっていて、思わず心の声が出てしまう。
八幡「おぉ~~~~!!!」
エリス「... ナンデ...」
ちょっとやべえなコレ。 ゲーム好きとかアニメ好きとかラノベ好きがこんなの見たら、テンションが上がるのは仕方が無い事だと思うぞ。 それと、ちょっとだけ転生して良かったなって思っちまった。
だが、そんなの腐れ目で猫背でアホ毛が特徴なイケて無い見た目と異なり、心の中ではテンションだだ上がりな自称目以外イケメンボッチの隣には銀髪美少女(女神)が俺の左手を握り佇んでいる。 そしてその我が女神様は言うと... 何処かに意識を置いて来たとしか思えないくらい茫然した表情でいる。 そう、エリスはこの世界に来たのが余程ショックだったのか、先ほどからこの状態のままだ。
そんなエリスを見ていると小さい頃に大好きな綿あめを地面に落とし茫然としたまま、目一杯に涙を溜めて立ち止まったままで居た小町の事を思い出してしまい、そんな風に見える彼女を何とか出来ないかと、彼女のご機嫌を直すべく俺から語り掛けてみるも...
八幡「その、何だ。 ... 悪かったな...」
エリス「...」 ジーーー
ただ俺を見詰め返すだけで、何も返答も無い。
エリス... お前は一体どうしたんだ? さっきまでと違って何処か様子がおかしい... よく考えろ... こいつは何だ? こいつは女神だ。 女神ってのは神様だ。 そんな神様が人間になるって事は如何いう事だ? それは... 不死の女神から脆くて弱い有限の命の人間になったって事だ... そうか... 今のお前はきっと俺なんか想像も出来ない様な絶望を味わってんだな... そう、
死と言う絶望に...
そう言や俺もつい30分か1時間前にそれを味わったばかりだったな...
そんな気持ちにさせた俺が隣で異世界転生だ何だと盛り上がって、お前からしたら勝手に巻き込んで隣で浮かれてんじゃねえよって言いたいよな。
結局の所、俺は何も変わっていない。 何度も痛い目を見ても、前の人生とやってる事は同じだ。 それこそ、俺が他人からされて1番嫌な事をお前にしてたんだな... なら俺のやる事は一つ。 此奴を元居た場所に戻せばいいだけだ。 そしてそれはとても簡単で俺が最も得意とする方法。 そう、俺が直ぐにでも死ねばいい事だ。
そうだ。 俺が知っている解決方法なんて、自分を犠牲にするやり方だけだ。 昔だって今だってそれは変わらない。 エリスが俺の事を思い、天界で俺に教えてくれた様な事は俺には直ぐに出来ないし、今はその方法でお前の事を救えはしない。 なら、急いで此処から去らなければならない。 お前の思考が正常に戻り、俺の考えをなぞる前に...
八幡「悪いエリス。 ちょっとトイレに行きたいから手を離して貰っていいか?」
エリス「... はい」 ジーーー パッ!
エリス。 本当にゴメンな...
・・・
・・
・
異世界に来ても前の世界と変わらず、ここの季節も11月といった所だろうか... 此処から見える遠い山の上には微かに白い雪の様なものが見え、今俺が立って居る城壁の上には冷たい北風が吹き付けている。 その寒さは今着ているブレザーでは防ぎきれず、段々と体が凍って行くような感覚に見舞われる。 まぁ、この後此処から飛び降りるから寒さなんて直ぐに関係無くなるんだがな...
そんな寒い街の外壁の上、ポケットに入れた左手が妙に寂しく感じる。 そう、この街に来てから握っていたエリスの手の感触を今は感じられ無いからだ。 普段の俺なら、恥ずかしくて決して自分から女性の手を握れないが、何故か彼女が俺の求める本物だと思った時から不思議とその行為を恥ずかしいとは思わなく、それどころか自分からそれを求めるかの様に手を繋ぎに行っていた。 そしてその時俺は自分自身誓ったはずだ
『この先も決してこの手を離さない』と...
それなのにこれだ。 ホント、如何し様も無い馬鹿だ... そしてその事を思い出してはあいつの為に死のうと決めたのに未だその事を実行出来ずにいる。 今更未練か? どうした俺? 何時もお前は孤独でいいはずだろ? 昔も転生した今だってそれは変わらないはずだ。 だから、胸の奥にあるこの気持ちなんて捨てて何時もの俺に戻って、自分に課せられた役割を果たせばいいだけだ。 それだけの話だろ?
それとも何か? 死んだ事でやっと手に入れたと思った『本物』に未練でもあるのか? もしそうだとしても、それは偶然手に入れたもので俺自身努力して手に入れた訳でも無い。 なら最初から無い物と一緒だ。 それに... 奉仕部のあいつ等と一緒で、何れ自分の手で壊してしまうなら此処で終わりにした方がいいに決まってる。
けど俺は、俺は...
八幡「それでも、俺は... 本物(エリス)が欲しい...」 ツーーー
その言葉を吐いた直後、後ろに人の気配を感じ後ろに振り返ってみると、其処には...
エリス「八幡さん...」
悲しい瞳で俺を見詰めるエリスが立っていた...
・・・
・・
・
女神として、そのままの姿で自分が担当するこの世界に転生した私は、隣で少し興奮気味の八幡さんをそのままに、この姿でここに現れるのは問題が無いか考えると同時に、以前、神器を集める時に模していた姿を取ろうと、神力で変身をした所...
我が内なる力よ... 我に仮初の姿を与え、その身にあった力を行使させよ
... .. .
エリス「?!! ... 何で...」
私は神力を失ったのか制限されたのか分りませんが、変身出来ません。 これは大分不味い... ですね...
何故なら、今の姿で居ると言う事は女神そのままの姿をこの世界の人達に晒す事になり、国教となっている程数の多い私の信徒達から見れば、明らかに神様を模した『偽物』と思われるでしょう。 そして、最悪の場合、このままエリス様を騙る詐欺師と思われ、国や教団から追われる身になるかも知れません。
まさかこんな事で私の事を『本物』と言ってくれた八幡さんの活動を邪魔する訳には行きません。 なら、私はどうすればいいのでしょうか... そうだ。 私には女神としての力として、変身以外にも数多くの奇跡を行えるので、その内の一つ『予言』の力を使ってこの先に起こる事を見て視る事に。
我が内なる力よ... 数多なる未来の中から、我の求める標を示したまえ...
... .. .
エリス「...」
私は、私は、女神の力を使えない!!
どうして... どうしてなの? 本当に使えないの? 転生の所為で一時的に使えなくなっているの? それとも、この街の人々の信仰心では私が使う神力を使うのに足りないと言うの? でも、ダグネスやこの街の神父の様に信仰熱い人達が居ると言うのにそんな事はないはず。 なのに何故?
そんな自分の状態に納得出来きず、隣で何か自分に語りかけている八幡さんの言葉を聞き流しながら、茫然とその場に立ち尽くしていました。 ですが、そんな彼が隣に居て、私の右手をしっかり握ってくれている。 そして、そんな彼の手の暖かさが今の自分を支えてくれている... そう感じていると、
八幡「悪いエリス。 ちょっとトイレに行きたいから手を離して貰っていいか?」
長い事この寒空の下で立ち尽くしていれば、トイレも近くなりますよね... そう思いながら彼の手を離し、返事を返しながらその顔を見つめていると、その瞳に憂いが差しています。 きっと、先ほどから返事も何も返さない私の事が心配でそんな目をしているのでしょう。
私ったら、女神なのに... それに、彼より年上で... んん! 女性に歳の話は禁物です。 NGです。 さて、丁度八幡さんもトイレ?に向かった事だし、この間にもう一度自分の本来の力の確認をしてみなければ。 私本来の力、幸運の恩恵なら使う事が出来るかも知れません。 では早速試... あの幸薄そうなおじいさんにしましょうか。
エリス「この世の幸運を統べし、幸運の女神エリスが、あなたに祝福を与えます。 ブレッシング・ゴードレス」
キラキラキラキラキラ
おじいさん「あぁ~ 折角この寒空の下、薪を買いに来たのに何処も売れきれとは... 全くついておらんのう...」
樵A「はぁ~~ ちょっと取り過ぎて重いな...」
おじいさん「ん? すまんがそこの人。 今背負っておる薪をわしに売ってくれんかの?」
樵A「おお! 此処で薪を買ってくれるのか! なら、安く譲ってやるから少し多めに持って行ってくれ!」
おじいさん「街の薪売りが品切れしてて、困っておったんじゃ。 助かったわい...」
はぁ~~、よかった... これで女神の力が使えない訳では無く、天界の恩恵が必要な力が使え無いんですね... これならちょっとだけ不幸体質の八幡さんのお力になれます。
ん? そう言えば八幡さんがまだ帰って来ませんね。 ん? 何か変ですね... そう言えば、彼がこの世界、いいえ、この街に来るは初めてです。 なのにトイレがある場所も聞かずに一人で行きますか? 何か嫌な胸騒ぎが...
取り合えず、この近くにあるトイレと言えば教会と冒険者ギルド。 彼の性格なら、人の多い冒険者ギルドに行かずに協会に行くでしょうから、先ずは教会に行ってみますか。 けど、もし何処にも居なくて一人で何処かに行ってしまったとしたのなら... その理由は何なのでしょうか。
・・・
・・
・
結局、何処にも八幡さんは居らず、目撃情報も殆どありませんでした。 そこであの時、八幡さんが私に向けた顔をもう一度思い浮かべて...
え?!
あの顔は、私が初めて見た時の顔?! でも、口元が僅かに微笑んでいる様な気がしますが、その目が... 全てを諦めた様な... 諦めた?! 彼は最後何を諦めたの? そう、全てを、生きる事を諦めて...
生きることを!!!
私は一体何をしているの! 私は女神。 幸運の女神エリス。 なのに私は彼を幸運へと導けていない。 それ所か、彼に今際の際と同じ思いをさせてしまった。 何で? 彼がトイレに行く前に何か言っていた事が関係するの? ううん。 そんな事は会ってから聞けばいい事。 今は先ず彼を探して、彼が間違った事をしない様にする事が先。 でも、彼は何処に行ったと言うの? それに...
どうして、こんな大事な時に女神の力が使え無いの!!
どうすればいいの... こんな時には... そう、星の女神レゾナ様が前に言っていたような... そうだ。 大切にしたいと思う人間が現れた時、やがてその人間は自分の元を去ると... そして、その人間を探す方法は...
エリス「永久なる星の女神レゾナ様。 その力を持って私の大切な人の元に我を導き給え!」
八幡さん、八幡さん、八幡さん...
・・・
・・
・
ヒューーーー ... ヒューーーー ... ヒューーーー
!!! 北風?! 北!
冷たく強い風が吹き付ける中、北の方角を見ると... 街の北門の少し外れの城壁の上に人影が... あの独特な服装は... でも、何であんな場所に...
飛び降り自殺?!!
その事が頭の中に浮かんだ途端、私の体は自然と北門に向けて駆け出していました。
そして、その距離が段々と近づくにつれ、その人が誰かはっきり分かりました。 少し曲がった背に北風に靡くひょこんと飛び出た癖ッ毛。 そして、キリッと引き締まり整った横顔と微かに見える、その特徴的な濁った目... いえ、
全てを諦めた様な、まるで空洞の様な蒼い瞳...
早くしないと間に合わない。 急がなきゃ、急がなきゃ!
胸の内にこみ上げて来る焦りに反して、余り速く歩けない足を叱咤しながら城門横にある石の階段を駆け上がり、外に出た瞬間、涙を流しながら本当の想いを口にしていた。 そう... 彼が求めているもの。 それは...
八幡「それでも、俺は... 本物(エリス)が欲しい...」 ツーーー
死を前にした彼が私を求めてくれている。 死を恐怖するより、私と別れてしまう事を悲しんでくれる。 きっとそれが辛いから。 嫌だから。 そんにまで私の事を想ってくれていると思うと、胸の内が熱くなり、ドックン! 心臓が強く弾けそうになる。
そこまで私を想ってくれているのに死のうとしたのは何故? そこまで大切にしたいと思ってくれているのに何でそんな事を... !!! そうだ。 彼はその身を犠牲にしてまで他人を救ってくれる本当に優しい人。 そんな彼が死んだ後に出会い、今も一緒に居てその対象なりえる人は... 今は私しかいない!!
たしか、転生直後の私は茫然としたままで... 私がそうなった事の理由が自分にあると思ったんですね... そして、その解決方法として何故か死のうとした...
例えその理由があなたにあったとしても、私はあなたに死んで欲しくないのに... どうしてなの...
エリス「八幡さん...」
・・・
・・
・
何でそんな目で俺を見るんだ? 俺はお前にそんな目で見て欲しくない。 それに、その目はまるであの時の由比ヶ浜みたいで...
エリス『八幡さん。 あの時の由比ヶ浜さんはあなたの事をとても大切に思っていたの。 そんな人が例え嘘とは言え、あなた自ら傷つく事をされると、とても悲しくなってしまうの。 だから、出来るだけ自分だけが傷つくなんて事はしないで。 だって、由比ヶ浜さんも私もあなたが傷つくなら、一緒に傷ついた方がいいと思うのだから...』
そうか... そうなんだな...
八幡「エリス...」
そうか... 今の俺のこのやり方が間違っているのか。 それに、お前はそんな事を望んでいなかったな... なら、このままお前の前で死ぬなんて事は出来ない。 それはお前が望むやり方じゃ無いから... なら、どうすればお前を天界に戻せるんだ?
目の前で悲しむエリスを天界に戻す為に、その方法について考えていると...
エリス「八幡さん! 私なら! 本物ならここにあります! なのに、何で一人で消えてしまうんですか! 何で一人で行ってしまうんですか! 何で私を置いて行ってしまうんですか! 何で、どうして......」
八幡「...」
エリス「私の手を離して行ってしまうんですか!!」
八幡「!!」
あぁ、今のお前はそこまで俺の事を思ってくれていたのか... そして、俺を探して一緒にいてくれって事は異世界に来た事に対して悩んでいた訳では無いのだろう... それに、彼女は一人置いて行かれた事がとても不安と言うか、寂しかったのか... なら、異世界に来た事が問題じゃ無いんだな。 俺の勝手な考えでお前を不安にさせてしまったのか...
けど、この先も同じ様な事が起きるんじゃないか? また不安にさせるんじゃないか? 俺の所為でお前の事をまた傷つけるんじゃないか? なら、このまま此処で別れた方がいいんじゃないか? そう、ここで終わりにした方がいい。 こいつの為にも...
八幡「あんた、此処に来た時茫然としっぱなしだっただろ。 女神だか何だか知らんが、そんな子供みたいな奴が魔王何て倒せんのか。 それに頭が良さそうな訳でも無いし体も貧弱だし、俺の役に立ちそうに無いから置いて行ったまでだ。 それと、俺は魔王何て倒す心算なんて微塵も無い。 何処か安全な所に行って、平和に暮らせればそれでいいと思っているからな... ま、そう言う事なんで、一人で勝手に魔王でも何でも倒してくれ。 それじゃ!」
これで俺の元から離れて行くだろう... これで本当にさよならだ。 エリス...
そうしてこの場を立ち去るべく、エリスが上がって来た階段に向かって彼女の横を通り過ぎたその瞬間。
ドンッ!
急に後ろから抱き締められ、俺の決心を簡単に覆す様な、そんな心に響く言葉を投げかけて来た。
エリス「何であなたは何時も自分から嫌われようとするんですか! 何で何時も自分から離れて行くんですか! 何で何時も自分で守ろうとしないんですか! 何で、何で、今の私がどんな事を想っているか考えてくれないんですか!!」
八幡「グッ...」
エリス「私は、私は... あなたの事を大切に思っているのに... あなたと一緒に居たいと思っているのに... それなのに...」
八幡「ンッ...」
エリス「私の想いまで... 勝手に決めないで。 私の想いを否定しないで...」
八幡「...」
エリス「あなたが『本物』と思う、私の事を否定しないで... お願いだから...」
八幡「!!!」
あぁ... お前の言う通りだな。 俺には... お前の想いを勝手に決めたり、否定する事なんで出来る訳が無い。 何故なら、お前は俺の『本物』だから... 本当に済まない。 本当に...
八幡「お前を否定して済まなかった... ごめんな、エリス...」
ギュッ!!
エリス「八幡さん... ううっ...」
決して離さないと言わんがばかりに強く俺の背中に抱き着き、背中に顔をうず埋めながら、小さな嗚咽を漏らし泣いているエリス。
そんなエリスを慰める様に、前に回されたその手を撫でる。 そう、俺の所為で沢山悲しませてしまった事に対する謝罪と、俺の為に此処まで悲しんでくれるその優しさと想いに対して... ありがとう、エリス...
スリスリ...
先程までは寒いと感じていた北風も、後ろに抱き着くエリスの暖かい感触がある所為か、心なしかその冷たさを感じずにいる。 そして、背中から伝わるこの暖かさを何時までも感じていたい。 そう思った時、此処に来る時に決心した思いとは別に新たな思いが心を過る。
これから先、お前だけは必ず護る」と...
エリス「!!!」
・・・
・・
・
八幡「...」 スタスタスタ
エリス「チラッ... ニコニコ」 トテトテトテ
その後、エリスに抱き着かれながら此れまでお互いに心の中で想っていた事や此処に至るまでの気持ちを素直にぶちまけ、城壁の上で死後2度目となる黒歴史を更新した所で素に戻った俺は、余りの木っ恥ずかしさに身を捩らせてしまい、そんな俺に奇異の目を向けるエリスと共に城門から下に降り、今は二人並んで暖と食事を取るべく冒険者ギルドに向い歩いている。
そう、歩いているんだが...
エリス「チラッ... ニコニコ」 トテトテトテ
そして、その一緒に歩いているエリスなんだが、先程まで悲壮感を漂わせていたのに今は超ご機嫌だ。 まぁ、女神様なんで可愛い笑顔を俺に振りまいてくれるのはいいんだが、俺から見たエリスは身長が低い事もあってか上目遣いをされている様でけっこうドキドキしてしまい、心臓にとても良くない。 しかも、ブレザーの裾をちょこっとだけ摘まんでいて、少しだけあざとさを感じてしまう。 そう、某生徒会長(そんな事ないですよ~)って、死んだ時点で登場してないから無しで。
そんな感じで歩いていると、此方に向けてと言うかエリスに向け、行き交う人々から妬けに視線を向けられている。 多分だが、国教となったエリス様と瓜二つ人物が自分達が普段使う道を目付きの悪い男と歩いていれば、注目を集めてしまうのは当然と言える。
しかし、この状態は余り良くない。 何故ならエリス様を騙る詐欺師と思われしまうかもしれないからだ。 まぁ、その辺はエリスも自分の事なんで何か考えてはいるだろうから、冒険者ギルドに着いたら確認するか。
そんな事を考えていると...
エリス「クシュン! ...」 トテトテトテ
そういや、その恰好で長い事外に出てれば寒いよな。 しかも、先程まで城門の上で北風に晒されていれば当然か... なら...
八幡「少しだけ離して貰っていいか?」
エリス「... はい」
エリスから手を離して貰うと同時に上着を脱ぎ、エリスの肩に掛けてやる。 そして、ブレザーの前のボタンも一緒に留めてやり、ポケットに手を突っ込んで再び歩き始める。 そんな俺の行動に最初は「えっ!」って感じで驚いていたエリスだが、やがてその頬を赤く染めながら俺との距離を先ほどより詰めて来て、
エリス「ありがとうございます...」 モジモジ
八幡「おぅ...」
俺にお礼を言いながらブレザーの前の隙間から手を出し、Yシャツの肘の辺りの布を掴み、更に俺にくっ付く様に近づいて来る。
ちょっとエリスさん、くっ付き過ぎじゃありません? 恥ずかしいと言うか何というか、そんな仕草が可愛い過ぎてグッと来るから辞めて貰えません? チラッ やべえ... 超可愛い。 まるで天使だなって、女神か... 何か顔が熱くなって来たなぁ~ ブレザー脱いだのに可笑しいなぁ~ もう、11月中旬なのに変だな~ 風邪でも引いたかなぁ~
八幡「...」 スタスタスタ
エリス「...」 トテトテトテ
頼むから、誰かこの空気を壊してくれ! それに... チラッ、チラッ
それは止めてくれ... 色々と削られるから...
・・・
・・
・
そうして二人無言のまま歩き続け、気が付いたら冒険者ギルドに着いていた。
冒険者ギルドに着いた俺達は、先ずは暖と食事が先と言わんばかりに、暖炉の傍の席を占領し、ウェイトレスと思しき人に注文をすべく、メニューを見るも... 転生時の教育?で文字は解るし言葉も通じるが、書いてある事の意味が分からない。 いや、書いてある言葉の意味自体は分かるが、固有名詞は解らないので注文はエリスに任せる事にした。
そして運ばれて来た食事を見ると、中世風の食事では無く限り無く現代日本の食事と同じでホッとした。 まぁ、死ぬ時点で夜だった訳だが、晩飯も食わずに今はもう夕方近く、此方に転生した時は午前11時と言った感じなので約半日以上何も食べていない事になるの。 そんなんで、当然の如く腹は空いており、それはエリスも同じだった様で二人で早速食事に没頭しだした。
暖炉で十分温まり、食事によりお腹も満たされた俺達二人は会話も無いままその余韻に浸っていると、金髪をアップに纏めた巨乳の美人さんが此方に近づき、俺達に話掛けて来た。
ルナ「こんにちわ。 私はここのギルドで受付をしている『ルナ』と申します。 この街で見かけない方なので気になってお声を掛けてさせて頂きましたが、もしかしてこの街は初めてでしょうか?」
エリス「こんにちわ。 態々お気を使って頂きありがとうございます。 私の名前は『エリス』で此方は『ヒキガヤ ハチマン』です。 私は小さい時にこの街に来たことがありますので、初めてではありませんが、八幡は初めてになります」 チラッ
八幡「こ、こんにちゃ...」
エリス・ルナ「プッ」
だぁ~~~! 異世界ファーストインプレッションで噛んじゃったじゃん! やべぇ、超恥ずい! それに、エリスも一緒になって噴いてるし... もうやだ。 八幡お家に帰りたい、って、家無えじゃん!
ルナ「え、ええと、此方にいらしたのは、旅の途中でしょうか?」
エリス「此処には冒険者をはじめようと思って二人でやって来ました」
周囲:ザワザワ
エリスの『冒険者をはじめよう』という言葉を聞いた途端、周り奴等がこっちを見ては少しずつ騒ぎ始めた。 まぁ、エリスの容姿を見て色々言ってんだろうな... ったく。 容姿だけ見て勝手に憶測して噂をするのは向こうもこっちも何処も一緒か...
そんな事を考えていると、そんな周囲の様子など知った事かと言った感じで、受付のお姉さんは更に話を進めてくる。
ルナ「既に冒険者の登録はお済ですか?」
エリス「いいえ。 なので、これから登録しようと思いますが... 八幡はいいですか?」 チラチラ
え? エリスさん、エリスさん。 別に俺の返事何て待たなくていいからな? それに後で登録するのも面倒だから、そういうのはさっさと済まそうぜ。
八幡「あぁ」
ルナ「ではお二人共、向うまでお願いします」
巨乳のお姉さんの案内で冒険者の登録をすべく、食堂?から受付の様な場所に移動して、先ずは登録料を払う。 ゲームだと無料なのにこういう所が現実感があるな... しかも、2千エリスもかかるのか。
受付のお姉さんに2千エリスを支払い、先ずは私からやってみますね!って感じでエリスから冒険者の登録を行う事になったんだが、この怪しい水晶と羅針盤を組み合わせた様なものの下に『冒険者カード』なるものを置き、薄く輝く水晶の上に手を置くと...
ビーーーーーーーーーーー
ジジジジジジジジジジジ
水晶の下から伸びた振り子の先からレーザーの様な光が下に置かれたカードの上をなぞり、カードの上に文字を描きだした。 なんか魔法使いとか占い師がやってそうで、胡散臭さ満点だな... で、そのカードに書き込まれた文字を3人で頭を突き合わせ覗き込むと、其処には...
*** 冒険者カード ***
氏名:エリス
性別:女
年齢:?
種別:女神
説明:幸運を司る女神、愛を与える者、聖人、本物、心の護り手
職業:-
レベル:-
スキルポイント:777
力 : 55
体力: 55
魔力:777
知力: 55
器用: 55
敏捷: 33
運 :???
スキル:
女神の祝福
女神の祈り
女神の涙
真実の愛
エリス... 所々に『女神』って書いてて拙く無いか? しかも、種別に『女神』ってダメだろ... って言うか巨乳のお姉さんにこれ以上カードを見続けられて内容を覚えられたら不味いだろ...
台の上に乗っていたエリスのカードを引っ掴み、エリスも一緒に引っ張りながら受付の端まで行き、頭を付きあい話をしようとするとエリスが急に顔を赤らめ、アタフタしだしたが、構わず話しを始める。
八幡「行き成り引っ張ってきてすまない。 一つエリスに確認だが、このカードに書いてある『女神』ってのは人に見られたら不味いんじゃないか?」
最初はアタフタしていたエリスがだ、俺の言っている言葉意味を理解するや否や、少し考えてから、飛んでもない事を言い出した。 って言うか前例があるのかよ...
エリス「実は、私より前に『水の女神アクア』先輩が私と同じように転生特典で一緒に転生して、この街にいます。 それで、私はここでアクア先輩と会った時にスキルカードを見せて貰ったんですが、先輩にも同じような事が書かれていたんですが、誰も何も言ってませんでした」
八幡「それは、『信じて貰えなかった』って感じなのか? それとも、この世界では女神は普通に人々の前に実在するものなのか?」
エリス「姿形を変えて地上に降りる事もありますし、稀に存在を示す場合もあります。 ですが、実際は誰も信じていないと思います」
八幡「そうか...」
何かいい加減だな... だが、エリスの見た目は肖像画とか銅像になってんじゃねえの? しかも、同じ名前だし... 国教の神様なんだろ? 知名度も高いし変におかしな教団とか信者に絡まれたりしないか? 其処ん所はどう考えてんだ?
八幡「お前、国教で通貨にもなったんだろ? 同じ名前で同じ身姿だと色々問題にならねえか? しかも、冒険者カードに堂々と『女神』なんて書かれてたら、変に勘のイイ奴なら真っ先に疑うぞ」
そして、お前の身に何か有ってからじゃ遅いんだよ... そこの所はどうなんだ?
エリス「髪型と服装を変えてみてはどうでしょうか? それにこの街に当分住むことになるので、その、如何にもそれらしい話をすればいいと思います」
八幡「如何にもか... そうだな。 生まれた時にエリス様に似ているから両親に『エリス』と名付けられた。 名前と身姿が似ているから、小さい時から色々辛い思いをしたから、そう言う目で見ないでくれって感じでいいか...」
エリス「はい!」 ニコニコ
その後、受付のお姉さんの周りにはお姉さんと同じ格好をした男女が集まり何やら話込んでいる。 ん? まさか女神の件なのか? その理由を確認しようと受付に戻るとお姉さんが声高々にエリスを称え始めた。
ルナ「エリスさん、凄いです! 全てのステータスが一般の方を越えてます。 しかも、全ての値が高いので何の職業にもなれますよ! アーク・ウィザードやアーク・プリースト、クルセイダー、ソードマスター。 何にでも成れます。 でも... 幸運が測定不能な位高いので、商人になれば億万長者間違い無しです!!」
周囲「...」
エリス「私は人々のお役に立ちたいので、アーク・プリーストでお願いします」
ルナ「分りました! 回復魔法を操り、味方の強化も行う。 そして、時には前衛に出て敵とも戦える万能職ですね! 冒険者ギルドへようこそ、エリス様。 スタッフ一同、今後の活躍を期待しております!」 ペコリ
エリス「此方こそ、よろしくお願いします」 ペコ
周囲「おーーーー! すげ~~~奴が来たな! おめでとう! 頑張れよ~! ... ワーワーワーワー」
八幡「良かったな...」
エリス「はい!」 ニコ
アーク・プリースト(上級僧侶)ね... エリスに一番合った職業だが、本職は女神か。 そう言えば女神と僧侶って如何いう繋がりなんだろうな? 聖なる職業って事でいいのか?!
この冒険者カードのステータスって、所謂健康診断と能力診断みたいなものか。 なら、俺は一般人と一緒って事になるか... まぁ、普通の学生よりスポーツは出来る方だし、手先も器用。 学年3位の頭脳だから知力は高め。 だが、運が... 壊滅的だな...
自己分析をしている俺に、早くやれとばかりにクリスが声を掛けて来る。
クリス「次は八幡さんの番ですよ!」 ニコ
如何やら、俺の能力値に興味深々らしい... さて、如何いう値になる事やら...
俺は自分に対して何の期待していないし不安も無い。 何時もと変わらないからな... 変わったのは俺の傍にエリスが居てくれる。 それだけだ... そんな気持ちで怪しげな水晶の上に何の躊躇いも無しに自分の手を翳した。
*** 冒険者カード ***
氏名:ハチマン ヒキガヤ
性別:男
年齢:17
種別:人
説明:心優しき愚者、真実を見抜く者、献身、本物を求める者、陰に潜む者、黑き叡智の使い手、女難の相
職業:-
レベル:-
スキルポイント:88
力 : 33
体力: 33
魔力: 88
知力: 88
器用: 88
敏捷: 88
運 : 8
スキル:
心眼
隠形
気配察知
あぁ~~~ 八幡だけに8が並ぶとか、そんなオチは要らないから! って言うか、知力高け~な、おい! 器用さも敏捷も高いし魔力も高い。 運は当然低いよな... それと... さっきから気になってたんだが、『説明』の欄に書いてるのって何なんだ? 通り名か? 書いてる事が中二臭くて胡散臭いんだが、エリスの時に書いてあったのは概ね間違って無かった。 なら、最後のは要らなくね? 俺、生まれてこの方女性にモテた試しが無いんだが、そんな奴が女難の相っておかしくね? まぁ、女難が必ずしもモテるって訳では無いが...
そんな下らない事を考えている俺を無視するかの様に、受付のお姉さんが俺に職業選択をせっついて来た。
ルナ「ハチマン?さん。 この方も凄いですね... ただ、壊滅的に運が無いので、盗賊と商人以外なら何にでも成れますが、上級職だとアーク・ウィザードに慣れますね。 ただ、スキルポイントと魔力が中途半端なので、先ずは中級職から初めてみては如何でしょうか?」
周囲「おぉーーー」
エリス「流石、私の八幡さんです!」 ニコニコ
八幡「おう...」
えっと、エリスさん、エリスさん。 私のとか言っちゃうとちょっと勘違いするから、誰それ構わず言うのは止めような?! しかも、そんな笑顔で言われたら、本気にしちゃうから! 本気になって、告白しちゃうから! そんで、振られる... の、か... まぁ、チョットだけ、ほんのチョットだけ本気になったが、百戦連敗の俺には通じないからな。
それより、この世界では何の職業が一番自由が効くんだ? ぶっちゃけ、専業職と聞くとそれだけに『特化』した職業だから、他の事が出来ないなんて事になる。 まぁ、パーティーメンバーが多く、そのメンバーの何れもがその道のエキスパートなら問題無いだろう。
しかし、俺とエリスは先ずは二人きりで活動しなければならない。 なら、不足の事態に備える必要がある。 特にエリスはアーク・プリーストを選択した事で回復は何時もエリスに『任せればいいだろう』という思考に陥り易く、もし、エリスに何かあった場合、このパーティーは回復役を失い全滅する恐れさえある。
だから、俺が選択するのは汎用性が効く職業だ。 勿論、メンバーが増え、人材の層が厚くなるようなら転職してもいい。 ってか、先ずは転職可能かと、汎用的な職業があるか確認するのが先だ。
八幡「エリス、職業について教えてくれ」
エリス「何ですか?」
八幡「さっきから受付のお姉さんが言ってる職業って奴は、所謂『専門職』だろ? 専門じゃ無く、『何でもこなせる』職業って奴はあるか?」
エリス「ありますよ。 『冒険者』がそうです」
八幡「... その職業って良い所取りって感じだが、その分、何かしらのペナルティーがあんだろ?」
エリス「そうですね... 先ずは、専門職の様にスキル利用時に追加の恩恵が得られません。 次にスキル習得時にスキルポイントが専門職の倍必要になります」
八幡「... 専門職ってのは、その逆の恩恵があるって事か?」
エリス「はい」
八幡「エリスはスキルについてもある程度知ってるのか?」
エリス「勿論知ってますよ。 だって私は... ですから」
八幡「いや、一応聞いたまでだ。 それと、転職って出来るのか?」
エリス「はい、出来ますよ。 他に聞く事はありませんか?」
八幡「取り合えずは無いな... まぁ、その、何だ。 ありがとな」 ガシガシ
エリス「どういたしまして!」 ニコ
俺達二人の会話を聞いていた受付のお姉さんが、丁度いいとばかりに割り込んで来た。 しかし、職業って奴はそんなに急いで決めないと駄目なのか? まぁ、知らないからあれだが、取り合えず煩く言われる前に伝えてるか。
ルナ「お決まりですか?」
八幡「冒険者で」
ルナ「え? アーク・ウィザードでは無くてですか?」
八幡「ええ」
ルナ「もう一度考え直されては?」
八幡「いえ、冒険者で」
ルナ「分かりました... それでは八幡様。 スタッフ一同、今後の活躍を期待しております!」 ペコリ
八幡「よろしく」 ペコ
周囲「何だあいつ? 変な奴だな... まぁ、良いんじゃねえか? カズマと一緒でw そうだな! ... ワーワーワーワー」
エリス「此れから先、よろしくお願いしますね」 ニコ
満面の笑顔でこの先も俺と一緒にやって行こうと言ってくれる彼女。 そんな彼女に対して自然とその笑顔の裏に何かあるのではと邪な事を勘ぐってしまう自分が居る。 だが、女神たる彼女は決して嘘をつかない。 そんな彼女の笑顔が今の俺にはとても眩しく、思わず目を逸らしたくなる。
だが、これから先も彼女と共に歩むのなら、彼女に対してだけはそんな考えを捨てなければならない。 そうでないと、転生直後にあった様な思い違いをしてしまうから。 そして、それによって彼女の笑顔を曇らせてしまうから。
だから、彼女の為に自分を変えて行く為にも、似合わないであろう笑顔で答えなければならない。 まぁ、気持ち悪がられない様、気を付けないといけないが...
そんな想いを込めて、彼女の問いに答える。
八幡「あぁ、よろしくな。 エリス」 ニコ
エリス「...」
俺の渾身の笑顔は未だ受け入れられない様だ...
こうして俺とエリスの二人は、異世界で冒険者となった。
誤字脱字等の指摘頂ければ幸いです。
どもども!