【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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リクエスト回②後編で少しだけ描写のあった女子会の補完エピソード。
時系列はホグワーツの戦い終戦後とリクエスト回②の間。
後編に合わせて編集したので矛盾は恐らくそこまで無い……と思われます。
短い話ではありますが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)。


IF番外編.千夜一夜の夢を紡いで

 ある日の事。

 連休を取って数日前からハーマイオニーの自宅に初めて泊まりで遊びに来たフィールとクシェルは現在、寝室の所有者であるハーマイオニーも含めて三人で、マグル界では幅広い世代から絶大な人気を誇るアニメーション映画のシリーズをマラソン鑑賞した後の女子会を満喫していた。

 

「久し振りに皆で映画観たけどやっぱりどの作品も面白いね! あ~あ、魔法界でもテレビが普及すれば絶対良いのに」

「それに関しては全面的に同意するわ。正直な話、魔法界は文化面に関してはマグル界より遥かに劣ってるからもう少し新しいモノを取り入れる努力をして欲しいわね、割りと本気で」

「私的には魔法界出身の貴女方がマグルのアニメ映画を知っている他テレビを見た事がある事自体、少しビックリしてるわ。でも、逆に魔法界出身の人間で一緒にマグルの映画を観て楽しんでくれる友達がいて私は嬉しいわよ」

 

 プライマリースクールに通ってた頃は主に性格の問題から友達らしい友達が一人もいなかった分、数少ない同性の親友……それも二人とアニメ映画を観る日が来るなど、当時は夢にも思ってみなかったから尚更だ。

 

「ところでクシェルとフィールは今回観た映画の中でも何の作品が一番好きなの?」

「私は勿論『ピーター・パン』! 昔から大のお気に入りだし、何回観ても夢と希望を与えてくれる不朽の名作だからね! 私の中ではダントツ! 不動の1位! ハーマイオニーは?」

「そうねえ……。女の子なら誰もが一度は憧れる『シンデレラ』も好きだけど、一番は『美女と野獣』ね。世界中で愛されているファンタジーの最高傑作にして『種族を越えた愛』を描いたラブストーリーの金字塔、そして何より、主人公のベルがプリンセスの中で個人的に最も好きなのよね。最初に観た時から『読書が好きな変わり者』って所に親近感が湧いたと言うか、『プリンセスになるとしたらベルになりたい』と思うくらいベルには深い思い入れがあるわ」

 

 特に美女と野獣を語る上では欠かせない中盤のダンスシーンは映画史に残る名場面中の名場面だから、あのシーンは本当に何度も繰り返し観る程今も昔も大好きよ―――とハーマイオニーが笑顔で言えば、確かに、とハーマイオニーの言葉に異議が無いフィールとクシェルは大きく頷く。

 

「美女と野獣のベルとハーマイオニーって結構そっくりよね。どちらも読書が趣味で本をこよなく愛するちょっぴり変わった美人だし、髪の色も同じだし」

「演劇や実写映画にするならベル役はハーマイオニーが適役だね! 出演が決まったら観に行くよ!」

「お世辞でも褒めてくれるのは嬉しいけど私は女優じゃないわよクシェル」

 

 苦笑しつつも冷静にツッコミを入れたハーマイオニーはフィールに視線を移し、「話が脱線したけど、フィールは何が好きなの?」と再び問い掛ける。

 

「ん~……色々あって迷うけど二つ挙げるとするならサバンナを舞台にしたあのミュージカル映画と、千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)で最も有名な話を基にしたヤツね。ストーリー性やキャラ性は勿論の事、歌がまた良い。とりわけそれぞれの主題歌はメインテーマなだけあってどちらも印象的。後者は魔法の絨毯に乗って互いに寄り添いながら一緒に歌うアラジンと王女様の空中デートシーンがロマンチックで素敵なのよね……って。何でそんな驚いた表情で私を見るのよ二人共」

 

 何故か両眼を大きく見開かせてこちらを凝視するハーマイオニーとクシェルのビックリした面持ちにふと気付いたフィールが訝しい眼差しを向ければ、二人はハッと我に返った。

 

「ああ、ごめんなさい……。まさか貴女の口から『ロマンチックで素敵』なんて言葉が出てくるとは予想外だったからつい」

「右に同じく」

「よろしい。ならば決闘だ。今すぐ表に出てお辞儀をするのだ」

「待って待って待って! 別に悪い意味で言った訳じゃないわよ! 単にそういうのに興味無さそうな貴女も中身はやっぱり私達と同じ年頃の女の子で見た目とオーラのギャップが可愛いなって思って言っただけだから! ていうか何で最後の最後にいい歳して厨ニ病の末期拗らせるような何処かの死の飛翔(笑)の真似をするのよ! 貴女のせいで休み明けの仕事の最中に今のセリフ思い出して吹いちゃうパターン入っちゃったじゃない! 思い出し笑いで仕事どころの話じゃなくなるわ!」

「それならそうと早く言いなさいよバカ。あとさっきの厨ニ病云々の発言でふと思ったのだけれど、あの顔面核兵器野郎、ただでさえ一度見たら忘れられないインパクト大の面白い顔してたのに怒りで血圧上がり過ぎて顔どころか全身茹でタコになったら間違いなく抱腹絶倒は避けて通れないわよね」

「ちょっとフィー! せっかくハーマイオニーの爆笑発言で思いっ切り吹き出すの必死に堪えてたのにあんまり笑わせないでよ! 私笑い死にするじゃん!」

「こういう時は堪えないで存分に笑っときなさい」

「そうよこういうのは笑った者勝ちよ。元はと言えば一人称『俺様』のせいで小物感半端じゃない事に一切気付かなかった死の飛翔(笑)が原因なんだから」

「それもそうだね!」

 

 HAHAHAHAHAHAHA、といい歳して厨ニ病の末期拗らせるような死の飛翔(笑)こと何処かの顔面核兵器野郎をネタに好き放題言い合った三人は暫くの間、それぞれの気が済むまで爆笑した。

 一頻り笑った後、気持ちが落ち着いたハーマイオニーがふと「ところで二人はもし、自分がプリンセスになれるとしたら誰になりたい?」とこんな質問を投げ掛ける。

 

「難しい質問ね……と言うより、私はまず自分が物語のお姫様になるって事自体、全然想像出来ないわ」

「まあ実際フィーの場合はプリンセスよりも寧ろプリンセスを助けるプリンスやナイトの方がピッタリだよね」

「言われてみればそうね。ゲームや漫画の如く本物のドラゴンを単騎で討伐出来るフィールなら大半のヴィランなんてコテンパンに倒しそうだわ」

「実写映画や舞台に出演するなら目立つのはあんまり好きじゃないから其処らに居るモブAで十分だけどね」

「貴女みたいなモブAがいたら物語崩壊もいいところだわ」

「王子様が登場するより前に物語が完結しちゃって話が成り立たなくなるよ」

「酷い言い種ねえちょっと。流石の私でも傷付くわよ」

 

 ハーマイオニーとクシェルが二人揃って無邪気に笑えば、再び弄られて口を尖らせたフィールも怒る気力が失せてしまい、肩を竦めるだけに留めた。

 

「それで、私らはさっきまで何の話をしていたんだったかしら?」

「プリンセスになれるなら誰になるか、よ。でも質問の難易度が高かったから少し内容を変えるわ。フィールだったらどのプリンセスがクシェルのイメージだったりする?」

「そうねえ……こっちはこっちで難儀な質問だけど、強いて言えば私の好きな作品でヒロインを務める王女様とお転婆幼馴染みちゃんかしら? 好奇心旺盛で勝ち気、活発で行動力がある、自分の意志を持っていて堅苦しい事が嫌いなのはクシェルにも当て嵌まってる事だし」

「あっ、貴女もそう思うのね。流石フィール、ナイスセレクトよ。やっぱり誰よりもクシェルに詳しい人は違うわ。良かったわねクシェル。ちゃんとフィールは貴女の事をよく見てるわよ」

「うん! ありがとねフィー!」

「……………」

 

 ハーマイオニーからは褒め言葉を、クシェルからは感謝の言葉を貰ったフィールは無言で顔を逸らし、照れ隠しからか髪を耳に掛ける。

 フィールとは長い付き合い故、色白の頬と耳がほんのり紅くなっているのを見逃さなかった二人はニヤニヤ笑った。

 

「あれれ? もしかしてフィー、照れてるの?」

「……別に照れてないけど?」

「じゃあ何でこっち見ないの?」

「ノーコメントでよろしく」

「会話噛み合ってないわよ」

「いいのよ噛み合ってなくても」

「いやいや良くないでしょ」

「細かい事は気にしない気にしない」

「いや気にするわよ」

 

 律儀にコントのようなやり取りには乗ってくれるものの、変に意地を張る子供みたいに頑なに顔と視線は合わせようとしないフィールなりの抵抗に可愛いなと思った二人は一瞬アイコンタクトするとそっと近寄り、

 

「じゃあ、私らの方から行く~」

 

 と、両サイドからフィールを挟み込む形でギュッと抱き付いた。

 突然ハグサンドされたフィールは「ッ!?」となりジタバタしたが、軈て諦めたのか暴れるのを止めて大人しくなった。

 

「ふふっ……昔と比べて大分丸くなったわねフィールも。学生時代はクールな優等生だった貴女もこういう赤面した所を見ると何だかんだ言ってもやっぱり年相応の女の子ねって思うわ」

「あら、それを言うならハーマイオニーだってそうじゃなくて?」

「貴女程じゃないわよ」

「そうかしら? ハーマイオニーは私以上に色んな意味で石頭の優等生ちゃんだったし、今でも普段はルールに五月蝿い堅物のキャリアウーマンでも中身は年頃の女の子らしく乙女なのは私を始め、所謂ギャップを感じる人も多いんじゃないの?」

「ちょっとフィール! 色んな意味で石頭ってどういう意味よ! 私の頭部はオリハルコンで出来てるとでも言いたい訳!?」

「え、違うの?」

「違うわよ!?」

「てっきり私はハーマイオニーの頭はオリハルコンや鉄筋コンクリートで出来てるのかと思ってたわ……」

 

 本心なのか冗談なのかは分からないが小声でフィールがそう呟いた瞬間。

 眼を三角にしていたハーマイオニーは何故かニコニコと怖い笑顔を浮かべ……身の危険を感じたフィールが逃げるよりも早く、ドンッとクシェルの方へ突き飛ばした。

 アイコンタクトでハーマイオニーの意図をすぐに察したクシェルは倒れ込んできたフィールをしっかりと受け止める。

 

「なるほど。よぉく。分かったわ。どうやら貴女にはキツ~いお仕置きをしないといけないようね。クシェル。悪いけど暫くの間、フィールを押さえてくれるかしら?」

「OK~」

「ちょっと!?」

「覚悟しなさいフィール! これから1時間、貴女には二度とそのふざけた口が利けないよう私がみっちり躾けてやるわ!」

「悪かったわよハーマイオニー! ちゃんと謝るから! どうか許して―――」

「言い訳無用!」 

 

 ハーマイオニーの命令に従ってクシェルにがっちりホールドされて押さえ込まれたフィールはその後、必死の謝罪も虚しくハーマイオニーによる擽り地獄を味わう羽目になり、「助けてクリミアーーー!!」と此処には居ない姉に助けを求めて泣き叫ぶのだった。

 

✡️

 

 1時間後、ハーマイオニーの気が済んでフィールが擽り地獄から解放された後は皆でお風呂に入った。

 全員が濡れた髪を乾かし、ハーマイオニーの部屋へと戻って来たら早々に電気を消して三人で一つのベッドに潜り込み、川の字になる。

 因みに今日はフィールが真ん中だ。

 就寝時間にはなったがまだ眠気は襲っては来てないので、眠くなるまで三人は会話を続ける。

 

「今日も楽しかったね」

「そうね。あとはフィールの意外な一面が見られて大満足したわ。擽られて顔を真っ赤にさせて涙眼になってたのは本当に可愛かったわね」

「うぅ……お願いだからその話は止めて……」

「はいはい。それじゃあ貴女のお望み通りこの話は止めて女子会の続きでもする?」

「そうねそうしましょう。え~と……今日観た映画はシリーズの中でもトップクラスの人気を誇るだけあって面白かったからまた観たいわね。勿論他の作品も」

「貴女の好きな作品限定にするならフィール的にはどのシーンが特に印象的だったかしら?」

「ダントツでアラジンと王女様の空中デート」

「やっぱり。フィールならきっとそう答えると思ったわ。私も魔法の絨毯に乗って空を旅するあの場面は一番好きなシーンよ」

 

 フィールとハーマイオニーが共通の話題で盛り上がれば、それまで黙って聞いていたクシェルは「二人の話を聞いてたら本当に魔法の絨毯で空の散歩したくなってきたよ」と言い、クシェルの言葉を受けたフィールは少し考え込んだ末、

 

「じゃあ、行ってみる?」

 

 と、至って普通に尋ねた。

 

「え?」

「クシェルの要望に応えて明後日の夜、魔法の絨毯に乗って空の旅へ出掛ける?」

「マジで!? 本当に行けるの!?」

「ええ。行くとなれば明日はちょっと準備したい事があるから明後日になるけど……」

「全然大丈夫だよ! だから気にしないで! と言うかその絨毯って一度に三人も乗れるの?」

「問題無いわ。私達はスリムだし絨毯も大きめだから三人乗っても平気よ」

「やった! うわあ、明後日が楽しみ過ぎて待ち遠しいよ!」

「でもフィール。確か空飛ぶ絨毯の輸入はイギリス魔法省では禁止されてるんじゃなかったかしら?」

 

 興奮した様子でクシェルが瞳をキラキラ輝かせたのに対し、賢いハーマイオニーが冷静に法律を指摘すれば、何故かフィールはフッと笑った。

 

「ところがどっこい。昔、何故だか知らないけど城の倉庫に空飛ぶ絨毯が保管されてたのを見付けてね。家にあるのよこれが。多分、先祖の誰かが輸入禁止前にアジア魔法界に旅行に行った記念に買ったヤツでしょうけど……どう? せっかくの機会だし皆で出掛けない? 勿論、マグルや魔法使い……特に魔法省勤務の人間には目撃されないよう認識阻害の魔法や落下防止の魔法は施すから心配要らないわよ」

「……バレたら法律違反じゃないのそれ?」

「昔、匂い消しチョーカーをフル活用して叔父と特訓に励んでた人が今更何を言ってるのよ。それに空飛ぶ絨毯の輸入禁止が法律違反なら将来キャリアアップしたハーマイオニーが後々ルールを変えればいい話でしょ。第一絨毯が『魔法を掛けてはいけないマグルの製品』としてダメなら箒だってアウトじゃない。箒もマグルの製品として存在する訳なんだし、何が違うって言うのかしら?」

 

 グッと言葉に詰まったハーマイオニーは逡巡した末、「……せっかくだから三人で行きましょうか」と結局のところは自分も空飛ぶ絨毯に乗りたい誘惑に負けてポツリと呟く。

 ハーマイオニーはハーマイオニーで昔と比べて随分丸くなったのを再認識したフィールとクシェルは「じゃあ決まりね(だね)」と視線を交わして笑った。

 

✡️

 

 そして迎えた翌々日の夜。

 ベルンカステル城にやって来たクシェルとハーマイオニーはバルコニーにてフィールが来るのを待っていた。

 何故かは知らないが彼女から此処で待つよう言われたのだ。

 今日は天気も良く風も穏やかで満月と星が彩る綺麗な夜空だから、夜の空中散歩にはこれ以上無いくらいの好条件で欄干にもたれ掛かりながら二人でまだかなーと顔を見合わせた時、

 

「舞台は砂漠に囲まれた神秘と魅惑の王国。その下町にアラジンと言う貧しくもその心はダイヤの原石のように清らかで心優しい青年が暮らしていました。ある日、アラジンはひょんな事から城を抜け出した王女様と出会い、二人は恋に落ちます。その後、紆余曲折を経て王女様の前に現れたのはどんな願いも3つ叶えてくれるランプの魔人の力を借りて王子に扮したアリ王子ことアラジンでした。再会と別れの末、見事王国の支配を目論む邪悪な魔法使いを砂漠の彼方へ封印し王国の危機を救ったアラジンは、彼の勇敢で誠実な姿に感動した国王に王女様との結婚を認められ、二人は無事結ばれましたとさ―――」

 

 何処からか、簡単且つ簡潔にストーリーを淡々と語るフィールの声が耳朶を打った。

 えっ? と思わず眼を丸くした二人の目の前に現れたのは、空飛ぶ絨毯に乗ってアリ王子に扮した際のアラジンと全く同じ格好をしたフィールであった。

 ポカーン、とするクシェルとハーマイオニーにサプライズ成功と言わんばかりに笑い掛けたフィールは彼女らにシーツを被せて「3……2……1……」とカウントを始め、0になった瞬間、フィールが勢い良くシーツを取れば、いつの間にか二人は、髪飾りやピアス等のアクセサリーも含めて王女様が身に纏っていたあの色鮮やかなパウダーブルーのドレスに着替えていた。

 

「これって……」

「気に入って貰えた?」

 

 驚きの連続に思考が追い付かない二人に手を差し伸べたフィールは優しく微笑む。

 

「さあ、魔法の絨毯に乗って夜の空の旅へ出掛けよう王女様。今宵は私、アリ王子ことアラジンが貴女方をきらめき輝く自由で素敵な世界へ連れて行きます」

「……貴女ってそんなキャラだったかしら? さながら架空の王子に変装したアラジンのようにポリジュース薬飲んでフィールに成り代わった偽者じゃないでしょうね?」

「ハーマイオニーはいい加減事ある毎にポリ偽疑惑掛ける事から離れなさいよ、全く。たまにはこういうのも悪くはないでしょう?」

「あ、唐突に素に戻った」

「と言うか一昨日貴女が言ってた準備って……もしかしてこれの事なの?」

「そうだと言ったら?」

「とても意外ではあるけどとてもロマンチックだと思うわ。まさか現実であの有名なシーンを再現するなんて……夢じゃない夢を実際に体験出来るなんて思ってもみなかったから」

 

 見事な不意打ちを食らったハーマイオニーがそう笑えば、偽者ではないかと疑われて頬を膨らませていたフィールも少し目元を和らげた。

 

「フィー、ハーマイオニー。そろそろ行こうよ。私、待ちくたびれたよ」

「ああ、そうだったわね。ごめんなさい。それじゃあ―――良ければ一緒に乗って飛んでみないか? 宮殿(しろ)を抜け出して。世の中を見るんだ」

 

 一部言葉は異なるが、魔法の絨毯に乗って宮殿に訪れたアラジンが王女様を空中デートに誘う際のセリフを真似たフィールに一度顔を見合わせたクシェルとハーマイオニーが、

 

「「平気なの?」」

 

 と、わざと少し不安そうな表情で言えば、

 

「私を信じろ」

 

 再び手を差し伸べたフィールが最後に決め台詞を決め、二人を絨毯に乗せて一夜限りの空の旅へと出掛けた。

 

✡️

 

「凄い……箒で空を飛ぶのとは全然違うわ」

 

 ベルンカステル城から空高く飛び立ち、フィールにしがみついていたハーマイオニーは映画で観た時と同じ星空の光景が今、己の目の前に広がっているのを見て本当に王女様になったような、そんな気分を味わい改めて信じられないと言う表情を浮かべた。

 

「箒と絨毯、どっちがお好みで?」

「断然後者よ。……私、最初に映画を観た時から憧れていたのよね。魔法の絨毯に乗って空を飛ぶの」

「へぇ……これはまた夢見る乙女ね。やっぱり貴女の方が私より女の子じゃないの」

「夢が叶って良かったねハーマイオニー! フィー、今日は本当にありがとう!」

「私からもありがとうフィール。夢を叶えさせてくれた貴女にはとっても感謝しているわ」

「感謝するなら私ではなく絨毯を購入した私のご先祖様に言ってね」

「それでもフィーが提案してくれなかったら空中散歩なんて出来なかったし、絨毯も特に出番無くいつかは燃やされてたり捨てられたりしたかもしれないでしょ? だからフィーには本当に感謝してるんだ!」

「……そう。正直、ここまで喜んで貰えるとは思ってなかったから私も嬉しいわよ。こちらこそありがとう」

 

 星が煌めく満月の夜、眼下に広がる光溢れる街並みを見下ろす三人の少女は気心知れた者同士、溌剌と笑い合った。

 

「クシェル、ハーマイオニー」

「ん?」

「何?」

「今日の記念に受け取ってくれるかしら?」

 

 フィールの手にはいつの間にか白色のジャスミンの花が2輪握られており、微笑した彼女は1輪ずつ二人に手渡した。

 「そういえば映画でもアラジンが王女様にジャスミンと思われる白い花を渡していたような……」と記憶を辿った二人は礼を述べて受け取る。

 

「貴女、どこまでも映画の内容を忠実に再現するつもりなのね」

「流石に全部とまではいかないけどね。アラジンと性別が違えば王女も一人から二人になってるし」

「因みにフィーだったら私とハーマイオニー、どっちを選ぶの?」

「クシェル一択」

「間髪入れずに二人の女を一ミリも迷う事無く片方選んだわよこの人」

「ここでハーマイオニーと答えたら堂々と二股宣言してるのと大差無いでしょ。ハーマイオニーには既にハリーがいるんだし、親友の彼女を奪うなんてゲスな趣味、私にはないからね」

「それもそうね」

「確かにフィーがハーマイオニーと回答したら私はフィーをここから突き落としてたよ」

「そうなったら私達もタダでは済まされないのだけれど?」

「その時はその時」

 

 さらっととんでもない事を言ってのけたクシェルにフィールとハーマイオニーは苦笑する。

 緩やかな風に乗ってジャスミンの花から漂う甘く濃厚な香りが鼻腔を擽った時、

 

「余談だけど『夜の女王』の異名を持つジャスミンの香りはあの彼の有名なクレオパトラも気に入ってたらしいわよ。媚薬としても使われるエキゾチックで甘美な香りから『官能的』や『好色』と言った花言葉がついたとか」

「ジャスミンの名前はペルシャ語で『神からの贈り物』と言う意味を持つ『ヤースミン』が由来なんだよね」

 

 と、フィールに続いてクシェルもジャスミンの花の豆知識を紹介してハーマイオニーが「何で二人共そんなに詳しいの!?」と驚きの声を上げたりしながらも、まだ始まったばかりの空中デートならぬ空中散歩(ドライブ)を彼女達は心の底から楽しんだ。

 

 夢は紡がれる。

 千と一の夜の空の旅と共に。




【ジャスミンの花言葉】
「温和」「愛敬」「愛らしさ」「優美」「官能的」「清純」「無垢」「無邪気」「素直」「可憐」「温情」「愛嬌」「愛想のよい」「気立ての良さ」「あなたは私のもの」「私はあなたに付いて行く」
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