【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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ミニットマン1994様から頂いたリクエスト回第1弾。
リクエスト内容は「フィールを巡って繰り広げられるクシェルとリリーの正々堂々真剣勝負」。
思ったより話が長くなりそうだった事と、キリの良いところで区切りたかった事から前編と後編に分ける事にしました。
余談ですが、カクテル言葉がサブタイトルになったのは#91のラモンジンフィズ以来……実に約2年半ぶりです。


リクエスト①.キャロル(この想いを君に捧げる)【前編】

「ッッィィィイイイヨッシャアアアァァァ!! 勝ったアアアアァァァァ!!」

「負けたアアアアアァァァ!! あァァァァァァんまりだァァァアァァァ!!」

 

 その日、ベルンカステル城には2つの叫び声が城中に響き渡っていた。

 一つは歓喜による勝利の雄叫び、もう一つは絶望による敗北の悲鳴。

 前者は眩しいくらいの超笑顔でガッツポーズしているのに対し、後者はその前で絶望のあまりガックリと両手・両膝をついて所謂orz状態だった。

 そして、遠くから2人を静かに見守る複数の影は「どうしてこうなった……」と困惑気味な顔を見合わせるのだった。

 

✡️

 

 経緯は遡ること数十分前。

 この日、リリーとクシェルはベルンカステル城の訓練場で午前中から互いに一歩も譲らぬ舌戦と決闘を繰り広げていた。

 理由は明日のデートの取り合い。

 デートのお相手は勿論、2人が大好きなフィールである。

 寧ろ彼女以外の人間でこの2人が大規模な賭け事をする事はないと言っても過言ではなかった。

 

「いい加減諦めたらどうですかクシェルさん! 明日師範とデートするのは私なんですから、恥をかく前にさっさと降参した方が身の為ですよ!」

「それはこっちのセリフだよリリー! 明日フィーとデートするのは私なんだから、子供は大人しく昼近くまでねんねしたらどう!?」

「イヤで~す! 貴女の言う事は聞きませ~ん!」

「子供か!」

「子供です! 正確には子供と大人の中間ですけどね!」

「都合の良い時だけ子供になって!」

「そう言う貴女こそ大人気ないクセに!」

「大人気なくて結構で~す!」

 

 何なんだ、この低レベルな口喧嘩は。

 と、さっきから観客席で見守るフィール達は額に手を当ててタメ息の連続だった。

 

「そもそもリリーは何で私のフィーを奪おうとするんだ! フィーと私はリリーが生まれるずっと前から『人生の伴侶になろう』って約束してようやくその約束が叶った仲なのに!」

「欲しいものは全力で手に入れて見せる! それが私のポリシーなんで! 現在師範とクシェルさんが結婚していようが師範はいつか必ず私が落としてやりますし、仮に今世で手に入れられなくても来世以降クシェルさんより先に師範と会って師範と結婚すれば万事解決なんで! 今の内に印象付けて死後の世界で最終的に師範とゴールイン! これこそがハッピーエンドでしょう!」

「私からすればバッドエンドもいいところなんだけどぉ!? 主人公とヒロインが結ばれないラブストーリーなんてだぁれも望んじゃいないと思いますけどそこん所どうなんですか?!」

「クシェルさんが物語の主人公なら私はそのライバルキャラですか! それはそれでアリですねえ! ライバルにお目当てのヒロインを奪われる主人公……ふふっ、考えただけでも優越感半端じゃないですね! 今世では貴女の手によって乱されていた師範が―――普段は大人の余裕たっぷりのフィールさんが私に組み敷かれて歪む様と、貴女以上に快楽に濡れた表情と眼差しを私に見せる淫らな姿……。想像しただけでテンション爆上がりですよ!」

「野郎ブッ殺してやるぁぁぁぁぁぁ!!!」

「やめろぉぉぉぉぉぉ!! それ以上言うなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 激昂したクシェルと赤面したフィールの叫びが同時に発せられる。

 怒りで眼を剥き完全に殺す気満々で呪いを撃とうとしたクシェルと、冷静さを欠かしたクシェルの隙を突いて一撃を狙おうとしたリリーの間に超高速「姿現し」で割り込んだフィールは杖無しで「盾の呪文」を発動、2人はそれぞれ見えないバリアに逆方向で吹き飛ばされた。

 

「イタタタ……フィー、何するのさ!」

「師範! 何で中断させるんですか!」

「当たり前だ! あのまま続けさせたらお前ら絶対殺し合いに発展してただろ! 私はそうならないよう未然に防いだまでだ! 今日の決闘はこれで終わりだ! 守らないならどっちとも明日は出掛けないぞ!」

 

 その言葉にグッと押し黙ったクシェルとリリーは暫く互いに視殺する勢いで睨み合っていたが、軈てチッと舌打ちして大人しく杖を仕舞い、互いに腕組みして顔を背けた。

 

「全く……フィールが止めていなかったら今頃どうなっていたか……」

 

 観客席からやって来たハーマイオニーは安堵の表情を浮かべ、ハリーとロンも「右に同じく」と苦笑していた。

 

「もういっそのこと、明日はフィールが言ったようにどっちとも出掛けないで別の日に出掛けるでいいんじゃないかな?」

「断る!」

「NO!」

 

 ハリーは出来るだけ穏便に済ませられるようダメ元で提案してみたが、やはりと言うべきか、クシェルとリリーは一言で一蹴した。

 

「午前中からずっと思ってたけど……明日のお出掛けのお相手を決めるだけでどうしてここまで好戦的になれるのか、私には理解し難いわ。お願いだから普通の方法で決めてちょうだい」

「普通の方法って言われてもねえ。私には思い付かないよ」

「それについては珍しく同意見だよワトソン君」

「誰がワトソン君・ベイカーだ!」

「そこまで言ってませんよ~っだ!」

「クシェルとクシェルJr.! 口喧嘩は止めろ!」

「「ハイ……」」

 

 鶴の一声とはまさにこの事か、とフィールの言葉一つで再び喧嘩腰になった2人がシュンと大人しくなったのを見て、グリフィンドール出身者3人は心の中でシンクロする。

 

「普通の方法ならジャンケンとかはどうだ? 一番手っ取り早いし尚且つ公平に決められるんじゃないか?」

「そう思うだろ? これがまさかのダメだったんだよなあ」

「はあ? どういう意味だよそれ?」

「この2人、ロンの言うように一度はジャンケンで公平且つ手っ取り早く決めようとしたんだけどな。どっちも動体視力良過ぎてお互い本気出したら何とあいこが100回連続で出てさ。結局ジャンケンでは決着つけられなかったから『やっぱり決闘で勝負だ!』と言う事になった訳」

「ああ……なるほどそういう事か。てかスゴいな100回連続あいこって」

「私もそう思う。それはさておき……ジャンケン以外で公平な決め方を挙げるとするなら……あっ、じゃあくじ引きはどうだ?」

 

 閃いたフィールがくじ引きと言うアイディアを出せば、それを聞いたクシェルとリリーは同時に雷に打たれたような衝撃が走り、

 

「「それだーーーーーっ!!」」

 

 と同時に叫んだ。

 その様子はようやく解決法が見付かったと言わんばかりで、「えぇ……?」と提案者のフィールは当然としてハリーとハーマイオニーとロンも「何で思い付かなかったんだろ……?」とこっちはこっちで衝撃を受けていた。

 

 何はともあれ、そういう訳で早速アタリとハズレのクジを2つ作り、それぞれ手に取ったクジを同時に開いた2人は一瞬の沈黙の後、

 

「ッッィィィイイイヨッシャアアアァァァ!! 勝ったアアアアァァァァ!!」

「負けたアアアアアァァァ!! あァァァァァァんまりだァァァアァァァ!!」

 

 クジによる公平な決定でアタリを引いた一人が歓喜の叫びを、ハズレを引いたもう一人が絶望の叫びを上げる事となったのだった。

 因みに今回、アタリを引いたのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クシェルJr.ことリリー・ポッターであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✡️

 

「と言う事で師範! 師範が提案したくじ引きの結果、明日はアタリを当てた私とデートのお相手、よろしくお願いします!」

「それに関してはOKだが……デートって言い方はちょっと止めてくれ。その言い方だと浮気してるみたいになるから」

「何を今更な事言ってるんですか。呼び方変えたところでデートである事は変わらないんですし、今回は私とクシェルさん、どちらも互いに納得した上で決まった事なんですから」

「……それもそう……なのか……?」

 

 疑問系ではあったが一応はリリーの説得に納得(?)したフィールは「もう何だか考えるのめんどくなってきた」と思考放棄する事にした。

 因みに2人は現在、フィールが割り当てたベルンカステル城に於けるリリーの寝室に来ており、負けたクシェルは放心状態で誰が何を言っても上の空の為、暫くそっとしておこうとの事で訓練場の隅っこで踞っていた。

 

「それともう一つ、師範にはお願いがあります!」

「お願い? 何だ?」

 

 フィールが首を傾げれば、リリーはどこから手に入れたのか怪しさ120%の見た目カプセル剤の魔法薬を掌に載せて見せた。

 

「せっかくの貴重な2人きりのデート、ただ普通に出掛けるだけでは面白くありませんので……師範、今からこれを飲んでください!」

「ちょっと待て。何だその如何にも怪しそうな薬は」

「これは飲んだ者の性別を24時間だけ逆転……要は性転換させる薬です!」

「……………………つまり?」

「師範! 明日1日だけ男性として私とデートしてください! お願いします!」

「そんなの飲めるかああぁぁぁ! ふっざけんな何でそれ聞いて私飲むと思ったのねえ!?」

「え? 別にいいじゃないですか減るもんじゃないですし。私、一度でいいから男体化した師範を見てみたいんですよ!」

「いやいやいやいやいやいや。それだったらリリーが飲めばいい話だろ何で私に飲ませようとしてるんだよ」

「だから私は師範が男性になった姿を一目見てみたいんですよ!」

「嫌だわ! 私は絶対飲まんぞ!」

「そこを何とかお願いしますよ!」

「却下だ!」

 

 カプセル剤の正体が性転換の薬と聞いたフィールは当たり前と言うべきか両手を胸の前で振って必死に断るが、「ハイそうですか」とすんなり言う事を聞くようなタイプではないリリーも負けじと食い下がる。

 何度懇願しても拒否し続けるフィールに次第に強引になり始めたリリーは遂に痺れを切らしたのか、

 

「あーっ、もう! 強情っ張りですね! それなら強行手段に出ますよ!」

 

 と、何を思ったのか突然、フィールの目の前で薬を自身の口に含んだ。

 直後、は? と一驚するあまり瞠目したフィールをリリーは力一杯ベッドに突き飛ばす。

 

「おい、いきなり何する―――」

 

 しかし、フィールが言い切るより先にフィールを組み敷いたリリーは彼女の頬を両手で包んで固定し―――。

 

 自身の唇を彼女のそれに重ね、薬を移し入れた。

 

「──────ッッッ!!!?」

 

 俗に言う「口移し」をされたフィールはこれ以上ないくらいに蒼眼を大きく見開かせる。

 あまりにも突然の事だった為、普段は明晰な頭脳も理解が追い付かず、自分の上に乗っ掛かるリリーを押し退けようにも押し退けられなかった。

 

「ん……、んんん……っ!」

(思いの外粘るなあ……。だったらこうするか)

 

 それでも何とか性転換の魔法薬を飲まないよう必死に堪えていたフィールだったが、このままでは拉致が明かないと判断したリリーが髪に隠れて見えなかった耳に指を掛けた瞬間、ビクッと電流が走ったように身体が震え、一瞬全身の力が抜けてしまった。

 その隙を見逃す程リリーも甘くはなく、舌先を一気に押し込んで己の唾液と共に魔法薬を流し込む事に成功する。

 

「んっふふ……相変わらず耳が弱いんですね師範。いや、師範は確か耳に限らずどこも弱いんでしたっけ? 人より気配察知に長けていて人より感覚が鋭敏な分、こういう刺激にも人一倍身体が敏感に反応しちゃうのは師範の数少ない弱味の一つですからね」

「はあっ…………はあっ…………り、リリー……お前…っ!!」

 

 リリーの強行手段に負けて薬を飲んでしまったフィールは最後に唇を舐めてゆっくりと顔を離したリリーをキッと睨み付ける。その顔は非常に真っ赤であった。

 リリーはイタズラが成功した子供みたいにニヤリと口角を上げて無邪気に笑う。

 

「嫌なら遠慮せず突き飛ばせば良かったじゃないですか。私より師範の方が体格も腕力も勝っているんですし。突然口移しされたから、は言い訳になりませんよ? 不意打ちなんて実戦では常。私が口移ししたのは性転換の薬だったから死にはしませんが、これが毒薬だった場合、流石の師範でも今頃は毒に苦しんで死んでたんですから。今回は対処し切れずに飲んでしまった師範の負けですよ? 尤も、師範を口移し毒殺した輩が現れたら私がその倍の毒薬を飲ませてやりますけどね。ああ勿論、普通にですよ」

「何上手く言い包めようとしてんだ。然り気無くマウント取りやがって」

「何と言えばいいですよーっだ。もう飲んでしまった以上、大人しく効果が切れるのを待つしかないんですし、約束通り、明日は男性として私とデートしてくださいね?」

「……お前、マジで後で覚えとけよ」

「はいはーい、仕返しは薬の効果が切れた24時間後、好きにしてください。ハードトレーニングでも大食いでもベッドインでも何でもやってやりますよ」

「それリリーからすれば全然仕返しにならないだろ。つーか最後に至っては下心丸出しじゃないか」

「まあまあ、細かい事は気にしない気にしない」

「全然細かくねーよ。…………うっ」

「師範?」

「か……身体が……熱い……」

 

 あの薬は即効性ではなく時間差で効力が発揮されるものだったのか、飲んでから少し時間が経った今になって身体が熱を帯び始めてきた。

 効能が現れ始め、リリーは一旦フィールから離れて少し距離を取って待つ。

 それから程無くして、ポンッと軽く音を立ててフィールの身体から白い煙が現れ……彼女の周囲を包んでいた煙が払われた時、そこには居たのは―――。

 

 男体化の影響で元々高かった身長が更に高く、髪も長髪から短髪に変わり、顔付きも女性の時以上に精悍になって従来のクールさとワイルドさ、そして大人の色気のバランスが絶妙に混ざり合った超絶イケメンのフィールであった。

 

「……………………………………………………」

「……本当に……性転換するんだな、これ。しかも性別逆転に伴って見た目も多少変化するとか、流石は魔法薬、か……って、リリー?」

「……………………………師範」

「……何だ?」

 

 さっきから黙ったままのリリーの様子がおかしい事に気付いたフィールが怪訝そうに眉を顰めた、まさにその時。

 

 

 

「今、すぐに!!!! 私を抱いてください!!!!!」

 

 

 

 勝利の歓声を上げた時以上の馬鹿デカい大声でそう叫び、無駄にキラッキラした瞳で勢いよく抱き付いて再び押し倒してきた。

 

「バッカそんな大声出すな!! 恥ずかしいだろ!!」

「何でですか!? 師範は男性になってもメチャクチャカッコいいんだろうなとは前々から思ってましたけど、私の想像以上にカッコ良過ぎて頭も心もステューピファイ状態なんだから仕方無いじゃないですか!! ああもうっ、とにかく今すぐ抱いてくださいお願いします!!」

「先に確認するがそれはどっちの意味での『抱いて欲しい』だ!? 返答次第では明日の予定は全部キャンセルにするぞ!!」

「そりゃあ勿論、どっちもに決まってるじゃあないですか!! 焦らしてるんですかこのこの~」

「せめてハグにしろやバカ野郎!! そっちの意味では絶っっっ対抱かないぞ私は!! 親友の娘にそんな真似出来るか!! 私にも既にクシェルがいる訳だし!! て言うか今更だけど私はアンタの両親と同い年だぞ!? 何で躊躇無く口移し出来るんだよお前はよおおぉぉぉ!!」

「そんなの、師範が超大好きだから以外に他の何があるとでも言うんですか! 言っときますが私は本気ですよ! 師範にはクシェルさんと言う最愛の女性(ひと)がいるのは重々承知してますけど! 貴女が好きな気持ちは自分の意思では抑えられないんですよ! 私欲張りなんで! 人生欲張った者勝ちなんで!」

 

 学生時代、いつかのハーマイオニーとの会話時に自身が彼女に掛けた言葉とリリーの言葉がダブり、「ああ……まさかこんな形で特大ブーメランが来るなんてなあ……」と染々と感じた、その時だ。

 

 ポンッ、とリリーの肩に誰かの手が置かれた。

 

 振り返った先に立っていたのは、いつの間に放心状態から回復したのか、いつからそこに居たのか、とてもとても素晴らしい笑顔で、しかしこめかみに青筋を立てる程に怒りのオーラが身体中から滲み出て亀裂が入りそうなくらい杖の柄を強く握り締めるクシェルであった。

 

「は~い。リリー? フィー? ノックもせず突然お邪魔しちゃって悪いね? リリーのとにかくバカみたいにデカい声が遠く離れた訓練場の隅っこまで聞こえてきたものだから、何事かと思って駆け付ければ……これは一体どういう状況なのかな? まあ? 2人の会話は嫌でも耳に入ったから? 何でこうなったのかは聞かなくても何と無~く分かるけどさ? 念のためどっちか説明してくんない? 私やハリー達が分かりやすいように……ねえ? いいでしょう?」

 

 見れば、部屋の外には愛娘が戦友をベッドに押し倒している光景に複雑な心境のポッター夫妻とロンが顔を紅くして立っていた。

 クシェルの登場にサッと顔面蒼白したフィールは親友達にこの状況を見られた恥ずかしさから再び赤面したのに対し、リリーは不敵な笑みを浮かべながら杖を抜き出す。

 

「別に大した事じゃないですよ。2分の1で引き当てたせっかくのデート、ただ普通に出掛けるのはつまらないと思いまして。そこで師範には私が以前開発した24時間限定の性転換の薬を飲んで頂き、明日は男女カップルさながらのデートを満喫する事に決めました」

「ふぅん……そうなんだ。……じゃあ訊くけど、何でリリーはフィーをベッドに押し倒してるのかな? フィーが自ら飲んだんならこんな事になるはずがないもの。リリー。貴女は一体どうやってフィーにその薬を飲ませたのかな?」

 

 答えなどとっくに分かり切っている問い。

 それをリリーに投げ掛けるクシェルが言葉を紡ぐ度、殺気と魔力が高まっていくのをフィール達は肌でビシバシと感じていた。

 しかし最も濃厚にぶつけられているリリーは一切臆する事無く自身と同じ色をしたクシェルの鋭い眼を真っ直ぐ見返しながら平然と言ってのける。

 

 

「何度頼んでも返事はNOだったので最終的に口移しで飲ませましたがそれが何か?」

 

 

 ブチッ!! と何かが確実に切れる音がクシェルから聞こえた気がした。

 否、訂正しよう。

 これはきっと比喩でも何でもない。

 今のは紛れもなくマジでキレた音だ。

 

「へえ……口移しで、ねえ……」

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。

 フィールと元・獅子寮トリオは先程以上に青ざめ、後者は前者の「ヘルプミー!」と助けを求めるような視線が合った瞬間、

 

「早く逃げた方が身の為だぞ! 今のクシェルは大変お冠だからな! そして自分達は巻き添え食らう前に逃げるんだよォ!」

 

 と眼だけで訴えたら、フィールには申し訳無いと思いながらも、血管が浮かび上がるくらい憤激しているクシェルとこんな状況でも好戦的な態度を崩さないリリーの殺し合いは最早自分達では引き留められない事と、単純に背に腹は代えられない事から彼女を見捨てて猛ダッシュで逃げ去った。

 

「おい待てえええぇぇぇ!! 私を置いて行くなアアアア!! この裏切り者共ォォォォォ!!」

 

 見捨てられたフィールは「畜生め!」と内心でも悲痛な叫び声を上げたが、それよりも早く自分も逃げなければと瞬時に頭を切り替える。

 ……が、フィールがベッドから起き上がろうとした瞬間、

 

 

「野郎ブッ殺してやるああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 怒り心頭に発し我を忘れたクシェルが今度こそ完全にブッ殺す満々で今日一番の怒声を腹の底から出し、

 

「殺せるものなら殺してみてくださ~い! HAHAHAそれじゃあねバイバイキ~ン!」

 

 わざと煽って光の速さで窓から飛び降りたリリーを呪いを撃ちまくりながら追い掛け回した。

 鼓膜が破れるんじゃないかと思うレベルの怒鳴り声に思わず耳を塞いで顔を顰めていたフィールは「マズいぞこれは!」とこのままではマジで死者が出かねない為、急いで跳ね起きると両面鏡で至急クリミアとルークを呼び、逃走したハリー達にも応援を要請する。

 呼ばれた彼等は正直気が進まなかったが、ここまでの緊急事態になっても尚フィールだけに厄介事を押し付けるのは家族や親友としてどうかしているので、どうにかして皆で力を合わせて絶賛ご乱心中のクシェルを引き留める為にその日は忘れられない大騒ぎになったのであった。

 

 因みにその後、皆の協力もありクシェルの大暴走を止めるのに成功し改めて性転換したフィールを見たハリー達の反応はと言うと、

 

「うわあああぁぁぁまさかのフィールに身長抜かれたあああぁぁぁ!! あともう10㎝伸びろ僕の背ぇえええええええ!!」

「気持ちは分かるがもう無理だハリー。残念ながら僕らの成長期はとっくに過ぎ去ったさ」

「いやまだ分からないぞ! ゲームの中には初代より背が4㎝以上伸びたキャラがいるんだ! 僕だってトレーニングすればきっとまだ伸びるさ!」

「そこはゲームだから突っ込んじゃダメよ」

 

 本来の性別では自分より背が低かったフィールが性転換した瞬間自分より背が高くなってショックを受けたハリーは頭を抱えて嘆き、その彼にロンとハーマイオニーが冷静なツッコミを入れたのに対し、フランスから遥々やって来たベルンカステル夫妻は嘗てホグワーツの戦いで戦死した亡き父・ライアンの面影を意外な形で感じられて思わず涙ぐんでいた。

 

「父さんそっくりの超イケメンになったもんだなフィール! 何だか父さんが帰って来たみたいで俺は嬉しいぞ! やっぱり血の繋がった叔父と姪だな!」

「フィールを男性にしたらライアン叔父さんみたいな感じだろうなとは思ってたけど、本当にそうだったわね。せっかくだから写真撮ってお義母さん達に見せましょ」

 

 そう言うや否や、早速写真を撮って実家で待つ母のセシリアと子供達の元へ早々に帰って来た2人はベルンカステル城での出来事を一から説明した。

 クリミア達曰く、事情を聞いたセシリア達は一頻り笑っていたが、添付された写真を見た後は懐かしさと想い出が甦って嬉し涙を流していたとの事である。




【IF世界でのクシェフィル】
フィール生存ルートでは書き忘れてましたが、本編と違ってこちらでは本編の望み通り「人生の伴侶」として生きてます(当然、左手の薬指にはあれがついてますよ~)。
ただしこちらの世界線ではクシェルJr.ことリリー2世と言う最大のライバルが存在するので、クシェルはリリーにフィールを奪われないよう顔を合わせる度にリリーとギャーギャー騒いでますが笑。

【クシェルJr.】
リリーのアダ名の一つ。
そしてこのアダ名が思い付いた際、私はふとある事に気付きました。
「あれ? リリーの今の容姿(黒髪×褐色眼)を逆にすれば栗色髪(茶髪)×緑眼……クシェルと同じ髪色と虹彩になってよりクシェルJr.っぽくなるんじゃ?!」と。
そんなこんなで現在リリーの容姿は一部変更して「髪色は母親譲り、虹彩は父親譲り」にしました(エピローグの後書きでも修正してます)。

【最近になって多少変更された本編の内容】
以前#94でハーマイオニーとの会話中にフィールはセドリックの事を「好きになりかけていた」と話してましたが、その事について今更ながらよくよく思い返したら、

「本作ではクシェルと言う大本命がいるのにそれってどうなのだろうか……(意訳)」

と、当時の自分をぶん殴りたい気持ちになったと言いますか、

「原作と違ってセドリックがフィールの事を好きになってもフィールが好きな人はクシェルただ一人だけにしよう」
「やっぱりフィールにはクシェルが一番だよね」

と言う結論に至り、セドリックには申し訳ないですが、フィールが彼を好きになりかけてた事は「なかった」事にし、それに伴い幾つかの#の会話文や地の文は所々で一部修正しました。セドリックにはマジでごめんとしか言えませんね。
ですが今はもう、フィールにはクシェルだけを見つめていて欲しいと言う気持ちが私の心を占めていますし、これこそが多分一番理想的ですのでこれに関しては今後変更される事はないと思ってください。
とは言ったものの、上述したようにIF世界ではリリー2世と言う最大のライバルが存在する関係上、クシェルにとっては毎日が愛の戦場ですけどね笑。まあ、クシェルにはこれくらいのレベルじゃないとライバルとは呼べないので良いのかもしれませんが。

【性転換フィール】
フィールが性転換(=男体化)した場合、身長は185~190㎝辺りで本来の性別では172~175㎝(クシェルも同じ)、リリーの最終的な身長は170㎝が私のイメージです。
因みに原作ハリー達の身長はどのくらいなのか正確には分かりませんが、私的にはハリーが現在のイギリス人男性の平均身長(約178㎝)より少し高めの180㎝、ハーマイオニーが彼女を演じた女優さんと同じ現在のイギリス人女性の平均身長(約164㎝)より約1㎝高めの165㎝、ロンが185~188㎝、ジニーが168㎝、シリウスやセドリック、ビル等の公式長身組が180㎝後半~190㎝台が私のイメージだったり。

【次回(後編)予告】
リリーとフィールのデート回。
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