【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
ハリー達の罰則が終了した後、特にこれといった出来事はなく、学年末試験を迎えた。
魔法史、薬草学、天文学、闇の魔術に対する防衛術は筆記試験のみ。
呪文学、変身術、魔法薬学は筆記試験と実技試験の両方を行う形だ。
呪文学の実技試験はパイナップルを机の端から端までタップダンスさせるという内容で、実に簡単であった。
変身術の実技試験は鼠を嗅ぎ煙草入れに変身させるというもので、見た目が美しければ美しいほど点数は上がる。
フィールは、スリザリンのイメージで銀製で蛇の彫刻や装飾が施された嗅ぎ煙草を作り出し、マクゴナガルは文句無しの出来映えに厳格な顔を称賛に変え、拍手した。
魔法薬学の実技試験は魔法薬の調合。
これは手順さえ覚えていれば問題ないので、暗記が得意不得意の人で差が生まれた。
♦️
「やったーっ! テスト全部終ったーっ!」
全ての試験が終わり、結果発表までは自由に過ごせるため、今日この日まで試験勉強三昧だったホグワーツ生は皆晴れ晴れとした笑顔で談話室に辿り着くまでの時間を使って友人達と談笑したり、それまで我慢していた趣味に興じたりなどしてストレスを発散した。
大きく伸びをするクシェルの目尻には涙が滲んでおり、フィールは思わず小さく笑った。
「お疲れ、クシェル」
「もう疲れた………」
「ま、無事終ったんだしいいだろ」
「それもそうだね」
あっさり立ち直ったクシェルは、
「フィーはどうだった?」
「何の問題もなかった」
「うん、やっぱりね。フィーだけだもん。スリザリン内でケロッとしてるのは」
学年末試験当日の朝、いつもは騒がしい朝食時間もその日ばかりはとても静かで、生徒は誰もが朝食そっちのけで教科書を開いたり閉じたりして内容を暗唱したり、杖を振るいながらブツブツ言っている中―――フィールやクリミアといった極僅かな生徒は普段通りのペースを保って朝食に手をつけ、いざ本番になっても一ミリたりとも緊張はせず、全教科の試験内容を完璧に終わらせた。
「ホント、その余裕と頭脳を分けてよ」
「クシェルだって、充分出来てただろ」
実技関連はトップクラスに食い込み、筆記もやれば出来るタイプのクシェルは10番以内に入っているだろう。
「そういや、フィー。来年も魔法の手解きよろしくね」
「ああ、いいよ」
「やった!」
クシェルははしゃいだ様子になり、フィールは微笑した。
「最低限覚えた方が役立つ呪文は粗方身に付けてるし、あとはクシェルの自由にして構わない。何か教えて欲しい呪文あったら教えるぞ」
「教えて欲しい呪文かぁ………来年の訓練する初日まで考えておくよ」
「ああ、わかった」
そうして、フィールとクシェルはブラブラ散歩でもしようかとのことで行く当てもなく歩いていたら、副校長のミネルバ・マクゴナガルと遭遇した。
「あ、マクゴナガル先生」
「こんにちは。ミス・ベルンカステル、ミス・ベイカー」
マクゴナガルは二人の姿を見ると、流石というかなんというか、副校長の名に相応しい礼儀正しい挨拶をしてきた。二人も「こんにちは」と挨拶し返す。
「これから何処へ?」
「気分転換に散歩でもしようかと」
「そうですか。………今年の学年末試験も終わりました。残り少ない学期を存分に楽しみなさい」
「はい、そうします」
厳格なマクゴナガルからの意外な言葉に二人は驚いたが、これが彼女なりのテストを頑張った生徒への励ましなのだろうと思い、柔らかく笑みながらマクゴナガルの横を通り過ぎた。
「………………」
フィールとクシェルが横を通り過ぎてから数秒後………マクゴナガルはゆっくりと、後ろに振り返った。
眼に飛び込んでくる、黒髪と茶髪の少女の背。
今の教え子二人の背中が、かつてこの学校で魔法を学んでいた教え子二人の後ろ姿とオーバーラップし―――懐かしさと苦しさに、緑色の眼を複雑そうに細めた。
「………クラミー・ベルンカステル…………」
今は亡き、あの黒髪の少女の母親。
その女性の名を呟いたマクゴナガルは誰も居ない空間で一人呟いた。
「貴女の娘はこの学校でまことの友を作り、そして大切にしようとしています。………どうか天国から見守ってあげなさい。それが母親と言うものですよ」
♦️
フィールとクシェルは寮に戻る途中、ハリー達一行がマクゴナガルを引き止めて、何かを必死に訴えている光景を発見した。
「ん? どうしたんだろ?」
クシェルは切羽詰まった感じの様子のグリフィンドール三人組に首を傾げる。が、フィールは「賢者の石関連か?」とシックスセンスが働いた。
(………なんだろ、胸騒ぎがする)
フィールの中で、警鐘が鳴っている。
まるで、今日を過ぎれば平穏の時間は何処かへ消え去っているような………嫌な予感が。
「ところでさ、フィー、大丈夫?」
「え、何が?」
クシェルが突然そう尋ねてきたため、フィールはなんのことかわからず戸惑った。
「だって、フィー、今日まであまり寝られていなかったじゃない。大丈夫?」
学年末試験前日までの朝昼晩、スリザリン生達に勉強を見て欲しいと頼まれたフィールはここ数日間はまともに睡眠時間を取ってはおらず、クシェルは心配だった。顔色を覗いてみれば、注視しなければ気付かれない程度に目元に隈が出来ている。
「大丈夫だ。今日は部屋でゆっくり休むし」
「うん。その方がいいよ」
(ま、それは明日になるかもけどな)
フィールはクシェルの手前、とりあえずは建前上の言葉で誤魔化し―――今晩、自分の勘に従ってみようと計画を立てた。
♦️
生徒達が寝静まる深夜の2時。
スリザリン寮にある女子用の二人部屋の内、一人はぐっすりと熟睡中だったが、一人は仮眠を取ったらすぐに寝間着から制服へと着替え、ヒップホルスターに杖を仕舞ったら『目くらましの術』を掛けてそっと寮を抜け出した。
姿を消している女子生徒が向かう先は、4階廊下の右側。
彼女は立ち入り禁止の扉を開ける。
(ケルベロス、やっぱりまだ居るか………)
巨大で頭が3つある番犬―――ケルベロスは血走った眼で見えない侵入者に警戒する様子であり、さてどうしようかと考えていたら、侵入者の視界の隅にハープが設備されているのを捉えた。
(これを鳴らせばいいのか)
杖を一振りしてハープに魔法を掛ける。
ハープが美しい音楽を奏で始めると、途端にケルベロスは深い眠りに落ちた。
(いやこれは呆気なさすぎだろ)
セキュリティ的に初っぱなから問題だなと思いつつ、ケルベロスの足元を退かすと、
(ビンゴ)
隠し扉があった。
どうやら、この前見たこれは見間違いではなかったらしい。
侵入者はしゃがみんで扉を開ける。
真っ暗で、底が見えなかった。が、進撃するためならば躊躇しない神経を持つ侵入者は迷うことなく飛び降り―――柔らかな素材を足元から感じ、咄嗟に『
「悪魔の罠か」
悪魔の罠。暗闇と湿気を好み、巻き付いた生物を絞め殺そうとする植物で日光が弱点。
「
日光を出現させると途端に植物は弱まり、身体が降下した。
侵入者はPKロール(着地時に回転して衝撃を分散させる受身)をして、立ち上がる。
そして、同時に『目くらましの術』も解いた。
ここから先は別に透明化する必要はないと判断した侵入者―――フィール・ベルンカステルは、奥に続く一本道を進もうと足を一歩踏み込んだ瞬間、頭上から少年少女の焦った声がした。
どうやら、同じ目的意識のハリー達一行のご到着らしい。
フィールはすぐさま回れ右をし、
「
上方に杖を向け、目映い光を放出。
悪魔の罠からハリー達を救い出す。
突然の落下に身構えるのが遅れた彼らは固い床に身体を叩き付けられ、呻き声を上げた。
「痛ッ………えっ、フィール!?」
ハリーは目の前に蛇寮の友人が立っていることに明るい緑の眼を瞠若し、ロンとハーマイオニーも揃って驚く。フィールはそれに構わず、彼らを助け起こした。
「やっぱり来たか、三人も」
「やっぱりって………え?」
「試験が終わった後、副校長に訴えていたのを見てなんとなく賢者の石絡みかと予想はしたけど、本当だったみたいだな」
「………フィール、賢者の石が此処にあるって知ってたの?」
「図書室でニコラス・フラメルのこと訊いてきたし、私が『賢者の石』と言ったら、ハリー叫んだだろ」
「あ、そうか………」
ニコラス・フラメル。著名な錬金術師で『賢者の石』の製造に成功した唯一の魔法使い。ダンブルドアと共同研究を行ったことでも有名だ。
「なんて、無駄話が過ぎたな。早く賢者の石を護りに行かないと危険だ」
フィールは自分が此処に来た目的を告げ、さっさと歩いていく。
が、慌ててハリーは彼女の肩に手を置き、引き留める。
「待ってくれ、フィール。君も此処に来たってことは、何か目的があるのかい?」
ハリーはフィールの眼を見つめた。
交錯する、緑と蒼の瞳。
フィールは蒼色の眼を細め、ハリーの緑色の眼を真っ直ぐ見返しながら、淡々と答える。
「言っただろ? 私は賢者の石を護りに来た。それ以外の理由はない」
「君は本当に、スリザリン生かどうかを疑うよ。………フィール」
「なんだ?」
「僕達に、力を貸してくれない?」
ハリーだけでなく―――ハーマイオニーもフィールに近寄り、その手を握って真っ直ぐ眼を見つめる。
その瞳に宿るのは警戒や疑惑の色ではない。
『賢者の石を死守する』………その目的が一致しているからこそ、自分達に加勢して欲しい。
言葉として口に出されずとも、フィールにはわかっている。
わかっているからこそ、彼女は「勿論」と返事する代わりにハーマイオニーの手を握り返した。
「此処に居る時点で仲間なんだし、力を貸すよ。おい、さっさと行くぞ。早く行かないと、護れるものも護れなくなるだろ?」
フィールの不敵な笑みと力強い言葉に、ハリーとハーマイオニーはパアッと明るく笑って首肯する。
スリザリン生が仲間入りすることにスリザリン嫌いのロンは訝しいのか、警戒するような眼を向けつつも渋々といった様子で、首を縦に振った。
その後四人は暗い道筋を進み、天井が高い部屋に出た。その部屋は無数のカギドリが空を飛び回っていて、部屋の奥には扉があり、ドアノブに手を掛ける。が、やはりと言うかなんと言うか、鍵が掛かっている。室内に古ぼけた箒が一つあるということは………。
「きっと、あのカギドリの中に本物の鍵があるのね。それを箒に乗って見つけろってことかしら」
「そうだな。そして扉が銀製ってことは、本物の鍵も銀製………一つだけ、他とは違うはすだ」
ハーマイオニーとフィールの呟きから、ハリーは空を見上げる。
彼は今世紀最年少シーカーだ。
すぐに扉の鍵だと思われるカギドリを発見し、箒に跨がっていとも簡単にキャッチし、四人は次の部屋に入った。
そこには、巨大なチェス盤があった。
四人は黒い駒の側に立っている。チェスの駒は四人よりも背丈が高く、黒い石のような物で出来ていた。部屋のずっと向こう側に、こちらを向いて様々な形の白い駒が待ち構えている。
「向こう側に行くにはチェスに勝つ必要がある。きっと僕達が黒いチェスの駒の役目を担わなきゃいけないんだ」
「なるほど、そういう仕掛けか………面倒だ。強行突破する」
所詮は破壊してしまえば、無意味に終わる。
フィールは『完全粉砕呪文』をド派手にかましてやろうと、一歩前へ踏み出したが、
「ベルンカステル、待て。チェスの仕掛けは僕にやらせてくれ」
スリザリン大嫌いなはずのロンがフィールの肩を掴み、強引に突破しようとした彼女を止めた。
フィールは杖を振り下ろし、背を見せている状態をいいことに、どういう風の吹き回しかと怪訝な顔を浮かべていたが―――
「そうか。なら、此処はアンタに任せるぞ」
と、自らクリアしてみせると言ったロンの言葉を信じ、大人しく身を引いた。
ロンは黒のナイトに近付き、手を伸ばして馬に触れる。すると―――石に命が吹き込まれ、馬は蹄で地面を掻き、兜を被ったナイトがロンを見下ろした。ロンは考えを巡らせる。
「君達、あまりチェスが得意じゃないだろ? 気を悪くしないで欲しい。ハリーはビショップ、ハーマイオニーはその隣のルーク、ベルンカステルはクイーンと代わってくれ。僕はナイトをする」
数十秒後―――チェスに関する才能は人一倍高いロンは三人をそれぞれの駒と交代するよう指示し、全員が持ち場に着いた瞬間、ゲームがスタートした。
ゲームはロンの指示通りに進む。
互いに取って取られての一進一退といった戦況であったが、ロンが優勢であった。
そして―――ロンはチェスの罠を越えてハリー達を次の試練へ進ませるため、自ら犠牲を払う道を選んだ。彼は白のクイーンに頭を殴られ、盤の外へ吹き飛ばされる。
ハーマイオニーは悲鳴を上げ、フィールは顔を引きつらせ、ハリーは震えながらもキングの前に立ち、チェックメイト。
キングは自分の王冠を脱ぎ、ハリーの足元へ投げ捨てる。チェスの駒は左右へ別れて前進するための扉の道を開けた。
すぐさまハリーとハーマイオニーは倒れている親友の元まで駆け寄った。フィールも駆け付け、傷を治す。止血しているのを確認したら、二人は安堵の息を吐いた。
「気絶しているだけだ。先に行くぞ」
「そうね。私達を先に行かせるために身を張ってくれたロンのためにも、行きましょう!」
ハーマイオニーは気合いを入れ直し、ハリーもそうだと大きく頷く。フィールはローブを脱いで気絶しているロンの身体に掛けたら、次なる部屋へと続く扉に手を掛け、慎重に開けた。
扉を開けた瞬間、ハロウィーンの事件が思い起こされる酷い異臭がした。ハリーハーマイオニーはローブの袖を引っ張り、ローブを着ていないフィールは代わりに左腕で鼻を覆う。
部屋の中に入ると、ハロウィーン時よりもデカいトロールが倒れていた。ハーマイオニーはトロールが寝転がっているのを見て、10月31日に植え付けられたトラウマを思い出されたのか、一瞬喉を鳴らした。
「はぁ、よかった。戦わずに済んで―――」
「―――いや、戦うことになったな」
ハリーの安心感で満ちていた言葉は、トロールが微かに動いたのを見逃さなかったフィールの発言と共に儚く散っていく。トロールが最悪なタイミングで意識を取り戻し、フラフラと起き上がった。
「嘘でしょ!?」
「そんなッ!!」
ハーマイオニーとハリーは意想外の展開に喫驚したが、フィールは冷静そのもの。まるで予想していたかのように一切戦くことなく臨戦態勢を取り、二人の前に立つ。
「二人共、早く下がれ。此処のトラップは私がブレイクスルーする」
フィールの強さを目の当たりにしているハリーは、瞬時に此処は素直に彼女に従って任せるべきだと判断し、ハーマイオニーの手首を掴んで邪魔にならないよう後退する。が、その顔は心配そうで、ハーマイオニーなんかは堪らず声を上げた。
「待って! それだと貴女が危険なのよ!?」
「問題無い。コイツを始末するまでは絶対に前へ出るなよ」
背中越しから鋭く忠告し、杖を構え直した。
フィールは眼を閉じ、意識を研ぎ澄ませる。
「
次の瞬間、杖を翳した先の空間に真っ黒な穴が出現した。フィールはそこに飛び込むと、瞬間的に離れた場所―――トロールの背後に現れた。
今のはフィールが開発した『
ホグワーツ城は『姿くらまし/姿現し』を無効化させる魔法で覆われているので、ダンブルドア以外の者の使用は到底不可能だが、屋敷しもべ妖精流の『姿くらまし/姿現し』は魔法使いとは本質的に資質が異なるので、敷地内でも出来る。
そのヒントを基にして発明したのが、今しがた使ったオリジナルの『空間移動』である。これは屋敷しもべ妖精流の『姿くらまし/姿現し』と同様に魔法使いのそれとは全く違うので、たとえホグワーツ敷地内に居ようとも、フィールは瞬間的に離れた場所へ転移することが出来るようになった。
一見すると超便利でメリットだらけに見えるこの能力、実はデメリットがかなり多い。
まず、使用者の記憶にインプットされている場所でなければ、その能力は全く持って発揮されない。しかも、身体に掛かる負担は大きく、それは遠距離になればなるほど倍になる。
(ちっ………やっぱ、完成度はまだ低いか)
足元に地面を感じた直後、くらり、と軽く眩暈がし、フィールは端正な顔を歪める。
開発者のフィールですら、まだ完璧には使いこなせていない。この魔法はつい最近仕上がったばかりで、練度が足りないのだ。
なので、どちらかと言えばトライアルの意味合いが強いのだが………。
「………
フィールは神経を集中させ、半ば気合いで『武装解除呪文』を唱える。
トロールの手元目掛けて続け様に放たれた真紅の閃光は寸分狂いもなく棍棒にヒットし、放物線を描くように宙を舞った。
「
そしてフィールは棍棒を『肥大呪文』で一瞬にして巨大化させ、これでもかと言う会心の一撃をトロールの脳天に思いっきり喰らわせた。
丈夫さが取り柄のトロールでも流石にこれには参ったらしく、巨体をよろめかせて、ズドンッ、と鈍い音を辺りに響かせながら後方に倒れた。
「
完全に気絶しているのを確認してから、フィールは杖先から縄を大量放出して何重にもキツくグルグル巻きにし、壁や床に縫い付けるようにしっかりと固定する。
トロールと言えども、彼等も生きる生物だ。
此処に居るのは、賢者の石の番人として教師の誰か―――これまで出会してきた複数の罠々を仕掛けたのが教師陣ならば、ケルベロスはハグリッド、悪魔の罠はスプラウト、空飛ぶ鍵はフリットウィック、チェスはマクゴナガルだと思われるので、クィレルとスネイプの二人の内どちらかだろう―――が配備したからなんだろうし、
「ふぅ………無事解決、だな」
フィールは一息つき、二人に近寄る。
「ハリー、グレンジャー、なんだ、その顔は」
眼も口もあんぐりと開けてフリーズしている二人に、フィールは訝しい表情を浮かべる。
すると、
「ベルンカステル………貴女って、本っ当に凄いわ!」
ハーマイオニーが何やらキラキラとした瞳になり、思い切り抱きついてきた。フィールは突然ハグされ、心臓が跳ね上がる。
「グレンジャー………? どうしたんだ?」
「そのままの意味よ、ベルンカステル。貴女は本当に凄いわ。たった一人で、トロールをあっさり倒してしまうなんて………」
回していた腕を離したハーマイオニーは、フィールの顔を見つめる。何故かは知らないが、なんだか申し訳なさそうな面持ちであった。
「ごめんなさい、私、前にも貴女に助けて貰ったのに、何も御礼をしなくて………ありがとう、ベルンカステル。貴女のおかけで、今回も助かったわ」
「………どういたしまして。それと―――私のことはフィールで構わない」
「なら、私のこともハーマイオニーでいいわ。これからはよろしくね、フィール」
「ん、よろしくな、ハーマイオニー」
ハーマイオニーはフィールへ対する敵意を完全に取り払い、これまでのことを謝罪する。フィールは微笑し、あっさり許した。
「そういえば、今気付いたんだけど………貴女、メガネ外したのね」
「ああ………アレ、魔法施しただて眼鏡で、本物じゃない。『素顔をちゃんと見てみたい』ってクラスメイトに頼まれて外したら、何故か『普段からそれで居なさいよ!』って言ってきて、他のヤツらも後で『素顔のままで居てくれ!』ってしつこく言ってきたから、掛けるの止めた。ま、気分次第では掛けるけど」
「そっちの方が断然いいわ! 今後は男子達が一斉に騒ぐわね、きっと」
自分のことのようにはしゃぐハーマイオニーに彼女の言ってる意味がイマイチよくわからないフィールは首を傾げる。
黙って事の成り行きを見守っていたハリーは二人のわだかまりが解消された様子にホッと胸を撫で下ろし、そろそろ次の部屋へ行こうと促す。
二人は頷き、扉へ向かって歩き出した。
ふと、フィールはスカートのポケットに何かが入っているのを感じ取り、中に手を突っ込んでゆっくりと取り出す。
それは、ネビルに貰った蛙チョコレートの箱だった。フィールは箱を開け、包み紙を開いて蛙チョコを口に放り込む。先程の『空間移動』でかなり体力を消耗したので、これで手っ取り早く栄養補給したのである。
口内にチョコの甘い味が広がり、フィールは、
(こういう時の糖分は本当に貴重だよな………マジで助かったよ、ネビル)
と、心の中でネビルに感謝したのであった。
番兵トロールの難関も無事に進み終えた三人が次に入った部屋は特にこれといった仕掛けはないが、複数の大小様々な形の小瓶がテーブルの上に一列に並び置かれていた。
そして三人が部屋の中へ入った瞬間、先程入ってきた入り口で紫色の炎が燃え上がり、同時にネクストルームのドアの入り口にも、黒色の炎が燃え上がった。
ハーマイオニーは巻き紙を見付ける。
それには論理パズルが記載されていて、彼女はそれを読み上げた。フィールも横から覗く。
(薬関連か。ってことは、これはスネイプ先生が担当したのか………ん? ちょっと待てよ。じゃあまさかあのトロールは―――)
フィールは、ハリー達と違って真犯人はスネイプではなくクィレルだと予感している。クィディッチ初戦でスネイプとクィレルがハリーの箒ニンバス2000を凝視しながら口を動かしていたのを見てからというものの、あの教師は何か秘密があると直感した。
それにプラス、禁じられた森で謎の影と一戦交えた翌日の放課後………背後から、凍り付くような眼差しと今すぐにでも殺しに掛かりそうな殺気を肌で感じ、肩越しに見てみれば、ただ一人、クィレルが立っていた。顔は動かさず視線だけを動かして周囲を見回してみたが、あの場に居たのは、自分とクィレルのみ…………。
半信半疑だった謎は、最終結果を出した。
やはり、犯人はクィレルで間違いないと。
「フィール? どうしたの?」
思考の海に沈んでいたフィールは、ハーマイオニーの声でハッと我に返り、
「いや、なんでもない。………それより、この謎を解こう」
と、咄嗟に誤魔化す。
頭脳明晰な二人は、すぐに解読した。
先に進む薬は2つ、戻る薬は1つだ。
「僕は進む。あともう1個は―――」
ハリーはフィールに眼を向けた時、彼女は薬の中身を飲み干した後だった。
「フィール!」
ハーマイオニーは悲鳴に近い声を上げた。
フィールはそんなハーマイオニーに、
「ハーマイオニー。アンタはウィーズリーの元まで戻ったらすぐに校長に連絡しろ。そっちの方が効率的だ」
と、普段通りの冷静沈着な態度で指示した。
ハーマイオニーは何か言いたげであったが、ハリーはその提案に賛成なのか、首肯して薬を飲んだため―――「絶対に帰ってきて」と涙ぐんで二人を抱き締め、「勿論」と二人が抱き締め返したら、名残惜しそうに薬を飲み、紫の炎の中へと飛び込んだ。
ハーマイオニーと別れたハリーとフィールは、いよいよ賢者の石が隠されているゴール地点へと向かう。その間、後者は沈思黙考しながら歩いていた。
まず、何故ダンブルドアはクィレルを放置していたか、だ。生徒の自分が気付いたのなら、教職員の最上位に位置するダンブルドアが気付かないはずがない。つまり、ダンブルドアはクィレルの素性を熟知していながら、わざとクィレルをほったらかしにしていた。そして、ハリー達が賢者の石について動いているのことや最終的に死守しようと始動することも知っていた、あるいは感付いていたに違いない。そこから考えられると………ダンブルドアは、ハリーがヴォルデモートと対峙するように差し向けたということだろうか。
結論の出ない思考を一旦割愛したフィールは、ふとハリーに眼を向ける。最後の扉が見えてきたことでかなり顔を強張らせていた。
「大丈夫だ、自分を信じろ。さっきも活躍していただろ?」
フィールなりの励ましにハリーは顔を綻ばせ、緊張感が解れたのか、肩の力を少し抜く。
二人は扉前まで来ると、一度目配せして頷き合い、ゆっくりと扉を開けた。
「やっぱりお前か、クィレル」
「スネイプじゃない!?」
そう………みぞの鏡の前に立っていたのは、スネイプではなく、クィレルであった。フィールは油断することなく杖を構え、ハリーは驚愕の声を上げた。クィレルはいつものオドオドした様子ではなく、冷笑で黒髪の二人を迎える。
「ポッター、来ると思っていたぞ。余計なヤツが一人居るがな………」
「オマケで悪かったな、クィレル。お前はその余計なヤツに、あの夜押されていなかったか?」
フィールは冷笑を浮かべながら言い、クィレルがギクッと屈辱に顔を歪めた瞬間、ハリーにこそっと早口で耳打ちする。
「あの鏡に自分が映る場所まで移動しろ。恐らく賢者の石が何処かにあるはずだ」
「うん………わかったよ」
ハリーは小さく頷いたのを見たフィールは一歩前へ出て、時間稼ぎをする。
「やっぱり、いつものオドオドしてるフリが戦闘中にも現れたってところか? 切り替えが出来ないようじゃ、まだまだだな」
「………ッ、口の減らない生徒だな!」
ハリーは二人の会話を上の空で聞いていた。
フィールに言われた通りみぞの鏡に自分の姿が反射する位置まで来たら、信じられないことが起きたのだ。
鏡の中の自分がウィンクして、スラックスのポケットに燃えるような真っ赤な石を入れた。
するとポケットがズシリと重くなり、何か固い物が太腿に当たり、ポケットに手を突っ込んでチェックする。どういう訳か、賢者の石は自分の手にあった。
「フィール、賢者の石、僕の手にあるよ!」
「了解」
今度はハリーがフィールに耳打ちした。
だが、ハリーの動きが目立ちすぎた。
『寄越せ………ハリー・ポッター………それを寄越せ』
甲高い声がクィレルから聞こえた。
フィールは杖を振るって突風を巻き起こし、クィレルの脱ぎかけてたターバンを吹き飛ばすと、彼の後頭部から不気味な顔が露になった。
アレが闇の帝王………ヴォルデモートだ。
「………そういうことか、ヴォルデモート。お前は肉体を失ったけど、誰かに寄生することで辛うじて生きていられる状態なんだな」
『お前は………エルシー? いや、違う………エルシーの孫か?』
エルシー―――フィールの母方の祖母の名だ。
フィール自身は一度も会ったことがない、ベルンカステル家の名を轟かせる起因となった、勇敢な魔女。
『………あの女に似ている………いや、そんなこと今はどうでもいい。クィレル、ポッターを捕まえろ!』
ヴォルデモートの一声と共にクィレルは何処からか杖を素早く抜き、ハリーに向かって光を放った。ハリーは目の前の光に身体を硬直させてしまったため、フィールは『盾の呪文』を展開する余裕も無かったことから彼を横へ突き飛ばし、同時に身を挺して庇った彼女の身体が後方へ軽々と吹き飛ばされた。そのまま壁に激突し、強かに背中を打ち付ける。
「うっ………」
もんどり打って地面を転がるが、すぐに態勢を立て直そうと地面に手をつき、身体を捻り、起き上がろうとすると―――突き飛ばされて難を逃れたハリーを絞殺しようとしたクィレルの手が、火傷を負ったように焼け焦げていく異様な光景がフィールの眼に飛び込んできた。
ヴォルデモートは狂ったように叫び続けるが、ハリーは先程の光景を見て閃いたのか、クィレルの顔にも触れていき、激痛に悶え苦しむ彼に必死こいてしがみついている。
クィレルの断末魔だけがこの場を支配する音となり―――最期は灰塵となりて、この世から完全消滅した。
しかし、クィレルに取り憑いていたヴォルデモートは彼が死亡する直前に切り離れ、炎の隙間から何処かへ逃走した。
【バンデルン・エスパシオ(空間移動)】
フィールオリジナルの『空間移動系能力』。
既存の空間転移魔法(姿くらまし/姿現し)とは根本的に違うのでホグワーツ敷地内でも瞬間移動出来るが、記憶にインプットされてる場所へしか移動出来ず、遠距離になればなるほど身体への負担はデカくなる。
【体力消耗が激しいフィール】
遂に登場した『空間移動』は、今回みたいに狭小区域での戦闘となれば、かなり有利な切り札です。場所が狭い分覚えやすくなるし、身体への負担も軽い方なので。でもフィールはまだ完成し終えたばかりでの使用だったので、至近距離でも体力の消耗は激しかったです。
【トラップ道中】
原作キャラの活躍は(カギドリ:ハリー、チェス:ロン、論理パズル:ハーマイオニー)それぞれ取り入れ、トロールはオリ主がKO。
なんとか全部オリ主がオールクリアにはならない展開となったので、安心してます。