【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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#27.衝迫

 必要の部屋。

 ホグワーツ城の最上階に在る、求める者の欲しい物が具わっている不思議な部屋。

 入り口はバカのバーナバスがトロールに棍棒で打たれている壁掛けの向かい側で、気持ちを必要なことに集中させながら3回往ったり来たりするとピカピカに磨かれた扉が現れる。屋敷しもべ妖精の間では『あったりなかったり部屋』として以前から知られているようだ。

 

 現在、必要の部屋には三人の人影があった。

 三人共、基本的には着用を義務付けられている黒いローブを脱ぎ、グレーのセーターも脱衣して白いワイシャツとスカート、ストッキングと身軽な格好である。所属寮を区別するためのネクタイは外しており、綺麗に折り畳んでいるセーターの上に置いていた。

 

「ダフネ、大分動きがよくなったな」

 

 長い黒髪に蒼い瞳の少女―――フィールは、同僚同輩のダフネ・グリーングラスへ個人的な感想を伝える。由緒正しい名家の出所のノーブルプリンセスのダフネは、レッスンの邪魔にならないよう鮮やかな黒髪を結い上げ、こめかみを伝う汗をタオルで拭っていた。

 

「当初とは比べ物にならないくらい成長したな」

「これでも負けず嫌いな性格なのよ。同級生で女子なのに、あんなにも激しい格差があるとか悔しいに決まってるじゃない」

「成績に関しては何分問題無いと思うけどね」

「それはそれ、これはこれよ」

 

 ダフネは少しムッとした感じで、クシェルが言った言葉を投げ返す。

 去年、ハロウィーンの日に突然出現したトロールに襲われて死にかけたのをきっかけに、クシェルがフィールへ依頼したトレーニング。

 それにダフネは途中から加入し、かれこれスタートを切ってから数ヶ月が経過した。

 やり始めた頃はまだ体力が充分に備わってなくてウォーミングアップのゴーレム人形が撃ってくる閃光を避けることすらままならず息切れするのも多かったが、今となってはやり慣れているクシェルやフィールみたいに軽々回避するほどの瞬発力を身に付け、体力も高まった。

 

「フィールはとにかく色々完璧だし、クシェルだって実技面はメチャクチャ上手い。二人の友達が才能あってスゴいのに、一人だけ平凡なのはイヤなのよ」

 

 ダフネはフィールとクシェルへジェラシーを感じていた。

 比較的よく話す良好な友達関係なのに、他人から個性的で優秀な二人と比べられるようなことは避けたい。だからこそ、ダフネは努力し続けた。

 

「それに………ボケッとしてたら、いつ、スリザリンの継承者に襲われるかわかったものじゃないわ。自分の身は自分で護れるようにしたいのよ」

 

 スリザリンの継承者、という単語にフィールとクシェルは顔を見合わせる。

 昨夜―――嘆きのマートルのトイレで発見した黒く古ぼけた『トム・リドルの日記』。

 トム・リドルの正体が、かの有名なあの闇の帝王ヴォルデモートだと言う衝撃の事実が発覚し、フィールとクシェルは一夜明けた今でも緊張感が走っている。前に日記を持っていた人物こそ、スリザリンの継承者―――もとい操られている生徒だと推測し、一体誰なのかを断定するためにも、現在その日記はクシェルが手持ちし、ショルダーバッグに保管してある。

 日記のことは、暗黙のルールで他言無用だ。

 とは言え、事件解決後は全て話すことになるだろうが………。

 

「クリスマス休暇で自宅に帰省したら、両親、『ホグワーツには戻るな』ってしつこく言ってきたわ」

「それだけ、娘のダフネのことが心配なんだろ」

「心配してくれることに関しては嬉しいけどいっつも言ってきたから流石にうざかったわね。全く、せっかくのクリスマスパーティーも台無しよ。それなりに豪華だったけど」

 

 ダフネは喜ばしくない様子を表し、フィールとクシェルは苦笑する。去年の今頃、今みたいな事件は起きておらず、純粋にクリスマスパーティーを楽しめたのだから、今年はそれをパーにされて苛立つのも無理はない。

 

(………クリスマス………か…………)

 

 フィールは不意に思い出した。

 それは、去年のクリスマスの夜に見たあの夢のこと―――。

 

♦️

 

 フィールは、なんとも言えない不思議な感覚と気分で、そこに立っていた。辺りをゆっくり見渡してみれば、暗くて見えづらいながらも、広大なホグワーツ城内の景色が視界いっぱいに広がっている。

 学舎のホグワーツ魔法魔術学校の校舎は広すぎるので、まず自分が今どの階に居るのかがわからない。

 なので、彼女は歩く。何故此処に居るのかなんて、お構い無しに歩き続けた。

 

 やがて、トロフィー室の扉を見つけたことで、4階であると知った。

 トロフィー室、と思い、フィールは胸がズキッと痛む。

 ………そういえば、自分は泣いたんだっけ。

 亡き母の―――優勝杯を抱えてる姿を写した写真を見て………。

 このままではまた孤独感と寂寥感に飲み込まれてしまうと、フィールは首を振り、込み上げてきた感情を打ち消し、浮かび上がった場景を振り払った。

 フィールは見えないナニかに誘われるよう、ひたすら歩みを進め、一度たりとも立ち止まらなかった。

 

 どのくらい、時間が経っただろうか。

 フィールは初めて、ある一室の扉前に来て歩みを止めた。

 なんでこんな所までやって来たのか。

 それさえもどうでもよくなり、フィールは開きかけていた扉を軽く押し、全開にして、中へ入った。

 そこは、昔使われていた教室のような部屋だった。机と椅子が黒い影のように壁際に積み上げられ、ゴミ箱も逆さまにして置いてある。

 しかし、そんな物には目もくれず―――フィールは、この室内に立て掛けられている巨大な鏡に興味が惹かれていた。

 天井まで届くような、背の高い見事な鏡。

 金の装飾が施された枠には2本の鈎爪状の脚がついていて、枠の上の方に文字が彫ってある。

 眼を凝らして見てみると、

 

『Erised stra ehru oyt ube cafru oyt on woshi』

 

 と彫られていた。

 

 すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ

 

 これだけ見てみると、意味不明の言葉としか捉えられないだろう。だが、この文字を逆さにして読んでみると、

 

『I show not your face but your heart′s desire(私は貴方の顔ではなく貴方の心の望みを映す)』

 

 となる。

 暗号を読み解いたフィールは、ハッとした。

 人の心の一番奥底にある、最も強い『望み』を映し出す鏡―――みぞの鏡。

 何百人もの魔法使いを虜にし、現実なのか理想なのか、それさえ判断出来なくなる状態へ陥れようとする、危険な、それでいて欲したくなるような、見た者の心を鷲掴みにする悪しき誘惑の鏡。

 その呪われた魔法道具が、少し先に在る。

 フィールは思わず、あの鏡の前へ立ちたい激しい衝動に駆られた。

 

 ―――歩いてはいけない。

 ―――行ってはいけない。

 

 あの鏡に自分の姿を映したら、二度と立ち上がれなくなる。

 そう自制を掛けているのに、少しずつ削られ、失われていく。

 今すぐ動かしたいと震える足を必死に抑圧させているのに………欲望と言うものは、いとも簡単に鎖を解いてしまうもので。

 遂にフィールは騒ぐ心を抑えられず―――みぞの鏡の前に立ってしまった。

 

 みぞの鏡。

 それはとても魅力的な鏡だ。

 鏡の中に映るモノこそ、自分が何よりも追い求めてる望みだと知れるから。

 でも同時にそれは。

 人の心を壊す、悪魔のような物で。

 

「嘘だ………嘘だ、嘘だ、嘘だ、全部嘘だああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 鏡の中に映る、自分の姿以外の存在に。

 フィールは現実と夢の区別がつかず、発狂してしまった。

 

♦️

 

「―――? フィー?」

「………ッ!」

「フィール、どうしたのよ? 大丈夫?」

 

 声を掛けられ、フィールは顔を上げた。

 少し、考え事に没頭し過ぎたみたいだ。

 思考をクリアにし、ゆっくり首を動かしてみると、クシェルとダフネが心配そうな表情でこちらを覗き込んでいた。

 

「あ、ああ………大丈夫………」

 

 フィールはこめかみを押さえ、奥歯をギリッと噛み締めた。

 彼女は、先程思い返していた夢の内容に再び意識を働かせる。

 

 自身がみぞの鏡へ行った、不可思議な夢。

 目が覚めた後にはあの鏡の表面に自分以外に何が映っていたのか全く覚えておらず、そもそもあんな物が何故ホグワーツに在るのかと、疑問を抱いていた。

 しかし―――クリスマスが終わってから数日後に、ハリーが言ってたのだ。

 みぞの鏡が4階の部屋に立て掛けてあって、それで家族に囲まれている自分を見たと。しかし校長のダンブルドアからの説得で、以後探しに行かなかったと。

 

 それを聞いて、フィールはこれは警告だ、と思った。

 あの夢は………恐らく、みぞの鏡が存在する部屋には行くなと。

 そう………忠告したのかもしれない。

 夢の中の自分が何を見たのかはわからない。

 けど、間違いなく、現実では二度と手に出来ない望みなのだろうと、それだけは明確に理解していた。

 

 ―――嘘だ………嘘だ、嘘だ、嘘だ、全部嘘だああぁぁぁぁぁぁッ!!

 

「………ッ」

 

 頭の中で響き渡る、自身の絶叫。

 発狂していた私は、もしかしたら、本当にああなっていたのかもしれない。

 生きる意欲を失ってしまえば、この世界を生きてなどいけるはずがない。

 そんな所にずっと居たら、私の心は渇き、ひび割れ、いずれ壊れてしまうだろう。

 心が軋まれ、自分が壊れるまで声にならない声を上げ続ける。

 

(そんなのは………絶対…………)

 

 耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない………!

 

「ちょっ、フィール、顔色悪いわよ。本当に大丈夫?」

 

 ダフネは手を伸ばし、少し蒼白しているフィールの頬や額に手のひらを当てた。熱はないし、冷たくもない。身体的な異常はないけれど、色白の肌が更に白いように見える。

 

「貴女、疲れが溜まってるんじゃない?」

「有り得るね、それ」

 

 クシェルは同意し、フィールの顔色を窺う。

 端正な顔に、微かな疲労が滲んでいるように感じた。

 

「あのさ、フィー。あくまでも私の予測なんだけどさ………四六時中、気を張り過ぎていない?」

「………なんで、そう思うんだ?」

「だって………ほら、ハロウィーンの日、私の他にも純血じゃない生徒が結構告白したでしょ? その人達は皆純血思想じゃないフィーに救いを求めたし、フィーもあの人達のために頑張ってる。でも、そのせいで、貴女は身体も精神も物凄く追い詰めてない?」

(全く………)

 

 必死に隠してるのに、鋭く突っ込んでくる。

 フィールはおくびには出さなかったが、内心ではそのことが周囲にバレないか、ヒヤヒヤした。

 クシェルは外面上なんでもないように普段通りの様子だが、その実内面ではいつバジリスクに襲われないか、恐怖に駆られているはずだ。

 

 クシェルはスリザリン生だが、混血の生徒なのだ。いつ、スリザリンの怪物による犠牲者になってもおかしくはない。それに加え、スリザリンの継承者に操られている生徒が手持ちしていたと思われるトム・リドルの日記は彼女の手元にある。

 恐怖と隣り合わせで生活しているクシェルは、精神を限界まで追い込まれているに違いない。

 

 なのに、こうして気丈に振る舞っている。

 友人が陰で頑張っているのに、自身が気弱になっている暇などない。

 弱音を吐くなんて言語道断。

 ちょっとの辛さに負ける訳にはいかなかった。

 

「………黙りってことは、そうみたいだね」

 

 去年1年間、一番近くでフィールを見てきたクシェルは彼女の一瞬の沈黙を肯定とみなす。

 

「………クシェルも人のこと言えないだろ。常にビクビクしながら生活してるんだから」

 

 クシェルはギクッとし、表情を硬くする。

 そして、クシェルとの付き合いが長いフィールは彼女が動揺して微かに肩を震わせたのを見逃さなかった。

 

「その反応は、どうやら図星みたいだな」

「………ッ」

「………私より、アンタの方が過酷な立場だろ。自分の身の安全に気を配れよ」

 

 言外にトム・リドルの日記に対しても含まれていると察したクシェルは、フィールのさりげない優しさに微笑した。

 

「もう………フィーはホントに優しいね」

「別に私は優しくない」

 

 感極まったクシェルの言葉を即座に一蹴するフィール。

 ダフネからしてみれば、ツンデレにしか見えなかった。

 

(フィールったら、もう少し素直になればいいのにねえ………)

 

 まあ、フィールは他人に無関心そうに見えて気配りを忘れない性格なので、これが彼女なりの友人へ対する友情表現なのだろうと、ダフネはそう思うようにした。

 

♦️

 

 その日の夜。

 フィールは先輩のアリアに誘われて、スリザリン5年生女子の部屋にやって来た。他の先輩方は別の部屋に居るので、部屋に居るのはフィールとアリアの二人だけだった。

 

「こうして一対一で話すのは2回目になるわね」

「………そうですね」

 

 アリアが作ってくれたホットミルクが入ったマグカップを握りながら、フィールは彼女の隣に座っていた。椅子には座らず、ベッドに腰掛けている。

 

「早くこの事件解決するといいわね」

「………そうですね」

 

 実は継承者に関する手掛かりを掴んでいるとは言えないフィールは、深くため息をつく。アリアはそっとフィールを横目に見下ろしたが、すぐにマグカップに視線を移す。

 どちらとも沈黙なので、部屋の中は静けさに包まれていたが、ほどなくして、アリアがフィールに声を掛けた。

 

「ねえ、フィール」

「なんですか?」

「身体、大丈夫?」

「え………?」

 

 フィールは眼をパチパチさせるが、アリアは構わず続けた。

 

「クリミアが心配してたのよ。『フィールが無理をしていないか』って。クリミアはいつものことなんだけど………クシェルも貴女のことを心配してたのよ。『フィーが身体と精神を限界まで追い詰めてないか』って」

 

 アリアの言葉を聞きながら、フィールは彼女が自分を呼んだのはこのことかと、眼を逸らす。

 

「私から見ても、無理してる感じがするわ。前と比べて顔に疲労が滲んでるし、顔色が悪い時だって多いわ」

 

 アリアはサイドテーブルにマグカップを置くとフィールの前に来てしゃがみ、彼女を見上げる形で顔色を覗き込む。

 

「貴女みたいなスリザリン生って少ないからね。上級生にも何人かは純血じゃない生徒はいるわ。下級生と比べたら確かに精神は強いけど………それでも常にビクビクしながら生活してるのは変わらないわ」

 

 純血でありながら純血思想に傾倒していないアリアは、フッと息をつく。

 

「貴女は強い。他の人とは断然。でもまだ貴女は2年生なのよ。無茶ぶりする真似は止めて、もっと自分を大切にしなさい」

 

 もっと自分を大切にしなさい。

 それは、クリミアにも言われたことだ。

 フィールは胸に秘めた決意がぐらりと揺れ動くのを感じながら、バレるのを恐れるよう、口を開く。

 

「大丈夫です、私は。心配してくれるだけで、充分です」

 

 フィールは笑みを浮かべてアリアに言った。

 しかし、アリアは首を横に振った。

 

「フィール。それが貴女のダメな部分よ。そうやって曖昧にして誤魔化すから、クリミアやクシェルは気に掛けてるのよ。わかる?」

「………そんなの、わかってますよ」

 

 自然とマグカップの取っ手を握る手に力を込めながら、フィールはアリアを見据える。

 

「………貴女はわかってないわ。だから―――」

 

 が、言い切る前に。

 

「それ以上言わないでください」

 

 フィールは強い眼差しで睨み付けた。

 これ以上言われたら、隠せなくなる。

 だから、遮った。

 なのに………。

 

「いいえ、断るわ」

 

 アリアはフィールの頬を包み、真っ直ぐ瞳を見つめる。心の内側を見透かされてるようで、フィールはドキッとした。

 

「独りで抱えるような真似はしないで、私に頼りなさい。辛いこと、不安なこと、全部受け止めるわ」

 

 ………なんでこの先輩は、クリミアと全く同じことを言ってくるのだろうか。

 フィールは先程よりもぐらぐら揺れる心に、顔を伏せる。アリアはフィールの胸に手を当て、こう言った。

 

「貴女はなんでも背負い込み過ぎよ。その姿を見てると、時々貴女が私よりも年下だって疑うくらいね。………貴女は独りじゃないわ。傍にはちゃんと誰かが居る。………少しくらい、年上の私を頼ってちょうだい」

「………ッ、もう………止めてください」

 

 フィールは重苦しい気持ちを抱えてる場所に当てるアリアの手に自分のそれを重ね、やんわりと振り払おうとしたが、彼女は許さなかった。

 

「ダメよ、フィール」

 

 アリアは静かな声で、フィールを制した。

 

「今ここで離す訳にはいかないもの」

「………離してください」

「返事はNOよ」

 

 間髪入れずに即答するアリア。

 フィールはため息つき………邪魔なマグカップをサイドテーブルに置くと、アリアをキッと見下ろした。

 

「………実力行使に出ますよ?」

「なら、そうなる前に止めるわ」

 

 そう言うと、アリアはフィールの胸から両肩に手を置き、グッと力を入れて前に倒す。フィールの身体は後ろに倒れ、アリアは彼女の両手首を掴んで杖を抜き出せないよう制圧した。

 

「………本当に止めましたね」

「貴女ならやりかねないもの」

 

 アリアの腕を掴んで拘束から逃れようとしたが力は圧倒的にあちらの方が上だった。フィールは先程の自分の発言を後悔するが、今更悔やんでももう遅い。

 

「実力行使で来られたら勝てないけど、単純な力比べで言えば、まだ勝機はあるわ」

 

 強者教師と互角に渡り合えるフィールと対峙して勝てるとは思えない。しかし、握力と腕力は年上年下という関係上、差はある。あちらの戦闘能力が高いなら、先手必勝される前に抑え込むしか勝つ方法はない。

 

「……これでも強行突破する気はある?」

「………体勢から考えたら、無理ですね」

 

 フィールは諦め、顔を背ける。アリアは彼女から反抗的な態度を感じないため、手首から手を離し、彼女を引き起こす。

 

「話が脱線したけど………少しは肩の力を抜いてリラックスしなさい。気を張り過ぎても、余計疲れるだけよ」

 

 くしゃくしゃと、雑に髪を乱すアリア。

 相変わらずだなとフィールは思いつつ、自分は皆に相当心配を掛けていると知って、別の意味で胸が痛み、重苦しさがのし掛かってきた。

 

♦️

 

 ホグワーツ城の地下牢に在る研究室。

 そこはスリザリンの寮監、セブルス・スネイプが自室としても活用している研究室である。

 薄暗い壁の棚には何百というガラス瓶がビッシリと置かれ、死んだカエルやウナギやらの動物や植物のヌルッとした断片が浮かんでいる。片隅には材料がギッシリ入った薬戸棚があり、スネイプは今日も魔法薬の研究を行うために魔法瓶に手を伸ばし、ふと手が止まった。

 

(………ベルンカステル………か………)

 

 スネイプはフィールに思うところがあった。

 特に決闘クラブ後からはそれが増幅した。

 

 フィール・ベルンカステル。

 スリザリン2年の女生徒で学年首席を収めるほどの超優等生。成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能と完璧超人でスリザリン所属の生徒にしては珍しいことに純血主義者でもマグル差別者でもない常識人。性格は一匹狼で孤高の雰囲気を身に纏っているがその実周りのことをよく見ているため、謎が多い。そしてハッフルパフ5年の女生徒、クリミア・メモリアルの義理の妹である………。

 

(ベルンカステルの実力は2年生なんて生温いものではない………何も悪いことが起きなければいいのだが………)

 

 クリスマス前に開かれた、あの決闘クラブ。

 スネイプが直々にフィールをペアにした訳。

 それは、彼女の実力調査であった。

 去年のトロールKOに賢者の石を護るために教師陣によって仕掛けられたトラップ。

 

 そのどれもが、彼女によって突破された。

 所々あのグリフィンドール生三人の活躍も挟んだらしいが、正直なことを言ってしまえば、彼女一人だけでもオールクリア出来ただろうと、スネイプはフィールの潜在的能力を見抜いている。

 一見すると規格外の強さを誇る生徒という認識だが………あの少女は、違う。

 

 ―――いつ、闇に堕ちてもおかしくない………どす黒くて冷たい、底知れぬ力と残虐な心が密かに見え隠れしている。

 

 そのため、スネイプはフィールの今の実力をこの眼で見てみようと考えた。

 光に進んだ時。もしくは闇に堕ちた時。

 どれだけの存在になるのか、実際に試してみようと………。

 

(何を考えている………ベルンカステルに限って邪道に堕ちるなど―――)

 

 有り得ない。

 とは、言い切れなかった。

 スネイプは天井を仰ぐ。

 ………フィールは覚えているのだろうか。

 数年前に起きた、『あの悲劇』を………。

 

(いや………あの様子では、ベルンカステルは覚えてないのだな………)

 

 校長のダンブルドアから聞いた話なので、詳しいことは自分も知らない。

 しかし………その内容は、信じられなかった。

 一瞬、自分は聞き間違えているんじゃないかと耳を疑ったくらいに。

 そしてそれは副校長のミネルバ・マクゴナガルもそうであったと、スネイプは彼女の愕然としていた様子を思い出し………不意に、かつての先輩だった女性とそっくりな少女の姿が浮かび上がった。




【ダフネ+スリザリン組】
久々にダフネ登場。

【まさかのここでアレが登場!?】
なんと、みぞの鏡が夢の世界で登場してた。
フィールは直接みぞの鏡があった部屋には行きませんでしたが、どうやら夢というものは、強引にでも彼女を引き摺り込もうとしてるようです。
そして読んでわかった通り………あの時、もしもフィールが実際にみぞの鏡に行ってたら、二度と立ち上がれなくなったでしょう。

【アリフィル】
作者的なアリアとフィールの愛称。

【スネイプSide】
フィールへ対する評価→結構マズい要注意人物
スネイプさえも危惧されるフィールが今後どうするのかは未定ですね。ハリー達の味方ポジションと言えど、一歩間違えたら敵にもなりうるので。
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