【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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★祝! #100達成(*´ω`*)!


#100.祝勝会

 ピンチヒッターとして再び参戦を許したシーカーのフィールが鮮やかなウロンスキー・フェイントを決めてスリザリンを逆転勝利に導いたその日の夜、談話室では祝勝会が開かれた。

 何処の寮でもクィディッチ対抗戦後の夜は勝敗に関係無く、伝統的にささやかなパーティーを開催するのだが、やはり勝利を勝ち取った祝賀会の方が断然盛り上がる。

 遥か下方にスニッチを捉えたフリをして、敵のシーカーに真似をさせた上で地上に向かって急降下、競技場の地面にヒットする寸前に上昇に転じる。

 地上に激突するよう仕向ける作戦のウロンスキー・フェイントは敵シーカーを引っ掻ける危険技で、誰でも使いこなせるものではない。

 下手すれば自分自身も地面に衝突する、謂わば『諸刃の剣』のこの戦術は熟練のシーカーだからこそ繰り出せる。

 かつて2年前英国で開催されたクィディッチ・ワールドカップ決勝戦でブルガリアチームの天才シーカー、ビクトール・クラムがアイルランドチームのシーカー、エイダン・リンチに仕掛けたのもそのウロンスキー・フェイントで、スリザリン生の群集はプロが使用するテクニックをあのハリー・ポッター相手に見事披露してくれたフィールに称賛の言葉を述べた。

 談話室の一角でお菓子を食べるクシェルとグリーングラス姉妹は、試合の様子を逐一聞きたがる1年生や質問攻めしてくる上級生、大勢の男の子達に囲まれるフィールが少々ぎこちない笑顔で、クィディッチメンバーに挟まれながら健闘を讃えられているのを眺めていた。

 

「最高にクールだったぜ、ベルンカステル」

「またウロンスキー・フェイント見せてくれよ」

「流石は我らがスリザリンの女王様だ」

 

 などなど、上機嫌な様子の男子達の笑顔に比例して、フィールの顔がどんどん強張っていくのが遠目にもわかる。

 

(フィー、せっかく皆と仲良くなれる機会なんだから、頑張って~っ!)

(どうしてこういう時だけ、あの娘の反応ってわかりやすいのかしら?)

 

 クシェルは内心ハラハラしつつ祈り、ダフネは内心首を傾げていると、

 

「フィールさん、本当にカッコよかったよね」

 

 と、ダフネの妹・アステリアがちょっと自慢げな顔で誇らしげに言った。

 

「ええ、そうね。確かあの技、ハイレベルなテクニックなんでしょう? そんな高等技術を身に付けてるなんて、やっぱりあの娘、ただ者ではないわね」

「ウロンスキー・フェイントは身体鍛えてないと最悪の場合骨折するほど危険なシーカーの奥義だからね。間一髪ダイブからサーフェスしたフィーも全神経集中させて顔歪ませてたし」

「貴女、よく肉眼で見えたわね」

「違うよ? 肉眼じゃないよ?」

 

 クシェルは、つまみダイヤルが多数ついた真鍮製の双眼鏡をダフネに見せた。

 名を『万眼鏡(オムニオキュラー)』と言い、動画を自由に巻き戻し・スロー再生、ズーム、1コマずつの静止が出来る機能を持った魔法具だ。

 

「ああ、万眼鏡ね。それなら納得だわ。で、話は戻すけど………フィールって華奢な外見とは裏腹に意外と筋肉質な肉体よね。あんなにも身体を鍛えてるってことは、将来の夢はクィディッチプロかしら?」

「ううん、闇祓いだって前言ってたよ」

「そうなの? まあ、実技理論の両面において優秀なフィールならなれるでしょうけど………なんだか勿体無いわね。闇祓いと言えば堅苦しいイメージで、如何にも激務に追われてます感がビシバシ伝わってくるし。それに、凶悪な犯罪者を相手に戦う訳だから殉職率も高いし、後遺症の残る重傷を負う人も数多くいるから、私だったらクィディッチプロの方が比較的安定した条件で高収入を得られそうだと思うわ。試合中での大怪我なら、まだなんとか完治可能な範囲だし」

 

 ダフネの言葉に、クシェルは翠瞳を伏せる。

 実のところ、クシェルもダフネと同じで理由こそ異なるが、闇祓いよりもクィディッチプロなどもっと別の仕事に就けばいいのにと思っていた。

 

(………アラスター・ムーディ………)

 

 脳裏に浮かぶ、片方は義眼の傷だらけの顔。

 最強と呼ばれ、アズカバンの半分を埋めたとも言われる元・闇祓いの魔法使い。

 あの男は、神秘部で一度フィールを殺した。

 結果的に、その行為がフィールを魂の境界線へ誘うトリガーとなったのだが………。

 クシェルはどうしても、ムーディのことは許せそうになかった。否、ムーディだけじゃない。ダンブルドアは勿論のこと、騎士団そのものが敵にしか見えなかった。

 新学期当日の夜。

 夏季休暇中、心身共にバテ、ストレスが蓄積して窶れたフィールに、ダンブルドアを初めとする不死鳥の騎士団に憎しみを抱いていたクシェルは感情の赴くままに自分の意見を一方的に押し付けてしまった。それが原因なのか、ダンブルドアはフィールに特権を与えたり、騎士団の休止や離脱を許可した。

 自分の言動を振り返って頭を冷やした今は、フィール本人の意思を尊重しようと強要はしないで黙って見守ることを心掛けている。

 だが、彼等を許そうと言う感情は沸かない。

 フィールは許しても、自分は許せなかった。

 忌まわしい連中の顔が脳内で垣間見え、クシェルはむっつりとした顔でグラスに口をつける。

 

「ところでクシェル。もしフィールが男の子だったら、貴女はあの娘を『友達』としてじゃなく、『異性』として好きだったのかしら?」

「―――ごふっ!?」

 

 いきなりそんな話を振られ、クシェルは思わず飲んでいたジュースを吹き出しそうになって噎せてしまい、激しく咳き込む。

 

「ダフネ、なんでそんなこと訊いてくるの!?」

「え? だって貴女、フィールのこと大好きでしょう? あ、勿論、友達としてよ」

「た、確かにそうだけど………逆にフィーが男の子だったら、関わる機会なんて然う然う無かったと思うけど………」

「そうかしら? 私の予想としては、案外、貴女はあの娘にグイグイアプローチしてたと思われるわ。残念ね。どっちかが異性だったら、今頃はラブラブなカップルになってて、毎日イチャイチャしてたかもしれないのに」

「い、イチャイチャって………」

 

 クシェルは顔を真っ赤にさせる。

 ダフネの言葉から連想した想像と言う名の脳内映像に、顔のみならず全身が急速に熱くなるのを感じた。

 身体が熱に覆われ、赤面したクシェルにダフネはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。こういう時に見せる性質(タチ)の悪さは、やはり彼女もスリザリンの一員だとクシェルは思う。

 

「あら? なに、本当にあの娘とイチャコラついてる光景を想像したのかしら? 顔紅いわよ?」

「ダフネ~っ、からかわないでよ!」

 

 キッと睨み付けるクシェルを尻目に涼しい顔でダフネは一度紅茶を飲む。

 

「でも、真面目な話、もしもフィールが性転換して男の子になったら、きっと女の子にモテモテだったでしょうね。超イイ身体に、スポーツも抜群でイケメンでしかも学年首席で。なのに女には全く興味無しで一切媚びない硬派な性格は、女心を刺激したに違いないわね」

 

 グレーの瞳を細めてフィールの方を見ながらそう言ったダフネは、またクシェルを見る。

 

「三大魔法学校対抗試合であったあの第二の課題の人質、フィールにとっての大切な者がクシェルだったらちょっとした絵になってたでしょうね。鍛え抜かれた肉体を持つあの娘が貴女をお姫様抱っこする場面は全身が水に濡れているのも相まって、ね。そのロマンティックなシーンは、ホグワーツだけに留まらず後の二校も熱狂してファンを魅了させたと思うわ」

 

 すっかりダフネは妄想を掻き立てた様子で熱弁を振るう。割りと恋愛絡み(?)の話題性は好きらしい。尤も、これは『IF』の仮説であって実際は大きく違うのだが。

 

「あー、疲れた………」

 

 クシェルとグリーングラス姉妹が居る所に、若干疲労が滲んだ顔のフィールがやって来た。先程フィールに根掘り葉掘り質問したり健闘を讃えたりしていた生徒達はまだ少し物足りないと言う表情だったが、しつこい真似は控え、豪華な料理にありついてワイワイ談笑している。

 何度も顔を引きつらせたせいか、心なしか頬が筋肉痛になっているような気がするスリザリンの逆転勝利に最も貢献した今日のMVPを、三人は苦笑しながら出迎えた。

 

「お疲れ様、フィー」

「お疲れ、フィール」

「おかえり、フィールさん」

「ああ、ありがとう………」

 

 軽く頷いたフィールはクシェルの隣に座り、肩にもたれ掛かって眼を瞑った。珍しくフィールの方からアプローチしてきたので、クシェルはちょっとドキッとする。

 

「眠いの?」

「いや………少し疲れたから、休憩したいだけ」

 

 それから暫く、クシェルに身を任せていたフィールはフッと眼を開けると、料理の載ったテーブルに手を伸ばし、軽食を取る。ついさっきまで絶えず質問攻めに遭ってたせいで、まだ何も食べていなかった。空腹を満たしたフィールは喉を潤すため何か飲み物が欲しかったのだが、置かれている場所に顔をしかめる。

 

「よりにもよってあっちか………」

 

 忌々しそうに呟くフィールの視線の先は、大勢のスリザリン生が談笑しているエリア。彼処に行ったらまた彼等に纏わり付かれそうで、フィールは自ら赴くことに気が進まなかった。すると、そんなフィールを見かねたクシェルが、

 

「私の飲み掛けだし、あんまり残ってないけど、飲む?」

 

 と、半分ほどジュースが残ったグラスを差し出す。フィールは「じゃあ、頂く」と言って、グラスを持つクシェルの手ごと上から握り、ジュースを飲む。

 

「フィ、フィー………」

「ん、ありがと」

 

 またまた赤面するクシェルに構わず、フィールは飲み終えると、すぐに手を離した。そんなフィールを見て、ダフネは呆れた顔を、アステリアは驚いた顔をする。

 

「時折フィールは天然なのかそうじゃないのか、わかんなくなるわね………」

「今の、間接キスだよね? フィールさん、さらっとやってたけど………」

「と言うか、そもそもクシェルが自分の飲み掛けあげた時点でアレよね。わざわざそんなことしなくても、持ってくればよかったのに」

「ってかさ、お姉ちゃん。フィールさんとクシェルさんって、結局のところどういう関係なの?」

「どういうって………まあ、昔と違ってフィールはクシェルに凄く優しくなったから、今はお互いに『親友』って認識じゃないかしら? たまに行き過ぎの感があるけど」

「ふーん………クシェルさんはともかく、フィールさんが度を越した行為って、あんまり想像つかないんだけど。なんだろ、実は密かに子羊さんを狙ってるオオカミさん的な感じかな? いやでもクシェルさんの場合は子羊さんよりユニコーンがピッタリかな?」

「リア、何処でそんな知識身に付けたのよ」

「お姉ちゃん読んでた恋愛小説で学んだ」

「何勝手に読んでるのよ!?」

「え? だってお姉ちゃん恋愛小説読んでる時、いっつもニヤニヤしてたもん。どんな内容なのかなってずっと気になってたから、読んでみた。お姉ちゃん、意外と刺激強めの展開が好―――」

「ああああああっ! 言わないでちょうだい!」

 

 ダフネが喚くと、フィールとクシェルは不思議そうに首を傾げた。

 

「ダフネ、どうしたんだ?」

「い、いえ………何でもないわよ」

 

 深呼吸して落ち着いたダフネは忌々しそうな視線で瓜二つの妹を睨む。当の本人は澄まし顔で、でも微かに口角を上げながら、上品に紅茶を飲んだ。

 

♦️

 

 数時間後、祝勝会が終了したスリザリンの談話室はあれだけのドンチャン騒ぎが嘘のように静寂に覆われていた。居るのは寮に完備されている女子用の浴場でシャワーを浴びてきた今回のパーティーの主役・フィールのみだ。バサバサとバスタオルで髪を拭きながら、脱衣室を出ようとして、フィールはふと足を止めた。

 脱衣室に備え付けられている鏡。

 そこには、いつもと変わらない顔がある。

 つい最近までついてなかった首筋の傷痕に、フィールはスッと蒼眼を細めた。

 普段は制服のワイシャツでギリギリ隠されているが、万が一これを事情を知らない他人に見られた場合、どう言い訳をすれば誤魔化せるか、わからない。

 傷をつけた相手がヴォルデモートなのだから、その情報が広まればまたもや騒ぎになるだろう。

 と言うかフィール自身、普段はなるべく見ないようにしている。

 無意識の内に頭の片隅にちらついたヴォルデモートの顔を外に追い払うと、生乾きの髪のまま、脱衣室を出て談話室のソファーに座った。

 ひとっこ一人居ないので、広く感じる。

 一息ついたフィールは背もたれに身体を預け、眼を閉じた。

 何も考えず、静かな空間の中で一人過ごしていると、無音だった談話室内に誰かの足音が聞こえてきて、不意に人の気配が背後から生まれた。

 

「ベルンカステル………か?」

 

 その声に振り向くと、プラチナブロンドの髪に薄いグレーの瞳を持つ少年―――ドラコ・マルフォイが立っていた。一瞬、ルシウスの顔が否応なしに思い出されたが、気にしないようにする。

 

「ああ、アンタか………」

「こんな時間にどうしたんだ?」

「軽くシャワーを浴びてきて、今上がったところだ」

「そうか………ベルンカステル、隣座るぞ」

 

 ドラコは先に断ってから、フィールの右隣に腰掛ける。ここまで二人の距離が必然的に近いことは、これまで無かった。それは、ドラコがフィールをスリザリンの恥晒しと貶してきたのと、フィールはその彼と根本的に反りが合わなくて仲が良くなかったからだ。ライバル関係にあるハリー・ポッターと仲良しなのもまた、同じ寮に所属するのに不仲だった原因の一つでもある。

 ドラコはそっとフィールを横目で見る。

 タオルドライだけで済ませてるせいか、元々の顔立ちの良さと相まって年齢不相応の色気を間近で感じる。が、何よりも、どうしても、首筋に残された酷い痕に眼が行ってしまった。白い肌の上で生々しく主張する一生モノの傷の刻印は、否が応でも見る者の視線を釘付けにさせる。

 

「………なんだ?」

 

 横からの視線を感じて怪訝な顔でこちらを見てきたフィールに、ドラコはハッと我に返る。

 

「別に、何でもない」

 

 そっぽを向いたドラコは、少しして、気になってたことをフィールに問う。

 

「………なあ、ベルンカステル。お前はいつ、身に付けたんだ?」

「何をだ?」

「ウロンスキー・フェイントだ。お前、今日のクィディッチ戦で披露しただろ」

「ああ、アレか………言っとくけど、私は今日初めてウロンスキー・フェイントをやった。だから自分でも驚いてる。まさか一発で成功するなんて今でも信じられないよ」

「は? お前、まさか練習しないで、ぶっつけ本番でシーカーの奥義に挑んだのか?」

「そうだけど? と言っても、出来れば使いたくなかったけどな。これで次にウロンスキー・フェイントしようにも、前例があるからあっちもそう易々と罠には引っ掛からないだろうし。まあ、本当に低空でスニッチを見付けて急降下したら、罠なのかそうじゃないかの区別は簡単にはつけられないだろうから、それはそれで相手を惑わせそうだけど」

 

 衝撃的な事実を聞かされ、唖然としていたドラコはじっとフィールを見つめる。

 

「………お前、やっぱりただ者じゃないな」

「これは驚いた。まさかアンタから誉め言葉を貰うなんてな」

「今のは本心だ、ベルンカステル。悔しいが、お前の方が僕よりシーカーに向いていることを、僕は今日、お前のウロンスキー・フェイントを生で見て思い知らされた。アレは熟練シーカーの極意で、シーカーであれば誰もが憧れるテクニックをお前は学生の身で習得したんだ。その内プロからも声が掛かるだろう」

 

 そこまで言ったドラコは、言葉を区切る。

 

「………怖くなかったのか? ウロンスキー・フェイントを実行したのは今日が初なんだろう? 曲がりなりにも、僕だってシーカーだ。昔から、どんなにあの技を実際にやってみたいとは思っても、いざ実践になると、怖くて出来ない。下手すれば失敗して地面に激突するし、運が悪ければ全身を骨折する。でもお前はやってのけた。絶対成功すると、最初から信じてたからやれたのか?」

 

 いつになく真剣な眼差しを向けて尋ねてきたドラコにフィールはこう返答した。

 

「………怖くないと言えば嘘になるな。あの速さで地上に向かって急降下して、激突寸前に急上昇するって、言葉では簡単そうに見えるけど、その実度胸と根性が試される技だ。一度も練習してないのに本番で上手くいくかは、実際にやってみない限り、自分でもわからない。だから尚更怖い。直前で臆病風に吹かれてそのまま地面に衝突しないかって、ヒヤヒヤする」

 

 だけど、と一息入れたフィールは言葉を紡ぐ。

 

「現状を考えれば、ウロンスキー・フェイント以外で逆転勝利する手段は無かった。だから私は賭けに出た。最善の道を見出だしながらもリスクを恐れて躊躇っていたら、いつまで経っても勝てないし、不本意な現状を変えられる訳が無い。どうせやるなら、目的のためならば何だってするスリザリン生らしく、可能性に挑戦してやると、覚悟を決めて挑んだ」

 

 そしてその賭けは見事大成功を収めた。

 フィールの覚悟が、勝機を掴み取ったのだ。

 フィールにも恐怖と言う感情を持っていて、それを自覚した上での土壇場で見せた彼女の勇気にドラコはグレーの眼を見張る。

 

「話が長引いたな。それじゃ、私はそろそろ部屋に戻って寝る。アンタも早く寝た方がいいぞ」

 

 立ち上がったフィールはポンと未だに呆然とするドラコの肩に手を置くと、欠伸を噛み殺しながら寝室に向かう。ドラコは暫く、フィールが消えた方向の虚無の空間を凝視した。

 

♦️

 

 クィディッチ初戦から数日が経った。

 『選ばれし者』ハリー・ポッターが『蒼黒の魔法戦士』フィール・ベルンカステルに敗北したと言う事実を、負け惜しみ精神の塊と言ってもいいホグワーツ生の大半は認めなかった。

 フィールの姿を見掛ける度に、主にグリフィンドール生の生徒は視線で呪い殺さんと言わんばかりの殺意の籠った眼差しで睨み付けるのがお決まりになっていた。

 四六時中グサグサと物騒な視線が突き刺さってもフィール本人は凪のようにさらりと涼しい顔で受け流すので、彼等からすると挑発的な態度とも捉えられるのか、彼女は憎しみの炎に油どころかガソリンを撒き散らしていた。

 

 しかし、フィールは怯えた素振りを見せない。

 と言うのも、フィールは反則してないからだ。

 ウロンスキー・フェイントはちゃんとしたクィディッチ戦術の一つであり、この技で敵シーカーを潰すことはルール違反にならない。これは単にグリフィンドールの勝利を願っていた者達がフィールを『卑怯者』と言って、自分達は負けてないと言い張ってるだけなのだ。

 傍から見たら、物凄くみっともない真似なことに一切気付いてないで。気付こうともしないで、醜態を晒していた。

 

 クィディッチ対抗戦後、スラグホーンが開催したクリスマス・パーティーをなんとか乗り越えた先も、クリスマス休暇明けも、あちこちから不穏なオーラをビシバシと当てられるフィールは変わらず居心地の悪い日々を過ごす羽目になった。

 しかし、どれだけ凄まじい形相で睨まれようとも手を出してこないのは、やはり過去に一時の感情に流された末に、自業自得の因果応報な結果を招いた先人の事例があるからか。

 逆にそれが無かったら、十中八九フィールは襲撃されただろう。まあ、よしんば大多数でフィールに襲い掛かっても返り討ちに遭うのは眼に見えるし、そんな馬鹿げた真似をするヤツが居たら、その日がそいつの最期になるのは、フィールの強さを知っている者からすると容易に察しがつく。

 

 敵に対しては血も涙も無いのがフィールだ。

 まず間違いないなく、襲来してきた相手を徹底的に痛め付けるだろう。

 程度が高ければ高いほど、彼女はそれ相応に倍返しする。パンチやキックだったらカウンターやミドルキックの反撃だけで済むだろうが、魔法による攻撃の場合、フィールは相手にトラウマを植え付けるくらい打ちのめすと予想がつく。そのため、無駄な負け犬の遠吠えをされる以外のことは今のところフィールは何もされなかった。

 

「はぁ………なんでこうも、あらゆる方面から意味不明な理由で恨まれなきゃいけないんだか。いい加減、鬱陶しくなってきたな。校則破られなかったら、アイツら一瞬で蹴散らしてやるのに」

 

 物騒な発言を呟きつつ、銀色のランタンが吊り下げられている天井を仰ぎ見たフィールは、ゴロゴロとベッドの上で寝転がりながら、高く突き上げた右手の掌を注視する。

 

「フィー、わかってると思うけど、こればかりは有言実行しちゃダメだよ。そんなことしたら、フィーが退学処分になっちゃうんだから」

「その言葉、肝に銘じとく」

 

 ベッドに座って苦笑いしながら釘を刺してきたクシェルにフィールは右腕を振り下ろす。

 

「………フィーはさ、本当にクィディッチプロにはならないで闇祓いになるの?」

「現時点で就きたい職業は、そうだな。でも、今の魔法省の見てられないほど酷い有り様にはメリットが何一つ無いからな。ホグワーツを卒業する時までに変化が見受けられなかったら、正直、魔法省勤めは断念しようかなと思う」

「それこそ、クィディッチプロになるとか?」

「クィディッチプロ、ねえ………それも悪くはないけど、此処でのクィディッチ経験はピンチヒッターくらいだしなあ………。だったら、自営業の方がまだマシだ。魔法道具の作成とかは結構得意だし、私自身好きだから、ジャンルを問わず色んなアイテムを取り揃える雑貨屋を開くのも悪くない。と言うか、兼業で自分が経営者の雑貨店オープンは元々考えてたし」

「えっ、いいじゃん、やろうよ、雑貨店! もし開店したら、手伝いに行くよ!」

「それは有り難いけど………ただでさえ目指してる本業が激務だってのに、大丈夫か?」

「そんなのは皆一緒なんだから、大丈夫だよ。ねえ、どんな商品作る? 私、アクセサリーとか可愛い小物、作って売ってみたい」

 

 早くも将来に思いを馳せるクシェルに、微笑したフィールは起き上がって彼女と議論する。

 フィールは何でもアリのバラエティー雑貨を取り扱う雑貨屋を目標としているので、クシェルの意見は参考になった。

 熱く語り合う二人は笑い合い、しかしその笑顔の裏では、将来本当に夢が実現出来るかへの不安感を募らせて………密かに翳りが差す。

 そんな暗い気持ちを吹き飛ばそうとしたのか、ベッドの上に上がったクシェルはフィールを真っ正面からハグする。突然全体重がのし掛かってきたのを対応出来なかったフィールは受け止めきれず、ベッドに押し倒された。

 

「ちょっ、クシェル………?」

「少し、こうさせて」

 

 クシェルはフィールの髪に顔を埋める。

 甘いシャンプーの香りが胸一杯に広がり、猛烈に襲い掛かっていた不安感が払拭されるような気がした。

 

「……………」

 

 胸の奥に、漠然とした懐かしさが呼び覚まされる。見た目は勿論のこと、血筋も含めて全くの赤の他人なのに、記憶の中にある白銀の少女とクシェルが重なって………心が痛む。

 

「………………お姉ちゃん………」

「………………え………?」

「あ、いや………昔、お姉ちゃんに同じことされたなって思い出して、それで」

 

 両腕を背中に回し、フッと一つ息を吐く。

 いつも思うのだが、クシェルは体温が高い方なので温かい。彼女にくっつけば冬の寒さを凌げるので、ここ最近は度々一緒のベッドで寝ることが多かった。

 

「………お姉ちゃん、どんな気持ちで吸魂鬼(ディメンター)のまま魔法界を彷徨ってるのかな………双子なのに、その気持ちがわからないのが、私も辛い。本音を言えば、ここ最近、本当にお姉ちゃんを救えるか、少し不安になってきた」

「………………」

「ごめん、いきなりこんなこと言って。不安を抱いてたら、救えるものも救えなくなるよな。今のは忘れてくれ」

 

 何とも言えない表情で貼り付けた笑みを浮かべたフィールは「そろそろ寝るか」とクシェルを促し、クシェルは「………うん」と頷いて、フィールから身体を離す。ベッドから降りたフィールは銀色のロケットを机に置き、布で覆い被せる。

 母・クラミーがロケットに宿っていることを知った後、フィールはこうして被覆するようになった。相手が家族であっても、着替えてる所は思春期なのも重なって、あまり見られてたくないと言う気持ちが働くからだ。まあ、普段はロケットの中で殆ど眠っている状態らしく、魂の境界線にでも行かない限り、必要な時以外は基本的に喋らないのだが―――。

 

《そういえば、フィール。とても今更なことなんだけど、こんな布切れ一枚だけじゃ、わたしの視界は遮られないわよ》

「―――えっ!? うっそ、じゃあ、今までずっと着替えてるとこ丸見えだったの!?」

 

 珍しく喋ったと思いきや、開口一番爆弾発言をかまされ、制服を脱いだフィールは胸元を隠して頬を紅くさせる。聞いていたクシェルも「!?」とビックリして絶句していたのだが、

 

《ジョーダンよ、ジョーダン。見えてないから安心しなさい。よしんば見えたとしても、眼瞑ってるから、大丈夫よ》

「なぁんだ、ジョーダンか………お母さん、ビックリさせないでよ………」

「ホントですよ、クラミーさん。今の言葉はマジかと思って、驚いちゃいました」

 

 フィールとクシェルはロケットを見ながら安堵の息を吐き、それから二人して顔を見合わせて、ふはっ、と笑い合う。

 その様子に、クラミーは密かにホッと胸を撫で下ろした。フィールの不安な気持ちを魂を通じて知り、どうにかして吹き飛ばしてやりたいと、思いきって冗談を言ってみたのだが………どうやら上手くいったようだ。

 寝間着に着替えたフィールとクシェルは後者側のベッドの中に潜り込み、眼を閉じる。フィールの手には、ロケットが握られていた。

 やがて両サイドから規則正しい寝息が聞こえ、二人が寝ているのを確認したクラミーは意識を闇に沈める前に、そっと呟く。

 

《―――大丈夫よ、フィール。貴女なら、絶対ラシェルを救える。そのためにも、わたしは居るのだから》




【フィールが男子だったら?】
100%の確率でクシェルと付き合ってたでしょう。

【子羊× ユニコーン○】
クシェルがユニコーンならフィールはオオカミ。

【クリスマス休暇明けまでスキップ】
ぶっちゃけた話、早期で原作崩壊した関係でイベント(事件とも言う)が発生しなくなってしまった。

【兼業:自営業】
魔法界で生活するならNo.1エンジョイ職業だと思う。

【まとめ】
と言うことで今回は前回の続きとクリスマス休暇明けまでカットォォォ!の回でした。
上記の通り、早い段階でダンブルドア暗殺計画が粉々になったり、残りの分霊箱2個になったり、死喰い人ホグワーツ侵入を事前に阻止とか、6章で起きた諸々の事件がメチャクチャになって、マジで原作事件が何処かへレラシオされました。ま、その代わりと言ってはなんですが、後でちゃ~んとツケは回ってきますので、もう暫くお待ちください。
多分、後3話くらいで6章終わるかもですので、それを乗り越えたら、皆さんいよいよお待ちかねの最終章に突入となります。
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