【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
1997年9月1日、午後。
その日、英国魔法界に住む魔法使い・魔女は大人も子供も関係無しにホグワーツ魔法魔術学校の大広間に集っていた。その全てが、秩序の役割を失った魔法省の役人による拉致やヴォルデモート卿率いる闇の陣営からの殺害を運良く逃れて辛うじて生き残った者達の集団だ。その中には母校の危機を聞き付けて駆け付けてきた卒業生も多数含まれている。
ホグワーツに在校する生徒を持つ保護者は、この場に居る黒髪の少年少女―――ハリー・ポッターとフィール・ベルンカステルを憎々しげに睨み付けている。
一部集団で2人を捕らえて魔法省か闇の陣営に引き渡そうと企てていた彼等の陰謀はアルバス・ダンブルドアと言う今世紀で最も偉大な魔法使いによって鳴りを潜め、ハリーとフィールは追われる立場が最近になって解消された。
しかし、それでもやはり2人に対する憎悪や殺意は未だに燻ったままなのだろう。火に油を注ぐように、彼等の拭い去れない負の感情の爆発を促進させるかのように、突如ヴォルデモートの声が大広間中に響き渡った。
『―――お前達が戦う準備をしているのは分かっている。何をしようが無駄な事だ。俺様には敵わぬ。可能であれば、俺様はお前達をなるべくは殺したくはない。俺様はお前達に、ホグワーツの教師に多大な尊敬を払っているのだ。魔法族の血を流したくはない』
甲高くて冷たい、それでいて聞く者の心を恐怖で震わせる声。何処から聞こえてくるのか分からないその声に生徒は勿論大人さえも悲鳴を上げ、何人かは互いにすがりつきながら、声の出所は何処かと怯えて周囲を見回す。
するとダンブルドアが全員に聞こえるように声を張り上げて皆落ち着くよう呼び掛け、この世で最も頼もしい魔法使いの存在を思い出した彼等はハッと一斉に静まり返った。
奇妙な静寂に覆われるホグワーツの大広間。
しかしまたしてもヴォルデモートの声が、落ち着きを取り戻していった魔法使いの耳朶を打つ。
『ハリー・ポッターを差し出せ。そうすれば、誰も傷付けはせぬ。大人しく引き渡せば、学校には手を出さぬ。もう一度言うぞ。ハリー・ポッターを俺様に差し出せ。そうすれば、お前達は報われる。―――明日の午前0時まで待ってやる。俺様は寛大だからな。この俺様に無謀にも歯向かおうとする者は誰であれ命が無いと思え』
最終通告及び正真正銘これが最後の猶予期間が宣告された瞬間、何万何十万と言う視線がハリーに注がれた。
ギラギラとした目線が、彼をその場に釘付けにする。やがて誰かが震える腕を上げ、ハリーを指差しながら甲高いキーキー声で喚いた。フィールやクシェルの同級生パンジー・パーキンソンだ。
「何してるの? 早く誰かポッターを捕まえなさいよ!」
パンジーの訴えに、彼女の親族や同意の大人達はハリーを取り押さえようとワッと動き出す。
が、ハリーを護るかのように、誰よりも早く真っ先に彼の前に立ち塞がった少女が居た。
フィール・ベルンカステルである。
フィールは鋭い目付きでハリーに近付いてくる魔法使い・魔女を縛り付けた。色白の両手には、杖が2本握られている。
「彼を捕まえようとするのであれば、私はそいつを敵と見なす。死にたいヤツから前に出ろ」
まるで女版ヴォルデモートを前にしたかのような、威光が孕んだ低音ボイスと彼女の全身からぶっ放される濃厚な殺気に、急停止した一団は冷や汗がダラダラと流れる。
フィールの姿に感化されたのか、クシェルやハーマイオニー、ロン、ジニーなど、ハリーの仲間やシリウス、ルーピンを初めとする不死鳥の騎士団の団員、闇祓い達が次から次へと彼を捕獲しようとした同族に向かって立ちはだかった。
ハリーは感激し、厳粛な思いに打たれる。
まさに一触即発。
だがそれは、マクゴナガルの声が振り下ろされた事で打ち破られた。
「どうも、ミス・パーキンソン。貴女はフィルチと一緒にこの大広間から最初に出て行きなさい。無論、彼女に賛同した者もです。他のスリザリン生は、その後に続いて出てください」
マクゴナガルの指示に、管理人のアーガス・フィルチはパンジーを連れて1番最初に大広間を後にし、それに続いて彼女の意見に同感だった親族や大人、スリザリン生の殆どが出て行く。後に非戦闘員やヴォルデモートに対抗して死にたくない生徒が全て居なくなった時、大広間に残ったホグワーツ生はある驚異的な場面に眼を大きく見張った。
なんと、フィールとクシェルを除いて全員が立ち去ったと思っていたスリザリン生が大広間に残っていたのだ。
グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローに属する生徒に比べたら断然少数だが、それでも数十人、此処に残留していたのだ。
信じられないと言う表情で、眼差しを恐怖の色に滲ませ、しかしそれでも逃げなかったスリザリン生数十人を見つめる。
だがハリー達は分かっていた。
このスリザリン生達が、一体誰なのかを。
フィール・ベルンカステルの指導の元、来るべき日に備えて密かにヴォルデモートに反抗する力を付けてきた、勇敢なる戦士達である事を。
「………やっぱり、アンタ達に防衛術を教えたのは間違いじゃなかったな」
目元を和らげ、微笑んだフィールは歩み寄る。
クシェルも隣で頷き、一緒に歩みを進めた。
2年前結成した秘密結社―――『
そしてハリー達以外何も知らなかった
「私達はスリザリン。どの寮よりも結束力が強い寮に属する志を共にした同志の集い―――それが我らが『SS』だ」
♦️
SSのリーダー・フィールからの宣言が終わった後、ホグワーツ城及び本拠地防衛の為、ダンブルドアを筆頭に教師陣や腕利き闇祓い、騎士団のメンバーが総勢で防御魔法を展開した。
最強にして唯一の砦を覆う数多の護りの魔法。
これがヴォルデモートの前では精々時間を稼ぐ事しか出来ないのは全員が重々承知している。
しかし、何もしないよりかはマシだろう。
元・ホグワーツ生でハッフルパフ出身のクリミア・メモリアルとソフィア・アクロイド、スリザリン出身のアリア・ヴァイオレットもまた、ホグワーツの防御魔法の強固の為、城中を駆け回って防護呪文を何重も張って強化していた。そのおかげで護りはかなり頑丈に仕上がる。
決戦に備えて力をセーブするべく一息ついたクリミアとアリアは、ふと今居る場所が何処なのかを思い出し、顔を見合わせて苦笑いした。ソフィアは「?」と首を捻る。
「2人共、どうしたの急に」
「あ、いや………そういえば、此処で1回死に掛けた事あるなって思い出して、それで」
「ええ、本当………」
クリミアとアリアは遠い眼で廊下を眺める。
過去の映像を映した瞳で、2人は全く同じ事を回想した。
♦️
それは今から9年前の1988年、クィディッチ初戦終了後に起きた出来事。
当時まだホグワーツに入学したばかりの新1年生だったクリミア・メモリアルとアリア・ヴァイオレットは2人で広大な城内を散歩していた。ちなみにもう1人の親友ソフィア・アクロイドは寮の談話室で課題消化に励んでいた為、一緒には居なかった。
入学した次の日の初日の授業・妖精の魔法で知り合い後に友人となったクリミアとアリア。
しかし、スリザリンに所属するアリアは当時、ハッフルパフに所属するクリミアと友人関係を持つ事に一抹の不安を感じていた。
方や学校中の人気者、方や学校中の嫌われ者。
所属寮の相違や他寮からの評判、風当たり等が違う者同士、この頃はまだ現在みたいに『頼れる先輩』ではなく気弱でヘタレだったアリアはスリザリン生である自分と一緒に居る事でクリミアの名声に傷を付けないか、常に懸念していたのだ。
そしてその危惧は最悪な形で的中した。
ちょうどこの時、グリフィンドール生の殆どが酷く不機嫌だった。その理由は、今年も迎えたクィディッチシーズン初戦、グリフィンドールVSスリザリンにある。
当時2年生で新米キーパー、オリバー・ウッドが頭にブラッジャーを喰らい医務室で寝た切りの状態になり、勝敗もスリザリンの圧勝で呆気無くゲームは終了。
ルーキーにブラッジャーを当てて大怪我を負わせたスリザリンのクィディッチチームに、グリフィンドールのクィディッチチームは勿論の事、試合結果も加わってグリフィンドールに属する生徒は皆激しい怒りと憎しみに燃えていた。
そのレベルは凄まじく、廊下でスリザリン生とすれ違う度に呪いを掛けんと言わんばかりの殺気の籠った視線を送り、遂にはオリバーと同学年の下級生にさえキツい眼を向けるようになったくらいで、鬼気迫る表情に無関係の彼等は寮に帰るまでは四六時中ビクビクした。何とも不憫である。
チーム関係無しに『スリザリン寮生』に対し憎悪の念を抱いていたグリフィンドール生。
ただでさえ機嫌が悪かった彼等はあろう事か、その厭悪の対象となるスリザリン生と一緒に居たクリミアに怒りの矛先を変え、遂に攻撃を開始したのだ。
劣等生が多いハッフルパフ生のクセに、と並みの1年生を遥かに凌ぐ優等生だったクリミアが気に食わなかったレイブンクローの女生徒と手を組んで。
放課後の自由時間を満喫していたクリミアとアリア。
その楽しい時間は、突然別れを告げる。
2人を包囲するかのように彼女達が来た方向以外の全方向の行く手を遮った5年のグリフィンドール男子生徒とレイブンクロー女子生徒。
それぞれ見覚えのある顔にアリアは怯えた表情を浮かべ、クリミアは震える彼女を庇い護るように後ろに回し、背中に隠す。
「皆さんどうしたんですか? そのような怖い顔で私達を取り囲んで」
「メモリアル………どうしてお前、スリザリン生なんかと一緒に居るんだ? お前がオリバーを助けたのは、ただの点数稼ぎの為だったのか!?」
「そんな訳無いじゃないです―――」
「煩い黙れ! 今となっては過ぎた事だが、あの日お前をグリフィンドールに勧誘した事を激しく後悔したぞ!」
そっちから訊いといて黙れとは何事か。
そう憤慨したクリミアだったが、尋常じゃない様子に危機感を覚える。
ちなみに彼が言う『あの日』とは、9月1日にホグワーツ特急でオリバー・ウッドとマーカス・フリントが喧嘩していたのをクリミアが仲裁し、結果『お手柄新入生』として入学前から一躍脚光を浴びた出来事を指しているのだろう。
それはさておき―――。
5年の男女グループが一斉に懐から杖を抜き出し、切っ先を向けてきた。
「スリザリンに入り損ねたハッフルパフ生め! 今此処で俺達が成敗してくれる!!」
その言葉が合図で、上級生数十人による一方的な暴力が始まった。
「「「「「「
そこそこのスピードで飛んで来る数多の『失神呪文』。予想以上に早かった不意打ちに『盾の呪文』を唱える余裕が無かったクリミアは、
「伏せなさい!」
と鋭い声で叫び、アリアの頭を抱えて間一髪のところで回避した。
頭上で衝突し、激しい火花を散らしながら消滅する真紅の閃光。
同時、アリアの悲鳴がそれまで静寂だった城の内部に響き渡る。
「避けるんじゃねえ! この異常者が!」
激昂した男子は反撃する隙を与えぬようむやみやたらに呪文を撃ち続ける。他の男子生徒も同様に、杖を振るって闇雲に魔法を連射した。
「
クリミアは素早く杖を出し、『防衛呪文』を詠唱、目の前に青色の光輝を放つバリアが出現し、自身とアリアの身を護ると、背中越しにアリアに向かって叫ぶ。
「アリア! 貴女は早く逃げなさい!」
「で、でも、貴女を置いて1人だけで逃げるなんて出来ないよ!」
「バカ言わないでちょうだい! 此処にいつまでも居たら最悪の場合殺されるわよ! その事が理解出来ない貴女ではないでしょう!」
連中の眼差しは狂気の色で染まっている。
狂乱している彼等はまず間違いないなくこちらを容赦無く仕留めに掛かってくるだろう。
ならば、応戦するしかない。
アリアを護りながら戦うのは不利過ぎる。
だからこそ、アリアには逃げて貰わねばならない。下手すると彼女までもが殺される可能性が非常に高い、と言うか殺気立つアイツらはどう見ても十中八九殺す気で攻撃を仕掛けてくる。
「今から私が目眩まし用の日光を発するわ。連中は突然の強い発光に怯むと思うから、その隙にアリアは逃げて応援を呼んでちょうだい。それまでは何とかして私が時間を稼ぐ。質問は受け付けない。分かったら早く走る準備をしなさい!」
アリアはまだ少し躊躇っていたが、クリミアの必死さに押され、小さく頷く。その間にも、男子生徒達は狂ったように呪文をバリアに叩き込んでいた。
「くそっ、くそっ! どうして当たらねえ!」
「アンタ達落ち着きなさい! 闇雲に撃ったところで無駄に体力消耗するだけよ! ここは一箇所に狙いを絞って皆で破壊するわよ!」
流石はレイブンクロー生。
頭の回転が早く、そして賢い。
尤も、こんなイジメをする時点で手放しには称賛出来ないのだが。
女子学生に窘められた男子達は軽く頷き、一旦攻撃の手を止める。
アリアは来るべき日光に備え、クリミアには背を向ける形で眼を瞑っていた。
「行くわよ!」
「「「「「「「
「
最上級生には及ばないものの、5年と言う上級生組の名に相応しい絶大な威力で、クリミアが造ったバリアを破壊した。同時、クリミアは目眩ましの強烈な日光を発する。
「うおっ!?」
案の定連中は突然の強い発光に目元を覆い、無防備な状態となった為、
「クリミア、絶対に死なないでよ!」
とアリアは言って、クリミアの覚悟を無駄にしてはいけないと、全力でその場を後にした。
アリアの足音が徐々に遠ざかっていく。
完全に聞こえなくなると、大分視力が回復したのか、凄まじい形相で5年の男女はゾンビのように次々と呪文を撃ちながら接近してきた。
いや、これならまだゾンビの方がマシだ。
1年を相手に襲撃してきたあちら側はこちらを傷付けるのに遠慮は要らないが、優しいクリミアはとても傷付けづらいのだ。
「貴方達、もう止めなさい! 無益な戦いからは何も生まれないわよ!」
半透明の障壁を展開しながらクリミアはどうにかして正気を戻そうと呼び掛ける。
躊躇するアリアの手前、先程はあのような事を言ったが、本当は生徒同士で殺し合いなどしたくない。
あっちが加害者でこっちは被害者とは言え、争い事を好まぬ性格のクリミアは同じ学舎に通う仲間をなるべくは傷付けたくなどなかった。
しかし、クリミアの訴えも、我を忘れている先輩方の耳には届かない。
「うるせえキチガイ野郎が! 大人しくボコられろ!」
どっちがキチガイ野郎なんだか。
もしも第三者が此処に居たらきっとそう言っただろう。
話し合いによる解決は最早不可能と判断したクリミアはやむを得ず、応戦する事を今度こそ決意し、迷いを振り切る。
「
バリアを解除したクリミアは『妨害呪文』を放ち、真っ正面の大柄な生徒を吹き飛ばす。後ろに居た生徒は不運にも巻き込まれ、下敷きになってしまった。
難を逃れた者をクリミアはバリアを上手く使いながら冷静に片っ端から片付けていく。
暫くは呪文の応酬が続いたが、至近距離になると趣向が変わり、格闘術も交えての接近戦となった。
男子生徒の右フックが飛んで来る。
威力、精度、スピード、どれを取っても脅威に値するそれを落ち着いてはたき落とすと、次は右ストレートが顔面に放れた。
が、咄嗟に身体を屈め、躱す。
この流れからアッパーが来たらマズい。
背後に飛びすさろうとしたクリミアだったが、その彼女目掛けて男子生徒はタックルした。
尻餅をつき、マウントポジションを取られたクリミアの左頬に彼は一発拳を叩き込む。
「かはっ………!」
頬を殴打され、口の端が切れて血が滲んだ。
痛みに顔をしかめる彼女に、男子生徒は更なる暴行を加えようとする。
「もう一発―――」
が、クリミアは俊敏な動きで膝蹴りを鳩尾にかました。まさかこの状態で反撃されると思わなかったのか、油断し切っていた男子生徒は軽く吹っ飛ぶ。殴られた頬を押さえながらクリミアは立ち上がろうとしたが、
「
自力で起き上がる前に別の生徒に無理矢理立たされ、
「
『呼び寄せ呪文:アクシオ』の対極呪文で吹き飛ばされた。後ろにブッ飛んだクリミアは城壁に身体が強かに叩き付けられる。その衝撃で息が詰まり、意識が一瞬遠退いたクリミアは前のめりに倒れ掛かった。
「
「
追い打ちを掛けるよう、『粉々呪文』と『燃焼呪文』が炸裂する。あばら骨と肋骨を砕かれ、右手に火傷を負わされたクリミアは『磔の呪文』と匹敵するであろうそれだけの激痛に感覚が狂い、床に倒れ込んで喀血した。
(…………ラ………シェ…ル………………)
脳裏に浮かび上がる、見慣れた少女と瓜二つの銀髪紫眼の少女。
彼女もまた、奇襲してきた多数の吸魂鬼を相手に友を護るべく孤軍奮闘した。
しかし、年端も行かぬ童女だった彼女は存在するだけで精神攻撃が可能な闇の生物を前に敗れ、敗北の証として魂を喰われてしまった。
抵抗出来ず、ただ魂を吸われていくだけの身になった時、果たして彼女はどんな気分だったのだろうか。
悲しかったのだろうか。
悔しかったのだろうか。
今となっては………それを知る術は残されていない。
意識が、薄れていく………。
このままでは………自分は死ぬ。
もう2度と、友人達や家族と会えなくなってしまう。
そんなのは………絶対にイヤだ。
でも、身体は言う事を聞かない。
ダメージを負い過ぎたせいで、力が入らない。
己の無力さをクリミアは呪う。
そうして、身動きが取れなくなった彼女にトドメが刺されそうになった、次の瞬間。
「お前ら、そこで一体何してるんだ!」
駆け寄ってくる2つの足音と別の男の声がこの場に割り込んできた。
5年のグループは全員が声のした方向を向き、サッと顔面蒼白する。
現れたのはチャーリー・ウィーズリーとニンファドーラ・トンクスだった。偶然居合わせ2人は将来の夢について語り合っていた時、アリアの悲鳴と戦闘の音が何処からか聞こえてきて、それで駆け付けてきたのである。
2人は一瞬にして状況を把握すると、オロオロする同級生達に向かって怒気を露にした。
「これはどういう事だ!? 上級生が寄って集って下級生をイジめるなど、先輩の名を名乗るな!恥を知れ!」
「う、煩い! 見られた以上は問答無用だ!」
先程までの余裕は何処へやら、これはヤバいと顔を引き攣らせる一党は『失神呪文』や『全身金縛り呪文』などを放つが、チャーリーとトンクスは左右に分かれて飛び、素早く避ける。
流石、グリフィンドールのクィディッチチームのキャプテン兼シーカーを務める監督生と将来は闇祓い局に勤めるハッフルパフの優等生だ。運動神経抜群である。
2人は進行の邪魔になる者をひとまず倒すと、大怪我をして動けないクリミアの元まで走り寄った。
「おい、大丈夫か!?」
「クリミア、しっかりして!」
「……ッ、大丈夫………です……」
あばら骨と肋骨を砕破されて激痛に身を苛まれながらも、クリミアは声を振り絞る。
「わ、私は一足先にとんずらするわよ!」
チャーリーとトンクスの登場に分が悪いと感じた1人の女子学生が逃走を図ろうとしたが、
「逃がさないわよ!」
ダッシュで追い掛けたトンクスが一気に距離を詰め、
「とうっ!」
無防備な背中に一発飛び蹴りをお見舞いした。
ニヤリと笑ったトンクスはサムズアップする。
すると、攻撃の対象がクリミアからトンクスに変更された。標的にされたトンクスは慌てず騒がず、チャーリーがクリミアを何処か安全地帯へ運んでくれると願って時間を稼ごうとしたが、この後、トンクスの予想を大いに覆す展開が待ち受けていた。
「うっ……チャーリー…………さん…………トンクス…先輩を……呼んでください…………」
慕っている先輩が襲われているのを見て、激痛を押してクリミアはチャーリーのローブを掴みながら頼んだ。だが、チャーリーは怪訝な顔で首を傾げる。
「どうするつもりだ?」
「説明は……後です………トンクス先輩が………来たら…すぐに伏せ……て…ください…………」
訳が分からなかった。
しかし、チャーリーはクリミアの頼みを引き受け、多勢に無勢のトンクスを呼び出す。
「トンクス! こっちに来い!」
「なんで!? そっちは………!」
「そんなもん分かってる! いいから早く俺達の所に来い!」
トンクスは混乱したが、言われた通りにした。
スライディングして飛び交う閃光を避け、全速力で2人の元に疾駆する。トンクスが辿り着いたら、
「2人共、伏せてください………!」
と、クリミアは掠れた声で叫んだ。
チャーリーは到着したばかりのトンクスの頭を抱え、伏臥位を取る。
クリミアは両手を天に突き出した。
杖は先程身体を城壁に叩き付けられた弾みで何処かに飛ばされてしまったし、予備の杖を抜こうにも時間が無い。
故に杖の非所持で魔法の行使に挑んだ。
持てる全魔力を両手に総結集させる。
額や首筋に冷や汗が流れ、コントロールの制御が難しいせいで今すぐにでも暴走しそうになる魔力の塊を、チャーリーとトンクスをこれ以上は巻き込めないと言う気持ちで歯を喰い縛りながら、クリミアは呪文を発動、放出した。
「
次の瞬間、荒れ狂う暴風がクリミアの両手に生まれた。本来であれば対象に向かって(対象の人間が押し戻されるほどの)強風を吹かせる事が出来、その周辺に居る人間及び物には効果が無いのだが、何分今は半ば正常に作動していない為か、魔法の風が表面に触れる度、廊下の天井や壁が削られていく。
「のわぁああああああああああああああッ!!」
「きゃあぁあああああああああああああッ!!」
床から天井まで、通路全体を覆い尽くす大きさの暴風に背を向けて逃げようとしていた男子生徒と女子生徒の悲鳴が上がる。彼等の身体は宙に高く舞い、そして最後は固い廊下と熱い接吻をして気を失った。ちなみに最初から気絶していた生徒は更なる被害を受けてしまった。
「はあッ………はあッ……もう…限界…………」
暴風が収まり、力尽きたクリミアは視界が暗転して意識を失う。
伏せてたおかげでストームの餌食にならなかったチャーリーとトンクスは顔を上げ、眼に飛び込んできた地獄絵図の凄惨な光景に息を呑む。
が、2人は後輩を襲撃した同級生には眼もくれず、眼を閉じてぐったりと横たわるクリミアに何度も声を掛けた。
「こ、これは一体………」
「何があったと言うのですか………!?」
辺り一面とんでもない場景に、アリアに呼ばれて研究室から飛び出してきたスネイプと偶然出会し彼女の切羽詰まった様子に何事かとついてきたマクゴナガルは驚愕で厳格な顔を凍り付かせた。
♦️
「あの時は本気で死ぬかと思ったわ………。チャーリー先輩とトンクス先輩が助けに来てくれなかったらと思うと、今でもゾッとする」
「と言うか、あれだけ攻撃されて生き延びるクリミアもある意味化け物クラスだけどね。普通だったら死んでてもおかしくない訳だし」
「ベルンカステル城で鍛えといたおかげね。多分鍛えてなかったらあの世に直行してたわ」
いや、仮に鍛えていてもあの世に直行しそうな気がするのだけれど。
と心の中で突っ込んだアリアとソフィアだったが、敢えて本人の前では突っ込まなかった。
アリアはクリミアの肩をポンポンと叩く。
「クリミア。あの時は、本当にありがとう。貴女が護ってくれなかったら、今頃私は此処には居ないわ。あの出来事がきっかけで私は強くなる事を決意し、そして今はこうして貴女やソフィアと肩を並べて立つ事が出来るのだから」
「ふふっ、それは頼もしい限りね」
アリアの言葉にクリミアは優しく微笑む。
その2人を、ソフィアはギュッと抱き締めた。
「わっ、ソフィア………?」
「クリミア、アリア。この戦いが終わったら、また3人で雪合戦したり、遊びに出掛けましょ」
「………ええ。約束よ」
「なら、絶対死ねないわね。そもそも死ぬつもりなんて更々ないけど」
ホグワーツに入学した時からずっと一緒に過ごしてきた旧友3人は抱き合い、そして笑い合う。
その笑顔は、必ず3人全員でホグワーツ決戦を生還しようと言う固い約束で溌剌としていた。
♦️
ホグワーツで最も高い位置に在る天文台の塔。
其処に、1つの人影がうっすらと浮かび上がっていた。人影は小型望遠鏡の単眼鏡で、ホグワーツ敷地外を遠目から観察している。
レンズには、一目見ただけでも半端じゃない数の闇の魔法使い・魔女や巨人、人狼などの大軍が嫌に鮮明に映っていた。
そしてその先頭にはヴォルデモート卿が居る。
初めから分かっていたとは言え、予想以上に量も質もあちらが圧倒的に上だと、一瞬、勝機が薄れた気がした人影は単眼鏡から片目を離して、険しい顔付きになった。
大方敵陣の勢力を察した人影―――フィールは黒いローブのポケットに単眼鏡を仕舞い、少しでも頭を保護するべく、フードを目深に被り直す。
身を包んでいるのはホグワーツの制服だ。
今年最高学年の7年生になったフィールは想い出深い学舎の制服で戦いたいと、動きやすい私服ではなく敢えて制服を着込んだ。………それに、不吉ではあるが、もしかするとこれが自分の命日になるかもしれないのだ。
ならばせめて最後はホグワーツの生徒として命が尽きたら本望と、出来れば迎えたくない結果の事も頭に入れているフィールは、不安な気持ちを振り払うよう頭を振る。
そうして、ホグワーツ陣営の指導官の1人・ダンブルドアに報告しに行こうと、階段を早足で駆け下りようとしたところで、
「フィー」
と、いつの間に来ていたのか、クシェルが呼び掛けてきた。フードを外したフィールは「どうした?」と首を傾げる。
「………いよいよ、始まるんだね。第二次魔法戦争」
「………ああ、そうだな」
「フィーは、その………勝てると思う? この戦い」
「思うかじゃなくて、勝つしかないだろ。負けたら何もかも終わるんだし」
「そうだよね………」
色々な事に対する恐れや心配などはやはり完全には払拭し切れないのか、いつもならハキハキしているクシェルも今回ばかりは勝機を見出だせるか不安と言う表情だった。
するとそんなクシェルを励まそうと思ったのだろう。
いつしか此処でクシェルがフィールにしたみたいに、フィールがクシェルの頬をパチンッと両手で挟んだ。
「へっ?」
思わず、すっとんきょうな声を上げると、フィールは開戦前だと言うのに………いや、こんな時だからこそか、滅多に見せない笑顔を浮かべていた。
「絶対大丈夫だから、そんな顔するなっての。闇の陣営ぶっ倒して、世界の平和を取り戻す。そんでもって、皆で生き延びてホグワーツを卒業するって約束しただろ?」
フィールの満面の笑みにどこか救われた気持ちのクシェルは、彼女の手の甲に己の掌を重ねて目元を和らげる。
「………そうだね。そうだったよね。私、どうかしてた。ありがとう、フィー。フィーのおかげでなんか吹っ切れたよ」
クシェルの恐れや不安が振り払われた面持ちと強い瞳にフィールは軽く頷き、「そろそろ行くぞ」と彼女の手を取って階段を下りる。
第二次魔法戦争及びホグワーツの戦いはもう間も無く始まろうとしていた。
【没シーン:奇襲されたのがフィールの場合】
フィール「悪霊の火よ」
生徒1「ぎゃああああああああ! コイツ普通に『悪霊の火』使ったぞ!?」
生徒2「一般生徒が使うもんじゃねえ!?」
フィール「そりゃ私一般生徒じゃないですもの。こうなりますわ~」
クリミア「だからあれほど言ったじゃない………フィールに手を出すのは止めといた方がいいと」
オリ主さん、学校で躊躇い無く悪霊の火を使う。
【SS】
この瞬間をずっと待ち望んでいた。
【超久々に登場、ソフィアリ】
4章番外編以来のご登場。
【飛び蹴り】
またの名をライダーキック。
【まとめ】
今回はちょっと駆け足でホグワーツ決戦前と(以前外伝で更新、現在は削除した)#99で出てきたエピソードの回でした。なんでしょう、ハリポタ二次創作に1作品1回は生徒による襲撃事件があるのは気のせいでしょうか? と言うかこれで退学処分にならないとか………多分これが日本の魔法学校だったら即刻除名されそうな気が。
さて、それはさておき。
次回、遂にホグワーツ決戦を迎えます。
果たして何人が生還するのか?
最終決戦、いよいよ開幕!