【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
やや高めの階に在るバルコニーから向かい側の吹き抜けの廊下へ飛び移るのに失敗して地面に身体を思い切り叩き付けられたフィールは、その後校内に戻って若干足を引き摺るようにしながら、フラフラと無駄に長い廊下を歩いていた。
一応は自力で起き上がれるくらい回復したが、それでもまだ全身はズキズキと痛む。
俯きがちな顔には暗い翳が差しており、眼はついさっきまで泣いていたせいか、少し赤く腫れていた。
「あ………っ」
よろけたフィールは肩から壁に激突した。
鈍痛が残存していた全身に衝撃が走り、端正な顔を苦痛に歪める。
気を抜いた瞬間、どっと倦怠感に見舞われ、身体が一気に重く感じ、壁に寄り掛かった。
「………ッ、はぁ………………」
苦し気な息を吐き、自身の不甲斐無さを痛感してフィールは下唇を噛み締める。
顔色は優れておらず、覇気が感じられない。
ぐったりと硬い壁にもたれ掛かり、重い瞼をゆっくりと閉じる。
こんな状態になるくらい、どうやら自分は精神的に相当追い詰められていたらしい。先程、思い通りに魔法を扱えなくて地面に墜落したのがその証拠だ。
何もかも上手くいかないフィールは、今後の学校生活について心底苦悩した。入学してまだ1ヶ月も経っていないのに、大衆に目の敵にされて意気消沈していく。
その時、自分自身の声が頭に響いた。
『確かに私はスリザリンに所属する生徒だ。スリザリン以外の寮とは無条件に決裂している立場に立っている。そんな私は、どんなに他人の為に頑張ったって誰からも誉められないし、これっぽっちも感謝されない。他人の為に自分を犠牲にしたって、結局は無意味に終わる』
だけど、と。
頭の中で反響する己の声は言葉を紡ぐ。
『たとえ、ホグワーツに在校する全ての生徒が自分の行為を「スリザリン生だから」の理由で全否定したとしても………妥協して信念に背反するようなヤツより、自分の気持ちに従って動いたヤツの方が、何億倍もカッコいいじゃないか』
他人を見殺しにするのが正しいと、そう思うのが自分以外の人間なら。
それが正しい選択だと言うなら………自分は間違えた選択でいい。憎まれ者で構わない。
諭すようにそう語り掛ける、自分自身の声。
以前のフィールだったら、ここで首を縦に振っていただろう。
そうだ、それこそが自分だと。
嫌われようが憎まれようが。
正しい行為だと自分が信じるなら。
自身はそれを最後まで貫き通すと。
けれど―――
―――フィールは弛く首を横に振った。
「もうイヤだ………これ以上は限界だ………」
それは、独りだけで抱えてきたフィールの弱音だった。
皆から口々に責め立てられ、問答無用で悪者扱いされ………自分で自分を窮地に追い込んでまでそういう人達の為に必死に頑張る自身の行動に、疑問を持たずにはいられない。
遂に精神の限界を迎えたフィールは、苦悩の末に固く決心する。
―――もう二度と………人助けはしない、と。
♦️
夕食を食べ終えて地下牢に在る蛇寮に帰宅したスリザリンの男女は、友人同士でチェスやトランプに興じたりソファーに座って対談したり等、皆はそれぞれ自由時間を満喫していた。
が、ある人物が談話室に姿を現すと、それまで賑やかだった空気が一瞬固まった。
フィールが戻ってきたのだ。
階上で此方を見下ろすフィールと視線が合った生徒は気まずそうに眼を逸らしたり、そっぽを向いたりする。フィールが階段を下りてくると、多数の人々………特にマルフォイは露骨に忌避し、次々に割り当てられた自室へと戻っていった。
「…………………………」
フィールは談話室を見回す。
残っているのはマーカスやジェマ、アリアなど―――数少ない、わだかまりなく接してくれる優しい人達だけだった。その中には、ルームメイトのクシェルも含まれている。
「………ホント、私って皆からの嫌われ者だな」
ぎこちなく苦笑したフィールは、昼間の影響が若干残存している身体を休めようと、覚束無い足取りで部屋に行こうとしたが。
「待ちなさい、フィール」
何故か、ジェマに呼び止められた。
フィールは歩みを止め、振り返る。
「………なんだ?」
「貴女、どっか身体悪いの?」
いきなり図星を突かれ、ギクッとする。
フィールの微妙な反応に気付いたか気付いてないのかは不明だが、ジェマは続けた。
「何と無くだけど………今、足を引き摺りながら歩いてなかった?」
ジェマの言葉に同感のマーカス達は頷く。
クシェルは昼過ぎに起きた出来事もあってか、心配そうな表情を浮かべていた。
しかし―――。
「―――別に何処も悪くないけど?」
フィールは彼女らにバレるのを恐れるよう、どこか皮肉めいた感じで軽く肩を竦める。
すると今度は、マーカスが声を掛けてきた。
「そういえば、ベルンカステル。既にベイカーから聞いてはいるだろうが………箒に乗る高い素質と才能を活かして、来年、スリザリンのクィディッチチームのシーカーにならないか?」
息詰まるような重苦しい談話室の雰囲気を変えるのも兼ねてマーカスはそう勧め誘ったのだが、
「断る。そういう面倒な事はしたくない」
冷たい声音でバッサリと拒否された。
思わずマーカスは面食らったが………気を取り直してもう一度話し掛ける。
「だ、だが少しは考えてくれ。生まれつき素晴らしい能力を持っているんだ。それを存分に発揮出来るチャンスを自覚していながら逃すような真似は止してくれよ」
だが、フィールは噛み合わない返事をした。
「―――今日はもう寝る。おやすみ」
そして無表情のまま背を向け、歩き出した。
その背中をじっと見つめる彼等は、やはりフィールは何処か身体が悪いのではと、口に出さずとも共通で心配の念を抱いた。
「………私も、もう寝ます」
やがてクシェルは、先輩のマーカス達に会釈すると、フィールの後を追い掛けて談話室を後にした。
後輩二人が居なくなった途端、妙な静けさが訪れる。
永遠とも感じられる息苦しい沈黙が流れる中、先に静寂を切り裂いたのはジェマだった。
「………フィール、なんだか元気無かったわね」
ジェマの呟きに、足元に眼を落としていたマーカスは「だよな………」と同意する。
「アイツ………また何かあったのか?」
「………そうかもしれないわね………」
ジェマとマーカスは暗い顔を見合わせる。
「全く………寮内での団結力や結束は他の寮よりも高いのがスリザリンの特色だってのに、これじゃ、まるっきり面目が丸潰れだな。………ベルンカステルはきっとこう思ってるだろうな。『スリザリンに入らなければよかった』って」
「組分け帽子が決めたのか本人が決めたのかはわからないけど………どっちにしたって、あそこまで同じ寮に所属する人達からの忌避感を受けたら誰だってそう思うわよね」
身内には優しい二人からすると、せっかくの新しい仲間―――もとい新しい家族が誕生したと言うのに、あんな残酷な扱いをする在校生や新入生に対し、不快感を募らせずにはいられない。
「まあ、私達がどうこう言ったところで、最終的にはフィールと他の皆が和解しなきゃ、結局はどうにもならないわ。今は、時間経過と共に成り行きを見守りましょ」
アリアの正論に、二人は賛同の首肯を見せる。
だが………ゴールに辿り着くまでのその道は、決して平坦ではないだろう。最悪の場合、互いに隔てる心の壁が消えないまま別れる可能性だって有り得る。
でも、今は祈るしかない。
隔意を捨て、少しずつでもいいから両者共に歩み寄るのを願うしか、今の自分達には出来ない。
だから、祈る。
いつか、同僚達がフィールを血の繋がりがない家族と認め、フィールも彼等を血の繋がりがない家族と認めて接してくれるのを。
♦️
一方、部屋に戻ったクシェルはと言うと。
早々に制服から寝間着に着替え、頭から毛布を被っているフィールを遠目から眺めていた。
全身がすっぽり覆い隠されているので、フィールが寝ているか寝ていないかを判断するのは難しい。
「………フィー、もう寝たの?」
静かに近寄ったクシェルはそっと問い掛ける。
返答は無し。
僅かな反応も見せなかったので、本当に寝てしまったのだろう。
そうとわかれば、これ以上呼び掛ける必要も、無理矢理叩き起こす義理も無い。
クシェルはポツリと言った。
「………おやすみ、フィー。いい夢を見てね」
そうして、クシェルは寝間着に着替えて寝た。
クシェルがベッドに潜り込んだのを気配で察知したフィールは、寝たフリを止めて毛布から顔を出す。
同室のクシェルに背を向けているフィールは、母親譲りの端正な顔を歪めていた。
♦️
あの決闘の夜から1週間が経った日。
普段通りの賑やかな朝食時間帯にいつものようにフクロウが群れを成して大広間にやって来て、ホグワーツ生達は皆6羽の大コノハズクが咥えて運んできた細長い包みに気を引かれた。
大コノハズクはハリーの真ん中に舞い降り、その大きな包みを彼の前に落とすと、6羽が飛び去るか飛び去らない内に、もう1羽が包みの上に手紙を落とした。
ハリーは急いで手紙を開いて眼を通し………全文読み終えた頃には、傍から見ても認識するくらいの喜色満面に溢れた。
「………………」
その様子を、スリザリンテーブルに居たフィールは遠くから見ていた。唖然としている同輩や先輩を横目に、フィールは教職員が座っている上座にサッと視線を走らせる。
普段から厳格そうな顔付きのマクゴナガルが珍しく目元を和らげてハリーを見守っているのを見て、アレは副校長が彼にプレゼントした物だとフィールはすぐにわかった。
包みのフォームと最近の出来事を照らし合わせたフィールは謎のプレゼントの中身を推知する。
(アレは恐らく………ニンバス2000だな)
あのマクゴナガルが強引に規則をねじ曲げてまで最年少シーカーに抜擢したハリーに贈り物を渡すとすれば、最新鋭の箒・ニンバス2000くらいだろう。
と言うか、逆にそれ以外に贈る物があるだろうか?
………否、無いだろう。
少なくともフィールには思い付かない。
一人の生徒の為だけにそんな高価な物を贈るのは流石に依怙贔屓し過ぎだなと、フィールは個人的にマクゴナガルに対し教師としてどうかと思う点を挙げて、やれやれと深いため息を吐いた。
「………ん?」
ふと、何かの気配を感知したフィールは、ゆっくりと顔を上げて頭上を見回す。
フィールは手紙を咥えたワシミミズクが此方に飛んで来るのを認め、蒼眼を細めた。
「………グリュックか」
グリュック―――叔父のライアンが飼っているペットのフクロウだ。
グリュックはスッと手を差し伸べたフィールの細い腕に止まり、羽を休める。フィールはグリュックから手紙を受け取り、念のため裏面をチェックした。
差出人は飼い主のライアンからであった。
黒字で書き記された差出人の名前を見て、フィールの顔は微かに曇る。
封を切らないでそのままショルダーバッグに仕舞おうかと思ったが………披見するまでは飛び立たないぞという眼で睨んでくるグリュックに、フィールは「全く………誰に似たんだか」と渋々開封して、丁寧に折り畳まれた羊皮紙を開いた。
『フィールへ
元気にしてるかい? ホグワーツに入学して3週間が過ぎたけど、友達は沢山出来たか? 出来てたらちょっとは安心するよ。
そういえば、君はスリザリンに組分けされたんだな。クリミアからの手紙で知ったよ。僕は母親と同じスリザリン、セシリアは父親と同じグリフィンドールと予想したから、今回は僕の予想が当たったんだな。
あ、でもハッフルパフも候補として挙がってたな。クリミアと同じ寮に行くってのも考えられたし。ま、万能タイプの君ならどの寮に入ったとしても上手くやっていけると僕は思うよ。
努力家な君のことだから、とっくの昔に空き部屋でも使ってそっちでも魔法の練習をしてるだろうけど、無理は絶対するなよ。鍛練をするなとは言わないが、友達と過ごす時間も大事にするんだぞ。
byライアン』
(友達なんて………そんなもの―――)
―――出来てる訳がないじゃないか。
他寮からは憎まれ、同寮からは嫌われ。
そんな自分に、『友達』なんてよくわからないものが作れるはずがないし、自分から作る気も殊更ない。
手紙を読み終えたフィールは、満足げに飛び去ったグリュックの姿が見えなくなるまで見届けた後、手紙を閉じて封筒の中に仕舞い、ショルダーバッグの奥底に突っ込むとまたまた重いため息を外に吐き出した。
と、その時だ。
いきなり、背中をバシッと叩かれた。
フィールは痛みに顔をしかめる。
「朝っぱらからため息つくな、ベルンカステル。気持ちが重く沈むだけだぞ」
ダイナミックなモーションで隣の席にドカッと座ったのは、マーカスだった。マーカスは肩越しから、ロンと共に大きな包みを抱えて大広間から飛び出していくハリーを一瞥後、フィールの方に顔を向ける。
「ポッター宛てのあの贈り物は何なんだろうな。ああいうスゴそうな物を貰うなんて、憎たらしいくらいポッターは皆からの人気者だよな、相変わらず」
「………そうだな」
表面上はわからないフリをしているだけで本当はマーカスも薄々感付いているのだろうかと思いつつ、フィールは冷たいミルクを喉に通す。
マーカスも同じくミルクを飲み干すと、
「ま、そんなもん今はどうでもいい。ところでベルンカステル。少しはあの件について再考してくれたか?」
と、若干期待を込めた瞳でフィールに訊いた。
あの件とは、「来年度新人シーカーにならないか」と言う意味だ。
クシェルから飛行訓練の授業中に発生したアクシデントの詳細を聞いたマーカスは、是非ともフィールには我がチームの即戦力としてシーカーになって欲しいと、この頃彼は何度も彼女に懇願している。
しかし、そんなマーカスの哀願を真っ向から撥ね付けるのを示して、フィールは首を横に振った。
「何度も同じことを言わせるな、マーカス。私はシーカーになるつもりはない。別の人材を見付けてくれ。私より上手いヤツなんて、才知に優れた者が多いスリザリンにはゴロゴロ居るだろ」
「そうは言うけどなあ………お前並みの桁外れた実力者なんて然う然う居ないぞ。天性の反射神経と身体能力を兼ね備えてるんだ。それを有効活用しなかったらお前はこの世で一番の贅沢者だぞ」
「有効活用する場合は他でもある。何もクィディッチのみってだけじゃないだろ」
苦々しい顔で、そして刺々しい口調でフィールはキッパリと反論した。
彼女にとって、シーカー勧誘の話題はあまりして欲しくない。あの飛行訓練の出来事を嫌でも思い返されるからだ。
「とにかく………私は来年度のクィディッチ選抜を受けるつもりはこれっぽっちもない。そういう話はマルフォイにでも振れ。アイツはライバルのハリー・ポッターが自分を踏み台にして栄光を掴み取ったことを悔しがっている。屈辱は倍返ししてやろうと、自尊心が高いアイツなら喜んでシーカーになるだろうよ」
そう言ってフィールはガタッと立ち上がる。
これ以上は鬱陶しくて仕方ないという面持ちのフィールにどうしても諦めきれないマーカスは何とかして頑固な後輩を説得しようとしつこく言ってくるが、その彼女は華麗にスルーして大広間を後にした。
何故、周りはこんなにも煩わしいのだろうか。
自分は平穏に過ごしたいのに………。
本当にこれから先の学校生活大丈夫かと、フィールは先行く未来が不安過ぎて、黒い髪をグシャグシャと掻き乱した。
♦️
その日の授業も終わり、フィールはホグワーツ最上階に在る、求める者の欲しい物が備わっている不思議な部屋『必要の部屋』をそろそろ見付けようと、現在彼女は8階で一人探索していた。
クリミアによると、入り口はバカのバーナバスがトロールに棍棒で打たれている壁掛けの向かい側で、普段は何の変哲もない城壁だが、目的を心に強く思い浮かべながら3回往ったり来たりすることでピカピカに磨かれた扉が出現するらしい。
かれこれ数十分間探し回ったフィールは、お目当ての石壁の前にようやく辿り着いた。
(確か3回往復するんだったんだよな………)
周囲に生徒や教師が居ないのを入念に確認したフィールはクリミアに教わった通り、目的意識を強く念じながら3回往復する。
(魔法の鍛練が出来る部屋………魔法の鍛練が出来る部屋………魔法の鍛練が出来る部屋………)
バッチリ3回往復したフィールは城壁と向き合う。そこには、つい先程まで無かったはずのピカピカなドアが顕現としていて、その存在を主張していた。
扉を開けて、慎重に中に入る。
広大無辺な部屋が、真っ先に眼に映った。
視界に飛び込んできた広々空間に、これならば空き部屋と違って誰かがやって来る心配も、気を配る必要性も無くなると、フィールは安堵する。
室内は果てしなく広い上に、図書室のように本棚が一定の間隔で並べられていて、その全てが戦闘関連の知識や情報、理論がぎっしり詰め込まれた参考書であった。
此処に来て、フィールはフッと口角を上げる。
今の今まで気持ちが暗く塞ぎ込んでいたためか尚更気分爽快になり、翳りが一切差していない晴れやかな笑みを浮かべていた。
「此処なら………誰にも邪魔されずに済む」
今後は必要の部屋が居場所となるだろう。
一般生徒にはあまり知られていない、この魅力的な隠し部屋が。
フィールは、やっと自分が追い求めていたホグワーツでの身の拠り所を見付けた気がして、胸の中が歓喜で満ち溢れた。
♦️
秘匿性の高い『必要の部屋』を発見しそこで魔法の鍛練をしてきたフィールは喜悦の顔だった。
先週、心理的要因で魔法を上手く行使出来ずバルコニーから落下して地面に叩き付けられたのは記憶に新しい。なので久し振りに思い切り魔法を扱えて、フィールは満足感に浸っていた。
上機嫌に長い廊下を歩行するフィール。
でもそのウキウキ気分も、次の曲がり角に差し掛かった瞬間、何処かへ綺麗さっぱり消え去ってしまった。
ライバルのハリー・ポッターが特例でニンバス2000を贈呈された腹いせとして、これまたマルフォイと取り巻き二人がネビルをいびっている光景を目撃したからだ。
瞬く間に笑みが失せたフィールは立ち止まる。
彼方からは死角となっているので、自分の存在は気付かれていない。
フィールは本能的に同級生を虐める同輩を窘めに行こうとしたが―――もう二度と、自分で自分の首を絞めるようなバカな真似は止めると決めたのを思い出し、身体が硬直した。
何をしている。早く止めに行け。
ここで自分が行かなかったら、誰が止めに行くんだ。
悪事を見て見ぬフリは、直接的でなくともイジメそのものだろ?
何をしている。さっさと帰るぞ。
放っとけ。虐められても「止めて」と言えないアイツが全面的に悪い。
自分は何も関係無いし、イジメの矛先が移り変わられて後悔する羽目になるだけだろ?
ジレンマに陥り、結論を出せない。
足がこの場に縫い付けられたように、一歩も前に踏み出せなかった。
二つの感情に揺れ動いていたフィールはやがて微かに震えていた足を何とか動かし―――踵を返した。
人助けはもうやらない。
そう………決めたんだ。
なのに―――。
まだ、心の何処かは今の決意を否定する。
そんなのは間違っている―――と。
心の片隅でそう叫ぶ感情が混在していた。
でも、フィールは心が限界だった。
無条件で自分を悪者にされるのが。
理由も無しに他人に責められるのが………とにかく嫌で嫌で堪らなかった。
俯きがちに歩いていたフィールは走り出す。
そうすれば、自分を悩ませる苦しみを振り切れると信じているかのように。
自分を咎める自身の意識から逃れるように。
♦️
スリザリン寮・女子部屋一室。
そこに、フィールは帰宅した。
部屋に入ったフィールは椅子に座り、机に肘をついて頭を抱える。
あの時………ネビルを助けようとしなかった自分を責める心が今も尚頭も胸も締め付けていた。
(どうすればいいんだよ………一体全体、何が本当に正しいんだよ…………)
己で決意しそれに従っただけなのに、結局はこうして精神を苛まれ、フィールは悩み苦しんだ。
と、その時。
背後の方でガチャッとドアを開ける音がした。
クシェルが帰ってきたのだ。
「………フィー?」
クシェルはフィールを見て、首を傾げる。
友人が苦悩している姿に、眼を見張った。
驚きを孕んだクシェルの声が耳に入ったフィールは、振り返らずに言葉を発する。
「………ああ、クシェルか」
「珍しいね、フィーが此処に居るなんて」
「………そうだな」
普段は不在がちなフィールが珍しく此処に居てクシェルは内心ビックリしつつ、直感的ではあるがフィールの心が重く沈んでいるのを感じ取る。
「あのさ、フィー」
クシェルはそっとフィールに近寄り―――
「―――何かあった?」
―――後ろから、ギュッと優しく抱き締めた。
「………ッ」
クシェルにバックハグされたフィールは、ハッと下に伏せていた顔を上げた。
背中から全身に広がるクシェルの体温と顔の横から規則的な息遣いを感じる。
ぬくもりに包まれたフィールは戸惑った。
クシェルは更に両腕に力を込める。
「何があったのかは知らないけどさ………前々からフィーが凄く傷付いているのは、聞かなくてもちゃんとわかるよ。今日はどうしたの?」
「………………別に、何も、無い………」
本音を隠し、その場しのぎの建前を言う。
だけど、本当はわかっていた。
この人には………嘘が通じないことくらい。
虚偽の発言は簡単に見抜かれるくらい。
フィールには、わかっていた。
「………………」
鬱屈そうに、クシェルは翠眼を細める。
何も無いと言う言葉とは裏腹に、本当は何かあったということはすぐにわかった。
嘘をつくのがとことん下手だなと思いつつ、無理に聞き出そうとしても、フィールは素直に答えてくれないしむしろ逆効果なのを知っているクシェルは、敢えて詮索はしなかった。
「そっか。………ねえ、フィー。これだけは言わせて?」
鼻腔を擽るさらさらちょっと癖毛の黒髪から漂う甘い香りに目元を和らげたクシェルは、フィールに微笑み掛けた。
「誰かが頑張ってる姿は、誰かがちゃんと見守っているよ。だから―――フィーが頑張ってる姿、私はちゃんと見てるからね」
その言葉に、フィールは顔を歪める。
この間のことを責めたりせず、それどころか、こんな風に励ましてくれて………胸の奥底で抑え込んでいる衝動に駆られたフィールは、奥歯をギリッと噛み締め、クシェルに泣いてすがりたくなったのを、グッと堪えた。
【苦悩の末の結論】
もう二度と人助けはやらない。
【グリュック】
ライアンのペットのフクロウ。
フィールにペット持たせてない代わりに他のオリキャラには持たせてます。
フィールには守護霊と言う名の頼もしいパートナーがいるので大丈夫でしょう。
【必要の部屋】
ハリポタナンバーワンチートルーム。
【ネビルを助けなかったフィール】
前回の比較となるシーン。
【誰かが頑張ってる姿は誰かがちゃんと見てる】
クシェルがフィールに言った言葉。
一度クシェルに言わせてみたかったんですよね、これ。