【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

109 / 130
もうすぐ夏休みですが、その前に避けては通れぬ道(難関)であるテストあったり他にも用事が多々あったりと、8月入るまでは立て続けにハードスケジュールで殆ど埋め尽くされて更新めっちゃ遅延します。
8月入ったら出来るだけ早く更新出来るように頑張りますので、どうかご了承ください。

※11/18、一部セリフ修正。


#107.約束【前編】

 パッと目を開けると、見慣れない天井が視界に映った。

 目を覚ましたフィールは朧気な瞳でボーッとそれを見つめていたが、暫くしてハッと半身を起こし、周囲を見回す。

 読書している最中に寝てしまったせいか、指に本が掛かった状態であった。

 この部屋の所有者がクィディッチマニアの為か室内の至る所にクィディッチに関係する雑誌類やグッズ、アイテムがズラリと並べられており、壁にはペナント、飾り棚の上にはプロのクィディッチ選手のフィギュア等が置かれている。

 それらを見て、記憶を辿ったフィールはやっと思い出した。自分は今、ベイカー家の2階に在るクシェルの私室に居るのだ。前まではハーマイオニー同様、隠れ穴に居たのだが………。

 

 最近ハーマイオニーとロンがハリーとは一切口を利かなくなり、ハリーもまた、2人のことを露骨に無視する嫌な雰囲気が漂い始め、「記憶喪失になった自分のせいで仲が悪くなったのでは?」と申し訳ない気持ちと居心地の悪さの板挟みになったフィールを気遣い、気分転換も兼ねてクリミアが連れて来てくれたのだ。

 今頃クリミアは1階のリビングに居るだろう。

 家族や知人、現在の時勢については既にクリミアを初めとする多くの人間から聞き及んでいる。

 それだけじゃなく、少しでも記憶を取り戻すきっかけになればと、実際に顔を合わせさせたり、想い出深い場所に連れて行ったりしてくれた。

 しかし、記憶が戻る兆候は今のところなく、フィールもフィールで一向に何も思い出せない自分自身に対し、焦燥感ばかりが日に日に募るばかりだった。

 フィールは額に手を当てて、ため息をつく。

 その時、今更ながら頬を伝う温かい何かに気付いた。

 

「………涙………………?」

 

 自分は何故涙を流しているのか?

 それだけ嫌な夢を見ていたのか?

 訳がわからず1人混乱していると、

 

「フィー? 起きたの?」

 

 元気よくピョコンと跳ねた明るい茶髪がトレードマークの翠眼の少女が、扉を開けて部屋に入ってきた。

 フィールの友人、クシェル・ベイカーだ。

 クシェルの手にはグラスが握られている。

 中身はアイスコーヒーのようで、氷も入っている。相変わらず気が利く娘だ。だが、フィールはクシェルの声に反応しなかった。

 

「…………………」

「………フィー?」

 

 フィールの様子が変だと気付いたクシェルはアイスコーヒーが入ったグラスを机に置き、彼女の顔を覗き込む。フィールの頬に涙が伝っているのを見て、眼を丸くした。クシェルの顔がグッと近付き、ようやくフィールは我に返る。

 

「泣いてたの?」

「! ………あ、えっと………目が覚めたら、なんか、泣いてたみたいで………」

「どんな夢だったか、覚えてる?」

「………………いえ」

 

 フィールは弛く首を振る。

 クシェルに問われる前からどんな夢の内容だったか思い出そうとしても、ぼんやりと断片的な情景しか思い浮かばず、ハッキリとはわからない。

 ただ、そんな不明瞭な中で何か引っ掛かっている事は―――

 

「私………何か辛い気持ちを抑え切れなくて、誰かの背中で泣いてた気がする………そんな感じがします………」

 

 フィールの呟きに、クシェルは考え込む。

 1つ1つ、それらしき出来事を思い返していき―――ふと、顔を上げたクシェルはフィールの白い耳朶で一際目立つ青いピアスが眼に入り、それを見て「あ………もしかして………」とある可能性に思い至った。

 

(私の部屋、クィディッチに関係するアイテムばっか置いてるもんね………。単なる偶然かもしれないけど、今のフィーにとっては無意識に辛い記憶を呼び覚ます誘因になってもおかしくないか)

 

 自分の意志では、夢の内容までコントロール出来ない。精神的に無防備な状態になるから、起きている時よりもより心を圧迫されるのだろう。

 トーナメント戦に変更したクィディッチ決勝戦でスリザリンが敗れ、その後待ち受けていた展開にフィールが大きなダメージを負った事は記憶に新しい。

 その事を思い出し、鬱屈そうに1つ息を吐いたクシェルはフィールを見つめる。

 

(やっぱりフィー、記憶失ってるんだ………)

 

 先程の言葉から改めて目の前の親友が記憶喪失なのを突き付けられたクシェルは悲しそうに眼を細める。

 クシェルはフィールのことが大好きだった。

 友達として、もしくは別の意味で………ホグワーツに入学した時から、あるいはそれ以前から。

 だから、尚更その大好きな人が記憶を失くしている事が辛かった。

 

 ―――ところでクシェル。もしフィールが男の子だったら、貴女はあの娘を『友達』としてじゃなく、『異性』として好きだったのかしら?

 

 以前、談話室で開かれた祝勝会の際にダフネ・グリーングラスに言われた言葉が甦る。

 からかい半分の不意打ち気味にダフネにそう質問され、何の心構えもなく問われたクシェルは回答出来ずにあたふたしたが………。

 心が落ち着いてきた今なら、仮にフィールが異性だったとしても自分は好きになっていたに違いない、と思う。そう断言出来る。

 と言うか、そもそもそんなもの、関係無い。

 正直、異性とか同性とか、性別の壁など、今となっては気にもならなかった。

 自分はフィールを好きと思った。ならばそこに男も女も関係あるだろうか?

 否、断じて無い。

 一度好きになってしまえば、他の何も関係無くなる。

 それが今のクシェルの本心だった。

 

「………クシェルさん? どうしたんですか?」

 

 さっきからじっとこちらを見つめて黙っているクシェルに涙を拭いながらフィールが問うと、クシェルは何故か笑って、真っ直ぐな眼でフィールの蒼い瞳を見た。

 

「………フィー」

「なんですか?」

 

 名前を呼ばれたフィールは小首を傾げる。その仕草が何とも愛くるしくて、クシェルは思わず淡い笑みを溢す。

 

「………私はフィーのことが好き。凄く大好き。それはこれから先も、きっと変わらない。仮に貴女が異性だったとしても、そんなもの関係無い。どっちにしたって、私が貴女の事を好きであることに変わりはないから」

「え? あ、あの、クシェルさん………?」

 

 突然の告白にフィールは戸惑う。その慌てふためく様子にクシェルは可愛いらしいと思う反面、未だにさん付けで呼ばれて胸がチクリと痛んだ。

 

「クシェルさん、じゃなくて、いつも通りクシェルって呼んで欲しいな。あと敬語もナシで話してよ」

「でも………」

「記憶失くしてるからって遠慮しなくていいよ。むしろ変に気を遣われる方が嫌だし」

「………………」

「ハァ~、もう………ホント、変な所でフィーって頑固だよね………」

 

 それなら、とついでに悪戯心が芽生えたクシェルは困惑するフィールの脇腹に手を伸ばし、不意打ちで擽り始めた。すっかり無防備な状態で突然擽られたフィールは身体が飛び跳ねる。

 

「ひゃっ………!? く、クシェルさん!? い、いきなり、何するんですか………!?」

「え? 普通にこちょこちょしただけだよ? フィー、相変わらず弱いんだね」

「そ、そうじゃなくて………んんっ………な、なんで急にこんな事………」

「だってフィー、ずっと私の事『クシェルさん』って呼ぶんだもん。言っとくけどフィーが私の事を『クシェル』って呼ぶまで、私はこちょこちょするの止めないからね?」

「そ、そんなの………ッ………、んぅ………ず、ズルい………です………!」

「ほら、止めて欲しいなら早く呼んで?」

「うぅ~………。わ、わかり………、まし………たよ………ッ」

「あれ? 敬語はナシって私言わなかった?」

「ッ! わ………わかった………よ………ちゃんと………名前で………呼ぶから………! 一旦擽るの止めて………!」

 

 ジタバタしながら暴れるフィールに涙声で懇願されたが、クシェルはそれを受け入れなかった。

 

「ダメ。止めたらフィー、逃げるでしょ?」

「! そ………、そんな訳…………」

「とにかくダメ。嫌なら頑張って早く呼んで? 長引くともっと他の場所擽るよ?」

 

 無慈悲な発言を受け、今度は別の意味で目尻に涙を溜める。フィールは必死になってクシェルを押し退けようとするが、擽り続けられてるせいで力が入らない。クシェルは動きを弱める事なくフィールをこちょこちょし、意地の悪い笑顔を浮かべる。

 

「あ、今、逃げようとしたね? そういう事する娘はもっとお仕置きしないといけないなあ」

 

 言って、クシェルは左手でフィールの右腕を掴み、グイッと自分の方へ引き寄せると、反対側の首筋に右手の指先を滑らせた。

 

「ッッ! ぁ……ッ……ちょっ、止めッ………」

「フィーはホントに昔から擽られるの苦手だよねえ。いつもはポーカーフェイス崩さなくて動揺しないけど、これなら確実に崩せるし」

 

 白い肌の上をゆっくりと撫でるような動きになったかと思えば、不意に爪を立てて素早く動く。

 緩急を使い分けたクシェルの弄りに、フィールは全身から急激に力が抜けていった。

 

「ふぁっ………んっ、くっ………待って………もう止めて………ク………、シェ………ル………」

 

 息も絶え絶えに最早これまでと言った表情で拙くもクシェルの名前を呼んだフィールに、

 

「はい、よく出来ました」

 

 と、意地の悪い笑顔から一変、目元を和らげて優しく微笑んだクシェルはようやく手を止めた。

 

「………ぁ……ハァ……ハァ………もう………ダメ………ッ………」

 

 擽り地獄から解放されたフィールは押し寄せてきた脱力感に耐えきれず、グラリと身体を傾かせる。咄嗟に支えたのは、今しがたまでフィールを弄くり回していたクシェルだった。

 

「ちょっとやり過ぎちゃった?」

「………ちょっとの………レベルじゃ………ないわよ………もう………………」

 

 敬語で話してまたこうなるのはゴメンだと、フィールは敬語を取り払った口調で呟く。クシェルはニッコリと笑った。どうして笑うのかわからないフィールは訊こうとした矢先、疲労感に押し負けてクシェルにもたれ掛かる。クシェルは「ゴメンゴメン」と背中を擦ると、フィールをベッドに寝かせた。

 

「………ッ」

 

 半ば放心状態でフィールはぐったりとベッドに横たわる。クシェルは「もう少し手加減すればよかったかな?」と反省して、頭を優しく撫でる。

 暫くはずっとそうして過ごしていると、大分気分が落ち着いてきたのか、何かを思い出したようにフィールがクシェルを見上げながら質問を投げ掛けた。

 

「あのさ、クシェ………ル。私、貴女に1つ質問したい事があるんだけど………いい?」

「ん? なに?」

「………クシェルは………私が貴女より先に死んだら、自分の命と引き換えに私を生き返らせて欲しいと、神様に頼める?」

 

 いきなり何を言い出すのだろう、とクシェルは戸惑ったけれど、フィールの隣にある本の表紙を見て、ギリシャ神話の双子座の話を指しているのだと気付いた。

 この話の内容の主要人物は、ギリシャ神話に出てくる双子の兄弟・カストルとポルックス。

 スパルタ王テュンダレスの妃・レダが産み落とした卵の中から誕生した双子のカストルとポルックスだったが、父親である天空神・ゼウスの血を引いているポルックスだけが不死の存在だった。

 とある事情でイトコの双子達と争った時、カストルが矢を受けて死んでしまうのだけれど、仲の良かったポルックスはゼウスに不死である自分の命と引き換えにカストルを生き返らせて欲しいと嘆願する。

 ゼウスは自分の血を引いていないカストルを生き返らせることは出来ないが、2人が1日毎に天界と下界で暮らすので良いのであれば、認めてもいいと言う。

 ポルックスはその条件を飲み、2人は天界と下界を交互に暮らしていった。

 その後2人は双子座になって夜空に輝くことになった―――と言う、確かそんな内容だった気がする。

 

「………本当に生き返らせることが出来るなら、私は神様に拝み倒してでも『自分の命と引き換えにフィーを生き返らせて』って頼むよ。フィーは私にとって、大事な人だから」

 

 当然とばかりに答えるクシェルを、フィールは不思議そうな瞳で見つめる。

 

「フィーはまだ記憶を取り戻していないから、ピンと来ないかもしれないけど………素直じゃなかったフィーは不器用ながらも私の事を凄く大切に思ってくれていたし、さっきも言ったと思うけど私もフィーの事今でも大好きだよ」

「………じゃあ、記憶失くす前の私は、貴女が死んだら私の命と引き換えに生き返らせてって頼めるほど、貴女の事が大好きだった―――ってこと?」

「直接訊いたことはないからわからないけど、多分ね」

 

 よくよく考えてみると、めっちゃ恥ずかしい会話をしていることに気付いて、クシェルは頬が紅くなる。

 

(何だかんだ言って出会った時から私の事を護ってくれたフィーの事だから、きっとそう言ってくれたと思うけど………)

 

 慌てたクシェルは話をはぐらかそうと、他愛もない話題で場を切り抜けようとしたが、

 

「………クシェル」

「え? な、なに?」

「………私も、貴女の事、大好き。例え記憶失ってたとしても、貴女が好きである事は………きっと変わらない」

「ッ!?」

 

 クシェルは翠の眼を大きく見開かせる。

 身を起こしたフィールがふわりと笑った満面の笑顔に、思考がショート寸前に陥った。

 

 ―――私は………アンタの事、大好き。

 

 かつてフィールがそう言ってくれた言葉が、今の言葉と重なる。

 あれは確か、4年の時だったか。

 その時クシェルは喜びのあまり、公の場であるにも関わらずフィールを押し倒してしまった。

 勢いそのままに公衆の面前で彼女を押し倒した自分の黒歴史に羞恥心が沸き上がってきたが、それよりも、爆発しそうになった脳内を何とかして鎮静化させる。

 そんなクシェルを見て、フィールはフッと口角を微かに上げた。

 頭の中に記憶は失くても、心の奥ではちゃんとクシェルの存在を感じていたのだ。

 とても温かくて、心地よくて………自然と気持ちがほっこりしてくる。

 不思議と懐かしさが込み上げてきて、フィールは昏い影が差す。

 

(早く思い出したい………自分の事も、クシェルさんの事も)

 

 心の中でついさん付けしてしまったフィールはハッとして慌てる。クシェルは「?」と不思議そうな眼を向けた。

 

「どしたのフィー?」

「あ、いや、えっと………何でも、ない」

「何でもない、って言う割りには随分慌ててるけど?」

「そ、それは誤解ですっ………―――あ」

「フィー………今、敬語使ったね?」

「いや、あの、待ってくださ………」

 

 が、フィールの制止に構わず、クシェルは彼女が逃げられないようベッドに押し倒し、両足を抉じ開けるように、膝を彼女の太腿の間に捩じ込んだ。

 抵抗しても逆効果だとさっき思い知ったフィールはこれから来るだろうクシェルの擽り攻撃に身構えたが、フィールの予想とは違って、クシェルはいつまで経っても擽ってこなかった。

 

「………?」

 

 疑問に感じたフィールは恐る恐る瞼を開いてみる。苦痛に満ちたクシェルの顔が、眼に飛び込んできた。驚くフィールの耳元にクシェルは苦し気な顔を埋める。

 

「………………クシェルさん………?」

「あのさ………敬語は使わないでって、私言ったじゃん。さん付けされるのも、他人行儀みたいで嫌なんだよ」

 

 苛立ちと苦しさで織ったような声だった。

 そこでようやくフィールは、クシェルの前で敬語やさん付けは止めようと心に決める。

 

「………………ごめん」

 

 後悔と罪悪感が滲んだフィールの声が落ちる。

 耳元から顔を離したクシェルはどこか酷く傷付いた瞳でフィールを見つめると、彼女の両肩に手を添えてベッドに押し付け、ゆっくりと顔を近付けた。

 突然の事に戸惑うフィールは身体が固まる。

 何故クシェルがいきなりこのような事をするのかわからないフィールは再びギュッと眼を閉じ、クシェルの体温と息遣いを感じながら身を硬くしていると、

 

「―――前にも言ったでしょ、こうした形で貴女のファーストキスは奪ったりしないって」

 

 と言う言葉と共に、頬に何か柔らかい物が押し当てられる感触を覚えた。頭が混乱するフィールはチークキスされたのを理解するのに少々時間が掛かってしまったが、理解した途端、当惑と同時に頬が紅潮する。

 顔に籠ったフィールの熱を感じ取ったクシェルは唇を離すと、ニヤリと笑ってみせた。

 

「フィー、今、唇にキスされると思った?」

「………ッ! べ、別に………思ってない」

「ふ~ん? その割りには顔紅くない?」

「………室内温度が高過ぎるせいでしょ」

「此処、冷えない程度に冷房効いてるけど?」

 

 嘘が下手なフィールにクシェルは畳み掛ける。

 フィールは悔しさと恥ずかしさが入り交じった面持ちだった。

 

「あ~あ………事情が事情だし、今となっては無い物ねだりだから仕方無いとは言え、もしもこんな世の中じゃなかったりしたら今頃は本人の同意を得た上でフィーの全て、奪いたかったなあ。いや、でもやっぱりそういうのはきちんと卒業した後にするべきかな? 何事にも責任は付き物だし。ま、どっちにしろ今は終戦しない限り『将来の人生の伴侶』としてフィーをゲットするのは無理な話だから、全ての決着がついてフィーが闇の陣営に狙われる心配が消えて危惧する必要がなくなった後に本人と話し合えばいいか」

「ッ!?」

 

 やれやれ、と肩を竦めながら呟いたクシェルの爆弾発言に、フィールは顔だけでなく全身が熱くなる。己に対しそういう感情を抱いていた彼女に、脳内は混乱の極みだった。

 

「だからさフィー。この戦いが終わったらフィーの本心、ちゃんと聞かせてよ? フィーがどういう選択をしようと私は受け入れるから。もしフィーが今のままの関係を望むなら無理強いはしないし、このまま『生涯の親友』として貴女の傍に居る。現世で私を人生の伴侶に選んでも選ばなくても私が来世も、来世以降も、何度生まれ変わっても自分の家族や貴女の家族に、そして何より貴女に認めて貰えるよう頑張るのはいつの世も変わらない」

 

 それまでの態度から一変、真剣な眼差しを向けてきたクシェルにフィールはドキッとする。

 今までのクシェルの発言がどれも嘘だとはフィールにとってそうは思えないし、輪廻転生で何か別の形で蘇った際にもクシェルは有言実行で両家公認の仲になれるよう努力するだろう。もしかすると、自分と彼女は前世の時点で何らかの縁があったのかもしれない。

 そう考えると、如何にクシェルの存在が自分の中でどのくらい大きいかがよくわかる。どうやらクシェルは己にとって精神的支柱らしい。未だに記憶は戻らないが、それだけは明確だった。

 

「………………私も」

「?」

「記憶を取り戻した後の私が現世でどんな選択をしても………死後の世界では必ず、自分や貴女の家族は勿論の事、他の誰よりも生涯の伴侶として貴女に認めて貰えるよう努力するから。その時は………私の事、貰ってください」

 

 貰ってください、の所で思わず爆発しそうになった衝動に駆られたクシェルは必死に心の中で抑え込み、目尻を下げて小さく頷いた。

 

「………うん、わかった。約束だよ?」

「勿論。ちゃんと約束するよ―――」

 

 眼を細めてフィールが首を縦に振った、次の瞬間。

 

 ドクン―――とフィールの心臓が高鳴った。

 

「―――ッ!?」

 

 直後、クシェルを押し退けたフィールはガバッと勢いよく跳ね起きた。

 ドクドクと、早鐘を打つように早まる鼓動。

 胸の奥でガンガン鳴り続ける警報に、本能的な既視感を覚えたフィールは何か不吉な予感を告げ知らせる情動のままに、ビックリするクシェルを尻目に荒々しく部屋を退室した。

 

「えっ、ちょっ、フィー!? どうしたの!?」

 

 慌ててクシェルは部屋を出るが、その時にはもうフィールは階段を駆け下りているところであった。突然階下に駆け下りてきたフィールにリビングに居たベイカー夫妻とクリミアは揃って眼を見張る。

 

「フィールちゃん、どうしたの? そんなに焦って」

「もしかして、何か思い出したのか?」

 

 フィールの顔色の悪さに気付いたライリーとイーサンは落ち着かせるように声を掛けるが、フィールはそれには答えず、飛び出すようにしてベイカー家を後にした。

 

「フィー、待って!」

「フィール、待ちなさい!」

 

 真っ先に思考が再起動したクリミアは、今しがた下りてきたクシェルと共にフィールの後を追い掛ける。ライリーとイーサンも、尋常じゃないフィールの様子にただ事ではないと察し、彼女を追尾した。

 ベイカー家を飛び出したフィールは勝手に動く身体に従って一心不乱に走り続ける。疾走する度に、心の奥で絶えず打ち鳴らす警鐘が徐々に大きくなっていく。

 フィールを見失わないように疾駆する4人の内心当たりがあるクリミアは「まさか………」と次第にある予感を抱いた。やがて彼女らは、ある場所に辿り着く。

 

 

 人気があまり無い、マグル界の一角。

 其処にフィール達は居た。

 肩で息をするフィールの視線の先には、黒い物体が銀髪の女の子に近付いていく光景があった。

 それを見た瞬間、脳裏にいきなりフラッシュバックが起こった。

 降り注ぐ冷たい雨で歪んだ視界の中で。

 あの忌々しい闇の生物により魂を喰われ廃人となった少年少女達の酷い有り様を、そして自分と瓜二つの少女が力無く座り込んでいる場面を。

 この眼にハッキリと、焼き付けられた。

 

 

 

 

「──────お姉ちゃん!!」

 

 

 

 

 

 悲鳴に近いフィールの叫び声が響き渡る。

 『姉』を救いたいと言う切実な想いが勇気となり、そして魔法の使い方を思い出させる引き金にもなって、ヒップホルスターに収納されたアカシアの杖を抜き出したフィールの口から、ある呪文が唱えられた。




【クシェル】
最終章突入してやっと登場。
あ、でも前回最後ら辺でちょっと出てたか。

【一度好きだと思ってしまえばそこに性別の壁など関係無い】
クシェルがフィールに対する気持ちは友情と百合の中間地点。
最終的には(友)愛と言う名の理性が勝りましたけどね。
友情≧百合と表せばもっと分かりやすいかもしれない。

【原作キャラとオリキャラの恋愛】
本作本編では書けませんでしたが実はこれでも結構あるんですよね、原作キャラとオリキャラの恋愛絡みのIFストーリー。交際するキャラによってどういうカップルになるかは全然違いますが。
ここだけの話、実は一部のカップリングは十中八九R指定入るレベルの展開がありました。

【原作キャラが一切出てこなかった回】
時と場合によってはどうしても原作キャラだけが登場したりその逆が起きたりしてしまうんですよね。現に#106はハリー達一行しか出てきませんでしたし。

【アンケート調査の結果】
第1位:銀髪/12票
第2位:黒髪/7票
第3位:金髪/4票
第4位:その他/3票
第5位:茶髪/1票

投票してくださった読者の皆さん、ありがとうございます。

【約束①】※7/13、追記
クシェル「来世は絶対私を嫁にしろ」
フィール「来世は私を貰って下さい」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。