【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
皆さんお待ちかね、クシェフィルイチャコラの回でございます。
本来であればもう少し本編は長く書く予定だったのですが、ラストが思いの外綺麗に終わってしまったせいで「これは最後の最後で台無しにしたくないな……」と言う気持ちが強くなり、急遽予定変更して予想以上に長話となった中編に比べてかなり短くなってしまいました。
後日談については後書きの方にて補足しましたので、申し訳ございませんがどうかご勘弁くださいm(_ _)m。
それではリクエスト回第2弾の最終話をどうぞ。
最後に新谷奏様、この度はIF番外編リクエストを誠にありがとうございました(*´ω`*)。
目覚めて最初に見たのは最愛の人の寝顔だった。
寝起き直後でぼんやりした視界と思考の中、フィールは目の前ほんの数㎝の距離にあるクシェルのあどけない無防備な寝顔を見つめる。
規則正しい穏やかな寝息を立て、まるで「二度と離さない」と意思表示するかのようにギュッと抱き枕の如く己を抱き締める彼女は本当に幸せそうだ。
肌で感じるクシェルの体温と服に染みた甘く優しい香りに心が安らいだフィールは目尻を下げる。
フィールにとってクシェルはリラックス効果の権化。
故に何もせずともただそこに居てくれるだけで自然と身も心も癒されるので、クシェルの背中に回す腕に力を入れたフィールは自身の気が済むまで温かさを感じた。
「ん……あれ? フィー、起きたの?」
パチリ、と眼を開けたクシェルは自分より先に起きてたフィールを見て寝惚け眼を擦る代わりに「もう大丈夫?」と背中を撫でながら尋ねる。
寝起き直後であってもこうして気遣ってくれるクシェルの優しさに笑みを溢したフィールは「平気よ」と返答した。
「昨日の嫌な
「じゃあさ、夕食食べたら一緒に映画でも観ない?」
「いいわね」
夕食後の楽しみを約束して笑い合った二人は上半身を起こし、軽く肩や首を回して解す。
「クシェル」
「ん?」
何? と言うよりも早くフィールはクシェルの唇に自身のそれを重ねる。
不意打ちでキスされたクシェルはフリーズし、顔を離したフィールがイタズラっ子のような笑顔を浮かべた瞬間、顔を真っ赤にさせた。
「ちょっとフィー! 何の予告も無しにいきなりキスしないでよ! ビックリして危うく心臓止まるところだったじゃん!」
「あら? 不意打ちで私にキスするのはクシェルの得意技じゃない。それにまだちゃんとクシェルにお礼のキスしてなかったし……。ダメだったかしら?」
耳と尻尾がついていたらペタンと垂れ下がっているような様子でフィールが小首を傾げれば、クシェルは「うっ……」と来てそれからジト眼でフィールを見つめた。
「……フィー、わざとやってる?」
「? 何の事?」
「ハァ~……改めて思ったけどフィーの無自覚ぶりは恐ろしいよ、本当に」
「???」
深いタメ息を吐いたクシェルは眼で見て分かる通りに「?」が一杯のフィールに仕返ししたい気持ちが芽生え……フィールの両肩に手を置いて前方に体重を掛けた。
押し倒され再びベッドに横たわったフィールが逃げに転じられぬよう今度はクシェルが唇にキスして口内を舌で侵す。
「んぅ……!」
押し退けようにも上手く力が入らないどころか急激に力が抜けていく。
濃密且つ過激に責められるせいで呼吸すらままならない。
「離して……!」
「ダメ、煽ったのはフィーの方なんだから」
離したのも束の間、完全にスイッチが入ってしまったクシェルに再び唇を奪い取られる。
身動ぎ出来ず、ろくに息も出来ず。
ただただ、芯まで身体が熱い。
狂おしい程に愛おしい熱に頭も心も魂もじりじりと炙られる。
「……………」
トロン、とすっかり熱に侵され堕ちた蒼い瞳が己の眼を捉えた瞬間、フィールから散々酸素を奪って満足していたクシェルの理性が瞬時に焼かれた。
そのままクシェルは白い肌とコントラストになる黒い髪を掻き上げ、耳を露にする。
昨夜の入浴中に出来た紅い痕……キスマークが然り気無く主張するそれを触れるか触れないかのギリギリのラインで優しくゆっくりとなぞり、フッと息を吹き掛け、口付けを落とし、甘噛みして舌先で優しく舐めれば、
「ふぁっ……」
やはりと言うべきか、擽ったさとゾクゾク感が交ざった感覚に襲われ電流が走ったようにフィールの全身がビクンと反応し、クシェルはくつくつと喉を鳴らして愉しそうに笑った。
「相変わらず耳が弱いねえフィーは。いつまで経っても全然慣れる気がしないよ。ああでも、人一倍耳が苦手なフィーに克服しろって言うのも無理な話かな?」
「五月蝿いわ……っ…、私だって好きで弱くなった訳じゃないもの……。あと、お願いだから耳元で喋らないで……っ」
「ふふっ、や~だよ。だって元はと言えばフィーが悪いんだし」
「んぁっ……」
「そういう訳だから頑張って我慢してね? お耳が滅法弱い闇祓い副局長様?」
「うっ……あ、あぁ……、はぁぁ…ん……っ」
頭を緩く振り、逃れようとしても結局は全て無意味で。
そもそも体勢からして圧倒的に有利なのはクシェルの方なのだから、不利な状態のフィールが敵う筈もなく、言葉を発する度にクシェルの温かい息が濡れてより一層敏感になった耳を刺激し、悪寒と快感が背筋を、身体中を駆け巡る。
「クシェ……ルの…イジワル…………変態……」
「イジワルで結構。その変態にいいようにされてるのは何処の誰かな?」
「うぅ……」
「ところで今思ったんだけどさ、フィーが耳弱いのはフィーのお母さん譲りなんじゃないの? クラミーさんも生前は耳が凄い苦手だったって前にお母さんとお父さんが話してたし。ま、そうでなくてもフィーは多分今と同じように弱かったと思うけどね」
クシェルは結局フォローしたいのかそうじゃないのか……と心の中でツッコミを入れたフィールはムダな努力と理解しつつも極力声を出さぬよう歯を食い縛るが、意思に反して弄ばれる身体は正直で堪らず喘ぐ。
「…っん、くぅっ……あぁぁ…んんぅ……、ま、待って……これ以上はやめ…っ」
「やめて? 嫌がってるフリして本当は気持ちいいクセに?」
「違っ……」
「ねえフィー? 今どんな感じ? 擽ったい? 気持ちいい? 或いは両方?」
「嫌よ…っ、答えたくないわ……」
「ふ~ん……意地っ張りだねえフィーは。どうせ今更頑なに黙ったところで私にはお見通しなのにね」
「なら……わざわざ訊く必要は無いでしょ……」
「フィーの口から直接聞きたいから私は訊いてるんだよ? それでフィー、どうなの?」
「返事はノーよ……。何で分かり切った事を答えなきゃいけな……ひゃあっ!?」
普段であれば絶対に聞けないフィールの可愛らしい悲鳴が病室に響く。
いつの間にか服の隙間から侵入していたクシェルの手に胸を揉み拉かれ、余った片手で首筋を擽られたからだ。
「ぁ、あぁああっ…、やぁ……っ! ああぁっ! んんっ! だ、ダメっ……! 待って、もうやめてっ! ふぁっ……あぁんっ……!」
耳と首と胸を同時に責められ、押し寄せる強烈な快感に身を捩ってもクシェルの魔の手と舌からは逃れられない。
荒い息遣いのまま頬を紅潮させ、眼にうっすら涙を浮かべてブンブン首を横に振る姿はクシェルの嗜虐心を余計に刺激し、意地悪そうな笑みでニヤリと口角を上げる。
「フィーが素直に質問に答えてくれるなら止めてあげてもいいよ? それとも……このまま続ける?」
「っん……!」
「ねえ? 早く答えて? フィーはどうしたいの? 若しくはどうされたいの?」
耳元で低く囁くクシェルの声が鼓膜を、そして熱い身体を震わせる。
ツツー……と鎖骨に指先を滑らせる度、ビクビクッと身悶えし口元を覆い隠す手も小刻みに震えた。
「…ぁっ………んん……ッ」
必死に声を我慢しても我慢出来ず淫らに喘いでしまう自分が恥ずかしい。けれど声を堪えるのはどうしても無理な話で。
自分でも気付かぬ内にギュッと固く眼を瞑っていたらやんわりと手を解かれ、無防備に晒された唇に三度目の口付けをされた。
「ん、くっ……」
先程されたような激しいキスではなかったものの暫くの間唇を押し付けられ、度重なる責めに身心が疲弊してぐったりしているフィールは抵抗する事無くそれを受け入れる。
いつの間にか首と胸を好き勝手弄んでいた手は止まっていた。
軈てキスが終わったらクシェルは穏やかに微笑して優しく頭を撫でてくる。
「流石にイジワルし過ぎたかな?」
「……………そう、ね。もう……疲れたわ……」
こんな時だけ優しくしてズルい……とフィールはジト眼になったが、クシェルに髪を梳かれる感触が心地よくて怒る気が失せてしまい、そしてそんな自分にフィールは自嘲気味に薄く笑う。
何だかんだでクシェルに甘いのは昔から変わらなかった。
「じゃあさ、一旦イタズラは止めるからもう一度訊いていい? フィーはいつもどんな感じなの? 擽ったいの? 気持ちいいの?」
顔を逸らせぬよう両手で頬を挟み込んで固定した状態でクシェルが再び質問してくる。
恐らくここで素直に返答しなければ、今度こそクシェルは問答無用で気絶するまでノンストップでイタズラを続行するだろう。
それはそれで恥ずかしいのだが……天秤に掛けて散々悩んだ末、観念したフィールはポツリと小さな声で呟く。
「…………………………どちらも、よ」
含羞の色を帯びた眼差しで、耳まで真っ赤にさせながらもきちんと答えたフィールにくすりと笑ったクシェルは「よく出来ました」と頑張ったご褒美として寝起き後四度目のキスをする。
「っん……、……このキス魔、何回やれば気が済むのよ」
「でも嫌いではないでしょ?」
「……………」
「黙ったってムダだよ。顔に書いてある。て言うか仕事終わりや休日には甘えん坊さんモードになってキスやハグを求めてくるフィーだって人の事言えないでしょ」
「それとこれとは話は別よ。はぁ……もう、寝起き早々クシェルに身も心もぐちゃぐちゃにされて大変だわ。私、もう一度シャワー浴びて来るから、クシェルも浴びるなら私が上がった後でお願いね」
「何で!? 一緒に入れば早いじゃん!」
「だって貴女、今のまま浴室行ったらまたスイッチ入って襲って来るでしょ?」
「ギクッ……べ、別に襲ったりしないよ!」
「ウソつき。眼が泳いでるわよ」
「うぐぐっ……だって仕方無いじゃん。フィーが可愛過ぎるのがいけないんだもん」
「私に責任転嫁するんじゃないわよ、全く」
身体を起こし、乱れた服を整えたフィールは肩を竦める。
「……夜まで我慢すると約束するなら一緒に入ってもいいわよ。ただし破ったら今夜は映画は観ないし、同じベッドで一緒に寝たりもしない。いいわね?」
「! うん! 約束する!」
ありがとフィー! と途端に無邪気な笑顔を浮かべたクシェルは嬉しそうにフィールに抱き付く。
抱き付いてきたクシェルの背中をポンポンと軽く叩いたフィールは「こういう所は相変わらず何歳になっても変わらないわね……」と子供みたいに喜ぶ伴侶にちょっと困ったような笑みを溢した。
と、その時。
コンコン、と壁をノックする音がフィールとクシェルの耳に入った。
「―――お熱いところ申し訳無いのだけれどそろそろいいかしら?」
声を掛けてきたのはライリーであった。
隣にはクリミアも立っており、何故か二人共意味深に眼を細めてこちらをじっと見つめている。
心做しか若干頬が紅く染まっているような気がして、(フィールと言うかクシェルが)熱中するあまりいつの間にか母親と姉が入室していた事に全く気付かなかったフィールとクシェルは二人揃って思考停止に陥った。
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
室内に奇妙な沈黙が流れる。
それもその筈で互いに何と声を掛ければいいか分からない様子で互いを凝視し、シン……と嫌に静まり返った空間の中、一番最初に静寂を破ったのはフィールであった。
「…………………………いつから、そこに?」
その問い掛けに対し一瞬顔を見合わせたライリーとクリミアは非常に言いにくそうに「……フィールがクシェルにキスした辺りから」と非常に小さな声で答える。
それはつまり、割りと最初から居たと言う
キスした後からライリーに声を掛けられるまでの出来事が次々と脳内再生された二人は更にフリーズする。
「…………………………何で、ノック、しなかったの?」
「いや……………その、もしもまだ寝ていたらせっかくぐっすり眠っているのに起こしちゃっても可哀想と言うか、正直な話、そもそも防音魔法掛けているからノックしたところでどのみち変わらなかったと言うか……………」
「これだったらもう少し後で来れば良かったと私達も後悔しているわ……。ごめんなさいクシェル、フィールちゃん。お邪魔しちゃって―――」
バツが悪そうにライリーが謝罪した次の瞬間。
「うわああああぁぁあああああぁぁぁぁぁああああああぁぁあっっっ!!! 穴があったら入りたいいいいぃいいいぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
羞恥心が限界突破し赤面したフィールが泣き叫んでベッドから跳ね起きたと思うと、何とそのまま窓から飛び降りてしまった。
「フィー此処4階ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「待てえええぇぇぇぇぇ!! 早まるなあああぁぁぁぁ!!」
慌ててクシェル達が窓の外を見るが時既に遅し。
病み上がりだった事もあり衝動的に身を投げ出したフィールは着地をミスって「足首を挫きましたァ!」となった。
時間短縮の為にこちらも窓から飛び降りたクシェル達は魔法を用いて上手く着地すると急いで患部を治療し、すぐさま病室へと戻る。
文字通りの身投げをしたフィールはその後、1時間近く正座の状態で三人からこれでもかと言う程こってりと説教された上、フィールが窓から飛び降りたと言う話を聞き及んだハーマイオニー達にもめっちゃ叱られて夕食の時間になるまで意気消沈したとか。
✡️
色々あったものの夕食の時間帯となりベイカー家で食事を終え、クシェルの部屋に来たフィールは約束通りマグル界では子供から大人まで大人気のアニメーション映画をクシェルと共に鑑賞し、今は二人だけの女子会を満喫していた。
「久々に観たけどやっぱりマグル界のアニメ映画は変わらず面白いね! こうしてのんびり観たのは前にハーマイオニーの家に泊まりで遊びに行った時以来かな」
「ああ、そういえば以前ハーマイオニーと三人で映画のマラソン鑑賞した事あったわね」
「そうそう、お泊まり会楽しかったよね。また今度都合がついたら皆で観よっか」
「その時もクシェルは決まってピーター・パンを観るのよね」
「勿論! だってピーター・パンは昔から大のお気に入りだもん! 何回観ても夢と希望を与えてくれるこの不朽の名作は私の中で不動の1位だからね! そりゃ観ない訳にはいかないよ!」
ピーター・パンは戯曲及び小説を原作とし、1953年にアメリカで公開されたマグル界では有名な長編アニメ映画だ。
イギリス・ロンドンを舞台に大人にならない永遠の少年ピーター・パンと共に妖精ティンカー・ベルの空を飛べる魔法の粉を浴びたダーリング姉弟……ウェンディ、マイケル、ジョンが子供の国「ネバーランド」を冒険するこの物語は今でも高い人気を誇る有名な作品であり、クシェルの大のお気に入りでもある。
興奮冷めやらぬ状態でクシェルが熱弁を振るえばフィールは「ふふっ……」と柔らかい笑みを湛えた。
「クシェルは相変わらずピーター・パンが大好きなのね」
「そう言うフィーはミュージカル映画が特に好きで、ハーマイオニーが美女と野獣が一番のお気に入りだって話してたよね。あとはシンデレラも好きなんだっけか。やっぱ女の子なら誰もが一度はプリンセスに憧れるものなんだね」
「私の場合はお姫様を救うプリンスやナイトの方が相応しいってクシェルとハーマイオニーは言ってたけどね。ま、私も物語のキャラになるならお姫様よりも寧ろ姫を救う王子か騎士がいいけど」
「ドラゴンキーパーですら悪戦苦闘するドラゴンを、それも数あるドラゴンの中で一番狂暴なハンガリー・ホーンテールを14歳時点でフツーに討伐出来ちゃうフィーなら大抵のヴィランもコテンパンにやっつけられそうだしね。……もし私が攫われたらフィーは助けに来てくれる?」
「何を当たり前な事を。クシェルは私の存在意義にして世界の中心……貴女を無事救い出すまでは何処へでも、それこそ地の果てまで追い掛ける事さえ厭わないわよ」
「ありがとうフィー。じゃあ、もし万が一フィーが誰かに連れ去られた時は私がフィーを助けに行くから心配しないでね」
「闇祓い副局長として普通はそんな事、あってはならないけどね。でも、一体いつ何処で何が起きるか分からないこの世の中、本当にそうなった時はお願いするわ」
「任せといて! フィーは私がちゃんと助けるし守るから! フィーが皆の頼れるヒーローなら、私はフィーにとっての頼れるヒーローになるからね」
「なるんじゃなくて、貴女は
フィールがそう言えばクシェルは嬉しそうに笑った。
実際、クシェルが居なければフィールはとっくの昔に道を踏み外してヴォルデモートやクラウチJr.のような闇の魔法使いに堕ちていただろう。
そうならずに済んだ最大のファクターは他でもないクシェルだ。
自分の人生を振り返ったフィールは染々とした気持ちで眼を細めて目の前の恩人を見つめ……ふと思い立ったように立ち上がると、迷う事無く窓際まで歩いて天候を確認した。
「フィー? どしたの?」
突然窓外の景色を眺め始めたフィールの不審な行動にクシェルが首を傾げれば、「クシェル、まだ寝る気はない?」と尋ねてきた。
「え? うん、昼間に沢山寝たからまだ睡魔は全然襲って来ないよ。でも何で?」
「クシェルが嫌じゃなかったら今から一緒に夜の空中
「えっ、本当!? 行く行く! 今すぐ空中散歩行きたい!」
フィールから素敵なお誘いを受けたクシェルは即座にOKを出し、満足そうに微笑したフィールは指をパチンと鳴らして愛用箒・ファイアボルトを召喚する。
念のため、1階に居るライリーとイーサンが自分達が不在な事に気付いても心配しないよう「二人で夜の空中散歩に出掛けて来ます」と言う置き手紙を机に残しておき、暖かい服装に身を包む。
最後にマフラーを首に巻き、窓を開けて窓枠を飛び越えファイアボルトに跨がったフィールは振り返り、こう言った。
「―――良ければ一緒に飛んでみないか?
魔法の絨毯に乗って宮殿に訪れたアラジンが王女様を空中デートに誘う際のセリフを真似たフィールに「そういえば前にもこんな事あったなあ……」と懐かしい気持ちになったクシェルが、
「平気なの?」
と、わざと少し不安そうな表情で返せば、
「私を信じろ」
満月と星々が彩る美しい夜空を背景に力強く手を差し伸べたフィールが最後に決め台詞を決め、微笑みを以て誘いを受け入れたクシェルを抱き寄せて二人だけの夜の空の旅へと出掛けた。
✡️
「クシェル、結構高い所まで来たけど平気? 寒くない?」
「大丈夫! フィーにくっついてるから寒くないし寧ろ温かいよ!」
「そう、なら良かったわ」
いつかの女子会でハーマイオニーも入れて三人で魔法の絨毯に乗って空中散歩に出掛けた日と同じ、星が煌めく満月の夜。
クシェルを乗せて空高く飛び上がったフィールは眼下に広がる光溢れる街並みを見下ろしながら上手いこと速度を調整し程良いスピードで飛び進めていた。
フィールの腰に両手を回し、背中にしがみつくクシェルは適度に筋肉質ではあるものの全体的に細い彼女の身体の細さをより強く感じ……思わず掴まる手にグッと力を込める。
何も知らない人間視点で見れば精々何かのスポーツに打ち込んでいるから体格が良いだけであとは何処にでも居るような普通の女性に思えるだろう。
まさかこんな細身の彼女が闇祓い副局長と言うこの魔法界で最難関職業のNo.2だなんて誰が信じられるだろうか。
同じ女だから忘れがちだが、杖と言う名の剣を握り締め、幾度と無くホグワーツを……そして英国魔法界を救ってきたその手だって、同い年で異性のハリーやロン達と比べれば小さい。
それでいて周りに居る男達が自分達より長身且つ大柄な者が多いせいか、同性と比較すればイギリス人女性の平均身長(=約164㎝)を10㎝近く上回るフィールも彼等と比較すれば当たり前と言えば当たり前ではあるが、高身長の部類に入る事が頭から抜けそうになるし、言い方は悪いがか弱そうにも見えてしまう。
実際は伊達に闇祓い副局長を務めていないだけあって魔法界でも指折りの実力者なのだが、彼女の実績を知らなければ、或いは直接その高い戦闘の腕前を見なければ、多くの者は見た目で判断し騙されてしまうところだ。
(フィーは本当に……ちっちゃい時から背負いきれない程の重荷をずーっと抱えて生きてきたんだよね……)
家族のクリミア達を除けば誰よりも一番近くでフィールを見てきたクシェルは知っていた。
彼女の身体には心と同じくらい、眼には見えない幾多の傷も刻まれている事を。
嘗てこの華奢な背中には、人の身にはあまりにも重過ぎる宿命を背負っていた事を。
物語に出てくるような英雄が必要なのは物語だけで十分なのに、この世界は世界を救う英雄を必要とし、求めた。
そしてあろうことかその英雄の一人に、不運にも選ばれてしまったのがフィールと言う訳だ。
それがクシェルにはどうしても腹立たしい。
何故運命は、神は、彼女にそのような責務を背負わせたのだろうか。
彼女だけでない。
ハリーも魔法界の英雄の一人になる事を定められた身として生を受けた代償で結果的に両親を喪う羽目になったのだから、もしこれでヴォルデモートを倒せなかったら彼女らは何の為に散々苦労したのか、何の為にあそこまで苦しむ事になったのか、それすら意味不明のまま運命に玩弄されるだけの理不尽な人生に幕を下ろしていただろう。
……否、もしかしたらそちらの方がIFの世界の彼女らにとってはある意味で救いなのかもしれない。
何故なら死ねば死に別れた最愛の家族と再会出来るからだ。
生そのものがただの拷問でしかなく、運命と言う鎖に縛られ続ける現実が地獄の世の中だとしたら、死によって重責から解放されるしか他に幸せになれないような世界であったら。
彼女らはきっと……迷う事無く「死」を手に取っていたに違いないとクシェルは思う。
「……ねえ、フィー」
「何?」
「……もう二度と、私の前から消えるなんて真似は絶対にしないで、何があっても最後は必ず私の所に帰って来てね。……独りだけで何でも抱え込んだりはしないでよ」
「……どうしたのクシェル? 突然そんな事言って」
「いや……学生時代、フィーはハリーと同じように物語の中に登場する勇者みたいに魔法界の希望の
このようにクシェルが吐露すれば、暫しフィールは無言となり……軈て口を開いた。
「―――クシェルは知ってる? 東京タワーで偶然出会った三人の女子中学生が突然異世界に召喚され、そこで伝説の
「……………え……?」
思ってもみなかった質問にクシェルは眼をぱちくりさせたが、すぐに「あの日本で絶大な人気を誇る有名な異世界ファンタジーものの?」と問い返し、「そうそう」とフィールは頷いて夜空にかかる満月を見上げる。
その物語は、東京タワーでの社会見学中に異世界の「柱」を務める者により異世界に召喚された三人の女子中学生が、そこで出会った導師の導きを受けて「魔法騎士」に隠された残酷で悲しい真実を知らぬまま魔法騎士として異世界を救う旅に出ると言う話で、その斬新な設定と世界観から多くの読者に衝撃を与え今尚高い人気を誇る作品だ。
フィールもクシェルも初めて見た時は第一部終盤で明かされる衝撃の事実に非常にビックリした事を覚えている。
「異世界にとって『柱』とはその世界に生きる全ての命の幸せを祈る以外は何も、それこそ自分自身の幸せを祈る事すら許されない存在。そして『魔法騎士』とは柱が世界に害なす存在になった時に住民に代わって柱を殺す為に呼び出される異世界の人間の事だから、柱と魔法騎士の内、当時のイギリス魔法界にとって私やハリーは前者に近い存在だったと言えばいいのかしら」
魔法界の為に命を尽くし、ヴォルデモートを完全に倒すまでは何度も何度も何度でも戦いに身を投じ、死地へ赴く事が義務付けられた存在……それが学生の頃のフィールとハリーだ。
しかし、ヴォルデモート率いる闇の陣営が滅ぼされた今、良い意味でお役御免となった二人は貴重な青春時代の大半を犠牲にし普通の日常生活を送れなかった分だけ家族や親友達と楽しく平和に過ごしている。
そういう意味では物語の話と言えど異世界の柱を務めてきた歴代の人間達よりも恵まれていると言えるだろう。
「魔法界の
だってそれこそが私の……フィール・ベルンカステルの―――
「―――譲れない願い……なのだから」
静かだけれど聞く者の心に、魂に響くフィールの
気付けばクシェルは安心感と幸福感から心の底から微笑み、寄り添う彼女の背中に頬を寄せて眼を閉じていた。
「フィー……約束、忘れないでね?」
「忘れないわよ。他でもない貴女に誓ってね」
「もし約束破って忘れたりしたら死ぬまで擽り倒すから覚悟してよ」
「それは遠慮したいわ。……じゃあクシェル。ピーター・パンファンの貴女に因んでアレにも誓っておきましょうか? そうすれば少しは安心するでしょう?」
「アレって?」
「ピーター・パンファンならば聖地として訪れたい場所であり、我が母国が世界に誇るロンドンの
「ま、まさか……」
「ええ、そのまさかよ」
自然と心臓の鼓動が早くなったクシェルがゆっくりと瞼を開けば、そこには我が母国が世界に誇るロンドンの
「―――世界一有名な時計塔、ビッグ・ベンよ」
「うわあぁっ……!! えっ!? マジで!? こんな間近でビッグ・ベン見たの初めてなんだけど!! フィー、いつの間に此処まで来てたの!?」
「いつの間にと言うかそもそも今回の空中
「そうだったの!? フィー、ありがと!! 大好き!!」
危うく箒から落下しそうになるんじゃないかとヒヤヒヤするくらい歓喜するクシェルを見てフィールも破顔しつつ、彼女が誤って落ちぬよう「危ないわよ」と然り気無く腰を引き寄せる。
ハッとしたクシェルは少し冷静さを取り戻し、頬を染めて「ご、ごめん……」としおらしく謝りギュッとフィールの身体に抱き付く。
当初の予定通りビッグ・ベンの周辺を旋回し、両者共に満足したらそのまま帰る……のではなく、イギリスでトップクラスの絶景を誇るロンドン夜景スポット定番、真下のロンドン・テムズ川に架かる「ウェストミンスター
テムズ川に煌めく街の光を背景にフィールとクシェルは今日一番の笑顔を浮かべる。
「今日は本当にありがとねフィー。あんなすぐ近くでビッグ・ベンを見たのは初めてだったし、今夜のデートの事は忘れないよ、絶対」
「一生の想い出になった?」
「勿論! これで一生の想い出にならない方がおかしいレベルでスッゴい楽しかったよ」
「そこまで喜んでくれるとは思ってもみなかったから私も嬉しいわ。サプライズした甲斐があったわね。……ねえクシェル」
「何?」
「せっかく此処に来たのだから……最後にもう一つ、『一生の想い出』を作ってから帰らない?」
「奇遇だね。私もおんなじ事考えてた」
「そしてそれが何なのかも……多分貴女と同じだと思うわ」
「………………」
「………………」
互いに真っ直ぐな眼差しで二人は互いの顔を見つめ合う。
永遠にも思えた時間の間、フィールの蒼の瞳とクシェルの翠の瞳が交差し―――フィールはクシェルの、クシェルはフィールの口元近くまで覆っているマフラーを同時に少し下ろす。
吐き出す白い息が互いの吐息と混ざり合い……それぞれの瞳に吸い寄せられるようにどちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねた。
星の煌めく満月の夜、ライトアップされたビッグ・ベンの下、目の前の相手しか頭にない二人は時間を忘れて深いキスを堪能し、軈て名残惜しそうにゆっくりと唇を離す。
「……クシェル」
「……フィー」
キスだけでは物足りない……。
全く同じ気持ちで、熱い眼差しで眼前に居る最愛の人と己の熱の籠った視線が再び交差した瞬間、二人は強く抱き合った。
「……好き。大好き。スッゴく大好き。もう言葉では言い表せないくらい愛してるし、死んでも私だけを想って欲しい」
「……私も。貴女だけは何が何でも手離したくないし、誰にも絶対渡したくない」
その言葉通り、二人は「いつの世も他の人間には渡さないし譲らない」と身体全体で意思表示するかのように互いを抱き締める腕に力を込め、身も心も魂も相手に己の全てを委ねる。
ビッグ・ベンだけが彼女らを最後まで優しく見守っていた。
【後日談】
流石にあんな事が起きた後では元通りに仕事出来る筈もないので療養と言う形で長期休暇を貰い、クシェル達の献身的なサポートもあって2週間くらい経った後で仕事復帰。
フィールが仕事復帰してから暫く、闇祓い達の間では牽制と警告も兼ねて彼女の耳と首に付けられたキスマークと歯形が眼に入る度、
「
と言う2つの印に最早怨念の如く込められたクシェルの本気の殺意を敏感に感じ取り、
「あ……これ絶対アカンやつや……」
と、本能的に身の危険を覚えて「死にたくなかったら副局長様への接触は必要最低限にする事」と言う暗黙のルールが僅か1日で決められた。
余談だがこの一件からクシェルに付けられたアダ名が「見えない死刑執行人(=処刑人)」やら「進撃の死神」やらでとにかく物騒。
いつクシェルの逆鱗に触れて後頭部より下、うなじを掛けてを掻っ切られたりズタズタに掻っ捌かれたりしないかと同僚達がビクビクする中、そんな事は露知らず(或いは敢えてスルー)のフィールは今日もクシェルにべったりの甘えん坊さんモードになってイチャコラつきながら休日を満喫する……。
簡単且つ簡潔にエピローグを纏めるならざっとこんな感じでしょうか。
結論:死にたくなかったらクシェルを怒らせるな関わるな近寄るな
【異世界ファンタジー】
またまた出ましたジャパニーズサブカル。
実は私が最初に知ったのはゲームの実況動画でプレイは勿論マンガも読んだ事はまだありません。今はGoogle先生とかで知識補完ですが機会があれば読んでみたいですね。
もしも将来Switchで移植されたら多分買います。
あとは今めっちゃ欲しいゲームの一つでもあるNieR:AutomataもSwitch版で販売されたら買います。
ネタバレ防止の為にちょこっとだけ主人公の2Bの声を聞きましたが、相変わらずドンピシャ過ぎるボイスに惚れ惚れ。
そして相変わらず強さと美貌を兼ね備えたキャラとボイスがマッチしてて益々好きになります(ミカサ然り、ヴァイオレット然り、エンプラ然り)。
【お客様がお望みなら、どこでも駆けつけます。自動歩兵人形サービス、エンタープライズ・アッカーマンです】
多分と言うかこれはもう絶対に勝てない。
【ピーター・パン】
クシェル大のお気に入りの作品。
因みにフィールはミュージカル映画がお気に入りで特に主題歌が好き(私も大好きです)、我が家のハー子はシンデレラを押さえて美女と野獣が一番のお気に入りです。
何故美女と野獣なのかは、ハリポタ及びエマさんファンの皆様ならばもうお分かりですよね?
【やって来ました!ビッグ・ベン!】
終盤にして本作最大の見所。
我等が副局長様、序盤で母親と姉にクシェルとの一部始終を見られた恥ずかしさから「穴があったら入りたいぃぃぃぃ!」と叫んで窓から飛び降り「アシクビヲクジキマシター!」やった人とは思えないくらいにロマンチストな一面を見せてくれました。やる時はやる御方です。
余談ですが、色々思い返せば前編・中編の内容がアレなだけに今回だけ物凄い別の話感があった気がします。これ本当に後編なんでしょうか?(←お前が書いたんだろうがと突っ込んでくれて構いません寧ろ突っ込んでください)。