【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
今回はタイトルが示す通り最終話の続き……フィールがハリーを大広間に帰した後のちょっとしたエピソードです。
短い話ではありますが、どうか最後までお読みになって頂けたら幸いです。
サブタイトルの「アカシア」はフィールの杖の木材でもあるのですが……以前、何と無く花言葉を調べたらこれ以上ないくらいにフィールにピッタリでビックリした事を思い出し、これに採用しました(花言葉は後書きにて記載してます)。
それではどうぞ。
※11/16、一部文章修正&追加。
FINcontd.アカシア
最後の力を振り絞り、ハリーを無事に皆が待つ大広間へ送り届けたのを見送ったフィールは「空間移動」の黒い穴が消えた直後、堪らず膝をついて喀血した。
「ごほっ、ごほっ……!! ッッはぁ!! はぁ…はぁ……はぁ………はぁ……ッ!!」
両手で口元を押さえ、激しく咳き込む。
咳き込む度、口から赤黒い血が溢れ、白い手を濡らした。
ヴォルデモートに身体を乗っ取られ無理矢理操られただけでも相当なのに、短時間とは言え「破滅守護霊」の攻撃を生身で受け、更には限界以上の力を引き摺り出されてしまえば、人より心身が頑丈なフィールとて無事では済まない。
フィールの肉体は既に限界を超えており、喀血する度、時間が経つ度、彼女の命の灯火は消えようとしていた。
(あの顔面核兵器野郎め……!! どこまでもムカつくヤツだな本っっっっ当に……!! アイツだけは……地獄の果てまで追い掛けてでも絶対ブッ飛ばしてやる……!!)
心の中で何度もヴォルデモートに対する恨み言を吐きつつ、何とか咳を止めようとするが、止まらない。止められない。
先刻よりも濃く強く感じる嫌と言うほど経験してきた血の匂いと感触に吐き気がしてくる。
(ああ、もう……何でだよ。何でなのよ。せっかくヴォルデモートを倒したって言うのにこんな形で終わるとか……。結局、生きてホグワーツを卒業しようって約束、破っちゃったし………皆…)
「…ご…めん……本……当に……ごめ…ん…なさ……」
直後、いよいよ支え切れなくなったフィールの身体がぐらっと傾き、地面に倒れてしまった。
ひんやりとした冷たい感触が全身を包むが、それより前から刻一刻と身体から熱が抜けていってるせいか、そこまで大差はなかった。
(ハリーに伝言を託したとは言え……どうせ死ぬなら直接私の口から伝えたかった……。いや、それよりももっと……皆と一緒に寿命で死ぬまで生きたかった。これからも沢山、想い出を作りたかった。なのに……そんな単純な願い事さえ、私は……叶える事が出来なかった……)
悔しさや悲しさ、辛さがごちゃ混ぜになったフィールの両眼から熱い涙が溢れ、目の前の視界が歪んでいく。
(クシェルやハリー達と会う前は……いっそのこと死ねたらどんなに楽だろうかって考えてたのに……お父さんやお母さんの居る所に行けたらどんなに良いだろうかって思ってたのに……)
今は、大好きな人達と一緒に生きたかったと、心から強く望んでいる。
それは昔の自分では到底考えられない考えであり、望みであり、願いであり、想いであった。
でもそれは、もう叶わない。
どんなに強く望んでも。
皆の元へは帰れないし、直接は伝えられない。
ならば、せめて……せめて死ぬ前に、それぞれ伝えたかった想いを言葉にしよう。
此処からでもいい。皆の耳に届かなくても構わない。
此処には居ない彼等の魂に自身の想いを届けられたら……それで十分だ。
(セドリック。男の人で初めて私の事を女として本気で好きになってくれた事は今でも忘れてないわ。事情が事情だから仕方無かったとは言え、貴方からの告白は断ってしまったけど……4年の時ダンスパーティーのパートナーに誘ってくれた事、真っ直ぐな気持ちをぶつけて告白してくれた事、本当に嬉しかったよ)
でも……幼い頃の記憶を取り戻した今はクシェルと同じ気持ちで何度生まれ変わってもクシェルと一緒になりたいって気持ちが私の心を占めているし、クシェルとも以前「私の事を貰ってください」って約束しちゃったから。
もしも来世以降、現世と同じ事が起きたら多分と言うか絶対また断るから予め謝罪しておくわ。……ごめんなさい。そしてありがとう。私の事を好きになってくれて。
(ダフネ、アステリア。スリザリンではクシェルやアリア先輩以外で私と友達になってくれて、仲良くしてくれてありがとう。特にダフネとは打倒クシェルを目標にクシェルには内緒で秘密の特訓をした事もあったわよね。あと、貴女の案でアンブリッジにバレないよう秘密結社のSSをこっそり立ち上げた事もあったっけか)
最初は私が大人数を相手に先生役を務めるのは正直戸惑ったし、途中で音を上げたりしないか心配だったけど……こうして魔法界の為に、誰かを守る為に最後まで戦った貴女方の事、指導官として、親友として誇りに思うわよ。
(ハーマイオニー、ロン、ジニー。あなた方はクシェルとハリーを除けば一番関わりが深かった私の親友よ。第二次魔法戦争が始まる前、ベルンカステル城で一緒に過ごしたのもそう。皆でクィディッチしたりかくれんぼして遊んだりしたわね。凄く楽しかったわよ)
本当だったらこれからも一緒に遊んだり仕事したりワイワイしてたはずなのにね。この戦いが終わったら皆で遊園地に行ったり、また海水浴しにブライトンに行きたかった。……約束を守れなかった事、本当に後悔してる。
(ソフィア、アリア先輩。在学中はクリミアと一緒に私を妹のように可愛がってくれて、気に掛けてくれて、ありがとうございました。私にとって貴女達2人は第二・第三の姉です。来世でも先輩方とは家族のような親しい関係になれたら嬉しいなあ……)
そしたら、また初めてのホグワーツ特急では同席してお昼ご飯を食べたり、初めてのホグズミード週末にはホグズミードを見て回ったりとかしたいと願うのは……ダメですか?
(クリミア、ライアン叔父さん、セシリア叔母さん、ルーク、シレン、ライリーさん、イーサン。生まれた時から私の面倒を見てくれた事、今まで私を支えてくれた事、何てお礼を言えばいいか、私には分からないわ。誰よりも一緒に長く過ごしてきたあなた方には沢山、『ありがとう』って感謝の気持ちを面と向かって言いたかった。伝えたかった)
そして……「ごめん」って気持ちも同じくらい言いたかった。伝えたかった。あなた方には何度も心配を掛けてきた。心配を掛けさせた。自分勝手で迷惑ばかり掛けてきた私の事をそれでも見限らず傍に居てくれた家族に恵まれて、私は幸せ者だったよ。
(ハリー。貴方とはこれまで幾度と無く修羅場を潜り抜けてきたわね。クィレルから賢者の石を守ったり、秘密の部屋に行ってバジリスクとトム・リドルを倒したり、復活直後のヴォルデモートと一戦交えたり……。貴方は私の最高の相棒であり戦友よ。今まで一緒に戦ってくれてありがとう)
思えば10年程前、貴方と最初に会った時から私達の運命は歯車を回したのでしょうね、きっと。長く繰り広げられた戦いに終止符が打たれた瞬間も……私の人生の最後に関わった人物も貴方なんて、運命的な因果を感じるわよね。でも……同時に辛い役目を貴方に押し付けてしまった事は本当に申し訳無く思うわ。……最期までごめんね。
(クシェル。貴女には感謝してもし切れないわ。貴女が居てくれたから……私は今日まで生きる事が出来た。誰かの為に生きたいと思えるようになった。貴女が居てくれたから……私は『クラミー・ベルンカステル』としてではなく『フィール・ベルンカステル』として存在してもいいのだと思う事が出来た。叶う事なら……共に生きるのも死ぬのも貴女が良かった)
その願いはもう叶わぬものとなってしまったけど……最後に私が貴女に、貴女達に願うとするなら、どうか現世で幸せに生きて。皆とはまた何処かで必ず逢えるから。何度生まれ変わっても皆に逢いに行くから。
だから、生きて幸せになって。死んでも私は貴女の傍に、貴女達の傍に居るから。貴女達が私を想ってくれる限り貴女達の中で私の魂は、想い出は、永遠に輝き生き続けるから。
この場に響き渡る轟音がより一層強くなり、秘密の部屋が遂に完全崩壊する寸前―――走馬灯のように数々の想い出や記憶が脳裏を駆け巡ったフィールは静かに眼を閉じて微笑み……。
「―――ありがとう皆。……愛してるわ。永遠に」
そこで、意識は途切れ、全てが終わった。
✡️
気付いた時、フィールは見渡す限りの真っ白な世界に立っていた。
身に纏う制服は新品同様に綺麗で疲れや痛みを感じなければ苦しさもいつの間にか消えている。
魂の境界線と似たような場所でまだ少しぼんやりとした頭のフィールが行く当てもなくふらふらと歩き続け……ふと、その先に人影を複数捉えた。
眼を凝らして見てみれば、そこには既に死に別れた家族や先輩2人、ハリーの両親と思わしき男女がこちらを見ながら立っていて、フィールの視線に気付いた彼等は、優しく微笑みつつもどこか哀しそうな表情を浮かべる。
彼等を見たフィールは「ああ……本当に自分は死んだんだな」と改めて認識しつつ、長年ずっと会いたかった家族と再会出来たにも関わらずどこか素直に喜べないでいたり、ヴォルデモートに憑依されていた影響で自身と同じく戦死したとは思ってもみなかった人達との意外な場所での再会にショックを受けたりと、色々複雑な心境だった。
「……まさか、こんなに早く此処に来るなんてね。流石に予想外だったわ」
「……私も。お母さん達と会えたのは確かに嬉しいけど……でも……出来ればお母さん達と会うのはもっとずっと先……最低でも100年後が良かった」
それはフィールとクラミーのみならず皆が同じ思いだった。
会いたい気持ちは確かにどちらもある。
が……此処で会うのは天寿を全うした後でも遅くはなかったはずだ。
互いに望まない形での再会はあまり嬉しいものではない。
「……フィールちゃん。今まで私達の息子を……ハリーを守ってくれてありがとう。貴女には本当に感謝しているわ」
「いえ、そんな……。私の方こそハリーには守られ救われましたので。……あの、一応確認しますが貴女と貴女の隣に居る男性はハリーの……?」
「ええ。母のリリー・ポッターよ。貴女のご両親の1個下の後輩。で、こっちが―――」
「ハリーの父のジェームズ・ポッターだ。息子が世話になったな。シリウスやリーマスも元気にしてるようで何よりだ。しっかし本当に君、眼の色を除けば母親のクラミーとマジでそっくりだなあ」
「それを言うならジェームズさんの方こそ。あなた方の知人が話してた通り、本当にハリーは貴方の生き写しなんですね。眼はリリーさんと全く同じですが」
「おっ、そうか? 良かったなリリー。僕達の息子は僕に似てイケメンとフィールからもちゃんとお墨付き貰えたぞ」
「私としてはハリーが学生時代の貴方に似なくて心底良かったと思うけどね」
ポッター夫妻のお陰で少しだけ場の空気が和み、全員がフッと笑ったところでフィールは叔母のエミリーに視線を移す。
「エミリー叔母さん。神秘部でハーマイオニー達を守ってくれてありがとね」
「貴女にとっても私にとっても大事な友達よ? 守るに決まってるじゃない。そういえば、一度ハーマイオニーちゃんがベラトリックスの『死の呪文』を受けて生死の境目に来た時、また会ったわ」
「どうだった? 成長した私の自慢の親友は」
「自分の事のようにとても誇らしかったわ」
「なら良かった」
次にフィールが眼を向けたのは知らない間に戦死していた4人……叔父のライアンと従姉のシレン、そしてクリミアの親友のソフィアとアリアだ。
「……欲を言えば、あなた達には生きていて欲しかったな」
「貴女もね。クリミアより先に……姉を置いて死ぬなんてさ。本当、クリミアの妹としてどうかしてるわよ」
「……ごもっともです」
「まあ、でも……生き延びたらまた遊ぼうって約束したのにその親友を置いて死んじゃった私達も、クリミアの親友としてどうかしてるけどね」
「……ごもっともだわ」
フィールは4人の気持ちを代表して言ったソフィアからの言葉に、ソフィアは親友のアリアからの言葉に何も反論出来ず、それしか言えなかった。
「……フィール」
俯くフィールに声を掛けたのはそれまで黙ってやり取りを見ていた双子の姉のラシェルで、歩み寄ったラシェルは妹を強く抱き締め、娘達を纏めて抱き締めたのが、父のジャックと母のクラミーだった。
「……………おかえり、フィール」
「おかえりなさい」
「………ただいま。お姉ちゃん。お母さん。お父さん……っ、……うっ、ぁ…ああああああぁぁぁぁぁ……!!」
家族全員……否、クリミアも含めての全員だから、家族4人で集まったのはこれが12年ぶりで、家族のぬくもりと香りに包まれて一気に涙腺が緩くなったフィールはこれまで溜め込んでいた感情が爆発して、堪え切れずまた涙が溢れ子供のように泣き出した。
こうして家族に会えた事の嬉しさと、クシェルやハリー達とはもう会えない事の悲しさや淋しさで胸が一杯になり、何が理由で大泣きしているのか自分では分からなくなった彼女を抱擁しながら、この場に居る全員が同じ事を思う。
本当に……最期まで見事な生き様でした、と。
【アカシアの花言葉】
「愛情」「友情」「魂の不死」