【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
時には原作物語から離れてリフレッシュ兼ねてのオリジナルストーリー書くのも二次創作の醍醐味ですね。
クリスマス休暇1週間前。
ホグワーツ城の屋根や校庭、森は白い雪で辺り一面白銀の世界となり、敷地内にある広大な湖は水晶のような光沢を放ちながら完全に凍結していた。廊下は吹き抜けで外気の冷たさに晒されているため、防寒具無しで移動は出来ないほどとても寒い。
ハッフルパフ寮監で『薬草学』の教師担任ポモーナ・スプラウトが作ったクリスマスにホグワーツに残る生徒のリストに名前を書いたクリミア・メモリアルは、今年の冬季休暇をどう過ごそうかと一人考え事に耽ていた。
義妹のフィール・ベルンカステルが今年ホグワーツに入学したため、ベルンカステル城に帰宅する必要は夏季休暇まで無くなった。彼女はホグワーツに残るらしく、クリミアも
まだホグワーツでのクリスマスを過ごしたことがないクリミアは、さてどうしようかと頭を回転させていると、
「あら? クリミアじゃない」
声がした方向を見てみれば、黒髪に姓と同じ青紫色の瞳のスリザリン女生徒―――アリア・ヴァイオレットが居た。
「こんな所で会うなんて、奇遇ね」
「そうね。………アリアはクリスマス休暇中、此処に残るの?」
「いや、一時帰宅するわよ」
スリザリンは名家出身者が多数を占め、9割の生徒がクリスマスは家族と過ごすために一時帰宅を選ぶ。アリアの家柄・ヴァイオレット家もその一つだ。
クリミアは、少し淋しい気持ちだった。
去年までは同僚同輩の友人、ソフィア・アクロイドがホグワーツに留まり、自分とアリアは家に帰っていたのだが、今年はソフィアも帰宅するらしい。同級生で特に仲が良い二人としばらく会えなくなるのは、侘しいものだ。
「スリザリンで残る人って少ないわよね………って、そういえば、クリミア」
「なにかしら?」
「貴女の『噂の義妹』って、フィールのことだったのね」
アリアが所属するスリザリンには、後輩であり友人の義理の妹であるフィールがいる。彼女らが血の繋がりがない家族であるという関係を知っている生徒は、今のところはソフィアとアリアくらいだ。
「最初知った時はビックリしたわ。血が繋がっていないというのも差し引いてでも、クリミアとフィールの性格があまりにも違いすぎるもの」
「……フィール、あれでも昔は、今と全然違ったわよ」
「え? そうなの?」
「……昔はもっと明るくて、笑顔も多かったわ」
アリアはタンザナイトの瞳に驚愕を宿す。
とてもではないが、いつもポーカーフェイスでクールな雰囲気を身に纏うようなフィールが、明るかったり笑ったりすることが多かったなど、想像がつかないのだろう。
「………そうだったのね」
未だに驚きは隠せないが、深く詮索はしない。
こういうのはあまり尋ねるべきものではないと遠慮したのだ。
少し気まずい空気になったのを申し訳なく感じているのか、クリミアはそれまでの神妙な面持ちから一変、笑顔を形作り、
「フィール、そっちでは友達と仲良くしてる?」
気になってたフィールの友情事情を尋ねた。
アリアも話を蒸し返す真似は敢えてせず、
「ええ、仲良くしてるわよ。特に同級生のクシェルとはね」
「そう………フィールが独りじゃなくてよかったわ」
クリミアは安心した表情になる。
アリアはふと、クリミアに訊いた。
「貴女、かなりフィールのことが心配なのね」
「フィールは今の私にとって、唯一誰よりも近くに居た家族よ。もう………失いたくないわ」
クリミアはアメジストの瞳を伏せる。
生まれて間もなく両親を失い、孤児となった自分を引き取ってくれたのがフィールの両親だ。
実の娘じゃないのに実の娘同然に可愛がってくれ、溢れんばかりの愛情を注いでくれた。フィールが生まれてからは姉妹という関係になり、彼女は自身を姉として慕ってくれた。
………数年前、フィールの両親は目の前から突如として消え失せた。フィールだけでなく、クリミアも悲しみに暮れた。
今はフィールの母方の叔父・ライアンや彼の妻であるセシリアが面倒を見てくれてるので、自分達にはちゃんとした家族がいる。だけど―――幼い頃からずっと一緒に居たフィールは、絶対に失いたくない。
あんなことがあったから、尚更クリミアはフィールに対し過剰なほど心配性だった。
「貴女達って、ホント仲が良いわね。でも、ちょっとしたことで気を揉んだりしてたら、姉妹なんてやってられないわよ? 今はあまりないけど、私なんて、昔はしょっちゅう姉とケンカしたわ。ま、ケンカするほど仲が良いっていうし、普段は姉として妹の私をなでなでしてくるのは今でも変わらないわ」
アリアは苦笑い混じりに言い、クリミアも微笑しながら、
(普通の姉妹って、やっぱり、そんな感じなのかしら………)
アリアには、4歳年上の姉がいる。
彼女みたいに、ケンカも挟みながらも姉妹という関係を築くのが普通なんだろうけど………そこは複雑な家庭環境故にか、クリミアはフィールと本格的なケンカをしたことがまだない。
「不思議ちゃんな妹を持つと、貴女も大変ね」
アリアはクリミアの髪をくしゃくしゃとする。
クリミアは乱れた髪を押さえながら、
「貴女も、しょっちゅうなでなでしてくるわね」
「姉の影響があるのかもね」
屈託のない笑顔を浮かべる友人に、クリミアは微笑み掛けた。
「じゃあ、休暇迎える前に雪遊びでもしましょ」
「雪遊びって………私、柄じゃないわよ?」
「いいじゃない。たまには付き合いなさいよ」
アリアはマフラーと手袋を取って来たら校庭に集合だと言い、彼女は寮に帰った。クリミアはやれやれと軽く肩を竦めつつ、こういうのも悪くないかなと、ハッフルパフ寮へ向かった。
ハッフルパフ寮に戻ると、大半の生徒が荷造りし終えたようで、談話室のソファーに座って友人と談笑したり、チェス等の趣味に興じたりと楽しく過ごしていた。
クリミアは人混みの中をすり抜け、割り当てられている部屋に向かい、目当ての手袋と指定マフラーを持つと、
「クリミア? 何処か行くの?」
部屋に入ってきた同室の友人、ソフィアがクリミアと、彼女の手元にある防寒具に眼を向けながら首を傾げる。
「ええ、校庭にね」
「校庭? なんで?」
「アリアから『休暇前に雪遊びしましょ』って言われたから、それで」
それを聞いたソフィアは、
「私も仲間に入れてくれない?」
「ふふっ、勿論よ。せっかくだし、久々に三人で遊びましょ」
ソフィアはパアッと顔を輝かせ、彼女も衣装棚から手袋とマフラーを取り出すと、部屋を退室して談話室外へ再び外出する。ハッフルパフ寮生徒指定のブラックとイエローのマフラーを首に巻いて手袋を着用し、二人は校庭に向かった。
白い雪が雪空から降り注ぐ校庭に着くと、スリザリン寮生徒指定のグリーンとグレーのマフラーを首に巻いて暖かそうな手袋を付けているアリアが既に待っていた。
「早いわね、アリア」
「あら? ソフィアじゃない」
「アリア、久々に三人で遊びましょ」
「そうね。あまり三人で居られる時って滅多にないし、思う存分楽しみましょ」
アリアも了承し、クリミアは杖を抜いて軽く一振りする。すると、積もっていた雪が徐々に形を変えていき、三人の身長より少し高めの雪壁が離れた場所に3つ出来上がった。
「雪遊びといったら、雪合戦じゃない?」
「3つ壁があるから、個人戦ね?」
「チーム戦は奇数だから無理だし」
「あ、そうだ。普通にやるのもつまらないし、やる前に一つ、賭け事しない?」
「「賭け事?」」
見事なまでにハモったクリミアとアリア。
ソフィアは笑いながら、首を縦に振る。
「ええ。負けた二人が、勝った人の言うことを一つだけ聞くとかはどう?」
ソフィアの不敵な笑みにクリミアとアリアは、
「悪くないわね」
「受けて立つわ」
ニヤリとしながら、勝負に買って出た。
そうして、三人は契約の握手を交わし―――それぞれのポジションに就くと、雪遊びもとい雪合戦という名の
♦️
一方のフィールはと言うと―――。
相変わらず、8階の必要の部屋で籠っていた。
スリザリン生の大半は現在荷造りしており、ホグワーツに残るフィールは特に何もすることがないことから、放課後と休日は大抵生活する憩いの場でのんびりしている。誰にも邪魔をされず、静かに過ごせるのは居心地がいい。スリザリン談話室では純血主義者から蔑視されたり陰口叩かれたりと居心地が悪いので、格差が激しかった。
必要の部屋が出してくれた暖かな暖炉の近くに設置されている大きめのソファーに身を委ねるフィールは、分厚い魔法書を読んでいた。室内も程よい程度に暖房が効いており、ワイシャツで満喫している。ブーツを脱いでソファーに横たわる彼女は、次第に凄まじい眠気に襲われ、うとうとしてきた。
うつらうつらしている内に、フッと重い瞼がおろされ、フィールは寝息を立てながら意識を落とした。
静寂に包まれている、必要の部屋。
そこに、外部から入室しようとする者の存在を示すようゆっくりと扉が顕現とし、やがて、その人影がひっそりと姿を現した。
元気よくピョコンとはねてる茶髪がトレードマークの、キラキラした翠瞳を持つ少女―――クシェル・ベイカーだ。
クシェルは今日も必要の部屋に来てるだろう友人を探しに寮から出向き、案の定やはり此処に居た彼女へ微苦笑した。訓練部屋の風景をずっと見てきたせいか、いつものそれとは全く異なる室内の景色に、クシェルは首を傾げる。
よく見てみれば、フィールが寝ていた。
大きめのソファーに身を任せる彼女の手元には魔法の本が在り、開いているところを見ると、読んでる最中に眠ってしまったんだと、クシェルは察する。
クシェルはフィールを起こさぬようそっと近付き、しゃがみ込む。だて眼鏡が掛けられていたままなので、両手を伸ばし、青のそれをゆっくり外すと、素顔が露になった。
すやすや眠るその寝顔に、クシェルは思わず笑みを溢してしまう。
(寝顔可愛い………)
常に無表情が絶えないフィールでも、寝顔は年齢相応のあどけなさが現れる。魔法の練習や本を読んでいる姿ばかり見てきてるせいか、これまでスゴく強くて大人びていると思っていたけど、フィールはまだ自分と同じ11歳なのだ。
(………顔が小さいから小柄に見えるけど身長高いし、だて眼鏡で素顔を隠してるけど、顔立ちも整ってる………)
少し長めの前髪の下に隠されている蒼眼は閉じており、長い睫毛がより目立つ。闇のように黒い髪とは真逆で肌は雪のように白く、寝息が漏れる唇はしっとりと濡れている。緩く結んだ緑のネクタイを襟に巻く真っ白なワイシャツに包む身体は全体的に細く、規格外レベルの猛者だと知らなければ、別の意味で稀有なか弱い女の子にしか見えない。
(………そういえば―――)
フィールの素顔を見たのは、久しぶりである。
彼女の素顔を見たのは、9月1日―――ホグワーツに入学した日とハロウィーンの日だけで、これまで、ずっと見てこなかった。あの時はあまり意識しないで接していたが、こうして間近で見てみると、滅多に見られない美形フェイスの持ち主だと断言出来る。
クシェルはフィールの顔から横へ視線を移す。
ブーツを脱いで横たわっているため、ストッキングを履いた美脚に目線が行く。長い脚もこれまた細く、オシャレしたらその魅力が数倍に跳ね上がりそうだとクシェルは考えた。
「………………」
クシェルは、フィールの方へ手を伸ばす。
柔らかい感触の頬に触れ、そっと撫でた。
と、その時。
「…………んっ………」
フィールが、くすぐったそうに身動ぎした。
クシェルはドキッとし、起こしてしまったかと内心ヒヤヒヤする。しかし、それは取り越し苦労だったようで、すぐにフィールはスゥスゥと規則正しい寝息を立て始めた。
ホッと安堵の息を吐き、クシェルはフィールの頬に掛かる髪を指先で振り払う。さらさらちょっと癖毛の黒髪を梳くい取ってみれば、シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
もっと彼女に近付きたい。触れてみたい。
もしも今此処に男が居たら、きっとそう思ったに違いない。
それだけ、今の彼女は本来の人間離れしたルックスが際立てる美しさだけを纏っていた。
年齢相応の幼さと年齢不相応の色っぽさにまじまじと見つめていたら、パチリ、とフィールが目を覚ました。
「ふぁぁ………私、いつの間にか寝てたのか……ん?」
寝起きのフィールは、朧気な瞳でクシェルの顔を捉えた。
「………クシェル、か………」
「フィー、おはよう」
「ああ、おはよう………って、いつから居たんだ?」
その問いに、クシェルは戸惑う。
ついさっき………とは言えないし、かといって結構前から居たなんて言ったら、不機嫌になってしまうかもしれない。
クシェルが返答に困っていると、フィールは彼女の手元へ視線を移す。片手には、青のだて眼鏡が握られていた。そこで初めて、自分が眼鏡を外してる状態だと知る。
「………随分前から居たそうだな」
ギクッとしたクシェルにフィールは軽く肩を竦め、半身を起こして首を振る。
「………なんで、此処に来たんだ?」
「あ、えっと………フィーが寮に居なかったからまた必要の部屋に行ってるのかなって」
「必要の部屋はなにかと便利だからな。大抵は此処に居る」
フィールはこめかみを押さえ、しゃがむクシェルを見下ろした。
「だて眼鏡、返して」
「あ、うん………」
クシェルはフィールへだて眼鏡を手渡し、受け取ったフィールは再び掛けた。
クシェルは「そのままでいいのに………」と落胆気味なため息をついた。
そんなクシェルへ、フィールは問う。
「………寝てた顔、見たのか?」
「え………まあ、うん。見たよ」
「………………」
「可愛かったよ、フィーの寝顔。なんか、天使みたいだなって………」
クシェルは慌てて不機嫌そうな顔になったフィールへ感想を述べると、
「………ああ、そう」
フィールは長めの前髪を掻き上げた。
心なしか、ほんのり彼女の耳が紅かったような気がしたクシェルは、「もしかして………照れ隠し?」と好奇心が沸いた。
「フィー、今、照れた?」
「! ………別に照れてない」
プイッと素っ気なく顔を逸らすフィール。
クシェルは更に弄りたい気分になり、
「嘘がバレバレだねえ」
とフィールを煽った。
フィールは横目でキッと鋭い目付きになる。
しかし、それに怯むことなく、
「可愛かったのは事実だよ? 大人びてるフィーも寝顔は女の子だなぁって」
「………言うな、それ以上」
クシェルの言葉にフィールは顔を背ける。
彼女の頬が紅潮したのを見逃さなかったクシェルは、
「顔、真っ赤」
と、赤面したフィールの顔を強引に向かせた。
恥ずかしさから顔に熱が籠っているのが、肌を通じてわかる。色白な肌だからこそ、その違いがハッキリするのだ。
「貴女が赤面したシーン、超レアだね」
「………ッ」
「フィーもそういう顔するんだなって知れて、私は満足かな」
「………変なところで満足するな」
フィールはクシェルの手を振り払い、クールダウンしようと心を落ち着かせる。クシェルはひとしきり笑った。
「今日、なんだか得した気分」
「………………………………」
「フィーの寝顔や赤面した顔を見れて」
「おい」
沈黙を貫くはずが、あっさり崩れる。
フィールは悪戯っ子の笑顔のクシェルを睨み付けるが、先程彼女の意外な一面を見たばかりか怖いとは感じなかった。
「このこと、皆に言おっかな。そうすれば、皆も親近感沸くんじゃない?」
「言うな、絶対」
「えーっ、どうしよっかな」
焦らすようにニヤニヤするクシェル。
フィールはクシェル経由で同僚に知られ渡らないかが不安でヒヤヒヤしていた。
「どうしても言われたくない?」
「ああ、言われたくない」
「じゃあさ、一つ約束して。そしたら言わない」
「約束?」
怪訝な顔をするフィールへ、クシェルは彼女の手を取りながら言った。
「たまには、必要の部屋じゃなく、談話室に居て」
フィールは、必要の部屋に居ることが多い。
せっかく友達だというのに、彼女は談話室に居る回数が少ない。まあ、ドラコ・マルフォイやパンジー・パーキンソンなどから軽蔑の眼差しで見られるのを避けるためと考えれば、無理もないけれど………。
それでも、自分とフィールは親友なのだ。
少しくらいは、フィールの方から共に行動して欲しい。
「………談話室に、ねえ」
「フィーからすればイヤだと思うけどさ………ちょっとは、一緒に居てよ。私達、友達なのに、淋しいじゃん」
(………友達、か…………)
友達。
それはなんとも、精神的に孤独だった自分からすれば縁の無い響きであった。
6年前に父と母を失ってから、自分は独りを選ぶようになった。誰かと馴れ合いになるのを嫌い、振り払うのを決めてきた。誰か大切な人を作り、また失ったら………そう考えると、強迫観念に駆られ、自分が自分でいられなくなってしまう。
だから………友達になろう、と言ってきたクシェルを冷たくあしらった。そうすれば、誰も近付いて来なくなる。余計な心配はいらない。
そう考えていたのに………クシェルはしつこいくらいアプローチしてきた。どんなに冷たい言葉をぶつけても、めげずに接近してきた彼女へ驚きを隠せないでいた。
「………その気になればな」
フィールは曖昧にして返事する。
クシェルは彼女の雰囲気から滲み出た黒い影に翠眼を訝しそうに細め………何とも言えぬ表情だったが、
「………約束だよ?」
念を押すように、手を握る力を込める。
フィールは苦笑し―――深く息をついた。
「………じゃあ、こうすれば安心するか?」
「………?」
「………隣に座って」
フィールは何故かそうお願いしてきた。
クシェルは首を傾げつつ、素直に隣に座る。
「座ったよ。それで、どうしたの?」
「………いいから、そのままでいて」
「? うん」
クシェルは言われた通り、大人しくそのままの姿勢でいると、フィールは青のだて眼鏡を再び外し、それをテーブルに置いて膝の上に頭を乗せてきた。所謂『膝枕』である。
「え? ちょっ、フィー?」
クシェルはいきなりこんなことをしてきたフィールへ困惑と驚愕を隠せない。そんな彼女へ、フィールは眼を閉じながら呟いた。
「………今日はアンタとこうして一緒に居る。それなら、いいだろ」
フィールは、今だけちゃんと傍に居ると約束するために、無防備な状態で身体と心を同時に預けてきた。クシェルはそれを知り、じゃあこれから先はどうなのかと、疑問符を浮かべる。
「………それに今は此処から出たくない。何処行ってもこの時期は特に寒いし」
「あー………それは言えるかも」
クシェルは此処に来る前、滅茶苦茶寒かったのを思い出して天井を仰ぐ。確かに、今出たら寒さのあまり凍え死にそうだ。だけど、今はフィールと身体が密着してるので寒くない。むしろ温かさを感じる。
「だったら、今日はずっと一緒に此処に居る?」
クシェルは黒髪を撫で、半分冗談で笑い掛けながらフィールに言ってみたら、
「………それも悪くないかもな」
意外や意外、フィールはノリに乗ってくれた。
クシェルは一瞬瞠目したが………これがフィールなりの友情表現なんだろうと思うようにし、穏やかな笑顔を浮かべながら、もう一度彼女の黒髪を優しく撫でた。
♦️
クリスマス休暇前日。
フィールは4階に在る図書室の一角に居た。
ホグワーツの図書室はその広大さに違わず本の種類も豊富で、知識を増やす事が好きなフィールにとってはまさに知識の宝庫である此処はお気に入りの場所だった。
「あれ、もしかして、フィール?」
時間を忘れて読書に勤しんでいたら不意に自分を呼ぶ少年の小声がし、フィールは本から顔を上げて振り向く。声の主はハリーであった。
「ん、ハリーか」
「久し振りだね。元気にしてた?」
「まあまあな。ハリーは?」
「僕も元気にしてるよ」
「そうか。………で、今日は一人か?」
「いや………ロンとハーマイオニーも居るんだけど、今は分かれて調べ物してるんだ」
「調べ物?」
「うん………もう2週間も収穫無しで、僕達、困ってるんだ」
それを聞き、フィールは2週間前から三人は何かを調べているのかと、僅かに眼を丸くする。
「その調査内容ってなんだ? もしも知ってるヤツだったら教えるぞ」
「本当に!?」
「ああ。それで、アンタ達は何を調べてんだ?」
「それは―――」
が、ハリーが口を開き掛ける直前、彼の歓喜に満ちた声を聞き付けたロンとハーマイオニーが現れて、遮られてしまった。
「ハリー、どうしたんだ? ………ん? あ、君は―――」
ロンはフィールの姿を認めた途端、敵意を剥き出しにする。
「なんで此処に居るんだ?」
「ロン、フィールは最初から此処に居たよ」
ハリーがフィールに代わって答える。
ロンは面白くなさそうな顔でスリザリン生のフィールを睨んだ。
「それはそうと………ハリー、何か手掛かり見付かったの?」
「見付かったって訳じゃなくけど………もしかしたら、僕達の知りたいことをフィールが知ってるかもしれないんだ」
ハリーの言葉に、ロンは信じられないと言う表情でソバカスだらけの顔を凍り付かせた。
「ハリー、君はコイツに訊こうって考えてるのかい?」
「だって、この2週間散々調べ尽くしても、何も成果は得られてないじゃないか。だったら、本を調べる以外の方法で、人に訊くのも一つの手だろう?」
「だけど、コイツの寮監はスネイプだぞ? コイツに僕達が調べてることを教えたら、確実に告げ口されてしまうじゃないか!」
ロンの口振りからして何かスネイプが関係しているのかと、フィールは怪訝な顔になる。大嫌いな魔法薬学教師の名前を出されてハリーは一瞬顔をしかめたが、すぐに首を横に振った。
「ロン、フィールはそんな人じゃないよ。仮にこれがマルフォイだったら、即スネイプに告げ口されるだろうけど………フィールは他のスリザリン生とは違うだろ?」
だが、頑なにロンは否定した。
「ハリー、騙されるな! そいつは君が信用しているのを利用して自白させようと企んでるだぞ。そんなヤツは放っといて、早く探すぞ!」
ハリーは額に手を当ててため息を吐く。
これ以上言い合っても、埒が明かないどころか逆にストレスが溜まるだけだと思い、フィールを見てさらりと自分達の目的を告げた。
「僕達、ずっとニコラス・フラメルについて調べてるんだ。『20世紀の偉大な魔法使い』にも『現代の著名な魔法使い』にも『近代魔法界の主要な発見』にも『魔法界における最近の進歩に関する研究』にも載ってなくてもうお手上げだよ。でも、僕、どっかで名前を見た覚えがあるんだよね………」
ロンはハリーを咎める視線をビシバシ送るが、彼はマグルの小学校に通学してた際のイジメっ子集団から蔑みの眼差しで長年見られ続けてきたことから、その程度の視線など特段気にすることなく、平然とした態度を崩さない。
フィールは「なんだ、そんなことか」とリクエストに応じて彼等が追い求めていた情報を、サラサラと淀みなくアンサーした。
「ニコラス・フラメルは歴史的に著名な錬金術師だ。1326年生まれのボーバトン魔法アカデミーの出身者で『賢者の石』の創造に唯一成功した人物でもある。ダンブルドアとは親しい間柄で錬金術の共同研究を行った事もあるのは蛙チョコレートのおまけカードにも載ってなかったか?」
数十日間も掛けて発見出来なかったインフォメーションをあっさり並べ立てられ、思わず三人はフリーズする。が、いち早く思考が再起動したハリーはキラキラと明るい緑の瞳をキラキラと輝かせ、
「フィール、それだよ、絶対ッ!!」
図書室に居る事実を忘れて、大声で叫んだ。
その馬鹿デカい叫声はムダに広い図書室の隅々まで響き渡り、司書のマダム・ピンスに即刻放り出されてしまった。
「おい、どうしてくれるんだ」
巻き添え食らってハリー達一行と共に追い出されたフィールは多少苛立った声音で責める。ハリーは肩を縮めて謝罪した。
「ごめん、つい、興奮しちゃって………」
「………まあ、過ぎたことは今更悔やんでも仕方ない。今回は水に流してやる」
肩を竦めつつチャラにしたフィールは、直感的にあることを短時間で推測していた。
ホグワーツに次いで安全と評されていたグリンゴッツ銀行の強盗事件。
新入生歓迎会パーティー後の謎の忠告。
ニコラス・フラメルについて質問し、『あるモノ』を口にした瞬間のハリーのあの反応。
これ等から考えるに、答えは一つ。
恐らくだが、この城の何処かに隠されているのだろう。
誰もが一度は憧れる、
何故つい先程ロンがそれにスネイプが関与してるらしき発言をしたのかは不明だが、大方彼等はスネイプが何かを盗もうとしていると思い込み、その何かの正体を突き止めるために、この2週間調べ物に費やしていたのだろう。
最近よく図書室で見掛けるようになったのは、そういう訳か。
まあ、普段が普段なだけに、彼等がそう考えてしまうのも無理はないが………。
フィールには、スネイプがグリンゴッツ銀行の襲撃犯には見えなかった。
先月行った、魔法薬学特別授業初日の夜。
あの時スネイプは、最初、自分が本物のフィール・ベルンカステルかを杖を突き付けながら確認してきた。
そうしてきたのも、強盗犯がホグワーツに潜んでいるかもしれないからとの理由であり、少なくとも、フィールからすれば彼が演技してるようには見えなかった。
(スネイプ先生は『現段階ではハッキリとした確証は持てない』と、そう言ってたよな。だけど、本当は既に強盗犯がホグワーツに紛れ込んでいるのを知っていて、生徒である私の手前、敢えて『まだわからない』と言ってた可能性もある。………時には相手が尻尾を出すまでじっと堪えるのも必要だ。もしかして、スネイプ先生はそうしてるのか?)
考えても仕方ない。
現時点ではまだまだ不確かな事柄が多過ぎる。
組み立てるパズルのピースが少ない以上、もう少し増えてからじゃないと断定は厳しい。
ハリー達に自分の憶測を語ったら事態がややこしくなると判断したフィールは自分の胸中だけに納めることにし、今はまだ有耶無耶にしておこうと、
「それじゃ、そろそろ私は行く。またな」
と、このまま一緒に居てロンに睨まれ続けるのも嫌なことから、別れを告げる。
ハリーだけは「うん、バイバイ」と返事し、フィールは軽く相槌打つと、彼等と別れて大広間へ昼食を摂りに向かったのであった。
【姉世代】
公式が『兄世代』ならその反対として『姉世代』にした。
【クリスマス休暇前に正体発覚するハリー達】
と言っても、原作展開とは何ら変化無しですけどね。