【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
翌日から、秘密の部屋について詳しく知りたい好奇心旺盛なホグワーツ生達による『ホグワーツの歴史』という本の貸出が殺到し、予約は1ヶ月先まであるとの有り様だ。
ハーマイオニーが魔法史の授業中に『秘密の部屋』について質問して以降、他寮の生徒もそれに倣い、数分間ではあるが、最もつまらない授業の話を真面目に聞くと言う、とても稀な事態が発生した。
それだけ、『秘密の部屋』は生徒達の興味を惹き、同時に好奇心も刺激されるのだろう。
しかし、その騒動も一段落していた。
今年も、クィディッチシーズンが到来したからだ。
グリフィンドールVSスリザリンが開戦されるよりも前から、フィール達は必要の部屋で今まで以上に厳しい特訓を重ねてきた。
まず、基本的な呪文は確実に扱えるように何度も繰り返し、ある程度土台が固まってきたら、ダフネは『盾の呪文』の練習に入った。
『盾の呪文』は習得困難で、それまでほとんど難なくクリアしてきたダフネでも悪戦苦闘であった。が、習い始めてから数日後―――『盾の呪文』をマスターした。これなら最低限自分の身を自分で護れるだろうと、フィールは安堵した。
「このお菓子、美味しいですね」
「それなら、よかったわ」
スリザリン寮の女子部屋の一室。
フィールは先輩のアリアにお茶会を誘われ、こうして5年生の部屋にお邪魔させて貰っていた。
上級生の部屋に来るのは初めてなので、興味深そうに室内を見回す。
ベッドや衣装棚などの家具は同じでも、置いている小物が違えば雰囲気が全然違うのだと実感した。
「ん? 興味あるの?」
「先輩の部屋は初めて入るので」
「私も初めて後輩呼んだわよ」
「………あの、なんで私を?」
フィールは、アリアに訊いた。
何故、自分を此処に呼んでお茶会でもしようと誘ってきたのか。
すると、アリアは優しげな笑みを浮かべ、
「あまり二人だけで会話したことってないじゃない? だから、場所を変えて話をしてみたかったのよ」
「はぁ………」
そうは言われても、フィールはどう反応すればいいかに悩んだ。アリアは笑みを絶やさないでクッキーを頬張り、フィールの口にも突っ込む。バリボリと齧り、喉に通してから、話す。
「去年に比べると、顔付きが大分違うわね」
「………別にいつもと変わりませんよ?」
「もう、こういうのは素直に頷きなさい」
「……………………」
「クリミア、いつも貴女のことを心配しているわよ。『友達とちゃんと仲良くしているか』『孤立していないか』って。心配性なお姉さんって思うだろうけど、せめてクリミアに心配かけるようなことはしないであげてね」
「………わかってますよ」
「本当かな?」
アリアはくしゃくしゃと、フィールの頭を撫でる。この先輩はちょくちょくなでなでしてくるなと、フィールは眼を細めた。
「………撫でるの好きですね」
「私、年上の姉妹はいるんだけど、年下はいなくてね。フィールを見ていると妹みたいに扱いたくなるのと、よく姉からなでなでされたから、その影響かもね」
「こんな無愛想な妹持っても、何のメリットもありませんよ?」
「なら、改善しなさいよ」
自覚しておきながらほったらかしにしておくフィールにアリアは苦笑する。
「でもまあ、無愛想だからこそ、なんか構ってあげたくなるわ」
「変わってますね」
「よく言われるわ」
アリアは微笑み、フィールも微笑んだ。
♦️
ホグワーツ監督生専用の特別なバスルーム。
ホグワーツ城の6階に在り、ボケのボリスの像の左側4つ目のドアの前で「パイン・フレッシュ(松の香爽やか)」と合言葉を唱えると、入室出来る浴室だ。
浴室は白い大理石造りで、床の真ん中に埋め込まれたプールのような浴槽も白大理石で造られており、浴槽の周りには金の蛇口が100本ほどあって、取っ手の所にはそれぞれ色の違う宝石が嵌め込まれている。
蛇口を捻ると、お湯と一緒に蛇口によって違う種類の入浴剤の泡が出る仕組みだ。
飛び込み台もあり、壁にはブロンドの人魚の絵が掛けられている。
「寮にある浴室とは比べ物にならないな」
「ふふっ、気に入った?」
「………まあな」
夕食時間を過ぎた後の夜の時間帯。
現在、そこのバスルームでは二人の女子生徒が入浴しており、他は誰も居なかった。
二人は本来おろしている髪を結い上げているので、普段とはまた違う印象が与えられる。
黒色の髪に一匹狼のような雰囲気の少女と、水色の髪に温和そうな顔立ちの少女。
紛れもなく、フィール・ベルンカステルとクリミア・メモリアルであった。
今年、クリミアは新たなハッフルパフの女子監督生に昇格し、その結果監督生とクィディッチチームのキャプテンが使用を許可されているバスルームの合言葉を知ったため、内緒話をするのには最適な場所であるとのことから、フィールを此処に呼び出し、久々に二人で入浴時間を満喫していた。
「フィールも監督生になったら、好きな時に使えるわよ」
「監督生なんて面倒な仕事はしたくないけどな」
「相変わらずねえ」
クリミアは笑いながらフィールの肩にお湯をかけ、静かで穏やかな一時を楽しんでいた。だが、此処から出れば、不可解な現実と向き合わなければならない。そう思うと、この時間を無駄にしたくなかった。寮が別なのも、そんな風に思う一つの訳かもしれない。
それはフィールも同じらしく、彼女はクリミアの隣に行き………その肩に、頭を乗せた。
「………フィール?」
突然、自身の肩に頭を乗せ、身を預けてきた妹に姉が軽く困惑するが、それに構わず、彼女は深く息を吐き出す。
「………最近はずっと気を張り過ぎて疲れた?」
クリミアがそう尋ね、フィールは頷いた。
「………毎日警戒心を解かないような生活は流石にな。それに―――」
「それに、弱ってる所を見られたくないから?」
フィールが言おうとしたことを、クリミアが繋げる。
スリザリン所属だけど混血の生徒は、周囲の純血主義者とは違う心構えで日々を生活している。
頼れる人が数少ない中でフィールは特に救世主として活躍している反面、そのような人達には、決して疲れた顔を見せないよう気を配っている。
―――純血ではないと純血主義者にバレたら蔑まれるのを恐れている混血の生徒達にとって、変わらぬ救い主の存在で居続けることを維持するには、自身が微塵もない強者の威風を貫く他ない。
そう決意しているフィールは表面上はなんともないように振る舞っていても、そこからのし掛かってくるプレッシャーにはいつも悩乱するため、こうしてクリミアが傍に居るだけで、弱味を見せられるのがフィールにとっては何よりの救いだった。
「………フィール。貴女はね、考えすぎよ。誰かのために強い人で在ろうとするのは、確かにいいことよ。でも、それで自分を追い詰めるのなんて元も子もないわ」
「………………」
「もっと、自分を大切にしなさい」
クリミアはそう言って、片腕でフィールの頭を抱く。
倒れ込むように、その腕に収まるフィール。
そして、クリミアは言った。
「独りで抱えるような真似はしないで、私に頼りなさい。辛いこと、不安なこと、全部受け止めるわ」
幼い時からずっと一緒に居た姉からの言葉。
妹は思わず涙ぐみそうになり………込み上げてきた感情を抑圧しかけたが、今だけは姉に全てを委ね、フッと瞼をおろした。
微かな水音だけが響く、6階の浴室。
一人の少女は、隣に居る少女と自分の姿を色とりどりの泡の中に隠すようそっと引き寄せ、この時だけは刻一刻と過ぎていく時間が止まって欲しいと強く願いながら、静かに瞼をおろした。
♦️
クィディッチ開戦当日。
いよいよ、今年もクィディッチ寮対抗が幕を開ける。試合開始前から観客席は熱狂的な空気を漂わせ、特にグリフィンドールとスリザリンからの両陣営からは鬨の声が上がり、ハッフルパフとレイブンクローは前者のチームを応援した。
試合開始5分前―――フィールはクシェルとダフネと共に観客席に居た。
「鬱陶しいわね………」
「仕方ないだろ」
開戦前から、この肌寒い時期だというのにも関わらず、暑苦しいくらいまでに興奮状態の生徒達に挟まれてダフネは顔をしかめ、フィールは苦笑いしながら窘める。クシェルはそんな二人とは相反して、まだかまだかと、観客席から身を乗り出すまでに気合い充分だった。
(クィディッチ好きなんだな………)
今年、クシェルへのクリスマスプレゼントはクィディッチ関係の物にしようかと思ったが、それだと去年と同じなので、何かもっと他にいい物がないかと、早くも1ヶ月後のイベントに向けて考える。尤も、こんな惨状が起きているホグワーツの状況の中で、今年のクリスマスは楽しめないかもしれないが―――。
その時、歓声が沸き起こった。
選手達が、入場してきたのだ。
フィールはクリスマスの話題を頭から離し、競技場に眼を向けた。
グリフィンドールのチームはレッド、スリザリンのチームはグリーンのユニフォームを羽織り、後者のチームの選手は全員最新の箒・ニンバス2001で統一されている。
各チームのキャプテン、オリバー・ウッドとマーカス・フリントは、握手と言う名の握り潰し合いを交わし、選手は箒に跨がる。
「試合開始!」
レフェリーのマダム・フーチの号令と共に、全選手は一斉に大空へと飛び立った。
「始まったわね」
「そうだな」
「今年はスリザリンが勝つのかしらね?」
「さあな。勝利の鍵はシーカーにかかってるんじゃないのか?」
「私としては、貴女がシーカーになった方が確実に勝ちそうな気がするわ」
「そうとは思わないけど………」
二人がそんなやり取りをしている間にも、戦況はスリザリンがリード。やはり、最新鋭のニンバス2001の性能を余すことなく存分に発揮されているのも理由だが―――何故か、ブラッジャーの一つがハリーを執拗に狙っているため、グリフィンドールのビーターを務めているロンの双子の兄・フレッドとジョージが付きっきりで彼を援護してスリザリンの選手達の動きを妨害出来てない現状が大きな理由である。
流石にこれは異常事態だと、グリフィンドールのキャプテン・オリバーはタイムアウトを要求した。
「どういうことなのかしら? ブラッジャーが一人だけを狙うなんて………」
他の人達も「何故?」と言う表情だが、フィールは去年のクィレルみたいにこれは外部からの干渉かもしれないと、競技場を全体的に見渡してみる。クィレルは教師だったため教員席に居たが、今回は別の何かだろうか。
(………そういえば―――)
前に、ハリーが言ってたのを思い出した。
夏休み中に、屋敷しもべ妖精のドビーという妖精が自宅に現れ、そいつは「今年、ホグワーツに行くな」と警告してきたらしい。ドビーの真意はイマイチだが………屋敷しもべ妖精は特定の魔法使いを自身の『主人』とし、その主人からの命令には絶対だ。部外者の以前に初対面のハリーにそのようなことを言ってきたなんて、余程の事態が裏で着々と進んでいるのだろうか。
そして、それがもしも本当ならば、今まさに現在起きている不可思議な事件のことを指している可能性が高い。もしかしたら、ドビーは『主人』の目的を知ったことから、ハリーをホグワーツに行かせないように謎の警告を言い渡したのかもしれない………。
(………まさか、ドビーはハリーの知り合いの従者か? それも身近な―――)
「フィール? どうしたのよ?」
沈思黙考していたフィールはダフネの声にハッとした。
「なんでもない。それより………暴れまくりなブラッジャーがこっちまで来たらすぐに避けるか。じゃないと、私らがお陀仏になる」
「そ、そうね」
推測するには、まだ駒が足りない。
駒がもう少し増えてから、0から組み立ててみよう。
そう気持ちを切り替えたフィールはヒップホルスターから杖を抜き、ダフネもそれに倣って杖を抜き、もしもの時に備える。
そうこうしている内に、試合が再開された。
このままでは無様な敗北が待っているだけなので、危険を承知で継続するのを決めたらしい。ウィーズリーツインズも本来の役割に戻り、狂ったブラッジャーはハリーに任されたようだ。
グリフィンドールのビーターが復帰し、白熱としたバトルを繰り広げられ中、ハリーはブラッジャーを飛び回って避ける。
マルフォイはそれを嘲笑っていたが、突然ハリーが一直線にマルフォイに向かって飛んでいき、驚いた彼は避けながら振り返る。
それで彼はやっと意味を飲み込んだらしい。
近くに金のスニッチが飛んでいたのだ。
二人のシーカーはブラッジャーが暴走する危険極まりない空中で、必死に食らい付く。
「ちょっ、マズいわよ!?」
「そうだな………『盾の呪文』、張るか」
「そうね………!」
シーカー二人がブラッジャーを避けながらスニッチを追い掛けるため、散々に飛び回る暴れ玉の大暴走は観客席側にもその影響が出てきた。やむを得ず、
「「
二人のスリザリン生は『盾の呪文』を発動。
フィール達が居た応援席は少なからずとも安全な場所と化し、運良くブラッジャーは二人が張ったバリアによって遠くへと弾かれた。
が、それでも暴走は止まらず、ハリーの方へ再び飛んでいった。
「ああ、もう本当に何なのよ!? あのイカれたブラッジャーは!」
「あとは二人に任せるか………」
暴れる鉄製のボールに憤慨するダフネと、ため息ついて結果を見届けようとするフィールのおかげで、此処に居た生徒達は無傷で済んだ。
ハリーは右腕にブラッジャーを喰らいながらも無事な方の左手で地面スレスレに飛ぶスニッチをキャッチすると、そのまま地面に墜落した。試合はグリフィンドールの勝利だ。
「負けたわね………って、フィール!?」
フィールは試合終了のホイッスルが鳴り響くのと同時に華麗にヴォルト(低い障害物を飛び越える)し、ランディング(着地の衝撃を吸収)したら、地面に墜落したハリーの元まで疾走した。
「おい、ハリー! 大丈夫か!?」
どよめきや口笛が飛び交う喧騒の中、運良く一番最初に辿り着くことが出来たフィールは、そっと抱き起こしてぐったりと瞼をおろしてるハリーに声を掛けた。スニッチを掴んだ瞬間気を失った彼はフィールの声にうっすら眼を開け、痛みと疼きに呻きながらも小さく頷く。意識はハッキリしているようだと、フィールはホッと胸を撫で下ろす。
フィールは医務室まで搬送しようとしたが、此方側にロックハートが駆け寄ってくるのを見ると瞬時に胸騒ぎが警告音として鳴り響いた。
ロックハートはハリーが嫌がっているにも関わらず、無理矢理骨折した彼の右腕を治療しようとする。ロックハートが杖を振り上げた瞬間、フィールはシャッとヒップホルスターから杖を抜刀して本能的に『武装解除呪文』を唱えた。
「
真紅の閃光がロックハートを包み、彼の身体は軽々と吹き飛ばされ、杖は放物線を描くように宙を舞った。フィールは此方に飛んでくるそれをパシッとキャッチする。
「あっぶな、今のはマジで間一髪だったな」
「うん、僕もそう思うよ。………助かったよ、フィール」
歯を食い縛りながら礼を言ってきたハリーにフィールは「今は喋んな、痛みが増すだろ」と叱咤すると、
「もう大丈夫だ。行くぞ」
と、ハリーをヒョイと抱き上げた。
激痛が走らぬよう、右腕は外側にしてる。
そうして、フィールはハリーを医務室へと連れて行った。
フィールが医務室に辿り着いた頃には先回りしたクシェルが既に中に居て、いち早く彼女から事情を聞いた校医のマダム・ポンフリーはハリーの骨折した右腕を即完治した。だが、念のため一晩入院させると告げると、マダム・ポンフリーはクシェルにあれこれ指示を出す。クシェルはどの指示もテキパキと正確にこなした。
「クシェル、プロみたいな動きだな」
「これでも
「え、そうなのか?」
「うん。あれ? 初耳?」
「ああ、初耳」
フィールが頷くと、クシェルは「あ、そうだ」と何かを思い出した顔になる。
「フィー、ロックハート………先生の杖、持ってるでしょ? さっきフィーが思いっきり吹っ飛ばしちゃったから、様子見兼ねて返してくる。これからはもう少し手加減したやり方で止めてよ?」
「ま、善処はする」
「うん、なるべくは善処してね」
クシェルは苦笑しながらフィールからロックハートの杖を受け取ると、医務室を退室した。
クシェルと入れ違うように、今度はグリフィンドールのクィディッチチームとロンとハーマイオニーがハリーの見舞いにやって来る。
フィールはずっと此処に居たら睨まれそうだなと思い、「またな、ハリー」と言うと、踵を返して医務室の扉へと向かった。
すると―――
「ちょっと待て、ベルンカステル」
グリフィンドールの代表選手達の脇を通り過ぎた瞬間、オリバーに呼び止められた。
フィールは歩みを止め、振り返る。
「なんだ?」
「お前、なんでハリーを助けてくれたんだ?」
オリバーの質問に、フィールは肩を竦める。
「なんで、って言われてもなあ………。私は無我夢中で動いたから、そう訊かれても、自分でもわからない。ただ、ハッキリと言えるのは―――」
チラッ、とハリーに眼をやり、こう答える。
「―――早くハリーを助けてやりたかった。それだけだな」
フィールの回答にハーマイオニー以外の全員が眼を丸くする。そのハーマイオニーは「ハリーを助けてくれてありがとう」と礼を述べ、フィールは「別に、当たり前のことをしただけだ」と返した。
「じゃ、私は行く。またな」
そうしてフィールは医務室を後にした。
ポカーン、とグリフィンドール選手全員とロンは、フィールが出て行った後のドアをしばらく見つめ続けた。
「アイツ、本当にスリザリン生なのか?」
オリバーの疑問の呟きに、同感の彼等はほぼ同時に共感するのであった。
♦️
スリザリンの敗北から一夜明けた翌日。
またもや、犠牲者が出た。
グリフィンドール生の1年生、コリン・クリービーというマグル生まれの生徒だ。
こちらもミセス・ノリス同様石化しており、治療するにはマンドレイクが必要で、成長を待つしかない。
マグル生まれの生徒達は、次は自分かもしれないという恐怖に苛まれた。
♦️
クリスマス1週間前。
フィールとクシェルは朝食のために大広間へと来たのだが、玄関ホールで人だかりが出来ているのを見て、そちら側に興味が惹かれた。
「ん? なんだろ………まさか、また?」
「そうには見えないけど………」
人だかりが出来ているのは掲示板の前で、そこに貼られている一枚の貼り紙が原因らしい。どうにかして見ようにも、上級生が多いからあまり見えなかった。2年生女子では背の高い分類に入るフィールとクシェルだが、それ以上に高い6~7年生が目の前を立ち塞がっている。
フィールは人混みの中を器用に縫っていき、やっとのことで見える位置まで来て見てみると、『決闘クラブ』を今夜8時にするとの知らせであった。
(決闘クラブ? そんなものやるのか)
フィールはクシェルにも伝えようと、これまた器用に人混みの中を縫って歩いた。人混みから現れた友人の姿を見た友人は駆け寄り、なんだったのかを訊き、掲示板に記載されていた内容を伝える。
「決闘クラブねえ………フィーは?」
「暇潰し兼ねて参加。クシェルは?」
「練習の成果を発揮させたいに参加」
「じゃあ、今夜大広間に行くか」
「うん!」
そうして、二人はスリザリンのテーブルに行こうとしたが―――フィールは、クリミアが手招きしているのを見て、クシェルに断りを入れてからそちらへと歩き、早速本題に入った。
「フィール、そっちの方は大丈夫?」
「今のところは。クリミアの方は?」
「大丈夫よ。………ライアン叔父さん達、凄い心配してたわよ。今年のクリスマス休暇は戻って来いって」
「………そうか」
「フィールはどうするの?」
「残るつもり。ちょっと調べたいことあるし」
「わかったわ。私も残る気だったし、そう伝えておくわね」
口には出していないが、「帰ったらこっぴどく怒られそう………」と二人は内心苦笑した。
「それはそうと、今夜のアレ、参加するの?」
すぐに何のことを指しているのかわかる。
今夜開かれる決闘クラブのことだ。
「暇潰し兼ねてな。クリミアは?」
「私も参加するわよ。フィール、また夜に会いましょう」
「ああ、そうだな」
フィールはクリミアと別れ、友人が待っている場所に向かった。
「今の、フィール?」
黒髪の少女の背中を見送っていた水色髪の少女の肩に手を置いたのは、桃色髪の少女―――ソフィア・アクロイドであった。
「ええ、そうよ」
「やっぱりね。フィール、ちょっと変わったわね」
「そう思う?」
「ええ、そう思うわよ。雰囲気が違うもの」
ソフィアは出会った時のフィールと今のフィールを比較し、笑みを作った。
「クリミア、決闘クラブは参加する?」
「参加するわよ。ソフィアは?」
「勿論参加するわよ。相手になったら、今度こそ勝つわよ!」
「ふふっ、楽しみにしてるわ」
クリミアとソフィアは笑い合い、ハッフルパフのテーブルまで共に歩いた。
♦️
午後8時の大広間。
ホールは決闘クラブに参加や見学をしに来た生徒達で賑わっていた。皆は一体誰が主催者だろうと考える中、フィールはやたらド派手なステージを見た瞬間、最悪なケースを察し、この時から気が滅入り―――いや、もう滅入った。
「静粛に」
大広間に設置された無駄に金ぴかなステージに上がった人物に一部の女子生徒達からは黄色い歓声、一部の女子と男子全員からは沈痛な悲鳴が上がった。
フィールは額に手を当て、ため息をつく。
主催者は、スネイプを従えたロックハートであるからだ。
「さあ、皆さん集まって! 私の姿はよく見えますか? 声は聞こえますか? 結構結構! ダンブルドア校長先生から、この度決闘クラブを開くお許しを頂きました。私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた場合に備えてしっかりと鍛え上げるためです! では、助手のスネイプ先生をご紹介するとしましょう」
ロックハートは気持ち悪いくらいの満面の笑顔で、かなりヤバイ爆弾発言をスネイプに投げ付けた。スネイプから滲み出てきた不穏なオーラに、フィールは「あ、コイツ死んだな」と縁起でもない思考が頭に浮かんだ。
「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘について極僅かにご存知らしい。訓練を始めるに当たって短い模擬演技をするのに、勇敢にも手伝ってくださるとご了承を頂きました。さて、若い皆さんにご心配をお掛けしたくはありません………私が彼と手合わせをした後でも、皆さんの魔法薬学の先生はちゃんと存在します。ご心配めされるな!」
と、完全に自分から猛獣を挑発する行為を行ったロックハート。
コケにされたスネイプは凄まじい形相でロックハートを睨み付け、教師と言うスタンスじゃなかったら確実に八つ裂きに殺しているだろう、それだけの殺気と気迫を放った。フィールはロックハートに対し、「お前さえ存在しなければいいのに」と思っていた。
「ご覧のように、私達は作法に従って杖を構えています」
スネイプとロックハートは決闘クラブにおいての一礼をする。スネイプは不機嫌な表情のまましているため、この二人性格わかりやすいなと、思わず吹き出しそうになった。
「3つ数えたら最初の呪文を掛けます。勿論、どちらとも殺すつもりはありません」
スネイプからすれば有り得ない言葉をロックハートが言い出すと、
「そのまま天に召されればいいのに………」
と、フィールの口から遂に物騒な発言が吐き出された。
クシェルとダフネは「ヤバい! これマジのヤツだ!」とフィールがどれだけ不機嫌なのかの程度が明らかになり、サッと青ざめた顔を見合わせた。
そして、スネイプはそれが聞こえたのか、チラリとフィールの方を見ると、薄い笑みを刷き、向けられた彼女はフッと笑った。
その顔は、「先生、アイツ殺ってください」と言うような、冷たい笑みである。
「では。1、2、3―――」
二人の先生は杖を振り上げ、
「
スネイプの杖から放たれた真紅の閃光は、ロックハートを思い切り壁に激突させた。
スリザリン生は拍手喝采し、フィールも今回ばかりは珍しいことに例外ではなく、高らかに指笛を吹いてスネイプの圧巻の勝利を称えた。普段は他寮から毛嫌いされているスネイプも、この時は物凄い人気ぶりであった。
その後、ロックハートはふらふらと立ち上がって負け惜しみを言ったが、スネイプが一睨みすると流石にその殺気には気付いたらしく一気に縮こまり、
「模擬演技はこれで十分でしょう! これから、皆さんの所へ降りて行って二人ずつ組にします。スネイプ先生、お手伝い願えますか?」
スネイプとロックハートは、実力伯仲同士の二人組を組ませていく。
ハリーはマルフォイと、ロンはシェーマス・フィネガンと言うグリフィンドール生と、ハーマイオニーはミリセント・ブルストロードと言うスリザリン生と、クシェルはダフネとペアになった。
パートナーが決まった者は決闘を始めるように言われ、あちこちで皆向き合う。
フィールはクリミアが居る場所に眼を向けた。
そこではソフィアとバトルし、二人は首席次席の名に相応しいほどの激闘を繰り広げており、その注目度は凄まじく、自然と皆は彼女らの戦いを興味津々で見守っていたが、その顔は驚愕へと突如移り変わる。
「「
首席からは銀色の大鷲、次席からは銀色の大鷹が飛び出し、2匹の鳥は互いにぶつかり合って消滅した。
高位呪文のシンボル『守護霊の呪文』を知っている上級生達は眼を剥いたが、次第に興奮気味の声援を二人に送り、どちらが勝つかを予想した。
最後は首席の意地を見せたクリミアが『武装解除呪文』でソフィアの杖を奪い取り、決着がつけられた。
ソフィアは悔しそうな顔をしたが、喚くことなく杖を返してきたクリミアに「いつか、絶対に勝つわよ!」と宣戦布告し、クリミアは微笑んで「ええ」と頷いた。
生徒達の興奮のボルテージがピークに達していた頃―――フィールは一人首を捻っていた。
何故か、スネイプは自分だけ誰かと組ませることなく進行させたため、その意図がわからず、疑問符を浮かべていた。
まさか、自分は忘れられている?
………いや、そんなはずはない。
ロックハートとの茶番劇時、確かに顔を見合わせたのだから、存在を知らないはずがない。
フィールはスネイプの行動に困惑していると、クリミアとソフィアのバトルを見守っていた本人がこちらを見てきた。
そして、ゆっくりとした足取りで来る。
黒髪の生徒は少し身構えると―――黒髪の教師は、こう言い出した。
「さて………フィール・ベルンカステル。最後は我輩と相手になって貰おう」
刹那、思考放棄。
………今、この人は、なんて言った?
相手に………なって貰う?
それは何かの冗談だろうか?
「やれるだろう?」
「……………勿論」
最初は困惑。
最後は歓喜。
教師とコンバット―――それも、恐らくこの場で最も強いであろうスネイプと一体一の一戦を交えられる機会など、滅多に無いだろう。
久方ぶりに、強い者と手合わせが出来る。
フィールは邪魔になるローブを脱いだら隣に居たクシェルは預け、両手でワイシャツの襟元を整え直しながらステージへ上がり、スネイプもまたステージに上がる。
教師と生徒の模擬演技―――本来ならば、有り得ない組み合わせだ。
スネイプとフィールを見上げる生徒達は信じられないと言う驚愕の表情や、無傷で済む訳がないと言う憂色の表情を浮かべる。
だが、二人は周囲の反応など気にもせず、互いに向き合った。
「手加減は無用だぞ?」
「もとよりそれが望み」
それを聞いたスネイプは満足そうに口元の端を上げ、歴戦の猛者感が漂う威厳ある一礼をした。
それに対し、フィールもソフィスティケートで優雅な礼を、手慣れたモーションでスッと返す。
触れられない。
いや、むしろ触れたら最期になる。
それだけの、近付くことすら封じられるまでの雰囲気がこの二人からは滲み出て、ガラリと激変しすぎているため、大広間は無言の威圧感に呑み込まれる。
黒髪の教師と生徒は同時に大きく杖を振り、
「
「
同じ真紅の閃光だが、効果は異なる呪文で交戦した。
ぶつかり合う、紅いスパーク。
互いに押し合う、両者一歩も譲らずの第一幕。
生徒達はスネイプの放った呪文と互角に渡り合うフィールを唖然とした眼で見ていたが―――激しい戦いへと突入したのを契機に、あちこちから大声援が沸き起こった。
スネイプが放った呪いをフィールは瞬時に撃ち落とし、反撃に出る。色とりどりの閃光が行き交い、所々で火花を散らす。
しばらくして、スネイプが趣向を変えた。
「
スネイプは『マキシマ』で通常の火よりも遥かに威力が高い火炎を放射。フィールはそれを洪水を起こして消火しようと思ったが、あることが思い付き、思わずニヤリとした。
「
どういう訳か、フィールは黒狼を出現。
狼は威嚇の咆哮を上げ、敵と認識したスネイプを鋭く射抜くが、燃え盛る炎は黒の狩人を容赦なく包み込んだ。
誰もがそれを見て、狼は燃え尽きたと思ったが―――その予想は、大いに覆される。
炎が小さくなっていったかと思いきや、なんとそこには、凄まじい熱波を身体に纏った、紅蓮の狼が悠然と構えていたのだ。
敵が放ってきた技を吸収させ、自身の武器へと変える。
これは、フィールの戦略方法の一つだ。
彼女は、驚愕に黒眼を剥くスネイプへ、不敵な笑みを向ける。
―――さあ………防いでみろ、スネイプ!
「
炎を身に宿らせただけには飽き足らず『襲来呪文』をマキシマで強襲を許可。
荒れ狂う獣は熱波と咆哮と共に、スネイプに向かって一直線に襲い掛かった。
「
このままでは不味いと判断したスネイプは、『盾の呪文』の派生型でガード。スネイプが創り上げた強固なバリアとフィールが派遣した火炎のウルフが激しく衝突した。どちらとも強力であり、どちらが先に破れてもおかしくない。
盾が矛の力と貫通を封じるか。
もしくは矛が盾を破壊するか。
観戦する者全員が固唾を呑んで見守る激戦の末―――両者同時に消滅した。
(流石はスネイプ先生………そう簡単には勝たせてくれないか)
(強い………まさかこれほどまでとはな)
二人は束の間、相手に対する感想を心の中で呟きつつも、すぐに紅の閃光を撃ち込み、再戦に突入した。
二人が放つ閃光は幾度も大広間を明るく照らし、呪文がすれ違う度に皆はどちらが勝つかにハラハラしっぱなしだったが、
「ベルンカステル、これ以上やっても無意味だろう。引き分けにしないか?」
「そうですね。貴重な経験、ありがとうございました」
スネイプとフィールは互いにステイルメイトを選び、歩み寄ると引き分けの握手を交わした。
大広間から、今日一番の割れんばかりの拍手が巻き起こり、嵐のような喝采がこの場の音を支配した。
その後、ハリーとマルフォイがステージに上がって模擬決闘が行われたが………マルフォイが出した蛇を、ハリーが
それがきっかけで、ハリーが
全校生徒はハリーがスリザリンの継承者だという疑惑を抱き、混乱の渦中を渦巻く決闘クラブは中途半端に終わった。
【没シーン:決闘クラブ】
フィーちゃん(あれ? 私忘れられている?)
無能男「私が相手になりましょう」
スネイプ(ダニィ!? 我輩が申し込む前にあの野郎! ………てか、フィール、手加減しないよな? クラミー先輩の娘ならきっと………)
その後ステージに上がって一礼するフィーちゃんと無能男の模擬決闘。フィーちゃんの圧勝。
スネイプ(………あれ? フィールがちゃんとしてるだと………どうやら親子でも違―――)
武装解除をして圧勝したフィーちゃんだが無能男はわざと負けてやったと爆弾発言。
フィーちゃん「じゃあほらさっさと(天に)逝けよ、クズ野郎」
フィーちゃんは失神呪文を撃った!
会心の一撃!
ロックハートに99999のダメージ!
『無能男』から『クズ野郎』にレベルアップした! (♪テッテレー)
大広間「「「「!!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ!!」」」」
スネイプ(前言撤回やっぱり先輩の娘だったーーーーーーーー!!)
男達「「「「「(*゚∀゚人゚∀゚*)♪」」」」」
女達「「「「「ヽ(♯`Д´)ノコリャーッ」」」」」
【フィールのお相手】
はい、安定のスネイプでございました。
没シーンでもある通り、もしもロックハートが彼女のお相手だったら………↑のようなことになってた可能性大ですね((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル。
ここでちょっと吹いてくれたら嬉しいです。
【余談】
さて、ちょっとした息抜きタイム終了です。
一応、次回からは解決するまでほのぼの封印されます。
それにしても………フィールの周りって、アリアやクリミアといったお姉さんキャラ多いですね。
幼い時からずっと一緒にいて、互いに素顔を見せられるクリミア。
同じ黒髪に同じ寮所属、他人よりも落ち着きある者同士のアリア。
さあ皆さん。読者的には、どちらがフィールのお姉さんに相応しいですか?