【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
そしてあと2話で#100達成!
まさかここまで長期連載になるとは、私も予想外で少々ビックリです。正直、お気に入り登録とかが全く増えなかったら#1の時点で失踪しようかなとも考えてましたが、こうして100話まで更新出来るくらい、沢山の読者に支えられてきました。ありがとうございます!
「ス、
フィールの姿を捉えたマルフォイは本能的に素早くサンザシの杖を取り出し、空中を薙ぎ払った杖の先から、そこそこのスピードで『失神呪文』が放たれる。
が、杖が向けられたのと同時にフィールは横っ飛びで床を転がって、射線上から外れた。おかげで『失神呪文』の直撃は免れたけれど、先程フィールが立っていた真後ろの壁が衝撃で歪み、焦げ跡を作って煙を立てる。
「くそっ、外したか!」
攻撃が当たらなかったマルフォイは狂ったように次々と呪文を連射するが、フィールは慌てず騒がず銀色のバリアで的確に防ぐ。伏せたままレッグホルスターから予備の杖を抜くと、フィールは『盾の呪文』を継続させた状態で『妨害呪文』をマルフォイの足元狙って発射、彼はバランスを崩して滑り、無様に床に倒れる。
「くっ………!」
時間のロスを軽減するべく転んだマルフォイは立ち上がらないで、フィールと同じく伏臥位を取って呪いを撃とうとしたが、
「貰った」
と、『武装解除呪文』と『全身金縛り呪文』で先手を打たれた。
右手に標準を定めて射撃された真紅の閃光は見事サンザシの杖に命中して手元から吹き飛ばし、続いて青色の光線がマルフォイを撃ち抜く。
予備の杖を口に咥えたフィールは放物線を描いて飛んできたマルフォイの杖を左手でパシッと掴み取り、スッと立ち上がった彼女は両腕・両足が身体にピッタリとくっついて一枚板のように石化し身動きが取れなくなった彼の元へ歩み寄る。
真っ青な顔をしたマルフォイは恐怖の色が滲んだ視線で忙しなくこちらを見下ろすフィールを捉え、動こうにも動けない現状に己の無力さを歯噛みした。
「言っただろマルフォイ。私はアンタを助けるために来たって」
予備の杖をレッグホルスターに仕舞ったフィールは軽く肩を竦めつつ、視線を足元で転がるマルフォイから金と黒の大きな飾り棚に向ける。
これこそが、ボージン・アンド・バークス店内にあるもう1つの棚と対になっている『姿をくらますキャビネット棚』。
2つの棚によって魔法の通路を結ぶ魔法具だ。
マルフォイはビープスが壊してしまったこれを必要の部屋に持ち込み、修繕して
「やっぱり、これの修理だったか………」
夏季休暇中、ハリーからの話で『キャビネット棚』の単語が出てきた時から薄々感付いていたフィールは、まず騎士団の総司令官・ダンブルドアに相談した。
その時、スネイプがドラコの命に関する事柄でナルシッサ・マルフォイと『破れぬ誓い』を立てたことを聞き及び、詳細を掴むべく新学期が始まって以降、下手に関わろうとはしないで暫くは手出しせず、彼の動向を探っていたが………。
先日、あろうことか世界一安全地帯と評される此処ホグワーツで殺人未遂の事件が発生し、これ以上の静観は危険と判断。
ハリーが持つ『忍びの地図』でマルフォイの姿が毎回この部屋の前で頻繁に消えると言う情報の基、フィールは番人のクラッブとゴイルをあっさり突破して入室したのである。
「さて、早いところ校長に報告して、その後これをぶっ壊すか」
こんな危険な物は即刻排除するに限るが、まずはマルフォイの犯行を証明する証拠を残さなければならないので、今はまだ破壊しない。
敢えて破壊せず何か使い道が見付かるまで厳重保管しておく手段もあったが、如何せん対になっている場所がアレだ。それにこの時勢、不安要素は一つでも減らすべきだと、フィールは金縛りから解放されたらすぐさま喚きそうなマルフォイをヒョイと抱え、必要の部屋を後にした。
♦️
校長室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
息が詰まるような空気の中、ダンブルドア直々に呼び出されたマクゴナガルと先日の事件の目撃者・ハリー達はマルフォイに非難の眼を送っている。クシェルは別の意味で、ダンブルドアを白眼視しているが。
それはともかく………マルフォイはライバルのハリー・ポッターを前にしながらも顔面蒼白してブルブル震えており、時間経過と共に呼吸がどんどん荒々しくなっていく。
つい先程―――キャビネット棚の修理中に必要の部屋に乗り込んできたフィールのせいで全ての計画の露見してしまい自暴自棄に陥ったマルフォイは、殺害対象だったダンブルドアが自分のすぐ目の前に居るのもお構い無しに、ヤケクソになって陰謀を暴露した。
父・ルシウスの大失態の連続に怒った『例のあの人』からダンブルドア殺害を命じられ、失敗したら家族を皆殺しにすると脅迫されたこと。
以前、グラハム・モンタギューから聞いた話から姿をくらますキャビネット棚を利用すれば死喰い人をホグワーツに侵入させることが出来ると考え、ボージン・アンド・バークスに寄って店主に修理方法を聞いたこと。
自分の手柄と横取りされると思って、やたら計略を聞き出そうとしてくるスネイプに思考を覗かれないよう伯母のベラトリックスから『閉心術』を学んで、(手助けするためにあれこれ質問してきた)彼に対し心を閉じていたこと。
キャビネット棚が中々修理出来ず、このままではマズいと焦燥に駆られ三本の箒の店主マダム・ロスメルタを『服従の呪文』で操り、間接的に『呪われたネックレス』をダンブルドアに届けようとしたが失敗したこと。
12月25日になったら今度こそダンブルドア暗殺を成功させようと、校長へのクリスマスプレゼントに使われると思って毒入りのオーク樽熟成蜂蜜酒をこれまたマダム・ロスメルタを利用してホラス・スラグホーンに送り付けようとしたが、そうする前にフィールによって何もかも台無しにされたことなど―――これまでの経緯をマルフォイは自らの口で自白した。
必要の部屋に隠されているキャビネット棚を調査した結果、マルフォイの指紋と修繕中だった痕跡が発見されたとのことだ。ちなみにキャビネット棚はついさっき、フィールが修理不可能なくらいド派手にぶっ壊したのでもう使い物にはならない。
マダム・ロスメルタに掛けられていた『服従の呪文』は既に解除されている。ダンブルドア殺害を手助けをさせられていた彼女は、昨年度ハーマイオニーがDAの連絡手段として使った『変幻自在術』―――大元のマスターの物を変化させると複製した物が同時に変化、マスターとコピーの距離が離れていても有効のNEWTレベルの高度な魔術による、魔法の掛かったコインでの伝達手段をヒントにしたマルフォイとこれと同様の方法で連絡を取り合っていたらしい。
先日のホグズミード行きの週末、操られていたマダム・ロスメルタはトイレで待ち伏せし、運悪く最初にやって来たケイティ・ベルに『呪われたネックレス』が入った箱を校長に届けるよう『服従の呪文』で命令したとのことだ。
それを聞いたハーマイオニーは、自分のアイディアがまさかこんな悪事に採用されるとは夢にも思わなかったのか、傍から見てもわかるくらい傷付いた顔をした。
ただでさえ胸を深く抉られて泣きたい気持ちだったのに、頭がイカれてしまったマルフォイは嫌味ったらしく嗤ってハーマイオニーに追い打ちを掛け、我慢の限界に達したハリーとロンが憤怒の表情で彼をボコボコに殴り飛ばす前に、それまで黙って聞いていたマクゴナガルが烈火の如く叱責し―――現在に至ると言う訳だ。
「アルバス………わかりきったことではありますが、これは見過ごせぬ事態です。『許されざる呪文』の対人使用に闇の陣営の加担。挙げ句の果てに、故意で人の命を奪おうとしたなど前代未聞の事件です。非常に残念ではありますが、即刻、彼を退学処分にして魔法省に引き渡すしか―――」
「ちょっと待った、副校長」
マクゴナガルが言い切る前に、フィールが片手を上げて遮った。話を中断されたマクゴナガルは「なんですか?」と眼を吊り上げたままフィールに問うが、逆にフィールは涼しい顔でマクゴナガルを睨み付ける。
「確かにマルフォイを犯行を敢行しました。ですが………それならば何故、数年前、ホグワーツで起きた『殺人未遂の事件』の襲撃犯達を魔法省に引き渡そうとしなかったのですか?」
数年前の殺人未遂の事件―――。
その言葉に、マクゴナガルは顔を強張らせる。
そう………実は前にも、ホグワーツでこのような前代未聞の出来事が起きていたのだ。
それもつい最近で―――8年前、クィディッチ初戦終了後、一部のグリフィンドール生とレイブンクロー生がくだらない理由からタッグを組んで二人の生徒を襲撃し、その内一人は瀕死の重態まで追いやられたことがある。
その被害者はなんとクリミア・メモリアルとアリア・ヴァイオレット―――フィールの義姉と今は卒業した同寮の先輩だ。
当時1年だった二人は一緒に散歩していたところを5年の男女グループに奇襲され、クリミアはアリアが助けを呼んでくる間に一人で応戦、多勢に無勢だった彼女は絶体絶命のピンチのところでニンファドーラ・トンクスとチャーリー・ウィーズリーに助けられ、最終的に持てる総力を結集させて逆転勝利したと言う―――そんなエピソードがあるのだ。
その惨劇は、其時まだ理事会に勤めていたルシウス・マルフォイの策略で日刊予言者新聞に記載され、英国魔法界に大きな反響を呼び起こした。
本来であれば然るべき判断として襲撃犯達に退学処分を下しただろうが、寛容なダンブルドアは被害者二人への今後の接触禁止と大量減点、そして重い罰則で事を締め括った。
優しいクリミアとアリアがフォローしたこともあって憤っていた大人達は渋々身を引いたが、ホグワーツ生はそうもいかず………馬鹿やらかした連中のせいで特に大打撃を受けたグリフィンドール生とレイブンクロー生は寮の名誉をズタボロに傷つけられ、泥を塗られて辱しめを受けたし、暫くハッフルパフからの信頼を完全に失って、元の関係を修復するのにかなりの時間が掛かった。
「8年前、凶行した連中は退学処分にしないでマルフォイは退学処分にする。そんなのは理不尽ではありませんか? それともなんですか? 今回の被害者はグリフィンドール生で加害者はスリザリン生だから、除名しても誰も文句は言わないだろうと思ったんですか?」
まるで見下げ果てた人間を咎めるかのような、軽蔑の眼差しでこちらを見据えるフィールの言葉が鋭い刃のようにマクゴナガルの胸を刺し貫く。
怒りに満ちていた厳格な顔はすっかり血の気が引き………過去に加害者側となったグリフィンドール生を受け持ったことのあるマクゴナガルは何も言い返せなくて、柄にもなく俯いた。
すると、何故ダンブルドアやケイティを殺そうとしたマルフォイの味方をし彼を擁護する発言をするのかと、珍しくフィールに対し腹立たしく感じたハリーが声を上げた。
「―――フィール、なんで君はそんなヤツを庇うんだ!? コイツはあまつさえ二人の人間を殺し掛けたんだぞ!? ハーマイオニーが仲間のために考えたことを下劣なやり方で行って、家族を失う痛みや悲しみをケイティの家族に味合わせようとした! それにコイツの父親は、君の家族さえも奪った最低なヤツだ! その事を忘れた訳じゃないだろう!?」
大声で一気に叫んだハリーは肩で息をする。
無表情でハリーを見たフィールが口を開く前に―――端々に聞き捨てならない言葉が混じっていたのを確かに聞いたマルフォイが「は?」とこの時だけは、魔法省への引き渡しやアズカバン直送などの恐怖を忘れ、薄いグレーの眼を剥いた。
「父上が? ベルンカステルの家族を? お前、何言って―――」
だが、そんな父親の犯した重罪を知らない様子のマルフォイに構わず、ハリーは険しい表情でギッと鋭い視線を向けながら激怒する。
「お前は知らないかもしれないけどな………お前の父親は、フィールの母親に吸魂鬼を派遣するようアンブリッジに依頼したんだよ! それだけじゃない! 神秘部ではベラトリックスと一緒にフィールの叔母さんを殺した! これがお前の父親の本性だ! お前の父親は紛れもない殺人者なんだよ!」
知られざる父親のエピソードを聞かされ、思考が追い付かないマルフォイは頭の中が真っ白になる。
あの父上が? 吸魂鬼派遣を依頼した?
あの尊敬する父上が? 人間を殺した?
「う………嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 父上がそんなことするはずがない! 父上は―――」
が、その事実を認めたくないマルフォイは駄々を捏ねる子供のように喚き、苛ついたハリーがまた何かを言おうとする前に、2本の杖を同時に抜いたフィールが同時に『舌縛り呪文』を無言で放ち、二人の舌を口蓋に貼り付けて発声を封じる。
続け様に杖を振るい、急に喋れなくなって慌てふためく二人を椅子に座らせると、『接着呪文』で椅子とくっ付け行動不能にさせた。
「えっ、ちょっ、フィール!?」
突発的なフィールの行動にハーマイオニーが眼を見開かせ、その隣でロンとクシェルはあんぐりと口を開けてハリーとマルフォイを強制的に黙らせた彼女を見つめる。
「悪いな………このまま放置したら、口喧嘩続けられて収拾がつかなくなりそうだし、話が進まなくなるから一旦黙って貰うぞ。さて、脱線した本題に戻るが―――」
フィールは驚きで眼を見張るマクゴナガルに、こう問い掛けた。
「副校長、さっきマルフォイは
誰に―――。
そこでようやく、マクゴナガルはハッと何かに気付いたように表情を変えた。
そうだ………マルフォイは闇の帝王に、ヴォルデモート卿に命じられて動いていた。
つまりフィールは、早めにマルフォイを助けようと今回わざと計画をメチャクチャにしたのだ。
「ヴォルデモート直々に命令され、現在ホグワーツで任務中のマルフォイをこのタイミングで魔法省に引き渡したら、どんな結果を迎えるか、副校長なら言わなくとも理解出来るでしょう? だからと言って、事態を把握しておきながらただ黙って何もしない訳にもいかない。このまま放っておいたらいずれマルフォイもその母親も殺される。だったらそうなる前に、どちらも助ける必要がある。だから私は、校長にマルフォイ一家保護の協力を仰いだ」
全員の視線がダンブルドアに集中する。
一気に注目の的となったダンブルドアは朗らかに笑いながら、肯定として首肯した。
「うむ。フィールに『マルフォイ家を匿いたい』と頼まれた時からわしはすぐにドラコや母上を匿う準備を整えた。騎士団の護衛は既に万端じゃ。父上は今のところアズカバンに居るので大丈夫じゃろうが、時が来れば彼も我々が保護する」
「だからマルフォイ。心配すんな。お前も、お前の母親もアイツの魔の手から救ってやる」
ダンブルドアとフィールの救いの言葉に、希望の光が見えた気がしたマルフォイは涙を浮かべるが、先程のハリーの言葉が脳裏にちらつき、瞬く間に暗い気持ちになる。
(父上は………本当にベルンカステルの母親と叔母を………奪ったのか………?)
ハリーの叫声が脳内でリピートされる。
信じたくない。信じられない。
フィールとは決して仲が良い訳ではないが、それでも、大好きな父親が誰であれ故意で殺人を犯したなど………信じられるはずがなかった。
そんな気持ちが胸の奥底で渦巻くのは、自分の中で尊敬する父への想いが、嘘は言わない憎きハリー・ポッターの爆弾発言に対する疑惑と、例え真実だったとしても失いたくないと言う愛情が、複雑に入り交じっているのかもしれなかった。
「………今のお前を更に打ちのめすようで悪いけど、ハリーの言葉は本当だ。お前の父親は私の母親を間接的に奪い、そして叔母をベラトリックスと共に殺した。前者に関しては、あの男自らが白状した。これでも信じられないなら『
当事者からの証言に、マルフォイは心臓を鷲掴みにされたような苦痛を覚えた。半信半疑だった衝撃的な話題が真実と現実的に突き付けられ、色んな感情がごちゃ混ぜになったマルフォイは弱々しく項垂れる。
「ま、でも―――」
フィールは、項垂れたマルフォイに近付く。
「―――根が腐っていようが殺人者だろうが、お前にとってはたった一人の父親なんだ。私情に駆られて見殺しにする訳にはいかない。それは母親にも言える。私の家族を身勝手な理由で奪い、人生をメチャクチャにしてきたんだ。ならばお前らの命、私が頂戴する」
それから、『解除呪文』を二人に掛けたフィールは「次騒いだら『失神呪文』撃つからな」と前置きして、膝をつき、俯いたマルフォイの顔を見上げる形で提示する。
「だから、選べ」
「………え?」
「アイツに両親共々殺されるか、私達に両親共々保護して貰うか。ここでのお前の選択が、マルフォイ家の命運を分ける。マルフォイ家は既に二度もアイツの怒りを買っているんだ。そこに今回が計画の失敗が加わったら………アイツの怒りの矛先は、現在マルフォイ邸に唯一居るお前の母親に向けられるのは、火を見るよりも明らかだろ?」
お前が今回の計画を台無しにしたクセに。
と、マルフォイは言おうとしたが、これまた絶妙なタイミングでフィールに遮られる。
「そして私もお前の父親に二度も家族を奪われた身だ。つまりアイツとは方向性こそ違えどこちらもお前らの一族の生殺与奪の権利を握っている。アイツの場合はまず間違いないなく『殺す』だろうが、私の場合は『生かす』だ。目の前で命の危機に脅かされているヤツは、例え誰であろうとみすみす死なせやしない。それが私にとって家族の仇であろうと罪人であろうと………犯した罪は生かして必ず償わせる」
それは、かつて(故意ではなかったとは言え)人を殺したことがあるフィールだからこそ言えた言葉だった。
罪は死んでも消えず、生きて償わなければならない。償った後には再起の機会もある。
ルシウスはもう三度も犯罪を犯してきた。
一度目はヴォルデモート第一次全盛期、闇の陣営についていながら一度闇の帝王が凋落すると、本心ではなかったと言い逃れ。
二度目は世間的には立派な体面を保ちながら陰でアンブリッジに吸魂鬼派遣を依頼して、学生時代の頃の後輩の魂を葬り。
そして三度目は神秘部でベラトリックスと二人でハーマイオニー達を庇った女性を、無惨にも殺害した。
流石にここまで来ると、死刑執行して来世で良い人生を歩めと言いたくなるのは、人間である以上誰もがそう思うだろう。
しかし、フィールはルシウスを生かすことを選んだ。
罪を許さない正義感と罪を憎んでも人までは憎まない理知が、今のフィールにはあった。
「後はお前の選択次第だ、マルフォイ。この事を聞いても尚、家族に対する愛情が変わらないと言うなら、私は全力でアイツからお前らを護ってやる。他の誰が見殺しにしようと、私は見殺しにしない」
ただし、とフィールは、驚愕で見開かせるマルフォイの両眼を強い瞳で真っ直ぐ見ながら、言葉を続けた。
「次にお前の父親が犯行に及んだら、私は今度こそアイツを許さない。言っとくけど私は無償でお前の父親を生かすんじゃないからな。これまで多くの人間の人生を狂わし、何人もの人を殺してきたアイツに命の有り難さをわからせるためにも、私は助けると言ったんだ。そこまでしても命の尊さを蔑ろにするヤツを、私はそれ以上救う気にはなれない。だからこれは、私からのラストチャンスだ。―――お前の中で、信じたいと言う想いがまだあるなら、私はお前の意思に免じて救い上げてやる。お前はどちらを選ぶんだ?」
フィールからの問い掛けに―――マルフォイは涙を流しながら、一つの選択を取った。
♦️
ウィルトシャー州に位置する一等地の豪邸。
隣接するマグル界の土地を併合して領地を広げてきた魔法界でも屈指の資産家・マルフォイ家の先祖代々伝わる家業を継いで拡大することで栄えてきた広大な邸宅の中で、ナルシッサ・マルフォイはヴォルデモート卿に土下座してひたすら哀願していた。
ヴォルデモートが一人息子のドラコに与えた任務が失敗し、完全に瓦解したこと、そしてホグワーツに在るキャビネット棚が破壊されたと言う報告が彼の耳に入ったからだ。
いくら最初から成功させるつもりはなく、ルシウスへの復讐として途中でダンブルドアに殺されることを望んでいたとは言え、まさかこんなにも早く大失態を晒すとは、流石のヴォルデモートでも想定外の出来事であった。
しかも真っ先にバレた相手はあの憎きベルンカステル家の若き当主。彼女が何故『死の呪文』を受けても存命していたかは、スネイプ経由で報知されている。
ヴォルデモートにとっても大敵と認識する彼女に計略が発覚され、彼は任務が失敗したドラコ・マルフォイの母・ナルシッサを怒りの捌け口にしていた。
「お許しください………どうか………」
「ならぬ。無能なお前の夫に続いて今度はお前の息子さえもがとんだ醜態を晒し、俺様の期待に全く応えられなかった。失望した………失望したと披瀝しよう。どうやら俺様は貴様らを過大評価していたようだ」
今や怒りのボルテージがMAXに達したヴォルデモートはとにかく謝り倒すナルシッサの前を歩き回りながら、その憤りを包み隠そうともせず、淡々と冷酷な言葉を口にする。ナルシッサは我が身に代えても愛する息子の命だけは絶対に救いたい一心で、目の前の帝王に詫び続けた。
「どうか………どうか、息子だけはお許しください!」
「黙れ!
何の躊躇いも無く、ヴォルデモートはナルシッサに『磔の呪文』を唱える。奇妙な静寂に覆われていた豪邸に、思わず耳を塞ぎたくなるほどの苦痛の絶叫が響き渡った。ナルシッサは声が枯れるまで悲鳴を上げ………唐突に地獄の時間が終わりを告げると、荒く息をついて床を転がった。ぐったりと横たわり、微かに痙攣するナルシッサの顔をヴォルデモートは踏みつけ、冷たい真紅の眼光で冷たく見下ろす。
「お前はナギニの餌になって貰おう」
ナギニ………ヴォルデモートのペットであり、同時に誰よりも信頼する側近の大蛇だ。
ヴォルデモートが唯一愛情に近い感情を見せる存在で、その信頼度は部下のルシウス・マルフォイやなんとあのベラトリックス・レストレンジでさえも比ではない。
ダンブルドアからは「もしもヴォルデモートが何かを好きになることがあるとするなら、それはナギニじゃろう」「ヴォルデモートはナギニを傍に置きたがっているし、いくら
今は休息として外で散歩させているが、彼が呼び出せばすぐさまやって来る。本来、分霊箱は破壊される危険性を考えれば動物を分霊箱化するのは非常にリスクが高いのだが、それを承知でヴォルデモートはナギニを最後の分霊箱として製作した。
ナルシッサも知っている、巨大な毒蛇の餌食と言う無情な断罪に、彼女の青眼に恐怖が滲む。
だが、そこでヴォルデモートはニヤリと嗤って見せた。
「―――と言いたいところだが、気が変わった。俺様直々に貴様らを始末してやろう。ヴォルデモート卿自ら手を掛けるのだ。有り難く思え」
「我が君………どうか、息子だけは………」
「断る。貴様らは何度も俺様の期待を裏切ってきたのだ。そのような者を生かす理由は最早無い。安心しろ、貴様の後、すぐに息子と夫も追わせてやる。これが俺様からの最期の情けだ」
冷酷非道なヴォルデモートの中に、次々とミスを冒してきたマルフォイ家に対する信頼は最早一ミリたりとも存在しない。
分霊箱の一つであったトム・リドルの日記を、たかが『
神秘部では1年も掛けて血眼になって追い求めていた予言を聞く前に手に入れ損ない、更には部下を数十人喪失した。
そこに今回のドラコ・マルフォイ任務の失敗。
ただでさえ不機嫌だったヴォルデモートは一層不機嫌極まりなくなり、最早誰であれ殺生しなければ気が済まない。
(ドラコ………私のたった一人の息子………)
死期を悟ったナルシッサは涙が溢れ出す。
息子のために死ぬのが嫌な訳ではない。
ただ………願わくば、最後にもう一度だけ、息子の顔を見て死にたかった。
でもそれは叶わない。
自分を殺した後、ヴォルデモートは有言実行で息子を殺しにホグワーツへ赴くだろう。
無力な母親を許してくれと、ナルシッサは、誰でもいいからどうか息子を助けてと切実に願う。
「さらばだ、ナルシッサ・マルフォイ。アバタ・ケ―――」
ヴォルデモートは宿敵ハリー・ポッターと兄弟杖の不死鳥の杖を振り上げ、迅速に傷痕も痛みも無い死を至らしめる『死の呪文』を涙を流すナルシッサに詠唱しようとした、次の瞬間。
「ストップ、ヴォルデモート。悪いけどそいつの命は私が頂くぞ」
それは、まさに一瞬の出来事だった。
何処からか聞こえたあの忌々しい声にハッと刹那身体が硬直した直後、真紅の閃光が上空から飛来してきたのだ。ヴォルデモートはすぐに『姿くらまし』で回避し、『姿現し』で少し離れた先に現れた時には、つい先程立っていた場所の床に閃光が焼失していた。
「お前は………」
閃光が飛んできた方向を見上げたヴォルデモートは信じられないと言う顔で凍り付く。
闇と同化する漆黒の長髪に、薄暗がりの中で鋭い光を放つ獣のような蒼の双眼。
学校指定の黒いローブを翻す黒髪蒼眼の美少女は、マルフォイ邸の高過ぎる天井の付近に配置された窓の窓枠に乗ってこちらを見下ろしていた。
紛れもなく、フィール・ベルンカステルだ。
フィールは高所から臆することなく飛び降り、両足とフリーハンドの左手で衝撃を吸収する。
そしてフィールはゆっくりとした足取りで、ナルシッサの元へ歩み寄った。ヴォルデモートはホグワーツに居たはずの彼女の登場に警戒心を剥き出しにし、下手に手出しはせず、攻撃のタイミングを見計らう。
「ベ………ルンカステ…ル……」
涙でぼやけた視界の中、記憶の中にある一人の女性と面影が重なったナルシッサは思わぬ救世主の姓を呟く。
呼ばれたフィールは片膝をつき、睨み付けてくるヴォルデモートから視線は外さないでナルシッサを抱き抱えた。
「間一髪、ってところか。なんか顔色悪いけど、大丈夫か?」
チラリと、全身から汗が噴き出しているナルシッサの蒼白した顔色を見たフィールは尋ねる。
ナルシッサはそれに答えず、何故此処に居るのかと、じっと彼女の端正な顔を見つめた。
「ベルンカステル………どうやって此処に来たかとは質問せん。お前のことだ。『姿現し』でも使用したのだろう。未成年魔法使いであるにも関わらず完璧に使いこなすとは、やはりお前は敵に回したくない人物だ」
「光栄だな、かの有名なヴォルデモート卿本人に誉め言葉を貰えるとは」
「………単刀直入に訊こう。何をしに来た?」
「見ればわかるだろ? ナルシッサ・マルフォイを連れ出すためだ」
「ほう。それまたどういう風の吹き回しだ? 聞くが、そいつの夫には散々辛酸を嘗めされてきただろう? 何故お前がそいつを護る?」
「ああ、確かにそうだな。ルシウス・マルフォイのせいで、私は散々な目に遭ってきた。全ての元凶たるあの男さえ存在しなければ母親も叔母も失うことはなかったと、今でも思うよ」
「ならば何故、その男の妻たる女をわざわざ助命するのだ?」
「………正直話せば、昔の自分だったらこんなことは絶対にしなかっただろうな。家族の仇の死に際を目の当たりにしても、冷めた眼差しで見捨ててたに違いない。だけどな―――」
フィールはナルシッサを抱える腕に力を込める。
「―――今の私は、目の前で命を脅かされているヤツが居たら、例えそれが誰であろうと、見捨てたりなんかしたくない。犯した罪は生かして必ず償わせる。だからこそ、私は助ける。アイツに自分が犯した罪の重さと命の有り難さを思い知らせてやるためにもだ。勿論、この次に無下に生命を散らす行為をしたら、今度こそ許さないけどな。それを約束に、私はドラコ・マルフォイの選択を汲み取った」
だから、と。
フィールはナルシッサに、
「アンタの息子は既にこっちで匿った。時が来れば夫も保護する。あんなヤツでも、アンタらにとっては大事な家族だからな。それをみすみす死なせるほど、私も外道じゃないんでね」
と、ドラコの無事を告げた。
息子の安全にナルシッサは別の意味でまた涙が溢れる。
しかし、ヴォルデモートはそんなのは認めないと言わんばかりに紅い眼をスッと細めた。
「お前の言い分はよくわかった。だが………ルシウス・マルフォイ及びその妻子の始末は俺様にある。お前にその権利は無い」
「いや、私にもあるね。お前は部下のアイツに二度も不興を買われ、私はアイツに二度も家族を奪われた。ベクトルは違えど、どちらも生殺与奪の権利を握っている。お前の選択肢は『殺す』で、私は『生かす』だ。同意だったらまだしも、相違となれば………二つに一つだ」
そしてその二者択一の選定は―――。
ヴォルデモートが杖を掲げる。
フィールが素早く杖を向ける。
「「
フィールとヴォルデモートが同時に放った『死の呪文』が中間地点で衝突し、弾け飛ぶ。
ナルシッサを抱えている状態のため、その場から動けないフィールにヴォルデモートはまるで空気を吐くかのように呪いを繰り出すが、彼女は銀色の防壁でオールブロックする。
最小限の動きで呪いを的確に防ぐフィールに絶え間無く攻撃を仕掛け、反撃するチャンスを与えないヴォルデモートは必死に考えを巡らせる。
よしんばフィールに『死の呪文』が命中しても彼女を死に至らしめることは出来ない。
何故なら彼女は、分霊箱により近い存在がロケットに宿っているからだ。しかもその存在は常時生死の境界線を彷徨う特性を秘めているが故に、ナギニのように『死の呪文』を含めたあらゆる魔法を無効化する絶対的な魔法耐性を誇る。以前のように『死の呪文』が直撃したとしても、精々仮死状態になるだけだ。それでは息の根を止められない。
が、それとは別に肉体的な死や破滅は別物だ。
要は魔法による手段では不可能と言う訳で、必ずしもフィールを殺せない訳ではない。
「
許されざる呪文の他にヴォルデモートが好んで使用する闇魔術の一種『悪霊の火』。呪われた炎はバジリスクの形を模し、普段より強めに魔力が込められたそれは、フィールが造った白銀の障壁をいとも簡単に破壊する。
「
破壊された直後、間髪入れずにヴォルデモートは『悪霊の火』と同じ闇魔術の一種―――『亡霊の風』を生み出し、これまたバジリスクの姿を構成した意思ある暴風の刃は凄まじい勢いと物凄い速さでフィールに襲い掛かった。
「………ッ!」
咄嗟のことで反応がワンテンポ遅れたフィールは急いで『盾の呪文』を再度展開するが、一瞬の遅れが命取りとなり、ナルシッサはなんとか護れたが、無防備な彼女を優先して身代わりとなったフィールは右上半身と首筋に斬撃を受け、途端にざっくりと斬られた箇所から傷の波紋が浮かび、血が大量に噴出する。
「うっ…………ぐっ………あぁ…………」
直撃前の1秒差でガードしたことで幸いモロに喰らいはしなかったが、それでも闇の帝王が得意とする闇魔術の威力は断然桁違いだった。
激痛に耐えながら、杖を落とすまいと力を込め直す。身体を貫く痛みは、ドクドクと脈打つ度に激しさを増していく。
たったの一回の攻撃。
その一撃は、気をしっかり持たないと意識を保てなくなるほどの痛みがフィールを容赦無く責め続けた。
前に『死の呪文』がごく僅かに皮膚をかすった時と同じあの苦痛がじわじわと甦る。額に冷や汗が勝手に出て、端正な顔が歪んでいった。
眼前で鮮血が噴き出した光景を眼に焼き付けられ、返り血を浴びたナルシッサは息を呑み、口の中が鉄の味で満たされる。身を挺して己を庇護した少女は苦し気な息を吐き出し、だがそれでも鋭い瞳からは光が消え失せない。間近で気迫を感じるナルシッサの脳裏に、少女と瓜二つの女性の顔が浮かび上がる。
かつての後輩の面影が重なり………本当に彼女はクラミーの娘なんだな、と心の中で呟いたナルシッサは、懐に震える手を伸ばす。
「………ッ、はぁ………今の一撃は………結構キツいな………お前もそろそろ………本気を出し始めたか」
共通で人間の弱点である首筋に深傷を負ったためか、喋ることすら辛いフィールは痛みを堪えて声を絞り出す。
「………ナルシッサ、今から私が『インスタント煙幕』って言うヤツを投げたらすぐに『付き添い姿くらまし』するから、準備しておけよ」
インスタント煙幕。
それは、
つまりは、ヴォルデモートが突然の煙幕に驚いた一瞬の隙にとんずらすると言う寸法だ。かなりの大ダメージを負った状態と分霊箱がまだ残っている現状では、どんなにヴォルデモートと戦闘を続行しても手詰まりで終わるしそもそも無意味なので、ここは一旦退くのが妥当と言える。どうせ近い将来第二次魔法戦争が勃発するのだから、今戦わなくても同じことだ。
「本来であれば、今こそ此処でお前を始末したかったけど、お前の分霊箱はまだ全て破壊し切れてない。このままでは私達に勝ち目は無いし、同じくお前らにも勝ち目は無い。それに―――」
血濡れた右手でインスタント煙幕をポケットから取り出したフィールは、
「―――目的は果たされてるようなものだから、今回はさっさと退避するわ」
と、ヴォルデモートに向かって思いっきり投げ付けた。
「なにっ!?」
何かしらの呪文が飛んでくるかと思って身構えていたらまさかの見慣れないアイテムがこちらを目掛けて飛来してきたので、不意を突かれたヴォルデモートは一瞬フリーズしたが、瞬時に気持ちを切り替え、彼はシャッと杖を翳して魔法を発射しようとするが―――
「―――ッ!」
いつの間にか杖を抜いていたナルシッサがフィールの腕の中でヴォルデモートが撃つよりも早く注意を引くための閃光を放射し、中央で衝突した瞬間………彼の周囲にどんな魔法を使っても明かりが点かない特殊な暗闇が作り出され、視界を奪った。
今がチャンスだ。
ナルシッサを抱えたフィールは即座に『付き添い姿くらまし』を発動し、その場から消える。
何も見えなくなったヴォルデモートは闇雲に呪文を連射し―――煙幕の効果が切れて暗闇が払われた時には、二人の姿は何処にも見当たらなかった。
【二刀流ならぬ二杖流】
やっと演出しました二杖流。
念願だった夢が一つ叶った。
【キャビネット棚】
万が一呪文が外れて壊さないようにするためにも横っ飛びで床を転がったフィールは低姿勢でマルフォイをKO。
【ラストチャンス】
マルフォイ一家保護の後にルシウス犯行したら今度こそフィールは助けません。
フリーザみたいに恩を仇で返すなんて馬鹿な真似したら、それがルシウスの最期になるでしょう。
【真打ち登場】
窓枠に乗って颯爽と登場。これロマン。
【死の呪文VS死の呪文】
最早フィールとヴォルさんからすると挨拶代わりの開戦一番。
【シュトゥルム・デザストル(天災の颶風)】※7/2、修正
悪霊の火の風バージョン『亡霊の風』。
悪霊の火と同じくこの呪文をモロに喰らったら一生癒えません。
【シュヴェンメン・カタストロフ(殃禍の氾濫)】※7/2、修正
悪霊の火の水バージョン『怨霊の水』。
今回は未登場だがいつか演出させたい。
【闇魔術の追加】
久々に登場したオリ魔法ですが、元々この世界にある設定。
正直、原作中の許されざる呪文以外で高威力の闇魔術と言えば『悪霊の火』しか思い付かない上にぶっちゃけるとそれしかない。闇魔法で火があるなら風や水があってもおかしくないので、捏造で創作。
【まとめ】
今回はフォイママレスキューの回でした。
ナルシッサは無傷ですが、フィールは重傷。上記の通り悪霊の火の風バージョンの闇魔術を受けたので、右上半身と首筋の傷痕は一生治りません。顔じゃなかっただけ、まだマシでしょう。
と言うか、普通首やられたら人間終わるような………流石はオリ主、驚異的な生命力を誇ってます。ま、フィールは死の呪文かすってもピンピンしてるので、不思議じゃないのかもしれません。