【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
新学期に突入してから、初の休日。
何処のテーブルでも今日は授業が無いことからどのように過ごすか友人達と話し合っている姿がちらほらと見られる。
蛇寮の生徒も例外ではなく、テーブルの一角でフィールとクシェルは魔法の修練について会話をしていた。
「今年も必要の部屋でやる?」
「そうだな。その方が効率いい」
と、そこへ。
「フィール、クシェル。何を話しているのかしら?」
朝食のコーンフレークを食べていたダフネが何やら内密的な話題をしていたのを耳にして好奇心をくすぐられたのか、向かい側の席から割り込んできた。
「魔法の実践に関すること」
「へえ、面白そうね」
ダフネは興味津々そうな表情になり、フィールとクシェルが「ダフネもやる?」と訊いたら、コクリと即首を縦に振った。
「なんか、ちょっと意外だね」
「だな。あまりそういうものやるような人には見えないし」
「ロックハートは当てになんないし、それなら、自習が一番よ」
「あー………それは言えるかも」
ロックハートの行き当たりばったりの授業のせいで危うく怪我しそうになったクシェルは、ダフネに同情の眼差しを向ける。
「あの男、ロクでもないヤツだというのは嫌なくらい見せ付けられたな」
フィールもあの出来事を思い返してたのか、イライラとした声音で言った。
(あら、珍しいわね、フィールが怒ってるなんて。………それにしても、フィールったら、クシェルに対する接し方や気持ちが少しは変わったのかしら?)
他人に無関心で無口無表情、感情表現に乏しいフィールが、何人かの人がギリギリ察するくらいの怒りを見せるのは珍しい。
それだけ、友達という存在の大切さを少しは知ったのだろうか………。
(どうやら去年はトロールからクシェルを護ったそうだし………フィールって、クシェルに危険が迫るとまるでいつもと違うわ………)
でも、まあ、なんだかんだで優しいフィールのことだから、仮にクシェル以外の人が怪我をしそうになっても助けるだろうとダフネは考え、飲みかけの紅茶に口をつけた。
♦️
必要の部屋。
そこでは、三人のスリザリン生が訓練場のど真ん中に立っていた。ダフネは思わず眼を丸くして二人を見る。
「貴女達って、いつもこんなことしてたの?」
「まあな。時間が許す限りは」
「努力家ねえ」
勤勉で誠実、フェアプレー精神を重んじるハッフルパフや寮内での競争心が強いレイブンクローなどが相応しいのではと思うのは、なにもダフネだけではない。何故フィールとクシェルは狡猾さや純血主義に傾倒するスリザリンに所属しているのかと、疑問を持つ生徒は多数いる。
「さて、何から始めるのよ?」
「最低限覚えておけばいざという時に役立つ呪文を体得したら、あとは自由に練習って感じだな。教えて欲しい呪文があったら教えるぞ」
「例えばどんな呪文を覚えるのよ?」
「『武装解除呪文』『失神・麻痺呪文』『盾の呪文』等」
「どれも戦闘用じゃない!」
「ダフネ、これが防衛術だからな」
フィールとクシェルはローブとセーター、ネクタイを脱いで身軽なワイシャツ姿となり、ダフネもそれに倣ってワイシャツ姿になる。
「ま、最初はウォーミングアップするけどな」
「ウォーミングアップ?」
「ああ。魔法や呪文は使用すればするほど、精神力や体力をその分消耗する。高度なヤツとなれば尚更な。これでも魔法の訓練かと思うかもしれないが、戦闘中に所謂『燃料切れ』を起こさないよう身体を鍛えるのは重要な課題だ。今から全く威力の無い閃光が飛んでくるから、それを避けろ」
「わかったわ………って、どっから来るのよ?」
フィールとクシェルは顔を動かし、ダフネがその先を見てみると―――先程まで居なかったはずのゴーレム人形がこちら側に杖を向け、不意打ちで色とりどりの光を次々と発射してきた。
「えっ、ちょっ!?」
ダフネは慌てて避けたが、二人は軽々と容易く避け、連続で来ても慣れていることからいとも簡単に回避する。だが、初心者で必要最低限運動をしないダフネにとっては辛かった。
ウォーミングアップがスタートしてから10分ほどが経過したところで流れ弾が飛んで来なくなったので、ダフネは膝をついて荒く呼吸をした。
「はぁっ………はぁっ………」
「疲れた?」
「当たり前、よ………なんで、そんな………二人は普通にやれるのよ?」
「毎回これは取り入れてるからね。ずっとやれば身体が慣れていくよ」
ダフネは二人の全然疲れていない顔を見上げ、
「クシェルはまだわかるとして………フィールって意外と行動派なのね」
「これでも身体動かすの好きだし」
運動が好きでアクティブ精神は父親も同じだった。と言うより、父親譲りと言った方が正しいかもしれない。
「とりあえず、ダフネの体力が回復したら、覚えられる呪文から覚えていくって形にするか」
数分後、完全回復したダフネはフィールにアドバイスを貰いながら練習を進めていき、その間クシェルは目標としていた『守護霊の呪文』の練習に当たった。
ダフネの場合、人に直接当てるやり方だと危険過ぎるので的当てを中心に行った。狙い通りに撃つのは困難なので、ダフネは当たったり外れたりで一喜一憂して忙しい。
それから数時間は延々と練習を続け―――休憩にするかと、フィールはダフネにホットチョコレートを入れたマグカップを手渡したら、中距離で最難関呪文を習得しようと奮闘しているクシェルにもマグカップを手渡した。
「どうも上手くいかないなぁ………」
クシェルはフィールみたいに形がハッキリしている守護霊を創り出せないことを悔しんでいた。
守護霊を生み出せる魔法使いは数少ないので、フィールのレベルはプロと匹敵するかそれ以上の実力者である。とは言っても、クシェルは銀白色の霞を出せるので、それだけでも一人前の魔法使いとして認められる。十二分に凄いことだ。
「フィーってさ、どんなこと考えているの?」
やはりここは実際に形を持った守護霊を呼び出せる人に参考として訊くのも一つの手であると、先生役のフィールに尋ねてみたが、フィールはその質問に顔を曇らせた。
「………さあ、な。今はほとんど咄嗟にやってることだし、いちいち想い描いてはないかもな。それに人によって幸福の価値観は違うんだから、邪魔になるだけだろ」
フィールは瞬く間にいつもの無表情無感動へ切り替わると冷たく質問に答えた。
確かにフィールはすぐに守護霊を呼び出せるし、時間だって掛かっていない。と言うことは、彼女が言っている通り熟練者になれば即召喚出来るのかもしれないが―――。
(………幸せな記憶………か………)
守護霊は、幸福や希望などといったプラスのエネルギーの塊である。故に、絶望や恐怖というマイナスのエネルギーの塊の
幼くして家族を失ったフィールにも、幸せな想い出は少なからずともちゃんとあった。
実の娘みたいに面倒を見てくれた叔父のライアン、叔母のエミリー、セシリア(ライアンの妻でルークとシレンの母)。妹みたいに可愛がってくれた従兄のルーク、従姉のシレン。幼い時からずっと傍に居て支えてくれたクリミア。
………こう考えてみると、母方の人物との想い出は出てくるが、ならば父方は?
そう思ったフィールの頭に、誰かの鋭い声が反響した。
―――お前のせいで、兄さんは………!
「―――! フィー!」
友人に身体を揺すぶられる振動によって、思考の海に沈みそうになったフィールの意識は引き上げられるのと同時、彼女の声が頭の中で反響した男の鋭い声を打ち消した。
「フィー、どうしたの?」
「………いや、なんでもない」
考え事に没頭しすぎた、とフィールは内心で舌打ちし、ホットチョコレートを一気に飲み切った。
チョコの甘い味わいとほどよい温かさは、冷えきった精神と思考を溶かしてくれた。
♦️
「フィール! クシェル!」
休日2日目の日曜日。
午前中に行った訓練を終え、ダフネは談話室で休憩もとい寛ぐと言っていたので、フィールとクシェルは野外に出ようとした時、別方向からハリーの声が聞こえてきた。
そちらを見てみると、やはりハリーが居て、ハーマイオニーとロンも当然ながら居る。
後者からは睨まれるが、最早慣れっこのフィールとクシェルは涼しい顔で受け流し、ハリーは二人の腕を引っ張っていくと、中庭まで連れてきた。
「それで、何の用だ?」
「聞いてよ。昨日、クィディッチの朝練があったんだけどさ―――」
昨日、フィール達が必要の部屋でレッスンをしていたその裏で、ちょっとしたトラブルが起きてたらしい。なんでも、グリフィンドールのクィディッチチームが朝練をしている最中、スリザリンのクィディッチチームが割り込んできたらしく、その目的が『新人シーカーの育成』。それが、かのドラコ・マルフォイであり、彼の父親がチーム全員に最新鋭の箒・ニンバス2001を寄贈したそうだ。
「うわ、卑劣だね」
「ああ、全くだな」
二人は盛大に顔をしかめ、クシェルの言葉にフィールは同意し、ハリーも「だよね!」と大きく頷き、話を続ける。
ハーマイオニーがマルフォイ達スリザリンのクィディッチチームに対し、物申したそうだ。
「グリフィンドールのチームはお金ではなく才能で選ばれている」と。
「そしたら、マルフォイ、ハーマイオニーに『穢れた血』って言ったんだ!」
ハリーは溜め込んでいた怒りを全部吐き捨てるように叫び、フィールとクシェルは更に顔をしかめた。
穢れた血。マグル生まれの魔法使いを侮辱する最低で禁句の差別用語だ。
「アイツ、とんでもないこと言ったな」
「うん。いくらなんでも、酷いよね」
マルフォイと同じスリザリン生だというのに、フィールとクシェルは同調するどころか、逆に嫌悪感丸出しにした。
ハリーは彼女らをマルフォイは見習って欲しいと思うのと同時、なんでこの二人はスリザリン生なんだろうという疑問を抱いた。
組分けされる寮は大抵親が所属していた寮である可能性が高く、その典型的な生徒はまさにマルフォイの一家であり、代々受け継がれる資産家と純血主義は周知の事実だ。
「なんで君達はスリザリン生なんだ?」
「は?」
「え?」
「いや、だってさ。君達はマルフォイとかと全然違うじゃないか」
入る寮を間違えたんじゃないの?
そう言ったハリーへ、二人は苦笑いする。
「なんで二人はスリザリンに?」
「………母親や祖母がスリザリン出身だったから?」
フィールは首を捻りながらそう答え、クシェルは、
「んー………まあ、両親がスリザリンだったっていうのもあるけど、やっぱり、お母さんが言ってたのが理由かな?」
「どんな理由?」
「私のお母さん、半純血の魔女なんだけど………あ、そういうことだから私、混血なんだよね」
「え? クシェル、混血だったの!?」
「うん。お父さんは純血なんだけどね」
初耳のハリー達は驚倒したが、クシェルは気にせず言葉を続ける。
「で、話が脱線したけど………学生時代に親友となった人が半純血だって知っても変わらずの関係でいてくれたのが嬉しかったって。だからかな?」
「そうなんだ」
「今はその人どうしてるの?」
「………そのことを訊くと、お母さん、悲しそうな表情になるから、訊かないようにしている」
クシェルの言葉に、彼らは口を噤んだ。
詳しいことを知らないとはいえ、重い話に変わりはなく、俯いた。
(………お母さん………か………)
フィールの両親は、既に他界している。
7年前、父親は亡くなり、母親は廃人となって、その2年後、息を引き取った。
死因は未だに未解決のままで、深い闇の中に隠されている。
フィールですら、何故亡くなったのか、わからない。
ただ、一つだけ、気掛かりなことがあった。
5年前………その、母親が亡くなった年に、何かがあったような気がするのだ。何故か、その年に起きた出来事はどうしても思い出せず、フィール自身も、そのことにはあまり触れないようにはしているのだが………。
「………クシェル、私、先に戻ってる」
フィールは結論の出ない思考にまた囚われてしまうと、クシェルの返事を聞かずにそのまま歩き、スリザリン寮へ戻った。地下牢に着くと、合言葉を言って中に入り、早足で自室に向かうとベッドに身を投げ出す。
「………はぁ………」
父親と母親は、もうこの世に居ない。
これまでも、極力意識しないように生活していたが………それでも、孤独な想いはフィールの頭に、心に、魂に、巣食って離れなかった。
「………
身を軽く起こし、杖を取り出して『守護霊の呪文』を詠唱。杖先から白銀の霞が噴き出し、狼の形を創り取る。
幸せな記憶が、守護霊を形成する。
ならば、自分は一体何を思い浮かべているのだろうか。どんなことが、姿形となって現れたのだろうか。
フィールはフッと眼を閉じ、ベッドに倒れ込むように横になる。見える世界は闇色一色でそれ以外の色は皆無。
謎の海の中を彷徨いている錯覚に陥りそうになるのは、やはりあのことが気になっているからであろうか。
「………?」
フィールは何かの気配をすぐ側で感じ、重い瞼を開く。眼に飛び込んできたのは、銀色の狼だ。
狼は主人の淋しそうな表情を見て心配しているのか、クンクンと顔を擦り付けてくる。
「………あなたなら分かる?」
フィールは自分を心配してくれる分身とも従者とも言える保護者に自嘲気味に微笑みかけ、その頭を撫でながら、無意識の内に尋ねる。
………わかっている。
守護霊は喋らないし、意思疎通が出来る訳でもない。
ただ、それでも、少しだけ、疑問や苦悩を口にしたかった。
(…………お母さん………)
亡き母も同じ守護霊の形であったのを不意に思い出したフィール。この時だけは、優しさと懐かしさを織り交ぜた蒼い瞳で狼の瞳を見つめた。
午前中に数時間ぶっ通しで練習をしたからなのか、次第に睡魔に襲われ、フィールは守護霊を消して再び眼を閉じた。
目の前に漂う、白銀の残像。
瞼をおろす前―――その残像が、母親の姿を形作ったような気がして、脳裏の片隅に、浅く刻まれた。
♦️
「Trick or Treat!」
10月31日、ハロウィーンの日。
生徒達の陽気な声が、大広間に響く。
去年はトロール騒動があったためか、大広間の飾り付けはそれの埋め合わせをするかのように派手な装飾であり、生徒達の間でかなりの盛り上がりを見せていた。
「結局、フィーはシーカーにならないんだね」
「ラフプレーをフェアプレーにしない限りはなる気はないし、勝ったところで文句言われるだけだろ。試合で勝つなら堂々と誇れる勝利がいい」
去年の飛行訓練時、グリフィンドール生のネビル・ロングボトムがフライングし、危うく地面へ墜落しそうになったところを、フィールが抜群のバランス感覚と行動力で救出した。シーカー気質としてのセンスはずば抜けており、それこそハリー・ポッターと匹敵するほどだ。
だがしかし、ハリーは寮監で教頭のマクゴナガルに目撃されたから最年少選手になれ、逆に目撃されながらもその事を伏せられてしまったフィールはいくらスリザリンのクィディッチチームが1年生にも代表選手になるチャンスを設けるよう総員で物申ししても、『規則』の一言で済まされ、華やかな栄誉を手にするチャンスを踏みにじられた。
スリザリンのクィディッチチームは敗北してからというものの、何度も何度もフィールに「来年はシーカーになってくれ!」と泣いて頼まれ、本人は「考えておく」と返事しておき―――今年、フィールは選手選考には応募せず、自分を踏み台にしてシーカーになったハリーへの屈辱感を味わってきたドラコ・マルフォイがスリザリンの新たなる重大ポジションに君臨した。
キャプテンのマーカス・フリントやメンバーは、マルフォイの父親が最新鋭の箒を寄贈してくれたことに歓喜していたが、フィールが選手にならなかったことを残念がった。
「フィー、先輩選手からスカウトされるのってスゴいことだよ? 来年はなってあげて。フリント先輩のためにも」
「はぁ………別に私がシーカーなっても、そんなに変わらないだろ」
「そうかな? 私は見たいよ? フィーがクィディッチの優勝杯を手にした姿」
クシェルの何気無い発言に、フィールの挙動が停止した。
―――クィディッチの優勝杯を手にした姿。
それは、トロフィー室で見た………写真の中の母と同じスタンスになったということだ。
かつて、母のクラミーはピンチヒッターとしてシーカーになり、優勝に導いた。
その時の写真を見て、淋しさや苦しさがごちゃ混ぜになって涙したけど…………。
その後ろ姿を追い掛けた人と、近付けるなら。
母が立った場所に、自分も立てるなら………。
「…………………」
自分が進みたい道を追い求めるように、静かに眼を閉じ、黙考する。
クィディッチは嫌いじゃないし、プレーするのも特段悪くはない。
ただ、スリザリンのアンフェアな戦法が気に入らないのだ。あんなやり方で勝ったとしても、個人的には誇れない。寮内では狂喜乱舞するものだが、やはり勝つなら徹底的に勝ちたいと思うのがフィールの本音だ。
と、そこに本日ダンブルドアが余興として呼んだ、魔法界では根強い人気を誇る『骸骨舞踏団』が入場し、辺りから歓声が上がる。
「スゴい、本物だ!」
「! ……そうだな」
フィールはクィディッチの話題は一旦置こうと、余興の骸骨舞踏団の演奏を楽しんだ。
♦️
ハロウィーンパーティーの楽しかった時間に余韻を残しながら、それぞれの寮に戻る途中の廊下で、事件が突如起きる。
『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気を付けよ』
3階廊下の不穏な雰囲気。
水浸しの冷たい床。
壁に書かれた禍々しい紅色の文字。
松明の腕木にぶら下がり、ピクリとも反応無しで一切動かない猫、ミセス・ノリス。
そして、その前で硬直し、混乱している三人の生徒―――顔面蒼白のハリー達一行が居た。
「継承者の敵よ、気を付けよ! 次はお前達の番だ、この穢れた血め!」
高揚し、興奮状態のマルフォイの歓喜に満ち溢れた声が、暗く、奇妙な静寂に包まれている廊下に響く。
その声に釣られ、管理人兼ミセス・ノリスの飼い主、アーガス・フィルチが飛び込んできた。
「私の………私の猫だ! ミセス・ノリスに何が起こったというのだ!?」
フィルチは、事件現場に一番近いハリーを鋭い眼差しと凄まじい形相で睨み付ける。
「お前か………お前だな! よくもこの子を! 殺してやる! 殺して―――」
怒りで盲目になっているフィルチ。
未だに硬直し、立ち竦むハリー達。
2年生のハリーにこんなことが出来るはずないのに、今のフィルチにはそんな簡単なことすら頭に入っていなかった。
「アーガス、一緒に来なさい。ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャー嬢もじゃ」
「校長先生、私の部屋が開いてます。すぐ上です」
「ありがとう、ギルデロイ」
ダンブルドアが怒りMAXのフィルチを窘めながら猫を抱き、ハリーと友人二人を連れてその場から立ち去った。
残された生徒達は、残された教師陣の指示でようやく動き出し、それぞれの寮へと帰っていく。
歩いている生徒達は、秘密の部屋やハリー達のことで話題は持ちきりだったが―――クシェルはフィールのローブを掴みながら、怯えた面持ちで壁に書かれている禍々しい文字を見つめた。
「フィー………これ、どういうことだと思う?」
「………わかることは、ロクでもないことの始まりだな」
フィールは至って普通の表情だが、その声には確かな警戒の色が孕んでいる。より一層、クシェルはギュッとフィールのローブを掴む手に力を込めた。
「『秘密の部屋』………これって一体………」
「………ひとまず、早く寮に戻ろう。此処にずっと居て早々被害に遭ったら洒落にならない」
「うん………」
寮まで辿り着く間、クシェルはフィールの裾を掴みながら歩き、フィールは何が起きても対応するべく、無意識の内から杖を抜き出して強く握り締めていた。
談話室に着くとそこに居るのは数十人しか居らず、後の大半の生徒は部屋に戻ったらしい。談話室に居た生徒はフィールの姿を認めると、すぐに駆け寄り、
「フィール、『秘密の部屋』って知ってる?」
と、あらゆる分野でも知識が豊富で博識な彼女に尋ねた。フィールは説明しようと口を開きかけたが、
「僕が教えてやるよ」
マルフォイがニヤニヤしながら割り込み、フィールに成り代わって親切なくらいに、わかりやすく教えてくれた。
―――純血ではない生徒にとって、解決するまでは四六時中恐怖の日々となる、受け入れたくない現状を。
「この学校には偉大なる創設者サラザール・スリザリンが残した部屋があるのさ。偉大なるスリザリンはマグル生まれ………つまり、穢れた血は魔法を学ぶのに相応しくないとお考えになった。そこで、秘密の部屋に穢れた血を追放するための怪物を封じ込めたのさ」
怪物? とスリザリン生数十人は表情を硬くしたが、それに構わずマルフォイは言葉を続ける。
「『スリザリンの継承者』のみが操れる怪物さ。そして今、秘密の部屋は開かれた。これにより継承者の敵は一掃され、ホグワーツには選ばれた純血の魔法使いだけが残される」
マルフォイは説明し終えると、フィールと向き合い、こう言った。
「ベルンカステル、特に君のような生徒は真っ先に狙われるだろうさ。今からでも純血主義を認めて謝れば、許して貰えるかもしれないぞ?」
警告とも脅迫とも捉えられるマルフォイの発言にスリザリン生はフィールの方を見る。彼女は小さく息をつくと、狼のように鋭い、まさに眼光炯々という言葉がピッタリの双眸で、マルフォイを睨み返した。
「おあいにく様。私はそういった追放なんて行為は嫌いだし、無意味だと思うけど? 純血とかマグルとか血筋のしがらみをいつまでも引き摺っているから、現代の魔法界は人口減少を引き起こしている。なんでそのことを気付こうとしないかが逆に不思議だけどな」
怪物、と聞いても一切臆することなく、堂々と自分の思ったことを伝えるフィールに、マルフォイのみならず、談話室に居た生徒は皆呆気に取られる。
「―――自分達が自分達を絶滅に導いている。そのことを忘れない方がいいんじゃないのか?」
最後にキッパリと、フィールはそう言った。
マグル生まれの魔法使いを受け入れてなければとうの昔に滅んでいた魔法族。
何故、それを知っていながら、わかっていながら、ただただ意味のない悲劇を、無限ループのように延々と繰り返すのか。
フィールにとって、謎でしかなかった。
マルフォイはまだ何か言いたそうだったが、「いずれわかるさ」と捨て台詞を吐き捨て、男子部屋へ帰っていった。
フィールはそれを見届けると談話室の椅子に座り、深く息を吐いた。
「………?」
フィールはしばらくして、自分に送られている視線に気付いて顔を上げると、
「やっぱり、カッコいいよな。誰に対しても恐れず堂々と意見を言えるヤツは」
「うん、だよね」
フィールを囲むようにして座り、スリザリン生の男女が口々に誉め言葉を送った。
「なんて言うか、フィールは他人の脅しに屈するって感じがしないわ」
「それに、逆に脅し返しそうだよな」
「誉めてるのか貶してるのか………」
どっちなのか定まらず、フィールは苦笑し、皆も笑った。
だが、それも束の間。
その顔は、真剣そのものになる。
「正直、アイツの話は信じたくないけど………俺はアイツが冗談であんなこと言うヤツには見えない。お前はどう思う?」
「『秘密の部屋』は確かに『ホグワーツの歴史』にも記載されている。それが真実か虚偽かはハッキリしないけど、ミセス・ノリスが石化しているのを見ると、前者の可能性が非常に高い」
フィールの重い発言に、皆は顔を険しくする。
夢物語だ、と言いたいが、フィールがいつになく真顔で話すということは、かなりの確率で不味い状況になるのかもしれないと、何処からかそんな確信が持てる。
「アンタ達がそれを訊いてくるってことは………もしかして、混血か?」
フィールの問い掛けに―――この場の中で純血じゃない者は皆コクリと首を縦に振り、
「俺、父さんがマグル」
「私、お母さんが半純血」
と、今まで嘘ついてきた自身の血統を打ち明けた。純血の生徒がほとんどを占めるスリザリンでは極稀の混血の生徒達にとって、純血でありながら反純血主義者で尚且つ自分の意見を純血主義者に述べられるフィールの存在は、何よりの救いであった。
「やっぱりな………」
とりあえず重苦しい空気を払拭しようと、フィールは杖を一振りして全員分のティーカップを出すと手早く紅茶を作り、手渡した。
それを飲んで気分転換になった頃合いを見計らったのか、上級生のアリア・ヴァイオレットがフィールに尋ねる。
「フィール、貴女はアレを引き起こしたの、誰だと思う?」
アレ、とはミセス・ノリスを石化させたのは誰なのか、ということだろう。
「恐らく、マルフォイが言ってた『スリザリンの継承者』が『スリザリンの怪物』を操って、あんなことが起きた………と思います」
「そうよね………そうとしか言えないわよね」
「今回は実際に被害が出ている。もしもこのまま続いたら、まず間違いないなく生徒にも被害者が現れるだろうな。そして、その標的はマグル生まれや混血の生徒………」
フィールは談話室に居る生徒を見渡し、
「事件が解決するまで、単独行動は最低限しない方がいい。出来るだけ、誰かと一緒に居るのが無難だ」
得体の知れない何かが、この学舎の生徒達を脅かす不可解な現象。
今年は―――完全石化事件が、純血でないホグワーツ生を恐怖に堕とすだろう。
「とりあえず、まずはお風呂でも入って忘れましょう」
とアリアが言い、皆は早速集団行動の先駆けだと言わんばかりに、各自着替えを持ってきたらそれぞれ男子用と女子用の浴場で皆で入ろうと早々に談話室から人がいなくなる。クシェルもその一人であったが、何故かフィールは行こうとしないため、首を傾げた。
「フィーは行かないの?」
「全員上がったら、入りに行く」
「前々から思ってたんだけど、なんでフィーは皆が入ってる時は入りに行かないの?」
ホグワーツ城内には監督生とクィディッチチームのキャプテンが使用許可されているバスルームがあるのだが、各寮にも男女別の浴場が配備されているので、一般の生徒はそれを使用している。
スリザリン生は名家出身が多いためか、身だしなみに気を使う生徒も多数で、寝る前とかはよく利用しているのだが―――何故か、フィールはいつも単独で入浴したがるのだ。誰かが入ってる時は絶対に行こうとはせず、本当に誰も居なくなった頃を見計らって入りに行く。
「………………」
「もしかしてフィー、女同士でも裸を見られるのに抵抗あるの?」
「あー、えっと………」
返事をする代わりに、フィールはプイッと顔を背ける。
その動作は肯定も同然だ。
クシェルはフィールの意外な一面に可愛いなと思いつつ、彼女の腕を掴む。
「でも、一度くらい来てよ? フィーが集団行動を心掛けるべきだって言ったから、皆で入ろうって感じになったし………それを言った本人が単独行動したら、後々言われるよ?」
「………いや、断る」
珍しく歯切れが悪いフィールにじれったさを募らせたクシェルは、思い切って半ば強引に連行し―――脱衣室へと向かった。
「なんで私は此処に居るんだ」
「つべこべ言わないの。後で文句言われるよ」
「今回はクシェルに同意よ、フィール」
クシェルはこっそり逃げようとしたフィールを捕まえ、前者の加勢者としてネクタイを解いていたアリアにも引き留められてしまい、ズルズルと連れていかれる。
「ちょっ………」
中々制服を脱ごうとしないフィールに業を煮やしたのか、クシェルは緑のネクタイの結び目に手を掛けて緩ませる。
「………ああ、もう、わかったよ。先行って」
「本当に?」
「本当だっての。だから、先行って」
潔く諦めたみたいだが、どうしても制服を脱衣する場面は見られたくないらしい。クシェルとアリアは大人しく早々に制服を脱いだら、先に浴場へと行った。二人が姿を消し、誰もいない脱衣室でフィールはネクタイを外し、ワイシャツのボタンを外していく。
そして一度深呼吸をし、フィールはワイシャツも籠の中に入れると身体をタオルで隠しながら、スリザリン女子用の浴場へ足を踏み入れた。
【ダフネ・グリーングラス魔改造スタート!】
ダフネもフィールからの手解きで強くなるでしょうね。
果たしてどれくらい強くなることやら………。
いずれ彼女も守護霊を呼ぶほど強化されると思いますけど、その場合ダフネの守護霊を何にしようか、現在、検討中です。
そして、クシェルは混血だと判明。
最後の方でも名も無き混血の生徒が結構続出。
この人達は公式でもある『スリザリン生でも純血ではない生徒』だと思ってください。
あと、浴場ですが……まあ、多分各寮に大浴場は流石に男女別で完備されているだろうとの考えで、こんな感じですが……実際はどうなんでしょうね。
余談ですが、作者的なフィールとクシェルの愛称は『クシェフィル』です(*´ω`*)。