【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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フィール「さあ、始まるざますよ(´・ω・`)」
ハリー「行くでガンス(*´ω`*)」
ロン「フンガー!(・`ω´・ )」
ハー子&ジニー「(久し振りの更新なんだから)まともに始めなさいよっ(*`Д´)ノ!!!」

はい、本当に皆さん超お久し振りです。そして更新メッチャ遅れて申し訳ございません。立て続けの多忙スケジュールオンパレードが終了して少し落ち着いた矢先、今度は体調崩して身体が倦怠感に見舞われる日々に………。
皆さんも季節の変わり目や気温の寒暖差には気を付けてください。
何はともあれ、更新を再開します。


#105.記憶喪失【後編】

 ハリーは1人、杖を振るっていた。

 ヴォルデモート卿と同じ不死鳥の尾羽根が芯に使われている柊の杖を何度も何度も。

 余計なことは一切考えず、己を苦しめる葛藤を振り切るよう、一心不乱に同じ動作を繰り返す。

 どのくらい時間をそうして過ごしていたのか、腕が振り抜かれる度に眩い閃光が迸り、それと同時に汗も飛び散る。

 それでもハリーの腕は止まらない。

 心の中に生じた自責の念を振り切るまで、その腕は止まることはないようだった。

 

『私、全部思い出せるでしょうか………自分のことも、皆のことも』

 

 数日前耳にしたフィールの悲しげな、胸の内に抱えてくる不安が否応無しに伝わってくる声が木霊する。

 あの声が、言葉が、頭から離れない。

 全ては不甲斐ない自分のせいで彼女は………名前も友人も家族も思い出せないほどの記憶喪失になってしまったのだから。

 あの日、自分を庇い重傷を負ったフィール。

 それに続くよう脳内に浮かび上がるのは、吸魂鬼が彼女の魂に食らい付こうと、おぞましい顔を彼女の顔に近付けていく光景―――

 

「―――くそっ………!」

 

 浮上した情景を断ち切るように頭を振り、忌々しそうに舌打ちし、ブンッ! と思い切り杖を振り下ろす。

 術者の心情をそのまま反映するかのよう、今までは線香花火みたいに小さくて細かった閃光から杭みたいに太くて大きい奔流が放出された。

 激しい火花を散らしながら草が刈り取られ、夜風に吹かれて散っていくのを見送ったハリーの右手に握られている杖の柄に、汗が伝って地面にポタポタと落ちる。それに気付いて、ハリーはようやく動きを止めた。

 

 1つ気付けば他にも気付く。

 纏った服が吸収された汗でずっしりと重い。

 それだけ長い間、ハリーは動き続けていたと言う意味だ。

 額に吸い付く前髪から滴る汗を鬱陶しいと言わんばかりの不機嫌な面持ちで邪魔そうに掻き上げながら、奥歯をギリッと噛み締める。

 腸が煮えたぎるこの思いは、この苛立ちは、全て迂闊だった自分自身への怒りだった。

 まるで追い打ちを掛けてくるかのように、クラウチに容赦無い『磔の呪文』を掛けられた時の絶叫が耳の奥で鮮明に甦り、怒り心頭に達するハリーは思わず手に持っている杖を地面に叩き付けたい衝動に駆られた。

 眼を閉じれば………いや、閉じなくとも、ふとした拍子に思い返せば、網膜に再びあの胸を抉るような残酷な光景が去来し、どんな名剣よりも鋭い切れ味でハリーの心を一刀両断する。

 少しでも気を緩めれば、活動写真を繰り返し見るかの如く、まざまざと脳裏に映し出されてしまうのである。

 

 これは危険だ。

 幾度となく繰り返しても、これは完全に致命傷だった。

 この傷は決して癒えることがなく、繰り返す度に深く抉られていく。

 頭を抱えてその場にしゃがみ込みそうになる自分自身を奮い立たせるべく、ハリーは両手で頬をパチンと叩くと、肩を軽く上げて服の袖でこめかみを伝う汗を拭い、ふーっ、と息をついた。

 友人が『吸魂鬼の接吻』を受けようとしている瞬間にただ見ていることしか出来なかった場景は今も脳裏に焼き付き、頭の奥に巣食ったまま遠ざからない。

 元凶たるハリーに己の不注意で引き起こした事の重大さを思い知らせているようにも思えなくもない。

 直接的にフィールを極限状態まで追い詰めたのはクラウチと吸魂鬼だ。だが………その要因は、そうなるきっかけを作ったのは、他ならぬ自分自身。

 

 その事実が、ハリーをここまで責め立てる。

 どう足掻いたって、間接的にフィールを激しく傷付け、記憶喪失になるほどの辛い目に遭わせたのは自分であることに変わりはない。

 他の皆だって、きっとそう思っているに違いない。ハッキリとは口には出してはいないが………それは記憶を失ったフィールや友人関係の自分の手前、敢えてそういうことは何も言わないように気を遣っているだけだ。本音と建前は十中八九真逆と思われる。

 

 特に身内のライアンやクリミアは憎んでいるだろう。と言うか、憎んでなかったらかえっておかしい。

 大事な家族をこんなにも傷付けられ、心中穏やかでいられる家族は普通居ない。

 今はまだ責めたりしてくることはなく、むしろ励ましの言葉を送ったりして慰めてくるが、内心では自分のことを激しく嫌い、そして気が済むまで罵りたい気持ちで一杯のはずだ。

 このままフィールが失われた記憶を取り戻すことなく長い人生を歩む羽目になったら、いくら優し過ぎるライアン達と言えども確実に罵倒してくるだろう。

 

 否、本来であればとっくの昔に然るべき処置を行うべきのはずだ。

 なのにそうしない。

 それが逆にハリーを追い込む。

 とは言うものの、彼等からするとハリーを責めたところでフィールが記憶を取り戻したり、今の状況が好転する訳じゃないのはわかっているし、彼だけに非があるかと言えば、それは違うと言える。

 

 何故ならば、細かく言えばあの時のハリーの提案を拒否して皆で固まって行動していれば良かったのに、戦えない患者の救済や戦い慣れてない癒者の援護を優先するあまり彼とフィールを2人きりにさせたシリウスやムーディ、クリミアやライリーの判断が間違いだったとも言えるからだ。

 もっと言えば、聖マンゴまで付き添った護衛役がたったの2人だけだった、と言うことがある。

 あと4~5人居れば、もう少し上手い立ち回りが出来たかもしれないと思う。あの時は間一髪のところで駆け付けられたから、ハリーとフィールを助けることが出来たが―――。

 もし、間に合わなかったら………そう考えるとゾッとする。

 

「―――もうその辺にしとけ、ハリー」

 

 暗がりの中から聞き慣れた声が耳を打つ。

 ハッと振り返ってみると、そこには案の定ロンとハーマイオニーが立っていた。2人共寝間着の上にカーディガンを羽織っている。

 

「………いつから其処に居たんだ?」

「結構前よ。中々寝付けなくて、それでふと外を見たら貴方が出て行くのが見えて、後を尾いて行こうと下に降りたら―――」

「―――同じように外から僕が出て行くのを見て追い掛けようとしたロンと遭遇して、2人で尾いてきたってことか」

 

 2人は小さく頷く。

 ハリーは深いため息をついた。

 口振りからして随分前から居たそうだが、それに全然気付かなかった自分が腹立たしい。それだけ一点に集中してたのか、あるいは2人が気配を隠すのが上手いだけなのか………どちらにしろ、これが実戦だったら確実に背中を取られていたに違いない。

 そう考えるハリーに、ハーマイオニーがそっと声を掛ける。

 

「………ハリー、貴方、最近なんだか変よ」

「は? 変? 僕が?」

「ええ。ロンもそう思うでしょ?」

「ああ。ハリー、確かに君は最近おかしい。自分でそう思わないのか?」

「何が?」

 

 ハリーは首を傾げながら2人に尋ねる。

 しらばっくれている訳でも嘘をついてる様子でもないハリーの質問に、ロンとハーマイオニーは顔を見合わせると、彼の眼を真っ直ぐ見ながら回答した。

 

「一言で言うと、まさにトランス状態って言葉がピッタリだ。君は現在、以前にも増して気性が荒くなってる。君がさっきまで杖を振ってるのを見てて思ったんだけど、動作もあからさまに荒々しくなっている」

「それだけじゃないわハリー。貴方は自覚してないかもしれないけど、あの襲撃事件以来、目付きも明らかに変わってる。今もそうよ」

 

 ロンとハーマイオニーが見つめるハリーの眼。

 アーモンド状の形をした緑のそれは、まるで荒ぶる獅子のような獰猛な輝きを以て自分達を鋭く見据えている。

 前のハリーはこんな眼差しをしていなかった。

 優しくて穏やかな、見る者に元気と勇気を与えてくれるような………そんな瞳だった。

 なのにこの変わり様、豹変ぶり………。

 ハリーは今、危険地帯(デンジャラスゾーン)に入っていた。

 

「それはそうさ。全部僕のせいなんだから。僕がちゃんとしていれば、フィールが記憶喪失になることも、クラウチを逃すこともなかった。このツケは必ず払う。次に会った時、僕はこの手でアイツを倒すと決めた。勿論、ヴォルデモートもだ。もう誰も傷付けやさせない。誰の手も借りる必要が無いくらい強くなって、アイツらの野望を打ち砕いてやる」

「おい、ハリー」

「いや………もうここまで来て、『倒す』なんて手緩い真似はダメだな。『仕留める』くらいの覚悟で行かなきゃ、今度は―――」

「ハリー、少し黙れ!」

 

 尚も物騒な言葉を次々と紡ぐハリーを遮り、ロンが声を上げる。ハリーは「なんだ?」と不機嫌この上ない顔でロンを睨んだ。

 その視線に怯まず、ロンは睨み返す。

 

「なあ、ハリー。君はいつからこんな人格者になったんだ? そりゃ、フィールがあんな風に自分や僕らのことを全く思い出せなくなって誰よりも君が一番辛い気持ちなのは、バカな僕でもよくわかる。でも、クラウチや闇の帝王を1人だけで倒そうなんてただの命知らずのバカがやることだ。その杖が泣くぞ!」

 

 ロンはビシッとハリーの右手にある柊の杖を指差す。

 長年共に学び、共に戦ってきた運命共同体とも呼べる己の杖を一瞥後、ハリーはすぐにロンに視線を戻した。

 

「君の言いたいことはわかった。だけどこれは、普通の魔法使いに出来うる役目じゃない。僕だけが、ヴォルデモートを唯一倒せる『選ばれし者』なんだ。世界を救う者として見定められ、そして宿命に導かれた者として必要とあらば―――己の身に降り掛かってくるありとあらゆる責任を背負うのも、自らの運命を受け入れ1人で巨悪に立ち向かうことも厭わないと言うか、それが僕に与えられた使命なんだ」

「―――『自分は選ばれし者』と連呼するようになったら終わりだろ! そうやってすっかりその気になって得意になっているのが、真に闇の帝王を打ち倒すヤツとして選ばれた魔法使いか!?」

 

 フィールが記憶喪失前に受けた出来事にショックを受けて自分やハーマイオニー達のことを忘れてしまったように、ハリーもまた、自責の念に駆られるあまり『自分はヴォルデモートを唯一倒せる選ばれし者』と言う逃げ道を作って己を見失い掛けている。

 だからこそ、ハリーの心の芯の部分に声が届いて本来の純粋さを取り戻せたらいいと思い、ロンは叫んだ。

 

「僕達の知るハリー・ポッターは、そんなヤツじゃなかったはずだ! 言い方は悪いが、今の君は親の権力やコネを顔の前にぶら下げて得意満面になるようなマルフォイと何も変わらないぞ! 目を覚ませ!」

「煩い! 本当は僕の気持ちなんか何も知らないクセに! 君は見たのか? 吸魂鬼がどうやって人間の魂を吸おうとしてたのかを。人を痛め付けることに快感を覚え愉しそうに嗤うヤツの恐ろしさを、君は嫌と言うほど思い知らされたか? 僕はあの日、目の前でフィールが苦しむ光景を見せ付けられて嫌になるくらい思い知らされた。このままクラウチやヴォルデモートを放っといたら被害は拡大する一方だ。そうなる前に、早くアイツらを捜索して見付け次第討伐する。それのどこが間違ってると言うんだ?」

 

 すると、それまで黙って事の成り行きを見守っていたハーマイオニーが口を開いた。

 

「確かにハリーの言っていることは正しいと思うし、それも一理ある。でもねハリー。貴方は急いで敵を倒したいと強く考え込み過ぎてるせいで、一番大切なことを忘れてるわ。貴方を含め、私達が今やるべきことは、フィールの傍に居てあげることよ」

「悪いけどハーマイオニー、僕にはフィールの傍に居る資格は無い。何故なら―――」

「―――『何故なら自分のせいでフィールは記憶喪失になったから』、と言いたいの? ハリー、それは違うわ」

「何が違うって言うんだ? 僕が言ったことは全て本当のことだろ? 何もかも僕のせいだ。僕が元凶だ。そんなヤツが近くに居たら、また周囲の人達を傷付けてしまう」

 

 それに、と………だんだんと自暴自棄になっていくハリーはこんなセリフを口走ってしまった。

 

「僕を気に掛けたり、心配する素振りは止してくれよ。君達だけじゃない。他の皆もだ。建前上は慰めていても、本音は僕のことを忌み嫌って疎ましいヤツと思ってるんだろ? 見え透いた芝居に付き合うのはもう疲れたんだ。僕が邪魔者なら、殺したいほど憎んで然るべき存在なら、早く突き放してくれよ。そうしてくれた方が、気分がすっきりする。君達は親切心からそうしてるのだろうけど、その場しのぎの優しさなんて、僕にとってはまさしく拷問だ」

「何を言ってるの!? ハリー、私達が貴方を忌み嫌う訳ないじゃない!」

「そうだぜハリー! 僕らが君を嫌うなんて、どうしてそう思うんだよ!」

「………………」

 

 ハーマイオニーとロンは愕然とした様子で口々にハリーに向かって叫ぶ。

 が、ハリーは冷たい光を宿した両眼を細めただけで、何も言ってこない。

 その眼光はまるで、昔のフィールとそっくり。

 記憶の中にある少女の眼と目前に立っている少年の眼がオーバーラップしたロンは、無言のまま背を向けた友人に腹を立て、

 

「―――いい加減にしやがれ!!」

 

 と、肩を掴んで強引にこちらに向かせると、ロンは拳を握り締めてハリーを渾身の力で殴り飛ばした。

 

「ぐぁっ………!」

 

 左頬を一発ぶん殴られたハリーは吹っ飛び、もんどり打って倒れた。殴られたせいで口の端が切れ、そこから血が滲む。ハリーは顔を上げてロンに文句を言おうとしたが、そのロンが上になって押さえ付けてくる。

 

「おいハリー。もう一度訊くぞ。さっきのはどういう意味だ?」

「………………」

「黙ってないで、何とか言えよ」

「………………」

 

 黙りを決め込むハリーに、ロンの語気が荒くなる。

 

「おい! 黙ってないでちゃんと言え! 言わなきゃわかんないだろ!?」

 

 ロンは胸ぐらを掴んで激しく問い詰めたが、ハリーは顔を背ける。頑なに答えようとしないハリーを見て、それまで唖然としていたハーマイオニーが、珍しく怖い顔で見下ろした。

 

「ねえ、ハリー。正直に言わせて貰うわ。今の貴方の有り様は私達から見ても相当酷いものよ。身を挺してまで貴方を護ったあの娘が報われない。見てるこっちが心苦しくなるくらいだわ」

「………………何を言いたいんだ?」

 

 やっとのことで喋ったハリーは、こちらを見下ろしてくるハーマイオニーに問い掛けた。ハリーの問いに対し、ハーマイオニーはこう答える。

 

「過去の出来事にいつまでも縋ってうじうじ考える暇があるなら、どうすればフィールを護れるか考えなさい、って言ってるのよ! ハリー、貴方はこれまで何度もフィールに助けられてきたわよね? その時フィールは、貴方を責めたりとかしたかしら? 『お前のせいで私は大怪我を負ったんだ』とか、そんなこと、一言でも言われた記憶があるかしら? 少なくとも私は知らないわ。それにエミリーさんの時だってそうよ! 墓参りに行った時、フィールは私にこう言ったわ! 『あの人が命を賭してでもアンタ達を生かしたなら、その気持ちを無駄にするな』って! そう言ったフィールは前言を撤回しなかった。それがフィールの本心だからよ。あの言葉は決して嘘偽りじゃなかったと私は断言するわ!」

 

 一気に捲し立てたハーマイオニーははあはあと肩を上下させ、深呼吸してから、再度口を開いて言葉を続ける。

 

「エミリーさんが私達の前で死んだの、今でもハッキリと思い出せる。全身に浴びた生暖かい血の感触や辺り一面に充満した鉄の匂いだって、鮮明にね。………あの時のエミリーさんは、私達を庇って死ぬ直前だったのに、それでも笑顔を絶やさなかった。そして私達に言ったのよ。『ありがとう』と。だから私は決めたわ。エミリーさんの遺志を、誇りを傷付けるようなことはしない。あの人の死を無かったことにはしない、けれど今の世を足掻いてでも生き延びることは忘れないと。エミリーさんの最期の言葉と励ましてくれたフィールの言葉が、自責の念に囚われていた私を教え導いてくれた」

 

 静かだが重みのある声音でキッパリと言い放ったハーマイオニーに続いて、ロンが言う。

 

「ハーマイオニーの言う通りだぜ、ハリー。過ぎ去ったことは今更悔やんでも仕方がない。なら、今をどうするべきか、それを考え行動するのが大事だろ。僕達に立ち止まってる暇なんかない。何が起きても前へ進むしかないんだよ。過去に囚われて振り返んな、いつものようにひたすら前だけを見て猪突猛進して見せろ。試行錯誤し続けながらも尚諦めずに我を貫き通す。それが僕らの知るハリー・ポッターその人だ」

 

 だが、そんな2人の言葉も、ハリーの耳には届かない。ハリーは2人の言ってる意味が理解出来ないと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「………その様子じゃ、今何を言っても無駄なようだな」

「ええ………そうみたいね」

 

 再び顔を見合わせたロンとハーマイオニーは揃って肩を竦める。そうしてロンはハリーから離れると、彼の肩をドンッと突き飛ばした。

 

「君が本来の自分を取り戻すまで、僕達は君と口を利かない。1人になってよく考えろ」

 

 それだけ言って、ロンは踵を返す。

 ハリーは相変わらず、そっぽを向いて口を閉じていたが………その彼の頭に、突然バサッと何かが降ってきた。

 手に取ってみると、それは今しがたまで羽織っていたロンのカーディガンだった。

 どういうつもりだ? とロンの方に目線を上げたハリーに、当の本人はチラッと振り返る。ぶっきらぼうに言う。

 

「丘の上はこの時期でも夜は冷えるからな。さっさと隠れ穴に戻ってシャワー浴びて寝ろ」

「僕とは口利くんじゃなかったのかい?」

 

 嫌味たらしく、ハリーは挑発的に言う。

 以前のロンであったら、ここでカッと頭に血が上って躍起になっていただろう。

 しかし、ロンの反応は至って落ち着いてて、生意気なハリーの態度に眼を吊り上げることなく冷静に、それでもってぶっきらぼうに言い返した。

 

「君が倒れたりしたら、アイツが心配するだろ。記憶失くして不安で一杯なアイツに余計な心労は掛けようとすんなよ」

 

 そう言うと、今度こそロンは歩き去った。

 ハーマイオニーはハリーを一度見てから、ロンの後を追い掛けて行く。

 1人取り残されたハリーは暫く2人が消え去った空間を眺めていたが、やがて仰向けに地面に寝転がった。

 満天の星空が視界を埋め尽くす。

 丘陵を渡って吹いてきた夜風が、ハリーの髪を優しく揺らした。

 左手の甲で目元を覆いながら、ハリーは先程のロンの言葉を思い返す。

 

『君が本来の自分を取り戻すまで、僕達は君と口を利かない。1人になってよく考えろ』

 

(………ロンやハーマイオニーは僕に一体何を伝えたかったんだ? 1人になってよく考えろって言ってたけど―――僕が言った言葉に間違いがあるのか?)

 

 ハリーは1つ1つ、ホグワーツ入学から今日に至るまでの経緯を辿っていく。

 ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。

 魔法界とマグル界の文化や常識の相違、魔法族とマグルがそれぞれ持つ差別主義や思想傾向、切っても切れない寮同士の因縁―――。

 長年苦楽を共にした今だからこそ、グリフィンドールとスリザリンと言う犬猿の仲同士の寮の壁を越えて友情を育んだハリー達だったが、入学した当初は丸っきり違った。

 スリザリンと言うだけでフィールを初め他大勢のスリザリン生に対し嫌悪感を抱いていたロン。

 無口無表情で無愛想な性格からライバル心を燃やしつつもどこか忌避していたハーマイオニー。

 最初の時点でフィールに敵意と言う感情を持ってなかったハリーとは異なり、ロンやハーマイオニーの場合、誤解や偏見を乗り越え、辿り着いたからこそ深まった絆が存在する。

 

 自分達は茨の道を歩いて成長してきた。

 そして復活したヴォルデモートを筆頭とする闇の陣営に打ち勝ち、魔法界に失われた光を取り戻すと言う目的意識の基、これまで幾度にも渡って戦い続けてきた。

 そして闇の陣営のラスボス・ヴォルデモートを倒せるのはこの世でただ1人。

 そう、この自分ハリー・ポッターだけだ。

 彼等にとってもそれは望みであるはずだ。

 自分達はここからだろう。

 ここからが本格的な正念場と言うこんな時に何故行ってしまうのか。

 己の何が気に入らない?

 いつになったら己と本気で向き合う?

 ………これも運命の1つか。

 己がクラウチを、そしてヴォルデモートを討てば彼等も理解するだろう。

 

 そこまで考え、ハリーはハッとした。

 何故そう思うのだ。

 この闘争心は何処からやって来る?

 ヴォルデモート達を打ち破る………そう考えるとすぐにでも杖を交えたくなった。

 これはどういうことだろう?

 普通であれば、戦いたいどころか泣いて怯えるところではないか?

 ………わからない。

 自分自身でもわからない。

 どういう訳か、心が、魂が、精神が、強く引っ張られる。

 己の身に起きていることに思考が追い付いていかない。

 

 ………………。

 ………………………………。

 …………………………………………………。

 落ち着け。

 大丈夫だ。

 ちょっと混乱しただけだ。

 己はちゃんと前を向いて歩いている。

 これも1つの宿命であるならば、じっと堪えるのだ。

 

『一方が生きる限り、他方は生きられぬ』

 

 ハリー・ポッターとヴォルデモート卿、ひいては魔法界の命運が握られた、ホグワーツで『占い学』を担当するシビル・トレローニーの予言。

 

 全てはこの予言から始まった。

 彼女がヴォルデモートに関する予言をした時、当時はまだ死喰い人だったセブルス・スネイプはすぐさまヴォルデモートに報告した。

 予言に当て嵌まる男の子は2人居たが、スネイプは予言の最初の部分しか聞いてなかったため、もっと予言の内容がハッキリわかるまで待機する方が賢明と言うことや、どちらかの男の子はヴォルデモートの知らない力―――すなわち『愛』の力―――を持つであろうと言うこと、またどちらかを襲うことでその子に魔力を移してしまう危険性があることを、当時のヴォルデモートに警告することが出来なかった。

 その結果、将来の敵となる候補者の選択を委ねられたヴォルデモートは自分と同じ半純血の男の子―――ハリー・ポッターに脅威を感じ、殺害することに決め、後は皆の知ってる通りだ。

 

 左手の甲の下でハリーは眼を閉じる。

 ハリーが『生き残った男の子』として魔法界全土から崇められる代償として、彼を押し上げる犠牲者となったポッター夫妻。

 命を捨てて己を護ってくれた両親の仇が、暗闇の中で浮かび上がる。

 余裕綽々な笑みを浮かべるヴォルデモートの顔に、ハリーは決意を固める。

 今に見ていろ、ヴォルデモート。

 『選ばれし者』の名に賭けて、お前を必ず打ち倒してみせる。

 

 運命の導きに従い、使命を全うする。

 それでいい。

 導かれるままに進むんだ。

 そこにきっと………己が求める答えがある。




【まとめ】
今回は原作メインキャラ3人だけの登場でした。何気にオリ主が登場しない#ってこれが初のような気がします。
さて、皆さんお察しの通りハリーが徐々に豹変。ロンとハーマイオニーも手に負えないと半ば絶交気味。所謂『紙一重』状態のハリーの言動が今後どう影響するのか。
#107に続きます。
また見てね、バイバイ。
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