【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
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最初に先手を仕掛けたのはベラトリックスだ。
歪んだ心を表現するかのように大きく捻じ曲がった杖の先から発射される、緑色の閃光。
魔法界では『許されざる呪文』の一つとして対人使用が禁止されている『死の呪文』。反対呪文は存在しない、強力な魔力を必要とする、直撃すれば即死は免れない必殺の殺人魔法。
直接受けて尚生き残ったハリー・ポッターやフィール・ベルンカステルのような例外を除いて後は共通で防ぎようの無い呪文特有の緑に輝く閃光がハーマイオニーに襲い掛かるが、彼女はそれをサッと伏せることで難なく回避する。
狙いが外れたスパークは先程ジニー達が走り抜けていったドアに当たり、爆発して緑の炎が起こって炎上した。
(流石、闇の魔女としての腕前はピカイチのベラトリックス。侮れない速さね………でも、見切れないほどじゃないわ!)
チラッと肩越しに振り返って、ベラトリックスの攻撃が一回につきどのくらいの破壊力が秘めているかを大方把握したハーマイオニーは杖を大きく振るい、ベラトリックスに攻撃する隙を与えないよう連続で呪文を射撃した。
石火電光で絶え間無く放射される光線を最小限の動きで的確に撃ち落とすベラトリックスは、以前とは比べ物にならないほどの成長を遂げたハーマイオニーに興味を惹かれ、同時にすぐに殺すのではなく、徹底的に叩きのめした後で、散々苦しみを与えた後で息の根を止めてやりたい気持ちになった。
あの決然とした顔を苦痛で彩らせ、曇り無き眼を恐怖で濁らせながら泣き叫んで自分に命乞いをする姿を想像すると、言葉では表せない凄まじい快感が沸き上がり、足元から指先まで、全身の神経そのものが、細胞の隅々までもが、愉快痛快でゾクゾクしてしまう。
「これはこれは驚いた! まさか、マグル生まれにしては少しばかり腕が立つ穢れた血の小娘が1年ちょっとでこうも変わるとはね!」
「光栄ね、人を殺すことに生き甲斐を感じてるようなサイコパスな貴女に誉められるなんて!」
互いに皮肉な言葉を交わしながらも、両者は杖を振るう腕を止めない。少しでも動きを止めてしまえば殺られるのは目に見えているので、ハーマイオニーは長時間の戦闘でも耐えられるよう、なるべくは最小限の動きだけでベラトリックスの攻撃を的確に回避・防御して疲労を抑えつつ、果敢に攻め続けた。
自信をへし折り、意地を踏み躙り、決意を切り裂き、二度と歯向かえられなくなるくらい無慈悲に打ちのめし、最後は戦意喪失して袋小路に追い込まれ「殺さないでくれ」と哀願してきた惨めな
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『全身金縛り呪文』の効果を帯びた青い閃光がハーマイオニーの胸に向かって真っ直ぐ空虚の宙を迸る。
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身体を斜めに引いて直前で躱したハーマイオニーの杖から火花が弾け飛び、ベラトリックスへと飛び散る。
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『マキシマ』で強化された『切断呪文』がハーマイオニーの身体の中心軸を狙って迫ってくる。
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咄嗟に『防衛呪文』を出現させ、細い錐のような、鋭利な刃物のような塊を防ぎ、続け様に『爆破呪文』を仕掛けて攻撃を繰り出す。
「チッィ!
慌てて後方に飛び退いて難を逃れたベラトリックスは着地と同時に仕返しと言わんばかりに『爆発呪文』をハーマイオニーの足元目掛けて発射する。あらかじめ予想していたのか、落ち着いた動作でハーマイオニーは回避した。その彼女に向かって、ベラトリックスは『死の呪文』『服従の呪文』に並んで『許されざる呪文』として邪悪な魔術に数えられる『磔の呪文』を唱える。
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「ッ!?」
着地後の硬直で反応がワンテンポ遅れてしまい後1秒反撃が間に合わなかったハーマイオニーが感じたのは、今までに感じたことのない、約17年間生きてきた短い人生の中で最大と断言出来る激痛だった。
鈍器で殴打されるような、刃物で切り刻まれるような、火炙りにされるような、内臓を抉り出されるような、身体が溶けていくような、そんな痛覚と恐怖が一斉に全身を駆け巡り、一瞬にして正気を削られ………ハーマイオニーは声にならない叫び声を上げた。
ハーマイオニーの絶叫が、車内に響き渡る。
痛い、痛い、痛い………。
このままじゃ死ぬ………否、この痛みがいつまでも続くなら死んだ方がマシだ………。
止めて、止めて、止めて………もう………止めて………お願いだから………。
ゲラゲラと人ならざる嗤い声を上げるベラトリックスの高笑いが、言葉では到底言い表せない激しい痛みに精神が蝕まれるハーマイオニーの喚声と重なり―――永遠とも思える地獄の時間から解放されたハーマイオニーは、ふらっと身体を傾かせて倒れ込んだ。
ベラトリックスは勝利を確信した、残忍さを前面に押し出したかのような冷笑を浮かべてゆっくりと歩み寄る。
荒く息をつき、苦しそうに喘ぎながら足元の床で転がるハーマイオニーを冷たい瞳で見下ろすベラトリックスの視線は彼女の手元に注がれていた。
身も心も苛まれているはずなのに、その右手には杖がしっかりと握られている。
如何なる戦況であっても武器はガッチリ掴んで決して手放そうとしないハーマイオニーをベラトリックスは鼻で嗤い、薄く笑みを刷く。
「助かりたいか? さあ、もう一度哭き叫べ、そしてみっともなく命乞いをして見せてみろ! そうすれば、考えてやっても―――」
だが、ベラトリックスが言い切る前に。
どれだけ苦痛の真っ只中に居ようとも戦意に輝く褐色の瞳は失われていないハーマイオニーは強い眼差しで睨み付け、言葉を遮った。
「助ける気なんか無いクセに………答えは、決まっているわ」
次の瞬間。
素早く杖を掲げたハーマイオニーは完全に油断しているベラトリックスの顔面に一発魔法を撃ち込み、仰け反らせる。
「―――屈しはしない、貴女なんかに!」
起き上がったハーマイオニーは無我夢中で対象を遠くへ吹き飛ばす『デパルソ』を放つ。顔に一撃を受けたベラトリックスは思わぬ逆襲に対応出来ずに身体がブッ飛び、バランスを崩して尻餅をついた。
「さあ、来るなら掛かってきなさい! 刺し違えてでも、此処で食い止めるわ!!」
ふらつく身体に鞭を入れ、額に滲み出た汗を拭いながら、枯れない闘志の眼を以て勇ましく叫ぶハーマイオニー。
決然とした態度の彼女に、立ち上がったベラトリックスは傍から見てもゾッとするような、激しい怒りを露にした憤怒の表情で見据える。
「この、調子に乗った穢れた血の小娘がァ!」
頭に血が上ったベラトリックスは激情の赴くままに鬼胡桃の杖を振り上げ、魔力の奔流を力任せに放射した。ハーマイオニーも瞬時に杖を翳して迎撃し、攻撃を阻止する。
―――が、明らかに力負けしていた。
かつて『闇の魔術に対する防衛術』の授業でフィールと対決した時と全く同じ状況を体験しているハーマイオニーには、その事が容易にわかる。
(ヤバい………このままじゃ………くっ、こうなったら、一か八か………!)
ハーマイオニーはフリーハンドの左手を添える―――のではなく、ショルダーホルスターから予備の杖を抜き出し、攻撃魔法の威力をグッと増強させた。
2本の杖によって飛躍的にアップしたハーマイオニーの強力な魔法にベラトリックスの閃光は一瞬押されるが、譲る気は更々無く、押し返そうとする。
「何処までも邪魔しやがって………我々魔法族に劣るようなマグルならマグルらしく、早く命乞いをして哭き喚けばいいものを!」
死喰い人の中でも特に感情の起伏が激しく、苛立ちが頂点に達してきたベラトリックスは忌々しそうに言葉を吐き捨てる。その彼女に向かって、ハーマイオニーは大声で言い返した。
「誰が貴女の前で泣いて命乞いなんかするものですか! そんな無様な姿を晒すくらいなら、いっそのこと死んだ方がマシよ! ここから先は絶対行かせない! どうしても先に進みたいって言うなら、まずは私を殺してからにしなさい!!」
ハーマイオニーは歯を食い縛り、両足で踏ん張りながら、持てる力を総結集させて2本の杖に注ぎ込む。
溢れ出た魔力が光の筋となって、ハーマイオニーの全身から噴き上がった。
2人の魔女の呪文のぶつかり合いで、車両が激しく揺れる。
「ぐっ!? おのれ、たかがグレンジャー如きにこの私が押されるとは………!」
ハーマイオニーの力を完全に侮っていたベラトリックスの顔に、焦りの色が見え始める。
密かに冷や汗が額に垂れたベラトリックスは、かつてこの手で葬った女の姿が垣間見えた気がした。
(地震………!?)
車内の揺れを感じた瞬間、そう思ったが、ジニー達はすぐに気付いた。
(ハーマイオニーが全力で戦っているんだわ!)
命懸けで格別の死喰い人・ベラトリックスと戦っているハーマイオニーの覚悟を、無駄にすることは出来ない。先程、思わず耳を塞ぎたくなるような絶叫と、猛々しい叫び声がこちらまで聞こえてきた。
その時、我慢出来なくてジニーは踵を返してターンしようとしたが………「自分達がやるべきことはムーディ達を連れて加勢しに行くことだ」と第一優先事項を見失わないで冷静に状況を把握しているロンとクシェルに引き留められ、こうして疾走し続けている。
突然の地震に悲鳴や騒ぎ声があちこちのコンパートメントから上がった。一般の生徒や下級生を巻き込むことは、決して許されない。
進行するにおいての邪魔者を次々と排除し、走りに走ったジニー達は、聖28一族出身の長身で厳つい顔をしているヤックスリーと、同じく聖28一族の一つで短髪ブロンドの色黒巨漢ソーフィン・ロウルと実力伯仲の戦闘を繰り広げるムーディとトンクスの姿を見た。
彼等は目の前の敵を倒すのに夢中でジニー達の存在に気付いていない。そのチャンスを見逃すほど、彼女らも甘くはない。
「「
すかさずロンとクシェルは『失神呪文』を発射し、真紅の閃光に包まれたヤックスリーとソーフィンはノックアウトされた。呻き声を上げて倒れた2人の後ろに立つ思わぬ救援隊にムーディとトンクスは眼を見開かせつつ、すぐに感謝の言葉を述べた。
「助かったぞ! よくやってくれた!」
「サンキュー、助かったよ!」
「礼はいいですので、ハーマイオニーの援護に向かわないと! ベラトリックスと戦っているんです!」
「なんだと!? それは本当か!?」
「ええ、ですから早く!」
驚くムーディ達を連れて、ジニー達は急いで走り出す。グリーングラス姉妹はフィールやクシェルの安否を心配しつつ、此処に残ってこの車両の生徒達の護衛と沈静化に務めた。
休む暇もなく、ジニー達は走り続ける。
今来た道を戻って行く度に、振動が激しさを増していく。
途中、何人かの死喰い人が侵入してきたが、
「押し通る! 邪魔するな!」
と、強行突破して強引にでも突き進んだ。
そうして、息を切らしながらようやく目的地に辿り着くと、
「ハーマイオニー!?」
自分達には背を向ける形で、ベラトリックスの呪いの光にハーマイオニーが飲み込まれそうになっている光景が眼に飛び込んできた。
真っ先にロンとジニーが駆け寄り、援護する。
3人掛かりの攻撃には流石のベラトリックスも怯んだが、学生数人を相手に簡単に負けるほど彼女も弱くはない。しかし、ハーマイオニー達も負けてはいなかった。
「うぉおおおおおおおおお! 踏ん張れハーマイオニー!」
「諦めたら終わりよ! あともう少し、なんとか耐え凌いで!」
2人の鼓舞にハーマイオニーは大きく頷く。
明らかに力を増している3人の少年少女と闇祓い2人の登場に、分の悪い戦闘は避けるべきだとベラトリックスは腸が煮え繰り返る思いだったが堪らず戦線離脱することを選ぶ。
「あのお方には申し訳ないが………ここは出直すしか………」
全力で杖を横に薙ぎ、呪いの糸を断ち切る。
だが、そう易々と逃がす訳にはいかない。
「逃がさないわ!
ハーマイオニーはベラトリックスを捕まえるべく、ロープを出して捕らえようとしたが。
「………え?」
集中力が途切れたせいか、縄が出てこない。
それを見て、
「私がやるわ!」
ジニーがハーマイオニーの前まで走り出たが、途中で構えを解いた。縛り上げようにも、そうする前にベラトリックスが窓から飛び降りて空中で姿を眩ましてしまい、無意味に終わるだけになってしまったからだ。
「ごめんなさい………私が………取り押さえておけば………」
ベラトリックスが立ち去った瞬間、急速に疲労感と脱力感にどっと見舞われ、肩で大きく息をしながら、ハーマイオニーは顔を歪めて申し訳なさそうに言う。体力の消耗が激しく、身体を支えているのもやっとと言う感じで通路の床に膝をついているのを見て、ジニーは首を横に振る。
「いえ、私がもう少し早かったら………」
あと一歩と言うところまで追い詰めたベラトリックスを逃がしたことは残念だが、
「でも、死喰い人の連中の中でも猛者のアイツを退けられたんだ。それだけでも、十二分に凄いことだぜ」
とロンが笑顔で言い、ジニーも首肯する。
「ハーマイオニーは十分過ぎるほど頑張ったわ。だから―――」
ジニーが最後まで言い切る前に、
「総員退避いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
空間一帯に『拡声呪文』を用いたのだろう死喰い人の図太い声が、撤退命令を下し………あれだけの激戦が嘘のように、呪文の応酬はピタリと止んで大量の黒い影が一斉に消え去った。
♦️
時は遡り―――。
ハーマイオニー達と別れたハリーとフィールは持ち前の戦闘能力を活かして進撃していた。何かと障害物が多い環境下なのでド派手にやらかすことはあまり出来ないが、長年数多くの修羅場を潜り抜け、そして誰よりも場数を踏んできた2人は見事なチームワークを発揮する。
2人同時に撃った呪文で一つ先の車両へと吹き飛ばしたり、どちらかが『盾の呪文』を展開してどちらかが『失神呪文』や『金縛り呪文』で死喰い人と交戦したり―――時折ロケットに宿っているクラミーが敵の攻撃を弾き飛ばしてサポートしてくれるのもあって戦い慣れているハリーとフィールは互いに信頼を置き背中を預けながら、どんどん入ってくる死喰い人を撃破していった。
その2人は今、走行中のホグワーツ特急の屋根である男と対峙していた。
「久し振りだな、ハリー・ポッター。フィール・ベルンカステル。2~3年前はまだ幼い子供と言うイメージが強かったが………身長もかなり伸びたようだし、顔付きも随分大人びたじゃないか」
少しソバカスがあるそれなりに整った顔立ちに風に吹かれて揺れる薄茶色の短髪。一昨年、一回だけ見たことがある当時に比べたら肌はきちんと手入れされているし、身形も綺麗だ。
彼―――バーテミウス・クラウチ・ジュニアは両手にそれぞれ持つ細長い杖をクルクルと弄びながら、出身寮のシンボル動物の蛇のように舌なめずりし、爽やかな、それでいて余裕のある笑顔を浮かべてこちらを睨んでくる黒髪の少年少女と向き合っていた。
此処は走行中の電車の上と言う足場がとてつもなく不安定な場所なので、敵味方関係無しに共通で自由に動き回る真似は出来ない。その場で微動だにしないハリーとフィールは、視線だけは敵対するクラウチJr.をしっかりと捉える。
「そういうお前も、ちょっとはマシな格好になったな。………去年、お前は神秘部に来なかった。何故なんだ?」
「君達にわざわざ親切に答える義理なんて無いから、お好きなように」
クラウチJr.は芝居が掛かった口調で言い、これまた芝居が掛かった自然的な動作で胸に手を当てて恭しく頭を下げる。御辞儀をする様はまるで闇の帝王みたいだなと、口には出さないで2人は心の中だけで思った。
「さ、お喋りはこのくらいにしておこうか。本音を言うと、僕は君達とはあまり戦いたくないのだけれど、まあ仕方がない」
「帝王直々に宿敵を倒したいと願う御主人様の命令は必ず守らなければいけないからか?」
「確かにそれもあるけど―――」
邪悪な笑みを貼り付かせるクラウチJr.は2本の杖を掲揚し、
「―――あんまり長引いてしまうと、僕が君達を誤って痛め付けてしまう恐れがあるだろう!?」
言葉とは裏腹に、唐突に魔法を撃ってきた。
小さな白い光―――『
真白き閃光は絡み合って太くなり、通常よりも威力が増した闇魔術の一撃が光速で飛んで来た。
即座にフィールが一歩前に出て銀の盾を作り出し、自分とハリーの身を護る。最初から予想していたクラウチJr.は動揺せず、むしろ面白そうな様子で2本の杖を闇雲に振り回し、反撃するチャンスを与えないで連続で呪文を射出した。無差別攻撃は軌道が読めず、見極めて避けるのは困難なので、フィールは継続して呪いの猛攻を防ぐ。
「どうしたんだい? このまま防御に徹していたら、その内、力を使い果たすかもしれないよ? 防戦一方なんて、まるで君らしくない。攻撃の隙を突いて、少しは反撃してきたらどうだ!?」
嘲るように笑いながら、クラウチJr.は挑発してくる。返り討ちに遭うのを危惧して反撃のチャンスを与える気など無いクセに、と舌打ちするフィールに代わって、ハリーが声を張り上げた。
「さっきから思ってたんだが………これは一体どういうことだ? お前の目的が僕達をアイツの元へ連れ去ることなら、僕達の命を奪うような真似は出来ないはずだ!」
「その通りだけど、逆に言えば、命に危険が及ばなければ、何をやっても大丈夫と言う証明にならないかな? 君達を―――いや、
「そんな………なんてヤツだ!」
聞き捨てならないクラウチJr.のセリフに、糾弾に近い声でハリーは明るいアーモンド状の緑眼を大きく見開かせる。
「僕だけじゃなく、フィールもアイツが………ヴォルデモートが、自分自身の手で殺すから生かしておけって言われたんじゃないのか!?」
ハリーの問いに、一旦攻撃の手を止めたクラウチJr.がこれだけは丁寧に説明してくれた。
「簡単なことだ、ポッター。襲撃前、僕達は『あの方』に2つの任務を受けた。まず1つが、君を生かしたまま『あの方』に面会させること。そしてもう1つが―――必要とあらばフィール・ベルンカステルを殺害しろ、とのご命令だ。彼女には君のようにちょっと特殊な護りがあるせいで殺せる手段は然程多くは無いけれど、0と言う訳ではない。だから………後顧の憂いを断つためにも、彼女には此処で死んで貰うよ!」
直後、再びクラウチJr.が先手を打ってきた。
同時、盾を消失したフィールとハリーも杖を振るって対抗する。
流石は最もヴォルデモートに忠実な死喰い人の一人だ。そこいらに居るような魔法使いとはまるっきり桁違いなその才腕は、同じく執念深いレベルで忠誠心を誓うベラトリックスと同等かそれ以上で並外れている。
学生時代、
とは言えそれは、一歩間違えれば十中八九命は無い戦場だからの話であり、平らな場所であったらここまで戦えるかどうかはわからない。
一応他の死喰い人と比較したら強者の類に入るだろうと言う自負はあるが、だからと言って増長したりして己の実力は絶対的な強さを誇っていると思い込み、過信し過ぎるのは自分で自分の首を絞める行為だ。過度な自惚れは控えるべきだと、その点は自信過剰な者が多い死喰い人にしては珍しいことにクラウチJr.は理解している。
(あの時は偶然運が味方したとは言え、一度『あの方』と多数の死喰い人を掻い潜ってホグワーツへ帰還したポッターとベルンカステルを一度に相手するなんて、無茶に決まってる………)
例えるなら、物語で言うところの『主人公補正』的な強運の持ち主である2人だ。前回みたいなことが起きても不思議じゃない。
しかし、今はまだ退く訳にはいかない。
万が一劣勢に立たされて撤退を余儀無くされたら迷わず撤退しろとの許可は出されているが、それではあまりにも早すぎる。
だから、全力で戦うしかない。
今はもう少し、粘ってみよう。
死喰い人の一人として、闇の帝王に忠誠を誓う忠実な部下の名に賭けて。
(くそっ、やっぱりコイツは強いな………ことごとく全て受け流される………)
クラウチJr.と戦い始めてから数分が経過。
休む暇もなく杖を振るい、呪文の応酬を繰り広げるフィールは思い通りにならない不本意な現状に苛立ちを覚えてきた。
このままではマズい。
では、どうすれば打破出来る?
思考を回転させながら戦闘を続けていると、突如汽車内から上がったハーマイオニーの悲鳴とベラトリックスの嗤い声が耳に入った。
外に居る2人は知らないが、ベラトリックスに単身で挑んだハーマイオニーが『磔の呪文』を受けたのだ。
「ッ!? 今、何が起きて―――」
ハリーの注意が一瞬、クラウチJr.から逸れて思わず肩越しに汽車の屋根を振り向いた瞬間、
「油断大敵だ、ポッター!」
4年時、ムーディに成り済まして防衛術を担当したクラウチJr.は皮肉を交えてムーディの口癖を真似て、呪文を放った。
「! しまっ―――」
ハッとしたハリーが急いで真っ正面に向き直った時―――
「
足元の屋根に杖を突き立てたフィールが鋭く唱えた直後、小さく爆破した足場が崩れ落ち、2人は汽車の中に垂直に落下した。爆破による危害は受けないよう、殺傷能力を抹消させると言う常人には真似出来ない神業を披露したフィールだからこそやれたことだ。
「―――うわあッ!?」
いきなり足場を失ったハリーは咄嗟のことに対応出来る訳が無く、重力に従って身体が落下していく。両足に地面をついて着地したフィールはハリーをキャッチすると、彼が文句を言ってくる前に、一番近くのコンパートメントのドアをガラッと開けて中に放り投げた。そして暫くの間は扉が開けられないよう魔法を施すと、フィールが開けた穴を追って車内に侵入したクラウチJr.と一直線の通路で対峙する。
「何をしたかと思えば………まさか、屋根に大穴を開けるなんて。君も中々物騒なことをするね。大切な仲間に怪我をさせてもいいのかな?」
「そうならないためにも、ちゃんと殺傷能力は抹消した。じゃなかったら、いきなり生身で『爆破呪文』を受けさせる訳無いだろ」
「君のその才能は、本当に化け物かと疑いたくなるよ………それはそうと、わざわざ僕に有利な場所を提供してくれるなんて、サービスのつもりかな?」
多勢に無勢の場合はともかく、1対1の場合、狭い通路は汽車の上よりも遥かに戦いやすい。わざわざこうして一直線の道に連れてきたフィールの意図にまだ気付いていないクラウチJr.は不敵に微笑む。
(………ごめん、お母さん。これだけは、バリア展開しないで)
(! フィール、貴女まさか―――!)
その時、死喰い人の一人が戦線離脱を公言。
クラウチJr.の背後を見やると、黒いシルエットが次々と姿を眩ます光景を確かに目撃した。
目の前の彼は、やれやれと肩を竦める。
「本当は、もう少しだけ君との戦いに付き合ってもよかったのだが………どうやら、ここまでのようだ。非常に残念だよ」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、ベルンカステル。退散する前に、僕から君に一つプレゼントをあげよう」
「プレゼント? なんだ?」
訝しそうにフィールが首を傾げた瞬間。
「ああ、そうだよ―――受け取れ、ベルンカステル!」
そう言って、クラウチJr.は呪いを撃った。
元々、撤退命令が出されたら最後の仕上げに呪いを『プレゼント』する予定だった彼にとって、なんとフィール自身が一本道に誘導してくれたのは、好都合だった。
だから、クラウチJr.はほくそ笑む。
それこそが、フィールの狙いだったことに気が付かないで。
「―――ッ!」
フィールは、肉を切らせて骨を断つと言う戦法で、クラウチJr.にわざと呪いを撃たせ、勝利したと油断して気が緩んだ瞬間を捉えて、強力な呪いをぶっ放した。
「―――なにッ!?」
まさか相打ちを狙うとは思わなかったクラウチJr.はフィールの意外な戦法に驚きつつ、素早く反応した彼はバリアを張ってブロックする。
が、直撃は免れたものの………フィールの呪いは障壁を軋ませ、遂には突き破ってクラウチJr.の身体を突き刺した。割りと不意打ちの行動だったが、そこは流石クラウチJr.と言うべきか、フィールに負けず劣らずの驚異的な反射神経でクリティカルヒットは回避したけれども、受けたダメージはかなりのものだった。
「うっ!? おのれ、ベルンカステル………最初から図ってたな………!?」
捨て身の攻撃に出た結果、ボロボロになって地面を転がるフィールをクラウチJr.は呪いを受けた箇所を押さえて苦しみ悶えながら、憎々しげに睨み付ける。
「お前を………確実に仕留めるには…………こうでもするしか………なかったからな………結局は失敗したけど………油断大敵と………自分からそう言って………見せたお前の油断は………笑い物だぞ…………」
フィールは一言一言を絞り出すように告げる。
色白の肌は鮮血で化粧され、全身はボロボロになり、喋る度に口から血が吐き出される。
殺すなら、今。
だが、クラウチJr.は己も受けた呪いが我が身を喰い尽くす前に退避するべきだと思い直し、「勝負はお預けだ! 覚えてろ!」と捨て台詞を吐き捨てると、彼もまた、姿を眩ました。
クラウチJr.が居なくなったのを見届けたハリーは、フィールがドアに掛けた魔法がいつの間にか解かれ、ロックが解除されているのを知ると、すぐさまガラッと開けて中々眼を開けない彼女を抱き抱えた。
「フィール! フィール! 大丈夫!?」
先程フィールが何も教えないであのようなことをした彼女の行動の意味を把握したハリーは、瀕死の重傷を負った彼女に必死に呼び掛ける。
ゆっくりと眼を開けたフィールは、ぼんやりとする視界の中で緑色に輝くハリーの瞳をハッキリと捉える。
「大丈夫だ………ちょっと怪我したくらい………どうってことない………………」
その言葉とは真逆で苦悶の表情を浮かべて苦しそうに喘ぎながらも、フィールは話すのを止めなかった。
「………悪かった………事前にこの事を教える前に………危険な目に遭わせて……………」
意識が、薄れていく………。
徐々に徐々に重くなっていく瞼に懸命に抗うフィールは朦朧とする視野の中で緑の輝きを放つ、最早見慣れたはずの少年の双眼に、何故か漠然とした懐かしさが胸の奥で呼び覚まされた。
―――僕達、また、会えるよね?
不意に、耳の奥である少年の声が鮮明に反響する。
(あれ………その声………その眼は―――)
意識を失う寸前―――フィールの脳裏に、目の前に居る『彼』とピッタリ重なる、遠い記憶の存在の少年の姿が思い浮かんだ。
【ハーマイオニーVSベラトリックス】
片や一般(?)の学生、片や強者死喰い人。
普通だったら脇目も振らず逃げる状況で単体で挑むハーミーは精神的にも肉体的にも物凄い成長を遂げた。
【原作以上に強い原作キャラ′s】
夏休み中にバリバリ鍛練した結果→メキメキ強くなってレベルがぐんとアップ。
【掛かってこい!刺し違えてでも食い止める! 先に進みたいなら私を殺してからにしろ!】
誰だお前は!? と言う感じのカッコいい一面を見せてくれた(と思われる)ハーミーの名場面。
【押し通る! 邪魔するな!】
かの有名なもの○け姫の名言。
日常的にも使えるめっちゃ便利でしかもカッコいいこのセリフ、一度言わせてみたかった。
【クラウチJr.とエンカウンターin汽車の上】
4章以来となるクラウチJr.登場&念願の夢が叶った瞬間。
【主人公補正的な強運】
補正『的』ではない。本当に『補正』なんだよJr.君。
【肉を切らせて骨を断つ】
要は捨て身の戦法。
【ブラックアウト寸前に脳内浮上した『彼』】
意識失う前に何かを思い出したフィール。
これは次章、もしかしたら遂に………
【謎のプリンス編終了】
はい、無事に6章も終了しました。
本章はもう原作キャラの成長を描いたチャプターと言ってもよかったのではないでしょうか? その中でも特に著しい成長を遂げた原作キャラの筆頭は、やはりハーマイオニーでしょう。
親しかったオリキャラ一人の死が後に凄まじい影響を与え、最早別人と言っても過言ではないほどの進化を見せてくれました(ハーマイオニーファン、これは必見ですよ?)。
実はそれが目的でエミリーさん死亡を敢えて5章で取り入れたりして(意味深)。勿論、ロンやジニーも結構早い段階で大人になりました。
大体のハリポタ二次創作スリザリン主人公物のハリーsideの原作キャラは、一部を除いてめっちゃ嫌なヤツになったりウザいヤツになったりするのが主流ですが、この作品のハリー達は一周回ってかなりいいヤツです。
あくまでもこの作品では、ですよ?
最初に前置き報告しておきますが、この作品完結後に投稿予定のハリポタ二次創作では、ここまで綺麗なハリー達とはおさらばになります。ですので、今の内に綺麗なハリー達を堪能してくださいね。
場合によっては別の意味で対立も有り得ますし、それこそ例えオリ主がグリフィンドール所属だったとしても敵対する可能性はあります。下手すると、もしかしたらハーメルン史上最もダーティーハリー′s(一部を除いて)が登場するかもしれない。
その事は、忘れないでくださいね。
逆にこの作品のハリー達が類稀だったんです。
何故か原作より物分かりがよかったクリアな彼等が特別だったと思ってくれて構いません。ってか、実はオリキャラの中にも当初のキャラ設定とは180゜違いすぎるヤツいますし。謎の経緯を辿って今のようなキャラにどうしてなっちゃったのは、作者の私でも疑問の中の疑問です。本当になんでなんだ………。
さて、次回いよいよ7章もとい最終章『死の秘宝』編がスタート。
第7章(最終章)に続きます。また見てね、バイバイ。