【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
9月1日、新学期当日。
キングス・クロス駅のプラットホームで、幾人もの人達が別れを惜しんで抱き合ったり言葉を交わしている光景を、黒髪蒼眼の少女は嫉妬と羨望が入り交じった複雑そうな表情で、ホグワーツ特急のコンパートメントから眺めていた。
家族の温かそうな雰囲気を見ていると、幼くして両親を失ったことを嫌になるくらいに現実として突き付けられ、やるせない気持ちに駆られてしまうのだ。
気晴らしとして、本を読んではいる。
だが、鬱屈とした想いを完全には払拭しきれなかった。
「…………………」
フィールはこれ以上見たら無意味な腹立たしさも抱いてしまいそうだと、扉と窓のカーテンを閉め、トランクの中から制服を取り出して椅子に置いた。
とにかく今は身体を動かそうと軽く伸びをし、一度深呼吸すると私服を脱いでいく。それからホグワーツの制服に身を包み、ホルダーに杖を仕舞ったところで大きな揺れと共に汽車が発進した。
「………………」
汽車の揺れが心地良く、フィールはここ連日魔法の研究に没頭していたことで寝不足な状態であることから、窓際に寄りかかり、睡魔に折れそうになる。だが、コンコン、と扉をノックする音と共にガラガラと開く音が静寂に包まれていた此処のコンパートメント内に響き渡り、フィールの意識は半ば強引に引き戻された。
「フィー、此処、いい?」
「ん………クシェル、か」
「もしかして、寝てた?」
「……寝そうになってた」
小さく欠伸をしながら目元を擦る間にも、クシェルは制服を取り出してそれに着替え、荷物棚に自分のトランクを押し上げると、フィールの向かい側に座る。
「寝不足なの?」
「………まあな」
魔法の研究をしてたなんてことは口にしたくないフィールは、適当に言葉を濁す。
「あんまり夜更かししちゃダメだよ。夜更かしは身体に悪いんだから」
「お母さんか、クシェルは」
母親みたいに注意してきたクシェルに突っ込みつつ、フィールは窓外の景色に視線を移らせる。等間隔に流れていく自然溢れる風景を見るとはなしに眺めていたら、
「此処いいかしら?」
と、黒髪にグレーの瞳のノーブルそうな少女がドアを開けて入ってきた。
「ダフネか」
「久々だね」
入ってきたのは二人の友人、ダフネ・グリーングラスであった。
「あら? フィールとクシェルじゃない。それと、此処いいかしら?」
「勿論だよ、ダフネ」
クシェルは快くOKし、フィールも頷いたのを見たら、ダフネは手に持っていた荷物を椅子に一旦置き、一息ついた。
「やっと休憩出来るわ………」
「なんか疲れてるね」
「妹が『来年は私もホグワーツ生になるから、土産話を楽しみにしてるね!』って感じで中々私を汽車に行かせてくれなかったのよね」
「ダフネ、妹いたんだな」
「ええ。2歳年下でアステリアって言うわ」
アステリア・グリーングラス。
ダフネの2歳年下で、来年度のホグワーツ新入生。見た目は姉のダフネとそっくりだけど、性格はちょっとおてんばで落ち着きがないらしい。
「へえ、元気な妹だね」
「ええ。もう少し、落ち着き持って欲しいけど」
「やっぱり、可愛い?」
「勿論、可愛いわよ」
ダフネはトランクから制服を取り出してそれに着替え、トランクを荷物棚に押し上げる。
「ただ、姉妹だからこそ、理不尽だと思うことはあるわよ。私はグリーングラス家の長女って言うのとアステリアの姉って言うことで、両親はちょっとしたことでも怒るし………」
名家の出所として恥じらいがないよう、妹が生まれてから、ダフネはそれまでの生活が一変し、厳しく育てられた。
お姉ちゃんなんだから、「大人しくしなさい」とか「しっかりしなさい」とか「我慢しなさい」とか………。
グリーングラス家という一つの貴族の長女の立場になったが故に、両親はダンスやら礼儀やら作法やら、とにかくお嬢様として色々必要な要素をスパルタで教え込んだらしい。
「なんて言うか、大変なんだね」
「全くだわ。そういうクシェルはどうなのよ?」
「私? 私は一人っ子だし、そんなに大変って訳じゃないから、普通かな」
「そう。フィールは?」
ダフネは話の流れからフィールにも問い掛けたが、問われた本人は一瞬戸惑いを見せたのを、入学当初からの付き合いである親友は見逃さない。
フィールは基本的に家族の話をしたがらないので、そこから考えると人に訊かれるのは出来るだけ避けたいタイプだと思われるので、今まで質問してこなかったクシェルはハラハラとダフネとフィールを見たり来たりした。
「………まあ、大変と言えば大変………かな」
フィールはお茶を濁すような言い方で、詳しい話をするのを回避した。ダフネはそれ以上追及することなく、深く椅子に座り直す。
「………眠いから、ホグワーツ着くまで寝る」
フィールは腕組みしてフッと瞼を閉じた。
「ん? フィール、寝ちゃったわね」
規則正しい寝息を立ててすやすやと安らかな寝顔を浮かべるフィールの顔を見て、ダフネは「寝顔は年齢相応ね」と呟き、クシェルはローブを毛布代わりとして被せた。
「クシェル、貴女、優しいわね」
「そう? 普通だと思うけどね」
「正直な話、貴女くらいよ? フィールとまともに話せるのって」
「学年末パーティー終わったら、皆話し掛けてたし、フィーも普通に話してたよ?」
「それでもよ。フィールとちゃんと話が出来るのわ」
フィールは、無愛想で無関心な性格である。
そのため、どちらかと言えば避ける人が多いのだが、ダフネが述べた通り、クシェルだけはフィールと対等に会話が出来るのだ。
「なんで、クシェルはフィールに近寄れるのよ?」
「え?」
「だって、フィール、貴女のことを最初は滅茶苦茶忌避してたじゃない。なのに、なんでそんなめげずに話し掛けられるのよ?」
これは、昨年ハーマイオニーからも質問されたことだ。クシェルは首を傾げ、フィールのあどけない寝顔を見ながら、言葉を発する。
「んー………なんでだろ? なんとなくかな」
頬に掛かる黒い髪を指先で払い除けながら、クシェルは明るい翠の眼を細める。
なんとなく、とは言ってるがその実本当は、別の理由も少なからずあったのだが、わざわざそれを教えるほど、クシェルも優しくはない。
なので曖昧にして返したのだが、
「ダメね。その理由じゃ」
素直にはいそうですかと引き下がるほど、ダフネも甘くはなかった。ダフネは変なところで勘が鋭いので、クシェルはバツが悪そうに頬をかき、それから観念したように告白した。
「フィーが、あの娘と被って見えたんだよね」
「あの娘って、誰よ?」
「もう何年も前だから、そこまで覚えてないんだけどね。ただ、昔会ったことがある女の子と、フィーが重なったっていうか、なんて言うか。とにかく、そんな理由………かな?」
詳しく聞いてみると、その娘はいつも傷だらけだったらしい。肌も不健康と言ってもいいほど白く、身体もかなり華奢だったとか。そして、誰も寄せ付けないような孤高の雰囲気を身に纏っていたみたいだ。
「へえ………そんな娘がいたのね」
詳しい事情はわからないまでも、その娘は大変だったんだなと、ダフネは神妙な面持ちになる。
「まあ確かに、フィールと重なって見えるっていう意味がわかった気がするわ」
「うん………それに―――」
「それに?」
「………いや、なんでもない」
クシェルは何か言いかけたが、首をブンブン横に振り、彼女らしくないぎこちない笑顔を浮かべた。それには流石のダフネも自重したらしく、深入りはしなかった。
クシェルは、窓外の景色に顔を向ける。
ガラスに映る、自分の顔と親友の寝顔。
何故だか、黒髪の友人の顔を見た瞬間―――クシェルの脳裏の片隅に、ある少女の姿が思い浮かべられた。
―――悲しみの色でいっぱいの、泣き顔が。
♦️
ホグズミード駅に到着し、フィールはダフネとクシェルと共に、2年生以上の生徒がホグワーツ城に向かうルートの夜道を歩いていた。
「結構暗いわね」
「まあ、夜だし」
「ん? これなのかな?」
これ、とはホグワーツ城へ向かう馬車のことであるが、その肝心な馬は何処にも見当たらない。
いや、正確に言えば『あるモノ』を見た者にしか、その正体は見えなかった。
「これ、どう動くのかな?」
クシェルとダフネは何もない馬車がどうやって動くのかに疑問符を浮かべているが、フィールにだけは
フィールの目線の先には、眼が白くて骨ばっている、ドラゴンのような翼を持った天馬が存在している。
『死』を見た人のみハッキリと姿が見える魔法生物―――セストラルであった。
「………セストラルだな」
「セストラル? 確か、『死』を見た人だけが見えるっていう天馬だったっけ?」
クシェルの言葉をまるで応えるかのように、フィールは何処と無く喪失感と虚しさを秘めた蒼い瞳で、二人には見えない有翼の生物の頭を撫でた。撫でる際、そこには確かな感触があり、それが余計誰かの『死』をこの眼で見たんだと、思い知らされる。
「フィール、貴女、まさか―――」
「ああ、その通り」
セストラルが見えず、馬車を率いる魔法生物の正体を知らない者からすると、フィールの行動は奇妙としか言えないだろう。
だがしかし、その正体を知っている人は、見える人特有の行動の意味を理解する。ダフネとクシェルも、その一人であった。
「そろそろ行くか」
フィールは二人を促し、三人が乗り込むと馬車は動き出し、他の馬車と隊列を組んでホグワーツ城へ向かった。
「今年はどんな新入生が来るかな?」
「フィールやハリー・ポッターみたいなスゴい人は多分いないでしょうね」
「ダフネ、それ何気に辛辣な発言だね」
魔法界の英雄の孫、生き残った男の子としてホグワーツでは有名な、フィール・ベルンカステルとハリー・ポッター。
その二人がスリザリン、グリフィンドールという対立関係の寮生であるためか、一部では二人をライバル認定して盛り上がる生徒もいる。現実では、ライバル関係とは裏腹に友達関係というのを皆は知らない。
とは言うものの、スリザリン生とグリフィンドール生の良好関係はとても稀少で、そして公に公表するのはあまり喜ばしいものではないからである。
どうしても、相反する理念の元で生活する生徒ということで無条件の敵意を抱懐するのに傾向する人が大半を占めているため、おおっぴらに楽しそうに会話する場面を見られるのは、あまりよくないことなのだ。
♦️
大広間で新入生の組分けも無事に終わり、歓迎会のパーティーに入る。テーブルには数多くの料理が並び、どれも美味しそうなのだが、周囲のロックハートファンの女子生徒達の雑音さえなければ最高の時間なのに、とフィールは無言で口に運びながらそう思った。
「そういや、フィー」
「なんだ?」
「今思い出したんだけどさ。ダイアゴン横丁で会った時、フィーの叔父さんと叔母さんとも会ったでしょ?」
「うん」
「親族揃って超美形って、ホント、ズルくない? あと、フィーの一族って、皆黒髪なの?」
「………母方の方は、まあ、黒髪が多いかな」
「あ、そうなんだ? じゃあ、父方の方は?」
「………さあ、な。どうだか別に知らないよ」
急にフィールは冷めた声音になり、ゴブレットの中身を一気に飲み干すと、コトンとテーブルに置いた。フィールのスッと冷たくなる横顔を見て、クシェルは戸惑った。
―――もしかして、父方の家族の人とは、あまり良好な関係ではないのだろうか。
フィールは、本当に家族の話をしない。
去年の今日、スリザリンの亡霊『血みどろ男爵』に母親は元気にしてるかと尋ねられた時、口を割らなかったのを思い出し、こうしてみると自分はフィールのことを何も知らないんだなと、クシェルは痛感した。
フィールと出会って1年が経過するが、未だにその詳細は掴めない。以前と比較して変化した部分があるとすれば、少しは口を利くようになった、ということだが………。
と、その時だ。
ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーが空飛ぶ車で登校し、暴れ柳に追突したと噂が大広間内に流れ―――それまでのブリザード級だった空気が一変して、そちら側の話題へと移り変わった。
「ちょっ、何やってんの!? ハリーとウィーズリーは!」
「類は友を呼ぶって言うけど………なるほど。馬鹿は馬鹿を呼ぶって意味がわかった」
クシェルが他生徒と同じく驚駭する中、フィールは若干ズレたコメントを呟く。黒髪の少女の感想に、茶髪の友人は「なんでそんな呑気にいられんの………」と友人に対する扱いを批判するように、でも、少し笑いを抑えるようにフィールを見た。
(全く………でも、まあ………ハリー達のおかげで空気変わったかな)
クシェルは密かにムードを変えるきっかけを作ってくれたハリーとロンに礼をし、デザートのアイスをスプーンで掬い、口元に運んだ。
夕食の終わり時に校長のダンブルドアが注意事項やクィディッチのことなどを話し、各寮生はそれぞれの寮へと歩いていく。スリザリンの談話室に辿り着き、相変わらず、闇と影を連想させる寮だなと思いながら自室へ行き―――必要最低限の物と寝間着をトランクから取り出したら、ベッドに座った。
ふぅ、と小さく息をついたら、同室のクシェルが隣に座り、ニッコリと笑いかけた。
「これからまたよろしくね」
「………ああ、よろしくな」
そうして、素早く寝間着に着替えた二人はベッドの上に座って軽く会話をし―――やがて、ゴロンと横になり、夢の世界へと旅立った。
♦️
「フィー、おはよう」
「おはよう、クシェル」
いつも通り、フィールが制服に着替えている途中でクシェルが目を覚ました。
黒のストッキングとスカートを履いて白のワイシャツを着、緑のネクタイを締める途中で、クシェルはふと、フィールの耳元に視線を移らせる。
「フィー、前から気になってたんだけど、そのアクセって何なの?」
クシェルはそう言いながら、フィールの右耳にあるアクセに触れた。
銀が掛かった青色の、シンプルなデザインのイヤーカフ。
フィールはもう一方の左耳に触れながら、それについて話した。
「ああ、これ? なんだろ、御守り的な物かな。母親の形見だから、肌身離さず身に付けておきたくて」
「へえ………そうなんだ」
クシェルはそれを聞き、ちょっと申し訳なく思った。母親の形見、ということは、母親は既に亡くなったという訳で………嫌なことを言わせてしまったと、クシェルは後悔した。
「………クシェル?」
フィールは首を傾げながら声を掛けると、クシェルはハッとし、「なんでもないよ」と笑う。フィールは「そう」と不思議がる訳でもなく、部屋を退室しようとしたので、その後を追った。
大広間に行くと、ワイワイと賑わっており、フィールとクシェルはスリザリンのテーブルに着いて朝食を食べている途中で、グリフィンドールのテーブルで騒ぎが起きた。
ロンの元に母親からの『吼えメール』が届き、彼とハリーはビックリ仰天してひっくり返そうになっていた。
吼えメールの馬鹿デカイ大声は大広間内全体にビリビリと響き渡ったため、フィールは顔をしかめ、クシェルは思わず耳を塞いだ。
「やっぱり、昨日のアレが原因か」
「うん。恐らくというか、絶対に」
空飛ぶ車で登校したのが要因だなと、フィールとクシェルは苦笑しながらミルクを飲むと、
「フィール、おはよう」
と、去年まで会話すらしなかったスリザリン生達が笑って挨拶し、フィールも「おはよう」と返す。
昨年の学年末パーティー後、和解した結果こうして話し合えるようになったことで、フィールへの評価がグンとアップした。クシェルは親友への扱いが変わったことを嬉しく思いながら、今日の授業内容に一喜一憂した。
朝一番の授業は『薬草学』で今年はマンドレイクという、その泣き声を聞いた者は命を落としてしまう危険な植物の育成で、それの植え替え作業だった。マンドレイクの根は赤ん坊のような形をしており、土から引き抜くとむやみやたらに暴れるため、大変な作業となった。
『闇の魔術に対する防衛術』の授業が行われる教室へ向かう途中、女子生徒の多くが黄色い歓声を上げているが、男子生徒は全員テンション低めだ。フィールとクシェルは合同授業で一緒のグリフィンドール生の集団でハリー達一行を見つけ、三人―――といっても、ハリーとハーマイオニーの二人だが―――の方から近付いてきた。
「やあ、フィール、クシェル」
「元気にしてたか?」
「まあまあね………」
小声で訊いてきたフィールへハリーは元気無さげに返答する。フィールとクシェルはなんとなく察し、敢えて何も言わなかった。
教室に入り、ハリー達とは少し離れた席に座っていたら、何故かファッション雑誌に写るような派手な服装をしたロックハートが現れた。
彼は一番手前の生徒―――ネビル・ロングボトムが机に出していた一冊の本を手に取り、高く掲げた。その本の表紙にはロックハートが写っており、表紙と同じように気持ち悪いウィンクを飛ばしてくる。
「私だ。ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。尤も私はそんな話をするつもりではありませんよ。バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払った訳じゃありませんからね!」
………本人なりには気の利いたジョークをかましたつもりなのだろうが、反応したのは極僅かな少数で、あとの人達は南極大陸の冷風がこの教室だけに吹いたかのような寒冷の空気に包まれ、冷めた眼差しで見ている。
「全員、私の本を揃えているのね? 勿論、一冊二冊くらいは読み終えていると思います。今日は最初にミニテストを行います。心配は無用。君達がどれだけ私の本を読んでいるのかチェックするだけの、簡単なテストです」
配られたテスト用紙を見た瞬間、フィールは床に叩き付けて踏みにじりたい衝動に駆られた。何せ用紙に書かれているものなんて、
『ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?』
『ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は何?』
『現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?』
とか、全くと言っていいほどにふざけた内容であり、どうでもいい質問ばっかり。それも裏表ビッシリ。
―――殴り飛ばしたい………今、すぐに!
フィールから滲み出る恐ろしいオーラを、隣に居たクシェルは敏感に察してビクッと身体を震わせ、恐る恐る横目で見てみる。拳をギリギリ握り締めつつもいつ『攻撃呪文』を撃ってもおかしくない、杖を取り出そうとしているフリーハンドの左手に視線を移して「落ち着いて! 今はクールダウンして!」と慌てて止めに入った。
このままでは、冗談抜きで『攻撃呪文』を撃ちかねない! それだけの不穏な雰囲気がビシバシ伝わってくる!
なんとかクシェルの努力の甲斐あってフィールは落ち着いたが、苛立ちを抑えるかのように舌打ちする音がクシェルだけには聞こえ、サッと顔を青ざめた。
どうやら、相当ご立腹らしい………あとでお菓子でも食べさせて忘れさせないと…………。
こうして、クシェルが終始隣に居た親友が爆発しないかにヒヤヒヤしていたとは露知らずの元凶ロックハートは30分後、全ての解答用紙を見て文句を言ってきた。
「おやおや、私の好きな色がライラック色だということをほとんど誰も覚えてないようですね。それと『狼男との偉大なる山歩き』の第12章でハッキリと書いているように、私の誕生日の理想的なプレゼントは魔法界と非魔法界のハーモニーです。尤も、オグデンのオールド・ファイア・ウィスキーが大瓶でもお断りはしませんよ!」
またあの気持ち悪いウィンクをし、一部の生徒は恍惚の表情で見つめたが、一部の生徒は極寒と嫌悪の視線を送る。
「満点なのは、どうやらミス・グレンジャーとミス・ベルンカステルの二人だけのようですね。ミス・グレンジャーとミス・ベルンカステルは何処に居ますか?」
嬉々として勢いよく手を挙げるハーマイオニーに対し、
「素晴らしい! グリフィンドールとスリザリンにそれぞれ10点です!」
嬉しそうなハーマイオニーは別として、フィールは普段なら喜べる加点も今は喜べず、どんどんヤバいオーラが増幅したようにクシェルは感じられた。
その後、ロックハートは籠に入れた、捕らえたばかりのコーンウォール地方のピクシー小妖精を持ってきた。皆は笑いを堪える様子である。
「侮ってはいけません! コイツらは厄介で危険な小悪魔になりえます。それでは、君達がピクシー妖精をどう対処するか………お手並み拝見!」
ロックハートがピクシー妖精を檻から解放した瞬間、ロケット発射のようにピクシー妖精が飛び立ち、教室は大パニックになった。
ピクシー妖精達はあちこちで生徒を襲ったり、本を破ったりインクを倒したりなどしてやり放題だ。
ロックハートが何やら意味不明な呪文を唱えたが、効果が無いどころか逆に杖を奪われて窓に放り投げられる始末なのでコイツはもう当てにならない。
数分後、生徒の大半が机の下に隠れて避難した。
ネビルに限っては天井のシャンデリアにぶら下がって揺れている。大方、ピクシー妖精に吊るされたのだろう。
「フィー、何とかしないと―――」
が、クシェルが言い切る前、フィールは彼女の背後を見て僅かに眼を剥き、急いで彼女の肩を掴んで自分の方へ抱き寄せ、
「
『盾の呪文』を発動。半透明の防壁を展開。
同時、ピクシー妖精がクシェルに向かって投擲したガラスの破片がバラバラと床に崩れ落ちた。
「間一髪だな………」
フィールはホッと息を吐いたのも束の間、今度は別方向から細かなガラスの破片が四方八方に飛び散ってきたので、彼女はクシェルの頭を抱え込み、身を捻って庇う。頭や背中のローブに砕けたきらびやかな欠片が降ってきた。
「フィール、クシェル、大丈夫!?」
ちょこまかとすばしっこいピクシー妖精を相手に冷静に対処してたハーマイオニーが、危険な室内を掻き分けてやって来た。フィールは小さく頭を振る。
「ああ………ハーマイオニーは?」
「私も大丈夫よ………フィール、私達でどうにかしましょう」
「そうだな………」
フィールとハーマイオニーは杖を掲げ、
「「
二人は杖を振るって『停止呪文』をピクシー妖精のみに限定し、教室全体に向かって放つ。オールストップしたのを確認したら、二人ががりでピクシー妖精を籠の中にぶち込んだ。
「………ハーマイオニー。ロックハートはどうしたんだ?」
残りの後始末は教師にやらせようと思ったフィールがそう訊くと、
「ロックハート先生は………確か別室に引っ込んだと思うわ」
それを聞き、フィールはチッと舌打ちする。
その時、終業のチャイムが妙によく響き渡り、グリフィンドール生とスリザリン生は早々に教室を出ていく。室内が酷い有り様だったのでフィールはため息つきながら、杖を一振りして元通りにした。
それからフィールは、シャンデリアに吊るされているネビルを魔法を使って降ろした。ネビルは何度もフィールに礼を言い、彼女は「別に気にしなくていい」と言葉を掛ける。
「………クシェル、大丈夫か?」
「う、うん………大丈夫」
フィールに抱き寄せられてからずっと彼女に抱かれていたクシェルは、彼女の間近にある顔を見る。細い腕からは想像がつかないほどの強い力で自分を抱き庇ってくれたのはまるで始末が終わるまでは絶対に離さないと言ってるみたいだった。
(もしかして………私のために怒ってくれた?)
先程の、彼女の怒りに滲んだ声音と表情。
それを思い返し、クシェルは未だに左腕で抱いたまま離さないフィールをじっと見つめた。
【グリーングラス家一家の設定】
公式では純血主義者だったらしいけど、原作のラストで妹のアステリア改心しましたからね。ならもう最初っから非マグル差別者と反純血主義者にさせればよくない? とのことで、原作のスリザリンキャラ一家で(多分)唯一まともにさせました。
【グリーングラス姉妹のルックス】
黒髪灰色眼。
名家のお嬢様だし、エレガントとノーブルを兼ね備えようとのことで、高貴な印象の黒髪と大人っぽいグレーの瞳という容姿に。
【ドラコ・マルフォイとは相反する立場】
同僚同輩のマルフォイとは同じ貴族出身でありながら、作中では彼と相反するキャラ。
マルフォイは一人息子なので、両親からは甘やかされ、彼もまた我儘放題OKです。
ですがダフネには妹がいるので、『姉』というのと『グリーングラス家の長女』という二重の意味で、妹ができてからは両親にスパルタ教育を受ける羽目に。
遊び盛りの年頃で思春期なので、厳格な親にはイライラとしつつも、名家の長女としてそれなりの責務はきちんと自覚し背負っています。
そういった点では、マルフォイと違って自分の立場をしっかり理解しているので、彼は彼女を見習って欲しいですね。
【イヤーカフ】
母親の形見で装着してるアクセの一つ(もう一つはロケット)。
形はシンプルで色はシルバーブルー。