【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
夏休み明け以降、何かと忙しくて執筆する余裕が中々取れなかったりとてつもない残暑に見舞われてダウンしたりと、更新がまた遅延してしまいました。今年は季節の変わり目にやられる事多くて困ってます。
最初に報告しますが、次回が最終話、その次がエピローグで本作は完結を迎える予定です。
いよいよ、この作品も完結する時が近付いてきました。どうか最後まで付き合ってくれたら嬉しいです。
そして本作の全登場人物に祝福と冥福を。
それでは最終話直前の#114をどうぞ。
「お前………生きてたのか」
「流石にあればかりは俺自身もマジで死んだと思ったがな。お前があの時絶不調じゃなかったら、まず間違いないなく死んでた」
ギリッ、と悔しげに歯軋りするフィールを嘲笑うかのように、クラウチは小さな子供みたいに喜色満面の笑みで言った。チッと舌打ちしたフィールは片腕を広げ、ハリーを庇う。
「ハリー、コイツは私が相手になる。次は必ず仕留めるから、アンタは何処かに隠れてろ」
「だ、だけど………」
「クラウチは私の獲物だ。私1人でやる。1対1の真剣勝負に身勝手にも割り込むヤツは例え仲間でも許さないぞ。無論アンタもだ。例外は無い。これでも私は、コイツとの一戦はフェアにしたいと思ってる。………それにヴォルデモートと対戦する前に、アンタをここでスタミナ切れにさせる訳にはいかない。アンタの宿敵は、私の宿敵以上にずっと化け物染みてるんだからな」
そう、ハリーが倒すべき敵はフィールの眼前に居るヤツとは比べ物にならない程強大なのだ。
ハリーにはハリーの、フィールにはフィールの成すべき事がそれぞれある。
クラウチを討つ役割を担うのはフィールだ。
ハリーではない。
「分かったら早く離れろ。此処に留まってたら巻き込まれて死ぬぞ」
低音ボイスで威圧するように言ったフィールに渋っていたハリーは躊躇いながらも向かい合った2人から距離を取り、身を潜める。ハリーが隠れたのを確認したフィールは杖を構え、射抜くような瞳でクラウチの眼を見た。
「前回お前を討てなかった失態はこの戦いで埋め合わせとする。クラウチ、もう1度私と勝負だ」
「元よりそれが望み。今日は絶対に逃さん。何処までも追い掛け、そして必ず地獄へ屠ってやる」
両者が宣戦布告し終えた瞬間、フィールとクラウチの一騎討ちが再び開始された。
♦️
その頃―――。
戦況はホグワーツ陣営の方が若干優勢に立っていた。やはりそこは最強の魔法使いと謳われるダンブルドアの存在とヴォルデモートの不在が主な理由か、ほぼ互角だった両陣営の勢力にだんだんと差がついてきた。
しかし、全てが全て良かった訳でもない。
開戦してから数十分、多くの犠牲者がヴォルデモート陣営は勿論の事、ホグワーツ陣営にも出ていた。
今も何処かで戦死する者が後を絶たない。
遂には、現在クラウチと死闘を繰り広げているフィールの親しい人達もその中に含まれる事になった。
「ああもう! 倒しても倒しても敵は湧き出てくる! いい加減鬱陶しくなってきたわ!」
「右に同じ、でも、形振り構わなければまだまだ行けると思いなさい!」
乱戦模様の真っ只中、この場に居る人間の気持ちを代弁したソフィアと、その彼女を鼓舞したアリア。
2人は事ある毎に周囲で闘争する味方の耳にも行き渡る声で愚痴ったり激励したりした。
本当であれば喋る余裕すらない状況だ。
しかし、2人が戦闘中によく喋っているのは、自分達の内部に抱える恐怖や恐れを和らげたりするのと同時、味方の精神が極度のストレスにやられるのを未然に防いだり、いつ終戦するか分からない心理的負荷を少しでも軽減する為であった。
コメディアン魂で気が遠退きそうになる苦境に立つ仲間の心が折れないよう鼓吹する2人。
その内1人が、ある光景を視界の端に捉えた。
「―――ッ! フレッド危ない!」
偶々近くに居た後輩のフレッドに向かって緑色の閃光が飛来するのを見掛けたソフィアは反射的に飛び出し、ドンッとフレッドを突き飛ばす。突き飛ばされたフレッドが尻餅をついたのと同時、彼の目の前でソフィアの身体が緑の光に包まれ、遠くに吹き飛んだ。
「―――ソフィア!!」
悲鳴に近いクリミアの声が辺りに響き渡る。
指1本すら、そして閉じた瞼すら動かさず、ぐったりと横たわる旧友の事切れた遺体に、あまりにも突然過ぎる出来事に頭が追い付かないクリミアは勿論、それまで兄のパーシーと弟のジョージとジョークを飛ばし合いながら戦っていたフレッドも顔面蒼白して、ピクリとも動かないかつての他寮の先輩の倒れた姿に釘付けとなった。
「ボサッとすんなフレッド! 早く立て!」
ショックで硬直するフレッドを駆け寄ったジョージが腕を掴み、半ば無理矢理立たせる。
が、いつもは溌剌としているフレッドの表情からは覇気が感じられない。
呆然とする双子の兄に、ジョージは一発パンチを左頬にお見舞いして、胸ぐらを掴む。
「悲しんだり嘆いたりするのは後にしろ! 今は生き延びる事だけを考えて他は一切考えんな! 身体張ってお前を護った先輩の犠牲を無駄にする気か!?」
ジョージからの叱咤激励に、ハッとしたフレッドは奥歯を噛み締め………数秒後、何かを耐えるような表情で頷くと、ジョージとパーシーと一緒に再び混戦の中に身を投じた。
だけれど、頭が真っ白になったクリミアはその場に立ち竦んだままであった。いつまでも突っ立ってはいけないと頭では分かっているのに、足はまるで何かに縫い止められたように1歩も動かせない。
永遠に思えた時間の中、今度は鋭い声が耳朶を打つ。
「クリミア! 伏せなさい!」
「―――………え?」
反応が遅れたクリミアが声のした方向に視線を向けるよりも早く、発声した張本人であるアリアは友人を失った衝撃で気が抜けたクリミアの元へ駆け出す。疾駆したアリアがクリミアの所に到着した瞬間、クリミアを狙って放たれた呪いがアリアの背中に突き刺さった。
「アリア………!?」
紫の眼を大きく見開くクリミアは構わず、アリアは呪いが飛んできた方向に最後の力を振り絞って光線を撃つ。直後、死喰い人の呻き声が微かに聞こえたが、そんな事はどうでもいい。
「アリア! アリア!」
自分の腕の中で崩れ落ちたもう1人の親友を抱き抱えたクリミアは涙声で友の名を叫ぶ。
大粒の涙を流すクリミアに、彼女の代わりに強力な呪いをモロに受けたアリアは死期が迫っているにも関わらず、微笑みを崩さなかった。
「ク…リミア………ごめ……ん……なさい……生き…延びたら……また遊ぼうって約束…………守れなくて…………これで………9年前の……借りは………返した…わよ…………」
その言葉を最期に、アリアを眼を閉じて息を引き取る。
続け様に友を失ったクリミアは耐え切れずにわあっと泣き出し、今しがたまで生きていたアリアの胸に顔を埋め、心臓の鼓動が聞こえず本当に死亡している事実を突き付けられてまた絶望した。
そんな無防備な状態を晒すクリミアに、隙を見た死喰い人が杖を向けるが、呪文が放たれるよりも早く、別の閃光が死喰い人を貫いた。
「クリミア、大丈夫!?」
間一髪クリミアを助けたのはトンクスだった。
だが、クリミアはトンクスの呼び掛けに応えない。
トンクスは一瞬にして状況を把握すると、学生時代仲の良かった後輩の遺体に身を引き裂かれる思いを抱きつつ、しかし今成すべき事は忘れずに放心状態のクリミアの腕を引っ張り上げようとしたが、乱暴に振り払われた。
「………クリミア。辛い気持ちはよく分かるけど今は―――」
「分かる? 今来たばかりの貴女に、私の一体何が分かるんですか?」
それは、酷く冷たい無感情な声音だった。
アリアから離れ、肩越しに見上げたクリミアの綺麗な顔は涙でぐちゃぐちゃに汚れており、その瞳には狂気と絶望が織り交ざっている。
不穏なオーラを敏感に感じ取ったトンクスは背筋に悪寒が走った。
が、決して逃げたりはせず、しゃがみ込んだトンクスは殺伐とした雰囲気を醸し出すクリミアを後ろから優しく抱き締める。
「………分かるわよ。私だって、此処に辿り着くまでの間、多くの大切な人を失った。ホグワーツに入学してから卒業するまでの7年間、同じ学舎で青春時代を過ごした同級生、先輩、後輩………この戦争が勃発する前にも、知り合いが闇の陣営に属する輩に沢山殺された。その時抱いた気持ちは今の貴女とおんなじよ。分からない訳が………ないじゃない」
「…………………………」
涙を流したまま耳を傾けていたクリミアを包み込むようにして抱擁するトンクスは、抱き締める腕に更なる力を加える。
「苦しい思いは充分理解している………。でも、今は戦わないと。お友達が貴女を命懸けで護ったのならば、その犠牲を無駄にしては絶対ダメよ」
先程、自分と同じく深い悲しみを味わっていたフレッドに掛けたジョージの言葉が、トンクスの言葉と重なる。
クリミアは瞼をゆっくりと下ろした。
網膜の裏側に、学生時代、苦楽を共にした親友2人との数々の想い出が走馬灯のように駆け巡り―――
「………ソフィア、アリア。私………貴女達の分まで生きるから。………今まで、本当にありがとう」
未練を断ち切るように、重い瞼を開いたクリミアは心からの感謝を込めて呟くと、涙を拭い、決然とした表情で立ち上がった。面構えが変わった後輩にトンクスは安心した笑顔を浮かべ、ポンポンと頭を軽く叩く。
「ここから先は私と組みましょう。しっかり者の貴女と違ってちゃらんぽらんな人間だけど、これでも闇祓いの一員だからね。可愛い後輩の為にも先導としてしっかり先導するわ」
そう言って、クリミアの背後を見やったトンクスは無言でサッと杖を振るい、奇襲しようとした亡者を思い切り吹き飛ばす。
「ざっとこんな感じよ。ま、1年で5年の集団ブッ飛ばした貴女からすると、私じゃない誰かの方が先導者に相応しいって思うかもしれないけど」
「………そんな事ありません。むしろ私は………トンクス先輩の事とても頼りになる人だと思ってますよ」
「そう? ならいいけど」
トンクスとの他愛ないやり取りのおかげで、少しずつクリミアは元気を取り戻していく。無論内心は、やはりまだ拭い切れないソフィアとアリアを失くした喪失感で一杯だが………。
クリミアはじっとトンクスを見つめる。
初めて彼女と出会った時からずっと「元気一杯で落ち着きが無い先輩だ」と少し世話の焼ける気持ちで思っていた。
4つ年上と言う事と兄弟姉妹がいなく一人っ子だった事もあり、年下ばかりの兄弟姉妹を持っていたクリミアを妹のように可愛がってお姉さんらしく振る舞ってたけど、タイプが正反対のクリミアにはお姉さんはお姉さんでも手の掛かる『ダメなお姉さん』と言う印象が強かった。
けれど、9年前、チャーリーと一緒に絶体絶命のピンチを救い出してくれてからは、最初の頃と比べて頼もしく感じる事が多くあって、それで自分の中で先輩に対する意識が少しずつ変わっていった。
「クリミア? どうかした?」
クリミアの視線に気が付いたトンクスが首を傾げると、
「いえ………何でもありません」
と首を振り、なんとか笑って誤魔化した。
今は無駄話をしてる暇は無い。
終戦してからまたゆっくり話せばいい。
気持ちを入れ換えたクリミアは一度振り返る。
ソフィアとアリアの遺体を何処か安全な場所に運びたいが、何分こんな現状では厳しい。
辛いが、ここは置いていくしかなかった。
(後で必ず戻って来るから………それまでは、どうか許して)
心の中で謝罪したクリミアは空を見上げる。
月が雲に隠れてしまった暗い夜空に、一筋も光は差さない。
ただ、極夜のように太陽が昇らない暗黒に包まれた世界だけがそこに果てしなく拡がっていた。
♦️
寮生と一緒に食事を摂る時や学年末パーティーを楽しむ際、4つの寮に分かれて所属するホグワーツ生と教師が全員が集合する大広間。
色彩豊かな閃光が幾度となくスレ違うその一隅で、ホグワーツの生徒としてはトップクラスに君臨する学年次席と、死喰い人の中でも屈指の実力を誇る猛者の激戦が繰り広げられていた。
マグル生まれでありながら非常に優秀な成績を維持し続け、更には戦闘のエキスパートから指導を受け腕を磨いたハーマイオニー。
英国魔法界を震撼させる闇の王者として名を轟かせるヴォルデモートに手解きを受け、特別視されているベラトリックス。
どちらも並大抵の魔法使いではまず敵わない強豪魔女だ。
しかし、開戦してから終始優勢を保っているのはベラトリックスであった。
どうしようもなく悔しい事だが、実戦経験はベラトリックスの方が上だ。どんなに強くとも11歳の頃に魔法を学んだハーマイオニーは、千軍万馬の古者であるベラトリックスの倍以下の戦闘経験しか積んできていない。
互角と思われていた一戦も時間経過と共に徐々に劣勢へと押され始めてきた。
「
「
「
「
「
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休む暇も無く続けられる呪文の応酬。
威力、スピード、どれもまともに喰らったらマズい脅威に値するレベルだが、今のところは2人共上手く躱わしている。
だが、戦闘が始まってからお互い継続して呪文を発射、しかも避けたり追い掛けたりとずっと動き回ってきたせいか、それまで気にも留めなかった疲労を感じ取るようになってきた。
そろそろ体力勝負になりそうだと、2人は予め心構えしておく。
本日2度目の思考がシンクロした両者は荒く呼吸を繰り返し、しかし視線だけは互いに外さないで一旦攻撃の手を休める。
「はあっ……はあっ……ま、まさかここまで粘るとはな………やはり貴様は………あの時、さっさと始末…しておくべきだった」
一言毎に息を入れながらベラトリックスが口を開く。肩を軽く上げて額に吹き出た汗を拭うと、深く息をついた。
「そう易々と殺られる程………私も弱くないわ。悪いけど、負けられない以上はこっちだって手を抜いて挑む訳にはいかないのよ!」
だんだんと呼吸が落ち着き流暢に勇ましく吼えたハーマイオニーは血の混じった唾をペッと吐き捨て、口元を拭いながら杖を構え直す。
身構えたハーマイオニーに向かってほんの数十秒間休んでいたベラトリックスが先手を打って光線を放つが、
「
サッと避けたハーマイオニーは眼前に銀色に輝く防壁を出現させ、続け様に自分の足元をスプリング状態にさせるとそれに飛び乗って高く跳躍、展開したバリアを足で蹴って飛び越え、ベラトリックス目掛けて突っ走った。
「なにッ!?」
まさかベラトリックスもハーマイオニーが障壁を乗り越えて攻めて来るとは予想外だったのか、驚愕して両眼を剥き挙動が停止した。
そのチャンスを見逃す程ハーマイオニーも甘くはない。
硬直したベラトリックスに『身体強化魔法・俊足』を用いて一直線で加速し、
「終わりよ、ベラトリックス!」
トドメの一撃を決めようとした。
次の瞬間。
一瞬硬直したもののすぐに体勢を立て直したベラトリックスは、視界の隅に映った赤毛の少女にニヤリと口の端を歪め、
「
接近してくるハーマイオニーではなく、標的を変更したその人物に『死の呪文』を射出した。
「なっ………!?」
ハーマイオニーは急いでベラトリックスが死の呪いを放った方向に眼を向ける。
その先には―――死喰い人と奮闘し己の身に迫る一条の光に気付いていないジニーの姿。
瞬時に思考を切り替えたハーマイオニーは高速で『姿現し』をする。
そうして、ベラトリックスが撃った呪文よりも早く転移したハーマイオニーはそこでようやく気付いたらしいジニーを吹き飛ばす。
ハーマイオニーがジニーを庇ったのと同じくして、ハーマイオニーの全身に緑色の閃光に叩き付けられた。
(あ………)
『死の呪文』を受けた途端、意識が闇に侵食されるのを身を以て感じた。
徐々に目の前が真っ暗になっていく中、慟哭するジニーが何か叫んでいるのを認める。
ジニーだけじゃない。彼女と一緒に居たロンとクシェルも叫喚していた。
こちらを見つめて涙する3人を見て、ハーマイオニーはベラトリックスの意図を察して悔しさやら怒りやら、色んな感情がごちゃ混ぜになりながら………身体を傾かせ、地面に倒れ込む。
(エミリーさん…………ごめんなさい………私、結局敵討ち出来なかった………)
頬に当たる冷たい地面の感触。
失われていく身体の五感。
脳内に浮かんだ女性の顔を最後に、ハーマイオニーの意識はそこで途絶えた。
♦️
森閑とした世界のど真ん中に、ハーマイオニーはうつ伏せになって倒れていた。
まるで甘い酒を何杯も飲んだみたいに、ふわふわといい気分に心も身体も満たされている。
例えで言うなれば雲の中に居るみたいだ。ずっとこのままで居られたら、どんなに幸せだろう。
ハーマイオニーは不思議な微睡みの中、そのような甘い誘惑に浸っていた。
この心地よさをいつまでも味わえるなら、一生眠ったままでもいい………。
………けれど、何かがおかしい。何か変だ。
でも………このままいつまでも眠っていたい。
そんな考えが脳裏を過った直後、ハッと目を見開いたハーマイオニーは強引に睡魔をはね除け、勢いよく起き上がると、純白と言う言葉がまさにピッタリな真白い世界が褐色の眼に飛び込んできた。
起き抜けの、掠れ声が漏れる。
「………………え」
此処は何処?
状況が掴めなくて、頭の中に沢山の「?」が飛んでしまった。
とにかく、周りを確認しよう。
『そこにちゃんと存在している感覚』を忘れ、ハーマイオニーは地平線の彼方まで真っ白な空間の周囲を見渡す。
自分は確か、ベラトリックスの『死の呪文』を受けて死んだはず。
しかし、それならば何故?
何故、死んだ気がしないのだろうか?
疑問を胸に、立ち上がったハーマイオニーはブドウの杖を片手にいつでも対応出来るようゆっくりと歩き進める。
何もかもが白いベールで覆われた不思議な世界だった。初めて此処に来たのに、不思議とこの空気感が身体にとても馴染み、快然たる気持ちが満ち足りる。今更ながら、あれだけ疲れていた全身が癒えていて、傷も治っているのに気が付いた。
「此処は一体………」
何処なの?
と言おうとしたハーマイオニーだったが、それよりも早く、まるで物陰から見計らっていたかのような絶妙なタイミングで、疑問に応える声が背後から上がった。
「此処は生と死の狭間よ。今の貴女は仮死状態で生死の境目に立っているわ」
バッと勢いよく振り返ったハーマイオニーは、これ以上は無いと言うくらい眼を丸くして、ついさっきまで居なかったはずの場所に立つ、今は亡き人物の姿に食い入るように見つめた。
親友と瓜二つの容姿の、黒髪金眼の女性。
紛れもなく―――エミリー・ベルンカステルその人であった。
1年前、神秘部にて戦死した命の恩人が、今目の前に居る。
気付けば両眼からは涙が溢れていた。
涙でぼやけた視界の中、エミリーは最期の瞬間まで絶やさなかった柔和な笑みでこちらを見つめている。
「また会えたわね、ハーマイオニーちゃん。前とは比べ物にならない程成長していて、自分の事のように嬉しいわ」
「エミリーさん……ですよね? これ、夢じゃ、ないんですよね………?」
「ええ、勿論。これは夢じゃなく現実よ。寝起きの影響で寝惚けてるのかしら?」
冗談めかしてエミリーはフッと笑う。
悪戯っ子みたいな笑みは人をからかったりするのが得意なエミリーの最大の特徴だ。
生前と何ら変わらないその笑顔に、ハーマイオニーは自然と早足になって近付き、エミリーの胸に飛び込む。
「エミリーさん! エミリーさん! 私、もう一度、貴女に会って………一緒に、話したかった。また貴女と会えて、私……本当に嬉しい、です」
「私もよ。こうしてハーマイオニーちゃんとまた会えて、とても嬉しいわ」
「………エミリーさん。あの時、私達を命懸けで護ってくれて………ありがとうございました」
以前のハーマイオニーであれば、感謝の言葉よりも先に謝罪の言葉が出ていたに違いない。
そうしなかったのは、ここでその事を謝ったら大事な人達を護る為に命を投げ出したエミリーの誇りを傷付けてしまう事を知っていたからだ。
全力を尽くして戦った事。
それはエミリーにとって誇れる事なのだから、謝罪なんて以ての他。
それを理解するのに、ハーマイオニーは無駄な時間を費やしてしまった事を猛省している。
礼を言ってきたハーマイオニーの頭を撫で、微笑んだエミリーは「さ、行くわよ」と彼女の手を取って歩き出した。
最初の頃の警戒心が大分薄れ、暫くはキョロキョロと興味深そうに辺り一面を四望していたハーマイオニーはエミリーを見上げてそっと問い掛ける。
「あの………エミリーさん。さっき、エミリーさんは生死の境目だって言ってましたけど………本当にそうなんですか?」
「ええ、私が言った事は全部事実よ。貴女はジニーちゃんを庇ってベラトリックス・レストレンジの『死の呪文』を喰らい、そして今こうして私の隣に立っている。それの何処に間違いや偽りがあるのかしら?」
「そ、そうですよね………」
「まあ、いくら賢い貴女でも、この状況をすぐに飲み込むのは難しいし無理もないわ。でも、こう説明したら分かるんじゃない? 1年前、神秘部で死喰い人一味と戦った際、私はハーマイオニーちゃん達3人を―――もっと言えば、3人の内最も最前線に居た貴女を護る為に命を差し出した。そしてそれが原因で、かつてのハリー君みたいに護りの魔法が発動した、と」
護りの魔法―――。
過去にハリー・ポッターの母親が己の命を犠牲にする事で息子を護る為に遺した『犠牲の印』の事だ。
その事は勿論本人から直接聞き及んでいる。
それだけで頭の回転が早いハーマイオニーを納得させるには充分であった。
「………要約すると、私はまだ死んでいない、と言う意味ですか?」
「それを決めるのは貴女次第よ。このまま死を選び私と共に『
エミリーからの注意にハーマイオニーは眼を閉じて沈思黙考する。
エミリーと共にあの世へ行くか否か。
ここがきっと、人生最大の分岐点だろう。
ここでの選択が、今後の命運を分ける。
どちらが正解でどちらが不正解なのか。
すると、そんなハーマイオニーの胸中を見透かしたように、エミリーがこう言った。
「言っておくけど、これは貴女のみに許された権利なのだから、正解不正解なんて無いわ。ただ、貴女の下した選択こそ、貴女が本心から望んだ判断と言うだけよ」
ハッと、ハーマイオニーは眼を開けてエミリーを見上げる。
いつも通りの優しい眼差しでこちらを見下ろす彼女の柔らかい笑みを見ていると、不思議と気持ちが軽くなった気がし、そして目前の女性と瓜二つの親友の姿を垣間見た。
………ああ、なるほど。クールとチアフルと言う相違はあるが、やはり血を分けた姪と叔母か。
理屈など関係無しに何故か不思議と人を安心させてくれる優しさは、2人揃って共通だった。
「………貴女は、やっぱりフィールの叔母なんですね。どこまでも彼女に似ている………」
1人納得したように呟いたハーマイオニーは、口角を上げて1つの答えを示す。
「私、あっちに戻ります。戻って、ジニー達と一緒にこの戦争を終わらせます」
「そう………私の予想通りだったわね。貴女はきっと、あちらへ戻ると」
「………そういえばエミリーさん。戻る前に2つ程訊いてもいいですか?」
「ん? 何かしら?」
「エミリーさんは、この白い空間が何に見えるんですか?」
「逆に訊くわ。貴女は何に見える?」
反対に質問され、ハーマイオニーは改めて周辺をゆっくりと見渡す。
自分達のすぐ近くに何処までも果てしなく拡がる大海原が存在しており、ふと足元に視線を落としてみれば、サラサラとした砂浜の上に立っていた。
この景色には見覚えがある。
「………ブライトン?」
「へえ………貴女にはそう見えるのね」
人影は1つも見当たらないが、そこはかつて皆で海水浴しに訪れたブライトンであった。
そう理解すると、濃かった霧が幾分か晴れて全貌がより鮮明になった感じがする。
もしかすると、人によって見える世界は異なるのだろうか?
「で、もう1つ訊きたい事って?」
思考の海に沈みそうになったハーマイオニーは「そうだった」と意識と言う名の錨が急速に引き上げられ、最後に質問したかった事を尋ねる。
「………エミリーさんは、例え死んだとしても、私達の傍に居てくれますよね?」
「勿論よ。貴女達が私の事を覚えていてくれる限り、貴女達の中で私の魂は生き続ける。そして私自身が貴女を護りたいと思う限り、アイツらは誰1人として貴女に触れる事は出来ないわ」
「え? それってどういう………」
「直分かるわ。さ、お喋りはこのくらいにして、貴女は早くあの子達の元へ帰りなさい。皆、貴女の帰りを待ってるわよ」
エミリーが腕を振るうと、それまでの景色が一変、ホグワーツ魔法魔術学校へと変わった。
どうやらここでお別れのようだ。
短い間だったが、エミリーと出会えて本当に嬉しかった。
そう言って最後にエミリーとハグしたら、
「私………行ってきます」
と、別れの言葉を告げ、エミリーの方も別れの言葉を返してくれた。
「ええ、行ってらっしゃい。―――貴女達の武運を祈ってるわよ」
ハーマイオニーは小さく頷き、ローブを翻す。
その肩をエミリーが軽く押すと、ハーマイオニーは1度も振り返らず、背を向けたまま、歩みを進めた。
ハーマイオニーが仲間の元へ帰って行く後ろ姿を最後まで見送るエミリーに、何処からか現れた人影が歩み寄る。
エミリーとそっくりな顔立ちをした、紫色の瞳を持つ女性―――クラミーであった。
「あら? 姉さん、いつの間に来てたの?」
「いつから貴女はわたしを『姉さん』と呼ぶようになったのかしら?」
「え? じゃあ何? 前みたいに『お姉ちゃん』と呼ばれたいの?」
「どの口がそんな事言うのかしら?」
「まあまあ、そう怒らないでよ。せっかく久々に会ったんだから、もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃない」
「………ったく、言ってなさい」
やれやれと肩を竦めつつ、クラミーの表情はどこか柔らかい。何年も会ってなかった妹と会えて嬉しいのが滲み出ていた。
「………ハーマイオニーちゃん、相変わらず元気そうで良かったわ」
「ええ………私も安心したわ」
クラミーの言葉にエミリーは同意して目元を和らげる。優しい眼差しで今頃は夢から醒めたであろう娘の親友が消えた空間を眺めながら、クラミーは妹に問い掛けた。
「………エミリーはフィールの―――いえ、訂正するわ。年の離れた友達を自分の命を差し出してでも護った事、どう思ってる?」
「私は―――あの子達を護り抜けた事、誇りに思ってるわよ。お姉ちゃんがフィールを命懸けで護った気持ち、今なら凄く分かるわ」
そう言って想い出に浸るように眼を閉じたエミリーの顔は満足感に溢れていた。
それを見てクラミーはフッと笑い、クシャクシャと妹の頭を雑に撫でる。
「わたしも………貴女みたいな妹を持った事、誇りに思ってるわよ」
姉からの称賛の言葉を受け、エミリーは金眼をぱちくりとさせていたが、程無くして、プイッと顔を逸らした。
「………何よ、急に。さっきまでの雰囲気とはまるで違い過ぎて何なのよ」
「姉が妹を誉め称えちゃダメかしら? 言っとくけど今のは本心よ。わたしは貴女と言う妹を持って誇りに思ってる。ま、それを嘘と取るか真と取るかは貴女の好きにしてくれて構わないわ」
言って、エミリーの頭から手を離したクラミーは元来た道を戻って行く。
「もう行くの?」
「ええ。わたしは貴女の顔を見に立ち寄っただけだし。偶然だったけど、元気そうなハーマイオニーちゃんの姿を見れてホッとしたわ」
肩越しにチラッとだけ振り返ったクラミーはそのまま姿を眩ます。相変わらずな姉の様子にエミリーは笑い、彼女もまた、白い霧に紛れて姿を消した。
♦️
「………マイオニー! ハーマイオニー!」
自分の名を叫ぶ少女の声で、ハーマイオニーは夢から醒めた。
瞼を開ければ、真っ暗だった世界に世界の色が戻り、涙でソバカスだらけの顔をぐちゃぐちゃに汚したジニーの顔が瞳に映る。その両脇にはロンとクシェルが安堵した顔で覗き込んでいた。
「ハーマイオニー………! よかった、目を覚まして。私、貴女が死んでしまったかと………」
わあっと泣き出し抱きついてきたジニーに、上半身を起こしたハーマイオニーは死の呪いを受けた部分に痛みが走って顔を歪めながらも、よしよしと優しく背中を撫でた。
「なあハーマイオニー。一体何がどうなってるんだ? 確かに君に当たったはずの『死の呪文』、どういう訳か撃った張本人のベラトリックスに跳ね返ったんだ。2年の時、杖が折れた状態で唱えた僕の呪文が自分に逆噴射したみたいに………」
不思議そうな顔でハーマイオニーから別の方向に眼を向けるロンの視線の先を辿っていけば、ベラトリックスの右上半身が何かに焼かれて喪われたように焼失していた。利き腕が右の為か、今のベラトリックスに杖はない。
「ば、バカな………。こ、こんな事が………グレンジャー、貴様………何をした!?」
完全に混乱しパニックになっているベラトリックスは鬼のような形相でハーマイオニーを怒鳴り付ける。先程までの残忍な笑みは何処へやら、もう余裕ぶる事も強がる事も封じられてしまったその顔は困惑と恐怖で彩られていた。
「何をした、ね………別に私は何もしていないけれど。強いて言えば、貴女のした行為がそのまま綺麗に自分に返ってきた、自業自得って言ったところかしら」
息巻くベラトリックスに軽く肩を竦めたハーマイオニーはスッと立ち上がる。武器を無くしたベラトリックスは何故か1歩も動かなかった。敵に対し背を向けるのは敗北した事を相手に表す為それはプライドが許さないのか、もしくは金縛りにあったみたいに動かそうにも動かせないのか。
どちららにしても、チャンスである事に変わりはない。
こちらに歩み寄ってきたハーマイオニーに、ベラトリックスはせめて気持ちは強く持とうと、杖が無い彼女は少女の細い首に残された左手を掛ける。
それが大きな間違いだった。
ベラトリックスがハーマイオニーの肌に触れた瞬間、かつてクィリナス・クィレルがハリーに触れて消滅したように、絞殺しようとしたベラトリックスの手がたちまち火傷を負ったように焼け焦げていった。
「………ッ!!?」
ベラトリックスの眼が、大きく見開かれる。
ハーマイオニーに触れた箇所が乾いた地面にようにひび割れ、ボロボロと焼け崩れていく。
これがエミリーの言ってた『私自身が貴女を護りたいと思う限り、アイツらは誰1人として貴女に触れる事は出来ない』かと思いながら、ハーマイオニーは手を伸ばしてベラトリックスの顔などに触れた。
ハーマイオニーが触れる度、ベラトリックスの身体は着々と滅んでいく。
やがて苦しみ悶えていたベラトリックスがこの世から消滅する寸前、
「因果応報とは、まさにこの事ね………ベラトリックス。貴女にはお似合いの最期だわ」
怨敵の小さな呟きが耳に入り、そして、かつてこの手が葬った女の姿が垣間見た気がして………その思考を最期に、ベラトリックスの肉体は滅び散った。
皮肉にも、自分の行った行為が最終的に己を死に至らしめる結果となったのだ。
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第二魔法戦争が勃発してからどのくらい時間が経ったかは分からないが、気付けば闇の陣営は壊滅していた。
あちこちに居た死喰い人や人狼は勿論の事、最強の副官・ベラトリックスも倒され、残すは闇の陣営トップ・ヴォルデモートのみだろう。
しかし、そこに辿り着くまでに多大な犠牲を払うのは避けては通れなかった。
現在、大広間には最期まで勇敢に戦った戦士達の遺体が運び込まれているところだった。粗方運び終えると、皆は戦死した者に対する嘆きや悲しみに暮れたり、慰めたりする姿があちこちで見られる。
重苦しい空気が漂う大広間の片隅で、トンクスが親友2人を失った喪失感を我慢して戦闘を続けた後輩を励ます光景があった。その後輩―――クリミアは虚ろな瞳で、『家族』の遺体を眺めている。
婚約者のルークが双子の妹・シレンの遺体に泣いて縋り、その彼の傍には共に戦ったクラムやフラー、母のセシリアが寄り添っていた。その近くには父・ライアンの遺体が横たわっている。
彼が死ぬ瞬間まで一緒に居たシリウスとルーピンはショックを受けている様子であり、人狼グループとの一戦を潜り抜けて勝利したベイカー夫妻も大切な人達を亡くした苦痛を感じつつ、いつまで経っても現れないハリーとフィールの安否も気にしていた。
と、その時だ―――。
「―――フィール!?」
誰かの一声が静まり返った大広間に反響する。
全員が広間の入り口に眼を向けてみれば、確かにそこにはフィール・ベルンカステルが居た。
どうやら、無事だったらしい。
皆はホッと胸を撫で下ろしたが………何か違和感を感じたのか、警戒心を帯びた瞳でフィールを見つめていたダンブルドアが、突然ニワトコの杖を彼女に定め、物凄いスピードで魔法を撃った。
え………?
と、この場に居た誰もが眼を丸くした、次の瞬間。
「ちっ………そう簡単に貴様を欺く事はやはり無理だったか、ダンブルドア」
『姿現し』してダンブルドアの攻撃を回避したフィールが、ニヤリと普段の笑顔からはかけ離れた邪悪な笑顔で嗤って見せる。
ダンブルドアを除く全ての人間が愕然とする中―――彼女の蒼い瞳が、一瞬だけ紅く光った気がした。
【護りの魔法】
はい、皆さん気付いていたと思いますが、実はハーマイオニーには護りの魔法が遺されていました。で、結果はベラトリックスの敗北と言う、まさに自業自得な結末に。
あと久々にエミリーさんとクラミーさんがご登場してくれました。
【戦死したオリキャラ】
ソフィア・アクロイド
アリア・ヴァイオレット
シレン・ベルンカステル
ライアン・ベルンカステル
余談ではありますが、2章ラストに初登場したシレンを除く3人は#1~3の1章の時から登場した古参メンバーでございます。
【大事な御知らせ】
実は当初の予定ではウクライナ・アイアンベリーを闇の陣営側の生物として参戦させるつもりだったのですが、諸事情により本作での御登場はナシとなりました。
#56で「アイアンベリーは最終章で登場するでしょう」とか言ってたのに申し訳ございませんm(_ _)m。
【まとめ】
今回はベラトリックスを初めとする闇の陣営が壊滅しましたの回でした。
だがしかし、そう簡単に終わるはずもなく、ラスト、まさかの展開に。
最後に現れた『フィール』の詳しい描写は次回明かされますのでお待ちを。
そして次回、遂にVSラスボスを迎えます。
1年以上続いた物語ですが、ようやく終わりの光が見えてきました。
果たして次回、どのような結末が待ち受けているのか。
また見てね、バイバイ。