【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
「今日こそ貴女に勝ってみせるわ、クシェル」
「ふふっ、今日こそ勝てるといいね、ダフネ」
毎度お馴染みの必要の部屋。
そこでダフネとクシェルは中距離の位置から真っ正面に向き合い、前者は後者に向かって宣戦布告した。宣戦布告された本人は不敵な笑みを讃えている。
どちらも杖はホルスターに収納しており、抜刀するタイミングは戦闘開始の瞬間だ。ちなみにクシェルはヒップ、ダフネはレッグである。
今日の訓練内容は模擬戦だ。
対峙する二人を、指導官のフィールはスタンドの手摺に肘をついて見守る。プレイスタイルは十人十色、千差万別なので、我流を尊重するタイプのフィールは他人に呪文や魔法は指南してもその人の戦術についてはアドバイスやダメ出し以外、否定的な意見は述べない。
そもそもフィールは『試合』向けの短期決戦&マニュアル志向型ではなく、『実戦』向けの戦略志向型だ。
素人によくありがちな『試合と実戦は同類』を真っ向から否認して『全くの別物』と割り切り、実戦で必要不可欠なその場に応じた動きや判断力を培い、臨機応変・当意即妙な対応を出来るよう実際の場合を想定して鍛練を積み重ねるのが、フィールのポリシーである。
ある一定のルールを設けて規定制限範囲内でのトレーニングは時たま行うが、基本的に束縛はしないで自由にやるのが、フィール独特のレッスンスタイルなのだ。
「ダフネ、準備はOK?」
「ええ、いつでもドンと来なさい」
「わかった。―――それじゃフィー! ゴングよろしく!」
最終チェックし終えたクシェルはレフェリーのフィールの方を見て、声を張り上げる。フィールは「了解」と杖を構え―――自分の目線の先に浮かぶゴングを高らかに鳴らした。
戦闘開始を告げるベルの音が頭上から鳴り響いた直後、クシェルとダフネはホルスターから素早く杖を抜き、同時に同じ呪文を唱えた。
「「
真紅の閃光が中間地点で衝突し、バチバチと火花が散る。双方共に前方に立っている相手を鋭く睨み付けながら、激しく押し合う。
しばらくの間は両者一歩も譲らず鬩ぎ合っていたが、やがてどちらからともなく杖を薙ぎ、途端に激突していた光線は四方に飛び散った。
周囲にスパークが飛散し、クシェルは横っ飛びに飛んで呪文を撃つ。
「
今度は失神の効果を帯びた紅い光の筋が迸る。
これは、相手が回避もしくは撃ち落とした直後の硬直を狙い撃ちするための陽動の攻撃だ。
案の定ダフネはサッと横方向に飛んで躱す。
クシェルはそれを狙って『武装解除呪文』を放とうとしたが―――
「
ダフネはクシェルの足元目掛けて着地と同時に『爆破呪文』を発射。
慌てて後方へ飛んで躱すと、先程クシェルが立っていた場所が爆砕した。
あと少しでも逃げるのが遅れていたら、確実に御陀仏になっていただろう。
「
続け様にダフネは一陣の風を巻き起こし、間一髪難を逃れたクシェルに吹き付ける。強風に煽られるクシェルは、吹き荒れる風に逆らって懸命に踏み留まった。まともに眼も開けられないほどの強い風に、視界を奪われる。
これでは反撃する余地が無い。
気が焦るクシェルは必死に打開策を考える。
と―――それまで吹き付けていた強風がパタリと止んだ。
眼を瞑っていたクシェルは瞼を開く。
さっきまで前方に居たはずのダフネの姿が、何処にも見当たらない。
一瞬ビックリしたクシェルだったが、
(そっか、さっきのアレは………!)
と、ダフネの意図に気が付いた次の瞬間。
「
背後から今まさに考えていた人物の声がした。
クシェルは振り返らず、杖を背後に回して背中越しに『盾の呪文』を唱える。
「
クシェルのバックに半透明のバリアが現れ、すんでで攻撃を弾く。クシェルは急いで振り返り、防壁を消失させる。陽動作戦が失敗して、ダフネは悔しそうに軽く肩を竦めた。
「今の割りと不意打ちだったのだけど………流石クシェル、機転が早いわね」
「これでも1年の時からやってるからね。そう簡単にはやられたくないよ」
「そう。なら、これは防げるかしら?」
ダフネは先手を打ち、次々と攻撃を仕掛ける。
「
『失神・麻痺呪文』『粉々呪文』『爆発呪文』『全身金縛り・凍結呪文』『妨害呪文』『攻撃呪文』の計6つの呪文をまるで空気を吐くかのような自然的な動作で、マシンピストル並みのスピードで射出した。
普通の生徒であれば防ぎれずに魔法をモロに喰らうだろうが、クシェルは負けず劣らずの速さで間断無く的確に呪文の数々を撃ち落としていく。
「
「
隙を突いてクシェルは『氷結呪文』で空中から氷の刃を数本生み出して襲わせるが、ダフネは冷静に『燃焼呪文』で火を放射して対処する。
以前と比べると格段に強くなっているダフネにクシェルは驚きを隠せない。が、過去に自身の身を危険に晒された経験から、もうあんな思いはしたくないと、あの時のフィールみたいに多少の事では動じない冷静さと戦闘中でも余裕で軽口叩けるユーモア溢れる大胆不敵な性格を体得したいクシェルは、余裕綽々とした態度と笑顔でダフネに話し掛けた。
「やるね、ダフネ。今までとは動きが全然違ってちょっとビックリしてるよ」
「そりゃそうよ。週3でフィールにみっちり鍛えて貰ったんだから」
「えっ、フィーに?」
「ええ。私がフィールに頼んだよ。―――1対1の稽古をね」
♦️
それは、今から約2ヶ月前の2月下旬頃。
「私に1対1の稽古をつけて欲しい?」
ある日の放課後。
人通りの無い場所に呼び出されたフィールは、此処に呼び出した張本人・ダフネからの意外な依頼に僅かに眼を丸くした。ダフネはいつになく真剣な顔付きで首を縦に振る。
「アンタがそうして欲しいって言うなら、私は好きなだけ相手になるけど………でもなんで、いきなりそんなことを頼むんだ?」
「………私、どうしても、せめて一回はクシェルに実力で勝ちたいのよ」
聞けば、ダフネはクシェルに一度でもいいから打ち破りたいらしい。
フィールは「ああ………」と、なんとなくダフネの今の心情を察する。
クリスマス休暇前に開催された決闘クラブ。
あの時ダフネはクシェルとペアになり、彼女と杖を交えたのだが、結果はクシェルに杖を取り上げられての敗北で終わった。
それ以降、負けず嫌いのダフネは暇を見付けては度々クシェルに勝負を申し出て杖を交えるようになったのだが、何度やっても勝敗は変わらず、自分から勝負事を持ち込んで惨めに負け続けるダフネはプライドがズタズタだった。
「そりゃあ、ね。クシェルは1年の時から貴方に教わってるし、元々の力量も高いから、今まで必要最低限魔法の練習をしてこなかった私がそう簡単には彼女に勝てないことくらい、自覚してるわよ」
だけどね、と。
ダフネは強い瞳でフィールの瞳を見据える。
「キャリアやスキルを理由に『絶対勝てない』とは、思いたくないし決めつけたくもない。相手が自分より強いなら、それ以上の力を身に付けるまで努力と練習を続ける」
人間は越えられない壁を目の前にした時の選択で、その後の人生が大きく変わる。
自分では無理だ。
どうせやっても無意味に終わる。
そんなことしても無駄でしかない。
そう決め付けて壁を越えるのを諦めるか、別の道を選ぶかは本人の自由だ。
「目の前に壁があると言うのなら、越えられない壁があると言うのなら―――突き破ればいいだけよ」
その言葉と揺るぎない瞳に、フィールは見極めるように見据えていた蒼い眼を細め―――やがて彼女は、フッと微かに口角を上げて、クシャクシャと艶のある黒髪を雑に掻き乱した。
「な、何するのよ」
「なんか、ダフネも随分成長したんだなって思うと、指導官やってる側としては嬉しいなって」
そう言われ、少し照れたのか、ダフネの頬が紅くなる。
「そ、そういう貴女だって、随分人格が変わったわよね。昔と違って他人に優しくなったし、大分雰囲気も刺々しさが薄れたし。貴女がそうなったのも、私と貴女がこうして交友関係築くようになったのも、全てクシェルが原因よね。………それにクシェルは、私と初めて『友達』として仲良くしてくれたし」
「そうなのか?」
「ええ、初耳?」
「ああ、初耳だ」
「そう。………私、ホグワーツに入学する前からパンジーやミリセントとは顔合わせしてるんだけど、そういう付き合いは上辺だけのものだったのよ」
ダフネはホグワーツ入学以前から、マルフォイ家やパーキンソン家、ブルストロード家といった純血の豪族同士の食事会やセレブパーティーで、同僚同輩のドラコやパンジー、ミリセントと知り合っていた。純血主義には傾倒していなかったものの上手く立ち回っていたダフネは、表面上は彼等とそれなりに仲良くは接していたが、内心では不機嫌極まりなかった。
グリーングラス家と言う、代々続く由緒正しい名家の出所故の運命付けられた呪いのようなもので最早どうしようもならないとは言え、世間体や駆け引きのためのパーティーに親に幼い頃から駆り出されてきたのは、あまり気分のいいものではない。
「グリーングラス家の将来や妹のアステリアのことを考えると、あんまりワガママ言える立場じゃなかったから、愚痴や不満はなるべく控えてきたけど………正直言うと、嫌だし疲れるのよ。肉体的にも精神的にも」
表面だけはそれらしいこと言ってその実社交辞令だったり、将来大物になることを踏まえてコネクション目的の打算的な考え方で接触してくる大人がほとんどだった。
幼くして世間の裏側を知ったダフネは、いつしか冷めた眼差しで世間からの評判や体裁ばかりを気にするような世の中を見るようになり、そういう大人達の教えをすんなりと受け入れる同世代の子供とばかり交流してきた彼女は、本当の意味で仲良くなった人は誰もいなかった。
「だけど此処に来て、打算抜きにただ純粋な気持ちで私と接してくれた娘が居るのよ。それがクシェル。あの時私は、本当に嬉しかったわ。ようやく、胸襟を開ける人と巡り会えたもの。クシェルは………そうね、何と言えばいいのかしら。あの娘は不思議と人の心にスルスルと入り込む力がある。それがどんなに固く閉ざしたはずの心であろうとお構い無しに開いてくるんだから、最早才能よね」
「………ああ、そうだな。その気持ち、よくわかる」
クシェルは不思議と人の心を癒す力がある。
それで自分も彼女に救われてきたフィールは、共感して首肯した。
するとダフネは感慨深そうだった表情から一変し、フィールの顔を見てニヤニヤと笑う。フィールは怪訝な面持ちになった。
「なんだよ、急に人の顔見て笑って」
「あ、いや、顔を見て笑った訳じゃないわよ」
「じゃあ、なんで笑ったんだ?」
「クシェルはフィールのことが大好きで、フィールもクシェルのことが大好きなんだなあって思うと、ね。ついニヤニヤしてしまったわ」
「は? どういう意味だよ、それ」
「だって、そうでしょう? 1年の時からいつも貴女にべったりで『フィー大好き!』って気持ちが駄々漏れなクシェルはわかるとして、最近はフィールも満更じゃないし、なんとなく、クシェルを見る時の眼差しは他人と違って優しいわ。もしかして、本当はそっちの意味であの娘のことが好きなのかしら?」
からかうように言ったダフネの言葉。
最初は訳がわからずぱちくりしていたフィールだったが―――程無くして、言ってる意味を飲み込んでほんのり顔を紅くし、キッと鋭い目付きで睨み付けた。
「そ、そんな訳ないだろ………!」
「そうかしら? 否定する割りには赤面してるじゃない。まさか無自覚だったの?」
「だから違うっての!」
フィールが否定すればするほど、ダフネはニヤニヤと意地の悪い笑みを深める。顔だけでなく耳まで真っ赤になり、フィールはやられたと額に手を当てて、プイッと顔を逸らした。
「………とにかく、そういう意味では好きじゃない。そこは誤解するな」
「そういう意味では、ってことは、別の意味では好きなのね?」
「まあ………好きと言えば好きだけど。勿論、『友達』としてな」
「それでもいいじゃない。クシェル本人にもそう言いなさいよ。あの娘、きっと喜ぶわよ」
「ヤダよ、恥ずかしい………」
「あら? 貴女もそういう感情抱くのね。ちょっと意外だわ」
「アンタ今まで私のこと何だと思ってたんだ」
「え? 無機質な印象を与えるクールな娘」
「要するにロボットか」
「そうとも言えるわね」
「あっさり納得するな」
「いや貴女が先に言ったんじゃない」
「そうだった」
なんてコントとも言えるやり取りをし、二人で笑い合ってると、
「二人して此処で何してるの?」
と、つい先程まで話題になっていたクシェルがひょっこりと現れた。クシェルは何故二人が笑ってたのか知らず、小首を傾げている。
「ああ、クシェルか」
「別に何もしてないわよ。ただ二人で話してただけだから」
フィールとダフネは咄嗟に適当な言葉ではぐらかすが、あからさまに何か隠してる友人二人にクシェルは不満げな表情を浮かべた。
「フィー、ダフネ、何か私に隠してる?」
「何も隠してないっての。な、ダフネ」
「ええ、フィールの言う通りよ、クシェル」
二人はそう言うが、クシェルは騙されない。
「嘘つけーっ! 絶対何か隠してるじゃん! 二人だけでこんな所に居るってことは、内緒話でもしてたんでしょ!」
二人だけの内緒話、はあながち間違いないではなく、二人は内心ギクッとする。このまま深入りされたら言い当てられる可能性が高いと判断したダフネは、ニヤリとしながらこう切り出した。
「なに? 大好きなフィールが私と二人きりで居たのに嫉妬して八つ当たりしてるのかしら?」
「なっ………そ、そんな訳ないじゃん!」
クシェルは真っ赤になって異議を唱える。
ふふっ、とイタズラっ子のような笑顔のダフネに、おい! とフィールはキツい視線を向けた。
「なに私と似た質問投げ掛けてんだ! 会話の中身勘付かれるだろ!」
「大丈夫よ、この娘はそこまで鋭くはないわ。と言うか、仮にバレたとしても最初に私が貴女に御願いした秘密の特訓の件までは流石に思い当たらないでしょ。貴女心配し過ぎよ」
「それはそうだけど………大丈夫か?」
「大丈夫なハズよ」
「ハズってなんだよハズって………」
「ま、とにかく今は私を信じなさい」
「その信頼度がちょっと0に近いから、私は心配してんだけど………」
「何か言ったかしら?」
「いや別に」
ヒソヒソと小声で話し合う二人に、またもやクシェルは疑問符を浮かべた。
「二人して今度は何話してるの?」
「「いや別に」」
見事に返事がシンクロしたフィールとダフネ。
その後二人はどうにかしてクシェルを説得して一旦別れ―――場所を改めて脱線した話の本題に入った。
「―――話がズレたけど、ダフネはクシェルに勝ちたいんだよな? 1対1のバトルで」
「そうよ。だから鍛えて貰いたいのよ。学年首席も務め、スネイプ先生とタイマン出来る強さを誇る指導官の貴女に。それに、強くなる以外にも何か役立つ攻略法も学びたいわ。腕前がどんなに強くても、一つか二つは前以て必勝法を立てておきたいし」
「攻略法、ねえ………まあ、あるにはあるけど、クシェルにも戦略の一環として伝授してるしな。ダフネがこの手段を選ぶと言うなら、クシェルと同じ土俵で戦うことになるぞ。最後に勝利の決め手となるのは、根気と一撃だ。それでも構わないって言うなら、アンタにも教えるけど、どうするんだ?」
「………わかったわ。その事を踏まえた上で、私は貴女にお願いするわ。最後はお互いに同等の条件の下で戦うってなら、勝利の一撃を取れるのはどちらか一方だし」
「そうか。なら、約束通りアンタにも伝授する。よく聞いて覚えろよ」
ダフネは一字一句聞き逃さないように、神経を研ぎ澄ませて聞く耳を傾けたのだが―――。
「―――本気じゃない状態で、クシェルの本気を引き摺り出せ。そうすれば、勝機はあるぞ」
返ってきたのは、期待外れな言葉だった。
「は? それ、どういうことよ?」
「やっぱり、最初は意味わかんないか。クシェルにも『どういうこと?』って言われたし」
「当たり前よ。なに? 全力で掛かっていかないで勝ってみせろって言いたいの?」
「話は最後まで聞け。ちゃんと教えてやる」
フィールは一息つくと、いきなりクエスチョンした。
「ダフネ。アンタはこれまでの勝負で、クシェルの本気を引き摺り出せたことあるか?」
「えっ?」
途端に眼を大きく丸くさせたダフネに、フィールはこう告げた。
「その反応、やっぱり気付いてなかったみたいだな。まあ、無理もないか。………傍から見るとクシェルは全力で戦ってるように見えるけど、今までアイツはアンタとの勝負で本気モードに入ったことなんて一度もないぞ」
「そうだったの!?」
衝撃の事実が判明し、ダフネは眼を剥く。
あれで本気を出していないと知り、クシェルとの格差を現実的に突き付けられて、絶望的な気持ちが胸いっぱいに広がった。
「ちょっとフィール! 私はクシェルが本気出してないで負けてるのよ! だったら尚更本領発揮しないと、クシェルの本気を引き摺り出すことも勝てることも出来な―――」
「なら逆に聞くぞ。アンタが
「! それ………は………」
「クシェルが本気を出してないと言うことはすなわち『本気を出さないとマズい相手』と認識してないことを意味してる。だけどその逆を言えば、本気になって戦うと言うことは自分にとって戦況が背水の陣だからだ」
「………………」
「わかるか? 今この状況で全身全霊を傾けて戦ってしまえば、もう勝てるチャンスが残ってないのも同然なんだよ」
「………あ………」
「クシェルの打倒を目指すなら、まずはクシェルに全力で戦うよう仕向けろ。まず間違いないなくアンタでは勝てないだろうな。でもまだ本気モードと言う『最後の切り札』がある。クシェルとのゲームに勝機を見出だしたいなら、先にジョーカーを切らせるんだな」
だけど、と。
フィールは釘を刺すように真顔で続けた。
「この秘策はクシェル本人も心得てて、アンタより一足先に実行してんだ。アンタが本気を出させようとしたところで、アイツもそう易々とバカ正直に見せる訳がない………と言うか最初に言っとくけど、これはれっきとした必勝法とは言えないしな。相手が本気になってそれでやられてしまえば、全て無意味で終わる。所謂『諸刃の剣』だってのは忘れんなよ」
最後に注意事項を伝え、フィールはフッと一つ息をついて呼吸を整える。
と―――いつの間にか顔を伏せていたダフネの唇の隙間から、笑い声が漏れ出てきた。
「ふ………ふふ…………」
「どうした?」
フィールがそっと尋ねると―――さっきとは打って変わって豹変した空気を身に纏ったダフネが顔を上げた。
「上等じゃない………引き摺り出してやるわよ。クシェルの本気モードを」
そしてダフネは踵を返して歩き出す。
寮とは別の方向なので、恐らく上階に向かうつもりなのだろう。
「そうと決まればこうしちゃいられないわ。さあフィール、早く必要の部屋に行ってトレーニング始めるわよ! クシェルが本気出しても渡り合えるくらいの実力を身に付けるまで、特訓に付き合ってちょうだい!」
普段のエレガントさやノーブルさは何処へ行ったのやら、バリバリやる気満々でそう急かすダフネにフィールは苦笑した。
「………俄然モチベが飛躍的にアップしたのは喜ばしいけど、今度は逆に空回りしないかが心配になってきたな」
♦️
「なるほど………最近よく二人だけで行動するのが多かったのはそういうことだったんだね」
秘密の特訓以外の話題もあったのは教えられていないクシェルは、ダフネがフィールに強化鍛練を依頼したことだけに意識が向き、杖を構え直す。ダフネも杖を構え直し、スッと灰色の瞳を細めた。
「なら、ダフネ。ここから先は一切手加減はしないで掛かるけど、大丈夫なの?」
「勿論よ、ドンと来なさい。同じ土俵に立っている以上、勝利条件は変わらないわ」
そして二人は、同時に相手に向かって叫んだ。
「ダフネ、最後に勝つのは私だよ!」
「クシェル、最後に勝つのは私よ!」
改めて宣戦布告した二人は再戦に突入する。
色とりどりの閃光が必要の部屋を飛び交い、幾度も明るく照らす。バンバン呪文をぶっ放すクシェルとダフネを見守っていたフィールはこの後の展開が大体予測され、
(これはかなりの量がいるな………)
と達観しつつ、栄養補給用の食事作りの準備に取り組んでるべく、時間短縮のため華麗にスタンドから飛び降りたのだった。
【グレイシアス】
ゲームで出てくる、何故かは知らないがハーマイオニー専用の水を凍らせる『氷結呪文』。
水を凍らせる呪文なら空気中の水分を凍らせて氷の刃とか弾丸とか作れるんじゃね? と思い、作中ではクシェルが氷の刃の生成を披露してくれました。
【本気モード=最後の切り札】
作中の戦闘スタイルの一つ。
【勝敗はどうなった?】
敢えて対決の結末は読者の予想形式に。
どっちが勝ったかは読者の想像にお任せします。