【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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第1章賢者の石編開幕。
初めまして、Survivor(サバイバー)と申します。
初投稿の作品でありながら大幅にリメイクするのはこれで何度かはわかりませんが、まあどうか大目に見てください。
完結までの道のりは険しいですが、最後まで付き合ってくれたら幸いです。
それではよろしくお願いいたします。

※3/14、一部本文修正。


Ⅰ.THE PHILOSOPHER′S STONE
#1.蒼黒の魔法戦士


 1991年6月20日。

 鬱蒼とした森林の中に威風堂々と聳え立つ壮大な古城の城内にある数多の部屋の最上階の一室。

 一人の少女が手にしていた本をベッドに投げ、それに続くように倒れ込み、使い慣れたベッドの感触と香りに身を委ねながら眼を閉じた。

 

「………今日って………私の誕生日か」

 

 少女は、不意に思い出した。

 今日は自分の誕生日である。

 1年に一度しかない、特別な日。

 そして、少女のようなある者達は11歳の誕生日になるとある学校から手紙がやって来るのだ。

 この世の中には魔法使い・魔女が住んでいる魔法の世界が非魔法社会(マグル界)に隣接してひっそりと存在し、魔法を扱える魔力や才能を兼ね備えた少年少女は11歳の誕生日に魔法学校から入学許可証が届けられる。

 

 整った顔立ちに淡い桜色の唇、すっきりと通った鼻筋にさらさらちょっと癖毛の黒髪、蒼の瞳を持つ少女が今年から通う英国魔法学校の名はホグワーツ魔法魔術学校―――世界一安全だと評されている古代魔法の牙城だ。

 黒髪蒼眼の少女はベッドから降りると、少し乱れた服を直し、広い自室を退室しようとして、ふと足を止めた。

 

 部屋に備え付けられている、大きな鏡。

 そこにはいつもと変わらない顔がある。

 だけど、蒼眼の少女は鏡を見る度にいつも思うことがあった。

 

 ―――見た目はお母さんそっくりだけど、眼だけはお父さんそっくり………か。

 

 両親のことを知る人は皆そう言う。

 長い黒髪に整いすぎている顔立ち。

 背は140㎝後半と11歳女子にしては高めの身長。蒼い両眼は、どこか冷たさを印象付けられる雰囲気が宿っている。

 容姿や性格は母親譲りだけれど、蒼い双眸は父親譲りの少女。

 

 ―――フィール・ベルンカステル。

 

 それが彼女の名前だ。

 フィールはそれまで見据えていた鏡から顔を逸らし、今度こそ部屋を退室した。

 薄暗く、広い廊下をゆっくりとした足取りで歩いていく。いつもの起床時間よりまだ早いけど、今日は特別な日だ。たまには悪くない。

 フィールはいつの間にか着いていた眼前にある大きな扉を開ける。

 リビングに入ったフィールの目の前には、見事なまでに綺麗な水色の髪に神秘的な紫の瞳を持つ温和そうな顔立ちの少女が立っていた。

 

「フィール、誕生日おめでとう」

「ああ、ありがとう、クリミア」

 

 自分の誕生日のため、おめでとうと言ってくれた少女―――クリミア・メモリアルは微笑んで、先程此処にフクロウ便で届けられたホグワーツの入学許可証をフィールに手渡した。

 

 フィールよりも3歳年上でホグワーツ生。

 所属寮はハッフルパフ。

 心優しく、誠実な生徒が多い、温かな寮。

 温厚な性格のクリミアには一番ピッタリと言える寮だと、フィールは思う。

 そして、クリミアは劣等生が多いハッフルパフでは別格の優等生で学年トップ。

 生徒達からの人気も人望も厚い、フィールにとって自慢の姉だ。だが、二人の姓を見てわかる通り、フィールとクリミアは血が繋がっていない。

 それでも二人には、家族以外の関係はないほどに強い絆がそこにある。

 

 クリミアが生まれて間もない頃、彼女の両親はどちらとも亡くなった。

 フィールの両親とクリミアの両親は旧い知り合いで学生時代の頃は同じホグワーツ生だった。そのため、孤児になってしまったクリミアをフィールの両親が見かねて引き取り、実の娘同然に可愛がった。

 しかし、フィールの両親さえも亡くなってしまった。

 幼くして親を失ったフィールとクリミアは後見人の人達が面倒を見てくれ、今はこうして生活が出来ている。

 

「いよいよ、フィールもホグワーツに通うのね」

「………そうだな」

 

 クリミアは妹も同じ学校に通うことをずっと楽しみにしていた。フィールは小さく頷く。

 

「さっき、ライアン叔父さんから、ダイアゴン横丁に連れてってくれるって連絡があったわ」

 

 ライアンとは、フィールの叔父の名前だ。

 亡き母の弟で、現在は他国のフランスに住んでいる。

 

「ライアン叔父さん、忙しいのに………有り難いな」

「そうね。それと………ルークとシレン、元気にしているらしいわよ」

「………そうか」

 

 ルークとシレンは双子の兄妹で、ライアンの息子と娘。

 フィールより2歳年上、クリミアより1歳年下の前者の母方の従兄と従姉だ。

 二人はフランスの魔法学校・ボーバトン魔法アカデミーで男女各トップであるほどの優秀な生徒あり、生まれはフランスだが、イギリス人とフランス人のハーフなのでフランス語と英語、どちらとも話せる。

 

「とりあえず、朝食を食べましょう。そしたら、玄関前まで行くわよ」

「ああ、そうだな」

 

 という訳で二人はテーブルに向かい、椅子を引いて座ると早速食べ始めた。

 サクサクとパンを食べ、コーンスープを喉に通し、ミルクを飲んだら二人は玄関前まで行く。

 程無くして、黒髪金眼の精悍な顔付きをしている若い男性が『姿現し』で現れた。

 

「フィール、クリミア。久し振りだな」

 

 黒髪金眼の男性―――ライアンは、久方ぶりに会う亡き姉の忘れ形見に明るい笑みを見せた。

 

「ライアン叔父さん、お久し振りです」

「おいおい、敬語なんて使わなくていいさ。僕は君達の父親代わりでもあるんだから、普通に話し掛ければいいよ」

「………そう、わかったわ」

 

 クリミアが小さく頷くと、今度はフィールの方に顔を向ける。

 

「フィール、誕生日おめでとう。もう11歳なんだな」

「ああ、うん………ありがと」

「よし、それじゃ、そろそろ行くか」

 

 ライアンは二人の手をそれぞれ握る。

 二人もギュッと握り返し―――次の瞬間、『付き添い姿くらまし』で三人の姿は一瞬で消えた。

 

✡️

 

 ダイアゴン横丁。そこは魔法使い達が必要とするありとあらゆる魔法道具が売られている魔法界の商店街だ。入り口はイギリス・イングランド、ロンドンのチャリング・クロス通りに面したパブ『漏れ鍋』の裏庭にあり、ある特定の煉瓦を杖で叩くことで入ることが出来る。

 煙突飛行粉(フルーパウダー)と呼ばれる魔法粉を使って魔法界では一般的な移動手段の一つ・煙突飛行ネットワークでダイレクトにダイアゴン横丁直行という方法もあるが、今回は前者の方法を選択した。

 漏れ鍋付近の人目がつかない場所に現れた三人は徒歩でそこに向かい、目的地まで辿り着いたら、ゆっくりとバーテンの扉を開ける。店内はバーや食堂、個室があり、そのほとんどが色とりどりのローブを羽織った多くの客でワイワイ賑わっていた。

 ライアンとクリミアの後ろをフィールは歩く。

 

「おや、ライアンじゃないか。それにメモリアル嬢も。今日はどういった用件で?」

 

 ハゲて歯の抜けたクルミのような顔をしている店主・トムがそう尋ねると、

 

「彼女にダイアゴン横丁を案内するためです。フィール、ほら、挨拶」

「こんにちは。フィール・ベルンカステルです」

「ベルンカステル………では、彼女は………」

 

 トムは少し驚いた様子で、フィールを見た。

 ベルンカステル家は『生き残った男の子』ことハリー・ポッターと並んで魔法界では有名な魔法族の一角である。

 それは数十年前、いつしか名前を呼ぶことすら恐れられるようになった闇の帝王・ヴォルデモートに対して一切臆することなく誰よりも先に真っ正面から戦意表明し、幾人もの人々を救ってきた―――エルシー・ベルンカステルの圧倒的存在感が、今も尚魔法界全体に並々ならぬ影響をもたらしているからだ。

 

「彼女は僕の姪っ子ですよ」

 

 ライアンはフィールとの関係をトムに伝えると腕時計を見て、二人を促した。

 

「そろそろ案内するので先に行きます。二人共、行くぞ」

「ああ」

「ええ」

 

 フィールとクリミアはトムに軽く頭を下げ、ライアンの後を追いかける。ライアンは裏庭に辿り着くと特定の煉瓦を杖で3回叩いた。

 すると、叩いた煉瓦が震え、壁に穴が空いていく。次の瞬間、大きなアーチ型の入り口が顕現とし、ライアンとクリミアは先に潜ると、初めて此処に来るフィールを手招きした。

 ロンドンに在る魔法界の商店街・ダイアゴン横丁。

 石畳の通りがくねくねと続き、ショーウィンドーはキラキラと色鮮やかに飾り付けられ、買い物客でごった返ししていた。

 

「此処がダイアゴン横丁だ」

「へえ………これは凄いな」

「色々あって、楽しいわよ」

 

 おいでよ、と言うようにクリミアはフィールの手首を掴み、アーチを潜らせる。

 フィールは視界に映る数々の店を見渡した。

 行き交う人々はローブや帽子を着用しているのだが、中には至って普通の服装をした人も居る。

 

「さて………どうしようか」

「フィール、金貨とかは?」

「持っているから問題ない」

「わかった。それじゃ、僕は予約していた制服を取りに行ったら、トランクや授業道具を入れて持ち運ぶためのショルダーバッグを買ってくる。クリミア、学用品は任せたぞ」

「わかったわ」

「ありがとう、ライアン叔父さん、クリミア」

「いいさ。さ、僕達魔法使いの一番大事な道具である杖を買っておいで」

 

 ライアンは笑ってフィールの肩を押し、フィールは頷き返してから二人に背を向けて歩き出す。

 魔法界唯一の銀行であり、ホグワーツ以外の場所で一番安全と言われているほどのハイセキュリティーな施設『グリンゴッツ魔法銀行』に用は無い。ベルンカステル家は無茶苦茶資産家だがグリンゴッツには一切預金せず、ベルンカステル城の地下深くにある金庫に厳重保管されている。

 フィールは先程ライアンが言ってた通り、魔法使いならば何よりも大切なアイテムである杖を購入するべく、紀元前382年創業の高級杖メーカー『オリバンダーの店』へと向かった。

 オリバンダーの店は狭くてみすぼらしく、年季と歴史を感じさせる雰囲気が店内全体に漂っている。埃っぽいショーウィンドーには色褪せた紫色のクッションの上に杖が一本だけ置かれていた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店の中に入り、真っ先に視界に飛び込んできた天井まで高く積み上げられた無数の杖の箱に夢中でキョロキョロ見回していたフィールは突然の声にビックリしたが、すぐに気持ちを整える。店内の奥から、この杖店の店長であろう銀色に光る大きな眼をした老人がやって来た。

 

「私がオリバンダーです」

「こんにちは。フィール・ベルンカステルです」

 

 フィールがペコリと頭を下げながら自己紹介すると、店主―――ギャリック・オリバンダーは驚愕の顔で染まった。

 

「なんと………ベルンカステル嬢でございますか! いえ、わかりました。それにしても、母上にそっくりですな。でも、眼だけは父上と同じだ」

 

 懐かしむような声音でそう言ったら、椅子に座るよう促された。

 

「杖腕はどちらですか?」

「右です」

 

 すると、ポケットから取り出した銀色の目盛りが入った巻尺でオリバンダーは右腕を差し出したフィールの様々な部分―――肩から指先、手首から肘、肩から床、膝から脇の下、頭の周りとあらゆる角度から身体の寸法を測った。

 

「オリバンダーの杖は一本一本、強力な力を持った物を芯に使っております。ドラゴンの心臓の琴線、一角獣(ユニコーン)の鬣、不死鳥の尾羽根。ドラゴンも不死鳥もみなそれぞれ違います。故に同じ杖は一つとしてありません。全ての杖は持ち主を選び、その持ち主に対し忠誠心を持つ。仮に他の者が他の魔法使いの杖を使ったとしても、決して自分の杖ほどの力は出せないのです」

 

 杖に関する説明を施し終えたオリバンダーは、一つの箱を持ってきて、その中から取り出した一本の杖をフィールに持たせる。

 

「ナナカマドの木にユニコーンの鬣、26㎝。耐久性に優れている」

 

 試しに振ってみたけど、僅かに光が漏れただけで後は何も無し。すぐに没となった。

 

「ハンノキの木に不死鳥の羽根、30㎝。忠誠心が強い」

 

 再び杖を受け取り、もう一度振ってみるけど、忠誠心が強いと言うだけあってフィールを主人として思わないのか、魔力暴走がこの場だけ発生したかのように店内を無茶苦茶にしてくれた。棚にあった箱はバラバラと床へ落ち、大きな山を形作る。落ちてきた箱から選んでその後何度も試したが、どれも駄目だった。

 

「これほどまでに上手くいかないとは………いや………まさか、もしかすると………」

 

 オリバンダーはなにやらブツブツ呟きながら店の奥へ歩いていき、しばらくして、黒と青の2色が使われている箱を持ってきた。蓋を開けると、箱同様に黒と青の2色が混合し柄の中央に小さな魔法陣の模様が刻まれている細長い杖が、綺麗に納められていた。

 

「アカシアの木にセストラルの尾毛、36㎝。秀麗で高潔。そして―――魔力向上能力がある」

 

 オリバンダーはどこか決断したような口調になりながらも、言葉を続ける。

 

「その杖が誰かの手に渡ったことは一度もない。それどころか、触れた瞬間に拒まれたことさえもある。もしやと思うが―――」

 

 オリバンダーはフィールの眼を見据えた。

 見据える蒼い眼は明るいよりも暗く、冷たさを感じられる。

 

「是非、振ってみてください」

 

 フィールはオリバンダーの眼から視線を落として黒青の杖に向ける。この時だけは何かを期待するように口元の端を僅かに上げた。

 指先が杖に触れた瞬間―――身体に暖かな力が流れた感覚がし、本能的に杖の柄部分を強く握り締め、高く掲げて細長いそれを大きく振るう。

 瞬間、身体だけじゃなく、店内も暖かな空気で満ちた気がした。

 

 それと同時、魔力向上の気配を感じ取る。

 店の中が地震が起きたみたいに揺れ動く。

 それは無限の―――限界なんて、まるで存在しないような力が、フィールの身体全身を包んだ。

 オリバンダーは最初フィールを見た時よりもずっと驚いた表情で固まっていた。どうやら、言葉を失っているようだった。

 

「なんと………その杖が主人と認めただと!?」

 

 オリバンダーは大声で叫び、自分の眼に映る現状に眼を凝らした。

 ただ一人、フィールだけは微笑んで、主人と認めてくれた杖に唇をそっと当てる。

 途端、更に店内に魔力の奔流が流れ出た空気をオリバンダーは俊敏に察した。

 

(まさかこんなことが………いや………これは本当に―――)

 

 ―――本当に…………物凄いことだ。

 

 フィールが手にしている杖が拒むことをしなかったのはこれが初めてだ。これまではずっと誰かがあの杖を手にした場合、酷い時は吹き飛ばされたりもした。

 なのに、フィールが触れた瞬間―――暖かな空気が店内いっぱいに広がり、無限大の魔力が生まれた。

 

「その杖は、貴女様を選んだ」

「みたいですね。代金は?」

「10ガリオンです」

 

 だけど、フィールは15ガリオン支払い、残りはやると言った。それから、アカシアの杖を軽く振って滅茶苦茶になった酷い有り様の店内を入店した時と同じ状態まで元通り綺麗にすると、

 

「オリバンダーさん、商売繁盛を願っています」

 

 と、最後にうっすらと微笑みながら、店を後にした。

 その後ろ姿を見送ったオリバンダーは呟く。

 

 ―――どこまでも、母親にそっくりだな。

 

 オリバンダーは、かつて此処に来た女の人の姿を不意に思い出して憂思の表情を浮かべ、しばらくはフィールが出て行ったドアをじっと眺めるのだった。

 

✡️

 

 杖を購入後、フィールは常時杖を携行するためのヒップホルスター(腰の周囲に装着する)と予備のレッグホルスター(太腿側面に固定する)、ショルダーホルスター(脇の下に吊るす)を買い込んでから、既に制服や学用品を買い揃えて待ち合わせの場所で待っていてくれた叔父と姉の元まで歩いた。

 

「お待たせ」

「意外と遅かったな」

「少し手間掛かった」

 

 詳しい説明をするのは面倒なので、フィールは一言でかわした。

 

「そういえば、フィール。ペットはどうするんだ?」

「いや、必要ない」

「フクロウがあったら、夏休み中でも友達と手紙のやり取りが出来るんだぞ?」

「作る気ないし、作ったところで連絡するなんて面倒な作業はしない」

「面倒な作業って………全く、交流意識がないなフィールは」

 

 姪っ子のドライな物言いに叔父が苦笑した、その時―――不意に、ライアンの脳裏に、ある人物の姿が過った。

 

 

 ―――長い黒髪を靡かせる、綺麗な女性。

 

 ―――どんな時でも弱音を吐くことがなく、強くて気高かった後ろ姿。

 

 ―――力強い存在の裏で………いつも他人に知られないように無理をしていた人。

 

 

(………何を考えているんだ)

 

 ライアンは慌てて自分の頭の中に浮かび上がった女の人を奥底に消そうと、考えるのを止めた。

 目の前にいるのは姉ではなく、姪。

 見た目は確かに瓜二つだが、瞳の色は違う。

 姉―――クラミーの瞳は神秘的な紫だったのに対し、娘であるフィールの瞳は暗さと冷たさが宿る蒼だ。

 ならば、何故………?

 何故、自分の目の前にクラミーが居ると錯覚するのだろうか。

 

「………ライアン叔父さん?」

 

 フィールに声を掛けられ、ライアンはハッとした。

 

「どうしたんだ?」

「いや、なんでもない。ちょっと考え事をして、ボーッとしてた」

 

 咄嗟に取り繕った言葉で誤魔化し、頭をかきながら笑うとフィールは詮索することなく、購入したばかりの杖に眼を落としていた。

 

「よし、買い忘れた物はないな?」

「うん。さっきホルスター買ったりしたから大丈夫」

「そうか。二人共、疲れただろう。帰りも僕が『付き添い姿くらまし』で送るよ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「よし、行くぞ」

 

 ライアンが腕を差し出し、フィールとクリミアはそれに掴まる。

 瞬間、身体が引っ張られるような感覚と共に三人はその場から姿を消した。

 ベルンカステル城の扉から少し離れた場所に黒髪の男性と少女、水色髪の少女が『姿現し』で現れた。

 

「来た時はあまり意識してなかったが………此処に来るのも久々なんだよな」

 

 かつて、フィールとクリミアが現在住んでいる古城を我が家として生活していたライアンは懐かしむように、城の外観を金色の眼を細めながら見上げる。

 

 何年経とうとも、そこには壮大な城が健在していた。現当主のフィールには本当に頭が上がらない気持ちでいっぱいだと、叔父のライアンは姪の彼女に対し、気高さと申し訳なさがごちゃ混ぜになった。

 本来ならば、当主というものは直系の一家の長男が受け継ぐようなものなのだが―――フィールが自分の意志でベルンカステル家の最上位の立場に君臨し、責務を全うしているのだ。

 

 最初は、当然ながらそれに大反対した。

 まだまだ若くて、将来の夢や無限の可能性の人生が待っているフィールが、そんな堅苦しい身分で世界を制限するようなことを自ら希望する意志に、誰もが異を唱えた。

 しかし、フィールは頑なに首を振らず、ましてや退くことも弱音を吐くことさえもなく、譲らない決意を秘めた姿勢を示した。

 ―――それはまるで、前当主のクラミーみたいで………。

 

(いけない………また心配をかけてしまう)

 

 思考の海に沈みかけたが、それだとまたフィールに感付かれてしまう。人の心を見抜くのが彼女は得意なのだから。

 

「フィール、ホグワーツでの学校生活、存分に楽しめよ」

「ま、それなりには」

 

 案の定というかなんというか、相変わらずドライな物言いにライアンとクリミアは苦笑し、ライアンはフランスにある自分の帰るべき家へと帰った。

 

「フィール、そろそろ中に入りましょう」

「ん? ああ、そうだな」

 

 クリミアに呼ばれたフィールは、隣に並んで歩き、扉を開く。中に入り、扉を閉めたら二人は夕食時間まで各自自由な時間を過ごした。

 

✡️

 

 ホグワーツ入学1ヶ月前の8月1日。

 フィールはダイアゴン横丁に来ていた。

 今まで魔法族が行き交う場所に来るのを避けていたフィールにしては珍しいことに、ありとあらゆる魔法道具が売られているこの横丁は気に入ったらしく、前回は必要な物だけを買って帰宅したので、今日は一人で色んな場所を訪問しては粗方興味の沸いた物を購入している。

 キョロキョロと、まるで未知なる世界に進出した探検家のように、興味津々な眼差しでダイアゴン横丁の通りを歩いていると―――。

 

 

 

「待ってくれ!」

 

 

 

 と、不意に誰かに腕をパシッと掴まれた。

 フィールは反射的にそちらに眼を向ける。

 そこには、サイズが合わないダボダボな服装に小柄で痩身の、クシャクシャの黒髪に丸眼鏡を掛けた明るい緑眼を持つ少年が立っていた。

 

✡️

 

 前日の7月31日に誕生日を迎えたハリー・ポッターはホグワーツの森番、ルビウス・ハグリッドに連れられてダイアゴン横丁にやって来た。

 

 嵐が吹き荒れた昨夜、親戚のダーズリー家と共に絶海に位置する巨岩の上に建てられた小屋で一晩過ごしていたハリーは、ハグリッドにホグワーツ魔法魔術学校の入学許可証を貰い、両親は偉大な魔法使いで闇の帝王・ヴォルデモートと戦って死んだことや、ヴォルデモートはハリーを殺せず逃げたこと、自分はそのために魔法界では有名な存在であることを聞かされた。

 

 当然、最初は全く持って信じられなかった。

 自分や死んだ両親が魔法使いであることや自分が魔法の世界では超有名人だなんて、11年間もマグルの世界で生活してきたハリーにとっては耳を疑う内容ばかりだ。

 しかし、ハグリッドにこれまで怖い思いをした時に起こった不思議な現象は全て魔力のせいによるものだと伝えられてから、半信半疑ながらも信じることにした。

 

 そして一夜明けた8月1日の現在。

 まるで英雄の凱旋を祝福するかのようにパブ『漏れ鍋』の客人達にちやほやされて若干戸惑いつつ、ダーズリー家の元から颯爽と連れ出してくれた恩人のハグリッドと一緒にアーチを潜り抜けて、ハリーは魔法界へと足を踏み入れた。

 ハリーは買い物客でごった返しする石畳の通りを歩きながら、ありとあらゆる店が建ち並ぶダイアゴン横丁を四方八方眺め回す。

 

 どの店もマグル界ではお目に掛かれない品物がズラリと売られており、ただ見ているだけでも心が弾み胸が躍った。

 そうして、小さな店が建ち並ぶ中、一際高く聳え立つ真っ白な建物………小鬼(ゴブリン)が経営する魔法界唯一の銀行『グリンゴッツ魔法銀行』にて両親が遺してくれた財産をバッグいっぱいに詰め込み、『マダム・マルキンの洋装店』で制服等を購入したハリーはハグリッドと合流した後、次に教科書を買いに『フローリシュ・アンド・ブロッツ書店』に向かおうとした時―――。

 

(え………?)

 

 一瞬、人混みの向こうに見覚えのある人物を見掛けたような気がして………次の瞬間、ハリーの身体は反射的に踵を返し、走り出していた。

 

「おい、ハリー! 何処に行くんだ!?」

「ごめん、すぐに戻るよ!」

 

 ハリーは走り、人混みを掻き分けていく。

 

(………居た!)

「待ってくれ!」

 

 思わず手を伸ばし、相手の腕を掴む。

 ―――振り返ったのは、黒髪の少女だった。

 

✡️

 

「! ………アンタ、急に引き留めてきたけど、何か用か?」

 

 少年の顔を見て、一瞬「え………?」と思った黒髪の少女―――フィールは、若干警戒心を帯びた面持ちで問う。

 

「あ………えっと、その………」

 

 少年はハッと今更自分の行動に気が付いた様子で慌てて手を離し、言葉を詰まらせ………必死に頭を働かせた末の、苦し紛れの打開策的な質問を投げ掛けた。

 

「君、一人で此処に来たの?」

「ああ、そうだけど、それがどうした?」

「あ、いや、その………一人で居たから、てっきり迷子なのかなって………」

 

 少年は俯きがちになり、声が萎んでいく。

 すると、一般人よりも2倍ほどの背丈はある大男―――ハグリッドが少年の側に寄ってきた。

 ボウボウと長い髪と荒々しい髭に隠れて素顔はほとんど見えず、真っ黒なコガネムシのような眼はキラキラと輝いている。

 

「ハリー、急に走り出してどうしたんだ!?」

「あ、ハグリッド………」

「心配したじゃねえか、もういきなり居なくなるような真似は止め………ん? お前さん、どこかで見たような………」

 

 ハグリッドはフィールの方に眼を向け、ハリーを叱咤するのを忘れて首を傾げる。

 

「………あ、そういえば、君の名前は?」

 

 ハグリッドが記憶を引っ張り出せない内に、まだ名前を聞いてなかったと少年が尋ねてきたので、フィールは軽く肩を竦めながら名乗った。

 

「フィール・ベルンカステル」

「フィールだね。僕、ハリー・ポッター」

 

 丸眼鏡を掛けた少年の名前を聞き―――魔法界では『生き残った男の子』と呼ばれ英雄視されているハリー・ポッター本人と入学前に出会ったフィールは「へえ、この人があの有名なハリー・ポッターか」と早い段階で顔を見ることが出来て、ちょっと不思議な気分になった。

 

 一方、ハリーは今まで見てきた少女の中でも群を抜いた美しさだと、思わずフィールの魅力に見入っていた。長い黒髪に蒼い瞳。同い年とは思えないほどの大人びた雰囲気は高身長と相まっている。

 だが、首から上と手首から先の肌は雪のように真っ白で不健康とも言えるほどであるし、なんだか身体も他の人に比べてずっと華奢な感じに見える。それに、先程服越しから掴んだ腕も、とても細かったし………。

 

(凄い細いなぁ………ちゃんとご飯食べてるのかな?)

 

 フィールの身体の細さを心配するハリーもまた同年代の男子と比較すれば断然細身のスタイルであるのだが、今はそれはいいだろう。

 それはともかく………ハグリッドはフィールをビックリしたような眼差しで見下ろしていた。

 

「お前さん………まさか、クラミー・ベルンカステルの娘か?」

「………ええ、そうですよ」

 

 フィールは複雑そうな表情を浮かべた。

 ハグリッドはそれを見て、眼を細める。

 あまり詳しいことは聞かされていないが『ベルンカステル家の悲劇』のことは校長のアルバス・ダンブルドアから聞いている。フィールは生粋の魔女でありながら、6年前に起きた事件をきっかけに、魔法族が沢山行き交うダイアゴン横丁にはついこの間まで一度も行ったことがなかった。

 

 といっても、今のフィールなら襲われたとしても逆に返り討ちにするほどの実力者なので、此処に来るのもそこまで抵抗は無くなった。が、油断大敵を心構えに、城の中から出てきたのだ。

 ハリー・ポッターと入学前に出会ってフィールが不思議な気分になったように、ハグリッドもまた、彼女と早くも顔合わせをして、何とも言えない気分だった。

 

「………ところで、アンタはなんで追ってきたんだ?」

「え………っと、ごめん、気にしないで」

 

 わざとらしく話をはぐらかそうとするハリーにフィールは益々怪訝な顔になる。が、詮索したところで無意味な行為だと思い直したフィールは「そうか」と敢えて深入りはしなかった。

 

「それじゃ、私はそろそろ帰る。またな」

「あ、うん、バイバイ」

 

 そうしてフィールはハリーとハグリッドと別れると、自宅であるベルンカステル城に帰宅した。

 自室に入ったフィールはダイアゴン横丁で購入した物を整理し、リビングに向かうと既にクリミアがミルクティーとクッキーを用意していた。

 

「おかえり、フィール」

「ただいま、クリミア」

 

 フィールはソファーに座り、ミルクティーで喉を潤す。

 

「そういえば………さっき、ダイアゴン横丁でハリー・ポッターと会った」

「え………あの『生き残った男の子』って言われている?」

 

 流石のクリミアも一驚したらしく、ティーカップをコースターに置いて質問した。

 

「どんな感じだった?」

「初対面だったけど、まあ、なんだろ………。ちやほやされ、甘やかされてきた王子様って気はしない。見る限り、普通の少年って感じだな」

 

 それに、魔法のことに関してはつい最近知った感があったとフィールは言うと、テーブルの上にある皿に載せられた作りたてのクッキーに手を伸ばした。

 

✡️

 

 その日の夜。

 場所は違えど、ある二人の少年少女は、今日ダイアゴン横丁で出会った同い年の女の子と男の子のことを、ベッドの中に潜りながら思い返していた。

 両者共に敢えて口には出さなかったが、互いに互いの顔を見た時、ふと、何故か懐かしい気持ちになったのだ。

 

((………………))

 

 寝返りを打ち、眼を閉じる。

 脳裏の片隅に………それぞれの顔が過る。

 

(僕、もしかして―――)

(私、もしかして―――)

 

 そして同時刻、二人は同じことを思った。

 

 

(―――あの娘と何処かで会ったことある?)

(―――アイツと何処かで会ったことある?)

 

 




【フィール・ベルンカステル】✡️本作主人公
黒髪蒼(ブルー)眼。無口無表情で一匹狼な性格と孤高の雰囲気を身に纏っている。数十年前、闇の帝王に真っ先に立ち向かい多くの人間を救ってきたエルシー・ベルンカステルの孫。数年前に両親を亡くしていて、現在は城でクリミアと二人暮らし。

【クリミア・メモリアル】
水色髪紫眼。ハッフルパフ生。稀に超優等生が現れるハッフルパフお決まりの学年首席。お茶目な性格で温厚。生まれて間も無く両親を亡くしてフィールの両親に引き取られた、彼女の義理の姉。

【ライアン・ベルンカステル】
黒髪金眼。ハッフルパフ出身。フィールの母方の叔父で妻子持ちのフランスの魔法省で闇祓い勤務の若手超エリート。フィールとクリミアの後見人の一人。

【グリンゴッツに預金しないベルンカステル家】
御先祖「セキュリティーは万全なんだろうけど一々取りに行くのめんどくさい。だから自分達で厳重保管してる。と言うか大金を他人(?)に預けるとか絶対ヤダ」

【アカシア】
杖の木材としては稀有。
所有者以外が魔法を使おうとすると拒否することが多い。有能な魔法使いでないとその力を最大限に活かすことが出来ないが、反面、厳選した上で選んだ魔法使いとの相性は抜群によく、最大限の力を発揮する。
故に選ばれる魔法使いは少ないので、オリバンダー杖店ではアカシアの杖の在庫はあまり置いていない。

【セストラルの尾毛】
強力だが扱いにくい。死を目の当たりにした者しかセストラルを見れないのと同様、死を受け入れられる魔法使いしか真の所有者にはなれない。
死の秘宝の一つであり魔法界最強の杖・ニワトコの杖の芯にも使われてる。

【ホルスター】※1/12、追記
サバゲーにおいて武器を仕舞うケースと言えば、ヒップやレッグ、ショルダーのホルスターはポピュラーアイテム。前まで記述は『ホルダー』でしたが、変更して『○○ホルスター』に記述することにします。
と言うか、フィールこれだけのホルスター購入するとか完全武装を徹底する軍隊ですよね。ちなみにフィールはどれもベルトに固定するタイプです。

【ダイアゴン横丁で遭遇したダブル主人公】
読者の皆様ならば、プロローグでハリーを助けた『彼女』が誰なのか、もうお分かりですよね?
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