【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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クシェル、フィールに訓練依頼&年上組のホグズミード訪問。


#14.ホグズミード週末

「強くして欲しい?」

 

 翌日のスリザリン寮・女子部屋。

 黒髪蒼眼の少女は、茶髪翠眼の少女からの意外な依頼に青のだて眼鏡と長めの前髪の下に隠された綺麗な顔に驚きを露にした。

 

「うん………だってフィー、ハロウィーンの日にトロールと対峙しても、貴女だけは全然怖がらなかったじゃん。それに、一人だけであっさり倒しちゃったし………」

「だからと言って、それが『強くして欲しい』という論理にはならないだろ。なんで、そんなことを私に頼むんだ?」

 

 まずは動機を教えろ。

 そういうのは一言も口にしないが、いつになくフィールが放ってくる真剣な空気から、クシェルはビシバシと肌で圧迫感を感じ取る。

 クシェルはレンズ越しから、フィールの蒼い両眼を強い翠瞳で見返した。

 

「あの時、私、グレンジャーと一緒にトロールに追い詰められて………せめて、グレンジャーだけでも助かればいいって、死ぬのを覚悟した。……でも、いざ殺されるんだなって思うと、一気に怖くなって………フィーが助けに来なかったらって思うと、今でもゾッとする」

 

 それに、と。

 屈辱と恐怖に、クシェルは可愛い顔を歪めた。

 

「昨日の夜、グリフィンドールの男子達に襲われそうになって………手も足も出なかった自分が情けなくて………もう助からないって諦めたのが、凄く悔しかった」

 

 今になって、生まれて初めて『死』の単語が脳裏を過った瞬間と、危うく猥褻行為をされそうになったおぞましさが甦ってきた。

 それらの出来事に直面した際、危険を顧みず救済してくれたある人物が居なければ、今頃どうなっていたかわからない。

 そして、その救世主は―――目の前に居る。

 後者の事件に関しては、下手な芝居で正体を隠して見破られても尚しらばっくれるような彼女のことだから「違う」と否定するだろうが………。

 だがしかし、助けてくれたことは紛れもない事実だ。それだけは変わらない。

 

「だからさ………お願い。私を強くして」

 

 ガバッ、と身体を折り曲げるクシェル。

 しかしこれほど熱心なクシェルにも、フィールは冷ややかな口調を崩さない。

 

「私は指導員なんかに向いていないぞ。そういうのは教師にでも頼め。フリットウィック先生はどうだ? 若い頃は決闘チャンピオンだったらしいぞ。事情を説明すれば、簡単な防衛呪文くらいは教えてくれるんじゃないか?」

「教師じゃなくて、フィーに頼みたいの」

「………いいから、私じゃない誰かにしろ」

「イヤだ! フィーがOKしてくれるまで止めない!」

 

 クシェルは絶対に動かない、と決意の表情で続けた。

 

「言い忘れてたけどさ………昨夜、私を襲おうとした男子数人、本当はフィーを狙ってたけど、予定変更したって、言ってた」

「だったら尚更私に関わろうとするなよ。ホグワーツ中の人間から嫌われている私に関わるから、アンタはあんな目に遭ったんだぞ」

 

 初耳のフィールは僅かに眼を丸くしつつ、クシェルを突き放すように言い放った。

 しかし、クシェルは首を横に振る。

 

「フィーは、自分と関わってまたあの人達が何かしらのアクションを起こしてきたら困るって思ってるんでしょ? だったら、本当にそうならないように近くに置いて」

 

 そのことはクシェルにも察しがついていた。詳しいことを聞かなくても、そのぐらいわかる。

 けど………だからと言って、フィールと引き離されたくない。

 そうなれば、間接的にアイツらに屈したことになるからだ。

 

「私、今のままじゃ、確実にダメだって思う。あの時だって、自分がちょっとでも強かったら、少しは何か出来たかもしれないのに………結局は何にも出来なくて、貴女に助けて貰った。だけど助けられっぱなしはイヤだよ。私だって誰かを助けられるようになりたい。そのためなら、何だってするよ」

 

 フィールは困った表情を浮かべる。

 クシェルの本気度はその言動でちゃんと伝わってきたし、流石に二度も危機に陥れば誰だってそう抱懐するだろう。最低限、自分の身は自分で護れるくらいの実力者になりたいのは、かつて同じ想いを抱いたことがあるフィールには痛いくらいわかる。

 

 何もクシェルのことが気に入らないとか、冗談半分で依頼してるんだと捉えている理由で断っているのではなく、フィールも本心ではクシェルの気持ちを汲んでやりたいが。

 本来だったら自分がアイツらに拉致されていたと聞いて、また何らかの手段でクシェルを傷付ける可能性があると思うと、自分は極力傍に居ない方が最善策であり彼女の身になるのではないだろうかとも考えられるのだ。

 

 フィールの心が私情と冷徹の間で揺れる。

 個人的にはクシェルの頼みを受け入れてあげたい。魔法だけでなく護身術も教えれば、昨晩みたいなことが今後発生する確率は低くなる。

 けど………それでもやはり、クシェルとはあまり関わりを持たなければよいのではないかという考えが、どうしてもちらつく。

 結論が出ない思考にフィールが囚われていると―――クシェルは肩を落として謝ってきた。

 

「………なんて、こんなこと、いきなり言われたって困るよね。ごめん、しつこく頼んで。フィーの言う通り、先生にお願いしてみるよ」

 

 一回寮から出て頭を冷やしてくるね、とクシェルはドアに向かって歩き出す。

 そうして、扉を開けようとした時―――。

 

「………え?」

 

 後ろから白い手が伸びてきて、クシェルの手の甲にそっと重なった。冷たくも温かい掌の感触が右手を優しく包み込む。

 

「おい、待て。行くな」

 

 引き留めるフィールの声が耳に入る。

 その姿勢のままクシェルは固まった。

 

「アンタって、ホント、どんなに冷たくもあしらったってめげないよな。どこまでもしつこくアプローチしてくる。………出会った当初はスッゴい鬱陶しかったってのに、今となってはアンタのアプローチが日常的だと思わされるくらい、アンタの存在は私の心を占めてんだ」

 

 ハア、と一つため息をついて。

 苦悩の末にフィールは一つの答えを提示する。

 

「アンタの頼み、今回は特別に了承してやる。その代わり、一つ約束しろ。―――黙って私の前から居なくなるなよ。アンタが話し掛けてこない学校生活とか、静か過ぎて気味が悪いから。………私の心を散々掻き乱してくるんだ。責任取れよ」

 

 フィールに背中を向けている状態のクシェルは大きく眼を見開かせていた。あの彼女がこんな発言をするなんて、想像がつかないからだ。

 数秒間、クシェルは呆気に取られる。

 頭が追い付かなくてフリーズしていると、ハッとしてフィールが慌ててこう付け足した。

 

「なんて、柄にもないこと言ったな。今のは忘れてくれな―――」

 

 が、次の瞬間。

 やっとフィールの言葉を上手く飲み込んだクシェルが物凄い速さで振り返り、そして満面の笑顔を浮かべた。

 

「………なんだよ」

 

 言い切る前に遮られたのを忘れて怪訝な面持ちで睨むと、

 

「ふふっ………いや、なんか、フィーがツンデレで可愛いなって。あ、でもツンデレより、クーデレって表現が正しいかもね」

 

 とクシェルに言われた。

 フィールはツンデレとかクーデレとか言う単語の意味がよくわからず、キョトンとする。

 だが………「可愛い」と他人から言われるのにはあまり慣れてないフィールは若干戸惑い、それをクシェルに悟られたくなくて、プイッと顔を逸らした。

 

「………ああ、そう」

「あれれ? もしかして照れてるの?」

「別に照れてない」

「じゃあ、なんで顔逸らしたの?」

「別に何でもない」

「なら、顔見せて?」

「断る」

 

 フィールはローブを翻し、背中を見せる。

 クシェルはニヤリと、イタズラっ子な笑みを浮かべた。

 

 その後、椅子に腰掛けて足を組み腕を組んでプイッと顔を背けるフィールと、ニヤニヤが止まらず柔らかい頬をぷにぷにとつつきながらからかうクシェルのやり取りはしばらく続いたのだった。

 

♦️

 

 ホグズミード村。

 そこはイギリス魔法界で唯一、完全にマグルが居ない村だ。ホグワーツの近くにあり、ホグズミード村に行くことが許可される週末(土曜日)に訪問出来るのは、ホグズミード許可証に両親か保護者からの同意署名を貰った3年生以上の学生のみである。

 クィディッチ初戦から数週間が経過し、クリスマスシーズンの12月に突入した第一土曜日の今日、ホグズミードに訪問許可が下りたホグワーツ上級生達は防寒具に身を包み、辺り一面銀世界の村へはしゃぎながら遊びに行く。

 ハッフルパフ4年の女生徒、クリミアとソフィアは校門を出て左に曲がった道を真っ直ぐ歩いていき、中心街のハイストリート通りに到着した。

 大方の店はこの通り沿いに建てられており、中でも沢山のお菓子が売られている『ハニーデュークス』と魔法界では人気の飲料・バタービールが飲める『三本の箒』は、先生方も訪れるほどの人気店だ。

 

「さて、何処から行きましょうか」

「まずはバタービールでも飲みに行かない? それから色んなお店を見て回りましょ」

「それもそうね」

 

 と言うことで、二人は三本の箒に訪れた。

 店内は既に多くの客で賑わっており、ちらほらと顔見知りだったりそうでなかったりのホグワーツ生の集団も見受けられる。

 クリミアとソフィアはカウンター席に座り、小粋な顔をした脚線美のバーテン、マダム・ロスメルタにバタービールを注文する。マダム・ロスメルタは手際よくバタービールをジョッキに注ぎ、二人の前に出す。

 二人はジョッキを手にすると、

 

「「乾杯」」

 

 と、ジョッキをカチンと鳴らし合い、口をつけて傾けた。

 

「あー、身体の芯まで温まる~」

「寒い冬には欠かせないわよね」

 

 冷えた身体が温まり、二人は頬を緩ませる。

 そうしてちびちびとバタービールを飲んで談笑していたら、

 

「あら? もしかして、クリミアとソフィア?」

 

 と、聞き慣れた女子学生の声が耳を打った。

 二人は後ろに振り向く。

 案の定、アンジェリーナが立っていた。

 側には同級生のアリシアが居る。

 

「奇遇ね、此処で会うなんて」

「私達もよ。初めてホグズミードに行くから、何処がオススメかオリバーに訊いてみて、『最初に行くとしたら三本の箒はどうだ? 彼処は広くて暖かいし、お前らが飲みたがってたバタービールが飲めるぞ』って勧められたのよね」

 

 アンジェリーナとアリシアはスツールに座り、マダム・ロスメルタに「バタービールをお願いします」とオーダーする。

 

「私達が今飲んでるこれがそのバタービールよ」

 

 ソフィアが言いながら、手に取って見せる。

 

「わあっ、美味しそう」

「本当にビールみたいね」

 

 二人はお目当ての泡立った飲み物にキラキラと瞳を輝かせる。

 そうこうしている内にバタービールが入った大型コップがカウンターテーブルに出され、パアッと明るい笑顔を浮かべる。

 そして取っ手を掴むと、早速喉に通した。

 

「美味しい!」

「これはハマるわね」

 

 甘美でホットな飲み物を嚥下して即気に入った二人は無邪気に笑う。

 そんな後輩二人に、先輩二人はフッと笑みを溢し、残りのバタービールを飲み干す。

 

「アリシア、口元に泡がついてるわよ」

 

 クリミアは紙ナプキンでアリシアの口の周りを拭う。アリシアは恥ずかしそうに笑った。

 その手慣れた動作に、アンジェリーナは感心したような眼になる。

 

「随分手際がいいわね。貴女って、たまに本物のお姉さんみたいだなって思うわよ。いや、普段から穏やかで優しいお姉さん的な存在だとは思ってるけど、それとはまたなんか違うっていうか、こう、何て言うのかしら。年下の扱いにはスゴい慣れてるっていうか」

 

 何気無く呟いたアンジェリーナの言葉に、クリミアは内心ギクッとする。

 クリミアがこういった物事をスムーズにこなせるのは、ひとえに血の繋がりがない家族の中で自分より小さな子の面倒を見慣れてきたからだ。

 そしてその家族の一人はホグワーツに居る。

 現在何をしているかはわからないが、まあ大方予想はつく。

 それはそうと、クリミアはアンジェリーナの発言にどう返答するか困っていると―――見かねたソフィアが咄嗟に助け舟を出してくれた。

 

「あ、アンジェリーナもそう感じる? 私もそう感じてるわ。いつも一緒に居るから知ってるんだけど、クリミアはよく後輩の面倒を見ているわ。そういう環境下に置かれたから自然と慣れたんだろうけど、それを差し引いてでもクリミアが皆からお姉さん的存在として慕われてるってことは、それってやっぱり、優しくて頼りがいがあるお姉さん像って認識されてるからよね」

 

 ソフィアの言葉に、二人は大きく頷く。

 

「確かにそうよね。仮に姉を持てるとしたら、クリミアみたいな人が理想的よね」

「才色兼備で温厚な性格、家事全般こなせて包容力もある。こんなにも完璧な姉がいたら、逆に劣等感を抱くと思うけどね」

 

 なんて言いながら、二人は再び飲み始める。

 どうやら、あの事について深入りされずに済んだようだ。

 クリミアは内心ホッとしつつ、二人には聞こえない声でソフィアに感謝した。

 

「ありがとう、ソフィア、助かったわ」

「どういたしまして。あのまま二人が貴女の『義妹』について思い出されたら、面倒事になるのは私もわかってるし」

 

 クリミアの義妹―――フィールはホグワーツから除け者にされている。

 その彼女が数年前ホグワーツで話題沸騰となったクリミアの義妹だと皆の耳に行き渡れば、ソフィアの言う通り、面倒なことになるのはまず間違いないだろう。

 

「それにしても………まさか、これほどまでに皆があの娘を嫌うなんてねえ。無愛想で一見冷たそうってのはまあ否定しないけど、何だかんだ言っても根は凄く優しいのにね」

 

 ソフィアは思わずといった感じに呟く。

 すると、クリミアがポンポンと頭を軽く叩いて笑みを見せた。

 

「貴女がフィールのことをそう思ってくれるだけでも、あの娘は嬉しいはずよ。ありがとう、フィールを大切にしてくれて。フィールもソフィアのことは慕ってるみたいだし」

「本当? ならよかったわ」

 

 以前、アンジェリーナとアリシアが一部話してくれた飛行訓練の授業中に起きた事件の全貌をフィールから聞き及んだ際、本人が言ってた言葉を伝えたクリミアは小さく頷きながら、他寮の後輩二人に顔を向け、話し掛ける。

 

「そういえば、貴女達、今日がホグズミード初めてなのよね? 案内しましょうか?」

「え、いいの?」

「勿論よ。ね、ソフィア」

「ええ。こういうのは大勢の方が楽しいしね」

「じゃあ、お願いするわ」

 

 二人は残りのバタービールを一気に飲み干し、スツールから腰を浮かせる。クリミアとソフィアも席を立ち、マダム・ロスメルタに料金を払ったら、四人は店を出ていった。

 

♦️

 

 一方、ホグワーツでは―――。

 3学年以上の生徒が外出しているせいか、校内はシン………と静寂に覆われていた。城で留守番の1年生と2年生は、各自談話室で課題消化に取り組んでいる。

 静かで穏やかな時間が流れる中―――8階に在る、ほとんどの人間にはあまり知られていない隠し部屋『必要の部屋』に籠って自主訓練に励む二人の生徒が居た。

 一人はゴーレム人形が次々に放射する閃光の流れ弾を軽々と躱し、一人は離れた場所で腕組みしながら無言で見守っている。

 二人共、ローブとセーターを脱ぎ、ネクタイを外して身軽なワイシャツ姿であった。

 前者はピョンピョンはねたショートの茶髪を揺らしながら、時折右手に持った杖を振るい、呪文を用いて対処した。

 

ステューピファイ(麻痺せよ)! エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

 複数の炎のように紅い失神光線は向かい側から銃弾のように飛んで来る色とりどりのビームを撃ち落とし、効果は異なるが同じ真紅の光を帯びた閃光はゴーレム人形の手元にヒット。

 杖は放物線を描くように宙を舞った。

 が―――刹那の間に杖に収束された『攻撃呪文』が『武装解除呪文』ヒットと同時に発動、空中で回転する杖先からエネルギーが放出し、まるで弾丸の雨のように無差別に周囲に降り注いだ。

 

「! プ、プロテゴ(護れ)!」

 

 慌ててクシェルは杖を掲げて『盾の呪文』を展開。半透明のバリアは頭上に降り掛かってきた閃光を弾き飛ばした。降り注ぐ光の雨は訓練所の床に突き刺さり、容赦なく砕いていく。

 それまで不動の姿勢を保っていたフィールは咄嗟に回避し、乱射してくる杖目掛けて魔法を射出し、見事撃ち落とした。

 落下した杖は急速にエネルギーが発散され、やがて霧みたいなものになって霧散する。クシェルは胸を撫で下ろし、へたり込んだ。安心して気が抜けてしまった友人の元へフィールは駆け寄り、片膝をつく。

 

「大丈夫か?」

「う、うん………ごめん、ありがと」

「いや………謝るのはこっちの方だ」

「え………?」

 

 フィールは先程撃墜させた杖に眼をやってから申し訳なさそうな表情で謝罪した。

 

「ゴーレム人形の杖に何かしらの魔法が直撃したら『攻撃呪文』が発動されるよう、あらかじめ私が仕掛けてたんだ。臨機応変に対応する能力は戦闘のみならず、あらゆる場面でも必要不可欠だから、クシェルには敢えて内緒にしてたんだけど、ごめんな」

 

 バツの悪い顔で詫びるフィールに、クシェルは笑って許す。

 

「ううん、気にしないで。いい経験になったよ」

「………そうか」

 

 と、ほんの少しだけ表情を緩ませ、フィールは微笑する。それから、フィールはクシェルに手を差し伸べて立ち上がらせると、訓練の評価を言い渡した。

 

「申し分無い出来の良さだ。センスあるよ」

「本当に!? やった!」

 

 クシェルは教師役のフィールから誉め言葉を貰い、はしゃいだ声を上げる。

 トレーニングを開始した当初は、体力測定も兼ねて現在でも続行しているウォーミングアップの『ゴーレム人形が撃ってくる流れ弾を避けるor撃ち落とす』ことから始まったのだが、クシェルは一般生徒よりも基礎体力はあったので、すぐに次のステップに進んだ。

 クシェルは天性の才能があるようで、ベーシック呪文の『武装解除呪文』や『失神・麻痺呪文』等は一発クリアし、数日間の練習で習得困難な『盾の呪文』も完璧にマスターした。

 この事から、クシェルは実技関連のものはかなり得意な方だとわかる。実際、普段の授業中の様子を見てみても、『魔法史』『天文学』等の筆記系は苦手そうだが、『妖精の魔法』『魔法薬学』『変身術』等は難なくこなしていた。

 

「正直、ここまで急成長を遂げるとは、教えてる側の私もビックリしてる」

 

 フィールはクシェルの頭にポンと手を置く。

 

「でも、あまり無理はするなよ。一人自主訓練に励むのは同志として感心するけど、それで身体を壊したら、元も子もないからな」

「! え、なんで―――」

 

 フィールの言葉にクシェルは眼を見張った。

 どうしても外せない都合があってフィールが稽古につけられない時、クシェルは彼女に教えて貰わなくとも、自主訓練に励んだ。

 必要の部屋で数時間に渡る魔法の鍛練を積み重ねたり、時にはフィールが不在の部屋で護身術の技を磨いたり―――もう二度と、あんな思いはしたくない一心で、クシェルは陰で努力を続けてきた。

 何故それをフィールが知ってるのか、とクシェルが一驚してると、

 

「クシェル、前に私に言っただろ。―――誰かが頑張ってる姿は、誰かがちゃんと見守っているって。そういうことだ。………アンタが頑張ってる姿、私はちゃんと見てるからな」

 

 と、かつて自分がフィールに対して言った言葉を掛けられた。

 クシェルは、ポカーン、と見慣れたフィールの顔を見つめていると、その彼女は踵を返して歩き出し、

 

「なに、いつまでもボケッとしてんだ。ほら、早く来い。休憩するぞ」

 

 と、肩越しに振り返りながら、ぶっきらぼうな口調で促された。

 その声にハッとしたクシェルは、次第にはにかむような笑みを浮かべ―――。

 

「ごめん、今行くよ」

 

 大きく頷いて、満面の笑顔になりながら、クシェルはフィールの後を追い掛けていった。

 

♦️

 

 数時間後、必要の部屋での訓練を終えた二人は地下牢に在る蛇寮の寝室に戻ってきた。

 談話室に帰ってきたらホグズミード村に訪問してきた上級生達は既に戻ってきてて、他の下級生が談話室や自室で課題消化してた中で二人して外出していたのを気になった一人の先輩に何処へ行ってたのかと訊かれたら、二人は「散歩してた」と適当な言葉ではぐらかした。

 

(クシェルはだんだん強くなってる………これなら、もしまたアイツらに襲われたとしても、返り討ちにしてやれんな。ま、万が一何か起きたら、私が何とかしてやればいいか………)

 

 と、そこまで考えたフィールは、自嘲気味に笑った。

 自分は随分とクシェルに甘くなったようだ。

 出会った当初なんて、あれだけ冷たくあしらって嫌っていたのに、今ではすっかり、クシェルを護ることが自分の中では当たり前になっている。

 そうしてるのも、スネイプから「もっと優しく接してやれ」と抗議されたからなのか、本能的な使命感からなのか………。

 結論の出ない思考に囚われていたフィールは頭を振り、さりげなく、クシェルの方を見てみると―――疲れてベッドで横になり規則正しい寝息を立てながら眠っていた。

 それも、自分が寝起きしてるベッドではなく、何故かフィールのベッドで。

 

「………………」

 

 フィールは額に手を当てて深くため息つく。

 全く………寝るんだったら自分のベッドで寝ろっての、と心の中でツッコミつつ、気持ちよさそうな寝顔のクシェルにフッと柔らかく微笑んだ。

 

「ったく、仕方ないな、本当に………」

 

 フィールは羽織っていたローブを脱ぎ、毛布代わりとしてクシェルの身体に掛けてやる。すやすや眠るクシェルの隣にそっとベッドに腰掛けたフィールは、元気よくピョンピョンはねた明るい茶髪をそっと撫で、

 

「ここ最近、ずっと頑張ってるもんな………その努力に免じて、特別に許してやるか」

 

 滅多に見せない優しい眼差しでクシェルを見下ろし、ポツリと呟いた。

 

「―――お疲れ様」

 

♦️

 

 夕食時間になり、談話室や寝室で寛いでいた生徒達は各自の寮から出てきて、ゾロゾロと大広間へと向かった。

 寮が同じ階のスリザリンとハッフルパフは顔を見合わせた瞬間、一瞬気まずそうな表情を浮かべたが、それはいつものことなので、何もなかったようにパッと視線を逸らし、階段を上がっていくが―――。

 

「―――貴女、そっちは階段じゃないわよ?」

 

 一人だけ皆とは別方向に歩く女学生がいて、疑問に感じたその女学生と同じ寮生が首を傾げながら声を掛けた。

 声を掛けられた女学生―――フィールは、声がした方向へ振り向く。

 色艶のいいサラサラとした長い黒髪。

 エレガントな印象を与えるグレーの瞳。

 ビスクドールのような美しい顔をした彼女は、聖28一族(『純血一族一覧』の著者カンタンケラス・ノットの判断により、1930年代時点で間違いなく純血の血筋と認定された28のイギリス人家系の総称)に連なる豪家豪族の一つ―――グリーングラス家の御令嬢、ダフネ・グリーングラスだ。

 

「そんなもん言われなくてもわかってるっての」

「じゃあ、何処行くつもりよ?」

「厨房だ」

「厨房?」

「ああ。クシェル、夕食の時間になっても全然起きる気配が無くてな。無理矢理叩き起こすのは可哀想だけど、かといってこのままほったらかしにして、夕食時間過ぎて食べれなくなったら、それはそれで可哀想だからな。だから、厨房に行って何か作って部屋に帰ろうと思って、今寄るところだ」

「ふーん………でも、わざわざ作らなくてもよくない? 何かしらの食べ物を大広間の外に持ち出すのは許容されてるんだし」

「それは、まあ、そうだけど………」

 

 脳裏を過る、クシェルの可愛い寝顔。

 疲れ果てて寝てしまうくらい頑張っているクシェルのあんな寝顔を見せ付けられたんじゃ、指導官やってる側としては、何か彼女に御褒美的な物を少しは与えてあげたいと思い………色々考え抜いた結果、フィールは手料理を振る舞うことにしたのだ。その決定事項には、褒賞以外の理由も含まれている。

 

「前に私、久し振りに御菓子作りして、クッキー焼いたんだけどさ。クシェルに『食べるか?』って訊いたら、『食べたい』って言ったから渡したんだけど………そしたらクシェル、『美味しい』って言ってくれたんだよな」

 

 美味しい、って言ってくれたクシェルのあの笑顔をもう一度見てみたい。

 そう言ったフィールに、ダフネは眼を細める。

 

「貴女、随分と変わったわね………まるで別人みたいだわ」

「それはどうも。じゃ、そろそろ行く」

 

 フィールはダフネに別れを告げ、踵を返そうとしたが。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 と、何故かストップを掛けられた。

 フィールは立ち止まり、再び振り返る。

 

「なんだ?」

「………クシェルがよく、貴女のことを『皆からすると冷たいように見えるけど、本当は凄く優しい人』って言ってたのよね。最初は信憑性が薄かったけど………最近の貴女を見てると、クシェルがそう言ってた意味、なんとなくだけどわかるようになってきた気がするわ」

 

 ダフネは歩み寄り、スッと手を差し出す。

 

「私、ダフネ・グリーングラスよ。これからは、仲良くしましょう」

 

 ダフネからの意外な申し出に、フィールは瞠目する。が、こちらも手を伸ばし、差し出されたダフネの白い手を握った。

 

「フィール・ベルンカステルだ。よろしくな、ダフネ」

「ええ、よろしくね、ベルンカステル。いや、フィール」

 

 ダフネは笑い、フィールも釣られて微笑した。

 ちょっとだけだがポーカーフェイスを崩したフィールに、ダフネは「あら」と眼を丸くする。

 

(笑ったら、案外可愛いじゃない)

 

 あくまでもクールさは健全であるが、間近でフィールが微笑む顔を見たのは初めてだ。ダフネはフッと表情を緩める。

 

「じゃあ、私は大広間に行くわね。精々美味しいもの作ってやんなさい」

「ああ、そのつもりだ。じゃあな」

「ええ、またね」

 

 そうしてフィールとダフネはほのかな蝋燭の灯りを頼りに、それぞれの目的地へと向かったのであった。




【訓練依頼】
この時からクシェルのレベルは格段に上がった。

【やって来ました、ホグズミード村!】
オリのハッフルパフ組With原作のグリフィンドール組。

【クシェルの能力】
実技は得意だけど筆記は苦手。
所謂勉強は不得意だけど体育は得意タイプ。

【ダフネ・グリーングラス】
原作キャラのスリザリンの女学生。本家では将来フォイフォイの妻となったアステリアの姉。
この作品のダフネ(グリーングラス家)の設定は2章の後書きに記述してます。
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