【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
スリザリン組とハリーとハーマイオニーは友人なので、獅子寮の三人組が規則破りの回は没。
もしも友達関係ではなく物語が進んだら恐らくここで全てが終わったに違いない。
決闘クラブ以来、ハリーに近付くホグワーツ生はほとんどいなくなった。皆はハリーがスリザリンの継承者なんだという疑惑や慄然といった空気に包まれている。
ハリーは否定するけど、それは無理な相談だ。
何故ならば、パーセルタングを使えたのは歴史上、サラザール・スリザリンとその子孫のみであり、スリザリンのシンボルが蛇なのは、サラザール・スリザリンがパーセルマウスで有名だったからだ。
しかも、決闘クラブ後にハリーと口論になったハッフルパフの男子生徒でマグル生まれのジャスティン・フィンチ=フレッチリーとほとんど首なしニックが翌日被害に遭い、その第一発見者がハリーと言うまるで彼を継承者だと確定するようなタイミングでそれらの出来事が重なり、今では学校から孤立状態だった。
「一体誰がこんなことをしているのかな………」
部屋のベッドに座りながら、クシェルは小さく呟く。スリザリン生の大半は自分達純血は関係ないと他人事のように見ているが、クシェルなどといった少数の混血の生徒もいる。いつ、スリザリンの怪物に襲われてもおかしくはない。
「さあ、な。情報が少ないし、状況も不安定だから下手に動くのは自殺行為だ」
ベッドに寝そべり、本を読んでいたフィールがそう言った。こんな非常事態だというのに呑気な態度とも捉えられるのか、クシェルは少しムッとした表情で、じっとフィールを睨む。
「でもさー………」
「クシェルが言いたいことはわかる。でも、だからといってなんでも動けばいいって訳ではない。時には相手が尻尾を出すまでじっと堪えるのも大切だ。いいな?」
「……………うん」
「それはそうと、クシェル、クリスマス休暇はどうするんだ?」
「両親は仕事で忙しいから、此処に残るよ」
「………そうか」
クシェルの母親は
「フィーはどうするの?」
「私も残るよ。帰ってもやることないし」
「でも、叔父さんや叔母さん、心配してない?」
「心配してるよ。だけど、ちょっと調べたいことあるし、此処に留まることにした」
「調べたいこと?」
「ああ」
クシェルは身を起こしたフィールを見る。
「スリザリンの怪物とかを突き止めるの?」
「まあな。怪物の正体がわかっただけでも、現状は大きく変わる。そのためにも、早く見つけ当てないと」
「フィー、私にも手伝わせて」
クシェルは身を乗り出し、協力を申し出る。
だが、フィールはそれに難色を示した。
「クシェル、それは―――」
が、そこでクシェルは片手でフィールの口元を押さえ、言葉を遮る。
「フィー、出来るだけ単独行動しちゃダメって言ったのは貴女でしょ? なら、一人で動こうなんて、考えないで」
ちょっと怒ったような表情で見据えてくるクシェルに、フィールは軽く眼を見張る。クシェルは押さえていた手を下ろし、
「純血でも、フィーやアリア先輩みたいに純血主義者じゃないなら、狙われる対象なんだよ?」
「………………」
フィールは由緒正しい純血の家系だが、継承者の敵となる要素を満たしていた。
それが『純血思想の否定』だ。
「だから、協力させて」
「……………わかった」
フィールはあまり誰かを巻き込みたくないのだが、こう言われてしまったら、反論する余地がない。彼女は小さく頷き、ベッドから降りると早速図書室に出向き、怪物の正体調べを開始した。
♦️
クリスマス休暇中の図書室。
数多の蔵書がズラリと配備されているその室内の一角で―――紅のネクタイを締めた少年二人と少女一人が、緑のネクタイを締めた少女二人へ自分達の推測を話していた。
スリザリンの継承者は、あのドラコ・マルフォイなんじゃないかと。
確かに彼等から見れば、マルフォイが継承者だと思ってしまうのも無理はない。代々スリザリンの家系で尚且つミセス・ノリスが石化した際に真っ先に喜んでたし、何か知っている様子であったからだろう。だが、その彼と同じ寮に所属している彼女達は、それはない、とキッパリ断言した。
「なんでだよ? アイツが継承者じゃないなら、じゃあ誰なんだよ?」
ロンは首を縦ではなく横に振るスリザリン生二人に憤りを含んだ声音で訊く。
「わかることは、アイツが犯人じゃないってことだ。仮にマルフォイが黒幕だったら、私らがとっくに知っている」
「そうよね………貴女達はマルフォイと同じ寮にいるから、それもそうよね」
ハーマイオニーは意外とすんなり納得し、ハリーも半信半疑だが、ハーマイオニーよりの意見らしい。けど、ロンは違った。
「けどよ、アイツ、フィルチの猫が被害に遭った時、真っ先に喜んでたぜ?」
「だけど、違うものは違う。………って、そんなことはどうでもいい。スリザリンの怪物だと思われる情報を入手した」
「え!? それ、本当かい!?」
思わずハリーは大声で叫んでしまい、慌てて口元を両手で押さえる。フィールは去年ハリーが大声出したせいで図書室に放り出される羽目になったことを学んで『認識阻害魔法』を掛けていたので、「やっぱり掛けてて正解だったな」と呟きつつ、魔法生物の本が並べられている棚に向かい、ある一冊の本を手に戻ってきた。
「恐らく、コイツだと思われる」
「そ、それで、その怪物って何なの?」
「それを今から説明する」
三人は座り直し、フィールとクシェルは頷き合うと、本に眼を落としながら、怪物の正体に関する意見を述べた。
「ハリー、アンタはハロウィーンの日、誰にも聞こえないはずの声が聞こえたんだよな?」
「え、あ、うん。そうだけど………」
「サラザール・スリザリンはパーセルマウスだったから、スリザリンのシンボルは蛇。そして、蛇語を話せるハリーは継承者だと思われている」
ハリーとしては嫌な話題だからなのか、不愉快そうな表情を浮かべる。ロンは杖を抜こうとしたが、フィールはそれを片手で制し、
「私も、なんでこんな簡単なことに早く気付かなかった後悔した。パーセルマウスのハリーだけにその謎の声が聞こえたって言うなら、それを逆算すればよかったんだ。―――ここまで来れば、もうわかるだろ? スリザリンの怪物は、恐らく『蛇』だ」
三人は、やっと意味を飲み込んだ。
ハリーが一番、こんなにも簡単なことを何故早く気付かなかったんだと後悔する面持ちで歯噛みした。
「だから、私とフィーは『蛇』関係の本を読み漁って、やっと見つけた」
クシェルは本のページを捲り―――巨大な蛇の怪物が描かれているのを見たハーマイオニーは褐色の眼を剥き、驚きを露にした。
「………バジリスク!?」
バジリスク。怪物の中でも最も珍しく、最も破壊的であるという点で『毒蛇の王』として恐れられている存在。体長は最長で15mにもなる。一番特徴的なのは眼で、その眼を直視した者は即死する。
「ああ、そうだ」
「た、確かにバジリスクが『スリザリンの怪物』なら納得出来るけど………ならなんで皆は死んでいないの………?」
「よく思い出してみろ。ミセス・ノリスが居た場所の床は水浸し。コリン・クービーは常にカメラを所持しているなら、それのレンズ越しから。ジャスティン・フレッチリーはほとんど首なしニックと共に居たなら、ニックの身体越しから見た。ニックはゴーストだから、二度は死なない」
「………つまり、誰も直接見なかったから、石化で済んでるってこと?」
流石、頭の回転の速さはフィールも一目置くほど速いハーマイオニーだ。
「バジリスクがスリザリンの怪物なら、ハリーが聞こえたって言う声と辻褄が合う。バジリスクはこの一連の黒幕に操られているんだろうな」
「そうね。あとの問題は、継承者が誰なのかね」
「そうだな。………だけど、まずはそれよりも、このことを先生方に伝えよう。真犯人探しはそれからだ」
フィールの提案に、四人は即賛成した。
♦️
クリスマス休暇を終えたホグワーツ。
ハッフルパフの男子生徒・ジャスティンとグリフィンドールのゴースト・ニックが石化して以降、不思議なことにそれ以上の被害者は一人も現れなかった。いつもの平和な学校生活が戻ってきたと何人かの生徒は根拠のない安心感に浸っているが、まだ見えない恐怖に怯える人は多数いて、勿論ハリーのことを疑う人も少なくはない。
怪物の正体がバジリスクだと予想した後、ハーマイオニー達の助言に従ってホグワーツ生は手鏡を携帯するようになった。それは、曲がり角で遭遇した場合を見通してのことだ。
万が一、曲がった先にバジリスクがガン待ちしていたら、どうしても直視してしまうのは避けられない。そのため、曲がる前に不在しているかを確認する、もしくは待機していたら石化で即死を免れるために、常に手鏡を持参しているのだ。
怪物の正体がわかった以外で手掛かりは何も無し………では、なくなった。
2月14日、バレンタインの夜―――フィールとクシェルはハリー達一行と共に廊下を歩いていると、嘆きのマートルのトイレから水が溢れ、彼女の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「マートル? どうしたのかな?」
クシェルは不審に思い、中に入ってマートルに尋ねてみる。話を聞いてみると、どうやら何かの本が投げ込まれたらしい。
それは、黒い表紙の古ぼけた日記であった。
辛うじて、最初のページの日記は見える。
「『T・M・リドル』? 誰なの?」
「マートル、この名前に聞き覚えは?」
フィールがマートルに訊いてみると、
「ええ、あるわよ。『トム・マールヴォロ・リドル』ね。貴女と、そこの茶髪の娘と同じスリザリン生の超優等生で、滅茶苦茶カッコよかったわ」
「トム・マールヴォロ・リドル………?」
あれ、この名前………何処かで見た覚えがあるような………。
フィールは、頭の中で引っ掛かりを覚え、首を傾げ―――そんな彼女に、マートルが声を掛けてきた。
「今思い出したんだけど………フィール、貴女、もしかしてエルシーの孫?」
「え? ああ、そうだけど………。なんで知ってるんだ?」
「だってエルシーは、トムと同じスリザリン生で彼と同い年だったのよ。知ってるに決まってるじゃない」
………あ、そうだ。思い出した。
去年、クィレルに寄生していたヴォルデモートが自分を一瞬母方の祖母エルシーと勘違いし、それをきっかけに色々調べていた途中、トロフィー室に飾られている首席名簿で男女各首席で載っていたのだ。
女子首席は自分の祖母のエルシー・ベルンカステル。そして、男子首席はトム・リドルと書いてあった………。
「………!」
そこまで考え、フィールは眼を剥く。
エルシーとトムは学生時代、同学年だった。
確かヴォルデモートは、エルシーと同級生だったような気がする。
………まさか………トム・リドルは………!?
(いや………嘘だろ………?)
フィールは杖を抜き、空中で、
と書いた。
クシェル達は、突然日記の持ち主だと思われる名前を空中で書いたフィールを怪訝そうな表情で見ていたが―――彼女が杖を一振りし、文字の配列を並び替えると、
その瞬間―――クシェル、ハリー、ハーマイオニー、ロンは顔面蒼白し、喉を鳴らした。
「…………アナグラムだったんだ」
「ちょっ、待って………これ、ヴォルデモートの日記なのかい!?」
ハリーは日記の持ち主の素性がわかるが否や、慌てて日記を地面に放り投げ、怯えた面持ちでフィールへ問い掛ける。
「みたいだな………多分、それには闇の魔術が掛けられているんだろうな」
「や、闇の魔術が?」
「ああ。持ってるだけなら大丈夫だろうけど。
………そういや、マートル。一つ訊いてもいいか?」
「ん? なにかしら?」
「死んだ時のこと、覚えてるか?」
マートルはこれ以上ないくらいに喜びの表情へと変わり、
「いいわ! 教えてあげるわよ!」
五人はマートルに注目。
マートルは、自身が死んだ経歴を語った。
「同級生の女の子に眼鏡を馬鹿にされて、この個室で泣いていたのよ。そしたら、誰かが入ってきたのよ。なんか変なこと言ってた。外国語だったと思う。男の子の声だったから、出ていけ、此処は女子トイレよって言うつもりでドアを開けて、そしたら―――」
次の発言こそ、彼女の死因の要因で、この事件の怪物があの毒蛇の王だと確定した。
「死んだの。覚えているのは大きな黄色い目玉が2つ。身体全体がぎゅっと金縛りみたいになってそれからふっーと浮いて………」
これにより、フィール達は断定した。
間違いない………バジリスクだ!
「ありがと、マートル」
フィールはマートルに礼を言い、トイレの片隅でハリー達と相談し合った。
「怪物は、もうバジリスクで決定ね。となれば、バジリスクを操っている人を見つければ―――」
「ああ、万事解決だ」
「でも、どうやって操ったんだろ?」
「これは日記なんだし、書くとヴォルデモートの意識的なものが浮かび上がって―――」
「その名前で言うのは止めてくれ!」
「………トム・リドルの意識的なものが浮かび上がって、色々指示したりしたんだろうな」
『ヴォルデモート』から『トム・リドル』に言い換えたフィールの言葉に、ハーマイオニーは大きく頷く。
「そうね。とにかく、早くこれを先生に届けましょ―――」
「止めておけ、ハーマイオニー」
先生にこの日記を報告しよう、と言うハーマイオニーの意見に、フィールは反対の声を上げた。
「な、なんで?」
「ハーマイオニー、これがなんで此処のトイレにあるのかわかるか? 恐らく、操られている人がそのことに気付いたからだ。もし、これを先生に届けたらどうなる? その人は、罪に問われてしまうだろ?」
フィールの発言に「あっ」となったのは、ハーマイオニーだけでない。
「………ま、そっちの方が好都合だけどな」
「え、どういうこと?」
今度はハリーが尋ねてきた。
「気付いたっていうなら、それを逆手に利用するんだ。この日記によって、一連の事件のトリガーとなったのなら―――」
「………誰かに拾われて、そこから自分だとバレたら終わり!」
クシェルが声を荒げて叫んだ。
「そう。だから、誰かがこの日記を常に持ち歩くようにしてみよう。そうすれば、自ずと尻尾を出す」
「なるほど………で、誰が持つんだい?」
ハリーの尤もな意見に、四人は頭を抱える。
これを所持するということは、早い話、危険と隣り合わせだ。
実行犯がバジリスクを派遣しかねない上に、下手すれば日記が本体だと誰かにバレ、それを持っている人が犯人だと誤解を招いたら、更に混乱の渦を巻き起こしかねない。
「………これはかなりの苦渋の決断になるな」
「うん………それに、まず操っている人が男子なのか女子なのかもわからないし………」
「教師にはいないだろうな。ダンブルドアの眼を誤魔化し切れるとは思えないし………そう考えると、生徒の誰かだと思う」
「生徒?」
「ああ。一番可能性として高いのは………グリフィンドール生だと私は思う」
フィールからの爆弾発言。
それはハリー達グリフィンドール生三人組を喫驚させるのには十分な威力であった。
「わ、私達グリフィンドール生の誰かが!?」
「可能性はな。ハリーを継承者だと思わせるようなタイミングで事態が重なるなんて、身近で彼を見ている人じゃないとほぼ不可能だ。グリフィンドール生なら、ハリーの近くに居てもそこまで怪しまれないだろうし―――」
だが、その予測言葉を遮る者がいた。
ロンである。
「なんだよ、君はハリーの近くに居る僕らを犯人扱いしようとしてるじゃないか!」
「待ってロン! フィールはそんなことを言いたいんじゃな―――」
「ハーマイオニー、君はコイツに犯人呼ばわりされているんだぞ!」
「フィールが私達を犯人呼ばわりする訳ないじゃない!」
ロンは、基本的に相手がスリザリン生であるならば無条件に敵意を持つタイプだ。マルフォイがグリフィンドール生だと言うだけで敵対するように、彼もまた、スリザリン生というだけで去年のコンパートメントで同席し、話をしたフィールにさえも敵意を抱くようになり、彼女の友人のクシェルも毛嫌いしていた。
彼は杖を抜き出し、その切っ先をフィールに向けるが―――彼女は教師とタイマン出来るほどの規格外の強さを誇る学年首席だ。学年次席のハーマイオニーに勉強を教えて貰い、ギリギリ落第しないような成績であるロンが真っ正面から挑んで敵うはずがない。
杖を向けられたことで反射的に杖を電光石火のスピードで抜き出し、『武装解除呪文』を叩き込んだフィールは放物線を描くように飛んでくるロンのテープで補強した杖をキャッチ。
今のは完全にフィールの正当防衛なのだが、自分の杖を奪い取られたロンは逆ギレした。
「返せよ!」
「今のはウィーズリーが悪い」
フィールは動じることなく言い返し、杖を持ち主に投げ返す。ロンは杖を仕舞うと怒りの表情で彼女を突き飛ばそうとしたが、
「ロン、もう止めて!」
「こんなことするなんて、君らしくないじゃないか!」
ハーマイオニーとハリーに窘められ、ロンはすんでで足を止める。
フィールは身構えたが、二人のおかげでまた火に油を注ぐような行為は免れたと密かにホッとした。
「ハーマイオニー、ハリー! なんで君達は、そいつらの味方をするんだ!」
「味方とか敵とか、そんなこと以前に、友達だからに決まってるじゃない!」
「そうだよ! フィールとクシェルがマルフォイとかとは違うってのを、僕達はもう何度も見てきたじゃないか!」
ハーマイオニーとハリーは、例え自分達と対敵している人間と同じ寮生であろうと、差別者などではないなら友情を育もうとする。しかし、ロンはまるでそれをわかろうとせず、ただ自分の固定観念だけを当て嵌め、決め付ける。それ故に、反純血主義者の長所を知らないのだ。
「二人共、いいから別に」
それまで黙って成り行きを見守っていたクシェルが険悪そうになる雰囲気の間に割り込み、落ち着かせる。ハーマイオニーとハリーは渋々身を引いたが、ロンは「勝手にしろ!」と叫んで、トイレから出ていった。
「あ、ロン!」
「待ってくれ!」
二人は慌ててロンの後を追い掛け―――残された二人は顔を見合わせる。
「どうする?」
「ほっとけ。私らが行けば逆効果だろ」
「………そうだね」
―――スリザリン嫌いなヤツを、スリザリン生が追う必要は何処にも無い。
そうバッサリ切り捨てるフィールに、クシェルは複雑そうな表情を浮かべながら、三人が走り去った方向の廊下を見つめた。
「それはそうと、日記どうする?」
「ああ、まずはそっちが優先事項か」
二人は振り返り、トム・リドルの日記を見下ろす。誰かがこの日記を持参していれば、この日記を使用していた人の手掛かりを掴めるかもしれない。だが、危険と誤解の隣り合わせになるのは変わらない。それだけは事実だ。
「とりあえず、これを持ってもう一度スリザリン内を確認してみるか」
「だね。それじゃ、フィー、渡して」
「え?」
「その日記、私に渡して」
「なんでだ? さっきも言っただろ? これを持つってことは―――」
「わかってる。でも、私はフィーにそんな大変なことを背負わせたくないし、それに―――」
「それに?」
「………………」
クシェルは口を開こうとして、噤んだ。
フィールにあのことを話すべきか、迷ってしまったのだ。
それは、他寮生がこんな話をしていたのを偶然耳にした内容。
『なあ、一つ言ってみてもいいか?』
『なんだ?』
『皆は、あのハリー・ポッターがスリザリンの継承者とか言ってるけど………オレ的には、アイツなんじゃないかって思うんだよな』
『アイツって、誰だよ?』
『スリザリン生のフィール・ベルンカステルだよ』
『ベルンカステルか………でもよ、アイツがそんなヤツに見えるか? パーセルマウスでもないんだし』
『だけどさー、なーんか、アイツってただ者じゃないって感じなんだよなー。スネイプとも互角に戦えるし、名字からして、結構古い家系って印象あるし』
『あー………それは言えるかもな。ベルンカステルって表面上は模範生に見えるけど、実は裏で闇の魔術にどっぷり浸かってそう』
(どうしよう………フィーにあのことを話したら、きっと嫌な気持ちになるよね………)
闇の魔術に関する云々は実際どストライクなことを知るはずのないクシェルは、苦悩する。
フィール本人に話すのは容易いことだ。
だが、彼女は間違いないなく傷付くだろう。
パーセルマウスでもない上に事件を解決しようと動いているのに、何もしないでただただ恐怖に怯えて生活するヤツからそんな疑いを掛けられて心中穏やかでいられるはずがない。
でも、だからといっていつまでも隠したままにするのも、なんだか気が引ける。フィールに疑惑を持ち掛けているのは今のところあの人達くらいだが、もしも自分と同じように耳にした生徒が増えたら………脳内お花畑で自分が襲われるかもしれないという恐怖から判断力が鈍っている今のホグワーツ生なら、瞬く間に噂として流すだろう。
(だけど―――)
今は野暮なことをしたくないと思い、
「ううん、なんでもない」
と、笑って誤魔化した。
だが、フィールは眼を細め―――まるで心の内側を見透かしているように、
「クシェル、何か、隠してないか?」
「! か、隠してなんかないよ!」
「………そう。なら、いい」
フィールはなんだか躊躇いを見せたが、すぐにいつもの無愛想な顔に戻し、トム・リドルの日記を拾い上げ、クシェルに手渡した。
―――そして、フィールは今の自分の行動を後に後悔することになるとは、この時はまだ、知る由もなかった。
【クリスマス休暇中にバジリスクの正体発覚】
ハーマイオニー&レイブンクローの女子監督生の石化のフラグは折れました。そして日記の持ち主が誰なのか早く知るっていう展開にも。
さて、クシェルの回想でもあった通り、他寮生の一人がフィールは闇の魔術に滅茶苦茶入り込んでないかと言ってましたが………エスパーか!