【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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サブタイトルのまんまです。
そして区切りの都合上、超久々に2編もしくは3編になりました。


#101.ホグワーツ特急襲撃事件【前編】

 半純血のプリンスのおかげで突然『魔法薬学』が得意科目になったハリーを、スラグホーンは「母親と同じ才能がある!」と絶賛した。

 人物蒐集癖があるスラグホーンはハリーを懐柔しようと度々夕食に誘ったが、当初ハリーはダンブルドアの忠告に従ってスラグホーンとは距離を置いて接してきた。

 しかし、ハリーがスラグホーンの記憶を摂取するようダンブルドアに命じられてから、この関係は180゜逆転する。実は、一見すると安穏な人生を送っているように見えるスラグホーンにはある大きな秘密があり、なんと彼はヴォルデモートがホグワーツに在学中、ホークラックスの知識を伝授した張本人だったのだ。

 スラグホーンは、自分がヴォルデモートに『許されざる呪文』以上に魔法の中でも最も邪悪な発明とされる闇の魔術を教えたことがとんでもない惨事を引き起こしたのではないかと密かに恐れ、ダンブルドアからこの記憶を無理矢理提供されそうになると、改竄した偽の記憶を与えて警戒するようになり、更にはハリーもダンブルドアと同じ記憶に興味を持っていることに気付くと、彼との接触も意図して避けるようになった。

 そこでハリーは、幸運薬(フェリックス・フェリシス)の力を借りて本当の記憶を入手。憂いの篩(ペンシーブ)を用いてスラグホーンの過去の後悔に染まった記憶を見て、7は最強の魔力を持つ数字であることから、ヴォルデモートは自身の魂を7つに引き裂き、ホークラックスを6個作成して本体の霊魂を合わせて合計7つの分霊箱を得たと確信を持った。

 ホークラックスに関する知識をヴォルデモートに与えたスラグホーンに、この事を責めることは出来ない。当時、まだ学生だったヴォルデモート―――トム・リドルが、後にホークラックスを本当に製作をするなんて誰も想像がつくはずがないし、先の未来を見通せたのならば、このような事態は未然に防げたのだから。

 現時点で破壊された分霊箱は、全部で5個だ。

 

 トム・リドルの日記。

 ゴーントの指輪。

 レイブンクローの髪飾り。

 スリザリンのロケット。

 ハッフルパフのカップ。

 

 一般的には、後1つ破壊した後に肉体的破滅を迎えれば、ヴォルデモートを打ち破ることが可能だと思うだろう。

 だが、その実ヴォルデモートが作った分霊箱は正確に『7つ』であることは、彼自身すらも気が付いていないだろう。

 ヴォルデモートは、分霊箱を6個作った()()()だった。

 けれど彼は、赤ん坊のハリーを殺害しようとした際、意図せずハリーに己の魂を分け与えてしまった。

 16年前、ハリーの母・リリーが自ら身を投げ出して息子のハリーに『護りの魔法』が発動し、その愛の魔法によって『死の呪文』が発射した本人のヴォルデモート自身に跳ね返った時、肉体を失った彼の破壊された魂の一部が、ちょうど付近にあったハリーの魂に引っ掛かり、偶発的に分霊箱が完成されたのだ。

 だからこそハリーは蛇語(パーセルタング)を理解し、ヴォルデモートとの間に心の繋がりが存在する。

 現在、その事を知っているのはダンブルドアと―――薄々感付いているフィールだけだった。

 

♦️

 

 遅いようで早く、平穏無事で賑やかな学校生活が続いていたホグワーツに1年の終わりがまたやって来た。

 2年前から続いて今年で3度となるホグワーツ生に今後について注意を呼び掛けた後、豪華な食事にありつく例年と変わらない光景が広がる大広間を見ながら、ダンブルドアは人知れず眉をひそめる。

 闇の陣営が遂に本格的に始動し、魔法界は徐々に暗黒が支配する世界に染まり始めてきた。死喰い人による魔法使いやマグルの死亡者・行方不明者は既に数多く存在し、中にはホグワーツ生の親族や家族にも被害が出ている。

 魔法省は現在、元・闇祓い局の局長で魔法大臣のルーファス・スクリムジョールの指揮下で奮戦努力しているが、手法や思考は前任のコーネリウス・ファッジと同じで体裁の取り繕うことに専念するような彼では正直言うと信頼度に値しない。

 無能の塊だったファッジよりはまあまだマシだが、魔法省は近い内に陥落すると想定しておいた方がよさそうなのが本音である。

 

「いよいよ、マジでヤバくなってきたね………」

「ああ、そうだな………」

「それにしても………来年、卒業かあ。なんだかあっという間だね」

 

 スリザリンに所属する生徒が集うテーブルでゴブレットを傾けていたクシェルは高い天井を見上げながら、染々と呟く。クシェルのみならず、フィールやハリー達はいよいよ次の学期で7年に、つまりホグワーツの最上級生になるのだ。そして来年の今頃、自分達は7年間通ってきたホグワーツ魔法魔術学校を卒業する。

 

「クシェル。卒業云々の前に、通過点として絶対突破しなきゃいけないものがあるだろ?」

「………第二次魔法戦争?」

「そうだ。この戦争に終止符が打たれない限り、魔法界に平和は戻らない。そうなれば、私達は死ぬまでアイツの下僕だ。そんな人生なんて歩みたくないだろ?」

「うん、全面的に却下するよ」

 

 クシェルは大きく頷く。

 ヴォルデモートが掲げる純血思想。純血以外の魔法使いやマグルの排除は、ただでさえ腐敗し停滞していく魔法界の完全なる破滅を急速に早めるだけだ。そんなのはゴメンである。

 

「ねえ、フィー」

「ん? なんだ?」

「絶対生き残って卒業しようね。約束だよ」

「勿論、そのつもりだ。………生きて、必ず卒業するぞ」

 

 クシェルとフィールは約束を交わす。

 

 第二次魔法戦争で生還し、このホグワーツ魔法魔術学校を卒業する、と。

 

♦️

 

 キングス・クロス駅に向かって走行するホグワーツ特急のコンパートメント一室で、ハリー達一行とスリザリン組は居た。どこか重苦しい雰囲気が漂う暗い空気を払拭しようと他のコンパートメントで友人同士談笑する生徒達同様に、他愛もない会話でワイワイしつつ、時折チラリと、汽車のスピードに合わせて箒に乗った魔法使い達が周囲を旋回する窓外の景色に眼を向ける。

 彼等はハリーとフィールの警護役を担当する不死鳥の騎士団の団員や凄腕の闇祓い達だ。厳重警備は外のみならず中も万全で、大勢のガーディアンが同乗してピリピリと警戒している。登下校中のホグワーツエクスプレスは、闇の陣営もといヴォルデモートがターゲットにしている2人が確実に搭乗しているので、万一に備えての警固だ。

 なんだか申し訳ない気持ちになったハリーとフィールは窓の外に向けていた視線を逸らして顔を見合わせ、ため息をつく。その2人を元気付けようと、ムードメーカーのロンを中心にくだらない話で少々どんよりした場を盛り上げ、2人は徐々に笑顔を取り戻す。

 

 そんな楽しい一時は、唐突に別れを告げた。

 

「………?」

 

 真っ先に異変を察知したのはフィールだ。

 何かに気付いたのか、空中を飛翔していた魔法使い達が後ろに振り返った途端、何やら血相を変え、一斉に杖を取り出して呪文を発射する光景が眼に飛び込んできたのだ。

 

「え―――っ?」

 

 見間違いか? とフィールが眼を剥いた、次の瞬間。

 

「きゃあぁあああああああああああああッ!!」

 

 遠方から聞こえてきた甲高い女子生徒の悲鳴が耳を貫いた。

 それに続くよう、離れた場所から次々と絶叫が上がり、瞬く間にホグワーツ特急内は阿鼻叫喚と化する。その中には微かに呪文を詠唱する鋭さを含んだ叫び声も混じっていて、益々ホグワーツエクスプレスは混乱とパニックを極めていった。

 

「な、何が起きたんだ………!?」

 

 突然の事態に戸惑いつつも今しがた発生した現状を把握しようと、急いで立ち上がって杖を抜いたハリーはコンパートメントのドアを開けて辺りを見回そうとするが、

 

「待て、ハリー」

 

 と、混乱の真っ只中でいち早く状況を理解したフィールに引き留められた。フィールの右手には既に杖が握られている。

 

「今、私達は下手にコンパートメント外に出るべきではない。タイミングを見計らって、此処から脱出するぞ」

「え? そ、それってどういう………」

「窓の外を見てみろ」

 

 フィールは窓側へ顎をしゃくる。

 険しい顔付きの彼女が顎で示した先には、幾多にも渡って物凄いスピードで飛び交う色とりどりの閃光と、何者かと応戦しているのか呪文による応酬を繰り広げる護衛一団の姿。

 杖を振るって幾度も魔法を撃ち合って戦う彼等の中には、呪いが心臓の位置に命中した魔法使いもいた。呪いを喰らったその人達は糸が切れた操り人形のように腕をだらりと力無く振り下ろし、自分の体重を支えることも出来ずに、箒から滑り落ちて落下していく。地面に墜落したことが嫌でもわかってしまい、ハリーやハーマイオニーはサッと顔面蒼白した。

 

「騎士団や闇祓いが戦闘開始したってことは、恐らく相手は死喰い人の連中だ。そして既に何人かは汽車に乗り込んできたに違いない」

「な、何だって………!?」

「じゃ、じゃあさっきの悲鳴は―――」

「パニックになったんだろうな。不意打ちで、しかも予期せぬ場所で死喰い人が車内に侵入してきて。さっき聞こえてきた声からして、車内警備担当のムーディやトンクスは、とっくに死喰い人と交戦してると思う」

 

 青ざめたハーマイオニー達は息を呑む。

 今すぐ援護しにコンパートメントを飛び出したいが、何分来襲されて間もない今では厳しい。例えハリーとフィールが此処に残ったとしても、自分達を発見した死喰い人は高確率でこちら側に襲い掛かってくる可能性が高い。

 何せ2人の友達なんだから、自分達が居た車両のコンパートメントに2人が居ると決定付けてしまう恐れがある。もどかしいけれど、ここは耐えなければならない。

 しかし、だからと言っていつまでも此処で待機してる訳にもいかない。奇襲してきた闇の陣営が果たしていつまで此処に残留するか定かでないこの戦況、同じ場所にずっと留まって身を潜めているのには限界があるし、いずれ居場所もバレるだろう。

 ならばフィールの言う通り、脱出する絶好のチャンスを見付けて早々に立ち去らなければならない。好機到来を期待し、身構えてると、背後でバンバンと窓をノックする音が響き、振り向くと、箒に乗った闇祓いの男性がガラス越しに顔を覗かせていた。

 

「お前達、無事か!?」

「ええ、大丈夫です」

「そうか。………わかってると思うが、死喰い人共が奇襲してきた。ヤツらの狙いはベルンカステルとポッターだ。お前達は早く列車内に配属された騎士団や闇祓いと合流して―――」

 

 が、フィールとハリーの身を案じるあまり現況を忘れて敵兵に背中を見せていた彼は、言い切る前に射殺された。乗り手を失った箒は何処かに吹き飛び、事切れた彼はゴロゴロと地面を転がっていく。目の前で殺害される瞬間を眼に焼き付けられたハーマイオニー達は絶句した。

 言葉を失う彼女らに悲しみに暮れる暇は無く、闇祓いの男が居なくなってハリーとフィールの姿をハッキリと捉えた死喰い人の1人が『拡声呪文』を使用して2人の在処を告げ知らせる。

 

「居たぞおおおおおおおッ!! 中央の車両だああああああッ!!」

 

 魔法による爆音のような声量は周辺の空気を震わせ、別の死喰い人が撃ってきた光線によって窓ガラスがバリンッと割れた。途端、風が一気に吹き込んできて、カーテンが大きく揺れる。

 

「くそっ………! このままじゃマズい! 早いところ此処から脱出するぞ!」

 

 予定が色々狂った苛立ちと味方が殺された怒りが胸の中で渦巻き、フィールは忌々しそうに舌打ちしながらも、自分の成すべきことは見失わないで未だ呆然と立ち竦むハリー達を促す。フィールの鋭い声でハッと我に返った4人は大きく頷き、一番近くに居たロンが率先して慎重にドアを開けて素早く周囲を確認する。

 

「よし、まだアイツらは来てない! 今がチャンスだ! 早くムーディ達の所に―――」

 

 だが、次の瞬間。

 ガラスと言う障壁が取り払われ、ついさっきまでは窓だった方向から真紅の閃光が飛んできて、フィールに直撃した。今のはハリー達も好んで愛用するポピュラーな『失神呪文』だ。意識を断ち切られたフィールは小さく呻くと膝から崩れ落ちて、フッと瞼が下ろされる。

 

「フィール!」

 

 コンパートメントを出ようとしたハリーは慌てて引き返し、しゃがみ込んで『失神呪文』の反対呪文である『甦生呪文』を唱えようとしたが、その彼にも紅い光の筋が放たれ、意識を奪われた彼は最初に失神されたフィール同様にバタンと倒れ込む。

 

「ハリー………!」

 

 今回の襲撃事件の目的であろうヴォルデモート自らが手に掛けようと執拗に求めている2人がコンパートメント内で気絶し、先に外に出たハーマイオニー達は戻ろうとしたが………何ともバッドなタイミングで、無気味な仮面をつけた黒いローブの魔法使いが複数雪崩れ込んできた。

 

インペディメンタ(妨害せよ)!」

 

 複数が放ってきた『妨害呪文』で3人は軽々と吹き飛ばされ、通路の端のドアに激突する。

 

「あっ………!」

 

 このままじゃ、2人が連れて行かれる!

 焦燥に駆られる3人はすぐさま立ち上がるが、狭い通路では満足に呪文を使えず、『盾の呪文』を展開して死喰い人が撃ってきた魔法を跳ね返しての防御一辺倒になって、劣勢に追い込まれる一方だった。

 そうして、手出しが難しい3人を尻目に死喰い人が先程3人が立っていたコンパートメント前のドアを開け、目当ての少年少女を連れ去ろうとして―――

 

「のおぉおおッ!?」

 

 突如出現した銀のバリアにブロックされた。

 思いっきりブッ飛んだ死喰い人は強かに身体を壁に打ち付ける。その衝撃で脳震盪を起こしたのか、気絶したそいつは床に叩き付けられ、転がった。

 今しがた何が起きたのか、混乱して把握出来ない死喰い人はその場で硬直する。そしてその隙を見逃すほど、ハーマイオニー達は甘くない。

 やり込まれた分はきっちり倍返してやると、一気に距離を詰めて突撃した。死喰い人が気配を察知して身構えた時には既に遅く、『失神呪文』や『金縛り呪文』を連射したりして戦闘不能にし、ロンに至っては開けた窓からそのまま突き落としたりした。

 邪魔者を一掃した3人は、気を失っているフィールとハリーをガードしたらしき防壁に眼を向ける。どう考えてもこれは2人以外の人間が展開したと見て間違いない。そしてこの状況でそれが可能な人物は、ただ1人。

 

《フィール! ハリー君! 起きなさい!》

 

 フィールの首から下げられているロケットに魂を宿らせた彼女の母・クラミーだ。ガードする必要が無くなった彼女は防壁を消滅させる。

 共通認識していた3人は凛とした響きを孕んだ女性の声に「やっぱり」と確信を持ちつつ、フィールとハリーに『甦生呪文』を掛けた。

 

「フィー! 目を覚まして! フィー!」

「ハリー、起きてちょうだい!」

 

 クシェルとハーマイオニーが呼び掛けると、意識が覚醒したフィールとハリーはゆっくりと眼を開けて半身を起こした。意識が戻ったばかりの2人は額に手を当てながら、「よかった」と安堵の表情を浮かべてこちらを見る友人達に眼の焦点を合わせる。記憶を巡らせた2人は『麻痺呪文』で失神されたことを思い起こし、苦い顔になった。

 さて、それはさておき。

 

「さっきの障壁………あれはクラミーさんが出したんですか?」

 

 真ん中に青い石が嵌め込まれ、魔法陣の模様が描かれているロケットを見つめながらハーマイオニーが尋ねると、

 

《ええ、そうよ》

 

 と、クラミーの声が発せられた。

 クラミーによると、どうやら防御に関する呪文のみと言う限定はあるが、最近になってロケットに魂を宿らせた状態であっても魔法を扱えるようになったらしい。なんでも、少しでも力を付けてフィール達の役に立てるようにと、密かに鍛練を重ねてきたとか。以前、何も出来なくてフィールが大怪我を負ったのもあり、己の無力さを実感したクラミーは愛娘を護れるようにと、母親として陰で努力していたのだ。

 

《っと、今は呑気に会話してる場合じゃなかったわね………まずはどうにかしてこの場を切り抜けないと》

 

 ヤツらの狙いはフィールとハリーだ。

 となれば、いつまでも此処に居るのは賢明ではない。この車両はちょうど真ん中辺りで、前後を挟まれたら圧倒的に分が悪くなる。

 そうなる前に、前方か後方、どちらかの車両に逃げ込んで一本道になった瞬間片付ければ楽に倒せるかもしれない。………逆を言えば、先頭か最後尾に敵が乗り込んできた場合追い詰められるのだが、背中を見せてはならないこの戦況なら気合いと根性次第でどうにかなるだろう。と言うか、どうにかなると信じたい。思いたい。

 この難局をどう乗り越えようか、5人は思考をフル回転させて最善策を思案する。程無くして、沈思黙考していたハリーはフィールの顔を見て、こう提案した。

 

「あのさ………思ったんだけど、僕とフィールの2人はハーマイオニー達とは別々に行動して、汽車の外にでも出れば、他の生徒に危害は及ばないんじゃないかな?」

 

 フィールを除く3人はギョッと眼を見張る。

 あろうことか、ハリーは自分とフィールの身を危険に晒す代わりに無関係の生徒を巻き込ませないようにすると言う、とんでもない案を提示したのだ。

 

「ちょっ、ハリー!? 貴方正気!? 相手は死喰い人なのよ!? それも多数の!」

「わかってる。でも、ヤツらの目的は僕とフィールをアイツに差し出すことだ。ヤツらは僕達を捕らえることは出来ても、殺すことは出来ない。それはさっきの攻撃で証明されている。なら、あくまでもヤツらの標的である僕達が汽車の外に居たら、そこまで車両は攻撃されない………と思う」

「だけど………」

 

 尚もハーマイオニーが食い下がろうとした時、ハリーの意見に賛成のフィールが肩に手を置いて制した。

 

「私もハリーの意見に同意だ、ハーマイオニー。私達が此処に居ることで車両ごと襲撃されて関係の無い生徒を巻き込むよりかは、外に出て戦った方がまだマシだ」

 

 ただでさえ、圧倒的に場所も悪いのだ。

 狭い通路の車内に無関係の大勢の生徒。

 障壁や障害物が邪魔な汽車内で行動を制限されそれで捕まるくらいなら、危険を承知した上で環境に束縛されない自由行動を優先し、応戦した方が生存率は高い。

 

「アンタ達は混乱状態の生徒達の鎮静化と、騎士団や闇祓いの援護を頼む。戦力は多いに越したことはない。少しでも軍事能力に長けた人間が加勢すれば、劣勢を跳ね返せるかもしれないからな」

 

 真剣な瞳でキッパリと言ったフィールに、ハリーは首肯する。それから、ロケットを注視してクラミーにこう頼んだ。

 

「御願いします、クラミーさん。別行動するのを許してください」

 

 クラミーは少し考え込む。

 これはとても危険極まりないことだから、正直言うと了承したくはないのだが………不本意な今の現状を乗り越えるには、ハリーの提案も一理あるので、迷いが生まれる。

 一瞬の沈黙の後、クラミーは静かに言った。

 

《………わかったわ。貴方達2人は、わたしが責任を持って護る。ハーマイオニーちゃん達はアラスターを初めとする警備員と合流して、必要最低限の安全を確保することを忘れないことよ。いいわね?》

「………ッ、わかりました………」

 

 唇を噛み締め、何かを耐えるような面持ちで杖を握り締めるハーマイオニーは軽く頷き、ロンとクシェルもクラミーを信じることにした。

 

「よし、それじゃ、別行動開始だ」

「3人共、気を付けてな」

「フィー達もね」

 

 最後に互いに無事を祈って言葉を交わし、ガラッとコンパートメントの扉を開けて、2人と3人に分かれた5人はそれぞれ別方向に進む。

 ハーマイオニー達はフィールとハリーとは逆方向の通路の端にあるドアを開くと、無気味な仮面をつけた黒いローブの魔法使いが数人、車両に侵入しているのを発見した。

 

「おい! お前ら、ポッターとベルンカステルのダチが入ってきたぞ!」

「本当か!? と言うことは、アイツらは先の車両に居るってことか!」

 

 案の定死喰い人はハーマイオニー達が先程まで居た車両を目指し、目の前に居る障害物の彼女らに『失神呪文』を放つ。

 

ステューピファイ(麻痺せよ)!」

プロテゴ(護れ)!」

 

 咄嗟にロンとハーマイオニーの前に出たクシェルが『盾の呪文』で己と2人の身を護り、真紅の閃光を弾き飛ばす。ハーマイオニーが次の瞬間、横方向に身体をずらし、

 

ステューピファイ(麻痺せよ)!」

 

 クシェルの後ろから『失神呪文』を撃つ。

 一人前の魔法使いに匹敵する速さで迸る紅いスパークは死喰い人の胸に当たり、呻き声を上げてぐらりと身体が傾く。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)!」

 

 仕上げはロンが『浮遊術』で床に倒れそうになった死喰い人の身体を浮かばせ、そして容赦無く列車外へと放り投げた。見事なチームワークを披露した三人は、気を緩めず声を張り上げて安否確認する。

 

「皆、大丈夫!?」

「怪我は無い!?」

 

 すると、何人かの生徒が恐る恐る顔を出し、一時的に脅威を回避してホッとした、涙ぐんだ顔で「大丈夫」と頷く。三人はまだ誰も怪我を負ってなさそうな様子に胸を撫で下ろすが、それも束の間。

 別の死喰い人が、前後から侵入してきた。

 遂には窓を突き破って突撃してきたのだ。

 一瞬で死喰い人に対する恐怖と殺される恐怖の二重の意味で思考が染まったホグワーツ生は顔を引っ込め、頭を抱えて喚く。通路のど真ん中に立っていた三人はシャッと素早い杖捌きで呪文を撃とうとしたが、その前に死喰い人の背後を取った人物達がノックアウトさせた。

 前の先手を打ったのはジニー、後ろの先手を切ったのはダフネだ。前者には友人のネビルとルーナが、後者には妹のアステリアがついている。

 

「ジニー!」

「ダフネ!」

「どうやら、間に合ったみたいね」

「間一髪、ってところかしら」

 

 ハーマイオニーとクシェルの叫びに、ジニーとダフネはホッと一息つき、駆け寄る。だが、そこでふと、ダフネはある違和感に気が付いた。

 

「グレンジャー、フィールとポッターはどうしたのよ?」

「えっと………」

 

 初対面に近い………と言うか初対面のダフネの問いに、ハーマイオニーは口ごもらせる。言い淀むハーマイオニーの態度に、グリーングラス姉妹の瞳に険しさが宿った。

 

「ちょっと………まさかあの娘に何かあった訳じゃないでしょうね!?」

「フィールさんは無事なの!? どうなの!?」

 

 黒髪灰色眼の姉妹の詰問に気圧されるハーマイオニーが「落ち着いてちょうだい」と詰め寄る二人に説明しようと口を開きかけた直後、

 

「皆、伏せろ!」

 

 ネビルが大声で指示を出した。

 反射的にハーマイオニー達は身を屈め、緑色の閃光が頭上を飛び越して壁に穴を開けたのをチェックしてから、サッと体勢を立て直す。

 そしてハーマイオニー達は、呪文を射出したと思われる張本人に猛烈な憎悪が胸の奥底から込み上げてきて、瞳がギラギラと輝き出し、ハーマイオニーとネビルは同時にその名を叫ぶ。

 

「「ベラトリックス・レストレンジ!」」

 

 長身で黒髪、薄い唇に厚ぼったい瞼の魔女。

 残虐さを帯びた双眼には、仕留められなかった悔しさと苛立ちが織り交ざっている。

 紛うことはない。

 ヴォルデモート失脚後、夫のロドルファス・レストレンジや義理の弟のラバスタン、バーテミウス・クラウチ・ジュニアと共に、騎士団の一員で闇祓いだったロングボトム夫妻―――フランクとアリスを捕らえて闇の帝王の消息を吐けと『磔の呪文』で拷問した末に廃人にし、そして1年前の今頃神秘部でエミリー・ベルンカステルを死に追いやった………ベラトリックス・レストレンジ本人だった。

 両親の仇、親しい人の仇を目の当たりにしたネビルとハーマイオニーは鋭く睨み付ける。

 

「おやおや、誰かと思ったら、ロングボトムの小僧と穢れた血じゃないか」

 

 ベラトリックスがニヤニヤと下卑た無気味な笑いを浮かべた瞬間、ハーマイオニーが一歩前に踏み出してジニー達を庇うように立ちはだかる。

 

「ここは私が相手になるわ! 皆は早く騎士団の人達が居る所に行って!」

「でも、1人じゃあまりにも危険よ!」

「ええ、だからあの人達の力が必要なのよ、御願い!」

 

 ハーマイオニーの必死さに躊躇っていたジニー達は突き動かされ、

 

「わかったわ………気を付けて!」

 

 彼女のことを案じながら、この場を離脱した。

 長い赤毛をたなびかせて一番後ろだったジニーが走り去るのを気配で確認を取ったハーマイオニーは、鋭い眼でベラトリックスを見据える。

 

「神秘部以来ね、ベラトリックス」

「穢れた血のお嬢ちゃん、まさかこの私に無謀にもたった1人で戦うつもりかい? 私がお前を殺してしまったら、あの血を裏切る者達はどうなるだろうねえ? 穢れた血が、あの女と同じように居なくなったら死ぬまでずーっともがき苦しむだろうさ」

「貴女なんかに、二度と私の大切な人達に指一本触れさせやしないわ!」

「穢れた血の分際で私に単身で挑むとは、なんて馬鹿な真似を。どう考えても、後悔するとしか思えないけどねえ?」

「馬鹿言ってるんじゃないわよ! 貴女から逃げる方がもっと後悔するわ!!」

 

 自分を奮い立たせるために、ハーマイオニーは腹の底から声を出す。

 ベラトリックスは死喰い人屈指の実力者だ。

 単純に考えれば、いくら学年次席のハーマイオニーの技量を以てしても、経験でも能力でも上回るベラトリックスに単体で挑むなど最早自殺行為に等しい。

 それでも、ハーマイオニーは戦う事を選んだ。

 この女だけは、絶対に許しはしない。

 例え死んだとしてもコイツだけは必ず呪い殺してやると、それだけの激情に駆られているハーマイオニーは真っ直ぐにベラトリックスを見返す。

 

「そうかいそうかい………なら、存分に後悔させてやるよ!」

 

 ゲラゲラと人ならざる嗤い声を高らかに上げたベラトリックスは、持ち主の性格をそのまま反映させたかのように曲がった鬼胡桃の杖を掲げる。

 全力でこちらを仕留めに来るだろうベラトリックスに対する少なからずの恐怖を強靭な精神力で抑え込んだハーマイオニーはブドウの蔓が彫られた杖を翳し―――火蓋が切って落とされた。




【生還してホグワーツを卒業する】
忘れがちですが、最終章のハリー達は最上級生。
原作と違いそのままホグワーツに在学なので、生還すれば晴れやかに卒業となる。

【ホグワーツ特急襲撃事件】
前回の予告通り、ツケが回ってきました。
原作ではキャビネット棚を修理したフォイフォイがホグワーツにデスイーター侵入させて城でのバトルでしたが、作中では木っ端微塵にされたので代理としてデスイーターとバトルINエクスプレスとなりました。どうせホグワーツでの戦闘は7章でド派手にやりますし。

【容赦無く死喰い人を窓から落とすロン】
ロン「よっこらしょっと」
死喰い人「イ゛ェアアアアアアアア!」
ハーミー「( ; ゚Д゚)」
クシェル「( ; ゚Д゚)」
ハリー「(´・ω・`)」
フィール「容赦無く落としやがったぞおい!」

【啖呵を切るハーマイオニー】
ハーマイオニーがめっちゃイケメンになった。
あのベラさんを相手に単体で挑むハーマイオニーはこれまでいただろうか?

【まとめ】
と言うことで今回はデスイーター下校中のホグワーツ特急を奇襲の回でした。実は、劇場版コナンや実写版スパイダーマンで走行中の電車(の上)で戦闘するシーンを観ていたら、いつか電車(の上)でのバトルは絶対に取り入れようと決めていたので、ようやく念願の夢が叶いました。私の中でナンバーワン戦闘場面のシチュエーションだったんですよね、これ。なので今メチャクチャ大満足してヒャッハーです。
とりあえず次回の予定は、ハーマイオニー大活躍とダブル主人公sideの回となります。
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