【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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#99.ピンチヒッター再び

 ホグズミードのハイストリート通りの真ん中。

 そこにフィールとナルシッサは現れた。

 何も考えず、固く眼を閉じて地面に横たわっていたナルシッサだったが、ドサッと何かが倒れる音がすぐ側で聞こえた為、恐る恐る眼を開ける。

 隣で、血まみれの少女が眼を閉じてぐったりと倒れているのが視界に飛び込んできた。

 思わずその痛々しい姿にナルシッサはハッと起き上がり、手に握っていた杖を投げ捨て、彼女の脇に飛び、両膝をついて仰向けにさせる。

 鮮血で濡れたフィールの色白の顔に触れたり、血染めした白シャツの中に手を入れて心拍を探ったりした。

 

「……………んっ………くっ…………」

 

 ナルシッサの長い金髪がふさふさと頬を擽り、フィールは微かに身動ぎした。胸を打つ生命の鼓動を感じ取ったのと、ひとまずは反応を示してくれて、普段よりもずっと顔面蒼白していたナルシッサはホッと胸を撫で下ろす。

 

「ベルンカステル………貴女は何故、私を助けてくれたのですか? 私だけじゃない。貴女は息子のドラコも匿ってくれた。………私達とは敵対関係であるのに、どうして………?」

 

 投げ捨てた杖を急いで取り、ボロボロのローブをゆっくりと脱がして制服を緩ませると、服が破れた箇所の傷口から今でも多量の血液が体外に流血する右上半身と首筋に杖先を当てて止血しながら、ナルシッサは問う。

 苦悶の表情を浮かべ、うっすらと眼を開けたフィールは辛そうに息を荒げながらも、腹の底から声を振り絞る。

 

「言っただろ………目の前で命の危機に脅かされているヤツが居たら………例え………誰であろうとみすみす死なせやしないって………」

 

 その声は掠れていて聞き取りづらいし、言葉も途切れ途切れだったけれど、フィールは確かにそう言った。

 とは言え、自分と彼女は事実上敵同士だ。

 ナルシッサは腑に落ちない顔で母親譲りの端正な顔を苦痛に歪めるフィールをじっと見つめる。

 夫と違って死喰い人ではないが、それを差し引いてでも限り無く敵対者に近い。

 なのに、彼女は自分や息子を救出してくれた。

 それどころか、自分を庇護して代わりに傷を負った。

 益々フィールの思考がわからなくなり、真意を見極めるようにナルシッサは凝視する。

 

「とにかく………まずは応援を呼ぶ………」

 

 フィールは全身を駆け抜ける激痛を堪え、アカシアの杖を掲げる。

 

「エクスペクト………パトローナム………」

 

 掲げた杖先から白銀の狼が飛び出してきた。

 クンクンと心配そうに鼻先を頬に擦り付ける有体守護霊にフィールは拙くも伝言を託すと、月のように眩い輝きを放つ銀色の巨大な狼は、ホグワーツ城を目指して疾駆した。

 それを見届けたナルシッサはブルーの瞳に驚愕の色が滲む。『守護霊の呪文』は魔法族の間で最も有名で強力な防衛術最難関の一つで、実体化までは行かなくとも霞みたいな盾を生み出せただけで一人前の魔法使いと認められる、高位呪文の象徴だ。

 プロですら体得困難と言われるハイレベルの魔法を学生が成功させたのだから、驚くのも無理は無い。とは言うものの、フィール以外にも有体守護霊を呼び出せる生徒はホグワーツに多々居るので、最近はその一般論が薄れてきているのだが。

 

「これで………大丈夫だ………後は………此処で待機していれば………直に救援が来る」

 

 直後、右手がだらりと垂れて杖が滑り落ち、フッと重い瞼を下ろしたフィールは舌を強く噛み、朦朧とする意識を辛うじて繋ぎ止める。

 体力回復に専念しながらも安全地帯に辿り着くまでは意識を手放さないよう奮闘するフィールを暫し注視していたナルシッサは、守護霊の伝言を聞き付けて誰かしらの救援が来るまでの間、彼女の顔から残りの血を拭い、自身もつい先程浴びた返り血を払拭するなど、今の自分にやれることをして時間を潰す。

 止血はしても激痛は未だ残存しているのか、フィールは険しい顔付きで呻いている。ナルシッサは『治癒呪文』を幾重にも掛けて、少しでも痛みを和らげようと癒術に力を注ぎながら、ふと自問する。

 フィールを助けようと思うのは、恩義を感じているからなのか。それとも、母性本能が働いたからなのか。あるいはその両方か。

 

 ………恐らく、両方だろう。

 ヴォルデモートが息子の死を計画するまで、ナルシッサは夫と同じ思想に傾倒していた。しかし今は、ヴォルデモートに対する忠誠心はこれっぽっちも無い。息子の命の方がヴォルデモートの命令よりも大切だったナルシッサにとって、ドラコを匿うだけでなく自身も助命してくれたフィールはまさに恩人だった。

 それにフィールは、ドラコと同い年の女の子。

 愛する我が子と同年代の子供が傷付いているのを見て、放ってはおけない。やはりそこは、たった一人の息子を持つ母親としての母性心があるからか。残虐心の塊と言っても過言ではない姉のベラトリックスには一切無い感情を持つナルシッサは、ひたすら応急処置を施す。

 と―――おかげで少し楽になってきたフィールが薄目を開け、ポツリと呟く。

 

「………アンタ、本当にあのベラトリックスの妹か………?」

「正真正銘、ベラの妹よ」

「………今はそう見えないけどな………」

「憎まれ口が叩けるなら、そんなに心配する必要は無いかしら?」

 

 そう言いながらも、ナルシッサは措置の手を休めない。額や首筋に冷や汗を浮かべ、喘ぐフィールを抱き抱えると、そっと膝の上に寝かせた。上体を軽く起こした半座位になり、仰臥位の時よりも呼吸が楽になる。

 

「………ッ、はぁ………」

 

 重力に従って肩から垂れ下がる長いブロンドの髪が再び頬を擽り、そしてどういう訳かナルシッサがあやすように優しく頭を撫でてきて、戸惑うフィールは身を捩る。が、ナルシッサがギュッと腕を回してきて、逃げる隙間を与えない。フィールはジト眼でナルシッサを見上げる。

 

「………いきなり何するんだ」

「黙ってこのままでいなさい。今だけは、我が子だと思って抱いてるんだから」

「いや、だからって急に―――」

「『守護霊の呪文』使って疲れてるでしょ? その前にも大怪我を負ってるんだから、疲労度は相当のはずよ。いいから、大人しく休んでなさい。全く持って憎たらしいけど、貴女の方が私より実力あるのだから、何かあったら貴女になんとかして貰わないと、私が困るのよ」

 

 とか言っておきながら、ナルシッサは杖を片手に注意深く周囲を警戒している。己の身の安全が第一優先的な発言とは裏腹に、いざとなれば無防備なフィールを護る気で身構えているのだから、ナルシッサはナルシッサでその謎な言動に疑問を覚えずにはいられない。

 しかも体温が低下しないよう、自身の身体が冷えるのも厭わず、毛布代わりに如何にも高級そうなローブを脱いで掛けてくるのだから、尚更真意が掴めない。今しがたまでナルシッサが羽織っていたブランド品のそれから漂う香水の香りとほのかに感じるぬくもりに、

 

「やっぱりアンタ、意味不明な人だわ………」

 

 と毒づきつつも、心地よさに少しだけ安らいだ表情を見せたフィールは抵抗せず、ナルシッサに気だるい身体を預ける。

 

「………なんか、わかった気がする」

「え?」

「………アンタの息子がアンタ達を想う気持ち、今ならなんとなく理解出来た」

 

 髪を撫でるナルシッサの手を取り、フィールは今日初めて彼女に対し目元を和らげる。

 

「アンタの手、冷たそうに見えて温かい………こうして人に抱かれると落ち着く………」

 

 自らの頬にナルシッサの手を添えたフィールは幼い頃と同じ………母親に抱かれた時の懐かしい気持ちになって柔らかく微笑む。

 

「………私にとって、アンタの夫は母親と叔母の仇であり全ての元凶。あの男のせいで私は家族を失った。本来であれば復讐心と憎しみに身も心も委ねて殺していただろうけど………アンタや、アンタの息子を見ていたら殺せない。勿論、私や多くの人間の大切な物を沢山奪っといてのうのうと生きているのは実に腹立たしい限りだけど………アンタ達にとってもあの男にとっても、それぞれがかけがえのない存在だから、私は見捨てることが出来ない。真実を知った後でも自分の傍から離れない人達のぬくもりを知っているから………同じ立場に立っている人間として、私は見殺しになんて出来ない」

 

 閉じた瞼の裏側に、クシェルやハリー達の顔が浮かび上がる。叔母を殺害した殺人者だと知っても尚、自分の傍から離れないと約束してくれた、友人達の顔が。

 

「全く………こんなことするなんて柄でもないのに、アイツらの影響を受けたせいで、私は変わったのかもな。向こう見ずで無鉄砲のクセに、全てを擲ってでも護ろうとするアイツらと出会わなかったら、私は………」

「ベルンカステル」

 

 最後まで言い切ってないのにあからさまに遮られ、フィールは「なんだ?」と眼を開ける。

 

「………私は死喰い人ではなかったけれど、ベラやルシウスと同様に『闇の帝王』の思想に賛同していた。でも………夫への見せしめとして息子に危険な任務を背負わせた時、私は『闇の帝王』が今後どうなろうが、息子が無事ならそんなもの知ったことではないと思ったわ。………今回、ドラコの計画を露見した張本人は確か貴女だったわよね? もしかして最初からドラコを助けるつもりでわざとやったの?」

「………まあな。薄々感付いてはいたけど、最初は下手に介入しないで、まずは静観して徐々に詳細を掴む予定だった。でも先日、危うく死者が出そうになって………これはもう、早く手を打たないと手遅れになると思って、それで」

「そう………なら、とりあえず言っておくわ」

 

 何を? と顔に疑問符を浮かべたフィールに、ナルシッサは淡く笑む。

 

「―――息子のドラコを助けてくれて、本当にありがとう。貴女には心から感謝してるわ」

 

 自分の命が救われたことよりも我が子の命を救ってくれたことへ対し礼を言ってきたナルシッサに、軽く眼を見張ったフィールは微笑み返す。

 

「それなら、私からもアンタに一つ言わせて貰うわ。―――救命処置してくれて助かった。感謝する」

 

 その時、城がある方向から複数の人影がこちらに疾走してくるのが遠目に見え―――互いに敵意を取り払った二人は、ようやく緊張の糸が切れてホッと安堵の息を吐いた。

 

♦️

 

 校長室で待機していたダンブルドア達はフィールからの守護霊の伝言で無事にナルシッサ・マルフォイを連れ出したと言う連絡を受けると、すぐにホグズミードのハイストリート通りに急行。

 辿り着いてみると、何やらフィールがヴォルデモートの攻撃を受けて深傷を負ったらしく、脱がされていた学校指定の黒ローブはボロボロで血が付着していたので、救援隊は急いで医務室まで搬送した。

 幸い、致命的になる前にナルシッサが止血したおかげで命に別状はないとのことだが、深い闇魔術によって刻まれた右上半身と首筋の傷痕は一生治らないと、マダム・ポンフリーに診断された。

 マダム・ポンフリーとマルフォイ邸に行ったフィールが心配でハリー達と共に起きていたクシェルは二人掛かりで力を尽くしたが、結局は消せなかった。

 

「全く、フィーは………どうしていつも、そんな無茶するの………」

 

 窓に打ち寄せる湖の波の音が静かに鳴り響くスリザリン寮の女子寝室で、クシェルは緑色の絹の掛け布がついたベッドの足元に座り込むフィールのカーディガンとワイシャツをゆっくりと脱がしながら、深くため息をつく。

 身を挺してナルシッサを庇った際、フィールはヴォルデモートが使用した『亡霊の風』を生身に受けた。案の定その酷い傷痕は、フィールの白い肌に生々しく残っている。

 直撃しなかった分だけまだマシだが、もしもまともに喰らっていたら、果たしてこれだけで済んだかどうかはわからない。ギリギリ顔じゃなかったのが不幸中の幸いだろう。

 クシェルは水を含ませた清潔な布で見るからに痛々しい負傷箇所を拭き、薬を塗ってガーゼを当てて包帯を巻いてと、手際よく手当てする。止血されてるし傷口は塞がれているが、傷は深いし範囲も広いので、念のため一晩は薬を塗っておこうと言うことだ。

 最初はマダム・ポンフリーがやる予定だったのだが、クシェル自身が寝る前にやっておくと言って断った。クシェルの治療系魔法の技量の高さは厳しいマダム・ポンフリーも臨時助手に抜擢するくらいプロ顔負けの腕前を認めているので、彼女なら大丈夫だろうとクシェルに任せたのである。

 

「もうその話はいいだろ………なんとかナルシッサは救済出来たんだから………」

 

 あの後、ナルシッサは息子のドラコと対面し、親子揃って涙を流した。ドラコは有言実行で母親を助命してくれたフィールに対し、「母上を助けてくれてありがとう」とホグワーツ入学以来、初めて自主的に感謝の気持ちを態度で示したので、ハリー達をアッと驚かせた。

 保護の代償として生涯癒えない傷を負ったフィールは生き別れた家族との奇跡の再会を喜ぶようなマルフォイ母子の光景に、それだけの払う価値があったと、身体に刻まれた痕のことは然程気にしてない。

 

「あのねえ………まあいいや。ところでフィー、騎士団の活動はどうするの?」

 

 フィールは、マルフォイ母子を保護したら騎士団を継続するか否かを真剣に考えるとダンブルドアに言った。その事はクシェルも知っている。クシェルの問いにフィールは「………まだ考え中」と答えた。

 

「そう。私としては、早く離脱すればいいのにって思うけど………決定権はフィーにあるから、私個人の意見は押し付けない。でもさフィー。どちらにしても悔いが残るような選択はしないでね」

 

 コツン、と自分の額をフィールのそれに重ね、クシェルの息遣いを間近で感じるフィールは「わかってる」と頷き、クシェルの翠瞳を見つめる。

 

「………騎士団を継続しても離脱しても、結局のところ、決着がつけられるまで戦いは続く。それは変わらない。でも私は―――最後まで貴女達を護ると自分の心に、魂に誓った。騎士団の任務とかガーディアンとかそういうもの関係無しに、私自身の気持ちで貴女達を護り抜くと誓った。それは紛れもなく本心であり、誰かに指令されてる訳でも洗脳されてる訳でも無い。その事はわかってくれ」

「………………うん」

「それに私は………吸魂鬼に成り果てたお姉ちゃんを救い出すまで、自ら選んだ運命から逃れたくない。お姉ちゃんが助けを求めていたら、どんなことをしてでも助けるって………そう、お姉ちゃんと昔約束したんだ」

 

 左手をクシェルの右頬に当てて、フィールは蒼眼を細める。

 

「これからが正念場だ、クシェル。人生の踏ん張りどころから逃げたら、何も越えられないし変えられない。例えどんなに辛くて苦しいことだってわかっていても………挑まなければ、得られない物だってあるんだ。その頑張って乗り越えるべき困難な場面は、今まさに目の前に立ちはだかっていると思わないか?」

 

 真っ直ぐ見据えるフィールの真剣な蒼い瞳に。

 クシェルは左手の甲に己の掌をそっと重ねた。

 

 

 

「そうだね………もう、安全な場所なんて何処にも存在しない。窮地に立たされている私達に、選択の余地は無いんだよね」

 

 

 

♦️

 

 

 

 マルフォイ母子を保護してから数週間が経過。

 今シーズン最初のグリフィンドールVSスリザリンのクィディッチ初戦が開幕する当日は、例年通り前哨戦だった。スリザリン生はグリフィンドールのチームを、グリフィンドール生はスリザリンのチームの選手が入ってくる度、一人一人に野次とブーイングを浴びせる。

 最早見慣れた光景とは言え、皆はよく飽きないものだなと、フィールは軽く肩を竦めた。

 彼女は今、胸部分に銀色の分厚いボーダーラインが1本両腕から背中まで通っている緑を基調としたセーターを着用している。膝の上には緑色のローブが置かれていた。

 今年フィールは、またもやスリザリンのクィディッチチームのピンチヒッターを頼まれた。一昨年は三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)が開催される関係で中止、去年はグリフィンドールのチームのみに惨敗と言う、3年前優勝を奪還した寮として何とも悲惨な結果で終わった。

 そこで新しくスリザリンのクィディッチチームのキャプテンになったウルクハートは、最強切り札をもう一度引くべきだと、猛烈にスカウトしたマーカス・フリントの時みたいにフィールに懇願し………結果、フィールはOKしたのである。ちなみにドラコは観客席で他のスリザリン生と共に観戦するとのことだ。

 フィールはチラリと天井を見上げ、晴れた青空で幸先がいいなと、両手で頬をパチンと叩いて気合いを入れ、朝食を口にした。

 

 数分後、力をつけたフィールは左胸にスリザリンのシンボル・蛇のエンブレムが輝いているローブを羽織り、箒置き場でファイアボルトを手にコートに向かった。

 コートには既に選手達が揃っていて、ビーターのクラッブとゴイルはしかめっ面になるが、フィールは涼しい顔で無視する。

 試合開始5分前、選手達は歓声とブーイングが沸き上がるクィディッチ競技場に入場した。スタンドの片側は銀と緑、反対側は一面紅と金で、ハッフルパフとレイブンクローの多くはグリフィンドールを応援する。

 キャプテンのハリーとウルクハートはボールを木箱から放す準備をして待っているレフェリーのマダム・フーチの所へ進む。

 ハリーとウルクハートが握手し、全選手が箒に乗るのを確認したマダム・フーチはホイッスルを吹き、ゲームスタートのシグナルが鳴り響くと、凍った地面を強く蹴って飛翔した。

 シーカー以外の選手が乱戦を繰り広げる中、ハリーとフィールは3年前の時と同じく空中で向き合う。

 真紅と黄金の、フィールが着ているのとは色違いではあるが、デザインは全く同じのセーターをハリーは着込み、左胸にグリフィンドールのシンボル・ライオンのエンブレムを輝かせた紅いローブを靡かせる。

 

「こうしてまた君と同じフィールドで戦えるようになって嬉しいよ。でも、次は負けない。今度こそ君に勝ってみせる」

 

 ハリーは凛々しい顔付きで宣戦布告した。

 以前にも増してクィディッチの腕が磨き上げられているのを目撃しているフィールは、

 

「なら、私もそれ相応に対抗するぞ」

 

 と言った直後―――突発的にウロンゴング・シミー(チェイサーを振り切るために高速でジグザグに飛ぶ技)を繰り出した。

 本来はチェイサーから逃げ出すための技だが、使い道次第では別途でも役立つ。

 ハリーは慌ててフィールの後についていった。

 自分より鋭い反射神経を持つ彼女を野放しにして先にスニッチを発見されたら、勝ち目は皆無に等しいので、彼女の周囲を飛んで牽制するのが前以て練っていた作戦だ。しかし、急速な方向転換の繰り返しは想定外だったので、ハリーはついていくのが精一杯だった。試合出場の経験で言えばフィールよりあるが、彼女にはそれを補う驚異的な身体能力がある。

 プロに比べたら断然未熟者でも、他の生徒に比べたら熟練者のハリーは歯を食い縛ってフィールを追い掛け回した。

 

(やっぱり、そう来たか………)

 

 肩越しにハリーを振り返りながら、フィールは豪速球で飛んで来るブラッジャーを避ける。相手側の新人ビーター―――リッチー・クートとジミー・ピークスは、集中的にシーカーの自分を狙い打ちしていた。

 大方、シーカーを真っ先に無力化させた方が勝機がグッとアップすると言う魂胆だろう。中々にさっきから狙われているが、その分こちら側も狙いがつけやすいのか、クラッブとゴイルも負けず劣らず打ち返している。ある意味、自分が囮になっている訳か。

 フィールは注意深く戦況を確認する。

 我らがチームの得点王・ベイジーは他のチェイサーと共に奮闘しているが、その全てをグリフィンドールのキーパー・ロンにセーブされてイライラしているが眼に見えた。

 実は彼、昨日の練習中に頭にブラッジャーを喰らったのだが、見学に来ていたクシェルが急いで応急処置を施し医務室に搬送したことで、今日こうしてプレー出来ている。クシェルには感謝だ。

 

 ゲーム開始から30分が経ち、グリフィンドールは60対0でリードしていた。試合開始前は自信喪失して顔面蒼白だったロンは思わず眼を見張るような守りを何度も見せ、何回かはグローブのほんの先端で守ったことさえある。そしてチェイサーのジニーはグリフィンドールの6回のシュート中、4回もシュートを決めた。

 ウィーズリー兄妹の活躍で今やグリフィンドールは破竹の勢いで、続け様に得点し、競技場の反対側でロンが続け様にいとも簡単にゴールをセーブ、特に見事なセーブを決めた時は観衆がお気に入りの応援歌『ウィーズリーは我が王者』のコーラスで迎え、ロンは高い所から指揮する真似をした。

 

(マズいな………このままじゃ、例えスニッチを掴んだとしても得点負けする。試合には勝って勝負には負けるのはゴメンだな)

 

 相変わらず飛来してくるブラッジャーを躱しながらフィールは頭を回転させる。とは言え、シーカーはスニッチを掴まえることが専門なので、それ以外の行為は反則だ。となると、自分に出来ることは相手シーカーを無力化させること。シーカーにそれが可能な方法は、実は一つだけある。

 

(仕方ない、本当はあまり使いたくなかったけど―――)

 

 ここで躊躇していたら、勝てる可能性を自ら潰すことになる。最早一刻の猶予は無い。

 目的を果たすためならば、手段を選ばない。

 それこそがスリザリンの理念だと、皆からよく「スリザリンよりグリフィンドールが相応しい」と言われるフィールは、覚悟を決めた。

 フッと小さく息をつき、後ろに振り向く。

 ハリーは慌ててブレーキを掛け、急停止したフィールを警戒する面持ちで見つめる。

 

「しつこくついてくるなハリー。そんな執拗に追い掛けてくるなんて、ストーカーと大して変わんないな」

「僕より実力ある君を少しでも抑止しなきゃ、グリフィンドールは勝てない。なら、僕達にとって有利になる状況を作るのは当然だろう?」

「だからビーター含めて私を牽制、か。ま、でも―――」

 

 フィールはハリーの背後を見やって微かに口角を上げ、

 

「―――この勝負は、私が逆転勝利に導く」

 

 そして物凄い速さでハリーの脇を通り過ぎ、急降下した。突然突進してきたと思いきやいきなり降下したので、驚いたハリーは急いでターンし、ファイアボルトの特性を生かして最高速度にまで上げ、フィールの後を追う。

 途端、観客席に居たギャラリーはスニッチを見付けたと思って盛り上がった。二人のシーカーはとんでもない速さで地面へ落ちていく。

 ハリーの前でマックススピードで降下していくフィールは手を伸ばし、スニッチを掴まえる()()をする。ハリーは恐怖を抑え込み、懸命に追い縋った。

 

 だが、それが完全に命取りとなった。

 

 前方でハリーの視界を塞いでいたフィールが、地面ギリギリで機首を立て直し、上空に急上昇したのだ。

 当然最高速度で飛んでいたハリーは咄嗟のことに対応出来ず………そのまま地面に思いっきり突っ込んだ。

 ―――ウロンスキー・フェイント。

 スニッチを見付けたフリをして地面に急降下し、激突寸前で上昇する、敵のシーカーに後を追わせておいて地面に衝突させるれっきとした公式戦術だ。

 盛り上がっていた観客席は瞬く間に凍り付いたが、それも束の間。スリザリンのスタンドからは狂ったように歓声が上がった。対し、グリフィンドールを初めとする3寮は愕然としている。グリフィンドールのチームは地面に踞るハリーの元へ群がって行き、その隙に邪魔者が居なくなったスリザリンのチームは嬉々としてバンバン点を稼いでいく。

 一か八かの賭けが成功し、鮮やかなウロンスキー・フェイントを決めたフィールはウルクハートにバシバシ背中を叩かれた。

 

「よくやったぞ、ベルンカステル! お前がピンチヒッターになってくれて、本当に良かったと改めて思ったぞ!」

 

 フィールは軽く頷くと、グリフィンドールの勝利を願っていた生徒達からの罵声や怒号を華麗にスルーして、スニッチを捜索し………割りとあっさり見付けて素早くキャッチすると、危機的状況で逆転勝利したスリザリンのクィディッチチームや生徒達は大爆発した。

 スリザリンが歓喜に満ち溢れている中、3寮は憎々しい眼差しを送ってくる。フィールは無表情で負け惜しみを言ってくる彼等を見ると、ハッと鼻で笑った。これは公式戦術なのだから、恨まれる筋合いなど更々無い。あまりにも往生際が悪すぎて呆れを越して嗤ってしまう。

 いつまで経っても脳内お花畑だなと心の中でため息をついたフィールはローブを翻し、緑と銀の集団の元へ歩み寄ると、満面の笑顔で抱きついてきたクシェルを抱き締め返した。




【ナルシッサ】
恩義と母性本能からフィールを応急処置。
思惑はどうであれ、7章で結果的にハリーを救ったナルシッサ唯一の美点と言えば『家族愛』と言っても過言ではないので、そこから来る母性はここでも発揮された。

【言動真逆】
自己保身的な発言しといて行動はバリバリフィールをガードする気満々。これがベラさん辺りだったら恩を仇に返されてたに違いない。そもそも助命しないと思われるが。

【ピンチヒッター再び】
ピンチヒッターにさせるべきか否か悩んだが、初戦はピンチヒッターとして参戦を決定。今後参戦させるかどうかは検討中。

【マルフォイ→ドラコ】
ルシウス、ナルシッサとマルフォイ夫妻は下の名前で表記しているのにドラコを『マルフォイ』と表記してたらちょっとややこしいので、この#から『ドラコ』に切り替えます。

【ウロンゴング・シミー&ウロンスキー・フェイント】
どちらも公式のクィディッチ戦術。
他にもまだあったけど主にチェイサーやビーターの技なので、シーカーポジションのフィールが使ったのはこの2つ。
クィディッチ戦術は割りとあるのに原作では全然使われないから使ってみた。

【目的を果たすためならば手段を選ばない】
時にはスリザリンらしい一面を見せるのが我が家のオリ主。常に見せていたら面白味がない。

【試合の結果】
スリザリンの勝利。

【負け惜しみ精神凄い3寮】
反則した訳ではないのに罵声や怒号飛ばす3寮の負け惜しみ精神にはフィールも嗤う。これぞスリザリンの女王と言えるでしょう。

【まとめ】
今回はナルシッサちょっといいヤツだった回とスリザリン勝利の回。
実際ナルシッサが措置しなかったらフィールは大量出血でdeadになってたので、作中のナルシッサはオリ主も救ってくれました。
そして原作と違って初戦はスリザリンが勝利。地面にズドンしたハリーは経験値がアップした。その代償がウロンスキー・フェイントの実験台。
身を以て経験してこそ心身は鍛えられる。
作中のキャラ達は皆そうしてレベルアップしていきます。
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