【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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#16.不機嫌な女王様

 クリスマス休暇中は全ての授業が免除され、一時帰宅が出来る。学校の過半数はそれぞれの家に帰宅するが、中には諸事情があって学校に留まる生徒もいる。名家出身が多いスリザリン所属の生徒は9割以上が帰り、各自盛大なパーティーを開くようだ。

 

「1年生は私とフィーだけか………淋しいね」

「いや、全く。これで短期間だけど、落ち着いて談話室を過ごせる」

 

 談話室に居るとパンジー・パーキンソンやミリセント・ブルストロードなどが軽視の眼で睨んでくるのが居心地が悪いとのことで、ホグワーツで過ごす時間は最早必要の部屋にあるフィール。人目が触れにくくなるこの時期を上手いこと利用するつもりでいるが………たまには憩いの場で時間を潰すのも悪くない。

 

「私としては、そんなことよりも、プレゼントをどうすればいいか悩んでる」

「プレゼント?」

「………誰に何を渡せばいいのかわかんない」

 

 クシェルは意外そうな顔で、フィールを見つめた。あの、どんな教科でも完璧にこなすフィールが、クリスマスプレゼントをどうしようかで悩むなど想像がつかなかったため、クシェルは笑ってしまった。

 

「………なんだ? 急に笑って」

「ふふ………ああ、ごめんごめん。なんか、凄い意外だなぁって」

「は? なんでだ?」

「フィーもそんなことで悩むんだなぁって」

 

 クシェルはひとしきり笑った後、珍しくいいことを言った。

 

「でもさ、こういうのは『気持ち』が何よりも大切だよ?」

「『気持ち』?」

「そ。『物』よりも大切なのはね」

「なんかいいこと言ったな。()()()

「珍しく、は余計だよ!」

 

 カッとしたクシェルは一発パンチしようとしたが、その前にヒラリと躱され、談話室外へとフィールは走った。

 

「コラ待てーッ! フィーッ!」

 

 逃走したフィールを追跡するクシェル。

 フィールは「別にそんな怒らなくてもよくないか?」と思いつつ、持ち前の運動神経と大人顔負けの体力を活用し、追い掛けてくるクシェルから全力で逃げ―――その日は1日中ホグワーツ城内で逃走中となった。

 

♦️

 

 12月25日、クリスマス。

 フィールはいつも通り朝早く起き、ベッドの脇にはプレゼントの山が形作られているのを見て、数秒間、フリーズした。

 「何故?」と疑問しかなく、フィールはプレゼントを2個ほど手に取ってみる。クィディッチ開戦日同様、特別な行事がある日のみ早起きするクシェルも、自分に贈られてきたプレゼントの数々に暫し唖然としていた。

 

「めっちゃ貰ってるんだけど、なんで?」

「いや、それ私の台詞だ。………なんでだ?」

 

 スリザリン生からもホグワーツ生からも遠巻きにされるのに、「なんでだ………?」とフィールは険しい顔付きになる。

 鈍感な彼女は知らないが、実はここ最近、以前よりも他人への冷たさが薄れていったことがファクターで、陰ながら人気が急上昇していたのだ。

 それに加え、純血主義者が大半を占めるスリザリンではかなり珍しい反純血主義者で非マグル差別者というのもあって、他寮の生徒達は人を血統で見下すことのない性格のフィールへ幾分か好感を持つようになり、クリスマスプレゼントを贈ったのだ。

 そしてその大半のプレゼントには、

 

『今まで悪かった』

 

 と、こんな簡素なメッセージが挟まれていた。

 フィールへ対する考えを改めた生徒達は、口頭では伝えづらいことから、こうやって手紙で謝罪してきたのだ。クシェルはそれを見て、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「とりあえず、開けてみようよ?」

「………それもそうだな」

 

 と言うことで、二人は一つ一つ、丁寧にラッピングがされたリボンを外し、中身を見てみた。

 中身はお菓子などの定番のギフトがメインであったが、フィールにはクィディッチチームの誰かからだと思われる………いや、本当にあの人達からの贈り物が混じっていた。

 

「ゴーグルにグローブ、箒磨きセット………か」

 

 ゴーグルとグローブは、装着者に合わせて大きさを変えてくれるサイズフリーの便利なアイテムだ。箱の底にはメッセージが書かれた紙があり、フィールはそれに眼を通す。

 

『ベルンカステルへ

 俺達全員からのプレゼントだ。シーカーになったら是非とも使ってくれ! 

           byクィディッチチーム』

 

「わあっ、凄いね!」

「…………そうだな」

「フィー、来年シーカーなる?」

「いや、面倒」

「面倒って………フィー、マーカスに『考えておく』って言わなかった?」

 

 今やハリー・ポッターは、新たな意味でも英雄視されている。

 1年生とは思えぬ天性の才能のシーカー気質を兼ね備え、デビュー戦では見事勝利。

 それまで連勝してきたスリザリンに敗北と言う名の屈辱を植え付けた。

 スリザリンチームは「これはもうフィールしかいない!」と言わんばかりに敗北がしたあの日から何度もフィールに哀願し、彼女が答える言葉はいつも同じ。

 

「………考えておく」

 

 なのに今訊いてみると、「面倒」と前述とは矛盾じみた返答だ。流石にそれは身勝手なのでは、とクシェルはフィールに視線を向け、

 

「これは珍しい文具とかだ………結構凄いな」

 

 と、クィディッチの話題から脱線もとい逃走して他のプレゼントを開けていくフィールに、クシェルは思わずずっこけそうになった。そんなことは露知らず、最後に親しい人達からのプレゼントを開ける。

 

 クシェルからは『クィディッチ今昔』。

 ハリーからは『お菓子の詰め合わせ』。

 クリミアからは『狼のぬいぐるみ』。

 ソフィアからは『ガラス製の城の置物』。

 

 が贈られてきた。

 ちなみにフィールは何を贈ったかと言うと。

 

 クシェルには『クィディッチ関連の最新グッズ』。

 ハリーには『ニンバス特性ゴーグル』。

 ハーマイオニーには『魔法ハンドバッグ』。

 ロンには『ニンバス特性双眼鏡』。

 

 を贈った。

 勿論、クリミアとソフィアにもだ。

 ただし、この二人のプレゼントは他とは違う。

 軽い攻撃なら防御してくれる『盾の呪文』の機能を含ませた大鷲のネックレスと大鷹のネックレスだ。アクセの形がそれぞれ違う鳥なのはクリミアとソフィアの守護霊の形がそれぞれ大鷲、大鷹だからである。

 

♦️

 

 大広間に行ってご馳走を食べてくるクシェルとは別行動をしたフィールは、スリザリン寮を出て一人行く当てもなくホグワーツ城内をブラブラとさ迷っていた。休暇でかつ人が少ない時期はこの時くらいなので、せっかくだからこの機を利用して探検していたのだが………。

 

「………で、此処何処?」

 

 まさかまさかの、ホグワーツで迷子になってしまった。

 長い廊下のど真ん中に突っ立って、前髪をくしゃりとする。

 何も考えずに談話室を出ていったのは間違いだったなと誰も居ないことをいいことに舌打ちし、辺りを見回す。広大でギミックだらけのホグワーツの校内には未だに慣れない部分もあり、此処がまず何階なのかがわからなかったため、とりあえずは進んでみようと歩み始めた。

 コツコツと、歩く足音のみが静寂に包まれた廊下内に響き渡る。

 歩いている途中で図書室や呪文学の教室があったことから此処が4階であるとわかり、「地下から4階までって………」と軽く衝撃を喰らった。

 

(そういや此処だったよな。禁じられた廊下があるのって)

 

 恐らく『賢者の石』が隠されている場所に繋がっている廊下のことを考えていたフィールは、両眼である部屋を捉え―――その部屋目掛けて、自然と早足になった。

 そして、扉を開ける。

 そこは、トロフィー室であった。

 歴代のクィディッチ優勝のトロフィーが飾られていたり、首席名簿も飾られている。此処は鍵が掛けられておらず常に開いているので、誰でも出入りを行うのが可能だ。

 

「……………………」

 

 フィールはただただ、沈黙を持ってある寮のクィディッチで優勝したチームの記念写真に釘付けになっていた。

 1970年代の、スリザリンのチームだ。

 写真の中のメンバーは皆笑顔で、優勝杯を抱えている黒髪の女性を中心にして並んでいた。

 その女性こそ、優勝まで導いたシーカーなのだろう。

 非常に整った顔立ちに見事な黒髪、紫色のクールそうな眼光を宿す瞳は、まさに写真を見ている少女と瓜二つの容貌である。

 だって、その人は―――。

 

「…………お母さん………………」

 

 フィールの母親、クラミーなのだから。

 クラミーがピンチヒッターとしてシーカーになったというのは、聞き及んでいたから別に驚きはしないが………。

 

「………………なん、で?」

 

 いつの間にか、目の前がぼやけていく。

 写真を見た瞬間、母親は同じ学校に通っていたのだと………もう二度と会えないのだと、乗り越えたはずの無慈悲な現実の壁に容赦なく突き返され、声にならない悲鳴を心で叫んだ。

 亡き父親と同じ蒼い眼から熱い雫が溢れ、両頬をゆっくりと伝う。

 涙で視界が歪む世界の中―――写真の中の母は柔らかに微笑んでいて………。

 

「―――なんで…………いなくなったの?」

 

 震えた、喉から絞り出すような、細い声。

 それは、残酷な現実に向かって訴えたくなる悲痛の叫びを必死に抑圧させた、苦々しい問い。

 

 膝から崩れ落ち、写真の前にひれ伏せる。

 冷たい床に熱い涙が徐々に溜まっていく。

 喉はカラカラで、頭がガンガン痛くなる。

 

 膝をつき、淋しさと哀しみに涙する姿。

 それは、常に表情を上手くコントロールしているフィールからは想像し難い光景である。

 

 ―――泣いてはいけない。

 ―――私は当主なのだから。

 

 そう、弱る心を叱責するように、狼狽えそうになる時は言い聞かせる言葉をどれだけ自身に掛けても、精神的ダメージは大きくて。

 突然大好きな人を失ったショックとトラウマはいつになろうと、何年経とうと、深く強く刻まれたままで………。

 止めどもなく溢れていく涙。

 何度拭っても、また溢れる。

 端正な顔をぐちゃぐちゃにさせる温かい雫は、彼女の心を冷たく濡らした。

 

♦️

 

 クリスマス休暇が終わり、新学期が始まった。

 新学期に入ったことで、学年末に控えた学年末試験に向けて授業内容は日を積み重ねるごとに厳しく、忙しくなっている。大量に出される宿題の山々に、生徒達は毎日課題消化に追われてストレスやら疲労やらが溜まっていった。

 

 ある日、フィールは図書室の外でネビルがウサギ跳びしながら前進しているのを発見した。

 どうやらマルフォイに実験台として『足縛りの呪い(ロコモーター・モルティス)』を掛けられたらしく、フィールはすぐに杖を抜き出して『魔法強制終了呪文(フィニート・インカンターテム)』を唱え、ネビルに自由を取り戻させる。両足がパッと離れたネビルはその場にへたり込み、泣きながらフィールに礼を言った。

 

「ごめん………本当にありがとう………」

「別に気にすんな。立てるか?」

 

 片膝ついたフィールは手を差し伸べる。

 ネビルはまたまた泣きじゃくり、手を取りながらフラフラと立ち上がった。

 フィールはサッと辺りを見渡す。

 すぐ近くに人が座れる場所が在ったので、そこに覚束無い足取りのネビルを連れて腰掛け、彼が落ち着くまで一緒に待ってやった。何気無くスカートのポケットに手を突っ込んでみると、イチゴミルクのキャンディーが一袋入ってたので、それもまた手渡す。

 

「あ、ありがとう………」

 

 ネビルは小さな袋を開け、飴玉を口に入れる。

 フィールは無言で相槌を打った。

 二人の間に沈黙が流れ―――程無くして、ネビルがポツリポツリと今にも消え入りそうな声で語った。

 

「僕………こうして君に助けて貰ったの、これで何回目だろう。君はマルフォイとかと同じスリザリンに所属してるのに、いつもグリフィンドール生の僕を助けてくれる。………君みたいな人こそが、グリフィンドールに入るべきだったよ。僕なんかとは全然違うんだから………」

「…………………………」

「僕に勇気がなくて、グリフィンドールに相応しくなんて、言われなくてもわかってるよ。マルフォイがさっきそう言ったから………」

 

 すると、そこでフィールが口を挟んだ。

 

「ロングボトム。その人の長所や特色は、全てが全て寮の理念そのものとは限らないぞ。それに全員が全員、各寮の特徴が全部当て嵌まってると言う保証は、何処にもありはしない」

 

 寮で人を決め付けて勝手に判断し、寮に過剰なほど拘り過ぎるのは、それこそ反純血主義者が嫌悪する『純血主義』と何ら変わらない。ただそのものの題材が相違するだけだ。

 

「アンタにはアンタだけの良い所がある。仮にアンタがグリフィンドールじゃない別の寮に入ろうが、それとこれとは話は別だろうが。アンタの美点は誰かがちゃんと知ってる。周りの人間が何と言おうが、決して離れないで傍に居てくれるヤツらの存在が、それを示してるだろ」

 

 フィールは顔を上げてこちらを見るネビルの肩に手を置く。

 

「本人の選択であれ組分け帽子の選択であれ、アンタは『グリフィンドール』と言う、数々の輝かしい歴史を現代に渡って引き継がれてきた由緒正しい寮に組分けされたことに変わりはない」

 

 だから、と。

 フィールは強い眼差しで、ネビルに言った。

 

「―――見せてやれ、アンタの底力を。周りの罵詈雑言なんかに屈するな。アンタはアンタらしく、グリフィンドール寮生としての誇りを持って生きろ」

 

 かつて、ネビルと同じように………自身が所属した寮について思い悩んでいた自分が激励されたスネイプのあの言葉を掛けて、フィールはネビルを鼓舞した。

 ネビルは微かに微笑み、こくん、と頷く。

 

「うん………ありがとう、フィール。ごめんね、前にも君に沢山助けられたのに、『ありがとう』ってお礼言うの忘れてて………これからはもっと早く言うようにするよ」

 

 ネビルはポケットをゴソゴソと探り、『蛙チョコレート』を取り出す。

 名前の通りカエルの形をしていて、アマガエル程度の大きさのチョコレートが、掌サイズの5角形の紙製の箱に1個入っている。

 魔法の力でまるで本物のようにジャンプしたり動き回ったりするが、食べてしまえば普通のチョコレートだ。

 蛙チョコレートには1個につき1枚、『有名魔女・魔法使いカード』がオマケでついてきて、古今東西の有名な魔女・魔法使いの写真とその写真主の簡単な解説がカードの裏面に記されている。

 ネビルは5角形の箱をフィールに押し付けた。

 フィールは「………サンキュ」と受け取る。

 そうして、ネビルはグリフィンドール寮へと帰っていく。

 その足取りは、さっきとは違ってしっかりとしていた。

 

♦️

 

 新学期初のクィディッチ戦・グリフィンドールVSハッフルパフは、審判が突然スネイプに変更されてスリザリン以外の寮生達の間でどよめきの波紋が広がったが、シーカーのハリー・ポッターが僅か5分足らずの最短時間でスニッチを掴まえて前者のチームの勝利でゲームセットし―――それから数週間後、ホグワーツは復活祭(イースター)休暇に突入した。

 

 いよいよ、学年末試験のために本格的に勉強しなければマズいというのを否が応でも現実味に突き付けられ、ホグワーツ生達は苦しんだ。

 イースター休暇前はクィディッチと言う、学年末試験を忘れるには持ってこいのイベントがあったが、一旦熱が冷めると、徐々に試験への不安や緊張が再び芽生えてきたのだろう。

 それぞれの課題や苦手克服のために向かって努力する者もいれば、明日勉強すると言って結局やらない者など………学年末試験に対する行動がそれぞれ異なっていた。

 

 スリザリン生も例外ではなく、談話室では学年問わずテーブルに教科書や羊皮紙を広げて羽ペンを走らせる音が微かに響く。

 他の人と同じように、クシェルは苦手な天文学をフィールに教えて貰いながら、重要点を予習復習用の羊皮紙に纏めていた。

 いつもはフィールを蔑視する生徒も、この時ばかりは試験で落第したくない一心で全教科パーフェクトの彼女に泣き付いてしつこく追い回し、わからない問題をどんどん質問した。フィールは全部の質問に躓くことなくサラサラと答え、わかりやすく説明した。

 

「貴女、勉強してなさそうなのに頭脳明晰ってどういうことよ」

 

 フィールとクシェルが比較的よく話す同級生の女生徒―――ダフネ・グリーングラスは、恨めしそうな眼をフィールに向けた。

 ダフネは鮮やかな黒髪にクールな印象を与える灰色の瞳を持ち、かつ整った顔立ちをしているエレガントな容姿と、名家出身のお嬢様に相応しいノーブルさを兼ね備えていることから、スリザリン内での当たり物件はかなり上の方で、成績も良好である。

 

「別に普通だし、ダフネも充分頭いいだろ」

「全く………貴女、もう少し口の悪さを直しなさいよ。そんなんだから好感度上がらないのよ」

「好感度アップを求めて上品な言葉遣いするとか面倒だし、そもそも合わないだろ」

「そこは否定しないわ。ま、フィールは陰で人気高いから、そのままでも大丈夫そうだけど」

「………前々から気になってたんだけど、なんで人気あるんだ? あれだけ最初は私を忌避するヤツが多かったってのに」

「最近の貴女は、前よりも冷たさや無愛想さが薄れてったからよ。口が悪いのは、相変わらずの欠点だけど」

 

 ダフネはフィールが抱いてきた疑問の質問を丁寧に教え、ふと、彼女の顔を見つめた。

 

「なんだ? 私の顔に、何かついてるのか?」

「いや、そうじゃなくて………フィール、その眼鏡、一度外してみてくれないかしら?」

「は? なんでだ?」

「私、貴女の素顔、まだちゃんと見たことないから一度くらい見てみたいのよ。最近は私以外にも結構貴女の素顔を知りたい人が増え始めてるわ。だから、見せてちょうだい」

 

 ダフネは素顔をよく見てみたいと頼み、フィールは無表情だがリクエストに応じて青のだて眼鏡を外し、顔を向けた。自分から頼んだとはいえ、本来の整いすぎている顔立ちを間近で見たダフネは、ハッと息を呑む。

 

「ちょっ………普段からそれで居なさいよ!」

 

 思わず声を上げてしまい、談話室に居たスリザリン生はテスト勉強中に何事かと、顔をしかめてダフネに眼を向けたが―――その向かい側に座っている黒髪蒼眼の少女の顔を見て、ピキンッ、とフリーズした。

 9月1日のみ、フィールはだて眼鏡を掛けておらず、次の日からはずっと素顔は隠されていた。

 組分け時は全校生徒が見ている前で行われ、その時フィールの素顔は見れた。

 だが、距離の関係上ちゃんとは見れなかった人もいて、その人達はどんな感じなのかと密かに好奇心を募らせていた。

 そして、現在の談話室。それが実現した。

 

「なあ………もしかして、アイツ、ベルンカステルか?」

「グリーングラスの向かい側ってことは、そうだろ?」

「………めっちゃ顔整ってるじゃないか?!」

 

 男子生徒は一気に騒ぎ出す。

 誰だって長期間見れなかった超美形フェイスを急に見せ付けられたら、そのような反応をしてもおかしくない。

 女子生徒も揃って驚愕と羨望の眼差しを向けていると―――。

 

「なんで皆固まってるんだ?」

 

 参考本を図書室で借りてきた上級生達が戻ってきた。戻ってくるが否や、何故か皆が心奪われたみたいに挙動停止しているため、一体何を見ているのかと、目線の先に視線を移す。

 

「………は? おい誰だ!? アイツは?!」

 

 男子先輩は謎の美少女にパニックしたが、

 

「あら? フィール、そっちの方が断然可愛いじゃない」

 

 3歳年上で比較的よく気にかけてくれる先輩、アリア・ヴァイオレットはさしたる驚きはせず、微笑んでフィールの元まで歩くと、くしゃくしゃと頭を撫でた。

 が、その名を聞いた他上級生は仰天する。

 

「はあ!? マジでベルンカステルなのか!?」

「そうだぞ。お前ら、知らないのか?」

 

 新学期初日、フィールの左隣に座っていたスリザリンのクィディッチチームのキャプテン、マーカス・フリントは何をそんなに驚いているんだと言いたげに喫驚する同級生に訊き返した。

 一方、アリアに頭をなでなでされているフィールは彼女を見上げ、ジト眼で睨んだ。

 

「いつまでそうしてるんですか」

「私、妹いないから、貴女を見てると妹みたいに思えてね。クリミアの気持ち、わかった気がするわ」

「………何言ってたんですか?」

「さあ? それはクリミアに訊いてみたら?」

 

 悪戯っ子みたいに笑うアリア。

 フィールは苦笑いし、額に手を当てる。

 お茶目な性格のクリミアと共に生きてきたフィールは、なんとなく察したのだ。

 

「でも、お姉さんで言うなら、やっぱりクリミアが一番かしら?」

「………そうですね」

 

 幼い頃からずっと一緒に居たクリミアには、叔父や叔母にでさえ言いづらいことを話せる。フィールにとって、『血の繋がり』などといったしがらみは意味を成さない。姉だと思える限り、クリミアは自身の大好きな姉であるから。

 

「だけど、こうして妹みたいに見てくれるのは悪くないですよ」

 

 姉、という存在に思い入れがあるフィールからの意外な言葉に、アリアは一瞬驚いた顔をしたが、徐々にはにかむような笑みを浮かべ、

 

「それなら、嬉しいわ」

 

 くしゃくしゃ、とまた後輩の頭を撫でた。

 

♦️

 

 ここ最近は特に何事もなく、平和な日常が流れているだけだった―――とは言えなくなった。

 ある日、フィールはクシェルと一緒に廊下を歩いていたら、大勢の生徒が信じられないと言う面持ちで玄関ホールの片隅に佇んでいるのを発見した。

 まさしく『驚天動地』の四字熟語がピッタリな生徒達のざわついた様子に、フィールとクシェルは顔を見合わせる。

 

「なんだろ、皆して」

 

 クシェルは首を傾げ、フィールは適当に誰かを捕まえて事情を訊いてみた。

 

「何の騒ぎだ?」

「あ、ベルンカステル。なんか、あのハリー・ポッターがグリフィンドールから150点も減点させたらしいよ」

 

 それを聞いたクシェルは「150点!?」と眼を剥いてビックリし、急いで、ホグワーツの4つの寮の点数を記録している巨大な砂時計が設置されている場所を見た。これは先生や監督生などが点数の増減を口にするだけで自動的に砂時計の量が変わるシステムで、グリフィンドールの砂時計にはルビー、レイブンクローにはサファイア、スリザリンにはエメラルド、ハッフルパフにはダイヤモンドが詰まっている。

 

 確かにルビーが昨日より大幅に急減していた。

 が、フィールは何故かルビーだけでなくエメラルドからも50点ほど減点されているのを見て、「は?」と一人訝しい表情となる。

 その時、視界の隅にマルフォイが映った。

 彼は妙に勝ち誇った顔でニヤニヤとハリー達を見ている。

 ―――彼なら何か知っているかもしれない。

 なんとなくそう思った直感的な勘を信じて、フィールは一瞬だけ眼が合ったのを見逃さず『開心術』を発動。マルフォイの心を覗いてみた。

 

(………ドラゴン?)

 

 マルフォイから読み取った思考には、ハグリッドが法律違反を犯してまでドラゴンを秘密裏に育てていたのと、それに関わっているハリー達の姿がハッキリとあった。

 ドラゴンの飼育は魔法界では禁止されているため、悪い意味で重要なことだが、それよりも問題なのは、何故ハリー達が絡んでいるかである。

 一瞬しかマルフォイに対して『開心術』を使用出来ず、残念ながら一部始終は読み取れなかったため、ここからは推測だ。フィールは思考をフル回転させ―――あることを思い出した。

 

(……………あ、そういえば―――)

 

 前に、クリミアとソフィアからこんなことを聞いたことがあった。

 それは、ロンの家族についてだ。

 赤毛が特徴的の純血の一家・ウィーズリー家は大家族らしく、ロンには五人の個性的な兄がいるそうだ。

 現在、ロン以外でホグワーツに通っているウィーズリー家の生徒はグリフィンドールの男子監督生パーシーと双子の兄弟フレッド&ジョージで、前者は1学年上の先輩、後者は1学年下の後輩という関係らしい。

 そして、ハリーや自分が入学する前、次男のチャールズ(通称:チャーリー)というクィディッチではシーカーを務めるほど運動神経抜群でアウトドア派な人が在学していたらしく、卒業後はドラゴンキーパーとして現在ルーマニアで働いているとか。

 

(…………なるほど、そういうことか)

 

 フィールは、こう推測した。

 ハリー達は、秘密裏にドラゴンを育てていたハグリッドがだんだん自分だけでは手に負えなくなったのを見かねてなんとかしてあげようと思い、ロンのお兄さんの一人がドラゴンキーパーだからその人に頼もうと協力し、結果的に快く引き取って貰えたが、その帰りで副校長のマクゴナガルに見つかってしまい、同時に無断外出をしていた彼らを捜していたネビルも見つかり、1人50点、それを合わせて150点の減点を食らった。

 そして、何故スリザリンからも減点されているかというと―――マルフォイも無断外出をしていた生徒だったため、同罪ということから彼の寮からも50点引いた………と、どこぞの名探偵並みの推理力を発揮した。

 

「ポッター達が馬鹿やらかしたおかげで、私らは首位になったってこと。これで今年の寮杯は確定したのも同然ね」

「………そうか」

 

 フィールは事情を聞き終えると、黒色のローブを優雅に翻してその場を立ち去り、クシェルは慌てて彼女を追い掛けた。

 フィールは肩越しからハリー達を振り向く。

 彼等はグリフィンドール生から非難の言葉を浴び、ハッフルパフ生とレイブンクロー生からは連勝しているスリザリンから寮杯奪取の期待を裏切られたと蔑まれ、スリザリン生からは皮肉な言葉で礼をされていた。

 

「ったく、本当にくだらないな。脳内お花畑なのかよ、ホグワーツ生は」

「フィー?」

「ハリーに対する英雄扱いがまるで嘘みたいに変わった。掌返しもいいところだな」

 

 そもそも、何故責めてばかりなんだ?

 誰だって自分が原因で減点されたことは一度や二度あるだろうし、それこそ中には今回のことと匹敵するレベルの行為をしたヤツだって過去を遡れば幾らでもいるだろう。程度の違いを除けば、全て引っ括めて同じことだ。

 それに、なんでハッフルパフとレイブンクローはハリー・ポッターがグリフィンドールに所属した瞬間、彼なら6年間連続で寮杯獲得しているスリザリンからその座を奪えるのではと勝手に期待を掛け、大幅に点数を下げたら軽蔑の眼差しを向けるのだろう。寮杯獲得のチャンスだと燃え上がってもいいのに、ハリー達を責め立てるのおかしい。

 クシェルは苛立ちを含んでそう言ったフィールに少し驚いていたが、

 

「フィー。誰かのために怒れることはいいことだよ。フィーがそうしてくれるなら、ポッター達も救われるんじゃないかな?」

 

 と、フィールが誰かのために怒ったのを見て微笑みをかけ、彼女はぱちくりしたが、フイッと顔を背け、

 

「………ああ、そう」

 

 少し長めの前髪を掻き上げた。

 クシェルはそれが照れ隠しであったらいいなと思いながら、フィールの隣に並んだ。

 

♦️

 

 学校で最も人気があり、称賛の的だったハリーは一夜にして突然、学校で一番の嫌われ者になっていた。それまで良好的な関係だったレイブンクローやハッフルパフでさえ、一瞬にして彼の敵に回った。スリザリンから寮杯を奪うのを楽しみしていた反動は凄まじく、何処へ行っても皆はハリーを指差し、声を潜めることもせずおおっぴらに悪口を叩いた。

 その一方でスリザリン寮生はハリーが通る度に拍手をし、口笛を吹き、

 

「ポッター、ありがとよ、借りが出来たぜ!」

 

 と意地の悪い満面の笑みで囃し立てた。

 苦しんだのはハリーだけでなく、ハーマイオニーとネビルもだ。

 二人はハリーみたいな有名人ではなかったのでハリーほど辛い目には遭わなかったが、それでも誰も二人に話し掛けようとはせず、いつもなら当てられなくても挙手するようなハーマイオニーでさえ、皆の前で注目を引く行為は止め、俯きながら黙々と勉強に取り込んだ。

 そんな居心地悪い時間が続いたある日―――ハリーはフィールと遭遇した。

 

「あ………フィール………」

 

 ハリーは決まり悪そうな顔を浮かべる。

 フィールは相変わらず無表情であった。

 が、どこか心配そうな瞳で覗き込んでいる。

 

「………大丈夫か?」

「え………あ、うん………大丈夫」

「ウソつけ。その顔は大丈夫じゃないだろ」

「………………」

 

 ハリーは返事をする変わりに項垂れる。

 フィールは一つため息を吐くと、周りに誰も居ないのを確認してハリーにこう問い掛けた。

 

「この後、暇か?」

「え? まあ、うん………暇だよ。それがどうかしたの?」

「なら、私について来い」

「え………?」

「このまま寮に帰りたいなら、話は別だけどな」

 

 ハリーは少し考え込む。

 フィールの意図はイマイチだが………今すぐ談話室に帰るよりはマシに思い、彼女の後をついていくことに決めた。

 

 ハリーが連れてこられたのは、1階のサンルームであった。此処は屋根と壁面がガラス張りになっているために、ホグワーツ城を囲む大自然の景色を展望するにはうってつけの場所だ。

 そこでハリーは、フィールに勉強を教えて貰っていた。フィールの教え方はとても上手く、下手な先生に話を聞くよりもずっと効率的で、何倍もわかりやすかった。

 

「あのさ、フィール」

「なんだ?」

「なんで、フィールは普通に接してくれるの? 他の皆は僕のことを忌避したり、軽蔑したりするのに………」

 

 課題の目処がついたところで手を休めていたハリーは、ずっと気になってた質問をフィールに投げ掛けた。フィールはコップに入ったオレンジジュースで喉を潤してから、自分の気持ちを素直に話す。

 

「普通に接して何が悪い? 他の連中がアンタやグレンジャーの悪口を叩こうが、私には全く持って無関係だ。逆にアイツらに訊きたいよ。ちょっとやそっとで友人を突き放すなんて、そんなの友情の欠片も無いなって」

 

 ハリーはフィールの言葉に眼を丸くする。

 随分と遠回りな言い回しではあるが、つまりは「私達は友達なんだから突き放す理由がわからない」と言ってくれてるのだ。

 不器用ながらもそう伝えてきたフィールに、ハリーは驚きと喜びが織り交ぜになる。

 

「誰しも一度や二度くらい、大きなミスや過ちを犯してしまうのは、人間である以上避けては通れぬ道で仕方ない。誰だって自分が要因で減点されたことはあるだろうし、それこそ中には今回のことと同列の校則違反をしたヤツだって、過去を遡ればゴロゴロいるだろ。レベルの高低を除外すれば、全て引っ括めて同じだ。大事なのは、そこからどうするべきかを考え、行動で示すことじゃないか?」

 

 フィールはハリーにマカロンを手渡す。

 マカロンはフィールの好物だ。

 

「責任を感じるなら、授業やクィディッチで少しでも点数を稼げ。このまま何もしないで過ごすよりは、そっちの方が有意義だと私は思うぞ。でも今は学年末試験へ向けての対策だけを心配して、他は一切考えんな」

「うん………そうだね。ありがとう」

 

 マカロンを受け取ったハリーは微笑む。

 フィールの前では自然と全身の緊張が取り除かれ、気付いた時には、数日ぶりにリラックス出来てストレスが解消されていた。

 

♦️

 

 150点も減点されたハリー達だったが、彼等にはまだ受難が続いた。処罰として『禁じられた森』に行くよう命じられ、生徒達が寝静まる夜中の11時にハグリッドの小屋前に集合だ。森を熟知しているハグリッドが同伴しているとはいえ、危険極まりないことこの上ない。

 

 処罰の内容は、禁じられた森の何処かに居るユニコーンを保護すること。

 最近ユニコーンが立て続けに何者かに傷つけられ、今週になってもう2回目らしい。数多の危険生物が住まう上に不気味な存在がひっそりと隠れているかもしれない禁じられた森に行くと聞かされて逃げ出したくなるのは、人間の本能を考えれば無理のないことである。

 しかし、今行かなければその分無駄に延期されるだけなので、ここはもう、腹を括って向かう他ないだ。

 

♦️

 

 そして、現在―――。

 ハリーはその不気味な存在が眼前に迫っている状況下に不運にもぶち当たり、恐怖で身体が硬直して立ち竦んでいた。

 マルフォイとボディーガードのファングと共にユニコーンを捜していたハリーは、数十分後、森の奥深くで信じられない光景を見た。

 

 暗闇の中でも純白に光輝くユニコーンが死骸となって地面を転がっており、その血を頭をフードで覆った何者かが血を啜っていたのだ。気配に気付いたそいつはこちらへ顔を向けてきた。ユニコーンの血で顔を染まらせ、ギラギラと炯眼を持って射抜いてくる。

 

 マルフォイとファングはその姿に恐れをなして一目散に逃げ出し、ハリーは身体が震えて身動きが取れなかった。完全に動けなくなったハリーへ、その影は近付いてくる。

 接近される度―――額の傷痕が痛み、警報のようにガンガンと頭を激しく貫く。恐怖と苦痛に苛まれる彼へ無慈悲なまでに目前に近付いた、その時。

 

 

 

「―――ステューピファイ(麻痺せよ)!」

 

 

 

 突如………深い闇が支配する森の中で鋭く、だが、凛とした少女の声が響いた。

 空中を飛来し、謎の影に向かって放たれる真紅の閃光。

 ハリーへ近寄っていた影はその場から『姿くらまし』をして回避し、数十m先に『姿現し』で現れ、距離を取った。

 

「あ………き、君は…………」

「………なんとか、間に合ったか」

 

 今度は、ホグワーツの制服である黒のローブを羽織り、白のワイシャツに緑のネクタイを締める黒髪の少女が目前へ降り立った。

 月光で照らされる、端正な顔。

 その人物は、ハリーの知る限り最も強くて頼りになる―――蛇寮の友人。

 

「フィール………!?」

 

 フィール・ベルンカステルが、得体の知れない何かから庇うように恐れることなく自分の前に立ち、油断なく杖を構えていた。

 闇と同化し、風に黒い髪を靡かせる後ろ姿。

 敵を威嚇するような威圧感が滲み出る攻撃的な雰囲気を、今の彼女は身に纏っていた。

 

「さて………はじめまして、なんて呑気なことは言ってられるほどの相手ではないよな?」

「………………」

「なんだ、黙りか? 失礼なヤツだな」

 

 緊迫した状況には不釣り合いな、余裕綽々の態度。だが、その眼は笑ってない。もしも相手が襲ってきたら、容赦なく仕留めるだろう。

 

ディフィンド(裂けよ)!」

プロテゴ(護れ)!」

 

 得体の知れないナニかは奇襲で『切断呪文』を撃ってきたが、それはフィールが咄嗟に展開した半透明のバリアによって防がれる。

 

「―――ッ!」

 

 フィールは一瞬顔を歪めたが、すぐに表情を取り繕い、

 

フリペンド(撃て)!」

プロテゴ・トタラム(万全の守り)!」

 

 フィールは『攻撃呪文』で反撃し、今度は謎の影が魔法防壁で身を護る。だが、先程と違うのは彼の出した防壁に亀裂が入り込んだことだ。フィールが放つ魔法は一発一発が強力なので、強固なバリアでなければ容易く貫通する。謎の影はただ単に手を抜いてたのか、それとも堅固な作りにする余裕が無かったからなのかはイマイチだが、どちらにせよ、有利になったのはフィール側だ。

 

 ハリーは、この戦いの結末はフィールが勝つと確信した。彼女の前ではどんな猛者も弱者同然だと、いつの間にか恐怖心が何処かへ飛び去った。

 フィールと謎の影がそれぞれ魔法を発射しようと杖を振るおうとしたが―――ハリーの名を叫ぶハグリッドの声が割り込んだ瞬間、謎の影は光の速さで踵を返し、更に奥深くの夜の闇へと行方を眩ました。

 

「ちっ………逃げたか」

「フィ、フィール………その、ありがと」

「気にしなくていい。大丈夫か?」

「うん。あの、なんで此処に………?」

「それを教えるのは後日になる。此処に居るのをハグリッドに見られたら面倒だ。とりあえず、言えることはアンタを助けに来た。それだけだ」

 

 フィールはハリーとの会話を数秒で切り、その場から霧のように姿を消す。ハリーは突然のことにしばらくはその場を眺めていたが、ハグリッドとハーマイオニーが現れたのをきっかけに思考が再起動した。

 

♦️

 

 ハリー達が禁じられた森に入る少し前―――フィールはスリザリン寮にある二人部屋に居た。

 クシェルはついさっき寝、さあ自分も寝るかとセーターを脱ぎ、ネクタイを解いた。

 が、ふとあることが気になって、手を止めた。

 

(…………禁じられた森…………)

 

 そう、今夜はハリー達が罰則として禁じられた森に行く日だ。そしてそれは、ちょうど今の時間帯である。

 フィールも、最近ユニコーンが立て続けに襲われているとの噂は知っている。

 ユニコーンの血は、死にかけていた者でも蘇らせる命の血。だが、その代償は凄まじく、一口でもそれを口にしたら『生きながらの死』という恐ろしい呪いが掛かる。

 そんなことを知ってた上でやるなど………どう考えても、何か目的があるからとしか到底思えない。

 そして、フィールはその目的を薄々感付いている。だからこそ、危惧しているのだ。

 

(こんなことするのは柄じゃないけど―――)

 

 気になったことをほったらかしにするのも後味が悪いし、これがもしも最悪の結末を迎えるなんて事態になったら、シャレにならない。

 なので、フィールはネクタイを締め直すとヒップホルスターから杖を抜き出し―――そっと部屋を退室すると、静まり返ったホグワーツ城から蛇のように気配を殺して無断外出し、ハリー達が出向いた禁じられた森へ急行した。

 

♦️

 

 得体の知れない何かを撃退した後―――。

 ハリーと別れたフィールは、ホグワーツ城の7階にある空き部屋に居た。

 室内全体に物音や気配を遮断・隠蔽させる『認識阻害魔法』を張り、そこで休憩する。

 

(まさか、本当にあんなヤツが居たなんて………驚きものだな………)

 

 アイツを逃してしまったのは痛手だが、これでわかったことがある。

 やはり、ホグワーツ城内の何処かにあるのだ。

 あらゆる金属を金に変えたり、命の水(不老不死の霊薬)の源になると信じられた石―――賢者の石が。

 あの謎の影は、賢者の石を手にするまでの期間中に息を引き取らぬよう、恐ろしい呪いが掛かるのをわかっている上でギリギリの路線で生命活動を維持しているのだ。

 そのための糧として、ユニコーンが犠牲となっているのだろう。これは許しがたい罪だ。

 

「大丈夫かのう? ミス・ベルンカステル」

 

 突如、背後から誰かの声が耳を打つ。

 フィールはハッと顔を上げて反射的に大きく飛び退き、杖を構えた。

 そこで、目の前に居た人物が誰なのかを知る。

 この学校の校長―――アルバス・ダンブルドアであった。

 

「………ダンブルドア………校長」

「こんばんは、ミス・ベルンカステル」

「……こんばんは、ダンブルドア校長」

 

 ひとまずは杖をヒップホルスターに仕舞い、フィールは大きく息を吸って壁に背を預けた。

 

「………いつから、此処に?」

「ついさっきじゃよ。夜の散歩をしておったら、何も無いはずの空間でこの部屋の扉が開いたのを見掛けて、もしやと思うてな」

「………そうですか」

「して、ミス・ベルンカステル………否、フィールよ。君は先程まで、何処に行ってたのじゃ?」

 

 その問いに、フィールは返答に戸惑う。

 「禁じられた森に行ってた」など、教師に対してバカ正直に答えられるだろうか。

 

「……………………」

 

 なので沈黙を守っていると、ダンブルドアは視線をフィールの顔から手元に移した。

 

「その腕の傷は何処で負ったのかのう?」

「………っ」

 

 暗がりの中で息を呑む音がハッキリ聞こえる。

 そう、フィールは今、腕を怪我していた。

 謎の影が『切断呪文』で不意打ち攻撃を仕掛けてきた時、フィールは咄嗟に『盾の呪文』を唱えた。

 しかし、一瞬だけ杖を振るった際におもむろに露出したワイシャツの袖部分が切り裂かれ、血が滲んでしまった。

 さっき余計に力を入れたせいで傷口が開き、そこから血がまた溢れている。今のフィールの白い右手は指先まで紅い血で濡れていた。彼女の指先から、紅い血液が床に滴り落ちる。

 

「……………ついさっきまで、私は禁じられた森に行ってました」

 

 言い逃れ出来ない証拠がある以上、嘘ついてもバレるし、無意味だと判断したフィールは、素直に白状した。ダンブルドアはわかっていたのか、厳しい顔付きになる訳でもなく、ただ黙って聞く姿勢である。フィールは続けた。

 

「………ハリーを襲う寸前だった得体の知れない謎の影と軽く一戦交えて、そこで―――」

「腕を怪我した、とのことじゃな」

 

 フィールが言おうとした言葉の続きを、ダンブルドアが繋げる。彼女は頷いた。

 

「………減点されるのは覚悟しています」

「いや、減点などせんよ。むしろ加点しなくてはならない」

「………どういう意味ですか?」

「危険を顧みず、自らの意志で闇と恐怖が支配する場へと赴いたその勇気と行動力に、スリザリンに50点じゃ」

 

 ダンブルドアは、予想外の展開に唖然とするフィールへ朗らかに笑い掛ける。

 

「………変わってますね」

 

 フィールは力無く笑い、いい加減鉄の匂いが微かにする周囲の空間をどうにかしようと、腕の怪我を治療し、床に溜まった血溜まりを綺麗さっぱり拭い去った。

 

「私は夜に無断外出した………それは許容範囲じゃないのでは?」

「今回は、わしが許そう」

 

 ダンブルドアは、無謀とも馬鹿とも言える行動を起こした目の前の校則違反者へ、真夜中に無断外出したのを許可した。

 フィールは本来であればバリバリ減点されてた行いをしたのにそれを見逃してくれた校長へ、不思議そうな眼差しを送る。

 

「夜更かしは身体に悪い。今夜はもう寝なさい」

「ええ………ありがとうございます」

「なに、気にせんでいい」

 

 フィールはダンブルドアへ一礼すると、彼の脇を通り過ぎ―――スリザリン寮まで静寂に包まれた城内を再び蛇のように気配を殺して帰った。




【ホグワーツで逃走中】
ハンター:クシェル
逃走者:フィール

【フィニート・インカンターテム】
この作品では『解除呪文』or『魔法強制終了呪文』と表記。
ペトリフィカス・トタルスを『全身金縛り呪文』or『凍結呪文』と表記するのと同じ。

【ネビルを鼓舞したフィールの言葉】
ネビルからしてみれば、ボガートで自分の一番怖いモノとして変身したくらい恐怖心抱いてるスネイプの言葉とは、到底信じられないですよね。ま、フィールは教えてませんけど。

【素顔のフィールに皆はアンビリバボー】
数ヵ月間も美形フェイスを見てこなかったもの。
そりゃ誰だってビックリするわ。
そしてこれを機にだて眼鏡は本編からおさらば(ただし画面外では掛けてるでしょう)。

だて眼鏡「解せぬ」

【寮の点数を記録した巨大な砂時計】
グリフィンドール:ルビー
ハッフルパフ:ダイヤモンド
レイブンクロー:サファイア
スリザリン:エメラルド

【お勉強会】
これでもフィールは他人へ対し優しくなった。

【ハリーをレスキューするフィール】
クィレル「逃げるんだよォ!」

【50点の減点&加点】
原作の20点⤵️ではなく映画の50⤵️。
フィールのおかげでフォイフォイが減点した点数をそのまんま奪還。
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