【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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新谷奏様から頂いたリクエスト回第2弾(新谷奏様、リクエストを頂いてから更新するまで数ヵ月も遅延してしまい申し訳ございませんでしたm(_ _)m)。
リクエスト内容は「クシェフィルのイチャコラ」。
時系列としてはホグワーツの戦い終戦後の闇祓い副局長になった時代で年齢は26~27歳の時。
そして今回はサブタイトル(マジでこのカクテル名とカクテル言葉考えた人天才です)が示すように描写が過去最高にそっち方面でかなりアレです。
簡単且つ簡潔に表現するならば「R-15以上R-18未満」ですね(一応は子供向けファンタジーである原作だったら即アウトの領域に今回片足を突っ込んでしまいました……)。

しかも前編ではイチャコラ話は無く後編でのイチャコラ話に至るまでの「過程」と言う(その分次回はイチャイチャさせるのでご安心を)。
そしてその過程……つまり今回の話ではフィールがエライ目に。
正直自分でも「どうしてこうなった……」と思ってます(読了後、フィールファンの読者様は皆「何であんな目に遭わせたんだ?!」となりそう……)。
それでは気になる続きは本編で。
ただし苦手な方はブラウザバックを推奨します。


リクエスト②.ノックアウト(悩殺)【前編】

 ―――最悪だ。

 今のフィールの状況と心情を一言で表すならこの言葉がまさしくピッタリだろう。

 ホグワーツの戦いが終戦してから現在に至るまでの人生の中では間違い無く一番の厄日と断言出来る程に「最悪」と言う二文字が悪い意味でベストマッチしていた。

 

「―――っ、っふ……! ぁっ…んんっ……!」

 

 固く閉ざした筈の唇の隙間から色と熱を含んだ声が漏れ出る。

 両手首を頭の上でギチギチとキツく縛られ、身動きが取れないフィールは何度も自由を取り戻そうと奮闘するがその努力も虚しく、足掻く度に目の前の男達の色と欲に濡れた眼がギラつく。

 端整な顔を真っ赤にさせ、うっすらと涙が滲んだ眼で目の前の男達を睨み付けてもそれはほんの一瞬の事で、すぐに眼を固く瞑り唇を噛み締める。

 

(何で……こんな事に……)

 

 常人ならとっくに発狂していてもおかしくない、理性を保つ事さえ極めて困難な状況の中、ギリギリ精神崩壊を回避しているフィールは涙を溢しながら藁にも縋る思いで、心の中で延々と助けを求める。

 頭と心に思い浮かべるのは最愛の伴侶。

 フィールがこの世で最も大切に想い、死後も永遠に愛すると誓った人。

 

(ク……シェ…ル………助け…て………―――)

 

✡️

 

 事の始まりは少し遡って十数分前。

 この日、フィールを始めとした闇祓い達とハーマイオニー達魔法法執行部は現在魔法省が指名手配している危険魔法薬密輸班逮捕の為、2日前に突き止めたアジトに潜入していた。

 如何にヴォルデモートが滅び平和な時代になろうと大なり小なり犯罪は何処かしらで必ず起きるもの。

 今回は闇祓い局長のハリーや副局長のフィールなどが戦闘部隊として1チーム4~6人程に分かれて密輸グループと密輸品の魔法薬の確保に専念し、ハーマイオニー達執行部が事後処理部隊として裏方仕事をこなしていた。

 フィールは副局長と言う立場もありチームのリーダーとして部下の男達と共にアジトの最奥に来て、結果的に抵抗する密輸グループの抑圧に成功したのだが……逮捕する直前の戦闘中にまさかのアクシデントが発生した。

 多勢に無勢で自棄になったのかそれとも最後の悪足掻きなのか、密輸組織のリーダー格と思わしき男が不意を突いて懐に忍ばせていた怪しい魔法薬を近くに居た部下の一人に投げ付け、「盾の呪文」を展開する暇がなかったフィールが反射的に身を挺して部下を庇い、代わりに魔法薬を被ってしまったのだ。

 

「副局長!?」

「―――っ!」

 

 効果不明の魔法薬をモロに喰らったフィールだがするべき事は見失わず、杖を三度振るって「武装解除呪文」「縄縛り呪文」「失神呪文」を同時に撃つ。

 密輸グループのリーダーは杖を奪われた際に生まれた衝撃で吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、脳震盪で気絶する寸前、

 

「しっかり浴びたな! くくくっ……! 体内を巡る疼きに女のお前は果たして明日の朝まで耐えられるかな!? 精々もがき苦しめよ! ハハハハハッ!」

 

 と訳の分からない事を叫んで気絶し、何本もの太いロープで縛り上げられたそいつは最後に「失神呪文」でトドメを刺され、失神した仲間と一緒に執行部に連行された。

 これで一件落着、と言いたいところだが……。

 

 先刻フィールが謎の魔法薬を被った出来事(アクシデント)

 これこそがまさしく冒頭の……「最悪な事態」のトリガーであった。

 

「副局長! 大丈夫ですか!?」

 

 フィールのお陰で難を逃れた部下の男が心配して声を掛ければ、

 

「アンタの方こそ大丈夫か?」

 

 と濡れた前髪を鬱陶しそうに掻き上げながら安否を確認してきた。

 濡れた姿と相まって色気が半端じゃない。

 不覚にもドキッとした部下達は「その言葉、そっくりそのまま返しますぅ!」と胸の高鳴りを誤魔化すように大声を上げる。

 

「俺達が油断したせいですみませんでした!」

「お身体に異常はありませんか!?」

「今のところは問題無い……が、濡れ鼠にされたのは不愉快極まりないな。しかし……最後のアイツの言葉は一体どういう意味なんだ? 連行前に聞き出すべきだったな……迂闊だ」

 

 もう一度杖を振るい、濡れた服と髪を乾かしたフィールは「いや……詰問したところで素直に答える訳ないか。まあその時は『開心術』使えば良かった話か……」と呟き、「後の処理は俺達に任せて、副局長は聖マンゴに行って癒者に診て貰ってください」とこちらを気遣ってそう言ってくれた部下達を見る。

 

「そうか、ありがとう。じゃあ悪いが後は頼んでもいいか? 私らの相手が密輸グループの一軍なら二軍が相手の残りの全隊は今頃片付いてるだろうから、念のためポッター局長達に断ってから聖マンゴに――」

 

 行って来る、とフィールが言おうとした、まさにその時。

 

「―――ッ!!?」

 

 ガクッ、とフィールは両膝から崩れ落ちた。

 思わず掌から杖が溢れ、カラン、と音を立てて床に転がる。

 

(えっ……は? 嘘だろ? な、何だ突然……。もしかしてさっきの魔法薬のせいか? 身体が……あ、熱い……)

 

 そう、今のフィールは身体が物凄く熱かった。

 原因は十中八九あの怪しい魔法薬だろう。

 どうやら即効性タイプではなく時間差で現れるタイプだったようで、フィールの全身は急速に熱が広がっていき、呼吸が段々と乱れていく。

 ドクドクと早鐘を打つように心臓の鼓動が早くなり、息苦しさに見舞われた。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 とにかく熱い。苦しい。熱い……熱い……。

 熱くて苦しい筈なのに、何故か身体の奥底は新たな熱を求めていて……混乱する。

 片手を地面について身体を支え、もう片方の手を胸に当てて苦しそうに息をしていたら、

 

「やっぱり何か異変が……。大丈夫ですか!? 副局長!」

 

 部下達が心配して声を掛けてきたので、肩越しに振り返ったフィールは「大丈夫だ……っ」と荒い息遣いのまま答え……しっかりしてください、と言い掛けた部下達はその艶かしい姿に先程以上にドキッと胸が高鳴り、同時にゾクッとした。

 乱れた呼吸、紅潮した頬、熱っぽい瞳……見る者を悩殺させる様は、まさに扇情的で官能的で。

 性欲を掻き立てられた若い男達はゴクリと生唾を飲み込む。

 

「すまないが……お前達が先に戻って来れ。今は一人にさせて……」

 

 が、次の瞬間。

 突然視界が反転し……魔法薬から身を挺して守った部下に押し倒された事を理解するのにフィールは数秒、時間を要した。

 

「副局長……そんな事は仰らずに―――『後の処理』は俺達にお任せください」

 

 押し倒してきた部下の眼差しはよく見ればフィールとは別の意味で熱っぽかった。

 いや、彼だけでない。

 視線を左右に動かせば、周りの部下達も色と欲に塗れた瞳と興奮で荒くなった息遣いで迫り寄って来ていて……背筋に悪寒が走ったフィールは「やめろ!」と力を振り絞って鳩尾に蹴りをお見舞いさせると、不意打ち喰らって怯んでる隙に咄嗟に杖を拾って目の前の部下を突き放した。

 

「痛っ……!」

「―――っ…!」

(普段通りに集中出来ないせいで威力の調整が上手くやれない……。今の状態じゃ大ケガを負わせかねないから下手な抵抗は控えるべきか……? でも……そうすれば今度はこっちの身が……)

 

 動く事さえ億劫なフィールは正直なところ立っている事さえやっとで普段は明晰な頭脳もいつも通りに働かず、最善策を思い付けない。

 フィールが逡巡していると、チャンスと言わんばかりに部下の一人が背後から杖を奪い取ってがっちりホールドし……捕まったフィールは何とか抜け出そうと暴れるが、何分今は思うように力が入らないせいで自分より身長にも体格にも優れている男の腕力には敵わなかった。

 

「痛いじゃないですか副局長。万が一眼に当たって失明したりとかしたらどうするんですか」

「お前らは魔法薬の効果に当てられてるだけだ! でなければこんな真似はしない筈……! 早く目を覚ませ……!」

「すみません副局長。俺ら今、身体が言う事を聞かなくて……媾う事で頭が一杯ですので……」

「貴女様もそうでしょう? 闇祓いNo.2なら俺達部下を助けてくださいよ副局長様……!」

「……―――っ!」

 

 本能が警鐘を鳴らす。

 危険だ、逃げろと。

 しかし、逃げたくても逃げられないのが現実で。

 羽織っていたローブを無理矢理脱がされただけには留まらず、ジャケットも剥ぎ取られ、その下の白ワイシャツの胸元をはだけさせられ。

 これから何をされるのか、嫌でも察してしまったフィールはサッと顔色が悪くなった。

 

「ま、待って……お前ら本当にやめ―――」

 

 だが、次の瞬間。

 

「んんんんんっ……!」

 

 部下の男が露になった首筋にキスして舌を這わせてきた。

 それだけでビクビクッと、薬の影響なのか通常の数倍反応したフィールは辛うじて両足で地面に立っていた力が一気に抜け、膝立ちになる。

 

「はっ……はぁっ……」

(嘘………でしょ……? たった…これだけの事で……立ち上がれ…ない……)

「ご安心ください副局長。痛くないように優しくしますから……貴女は何も考えずに俺らに身も心も任せてください」

「ふざ…けんな……っ、誰が……お前らなんかに…………っ」

「流石は副局長。心も強いですね……。ですが、そう言ってられるのも今の内だけですよ?」

 

 再びフィールを押し倒した男は締めていたネクタイを緩ませ、自然な動作でピアスとイヤーカフを付けた耳を優しく摩る。

 

「ひっ……! い、いやっ……! やめて……っ!」

 

 今のフィールに首と並んでウィークポイントの一つである耳への刺激は到底我慢出来るものではなく、無意識に男性口調から女性口調に戻ってしまう。

 一瞬で真っ赤になる程に弱い、若くして歴戦の猛者として有名な副局長の意外で最大の弱点を二つ発見した男達は獲物を見付けた猛獣のような眼に輝きが増していき、笑みを深めた。

 

 

「さあ……存分に楽しみましょうよ副局長様。お互いの利益の為と思って……ね?」

 

 

✡️

 

 

「―――ッ!!」

 

 同時期……フィール達が居るアジトとは遠く離れた場所に位置する聖マンゴ魔法疾患傷害病院、通称「聖マンゴ」の休憩室で母のライリーと先輩のクリミアとコーヒーを飲んで一息吐いていたクシェルは、不意に手の力が抜けてマグカップを落としてしまった。

 バシャン、と派手な音を立ててコーヒーが床に溢れ、チョコレート色の液体とほろ苦く香ばしい香りが辺りに充満する。

 残念ながらマグカップは落下の衝撃で粉々に破損し、残骸がコーヒーの上で飛散した。

 

「クシェル!? 大丈夫!?」

「貧血? それとも眩暈?」

 

 突然の出来事にライリーとクリミアは眼を見開きつつも心配の声を掛けるが、この胸騒ぎには嫌と言う程覚えがあるクシェルは返事はせず、形振り構わない様子でポケットから両面鏡を取り出した。

 

「フィー! 聞こえる!? お願い、応答して!」

 

 クシェルが手にしたのはフィールと対になっている両面鏡。

 「守護霊の呪文」やフクロウ便よりも素早く連絡が可能な事から以前購入した物だ。

 しかし、いくらクシェルが呼び掛けてもフィールからの応答は無し。それどころか一切の反応も見せない。

 クシェルの口から出た人物の名前にライリーとクリミアも緊張した面持ちになり「まさか……」と胸騒ぎを覚える。

 

「こうなったら……!」

 

 次にクシェルが取り出したのはハリーと対になっている両面鏡だ。

 今日のフィール達の任務内容を熟知しているクシェルは鏡に向かって何度も呼び掛け……程無くしてハリーの顔が映った。

 仕事中であるにも関わらず連絡を寄越してきたクシェルの切羽詰まった様子に鏡越しのハリーもこれはただ事ではないと察する。

 

『クシェル? どうしたんだい?』

「ハリー! フィーは今どうしてる!?」

 

 クシェルの問い掛けに一瞬ハリーは言葉に詰まったが、変に誤魔化したりはしないで正直に答えた。

 

『それが……フィールと一緒に任務に当たったメンバーも含めてまだ誰も戻って来ないんだ。フィール達を除いて僕らは全員アジトの外で集合してて彼女達が来るのを待っているんだけど……相手になったのが密輸班のリーダー格で且つ根城の最奥だし、まだ何か怪しい物はないか探し回っているから戻って来るのが遅くなってるんじゃないかって―――』

「―――今すぐフィーの所に行って!! フィーが帰って来ないのは任務のせいじゃない!! 絶対に!!」

『! ……分かった! 僕はロンとハーマイオニーを連れてすぐ向かうから、クシェルは万が一に備えて準備しておいて!』

「言われなくても! 頼んだよ!」

『任せろ!』

 

 その言葉を最後に通話を切ったクシェルは二人の会話から本当にフィールに何かあったのだと確信したライリーとクリミアと共に休憩室を飛び出し、準備を始めた。

 

 一方、薄々抱いていた嫌な予感がハッキリと断言したクシェルのお陰で的中したハリー達の方もアジトの最奥を目指して全速力で疾走していた。

 殊にフィールが絡んだ時のクシェルの言葉に嘘は少しも混ざっていない事くらい、長年の付き合いであるハリー達は十二分に理解しているから「それは本当か?」とわざわざ問い掛ける必要は無かった。

 

「頼む……どうか無事でいてくれ、フィール!」

 

 これが希望的観測である事は重々承知の上でハリー達はフィールの無事を祈る。

 しかし……こんな時に限って無事ではないのが残酷な現実と言うものであり、現在完全に自由を奪われているフィールは冒頭の状況にまで至っていた。

 

✡️

 

「ぁっ……、っん…、ぅ………」

 

 アジトの最奥、薄暗い空間の中央。

 逮捕直前、密輸組織の首領が投擲した謎の魔法薬を部下の身代わりとなって受けたフィールは助けた部下を始め、今回の任務に当たったメンバーの男達に襲われていた。

 恐らくあの魔法薬は媚薬や興奮剤の一種なのだろう。

 悩ましい表情に相応しい悩ましい声が男達の鼓膜を震わせ、情欲を更にそそる。

 ワイシャツはボタンを全部外されて前が全開となっており、余分な脂肪が一切無く適度に筋肉質ながらも華奢な身体が晒け出され、色白な肌が熱を帯びて紅く染まっていた。

 なけなしの力を振り絞って必死にネクタイで拘束された両手首と足をばたつかせても無意味で、それどころか抵抗する度に男達は益々煽られ、その度に口角を上げる。

 

「それで抵抗してるおつもりですか? それとも無意識に俺達を気遣ってくださってるのか……どちらにせよ煽っているだけなの分かってます?」

「うっ……! ……っ!」

 

 スリスリと指先で耳を弄られ、耳が弱いフィールはそれだけで擽ったさとゾクゾク感に襲われながらも声は漏らさまいと白ワイシャツを強く噛んで必死に堪える。

 が、悲しいかな、火照った身体は正直なもので。

 下唇を強く噛み締め、どんなに声を押し殺そうと努力してもまるで全て「無駄」「無意味」と嘲笑うかのように、意思に反して声が勝手に漏れ出てしまう。

 

「くぅっ……んぅ……!」

「副局長の喘ぎ声を耳元で聞こえるなんて……もう最高ですよ!」

「や…だ………耳はやめ……っ!」

 

 背後の男に耳元で話され、言葉を紡ぐ度に熱い吐息が耳に掛かり熱を帯びて紅みが増すそれを刺激される悪循環に神経が狂いそうになる。

 快感に耐え逆らおうとする心とは裏腹に肉体はそれを求め疼き、全身を襲う快楽の渦に飲み込まれそうになるフィールはギリッと奥歯を食い縛った。

 

「嫌だと言う割りには気持ち良さそうじゃないですか」

「ちがっ……」

「強がんないでくださいよぉ。気持ち良いなら気持ち良いって素直に言ってください」

「っぁ……!」

「弱いって事は感じるって意味ですよ?」

「なっ…に、言って………っん、ぅっ……!」

「動揺するって事は図星なんですね?」

 

 耳元で少し囁かれただけでビクンと過剰に反応するフィールの感じやすさに、副局長は本当に耳が苦手なんだなあ……と心の中でシンクロする男達に、最早闇の魔法使いから命を賭して魔法界の平和と市民の安全を守る闇祓いの面影はない。

 如何に闇祓いと言えど彼等も立派な獣。

 只でさえ学生時代……特に最高学年時は魔法界最難関の職業に就くべく学業に力を入れ、自主練に励み、色恋沙汰に現を抜かしている暇などなかったのだ。

 色んな意味で遊び盛りの年頃の全盛期にいる男達はここ数年間訓練やら勉強やらで真面目に過ごし過ぎた反動と相まって、自分達の手と舌によって目の前の若い女性の乱れた姿を見る事で頭が一杯だった。

 今の彼等は、普段はクールな態度を崩さない強者副局長の澄まし顔をもっと崩してやりたい、性的に屈服させてやりたいと言う若さ故に獣じみた男の本能に忠実な、獣欲の奴隷。

 

「ッ!? はっ……ぅっ…、ぁぁっ………!!」

 

 耳責めに気が抜けていたフィールは何の前触れも無しに後ろから手を回されて豊満な胸を蹂躙され、身体を捻って振り解こうとするが当然逃げられはしなかった。

 

「ああ……憧れの副局長様の胸……! この女性特有の柔らかい感触、触り心地の良い弾力あるすべすべの肌……ヤベぇ、もう最っ高過ぎて堪んねぇな……!」

 

 ゴツゴツした男の大きな手は下着越しにフィールの胸を揉み拉き、先端を指先でくるりとなぞり、撫で、摘まむ。

 

「ぅっ……、あっ……あっ……、はぁ……っ…、んんんんんっ……!」

 

 クシェルの時ですら未だに恥ずかしい気持ちが強いフィールはクシェルじゃない人間……それも年下の男に胸を弄ばれた事に羞恥心で死にそうだった。

 いや、男達に襲われた時点で心は既に半分以上死んだと言ってもいいだろう。

 フィールは少しずつ己の精神が崩壊していくのを感じながら、本人でも知らず知らずの内に男に対する恐怖が植え付けられていった。

 

「ん~……副局長の真っ赤になった耳とうなじ、スッゴいそそる……」

 

 別の男は長い黒髪を掻き上げ、紅くなった耳から口付けを落とし始め、徐々に下の方……綺麗な首筋へと下ろしていき、最大の弱点を責められて震える肌に再び舌を這わせる。

 耳から首に向かって分厚い舌で舐め伝い、その生暖かく気持ち悪い感触と、複数の男に身体中を同時にまさぐられ脊髄を這い上がってくる不快感と嫌悪感と共に身体の奥底で疼く情欲が全身を駆け巡った。

 

「い……やだぁ………離し…て………」

 

 耳を、首を、胸を、そして全身を同時に責める男達の唇と舌、自由を奪われた身体を愛撫する男特有のゴツゴツした大きな手からの刺激が全身の性感帯に同時に作用する。

 相乗効果による倍の快感と、得体の知れない虫が大量に這って来るような感覚に似た悍ましさに全身の肌が粟立ち、不快感が齎され、媚薬のせいで只でさえ鋭敏になっている性感帯の感度も極限に達していく。

 相反する様々な感覚に心身が支配され、自分でも訳が分からなくて、それが嫌で嫌で堪らないフィールは涙が溢れてふるふると首を弱々しく振る。

 嘗て三度程敵対した死喰い人・クラウチJr.ですらここまでの事はしなかったと言うのに、同じ闇祓いの部下達にそれ以上の事をされた現実は目の前の男達に対する恐怖を抱くのと同時に仲間に裏切られた絶望感に胸を締め付けられた。

 

「あ~あ……泣いちゃいました? 泣き顔もそそりますねえ……」

 

 貴重なフィールの泣き顔を見て性的興奮を覚えた男は耳を唇で挟むと、痛くないように優しく甘噛みして口内でチロチロと舌先で転がす。

 

「~~~~~ッッッ!!!」

 

 瞬間、フィールは声にならない悲鳴を上げた。

 が、それ以上に大切な物を穢された怒りが沸々と込み上げ……この時だけは憤怒と言う名の精神力が自由の利かない肉体の主導権を一時的に取り返し、男の鳩尾を思い切り蹴り上げる事に成功した。

 

「……っ、このピアスとイヤーカフは……!! 私の大切な人から貰った大切な贈り物であり、形見でもあるんだ……!! だからそれを穢すのは誰であろうと許さない……!!」

 

 息を切らしながらフィールが怒鳴り付ければ、驚きで眼を見開いていた男達はここまでされても尚、理性が勝るフィールの副局長としての強さを目の当たりにし……。

 最後にギリギリ残っている理性の力を根刮ぎ奪い取ってやりたい、と言う劣情の大波が一気に押し寄せてきた彼等は口元を歪め、下卑た笑みを浮かべた。

 

「副局長……俺、もう我慢出来ません……」

 

 そう言って目の前の男は己もローブと服を脱ぎ捨てると、スラックスのベルトを外し……嫌でも視界に飛び込んでくる隆起した雄の象徴に、フィールはその後の恐怖が脳裏に思い浮かんで今日一番顔色が酷く、真っ青になった。

 

「―――っぁ……、そんな、まさか……っ、ま、待って……っ、お願い、それだけは止め……っ」

 

 しかし、フィールの懇願も彼女を犯す事で脳内が埋め尽くされている男の耳には届かない。

 

「ずっとこうしたかった……!! 貴女と媾える日が来るとは夢みたいだ……!!」

 

 欲しいオモチャを買って貰った子供みたいに無邪気な、それでいて熱に冒された瞳で男はスカートの中に手を滑り込ませ、黒いストッキングに覆われた太腿を優しく撫でてビリビリと裂き……。

 男の大きな手と指先が太腿の内側に触れた瞬間、遂にフィールは自分の中で何かが弾け飛んで悲鳴を上げた。

 

「嫌だあああああああぁぁぁぁぁッ……!!!」

 

 堪らずフィールが泣き叫んだ直後、彼女は頭の中は真っ白、目の前は真っ黒になって意識が朦朧とし深い闇に堕ちていくのを感じた。

 

(あ………もう…無理………意識が……―――)

 

 精神の限界を迎え、プツンと意識が完全に途絶えたフィールの全体重が後ろにいた男にのし掛かる。

 

「あっ、気絶した」

「起きてくださいよ副局長様。お楽しみはこれから始まるんですから」

「ま、意識なくても止めないけどな。もう病み付きになったし」

「続ければ起きるんじゃね?」

「うわっ、下衆!」

「おい、早くしようぜ」

 

 任務は終わったが今もまだ仕事中である事が頭から完全に抜け、肉欲に溺れる男達は発情期の肉食動物の如く楽しそうに笑いながら気を失ったフィールのスカートを下ろそうとした、まさにその時。

 真紅の閃光が数本男達に直撃し、失神効果を帯びたそれをモロに喰らった彼等は何が起きたのか分からないままバタバタと折り重なるようにして次々と倒れた。

 

「―――安心しなさい。『失神呪文』よ」

 

 現れたのはクシェルからの緊急連絡を受けてダッシュで駆け付けたハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だった。

 間一髪間に合った彼等は此処まで休む事無く走り続けたせいで息が上がっている。

 少しの間肩で息をしていた三人は可及的速やかに呼吸を整えると急いでフィールの元まで駆け寄り、

 

「フィール! 大丈夫!? フィー―――」

 

 彼女の上で失神している一際身体の大きい男を退かしながら声を張り上げ……退かし終えた三人は衝撃的な光景に絶句した。

 

「─────フィー……ル……?」

 

 羽織っていた仕事用のローブとジャケットは脱がされ。

 ワイシャツは無理矢理はだけさせられて白い肌と胸を露出させられ。

 脚を覆っている黒ストッキングはビリビリに裂かれ。

 両手首はネクタイでキツく拘束され。

 長い黒髪はぐちゃぐちゃに乱れ。

 端整な顔が涙でぐしゃぐしゃに汚れたフィールの有り得ない姿と、チラッと視界の隅に映った部下の男の象徴に三人は不本意ながら此処で何が起きたのか一瞬で察し……サッと顔面蒼白した。

 

(何て酷い……!!)

 

 想像しただけでゾッとしたハーマイオニーは思わず杖を取り落として両手で口元を押さえた。

 同じ女としてフィールが受けた恐怖や嫌悪感を意思に関係無く本能で理解を強制されてしまい、吐き気を催したのだ。

 この出来事は間違い無く物知りなハーマイオニーが人生で一番物事を理解したくないと思った瞬間だろう。

 ハリーとロンの男コンビもまた、あまりにも惨過ぎる場景に「嘘だろ……」と全身を震わせていたが、それよりも、何よりも。

 

「フィール! 起きて! 起きなさい! フィール!!」

 

 咄嗟にハーマイオニーは己が羽織っていたローブを上に被せると両手首の拘束を解いて涙眼で、涙声で必死に意識の無いフィールの身体を揺すった。

 

「しっかりしろフィール! 君を襲ってたヤツ等は僕達が無力化した! もう大丈夫だ!」

「早く目を覚ませ! 我らがハリー局長の命令が聞こえないのか! それでも闇祓いNo.2か!」

 

 ハリーとロンも今にも泣きそうな表情で何度も呼び掛け……彼等の必死の声が届いたのか、意識を取り戻したフィールはゆっくりと、重い瞼を開いて焦点の合っていない傷付いた瞳でハーマイオニー達の泣き顔をぼんやりと捉えた。

 

「―――ハー……マイ…オニー………?」

「フィール……! ああ良かった、貴女が目を覚まして、本当に良かった……!」

 

 堪らずハーマイオニーはワアッと泣き出して安心したようにフィールに抱き付き、強く優しく抱き締める。

 いつもなら心から信頼している親友のぬくもりと香りに包まれて安心するところなのだが、何分今は魔法薬の影響からか落ち着くどころか寧ろハーマイオニーの腕の中で身悶えた。

 

「あう……あああぁ…っ、あ、ん……っ、ごめんハーマイオニー……っ、今の私に触らないで……っ」

「えっ……フィール……? 何で―――」

「っん、ぁ…あぁあ……っ! ダメ、耳元で喋らないで……っ、お願いだから、早く私から離れてっ……、あなた達まで巻き込みたくない……っ」

 

 言葉を紡ぐハーマイオニーの吐息が耳に掛かるだけで再び熱が帯び、余韻が冷め止まない身体が沸き上がる淫情で火照り始める。

 言われた通りハーマイオニーがそっと身体を離せば、フィールはハーマイオニーのローブを引き寄せて熱い身体を隠し、恥ずかしそうに太腿を擦り合わせて紅潮した顔を背けた。

 荒く乱れた呼吸にさえも危険な熱と色を孕んでおり、初めて見る親友の淫らな姿にハーマイオニー達はこちらまで身体が熱くなるのを感じた。

 

(これは……まさに文字通りの目の毒だわ……)

 

 同性で且つ堅物のハーマイオニーですらそう思うのだ。

 年頃の若い男達が欲を刺激され歯止めが利かなくなるのも無理はないだろう。

 お互い独身だった場合、今頃は此処に来た目的を忘れてどう見ても誘ってるようにしか思えないフィールを押し倒して、今度は己が彼女をメチャクチャにしていたかもしれない……。

 そんな恐ろしい考えを一瞬抱いてしまう程に今のフィールは見る者にとって文字通り「目の毒」の体現化……もっと直接的な表現をするならば「猥褻物の権化」と言っても過言ではなかった。

 

 と、その時、唐突にフィールが「うっ……」と気持ち悪そうに口元を押さえた。

 視界に己を襲った部下達が入ったからだ。

 いくら気絶しているとは言え、この短時間でトラウマの存在になってしまった彼等を見るだけで気絶前の思い出したくない記憶がフラッシュバックし……吐き気に襲われる。

 するといち早くそれを察したハーマイオニーが「フィール、吐きそうなら我慢しないで全部吐いた方がいいわ」と言い、軽く頷いたフィールはすぐに嘔吐した。

 

「おえっ……ゲホッ、ゴホッ……、はぁっ……はぁっ……ぁぁ……」

「よく出来たわね。偉いわよ」

 

 本当だったらすぐにでも背中を摩ってあげたいのだが、そうすれば逆効果になる為、少し離れた位置から褒めて安心させるように微笑む。

 

「ハリー、ロン。悪いけれど二人はこの人達を拘束してフィールの視界に入らない場所まで移動させて貰える?」

「分かった。こういう時は女性同士の方がフィールも安心するだろうし、フィールにはハーマイオニーが寄り添ってあげて」

「よっしゃ任せろ。コイツ等は僕とハリーが離れた場所まで退かすから、ハーマイオニーはフィールの介抱をよろしく頼むぜ」

「ええ、お願いね」

 

 ハーマイオニーの指示を受けたハリーとロンは現在失神中の部下達が万が一起きても大丈夫なように全員分の杖を予め奪っておき、それから縄で縛り上げると一箇所に纏めて遠く離れた場所まで移動させ、牡鹿の有体守護霊を生み出して外で待機している闇祓い達と執行部へ伝言を託す。

 その間、一人の部下のポケットにフィールの杖が仕舞われているのに気付いたロンはテリアの有体守護霊に彼女の杖を託して届けさせ、ありがとう、と言う意味で会釈してきたフィールに微笑しながら手を軽く振った。

 杖が戻って来てホッとしたのも束の間、またもや嘔吐感に見舞われ「ごめん……まだ気持ち悪い……」と近くに居るハーマイオニーに謝罪する。

 

「謝らなくていいわ。とにかく今は気持ち悪さが抜けるまで全部吐き出しちゃいなさい」

「あり……が…とう……」

 

 言われた通りフィールは吐くもの全てを吐き出し終えたら水魔法で口の中を灌ぎ、吐瀉物を消失してその場を除菌消毒する。

 それからタイミングを見計らってハーマイオニーが魔法薬の入った小瓶を2本フィールの前に置いた。

 

「安らぎの水薬と一般の解毒剤よ。貴女の様子からしてこれでも精々、気休め程度にしかならないでしょうけれど……飲まないよりはマシだと思うわ」

 

 しかし、フィールは小瓶を手にする気配がない。

 いや、どうにかして飲みたい気持ちはあるのだろうが、魔法薬を浴びたせいでこのような目に遭った為か、身体が手に取るのを拒否していた。

 

「……もしかして抵抗ある感じかしら?」

「……っ、うん……」

「やっぱり……。多分と言うか九分九厘そうでしょうけど、貴女が部下達に襲われたのも魔法薬のせいね?」

「正解……。密輸班のボスが交戦中、隙を突いて部下に向かって魔法薬を投げ付けたんだ。至近距離だったから私も他の部下達も『盾の呪文』で防ぐ余裕が無くて……」

「なるほど……得体の知れない魔法薬を被りそうになった部下を守る為に貴女が代わりに魔法薬を喰らった結果、浴びたのが媚薬の一種だったせいでこんな事態に発展したのね?」

 

 良くも悪くも理解力の高いハーマイオニーが確認すれば、フィールは暗い表情で小瓶に視線を落とした。

 それはイコール、その通りと言う意味で。

 詳細を把握したハーマイオニーはさてどうするかと顎に手を当て……軈て躊躇いがちにフィールにある提案をする。

 

「……………口移し―――」

「……!」

「―――で、私が貴女に薬を飲ませるのはどうかしら? 嫌だったら無理にとは言わないけど……聖マンゴに行くまで今の状態のままはかなり辛くない? まあ、その時は貴女を1回眠らせてから連れて行く方法もあるけど……フィールはどうしたい? 事後報告にはなるけどハリーとクシェルには勿論後でちゃんと説明するわ。と言うか二人共この緊急時、口移しで薬を飲ませても怒らないわよ」

「……………」

 

 ハーマイオニーの提案に数秒間黙考したフィールだったが、程無くして結論が出たのか、

 

「……………お願いします……」

 

 と、小声でポツリと呟いた。

 それを聞いたハーマイオニーは「分かったわ」と頷き、「失礼するわね」と断りを入れてから安らぎの水薬と解毒剤の両方を口に含むと、フィールの頬を両手で挟み込んで固定し、彼女の唇に己のそれを重ね合わせる。

 

「んっ……、んんん……っ」

 

 コクン……と少しずつ薬が喉の奥へと流し込まれる。

 薬の効果が効き始まるまでの間、フィールは眼を閉じて何かに必死に耐えるように身体をプルプル震わせ、無意識にハーマイオニーの袖を掴んで引き離そうとしたら、

 

「ダメよ……もう少しだけ我慢して」

 

 と言葉にする事が出来ない代わりに「んっ」とジト眼でフィールを見、それでも口移しを中断させようと身体が勝手に動く彼女をハーマイオニーもまた、無意識にゆっくりと優しく押し倒して彼女に不利な体勢を作らせた。

 

「ん、ぐ……っ!」

 

 横になった事で薬が一気に流し込まれ、眼を見張ったフィールは思わず緩く首を振ってハーマイオニーを押し退けようとしたが、ハーマイオニーでさえ突き放せない程弱っている今のフィールには無理な話だった。

 

「ぅ、ん、ん……!」

「んっ!」

 

 大人しくしなさい! と叱責するようなハーマイオニーのジト眼を認めたのと同時、やっと薬の効果が効き始めたのか、段々とフィールは大人しくなり……ハーマイオニーの口移しを普通に受け入れられるようになった。

 

「ん……ん……」

 

 目元を和らげ、穏やかに微笑んだハーマイオニーは「偉い偉い」と褒めるようにフィールの頭を優しく撫で、乱れた黒髪を手櫛で整える。

 優しい手付きで髪を梳かれる心地よい感触にようやく心身が少しは落ち着いてきたフィールは伏し目がちになって「んん……」と擽ったそうに身を捩った。

 そうしてフィールが薬を全て飲み込んだのを確認したハーマイオニーはゆっくりと唇を離す。

 二人の間には銀の糸が引いていて、口の端から少し零れたのを腕で拭うと彼女達は深呼吸した。

 

「ぷはっ……、はぁっ……はぁっ……」

「……っ、フィール……ちょっとは落ち着いたかしら?」

「…………落ち着いたには落ち着いたけど……別の意味でドキドキが止まらない……」

「奇遇ね、私もよ。……試しに触れてもいい?」

「ん……」

 

 ハーマイオニーはそっとフィールの肩に触れる。

 思った通り、一時的に媚薬の効果を薄めるだけであって完全な解毒は不可能みたいでフィールは少しビクッとしたが、それでも飲む前に比べれば全然マシだった。

 その後、優しくフィールを助け起こしたハーマイオニーはワイシャツのボタンを閉め、自身のローブをそのまま羽織らせて部下達の唾液で濡れた耳や首、アクセサリーを「払拭呪文(テルジオ)」で綺麗にしたら、もう一度彼女を抱き締めて背中を優しく摩った。

 

「フィール……さっきも言ったけれどギリギリの状況だったとは言え、貴女が無事で本当に良かったわ。でも……まさか、こんな事が起きるなんて……。ごめんなさい、もっと早くに助けてあげられなくて。貴女も凄く怖かったわよね……」

「ハー……マイ、オニー……」

 

 ウェーブがかったふわふわの栗色の髪がふさふさと頬を擽る。

 信頼している親友からの抱擁にようやく不安が和らいで心の底から安心し、媚薬に冒されていた身体も多少なりとも受け入れられるようになったフィールはそれだけで嬉しくて涙ぐんだ。

 疲れ果てた身体と精神を全てハーマイオニーに委ね、己を抱き締める彼女の背中に腕を回し、ギュッと抱き締め返す。

 

「ありがとう……私を………助けてくれて……」

「! ……当たり前よ! 私達は親友でしょう? 貴女に何かあれば絶対助けるし、どんなに遠くに居ても必ず駆け付けるわ! ああもうっ、とにかく無事で本当に良かった! クシェルから連絡を受けなかったら今頃どうなっていたかなんて考えたくもないわ……」

「クシェルが……?」

「ええ。貴女方が帰って来るのを外で待っていたら突然クシェルからハリーの両面鏡に緊急連絡が来てね。『貴女(フィー)が帰還しないのは任務のせいじゃないからすぐに向かって』って切羽詰まった様子でそう断言したのよ。私達も薄々貴女に何かあったんじゃないかとは思ってたけど……。戻って来るのが遅いのは何か他に怪しい密輸品は無いか、念入りに調査しているせいだからなんじゃないかと勝手に思い込んでしまって、もう少しだけ待ってみましょうって事になって……。だから現在(いま)、貴女を助けられたのはクシェルのお陰なのよ」

 

 それから間も無くして、フィールの身に危険が迫った胸騒ぎを覚えたクシェルから連絡が入り、現在に至る……とハーマイオニーは逐一説明してくれた。

 話を聞き終えたフィールはじんわりと胸が温かくなり、「クシェル……ありがとう……」と此処には居ない最愛の恩人に感謝の言葉を述べる。

 

「……クシェルに連絡するわね」

「ええ、そうした方がいいわ。クシェルも今頃は貴女の安否が心配で気が気じゃないと思うわよ」

 

 ハーマイオニーの言葉に首肯したフィールはスカートのポケットから両面鏡を取り出し、鏡に向かってクシェルの名前を呼んだらすぐに応答してくれた。

 

『フィー!! 良かった、やっと連絡来て!! 死ぬ程心配したよ!! てか何か顔色悪いけど大丈夫!? もしかして部下の男共に何かされた!?』

「うっ……相変わらず鋭い……」

『その表情(かお)はやっぱり何かされたんだね!? よくも私のフィーに汚い手を出して……!! 絶っっっ対許さない!!!』

「クシェル……心配してくれる気持ちは凄く嬉しいけどまずは話を聞いてくれる?」

 

 おねだりするように首を傾げながらフィールが言えば、「うっ……」と可愛らしい仕草に胸がズッキュンされたクシェルは途端にしおらしくなる。

 クシェルが静かになったらフィールはまず先程ハーマイオニーに伝えた内容をクシェルにも伝え、「私が浴びた薬はどうやら薬を受けた対象の熱を昂らせる他、周囲の者も巻き込む類いの物みたい」と補足すると、

 

「今回の件は私の不注意が招いた結果でもある。だから……どうか彼等を責めないでやって欲しい」

 

 とも付け加え、これには鏡越しのクシェルは勿論の事、ハーマイオニーも予想外の言葉にビックリしてフィールを凝視した。

 

「でも……いくら魔法薬のせいとは言え、彼等は貴女にあんな酷い事を……」

「いいんだ。確かに身体を男に弄ばれた事は嫌だったし、トラウマになったけど……こうなったのは全て魔法薬の効果のせいよ。こればかりはギリギリ抗える『服従の呪文』と違って完全な不可抗力……。私を襲った事については責めないであげて。お願い」

「……分かったわ」

『……………まあ、当事者のフィーがそこまで言うなら部外者である私は何も言えないから責めるのはやめとくけど……。フィー、とにかく今は聖マンゴに来て。お母さんもクリミアも凄く心配しているから。フィーが浴びた魔法薬の分析もしないといけないし。あと……恐怖心を煽って本当に申し訳無いけど、フィーの薬に当てられたって言う部下の人達も連れて来て。彼等も診察する』

「分かったわ。……あ、あとクシェル」

『ん?』

「ハーマイオニーから聞いたんだけど……クシェルがハリーに私の危機を伝えてくれたから助かったのよね。ハーマイオニー達が私を助けてくれるのに間に合ったのはクシェルのお陰よ。ありがとう。……今はハーマイオニーが飲ませてくれた安らぎの水薬と一般的な解毒剤の効果で身体の熱はある程度鎮まってるけど、それも一時的なものであって完全ではないから。記憶の塗り替えの為にもクシェルが嫌でなければ今夜……『治療』をお願いしてもいいかしら?」

『!! ……勿論。喜んで。と言うかそうしなきゃ私の気が済まないから。今回は特別にフィーの慈悲深い心に免じて部下の男共を責めない代わりに私はフィーの心身を癒すのに専念するよ』

「ふふっ……ありがとう、楽しみにしてるわ。それじゃあ今からそっちに向かうから少し待ってて。……愛してるわクシェル。大好きよ」

 

 妖艶に微笑んだフィールは最後に唇を寄せ、チュッと両面鏡の向こう側に居るクシェルに最大級の愛情と感謝を込めた口付けを落とした。

 鏡越しのキスだと言うのに何とも色気が半端じゃない。

 一発ノックアウトされたクシェルはボンッと頭が沸騰しあわや卒倒し掛ける寸前まで追いやられたが「気絶するのは今じゃない……!」と謎の鼓舞でどうにか踏ん張る。

 一連の流れを黙って見守っていたハーマイオニーは見て聞いているこっちが恥ずかしくなりつつ、ようやくいつものフィールが少しずつ戻って来てくれて「良かった……」と安堵の息を吐き、ただ今絶賛空気中のハリーとロンも顔を見合わせてホッと胸を撫で下ろすのだった。




クシェル「ん? あれそういえばさっきフィーが言ってた『ハーマイオニーが薬を飲ませてくれた』ってどういう意味なんだろ? ……後で詳しく話を聞こうか」
クリミア「あの~、ライリーさんライリーさん」
ライリー「はいどうしましたかメモリアルさん」
クリミア「これ後でヤバい事になりませんかね?」
ライリー「大丈夫よ今回は緊急事態だったしきっと大丈夫よ(大事な事なので二回言いました)」

【副局長様、受け体質アクセル全開】
フィールが受け体質なのはここまでお読みになってきた読者の皆さんなら周知の事実ですが、ここまで受け体質になったのは今回が初めて。

【前リクエスト回とは色々対照的な展開】
リクエスト①前後編では性転換する魔法薬をリリーに口移しで飲まされて男体化してパワーアップしてナンパモブ男を撃退したのに対し、今回は強力な媚薬のせいでパワーダウンして部下のモブ達に好き勝手される羽目に。
魔法薬一つでこうも変わるとは恐ろしい。

【クラウチJr.ですらここまでの事はしなかったのに】
変な所で何故か評価が上がる変態デスイーター。

【ハー子、フィールに口移しする】
娘が娘なら母親も母親だった。

【ただ今絶賛空気中のハリー&ロン】
ハリー「尊い……」
ロン「キマシタワー」

【次回(後編)予告】
ファンの皆様お待ちかねクシェフィルのイチャコラ回。
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