この素晴らしい世界に本物を   作:猫じゃらし_

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異世界生活三日目で家を手に入れるまでのお話しです。

因みに何故こんな話なったかと言うと「地頭がいい」「常に冷静」「現状認識」「リスクヘッジが出来ている」から、こういう思考に行き着くかと思ったからです。

ではでは!


第3話 家

八幡「ムニャムニャ ... スピー スピー」

 

 

エリス「ウフフフ」 ツンツン

 

 

八幡「ウーーン ヤメロ... ヨ... ムニャムニャ ... スピー スピー」

 

 

エリス「何か、猫みたいで... 可愛いっ ... ウフフ」 ツンツン

 

 

 昨日の内に冒険者ギルドの登録を済ませた私達二人は、その後でお風呂に入りその日の疲れを洗い流して旅人が良く利用する宿屋に泊まりました。 そして、その宿に泊まる際、今持っているお金に限りがあるので少しでも節約しようと言う事で安い宿屋のしかも、一部屋だけ借りる事にしたので、寝床となるベットは勿論一つしかありません。 そこで二人一緒のベットに寝る事を提案したのですが、彼は頑なにその事を拒み、結果、彼は床で寝る事になりました。

 

 当然、安い宿屋なので余りの布団など無く、宿屋の主人にお願いして毛布2枚を借りて一枚を床に、もう一枚を朝から来ていた服の上に毛布を掛けて彼は直ぐに寝てしまいました。 けど、今はもう11月で、ここは日本の彼が住んでいた町とは違い夜はかなり冷え込むので風邪を引いてしまわないかとても心配です。 なので、彼が熟睡したのを見計らってから、彼にベット上の布団を掛けてから、そのまま彼の隣に潜り込んで一緒に寝ました。

 

 正直、男の人と一緒に寝るなんて事はとても恥ずかしくて普段の私ならそんな大胆な事はしません。 けど、彼と城壁で話をした後、寒さに震える私の為に彼が自分の着ていた上着を何も言わずに私に着せてくれた時の彼の優しさとその思い遣りを思い出すと、恥ずかしさより先に彼の為に何かしてあげたい言う気持ちの方が大きく、こんな行動を取ってしまいました。

 

 けど... やっぱり心臓がドキドキしてしまい、寝付くまでの間、彼の腕の中で縮こまっていました...

 

 そうして、彼より朝早く起きたので、彼の腕を枕にして彼の寝顔を堪能してます。 一緒に寝て於いて何ですけど、今もドキドキが止まりませんし、彼とこうしていると胸の中が温かくなると同時に満たされ、幸せを感じます。

 

 それに... 素っ気なく、何時も冷静で冷たい印象を受ける彼ですが、寝ている時は優しい顔つきをしていて、とても可愛いんです。 それに...

 

 

エリス「...」 ツンツン

 

 

八幡「ネカセ... テ... ムニャムニャ ...」

 

 

エリス「ウフフフ... 何か、癖になりそうです」

 

 

 

・・・

 

 

・・

 

 

 

 

 

 ンーーーン 何だか暖かいな... ギュッ! ん? 何だ? 小町か? ったく、珍しい事もあるもんだな... でも何だ、小町にしては大きいと言うか何というか、いい匂いがするな... あれだな、小町も女性の体になって来たのか... でもまだまだ甘えたいとか、頭の中は子供のままなんだな... 小町... ギューーーー

 

 

・・・

 

 

 ?!!?!! 小町?! いや、俺は確か死んだはず... バサッ!

 

 

エリス「...」 ジーーー

 

 

八幡「...」

 

 

エリス「...」 ジーーー

 

 

八幡「...」

 

 

 えっと... 何でエリスが一緒に寝てんだ?!

 

 寝すぎで頭がおかしくなったのか? きっとそうだ! 死んで転生して冒険者になんて奴に行き成りなったから、脳がおかしくなっちまったんだな、きっと。 なら、もう一度寝れば治るはず。 さて、二度寝するか...

 

 そう思い再び寝ようとしたその時、

 

 

エリス「え?! まだ眠いんですか! もう直ぐお昼も近いので寝ないで下さい!」

 

 

八幡「... あぁ ...」

 

 

エリス「まだ寝ぼけてます?」

 

 

八幡「いや... 大丈夫だ。 ええとだな、一つ聞いていいか?」

 

 

エリス「その前に、おはようございます。 八幡さん」 ニコニコ キラキラ

 

 

 やべえ... 超可愛い... 此処に天使がいる。 いや、女神だったな... マジ可愛すぎだろ...」

 

 

エリス「え?!」

 

 

八幡「ん? お、おはよう...」

 

 

エリス「イキナリソンナコトイウナンテ... もう、狡いです...」 モジモジ

 

 

八幡「狡い? ... まぁいい。 それより、その、何で一緒に寝てんだ?」

 

 

エリス「それは... その、ここは八幡さんの住んでいた所と違って、この季節でも夜はとても寒くなるんです。 それで、毛布一枚だけだと風邪を引いてしまうんじゃないかなって思って... それに二人で一緒に寝たら温かいし、平気かなって思って... でも、私と一緒に寝るなんて、嫌でしたよね...」 ウツムキ

 

 

 はぁ。 そうだった。 エリスは善人、いや、女神だ。 それはもう完璧なくらいの善人だ。 だから、一緒に寝ると言っても男女のアレ的な事なんて考えずに、単純に善意だけで行動した結果がこれだ。 幾ら俺が恥ずかしいからと言って、本心から来る、まして俺に向けた純粋な思いを否定するのは間違いだ。 けど、恥ずかしいと言う事だけは理解してくれ。

 

 

八幡「いや、その、別に嫌って訳じゃない。 ただ、その、何だ。 俺は男でお前は女な訳で、その、一緒に寝るのは色々と不味いだろ? アレとかソレとかな? それに俺も妹意外の女性と一緒に寝た事なんて無いから、その... 分かってくれ... それと、その、ありがとな...」

 

 

エリス「... 嫌では無いんですよね?」 ジーーー

 

 

八幡「あぁ。 けど、何だ。 出来れば、そういうのは控えて欲しい」

 

 

エリス「分かりましたけど、何時でも必要と思ったらそうします。 ... それに、一緒に寝ると不思議と心が満たされるんです。 だから、その、寒いこの季節は一緒に寝て貰えたらって... ダメでしょうか?」

 

 

 ヤバい。 女子から、いやいや、女神様からこんな事言われるなんて... 俺、生きて来てって、一度死んで良かった... でもな、エリス。 俺は聖人君子でも、枯れた男でも何でもない、エロい事をすぐ妄想する男子高校生(元)だぞ。 そんなエサを目の前にぶら下げられて、何時までも我慢出来る自信が無い。 だから、偶にやるって事で頼む。 これじゃあれだな。 此れからどうするか話合うつもりだったが、先ずは住まいの件が最優先だな... って、キッパリ断らないとな...

 

 

八幡「いや、まぁ、その... 別にいんじゃね?!」

 

 

 って、何言っちゃってんの俺? それ全然否定出来てねえじゃねえか... まぁ、何とかなるだろって、今晩もか?! そんな事より起きて色々と話さないとな。

 

 

エリス「はい!」 ニパーー

 

 

 あ~~、何か無理そうだな... まぁ、夜の俺が頑張るだろう、きっと... 任せた未来の俺! って事で準備でもすっか...

 

 朝と言うか昼近くから色々あった俺達は、宿屋に今晩も泊まる旨を伝えてから宿屋を出て、エリスと二人で食事をすべく食堂などがある街の中心部に向かい、周りの景色を見ながら大通りを歩いている。

 

 しかし何だ。 一日経った今でも違和感が半端無く、異世界に来たんだなと実感させられる。 そんな感じで目に入る景色を見つつ、この世界の色々な基準や生活形態がどうなっているか、露天商や各店の内容、行き交う人々の服装や持ち物を確認している。

 

 

 そうした中、以前エリスが『クリス』と名乗りその姿を『盗賊』に変えてこの街に訪れた時に知ったと言う、安くて美味いと評判のパスタ?屋に行き、二人で1,000エリスで食事を済ませ、無料で暖が取れる冒険者ギルドで今後について話をする事にした。

 

 そこで先ずエリスに確認する必要があるのが、この世界と言うかこの街での貸家と水と食料と燃料(薪)の相場。 冒険者と一般人の1日の平均収入。 そして武器や装備品、服などの金額だ。 何故なら、俺とエリスがこの世界で生きて行くにも先ずは生活基盤を持たなければならず、冒険者と言う職業がそれら基盤を維持出来る職業かを確認する必要があるからだ。 そして、その事をエリスと二人で頭を寄せ合い、エリスに何度も質問しながらブレザーの内ポケットからスマフォとソーラー充電器を取り出しメモをする。

 

 え? 何でそんなもん持ってんだって? 普通に何時もの感覚で、ブレザーの内ポケットから取り出しただけなんだが? でも、よくよく考えればこんなハイテク持ってこれる方が可笑しい気もするが、ま、いんじゃね? エリスも『何ですか?』なんて聞いて来たけど、『メモ帳』って答えたら何も言って無かったし別に平気だろ。

 

 

 そして、書き連ねて観て見ると...

 

住宅 :1ヶ月            △80,000E

 

食費 :1,000@2人×2×30  △60,000E

 

光熱費:               △ 2,000E

 

衣服 :20,000@1人×2    △40,000E

 

--------------------------

 

出費 :              △182,000E

 

 

バイト:5,000@人日×2×20  200,000E

 

 

クエスト:  月 500,000~1,000,000E

 

初期装備:10,000@人×2   △ 20,000E

 

 

・・・

 

 

 今持ってる所持金が29万2千エリスで、初期装備を二人で揃え家を借りて、取り合えずの生活は出来るな... まぁ、転生前にかなりお金を貰っておいて正解だった。 だが、2人でバイトなんてやってたら日々の生活に追われるだけで全然だ。 やっぱ向うと一緒で手に職もって働かないと安定した生活ってのは無理なのか。 それに、魔王を倒せばお終いって訳でも無いから、やっぱそれなりの財産とか生活基盤が要るって事だな。

 

 しかし何だ。 冒険者って偉い儲かるのに、何で皆冒険者にならないんだ? まぁ、普通に考えれば『命』を賭けているからだろう。 そう考えれば、ハイリスク・ミドルリターンと言った所か... それに、人数を増やしてリスクを減らせばそれだけリターンが減るからか...

 

 そんな事を考えながらスマフォを睨めていると、エリスが妙な事を言い出した。

 

 

エリス「八幡さん。 魔王を倒した後はどうするつもりですか?」

 

 

八幡「どうするもこうするも、お前が天界に帰ってお終いだろ?」

 

 

エリス「え? 何にかお願い事は無いんですか?」

 

 

八幡「お願い事? なんだそれ? たしか、お前からの依頼は『異世界に行く』事と『出来れば魔王を倒す』事だろ? それが俺が請けた依頼だが... 違うのか?」

 

 

エリス「... ごめんなさい。 ちゃんと説明してませんでしたね。 ええとですね、魔王を倒したら、何か一つ願い事を叶えて差し上げる事になってるんですけど、何を望みますか?」

 

 

八幡「... 無しで」

 

 

エリス「え? 無いんですか?」

 

 

八幡「だって、あれだろ? 魔王を倒した人の特典なんだろ? なら、俺じゃない奴が倒す事も考えられんだろ? 期待するだけ無駄だし、倒した時に考えればいいだろ。 それに俺はもう... いや、何でも無い」

 

 

エリス「そうですか... !! だからこれから此処で生活する為に色々と調べてるんですね!」

 

 

八幡「そりゃお前、いきなり魔王なんて倒せないし、強くなるには強い敵を倒してレベル?経験を積んで自分自身強くならないと駄目なんだろ? それってある程度時間が掛かるもんじゃないのか?」

 

 

エリス「はい。 確かに言われる通りです... 何か、八幡さんは若いのに色々考えてて、他の転生者と比べてもちゃんとしてるんですね... それに頭もいいし... アクア先輩と違って、八幡さんがパートナーでとっても良かったです」 ニコニコ

 

 

八幡「そうか... ところでエリス。 何度かその『アクア先輩』って名前が出てたが、その人に頼んでその人が住んでる家の部屋とかって借りられないか? まぁ、狭い家だと無理だろうけど、せめて一部屋だけとか。 どうだ?」

 

 

エリス「ええと、その、アクア先輩は馬小屋暮らしなので...」

 

 

八幡「そうか... じゃぁ、先ずは家を探すとして、ここのギルドで冒険者用に斡旋とないのか?」

 

 

エリス「そういうのは聞いた事が無いので、先ずは聞いてみましょう」

 

 

 それから二人で冒険者ギルドに色々聞いてみた所、ここは駆け出しの冒険者が居る場所だとかで、長い事ここに定住する人が少なく、逆に長い事ここに定住している人は元々ここで生まれ育った人とかで、既に家を持っているそうだ。 なので、貸家の斡旋などは行っていないが、町の中心部にある役所に行ってみてはと言われたので、今度は其方に向かう事にした。

 

 そして、向うて言う所の村役場(石造りで見た目は違うが規模感が...)みたいは役所?で貸家の事を聞いてみると、殆どが知り合い伝手で家を借りるとの事だとか。 だが、偶に街に永住したいと言った家族や新婚の夫婦などが新しい家を借りたいなどと言った声もあるので、紹介は出来ると言われた。

 

 そこで、此方の住宅事情が分からないので、月8万エリスで台所とトイレと1部屋、出来れは2部屋あって小さくても風呂がある物件を紹介して欲しいと依頼してその日は帰る事にした。 まぁ、向うも人づてに聞いたりするので、2,3日は必要と言っていたので4日後に再度訪れるという約束になっている。 それと、やはりと言うか何と言うか、大工ギルドに聞いてみてはどうかと言われたので、今度は大工ギルドに向かう事にした。

 

 大工ギルドに向かう道がてら、今回家を借りる話を自分勝手に進めていた事もあり、先日の様な行き違いをするのもイヤなんで、今、エリスがどう思っているか聞いてみる事に...

 

 

八幡「エリス。 家を借りる事について如何思う?」

 

 

エリス「私は賛成です。 それに... 少しだけ憧れてたので...」

 

 

八幡「何をだ?」

 

 

エリス「私って、天界に居た時も地上に降りて来ても自分の家ってものを持った事がないんです。 だから、今回自分の家が持てるって思ったら、部屋はどんなのがいいかとか、ベットは如何言う感じのがいいかとか、色々な事を想像しちゃって... それが凄く楽しくて... それに...」 チラッ

 

 

八幡「ん? 俺がどうかしたか?」

 

 

エリス「八幡さんと一緒に住むって考えた時、何時も何か用事が済めば天界のあの場所で一人きりになるんですけど、家に帰れば八幡さんが居てくれる。 もう、一人じゃ無いんだって... それがとても嬉しくて...」

 

 

 そうか... 一人か... 俺には家に帰れば『小町』が居たが、お前にはそう呼べる奴が居るかも知れないが、帰る場所が無いって事は何時も一人で居るって事だろ。 そんな状況になった事が無いから何も言えないが、結構辛い事なのかも知れないな...

 

 そう言や『小町』は如何してんだろうな... 彼奴は家に帰ると誰も居なくて家でをしてしまった程寂しがり屋だ。 だから、俺が居なくなった後は寂しい思いをするかもしれない。 小町、済まない... 受験前だってのに大変な思いをさせて、ホント、ダメな兄貴だな...

 

 ダメだ。 小町の事を考えたら...

 

 

八幡「...」 ジワッ

 

 

エリス「?? どうかしましたか?」

 

 

八幡「何でも無い」 グイッ

 

 

エリス「?? ...」

 

 

 一人で泣いているであろう小町の事を思うと、目の奥から涙が溢れ出そうになる。 そんな姿を隣で嬉しそうにしているエリスに見せる訳には行かない。 だから。彼女に見えない様に、涙が零れない様に、上を見ながら歩く。

 

 小町。 俺はこれから、異世界で頑張って行くから、お前はそっちで俺の分まで頑張れよ...

 

 

 愛してる。 小町...

 

 

 そう思った瞬間、自然と溢れ出る涙を止める事は出来なかった...

 

 

 

・・・

 

 

・・

 

 

 

 

 

 急に涙を流す俺を心配気な目で見るエリスを何とか誤魔化しつつ、この街の建築会社というか大工?ギルドに着いた俺達は、早速、条件の良く格安な貸家を探している旨を伝えると、条件に合う物件があると言うのだが、お勧め出来ないと言われてしまった。

 

 そこで、その理由を尋ねて見たのだが、どうも、言って貰えるかどうかも分かりかねる態度なので此方はアーク・プリーストだから幽霊とか呪いの類は大丈夫だと言うと、今度は手の平を返した様に態度を改め、逆に此方に対して依頼をして来た。 それで、その依頼と言うのが...

 

 

受付A「実は半年も前から何度か冒険者ギルドと教会に除霊をお願いしてるんですが、幾ら祓っても次の日には霊が帰って来ちまうんでさ。 それで、こっちもお手上げ状態なんで、格安で貸し出して見たものの、1週間とせずに皆さん出て行ってしまって、もう、如何し様も無くて困り果てておりまして...」

 

 

エリス「フム... 何かおかしいですね...」

 

 

八幡「一つ確認だが、『霊』なんだよな?」

 

 

受付A「確かにプリーストの方が『霊』と。 それに皆さんもそう仰ってましたし間違いはございません」

 

 

エリス「八幡さん。 どうしますか? 私としてはこの様に今困ってらっしゃる方が居るので、出来ればお助けする意味でもこの依頼をお受けしたいのですが...」 ジーーー

 

 

八幡「そうだな... ええと、条件を確認したいんだが、こんな感じでいいか?」

 

 

①除霊が成功したら成功報酬24万E

 

 

②除霊の成否に関わらず月4万Eで貸し出す。 尚、敷金礼金手数料も無し

 

 

③1週間以内に退去するなら、費用は全額返金。 但し、1週間が過ぎた場合、その後直ぐ出て行くにしろ、1ヶ月分の家賃は返済しない

 

 

受付A「はい。 間違いありません」

 

 

八幡「分かった。 この依頼受けよう」

 

 

受付A[ありがとうございます」

 

 

八幡「そうだ。 依頼を受けた奴等や、住んでみた人が何か変な事言ってなったか? それと、元の住人はどんな人だったか覚えてる人は居ないか?」

 

 

受付A「う~~~ん... ?!! そう言えば、女性の前には霊は出てこないと言ってた様な気が... あと、その家の隣と言っても10mくらいは離れてますが、そこの御婆さんが昔何があったか多分知ってるかと」

 

 

八幡「そうですか... どうも。 エリスから何かあるか?」

 

 

エリス「いいえ。 特に何もありませんので契約しちゃいませんか?」

 

 

受付「わかりました。 では、書類を用意しますので、お茶でも飲んでお待ち下さい」

 

 

エリス「何かあっさりと決まっちゃいましたね。 でも、本当に良かったんですか?」

 

 

八幡「あぁ。 だって幽霊だろ? アーク・プリーストで本物の女神のお前なら考える必要なんてないだろう... しかも、こんな美味しい物件なんてこの先見つからないぞ?! ホント、お前の掛けた御呪いって奴、意外と効いてるかも知れん」

 

 

エリス「あ! まだ疑ってるんですか?! もうーーー!」 プクー

 

 

 そう、今回此処を訪れる前に少しでもいい物件というかタイミングが合えばいいなって事で、元々運の高いエリスはいいが、軒並み幸運が低い俺がいる事でその運を逃すと不味いので、気休めに女神の祝福をエリスから掛けて貰っていたのだ。 まぁ、本当に効果が有ったかどうか知らんが...

 

 取り合えず大工ギルドで契約書を交わし、家賃を支払い家の鍵と場所を示した地図を受け取った俺達は、先ずは宿に一度戻り、今日の宿泊のキャンセルと置いておいた荷物を手に、地図を見ながら曰く付きの家を訪れる事にした。

 

 そして、曰く付の家(6カ月間人が住んでいないが、掃除はしていたそうだが...)についたのだが...

 

 

エリス「何か、如何にもって感じですね...」 ハニカミ

 

 

八幡「... あぁ」

 

 

 其処には。出入り口の戸や窓などに除霊の札が張ってあり、如何にも怪しいといった雰囲気を醸し出している目的の家があった。

 

 その家だが、間取り図しか見せて貰っていなかったので分からなかったが、板張りの塀で囲まれ、中には小さながら野菜畑の様な物があり、東面に敷地に入る小さな門とその正面の小さい石畳の先にレンガ造りの小さな家と言った感じだ。

 

 そんな外見の家だが、中はどうかと鍵を使い中を見ると、少し広めの玄関と小さい廊下、左手に石畳のキッチン、左手に陶器の浴室に洗い場とトイレ、キッチンの奥にリビングで、リビングの手前の扉から寝室と1LDKの間取りで、若い夫婦の為の家だとかなんとか受付の人が言っていたが、なるほどと言った感じだ。

 

 家の中を一通り見回した所で、エリスが家の真ん中となるリビングと寝室の間で、目を瞑りながらゴニョゴニョと何を唱え始めたので、その様子をぼ~と眺めていると何か人の視線を感じる... まるで俺が誰か探っている様な... でも、悪意は全く感じない。 それより懐かしい気がする... とても慣れ親しんだ様な... そんな事を考えていると、

 

 

エリス「今は未だ眠っている感じです...」

 

 

 何だ、霊視でもしてたのか... なら、どうすればいいんだ? 先ずはその事を聞いてからだな...

 

 

八幡「今日はどうすんだ?」

 

 

エリス「お金っていくら位残ってますか?」

 

 

八幡「家賃を払ったから... 25万1千エリス残ってるぞ」

 

 

エリス「でしたら、必要な物を買いに行きません? 薪と調理道具と食器と樽と掃除道具に洗濯道具に今晩の食材。 最後に枕とお布団です! それに、除霊は今晩になると思いますから...」

 

 

 そうか、でもあれだな。 西洋は靴を履いたままなんだよな... どうも落ち着かないし衛生上良くないから、居間に段差を付けるべく板間にしないか?と提案してみると意外にも、「いいですよ!」と快諾を得てしまった。 まぁ、お金に余裕が出来た後だけどな。

 

 この後の方針が決まったので、じゃぁ、先ずは例のこの家の持ち主について話を聞こうと、10m程離れた隣の家を訪れ、其処に住まうシリアお婆ちゃんにこの家に起こった事を聞きに行った。

 

 そこで教えられたのは、この家の持ち主は20歳くらいの若い兄妹で、その仲の良さはまるで新婚夫婦の様であり、年若い二人の為に色々と世話を焼いていたそうだ。 そして、そんな若い兄妹が暮らし始めて1年程経った頃、冒険者をしていた兄の元に大金が稼げるダンジョンの調査クエストの話が来た時にそのクエストを受けるか否かで兄妹で口喧嘩をしたそうだ。 で、その喧嘩の理由が、クエストの難易度が高く、その調査対象となっているダンジョンに向かった冒険者の何組かが戻らない事があり、冒険者の中でもかなり危険なダンジョンだと噂になっていた事を妹が小耳に挟んで兄の事を心配しての事だそうだ。

 

 だが、そんな妹の心配を余所に、兄はパーティーメンバーと一緒にダンジョンのクエストを受け、捜索に向かったが... 誰一人としてそのダンジョンから戻って来なかったそうだ。

 

 そして、その知らせを受けた妹はその事を信じず、ずっと兄の帰りを待ち続け、終いに妹は心を病み1年と待たずに死んでしまったそうだ。 それ以来、夜になると妹の泣く啜り声が聞こえて来るそうだ。 しかし、よくある不幸話の典型みたいなものではあるものの、何故か他人事の様に思えな無く、思わず眉を顰めてしまう。

 

 

 そんな話をエリスと二人聞きながら、その妹の事がまるで他人の様には思えず、そして小町の事を思い出しては、先ほど感じた視線をまた感じていた...

 

 話しが終わった後、シリアお婆ちゃんにこれから隣に住む事と先ほど話を聞かせてくれたお礼にと、此処に来る途中で買ったロールケーキモドキを渡してさよならをし、エリスの言う買い物をしに街の中心地に向かう。 因みに、ここの場所は街の東南の外れに位置し、川も近く日当たりも良く、買い物に不便な以外とてもいい場所だ。

 

 さてと、これから買い物か... 一体幾ら掛かる事やら...

 

 そんなお金の心配をする俺の隣で、買い物を楽しみで仕方がないと言った様子で、終始ご機嫌なエリス。 そんなエリスと自然と手を繋いでいる自分に気付き、短い間とは言え、少しでも変わって来ている自分が居る事を感じていた...

 

 

 

・・・

 

 

・・

 

 

 

 

 

八幡「重い... ... 両手が... ... 千切れる... ... まだ... か...」

 

 

バイト「ふぅ ... ふぅ...」

 

 

エリス「頑張って下さい! もう少しですから! 八幡さんも!」

 

 

バイト「うっす! ... ふぅ...」

 

 

八幡「うっす... ハァ... 重い...」

 

 

 俺は今、うきうき気分なエリスのお買い物の成果である荷物を持って、新しい家に帰る途中である。 でも何で寝具を一式しか買って無いんだ? 幾らベットが一つしか無いとは言え、まさか一緒に寝るとか言わないだろうなって、きっとそうなんだろうな... 教の朝も言ってたし、OKしちゃったし... はぁ、しょうが無いか... それより、両手が重い。

 

 しかし、この荷物の量はちょっと多すぎじゃないか? しかも、荷物を持ちきれないから、寝具一式は布団屋のバイト君が運んでくれている。 まじ、寝具一式ってあんなに重いのに一人でこんなに持たされるなんて、俺には布団屋でのバイトは無理だな。 それにしても...

 

 

エリス「ルンルン ...」 ニコニコ

 

 

 三人一緒に重い荷物を持ってんのに、エリスは意外と平気と言うか何と言うか、こういう所で冒険者カードに書いてた『力』の値の違いが出て来るんだな。 そんな事を考えていると、既に家まで着いていた。 でも、そんな我が家を見たバイト君は『やべえ、ここは...』って感じで入るのを嫌そうにしている。 まぁ、憑いてる家って事で結構有名みたいだからな...

 

 家に荷物を運び込んだ後で簡単に家の掃除を行い、エリスは食事の用意と台所周りの整理をしている。 因みに俺は近くにある井戸から水を汲んでは、既に火を起こしてある風呂釜に水を入れて、それとは別に温度調整用に横に置いてある壺にも水を汲んでいる。 そんな力仕事をしている内に既に外は日が暮れて来ており、それと同時に家の中にいい匂いがしだした。

 

 そろそろ湯の温度が煮沸までとは言わないものの、かなりの高温になった所で小さいランプに火を灯したエリスが食事が出来たと言いに来たのを切っ掛けに、湯沸かしの作業を止め食事をする事にする。

 

 しかし意外だったのが、エリスが作った料理が想像と違って結構美味く、そこそこ量があったがあっと言う間に食べてしまった。 本当にこうしていると、まるでエリスと夫婦生活をしている様でこの後風呂に入り一緒に寝ると思うと良からぬ想像をしてしまい、顔が火照ってしまう。

 

 そんな俺の様子を見て何を想像したか知らんが、エリスも同じく顔を真っ赤にして『お風呂に行って来ます』と言って先にお風呂に行ってしまった。 そんなエリスに少し意識を持って行かれた後、残った食器を洗い、エリスが風呂上りに湯冷めしない様にと居間にある暖炉で薪を焼べて部屋の中を温めておく。

 

 

 それにしても、例の曰く付の霊が出ていない。 多分、夜にならないと出て来ないのだろう。 それにしても気になるのが、この家に来てからずっと感じている視線だ。 正直、幽霊より視線の方が気になってしょうがない。

 

 何故なら、霊は物理的にどうこうされる心配が余り無く、俺自身霊体験をした事がな無いし、ぶっちゃけエリスが居るので心配はしていない。 それよりも生きている人間の方が余程質が悪く、俺が死んだ原因の様に、自分勝手な思いで見ず知らずの人を襲うから始末に負えない。 そんな事を考えながら薪の火を見ていると、如何やらエリスがお風呂から上がって来た様だ。

 

 

エリス「気持ち良かったです。 それに... 外のお風呂と違って部屋まで温かいまま移動出来て寒い思いもしなくていい... やっぱり、自分の家っていいですね...」

 

 

八幡「おう...」 ジーーーーー

 

 

 今日の買い物で買ったピンクの寝間着を着て、長い銀髪をアップに纏めたエリスが普段の可愛さと違って、火照った肌と一緒に『女』を感じさせる。 やべえ、すげえ色っぽい... ん? けど、何か違和感を感じるな... あれ? 何か胸の厚みが減っている様な気がするのは目の錯覚か? どうなんだ? 

 

 

八幡「...」 ジーーーー

 

 

エリス「?? どうかしましたか?」

 

 

八幡「い、いや、何でも無い... そ、それじゃ、俺も風呂に入るか」

 

 

エリス「はい」

 

 

 多分見間違いと言うか、意外と小さいんだな... まぁ、そんなのは気にならないくらい可愛いいんだが... おっと、あんまり見てると変態だと思われるな。 さて、俺も風呂で疲れと汚れを落とすとするか。

 

 

 

・・・

 

 

・・

 

 

 

 

 

 久しぶりの風呂から上がった俺は、エリスの用意してくれたリンゴジュースモドキ?を二人で飲みながら、スキル配分について相談し、明日の予定を決めた後に今日はもう寝ようという事になった。 そして、予想通りと言うか何と言うか、今朝エリスが言っていた二人で一緒に寝ると言う、男子高校生の夢のシュチュエーションを味わう羽目になってしまった。 まぁ、これが初めてじゃ無いんだが...

 

 だが、朝の想像とは状況が異なっている点がある。 実はこのベットは例の兄妹が住んでいた時の物で、ダブルベットと同じ広さだ。 なので、俺とエリスの間に人一人もしくは二人分の空がある訳で、体が密着してしまう事が無くドキドキする様なシュチュエーションが無くてホットしている。 とは言ってもエリスのお願いで手を握っている訳だが...

 

 やべぇ、少し恥ずしいし、月明かりに照らされたエリスの横顔がすげえ綺麗で、思わず抱きしめたくなるなんて事は無い... はずだ! しかも心臓がドックンドックンして、このまま寝れそうにない。 俺がこんな状態なのに、お隣のエリスさんは... スーーー スーーー 寝てんのか...

 

 そんな状況なんで中々寝付けなかったが、今日は肉体労働もしたとあって時間にして12時頃には瞼が重くなり何とか寝付けそうになり掛けたその時、

 

 

??「オニイチャン... オニイチャン...」 ユサユサ

 

 

八幡「... ウーーン」

 

 

??「オニイチャン... オニイチャン...」 ユサユサ

 

 

八幡「... ウーーン」 ゴロリ

 

 

??「お兄ちゃん。 起きてお兄ちゃん。 私、ずっと待ってたのに何で寝ちゃうの?」 ユサユサ

 

 

 誰かの声が聞こえる... それにこの少し冷たい感じは何だ? 誰か抱き着いてるのか? それにしても、この声は...

 

 

??「起きてよ、お兄ちゃん。 お願いだから、起きてお兄ちゃん」 ユサユサ

 

 

 この声は... 小町?! 小町!!

 

 

八幡「っ!!! ... ?!!」

 

 

 目を覚ました俺は、布団の中で俺に抱き着く真っ白い肌に薄れた赤毛の女の子がいた。 そしてその子は俺に向かって、

 

 

??「やっと起きてくれたお兄ちゃん! ミーナの所に帰って来てくれたんだね! もう、離さないから!!」 ジーーーーー

 

 

 その言葉で寝ていた頭が少しずつ回り出し、今の状況を確認して行く。 除霊の話。 隣の御婆さんの話に出て来る、夜にすすり泣く妹の話。 俺の目の前で俺をお兄ちゃんと呼ぶ少女。 そういう事か...

 

 やがて頭がクリアになり、その少女の存在に多少の違和感と胸の奥から込み上げて来る間違った想い。 その所為でこの子に対して恐怖と言う感情が微塵も沸かない。 そんな自分を不思議に思いつつ、その子の顔を改めて認識する...

 

 

八幡「...」 ジーーーーー

 

 

ミーナ「どうしたの? お兄ちゃん」 ジーーーーー

 

 

 其処には俺と同じ様に濁り、その奥に深い井戸の様に虚ろな色を湛えた瞳が、俺の目を覗き込んでいた...

 

 そう、まるで俺と同じ存在だと言わんばかりに...

 

 除霊対象となる霊と一緒に寝ている俺は、先ずは体が自由に動くか確認してみる... が、如何やら金縛り等になっていないので、先ずは逃げる事が出来る事に安堵すると同時に、何故か先ほどまで握っていたはずのエリスの手の感触が無い事に気が付く。 が、そんな俺の様子など知ったものかと言った感じで、幽霊のミーナは俺に質問を投げかけて来た。

 

 

ミーナ「何でお兄ちゃんは直ぐに帰って来てくれなかったの?」

 

 

八幡「...」 ジーーー

 

 

 ん? 此奴は自分が死んだ事を認識してないのか? なら、良くは知らんが、世間で言う地縛霊みたいなものか? 確か、こういう霊は自分が死んだ事を認識すれば消えるんだったか? まぁ、良く分らんが平気だろ。 しかし、俺がこんな状況なのにエリスはまだ寝たままなのか? チラッ ... 呑気に寝てんな... まぁ、仕方ない。 先ずは話してみるか...

 

 

ミーナ「何で黙ってるの? 私の事が分からないの?」

 

 

八幡「ええと、ミーナとか言ったか? 俺は今日初めてお前と逢った。 だから、お前の事は良く分らない」

 

 

ミーナ「嘘!! 何でそんな嘘を言うのお兄ちゃん! 私の事を忘れちゃったって言うの?!」

 

 

 ん? 自分の兄と俺を間違えている? いや、違うな。 此奴は自分が死んだ事を理解していないんじゃない。 理解したく無いんだ。 そう、兄が死んだ事を理解したく無いから、受け入れられ無いから死の知らせを受け入れず、自分が死ぬまで待ち続けたんだ。

 

 だが、自分自身、本当は気づいていたはずだ。 けど、それを受け入れる事が出来ないし、受け入れられ無い。 だからその記憶と一緒に兄の顔も忘れる事にしたのか... ただ、『兄』と言う存在『だけ』が帰って来てくれればいいと... その執念、いや、深い愛情故か...

 

 自分の兄にそんな深い愛情を寄せている... そう、まるで小町の様に...

 

 霊に同情を寄せると、その霊はその人に取り憑くと言われてるが... それでも俺は、こんな思いでいるこの子を放っては措けない。 何故なら、もしかしたら、小町もこんな想いで今も俺の事を想っていてくれてるかも知れないから...

 

 だが、彼女には先ずは現実を受け入れさせなきゃいけない。 何故って、俺が此奴の兄なら、そんな姿を見たく無いからだ。 なら、俺のやる事は決まっている。 それに、もうそろそろエリスも起きて来るだろうから...

 

 

八幡「忘れたも何も俺はお前の兄じゃ無い。 お前こそ、自分の兄の顔を忘れたのか? それとも、思い出せないのか? いや、思い出したくないのか?」

 

 

ミーナ「!!! そ、そんな事無い! 何でお兄ちゃんはそんな意地悪な事言うの? 何でなの! ミーナの事が嫌いなの?!」

 

 

八幡「俺はお前の事を知らないから、好きでも嫌いでも無い。 それに、お前が兄の事を覚えてるなら、兄の名前を言ってみろ」

 

 

ミーナ「!! 私のお兄ちゃんの名前は... 名前は...」 ウツムキ

 

 

八幡「どうした? 覚えてないのか? 思い出せないのか? それとも、『思い出したく無い』のか? どうなんだ!」

 

 

ミーナ「何で、何でそんな意地悪な事言うの! 私のお兄ちゃんは私にそんな事言わないのに! お前なんかお兄ちゃん何かじゃない! お兄ちゃんの偽物め! お前なんかこの家から出てけ!!」

 

 

八幡「は? 出てけだと? 思い出すのが嫌だからって逃げてんじゃねえ! ちゃんと思い出してみろ! お前の兄はどうした? 死んだんだろうが! お前と一緒で死んでんだろうが! お前だって死んでんだろうが!! それなのに何でお前は兄の事を忘れようとしてんだ! お前の兄はそんな事望んだのか? 違うだろう!! それにお前は何だ! 思い出せない奴の想いを語るな! 嘘の想いを語るな! そいつが最後に何を想って逝ったかなんて分からないのに自分勝手に想像してんじゃねえ!!」

 

 

ミーナ「!! お前にお兄ちゃんの何が分るって言うの! お前こそ私のお兄ちゃんを知らないのにお兄ちゃんの気持ちを知ってるなんて言うな! お前こそ勝手に想像するな! それに、それに、私がお兄ちゃんの事を忘れた何て言うな!!」

 

 

八幡「ならお前の兄の名前を言ってみろ! 兄を想ってるなら、兄を好きなら、忘れるはず何て無いだろう!! 何故言えない! 忘れて無いなら何故言えない! 本当に、心の底から愛しているなら、兄の名前を言ってみろ!!」

 

 

ミーナ「!!! お、お兄ちゃんの名前は、お兄ちゃんの名前は... い... いや... いやぁーーーーーーー!」

 

 

 俺の『現実』と言う問いに拒絶の言葉を投げ返し、発狂するミーナ。 その所為で布団は足元に巻き上げられ、ポルタ―ガイストと思われる突風が吹き荒れる。 その状態で漸く目が覚めたエリスが、今の状況を呑み込めないながらも、防御結界を張るも、その対象に俺が入っていないので、鎌イタチにより俺の皮膚が少し切り裂かれ、微かに血が飛び散る。

 

 そんな荒れ狂う風の中、ミーナはその目を真っ赤に輝かせ、髪の毛を逆立てながら怨念の籠った瞳を此方に向け、その手を突き出し俺の首を絞めにかかる。

 

 俺はそんな状態のままでミーナの瞳を見詰め返し、ミーナの兄が何を最後に想っていたか、どんな想いで死んで行ったか、ミーナに何を願っていたか、ミーナを小町に置き換えて俺の想いを伝えなければ... そう、同じ死んだ身であるミーナの兄が何を望んでいたか、俺には解るから。 何故なら、本当に妹を愛しているならその心の内は誰でも一緒と想うから。 例えそれが紛い物でも、その想いは本物だから...

 

 俺の首を絞めるミーナを抱き寄せながら、息詰まる喉から声を絞り出し、彼女の耳元で自分の想いを伝える。

 

 

 そう、俺の想いは本物だから...

 

 

 小町、俺は...

 

 

八幡「ゴフォッ お、お前を残して... 死ん.. じまって. ご、ごめんな... お、俺. は.. お前. が.. 幸せ. に、なっ.. て... くれさ.. え. くれれ. ば.. それで.. いい.. んだ... な.. ぜな. ら.. お、俺は.. お前. を.. あ、愛して.. いる. から...」

 

 

 想いを伝えながら、ミーナを小町と想い、強く、強く、抱き締めながら、想いを込めてその髪を優しく梳く。 本当に、本当に、幸せになって欲しいいと言う想いを込めて...

 

 

ミーナ「!!! お、お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん! フィルお兄ちゃん!! ずっと待ってたのに! ずっと待ってたのに! 何で死んじゃったの! 幽霊でもいい。 ゾンビでもいい、死体のままでもいい、何で帰って来てくれなかったの!! 私は、私は、ずっとお兄ちゃんの事待ってたんだよ! 私の事愛してるなら、本当に愛してるなら、骨の欠片だけでもいい。 何で、何で、帰って来てくれなかったの!! お兄ちゃん!!! ... うぅぅぅ... うわぁーーーーーーー!!」

 

 

 俺の想いに今迄言えなかったであろう、心の中に溜めていた言葉を吐きながら、強い旋毛風を収め、首を締めあげていた手を解いて俺の胸にしがみ付くミーナ。 そして、大声で泣きながら俺の背中に手を回し、その想いと同じ強さで俺を抱き返す。

 

 そんなミーナに、小町の代わりにぶつけていた想いから、この子に対して想っていた事を伝える。

 

 

八幡「今迄良く頑張って来たな、ミーナ。 でも、もう我慢しなくていいんだ。 だから、安心しろ。 な?」

 

 

ミーナ「ズズッ うぅ お兄ぢゃん...」 スリスリ

 

 

 何かあれだな。 小町みたいで可愛くて仕方が無い。 それに、微妙に温かいと言うか何と言うか... 本当に幽霊なんだよな? 何か、井戸の底の様にほの暗かった目の色が、本来の色であろうブラウン色になっていて、普通に可愛い子って感じだ。

 

 ベットを背にミーナを胸の中に抱き締めながら、先ほど治癒魔法を俺に掛けながら隣で成生を見守っていたエリスを見てみると... ホッ 如何やら一安心した様だ。 それに、今度は浄化魔法?なのか、他の魔法の準備をしており、目でこのまま天国の送ろうか? という感じで此方に問い掛けている。

 

 本来なら、このままミーナを浄化した方がいいのだが、今は長い間胸の中に仕舞っていた想いを消化しているから、本人が納得するまでこのままにしておき、明日にでも浄化してあげればいいだろうと思い、エリスに浄化魔法は不要な事を目で訴えると同時に首を左右に振る事で答える。

 

 俺の回答に然も自分の考えも同じとばかりに浄化魔法?をキャンセルして、足元に飛ばされた布団を掛け直して、俺の隣に入り込んで横になりながら此方を見つめるエリス。

 

 ミーナとエリス。 二人の視線を感じながら、朝からの視線がミーナだと判り安心した所為か、この家の除霊?と朝からの家探しと荷物運びと家の掃除と、久しぶりの肉体労働に疲弊したからか、一気に疲労感が増す。

 

 そんな疲労に耐え切れず、自然と目が閉じて行き、そのまま眠りに就いた。 左腕にと胸の上に感じる温かさに身を委ね... そう、

 

 

 今日は長い一日だったな... と...

 

 

 

・・・

 

 

・・

 

 

 

 

 

エリス「... 八幡さん」 ジトーーー

 

 

八幡「ネカセ... テ... ムニャムニャ ...」

 

 

ミーナ「オニイチャン... ムニャムニャ ...」

 

 

エリス「... 八幡さん」 ジトーーー

 

 

八幡「マダ... ムニャムニャ ...」

 

 

ミーナ「ダイスキ... ムニャムニャ ...」

 

 

 何か棘のある声が聞こえるが... 誰かが呼んでるのか? ンーーーン にしても、何だか暖かいな... ギュッ! ん? 何だ? 小町か? ったく、二日連続でこれか? ったく、まだまだ甘えたいとか、子供のままなんだな... 小町... ギューーーー

 

 って違うだろ?!! バサッ!

 

 

エリス「... 八幡さん」 ジトーーー

 

 

ミーナ「オニイチャン... ムニャムニャ ...」

 

 

八幡「...」

 

 

エリス「#...」 ジトーーー

 

 

ミーナ「アイシテル... ムニャムニャ ...」

 

 

八幡「...」

 

 

 えっと... 何でミーナが昇天せずに一緒に寝てんだ?!

 

 それに、エリスの機嫌が悪いと言うか、視線が冷たい様な...

 

 

エリス「#...」 ジトーーー

 

 

 やべえ... めっさ怒ってるな! 何でだ? 浄化失敗だから? 24万Eが入らないからか? 此奴、意外と守銭奴なのか... やべえよ。 女神の癖に守銭奴何て、ちょっとアレだろ。 それともアレか? そんな所が評価されて国の通貨になったのか? 守銭奴だけに、国庫からお金が減らない様にってw ジトーーー すいません。 そんな事微塵も思ってません。 ですから許して下さい、ごめんなさい。

 

 ってか、何で朝なのにミーナが居るんだ?! しかも、昨日の夜に溜め込んでいた想いを消化して、そのまま成仏したんじゃないのか? なのにこれって如何言う事だ? ここはちょっとお怒りの専門家に聞くしか無いな... が、その前に挨拶しないと気持ちをリセットしてくれないだろうから、先ずは挨拶だな。 我ながら子供騙しみたいで意味が無い気がしないでも無いが...

 

 

八幡「エリス。 おはようさん」

 

 

エリス「... ムフーー おはようございます」

 

 

 何とか第一関門は突破出来たな。 なら、そのままなし崩し的に行くか...

 

八幡「霊の専門家のエリスに教えて欲しいんだが、何故朝なのにミーナが見えるんだ? それと、昨日の夜にこの世に対する悔いが無くなって成仏出来たはずなのに、未だ此処に居るのは何でだ?」

 

 

エリス「... 霊は無意識にその存在を示しますので、朝とか夜とか余り意味はありません。 ただ、その霊が精気を吸ったり、信仰や他人の想いを多く向けられれると、その存在が少しずつこの世の理に認められて、その姿を明確に表す事が出来るようになります。 それと、昨日私が浄化魔法で昇天させられたのを止めたから残ってるのでは? それか、他に未練が残ってしまった可能性があるのかもしれませんね!」 ジトーーー

 

 

八幡「霊の存在については、分った... それと、その、何だ。 今もこの世に残ってるのは偶々だと思うぞ? だから、今日にでも浄化魔法で送ってやればいんじゃないか? そもそも、もうこの世に未練なんて無いはずだしな?!」

 

 

エリス「八幡さんはそんな事言ってますけど、どうなんですか? ミーナさん?」

 

 

ミーナ「...」

 

 

エリス「起きているのは分ってますので、ちゃんと答えて下さい。 じゃないと...」 ゴゴゴゴ

 

 

八幡「ミーナ?!」

 

 

ミーナ「... バレちゃいましたね。 ええと、フィルお兄ちゃんへの未練は無いよ。 けど... チラッ、チラッ 今のお兄ちゃんには未練一杯... かも...」 モジモジ

 

 

エリス「# だ、そうです。 八幡さん」 ニコニコ

 

 

 何か、エリスの目の色がアレで、何時は天使の笑顔に見えるはずなのに何故か怖い気がするのは何故だ? しかも、心なしか冷たさを感じてるんだが... まぁ、ミーナには成仏して欲しいが、今のお兄ちゃんに未練があるって言われてもなぁ... しかし一体誰なんだ? 全然見当が着かないが... エリスなら分るのか? なら...

 

 

八幡「エリス、エリス。 ちょっといいか?」 コソコソ

 

 

エリス「何ですか?」 コソコソ

 

 

八幡「此奴、今のお兄ちゃんとか言ってるが、一体誰か知らねえか?」 コソコソ

 

 

エリス「さあ? 自分の胸に手を当てて考えて見ればいんじゃないですか?」 コソコソ

 

 

八幡「お前怒ってんのか?」 コソコソ

 

 

エリス「それこそ、自分の胸に手を当てて考えて見ればいんじゃないですか?」 コソコソ

 

 

八幡「...」

 

 

 何故か知らんが、大分お怒りの様で... しかも、ミーナの件は俺の所為と言ってんだな... なら、しょうがない...

 

 

八幡「ええとだな、ミーナ。 もう、この家に住む人に悪さをしないって約束出来るか?」

 

 

ミーナ「お兄ちゃんがそうして欲しいなら約束するよ。 けど、お兄ちゃんに逢いたい時は出て来てもいい?」

 

 

八幡「ああ、それは構わない。 それと、俺が居ても此処に居るエリス以外が一緒に居る時は勘弁して欲しいが、それも約束出来るか?」

 

 

ミーナ「うん。 約束するね。 だから、お兄ちゃん。 これからも宜しくね!」 ニパーー

 

 

八幡「... あぁ」 チラッ

 

 

エリス「...」 ジトーーー

 

 

 エリス。 やっぱお前、怒ってんじゃねえか... はぁ~~ 後で大工ギルドに寄ったら、何か甘い物でも買うか...

 

 

 こうして異世界生活三日目で、俺とエリスは家を手にいれた。




誤字脱字等、ご指摘頂ければ幸いです。

どもども!
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