【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
リクエスト内容は「セドリック・ルート」。
今回は【蒼黒】本編や過去に投稿してきたフィール生存世界とはまた違う、5章分岐&生存ルートで発生したパラレルワールドのIFストーリー、です。
時系列としてはホグワーツの戦いから数年後。
それぞれ闇祓いとプロのクィディッチ選手の道に進んだ二人が久々に再会し貴重な休日デートを満喫する、そんな話です(因みに今回はスペシャルゲストであの人達も登場しますよ~)。
ここだけの話、実は(更新した事はありませんが)過去に一度だけセドリックと付き合うIF展開を書いた事があり、まさかこうして再び書く日が来るとは夢にも思っていませんでしたが……同時にそういえばその時からフィールはかなりの受け体質だった事も思い出しました。
あの時は確か、天文台の塔で一度は告白を断られたセドリックが(IF世界線で生きる)フィールの本心を聞いて「押してダメなら更に押せ」精神で柄にもなく狼になって半分手を出し彼女を堕としてからの恋人関係にステップアップと言う、そんな内容だったような……。
本編や別世界で生きるクシェルとリリーが知ったら確実に「野郎、ぶっ殺してやる」精神で次元越えて今度こそバーサーカー・クシェル&クシェルJr.による死者が出ていた事はまず間違いないです(遠い眼)。
ある日のイギリス・ロンドンの街中。
ウェストミンスターに在るトラファルガー広場にフィールは居た。
此処は市内中心部に位置するロンドンで一番有名な公共広場で、周辺にはバッキンガム宮殿やビッグ・ベン、ナショナル・ギャラリーなど、ロンドン主要観光地の中心でもあるこの名所は今日も沢山の観光客で賑わっている。
派手過ぎず地味過ぎず、シンプルだけどオシャレな服装に身を包んだフィールは噴水周りに腰を下ろし、時折腕時計に視線を落としたり、周囲をキョロキョロ見回した。
此処に居る理由は他でもない恋人・セドリックとのデートの待ち合わせ。
現在セドリックはプロのクィディッチ選手として世界大会で大活躍する程の有名人になり、フィールもまた、ホグワーツ卒業後は期待の若手闇祓いとして激務に追われる生活を送る関係上、直接会うのは凄く久し振りだ。
たまに両面鏡で連絡は取り合うものの、お互い多忙な身で普段は仕事やトレーニング、海外遠征や大会などで1日の大半を費やしている二人は疲労の蓄積度合いがとにかく半端じゃないから、会話もそこまで弾まない。
故に今日と明日の貴重なオフの日くらい、仕事の事は忘れて楽しく過ごしてもいいだろう。
特にフィールはセドリックと再会出来るこの2日間は何としてでも連休が取りたくて周囲を心配させる程に根を詰めて奔走した結果、無理が祟って1回マジでぶっ倒れてクシェル達に泣きながら叱られたのは内緒だ。
「ねえ、お姉さん一人?」
「スッゴい美人だよね。良かったら俺らと遊ばない?」
内心ソワソワしながら待っていたら見知らぬ男達に声を掛けられた。
何ともまあベタな展開なのと、此処に来るまでも色んな人間から注目される疲れからフィールは深いタメ息を吐く。
「悪いけど先約があるから。なかったとしてもアンタ等には一ミリも興味無いから。ナンパするなら他を当たって」
「まあまあ、そんな事言わずに……」
「そうそう、俺らと遊ぶ方が絶対楽しいって」
軽く手を振ってあしらっても無粋な輩は一向に立ち去ろうとしない。
ならばこっちが立ち去るかとめんどくさそうに肩を竦めて立ち上がったら、男の一人が無遠慮にも腕を掴んで引き留めてきて、イラッとしたフィールが「野郎、ぶっ飛ばしてやる」と片方の手で拳を作った時、
「俺の彼女に触るな」
パシッ、と男の手を振り払う者が颯爽と現れた。
聞き覚えのあるその声は、フィールが再会を待ち焦がれていた相手のそれ。
セドリック・ディゴリーが彼女の肩を抱いて牽制するようにナンパ男達を睨み付けた。
自分達より背の高いずば抜けたハンサムの鋭い視線と不機嫌オーラ、弾かれた手の痛みに彼らはダラダラと冷や汗が流れる。
反対にフィールは先程まで吊り上げていた目元を和らげた。
「人様の女性に気安く触るのは失礼じゃないのか」
「うぐっ……」
「俺も手荒な真似はしたくない。分かったら早く行ってくれ。今、すぐに」
「ちっ……」
「くそっ……」
低音ボイスでセドリックが忠告すれば、ナンパ男コンビは悔しそうに舌打ちしながらも急いで立ち去った。
体格面で勝る他、そこいらに居る一般人とは訳が違うであろう強い男に無謀にも立ち向かう程、彼らもバカではなかったし、公衆の面前で騒ぎを起こす程非常識でもない。
物分かりの良いモブでなければ、どちらにしろ痛い目に遭っていたのは間違いないだろう。
セドリックがもう少し早く来なければフィールによってぶっ飛ばされ、例えフィールがぶっ飛ばさなくても彼女を愛するセドリックに逆らえば今度はこっちから制裁を喰らっていたのだから。
「ありがとうセドリック。助かったわ」
「掴まれた腕は?」
「痛くないわよ」
「それなら良いんだ」
他の男に掴まれていた彼女の腕を摩ったセドリックは安心したように笑む。
ホグワーツ卒業後、プロ・クィディッチ選手のシーカーになった彼は以前より少年らしさが抜けた精悍な顔立ちをしていた。
身長もまた少し伸び、体つきも学生時代より良くなった為か、ハンサムぶりに磨きが掛かっている。
「改めて……久し振りねセドリック。元気にしてた?」
「元気にしてたよ。君も元気そうで良かった」
ふわりと柔らかく微笑んだフィールはセドリックの胸に頬を寄せ、幸せそうに眼を閉じる。
それだけで理性がインセンディオされたがここでは我慢と全集中でレパロし、ギュッと抱き締めたセドリックは代わりに久しく触れていなかった最愛の恋人のぬくもりと香りを己の気が済むまで堪能した。
「闇祓いの生活にはもう慣れたかい?」
「正式に闇祓いに就任する前から闇の魔法使いとは何度も戦闘してきたから、仕事そのものはそこまで苦じゃないわよ。強いて言えば私やハリー、ロン以外の若手が中々育たないから、その皺寄せが来て休みが滅多に取れないのが嫌ね」
如何にヴォルデモートが滅び平和が訪れようと、犯罪を犯す闇の魔法使いが一人もいなくなる訳ではない。
フィール達の代は甚大な人材不足の影響から入社希望者は全員受け入れ、闇祓いになる為の試験を課したのだが、純粋な気持ちだけで乗り越えられる程、魔法界最難関職業は甘くなく、彼女やハリー除く最終的な合格者は非常に少なかった。
その後、闇祓い局に入ってきた後輩達も初めて目の当たりにする闇祓いの厳しい現実に心がバッキバキに折れ、泣きながら退職する者が後を絶たないのが現実だ。
その一方でフィールとハリーは本人の資質もそうだが、何より実戦経験や死と隣り合わせの経験を一般人よりも多く積んでいた為、闇祓いはまさに天職であった。
ロンは天賦の才を持つ彼女らに比べたら才能面では劣るものの、他ならぬ努力と根性で歯を食い縛って訓練についていき、親友二人と共に一発で試験を乗り越え、今も辞めずに働き続けている。
「だから、貴重な休日の今日と明日は目一杯楽しみましょう。その為にもこの1ヶ月はいつもの倍働いてきたから」
「そうだね。僕も君に会える日をずっと楽しみにしてから、予定通り今日はこうしてデートに行けて嬉しいよ」
「ふふっ……それじゃあ、出掛けましょうか」
仲良く手を繋いだフィールとセドリックは歩き始める。
二人が向かった先はオックスフォードストリート。
年間2億人以上が訪れるヨーロッパで最も人通りが多いストリートであり、全長約2㎞の大通りにデパートやブランドショップ、レストラン、カフェなど300以上の店舗が連なる世界的に有名なショッピング街だ。
ロンドン観光には切っても切れないオススメの人気スポット故、こちらもまた買い物客や観光客で賑わいを見せている。
ただ歩くだけでも楽しい二人はすれ違う人達の嫉妬や羨望が混ざった熱い視線を受けながらも、此処に居る間は何処にでも居る普通のカップルとして、魔法や仕事絡みの事は一切忘れて恋人との
「フィールは何処か行きたい所とかある?」
「特に考えてはいなかったわ。此処は色んな店舗があるから買う物には困らないし、見て回るだけでも普通に楽しいし。強いて言うなら帰る前にスーパー寄って今日と明日の分の食材を纏め買いしたいから、その時は荷物持ち手伝ってくれると嬉しいわ」
「勿論だよ。でも明日はともかく今日はデートした後に作るのは疲れない? 只でさえ最近は忙しかったのに大丈夫?」
「別に平気よ。滅多に取れない二人きりの時間を長く過ごせるんだから。せっかくなら久し振りに私の手作り料理を食べて欲しいわ」
「それなら僕も手伝うよ。二人で一緒に作って一緒に食べよう」
「ん、ありがとう」
「それじゃ、今はとりあえず適当に歩き回って気になったらその都度入店する感じでいいかな?」
このようにセドリックが提案すれば、彼と同じ事を考えていたフィールは「そうしましょうか」と笑って賛成した。
フィールが頷いたのを確認したセドリックは頬を緩ませる。
そして、そんな幸せオーラ全開でデートを始めた美男美女カップルを遠くから見守っている三つの人影があった。
「良い雰囲気じゃない」
「いやあ、甘いわねえ」
「まさに砂糖天国だわ」
クリミア、ソフィア、アリアの姉世代トリオである。
彼女らも今日は全員が休日で最初は三人で遊びに出掛けていたのだが、その途中、偶然にもフィールをトラファルガー広場で見掛け……。
現在は先程のナンパ男コンビのような邪魔者を発見次第、即排除出来るよう1日限りのセドフィル見守り隊を結成し、自分達も二人の邪魔はしないよう、絶妙な距離感を保ってデートの様子を見守っていた。
「何だかコーヒーが欲しくなってきたわね」
「そこのカフェでコーヒー買ってきましょうか?」
「よろしく」
「当分甘い物は要らないわね」
「糖分なだけに?」
「……………」
「……………」
「ちょっと二人共! 急にシ~ンとなって真顔で黙り込むのやめてくれない!? スベったみたいで何か悲しいんだけど!?」
「あ~、え~っと……そんな事無いわ。普通に面白かったわよ、ねえクリミア?」
「え、ええ勿論。あ、アリア。コーヒー買うなら私はホットでお願いするわ」
「あら奇遇ね、私も丁度ホット買うつもりだったわ。温か……美味しいわよねホットコーヒー」
「今慌てて言い直したけど要は思いっ切りスベってるんじゃない! ハア~ごめんなさいねえ、私の寒いダジャレのせいで寒い思いさせてしまって! あ~もうっ、序でに私のもホットで注文頼むわ!」
「サイズは?」
「レギュラーで」
「ソフィアは?」
「同じヤツで!」
「かしこまり~」
そんなやり取りをしつつ、テイクアウトでアリアが購入してくれたホットコーヒーを片手に三人は話し合う。
「私の中のシスコン本能が告げてきた私には分かる。あのナンパ男達の他にもちょっかいを出してくる
「貴女がそこまで断言するのなら間違いないわね」
「最早自分はシスコンですって堂々と明言してるけど敢えてスルーするわ。事実だから」
「ソフィア、アリア。くれぐれも二人には気付かれないようにね」
「貴女にだけは言われたくないわ」
「そうそう。詰まるところこの三人の中で一番ヤバくて危なっかしいのはクリミアなんだから。現にさっきももう少しセドリックが来るの遅れていたら危うく飛び出すところだったんだし」
「私達が抑えていなかったらフィールがボコる以上に酷い目に遭ってたわよ、あの二人組」
「ボーイフレンドでも何でもない不逞な輩が私の妹に気安く触るのが悪いのよ」
いつもならここら辺で「善処するわ」と言いそうなのだが、「あのナンパ男達が悪い」とバッサリ切り捨てたクリミアの眼が据わった顔に「あ~……」とソフィアとアリアは苦笑する。
「クリミアの眼……完全に年頃の娘を持つ父親のそれね」
「ぶっちゃけクリミアって、彼女を家族として愛してるのかそれとも別の意味で愛してるのか、たまに分からなくなるわ」
「或いはその両方だったりして」
「……何か私、パラレルワールドのクリミアが犯罪者レベルのヤバい人間になっていないか、そろそろ本気で心配になってきたわ」
「そんな事……ないとは言い切れないわね」
「フィールと過ごした時間が一番長い且つ、フィールのご両親とお姉さんが亡くなってから数年前まで基本的に二人暮らしだったから、距離感が近過ぎて無意識に愛情の境界線があやふやになってるのかもね」
「所謂ヤンデレと言うヤツかしら?」
「またの名をクシェル化現象とも言う」
「いや寧ろその逆でクシェルはクリミアの妹ラブ
「何そのゾンビに噛まれたら新たなゾンビになるゾンビ映画あるあるの展開は」
「私達もその内感染してクシェル並みにあの子にメロメロになったりして」
「今でも十分妹のように可愛がってるのにあのクシェルと同レベになったらどうするのよ」
「その時はクリミアに責任転嫁と言う事で」
このように違う世界線のクリミアが妹ラブ過ぎて危険人物になっていないかなど、つい心配になってしまったソフィアとアリアがヒソヒソと冗談混じりに会話していたら、
「そこ二人! 聞こえてるわよ!」
親友二人からの散々な言われように平時は優しい目元を吊り上げ、色んな意味で顔を真っ赤にさせたクリミアによる強烈なデコピンを喰らった。
「幾らシスコンでも私があの子に手を出す訳ないでしょう!?」
「てか妹ラブ菌って何!? 人をゾンビ呼ばわりしてるんじゃないわよ?!」
器用に小声で怒鳴るちょっとした離れ業を披露した彼女をソフィアとアリアは痛む額を摩りつつ、「ごめんごめん」と半ばからかうように笑いながら軽い感じで謝る。
その二人もまた、この人混みの中+デート中とは言え、気配察知に長けたフィールでさえ気付かない程に己の気配を周囲と上手く同化させた上でコントしながら適度な距離感をキープし続けると言う、地味に凄い芸当をさらっとやってのけていた。
「お喋りはこの辺にして……二人共。早速獲物を見付けたわよ」
見れば、少し離れた先に広場でフィールに声を掛けたナンパ男コンビとは違う男二人組が彼女を熱い眼差しで見つめていた。
「なあ、あの黒髪の女の人、めっちゃ美人じゃね? モデルかスターかな?」
「でもあんな人、雑誌やテレビで見た事ないぜ。せっかくの美貌なのに勿体無いよな」
「俺、思い切ってアタックしてこようかな」
「でも隣のハンサムなヤツ、絶対彼氏だろ? やめといた方が身の為じゃないか?」
「いや、ワンチャン兄妹の可能性もあるからここは勇気を出して―――」
二人の内、一人が一縷の望みを掛けて一歩を踏み出した瞬間。
「は~い、そこのイケてるお兄さん。何処へ行くつもりかしら?」
ガシッ、と肩を掴まれ、振り向けばそこにはとてもとても素晴らしい笑顔を浮かべ、しかしその実眼は完全にハンターのそれになっているクリミアが高速移動で男達の背後に立っていた。
その両脇にはソフィアとアリアが居て、何故かは知らないが本能的に危機感を覚えた男達が固まっていると、スン……と急に真顔になったクリミアが口を開く。
「見て分からない? あの子、今デート中なのよ。久し振りに再会した恋人と滅多に無い楽しい時間を過ごしてるのに、そこへ貴方達部外者が割り込んで邪魔しようなら許さないわよ」
「な、何なんだよお前はっ」
「通りすがりのあの子の姉よ」
「でもって私達は姉2と3」
「悪い事は言わないわ。お連れの方が言ってたようにあの子にナンパするのはやめといた方が身の為よ」
「私達も出来れば大事にはしたくないのよね。だからナンパは諦めて大人しく何処かへ行くのなら何もしないわ。ただしノーと答えれば……分かるわよね?」
スッと細められたクリミアの暗殺者のような眼光を捉えた瞬間、何故かは知らないが男達はデジャブを感じ、本能が逆らったら絶対アカンヤツだと、早く逃げろと心身に警鐘が鳴らされた。
「理解したのなら3秒以内にハイかイエスで答えなさい」
それ、どっちも拒否権なくない?
と、ソフィアとアリアが心の中でツッコミを入れた瞬間、
「は、はいいいいぃぃぃぃッ!!」
地獄へのカウントダウンを言い渡された男達は形振り構わずダッシュで逃げ去った。
男達には分かる。
ノーと返答したら確実に三人……特に真ん中の女性からボッコボコにされていたと、危機本能中の危機本能が全力でそう告げてきた。
だからこそ全速力で逃げる。生き延びる為に。
観光客や買い物客が何事かと混乱した様子で疾走する男達の背中を見送る中、クリミアは効果音が付きそうな程のドヤ顔で腕組みしながら勝ち誇った笑みを浮かべ、そんな彼女の満足そうな表情にマブ二人は顔を見合わせ、
「クリミアのあの笑顔……まさしくヴィランね」
「これがマグル界なら今頃は
「何か今、セクシーな衣装に身を包んだクリミアが四つん這いになった人間椅子の背中に足を組んで座って『女王様とお呼び!』と鞭を片手に決めセリフ言ったり、ボロボロになって完全敗北した勇者を前に蠱惑的な笑顔で見下す様が脳内映像で頭に流れてきたんだけど」
「何その過激描写が売りのSM映画に出てきそうな際どい演出は」
「おっとりした癒し系に見せ掛けてその実裏では夜のクラブのお姉さんの顔を持つ隠れドSの女王様ね」
「あれ今ならクリミア、それ系の映画に出演すれば大ヒットして今より儲かるんじゃないのかしら?」
シスコンゾンビからのヴィラン女王にシフトチェンジして冗談を交えた話題で盛り上がっていたら、
「だからそこ二人! 聞こえてるわよ!」
本日二度目の強烈なデコピンを受けた。
「貴女達、さっきから黙って聞いてればゾンビだのヴィランだの女王様だの好き勝手言いまくって……。そこまで言うのなら後でお望み通り、ゾンビになり切って首筋に噛み付くか、
半分は冗談、もう半分は割りと本気でクリミアはとびきりの笑顔を浮かべて見せる。
しかしその実二人を見据える眼は8割方マジのヤツだった。
「だからそれ、どっちも拒否権なくない?」
「悪かった、からかい過ぎたのは謝るから」
「問答無用。どうせまた後で弄ってくるのは分かってるのよ」
「「あっ、やっぱりバレた?」」
「よし貴女達、帰ったら覚悟しなさい。躊躇い無く『女王様』と言えるくらいみっちり躾てあげるから。ああ、お望みなら貴女方の好みに合わせた衣装に着替えた上で心身に叩き込んでもいいわよ?」
誰よ学生時代彼女を
そいつのせいで10年程前のハッフルパフ寮は彼女によって制圧され、全員が調教済みで「女王様!」「もっと叩いてください!」と恍惚とした表情で崇める、そんな正しく忠実なハッフルパフのハの字も掠めない光景が目に浮かんだ二人は、例えそれが想像であっても「ハハッ……」と乾いた笑みを浮かべる。
とは言えクリミアをとことん弄り倒すのはこれからもやめないのがソフィアとアリアで、柄にもなくクリミアがこうした冗談にノリ良く付き合うのも、フィール達家族でさえ知らない素の一面を見せられるのも、気心知れた彼女達が相手だからこそだ。
今も昔もクリミアが姉や模範生としてではなく一個人として本音でバカ言い合えるマブはただ二人、ソフィアとアリアだけである。
✡️
一方、姉世代トリオが陰で邪魔者達を排除してくれている事は露程も知らないフィールとセドリックは彼女らの努力の甲斐もあってデートを満喫した。
はぐれないように手は握ったまま、色んな店でショッピングを楽しんだり、昼にはカフェのテラス席で一息ついたり、普段滅多に会えない分、貴重なお出掛け時間を大事にして過ごしていたのだが、何処に行ってもやっかみを受けてしまうのは美形の恋人を持つ身としての宿命で。
「ちょっとあんた、いいかしら?」
現在、最後にスーパーに寄って帰る前に化粧室に来ていたフィールは同い年くらいの女性数人に引き留められていた。
全員が流行りの服に身を包んで髪型も服装と同じくオシャレにセットし、バッチリ化粧も決めている。
顔立ちも決して悪くないのだが、偉そうに腕組みし、威圧感を出してこちらを睨んでくるせいか、せっかくの可愛らしさが台無しであった。
そんな彼女らが何を言ってくるのか、粗方予想がついてるフィールは眼を細める。
「……何の用?」
「あんた、さっきまで一緒に居たハンサムとはどういう関係なの?」
「訊いたところでどうするの? 初対面の貴女方には関係無くない?」
質問に対する質問での返答。
女性達は集団でも一切動じないフィールの態度にカチンと来た。
「正直に答えない。彼とはどういう関係なのよ。家族? それとも恋人?」
本当にめんどくさいヤツ等だな、とタメ息を吐いたフィールが「恋人だと言ったらどうなのよ?」と若干イラついたトーンで問い掛ければ、
「私達、あんたに彼のガールフレンドは似合わないと思うのよね」
真ん中に居たリーダー格と思わしき女性がズバリそう言った。
他の女性達も「そうよね」「どう考えたって不釣り合いだし」とウンウンと頷く。
またか、とフィールは何度目か分からない手合いに肩を竦めた。
彼女はその容姿から異性にナンパされる程だが、同時に同性からはセドリックと言うハイスペック彼氏を持ってる事と相まって妬み嫉みを買いやすい為、こうしたやっかみを受ける事も屡々だ。これが初めてではない。
「悪いけど、その手の話には一切興味ないのよね。私は私の事を大切に想ってくれる素敵で誠実な男の恋人で幸せだから。見ず知らずの人間にどうこう言われて悩んだりする程、私も今は後ろ向きじゃないし、惚れた男を手放す気は更々無い。てか、いつも思うのだけれど……わざわざ追い掛けてまでそんなくだらない事を言ってくるなんて、よっぽどの暇人なのね、貴女方や歴代のストーカーズは」
じゃ、またね、と言いたい事だけ言ってさっさと歩き出したフィールは、最早慣れた様子で女性達には目もくれずに後ろ向きで手を振りながら化粧室を後にし、購入したショップ袋を持って待ってくれていたセドリックの元へ行く。
「ごめんなさいセドリック。遅れてしまって」
「僕は全然大丈夫だけど……何かあったのかい?」
「別に大した事じゃないわ。少し混んでただけだから」
微笑して適当に誤魔化したフィールは「持っててくれてありがとう」と自分の荷物を受け取る。
眼を細めたセドリックは「そうか」と頷いて特に詮索はしなかったが、彼女の言葉が嘘である事くらい彼にはお見通しだった。
しかしここでそれを口にしてしまえば、楽しい気分のままデートを終えたいと言う彼女の気遣いを無駄にしてしまう。
その事を理解しているからこそ、セドリックは敢えて今は何も言わずに彼女の嘘に付き合った。
その頃、悪口言われても全く気にしない様子で颯爽と立ち去ったフィールに女性達は地団駄を踏んでいた。
「何よ、何よ。あの女、ちょっと顔が良いからって調子乗って……」
「こうなったら何としてでもあの女から奪ってや―――」
故に気付かない。気付いていない。
彼女らの背後に、獲物を見付けた肉食動物の如く獰猛な輝きを以て見据える女が立っている事にも気付かずに。
「は~い、そこの綺麗なお姉さん達。面白い話をしてるわねえ。その話、私も混ぜてもっと詳しく聞かせてくれないかしら?」
ビクゥッ! と女性達は揃って全身を震わせた。
聞く者の芯まで凍り付かせる、そんな響きを孕んだ冷たい声音。
本当は振り向きたくないが、振り向かなければ却って何をされるか分からない。
油の効いていないブリキ人形のようにぎこちない首の動かし方で恐る恐る振り返って見れば、紛う事無き姉世代トリオ……もっと言えばクリミアがうっすらとこめかみに青筋を立ててとても素晴らしい怖い笑顔で見下ろしていた。
「迂闊だったわ。まさか帰る直前になってあの子に絡む連中が現れるなんて……。デート中にナンパを仕掛けようとするバカがいるなら、化粧室に追い掛けてまで突っ掛かるバカがいる事も頭に入れておくべきだったわね。ああもうっ、タイムターナーがあったら今すぐ数分前に戻って過去の自分をぶん殴りたいわ」
「さあそろそろ私達も帰りましょうかって時に急にクリミアがUターンするものだからビックリしたけど……貴女さては人間ではないわね?」
「1マイル先のあの子の悪口を聞き逃さない私の聴力を舐めるんじゃないわよ」
「貴女は何処の伝説騎士団団長ですか?」
冗談を交わす彼女らの顔は笑っているのにその眼は一切笑っていない。
それが恐ろしくて女性達は冷や汗ダラダラ、身体はガクガクブルブルの人間バイブレーター状態に陥っていた。
何処ぞのクローゼットの中に隠れてガタガタ震えてガタガタ言っているマナーモード人間と良い勝負である。
「さぁて、お姉さん方。今私、何処かの誰かさん達のせいでスッッッゴく気が昂っているのよねえ。だから……どうか鎮めさせてくれるかしら?」
―――あ、これ終わったな。
本日最後にして最大のクリミアの暗殺者の如きマジの視線を見た瞬間、ソフィアとアリア、そして女性達が遠い眼になったのと同じタイミングで彼女の笑顔にヴィラン味が更に増した。
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デートを終え、ベルンカステル城に帰って来たフィールとセドリックは二人で作った夕食を食べて入浴を済ませると前者の自室で寛いでいた。
「今日はありがとう。予定通りデートも出来て、一緒に夕食も作ったりしてとても楽しかったわ」
「僕も久し振りにフィールと出掛けられて凄い楽しかったよ」
正確にはベッドに座った状態で後ろから包み込まれる形でセドリックに抱き締められ、フィールは己の体重を預ける形でもたれ掛かっていた。
二人は暫く今日のデートの話題で花を咲かせていたのだが、「あのさ」とタイミングを見計らってセドリックが気になってた事を尋ねる。
「帰る前に寄った化粧室で戻って来るのが遅かった理由……本当は混雑していたからじゃないだろ?」
「あ~……やっぱりバレた?」
「まあね。あの時はデート中だったから敢えて口には出さなかったけど……今回は何を言われた?」
「いつもと大して変わらないわ。私にセドリックの恋人は似合わないとか不釣り合いとか、そういうセリフばっかり」
「その人達には何か言い返したのか?」
「勿論。『私は私の事を大切に想ってくれる素敵で誠実な男の恋人で幸せ』だってね。あとは『惚れた男を手放す気は更々無い』とも」
その言葉にセドリックは嬉しそうにフィールを抱き締める腕に力を加える。尻尾が付いていたらブンブン振ってそうな様子に彼女は笑った。
「……フィールがそう言ってくれるようになって本当に嬉しいよ」
「昔の私であればここらで自虐的な事を言ってただろうから?」
「否定はしない……かな。まあ、昔と今では状況が全然違うけどさ」
「今となってはこうしてヴォルデモートの脅威に怯える必要が無くなって、平穏な生活を送れるとは思ってもいなかったしね。当時はセドリックとの交際もセドリックのご家族……もっと言えばエイモスさんには物凄い反対されたし、ヴォルデモート陣営が壊滅した後も私が闇祓いになると聞いた時はあまり良い顔はしなかったし」
セドリックの父・エイモスは良くも悪くも息子を溺愛する子煩悩な親だ。
故にヴォルデモートが猛威を振るっていた時期はフィールとの交際を猛反対したのだが、当時フィールはハリーと並んで闇陣営から狙われていた身。
その彼女の恋人ともなれば無関係の息子まで目を付けられるのではないかと心配するのは親として当然だから無理もなかった。
ヴォルデモートが滅んだ後は以前のように全面的に否定はしないものの、今は職業柄、犯罪者から恨みを買いやすい立場にいるから、それはそれで息子にまで危害が及ぶのではないかと懸念している。
母親の方は「息子が選んだ女性ならそれ相応の人なんでしょう」と当初から夫程反対はせず後押ししてくれたが、エイモスの方は今でもアスリートである息子の恋人ならそれに相応しい女性として付き合って欲しい、と自身が理想とする「自慢の息子のパートナー」を望んでいるのは否定出来ない。
その内心では、殉職率が高い闇祓いに就いているフィールが明日にでも任務で死んでしまってセドリックに悲しい思いはさせて欲しくない、彼女自身殉職とまでは行かずとも後遺症が残る身体になって欲しくない、と言うエイモスなりの心配の念があるのだが、何分今まで猛反対していた負い目もあって素直に伝えられずにいた。
「フィールは今後も闇祓いを続けるのかい?」
「若手ベテラン含めた闇祓いが数少ない以上、現時点ではそう簡単に辞められないからもう暫くは続けるつもり。主戦力となる魔法使いの殆どは前の戦いで死んでしまったし、今は私達がこの国の秩序と平和を守らないとダメだから」
でもある程度人数が増えたら国際スポーツ大会を主としたイベント警備に部署異動して、そういう意味でセドリックのサポートに専念したいと考えてるわ、とフィールは言う。
「そっちの方が今より会う機会も増えるし、何より大好きな恋人が活躍している大会を陰ながら支えているのだと思うと……何かあった時にはすぐ駆け付けられて傍で守れるのだと思うと、これ以上無いくらいに遣り甲斐を感じられ―――」
そこでフィールの言葉は途切れた。
彼女の言葉が嬉しいあまり、喜びが抑え切れなくなったセドリックが不意打ちで口付けをしてきたからだ。
一瞬眼を見開いたフィールだったが、すぐに眼を閉じキスを受け入れる。
軈て気が済んだセドリックはゆっくりと唇を離すと改めて愛する彼女を優しく抱擁した。
「……ありがとうフィール。フィールの恋人になれて心の底から良かったって思うよ。もう絶対幸せにするから。何があっても手離さないから」
「今でも十分過ぎるくらい幸せだし、そういうのはどちらか一方だけがするんじゃなくてお互いに築いていくものでしょう? 私はあなたと共に幸せになりたいのよ、セドリック」
あれ僕は今夢を見てるのかな?
と、思わず錯覚する程にふわふわとした幸福感に満たされたセドリックの気の抜けた隙に、体勢を変えたフィールは前に全体重を掛けて自分より大きく逞しい身体を押し倒す。
「……フィール……?」
ギシッ……とスプリングの軋む音が静かに響き、ベッドに身体が深く沈む。
驚きでセドリックが眼を見張ると、先程のキスで熱くなった頬を更に紅くさせたフィールのトロンと熱で潤んだ蒼い瞳が、穏やかで落ち着いた色合いのグレーの瞳を捉えた。
「……先に仕掛けてきたのはそっちだし、私自身、もうそろそろ我慢出来ないから。たまには……私の方から、あなたを愛し尽くしてもいいでしょう?」
その分、後で私の事も同じくらい愛し尽くしてくれたら嬉しい……とフィールが恥ずかしそうにしながらもそうお願いすれば、愛くるしい彼女の悩ましげな表情や甘く掠れた声にセドリックは今日一番理性がボンバーダ・マキシマされた。
「今夜はあなたに全てを捧げるから。あなたの望むもの、全部あげるから。私にあなたを感じさせて。……私の事、最後まで愛し尽くして」
「勿論。……愛してる、フィール」
「……私もよ、セドリック」
互いに愛の言葉を交わし、服を脱いだ二人は再び唇を重ね、手始めに深いキスを堪能する。
愛する人から受けるぬくもりと愛情は、これ以上無いくらいに互いの身も心も幸せな気分で満たしてくれた。
✡️
その頃、フィールに絡んでいたマグルの女性達はあの後どうなったかと言うと、
「待ちなさいっ、あの子の幸せをぶち壊しにするような輩は許さないわよ!! 逃げようたってそうはいかないんだから観念して大人しくやられなさい!!!」
「いやぁああああああああああああッ!! ご、ごめんなさぃいいいいいいいいいいいッ!!」
「あ~あ……おマヌケさん達、完全に怒らせてはいけない人を怒らせてしまったわねえ」
「これ端から見たらまさしく補食対象の新鮮な肉を求めて追い掛けるゾンビじゃない?」
「ねえソフィア、私達いつの間にゾンビ映画に出演してたのかしら。何処かその辺にカメラマンでもいた?」
「いやカメラマンはきっと私達の走るスピードについていけなくてへばってるに違いないわ」
「あら残念、どうせなら後でギャラ貰いたかったのに。それにしてもついてない子達よね。他人のイケメン彼氏を奪おうと目論んだらリアル鬼ごっこを体験する羽目になったんだから。ま、自業自得ね」
「超ド級の妹ラブなシスコンゾンビさんにターゲットロックオンされたからには彼女の視界から消えない限りどこまでも追い掛けてくるから、死にたくなければ全力で逃げなさ~い」
ある者は怒り、ある者は呆れ、またある者は笑いながらゾンビの如く執拗に迫る姉世代トリオの猛追から泣き叫んで死ぬ気で逃げ回っていた。
【別世界のクシェルとリリーの反応】
クシェル「アァアアアアアア!! ディゴリーめ!! ディゴリーめ!! ディゴリーめぇええええ!!!」
リリー「クシェルさん!! 今すぐ全ての次元のセドリック・ディゴリーを一人残らず駆逐しに行きますよ!!」
クシェル「言われなくても分かってるわボケぇ!! 何処ぞのシューティングスターの如く全員撃ち堕としてくれるわ!!」
ハーミー「ギャアアアアア!! マズいわ今世紀最恐のコンビが最悪のタッグを組んでしまったわよ!!」
ロン「もうダメだぁ! この世の終わりだぁ!」
ハリー「セドリック逃げて! 超逃げて! ウルトラスーパーベリベリ逃げて!」
【姉世代トリオ大集合】
さらっと登場したけど本編では戦死したソフィアとアリアもこの世界では存命。
IF世界線とは言え生きてる状態で三人揃って登場したのは#114以来……実に約3年ぶりです。
【クリミア「女王様とお呼び!」】
この時私の頭に浮かんでいたヴィラン・クリミアのイメージはゼルダ無双のシア。
【エイモス・ディゴリー】
個人的にセドリックと交際、結婚となればセドリック本人に問題は無くても破談したり離婚するタイプで、その原因は姑より舅となりそう。
セドリックとお付き合いとなればあの息子溺愛系父親に認められないといけないのは避けては通れない道だろうし、息子が変な女に騙されてないかちょ~~~厳しく審査してきそうだし。
セドリックが味方になってくれたらいいけど良くも悪くも優しいから強く反発は出来ないだろうし、最初は認めて貰う為に努力を重ねても何かと理由付けてはダメ出し喰らってその内頑張る事に疲れてしまうと言うか、認めて貰う事そのものに意味を成さなくなって「何かもう、いっかなって」となりそう。
【今夜はあなたに全てを捧げます】
たまにはフィールの方が攻め体質で積極的な所を書きたいと思い、最終的に落ち着いたカクテル言葉もといサブタイトルとなったカクテルがシェリー。
クシェルの時とはまた違うフィールを魅せる事が出来たら嬉しい限りです。