【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

30 / 130
#29.戦々恐々

 ジャスティンとほとんど首なしニックが被害に遭ってから数ヶ月が経過し、その間、新たなる被害者は誰一人として出ておらず、クリスマス休暇が明けた頃よりも安堵する生徒が続出し、スリザリンの怪物も鳴りを潜めたんだと、根拠の無い安心感に大半が溺れるようになってきた。

 だが、そんな中でもハリーやフィール達は犯人探しに奔走し、グリフィンドールVSハッフルパフのクィディッチ戦が間近に迫ったこの日もそれぞれ情報を交わし合っていた。

 トム・リドルの日記はクシェルが手持ちし、以前の持ち主の正体を炙り出してみるということは既にハリー達に伝えている。

 

「今回も特に無し………か」

「ええ、特に変わったことはないわ。そっちは?」

「こっちも特にない」

 

 ハーマイオニーはため息つき、フィールもため息ついた。糸口を掴めない現状に、やるせない気持ちを募らせてしまうのは無理もない。

 

「早く継承者を見つけないと、また被害が出てしまうわ………」

「だけど、焦っても駄目だからな」

「そうだけど………」

「………とにかく、今日は切り上げるか」

「そうね。また明日、此処で会いましょう」

「わかった。私、もう一度調べ直してみる」

 

 フィールはそう言って図書室を退館した。

 彼女は、彼女なりに動いてみるのだろう。

 同感の四人は素直に見届けることにした。

 

「私達も寮に戻って色々見直してみるわ」

「うん、気を付けてね」

 

 クシェルはグリフィンドール組三人と図書室を出ると、曲がり角で別れた。

 一人になった途端、どっと緊張が押し寄せてきた。やはり、一番頼りになるフィールが居ないのが、クシェルにとって不安だった。

 ―――フィールなら、仮にバジリスクと遭遇したとしても返り討ちにしてみせるかもしれない。

 そう思うからこそ、そんな彼女が自分の隣にいないことへ、無意識の内に心が圧し潰されそうになった。

 

(いけない………しっかりしないと………)

 

 クシェルは狼狽える心を持つ自分へ叱咤し奮い立たせ、無駄に長い廊下を歩いていたが、スリザリン寮に通じる道まで次第に早足になって向かった。

 だが、まるで今の痩せ我慢と空威張りで圧迫してくる精神を突き返しているクシェルに追い打ちを掛けるよう―――何かが這いずるような不気味な音が、彼女の耳を打つ。

 

「………!」

 

 クシェルは、ハッと伏せていた顔を上げる。

 背筋が凍り付き、身体全身に緊張感が走る。

 本能が「逃げろ!」と警鐘を鳴らしている。

 

(ヤバい………!)

 

 クシェルは硬直した身体に「走れ!」と念じながら、冷たい廊下の床を強く蹴ってその場から駆け出した。同時、這いずる音が再び響き、走る音と重なる。音と気配から、自分のすぐ後ろをついているのだと察し、クシェルは総毛立つ。

 

(助けて………助けて!)

 

 声に出したくても、出せない。

 震駭に精神を支配され、喉の奥底にSOSの言葉が引っ込んでしまう。

 だがクシェルは、昨年度フィールに戦闘のベーシックを指導された際に言われたことを胸に、疾走し続けていた。

 

 ―――まず、直感的にヤバいと判断したらすぐに逃げろ。実力で太刀打ち出来ない敵に真っ正面から挑んだって自殺行為だ。だから、最初は戦うという思考をかなぐり捨て、相手との距離を充分に離せ。いいな?

 ―――敵対するヤツが自分よりも遥かに強いなら正面切って戦って勝てると思うな。まずは退散しろ。戦闘は自分の身を護るための最終手段だ。

 

 学生とは思えないほどの実戦じみた発言。

 それは、クシェルの胸に自然と深く強く刻まれていた。

 

(まずは逃げる! 戦闘は最後の方法!)

 

 何度も何度も自分に言い聞かせながら、クシェルは息を切らしてでも走り続けた。が、体力はどんどん減っていき、速度も徐々に落ち始めた。このままでは、背後から執拗に追い回してくる得体の知れない何かに足を止めた瞬間、襲われるかもしれない。

 

「助けて………フィー!」

 

 クシェルは、去年みたいにフィールの名を呼べば彼女が助けに来てくれるのでは―――という一筋の希望が、戦慄していた心を上回り、口にすることがやっとのことで出来た。

 なのに、こんな時に限ってそれはなく………むしろ、粉々に砕け散る気分を味わうことになってしまった。

 

「え………………」

 

 次に曲がった先で運悪く窓を見てしまい―――鏡みたいに映し出される、自分の背後にあった2つの影を見た。見てしまった。

 

 1つは、巨大な蛇の姿。

 毒々しい鮮緑色の体表に、黄色い瞳孔。

 クシェルは窓越しからその黄色の瞳を見て、身体の自由を奪われる感覚を覚えた。手足の力が抜けていき、意識が遠退いていく。

 

 薄れ行く意識の中―――緑色の大蛇の脇に存在する一人の少女の存在に、翠色の両眼を僅かに見張った。

 

 もう1つの小さな影。

 それは、赤毛の少女。

 そして、その少女には見覚えがある。

 

「フィー………助け………て…………」

 

 最早無意味となったSOS。

 でも、言わずにはいられなかった。

 フィールならきっと………バジリスクを操っている少女を救いだし、自分や、これまでの被害者達の仇を取ってくれる。

 それに………自分が犠牲になったのならば、フィールが後継者だという懐疑を晴らせるかもしれない。

 最後にそう切実に願いながら―――クシェルの意識はシャットアウトされ、冷たい床にゆっくりと倒れ込んだ。

 

 石化した少女が持ち歩いていた黒い日記。

 赤毛の少女はバジリスクが何処かへ消えていくのを気配で察すると窓越しから黄色の瞳を見ないように閉じていた瞼を開き、横たわる茶髪の少女のショルダーバッグからそれを取り返すと―――身体を震わせながら、その場を後にした。

 

 クシェルが見た、鏡みたいに反射する窓。

 それにうっすら映った少女の姿は、まさにジニー・ウィーズリーそのものであった。

 

♦️

 

 校内は再び、戦々恐々に陥った。

 下手すれば、以前よりも酷い混乱の渦中になったのかもしれない。

 平穏無事だと思われていたはずの時間が再度震撼し始め、それまで平和ボケしていた蛇寮の生徒すら、他人事のように見ることも冷静でいることも封じられたのだ。

 なんと言っても、今回数ヶ月ぶりの被害に遭った生徒がスリザリン生だというならば、自分達も石化の対象になりかねないのだから。

 

「嘘だろ!? なんでスリザリン生がバジリスクに襲われるんだよ!?」

「スリザリンの継承者は、スリザリン生も襲うのか!?」

「なんだよそれ! そんなこと一言も聞いていないぞ!」

 

 自分達は無関係だと言って涼しい顔をし、襲われる生徒達を嗤ってきた純血主義者のスリザリン生は次々に戦き、喚く。そしてその慄然は、あちこちに伝染していった。

 

 彼らの目線の先には、スリザリンの怪物ことバジリスクに襲われて完全石化した、クシェル・ベイカーの華奢な身体。

 

 恐怖と驚愕に明るい翠の瞳を見開かせ静かに横たわるそれに、生徒達は囲むように距離を取っている。

 遠目から観察する生徒の集団の中、カナリア・イエローのネクタイを締めた少女二人は、揃って愕然としていた。

 水色の髪に紫の瞳の大人びた少女と、桃色の髪に青の瞳の可愛らしい少女。

 クリミア・メモリアルとソフィア・アクロイドは、妹みたいに可愛がっているフィールの親友がスリザリンの怪物に襲撃されてしまったことに憂愁していた。

 

「そんな………っ」

「嘘でしょ………」

 

 教師達が近付こうにもパニックを起こす生徒達は言うことを聞かずに騒ぎ立てるので、いつまで経ってもクシェルの側に行けなかったが―――

 

 

 

「―――道を開けてくれないか?」

 

 

 

 喧騒の中でも不思議と透き通り、全員の耳に届けさせる凛とした声。

 その声が聞こえると、あれだけ騒いでいた生徒達は一斉に口を閉じ、少なからずの冷静さを取り戻す。

 声の主―――フィール・ベルンカステルは、落ち着きを取り戻した生徒達が先程の言葉に従って自然的な流れで作り上げた一本道の中央を歩き、静かに倒れているクシェルの元まで来ると、膝をつき、容態を確認した。

 

 死んではいない。石になっただけだ。

 だけど………クシェルさえもバジリスクに襲われたことに、フィールはあの時一緒に行動しておけばよかったと、激しく後悔した。

 

「フィー、ル………」

 

 皆には悟られないよう自責の念に駆られているフィールの側へ寄り、その背中を優しく抱いたのは、先輩のアリア・ヴァイオレットであった。

 

「………アリア先輩……………」

「………大丈夫よ、死んではいないわ」

「わかってます………わかってるけど………」

 

 フィールは悲壮さを滲ませ、顔を伏せた。

 そんな彼女の背中を見つめながら、一人の生徒が驚愕の表情で、こう呟く。

 

「どういうことだ………? ベルンカステルは継承者じゃなかったのか………?」

 

 呟いた人物は、今までフィールがバジリスクを操っている後継者だと思い込んでいた。

 だが、果たして自分の友人を犠牲にするだろうかと、今更になってそれは勘違いだったと気付いたらしい。

 

「貴方、今の、どういう意味?」

 

 聞こえたアリアはフィールに背を向ける形で立ち上がり、その顔は訳がわからないという表情だが、その声には怒りが含まれている。問われたそいつはあたふたしつつ、自身の憶測をしどろもどろに語った。

 

「あ、いや………オレはその………ベルンカステルが『スリザリンの継承者』なんじゃないかな~って―――」

「何を根拠にすれば、そんな出鱈目が言えるのよ!?」

 

 後輩に疑惑を向けていたヤツに先輩のアリアは珍しく声を荒げ、鋭く睨んだ。後方からはクリミアやソフィア、そしてフィールファンの人達からビシバシ殺人光線を当てられたそいつはビクッと身体を震撼させ、「わ、悪かった」と震えた声音で早口で謝ると、逃げるように走り去った。

 一方、フィールは自分に疑いを掛けられていたことに対して呆気に取られていたが、

 

(もしかして……クシェルは…………)

 

 トム・リドルの日記を自分が持つとそれが原因で疑いを持ち上げる人間がどんどん出るかもしれないから、クシェルはそうならないように阻止してくれたのだろうか。

 あの時の、迷いがあったクシェルの顔。

 今になり、フィールはその訳を知った。

 

「ふ、ふん、ベイカーは襲われて当然だな! 僕は純血主義の素晴らしさを何度も伝えたはずなのに、それを無視したからこうなった訳だ!」

 

 ドラコ・マルフォイはクシェルが混血と言うのを知らないが、彼女が非マグル差別者であることは知っているため、今回襲われたのは後者の理由からだと得意げに話した。

 だが、彼は今、とんでもないことをした。

 黒髪の少女の中で―――何かが弾け飛ぶような感覚を覚えさせる展開に事を運んだのだから。

 

「せっかく僕は親切に教えてやったのに………ベイカーを血を裏切―――ッッッ!!?」

 

 マルフォイは突如濃厚過ぎる殺気を全面的に当てられ―――身体を激しく揺らし、口を完全に閉じきった。

 元々青白い顔を更に白くさせ、恐る恐る、威圧感の発信源に眼を向ける。

 彼女から滲み出る、恐ろしいオーラ。

 怖すぎるほどまでの、不穏な雰囲気。

 マルフォイのみならず、周囲に居た人達はフィール・ベルンカステルの殺気立たせる威光を肌で感じ、背筋にゾクリと悪寒が走った。

 

「―――クシェルを侮辱するヤツは誰であれ許しはしない。よく覚えておけ」

 

 もしも逆らえば、間違いなくフィールは反逆者を容赦なく殺すだろう、それだけの本気で鋭くギラつかせた蒼の眼光であった。

 クシェルを貶す人間は絶対に許さない。

 それが例え同級生の男子であろうと、敵と認識するのにそんなもの関係ない。

 動かないクシェルの身体を抱き上げたフィールは、

 

「―――退け」

 

 低音で威厳ある声音と半端じゃない眼力だけで包囲網のように邪魔な周囲を半ば強引に退かせる。

 クシェルを医務室へ運ぶ為、フィールは立ち竦む生徒達を一瞥することなく歩き出した。

 声を掛ける者は誰一人としていない。

 今の彼女に触れたら確実に最期だと、ほぼ全員が抱懐する中―――クリミアやアリアなどは、先程のフィールの威勢は虚勢のように………今にも泣き出したくなるのを無理矢理圧し殺し、必死に堪えているように感じ取られた。

 

♦️

 

 新たなる犠牲者が出現してから1週間が経過したその日はクィディッチ戦だったため、皆は恐怖などといった鬱屈とした感情を一旦は捨てて純粋に試合観戦を楽しんでいたが―――黒髪蒼眼の少女は、1週間前に石化した友人と同室の二人部屋に居た。

 あれだけ、クシェルにアプローチされていた当初は疎ましく感じていたのに、いざそれがなくなると、その疎ましいと思っていたことが自分にとっては当たり前の日常で、くだらない雑な日を共に過ごしていた彼女が自身の隣に居たことが、何よりも学校生活が楽しいと思える理由だったのだと現実的に突き付けられ………とにかく今は何も考えたくなくて、ベッドで横になっていた。

 

「………クシェル………」

 

 フィールは、友人の名を呟く。

 そうすれば、いつもみたいに「フィー!」って笑顔を向けてくれるような気がして………込み上げてきた感情を抑えるように、枕に苦しげな顔を埋めた。

 

 フィールとクシェルの部屋の扉前。

 そこに、一人の黒髪の少女が立っていた。

 その人影は、アリアであった。

 アリアは、部屋に閉じ籠ってしまったフィールをクィディッチ観戦に連れ出そうと此処まで来たのだが、彼女の気持ちを考えると、今はそっとしておくべきなのではとも思うのだ。

 黙考の末、アリアはドアをノックし、「開けるわよ」と言って扉を開け、ベッドに気だるい身と傷付いた心を委ねている後輩の元まで歩き、そっと腰掛けた。

 

「フィール、元気出しなさい」

「………………」

「夕食に出ないのは止めなさい。身体に悪いわよ」

「………………」

 

 返答は無し。

 アリアは深くため息をつきながら、フィールの黒い髪を細くしなやかな手で弄る。

 

「貴女の気持ちはよくわかるわ。だけど、いつまでも落ち込んでるなんて、貴女らしくないわよ」

「………………」

「…………はぁ、もう」

 

 アリアは黙りを決め込むフィールに我慢出来ず、彼女の身体をベッドから引き離すと、正面に向かい合わせ、ギュッと背中に腕を回して強くハグした。

 

「ハグは人の心を落ち着かせてくれるわ。少しはリラックスしなさい」

 

 アリアの行動がまるでクシェルみたいな励まし方に見え、フィールは涙ぐみそうになった。

 

「皆、心配してるわよ。貴女が部屋から出てこなくなって。今日は夕食来なさい。わかった?」

「…………わかりましたよ」

 

 それだけ答え、フィールは顔を背けた。

 アリアは頷いてくれたことにホッとし、さらさらちょっと癖毛の黒髪を優しく撫でた。

 

♦️

 

 嫌な現実から一旦は抜け出せても、翌日となればその余韻が一ミリたりとも無くなるほど、綺麗さっぱり消え失せる。

 

 ダンブルドアが、学校から追放されたのだ。

 生徒数人が被害に遭ったというのにも関わらず阻止出来なかったことから停職命令を下され、前回の容疑者疑惑でハグリッドはアズカバン直送された。

 今世紀で最も偉大だと評されているダンブルドアが不在した今、スリザリンの継承者が恐れるものは何もない。現時点で死人は出てないが、これから先はどうなるかわかったものではない。

 

 しかし、そんな中でも学年末試験はいつも通り行われるようで、生徒達は課題の消化に追われていた。こんな非常事態が起きているのに平常運転で進行することに皆は驚愕するが、校長代理を務めるマクゴナガルは可能な限り通常通りの学校運営をしたいらしい。

 そして、試験が3日後に迫った日。

 朝食時にマンドレイク薬が夜には出来上がるとの報告がされ、多くは生徒が安堵した。

 

 が、事態は大きく動き出す。

 その日、最後の授業の終業を知らせるチャイムが鳴った直後、学校中にマクゴナガルの声が響き渡った。

 

『全校生徒はそれぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は職員室へと集まってください』

 

 廊下に居た生徒は一斉に静まり返る。

 けれど、その知らせを聞いたある生徒は短時間で思考をフル回転させると―――ひっそりと、何処かへ走っていった。

 

♦️

 

 ―――ジニー・ウィーズリーが連れ去られた。

 それは、会議を終えた寮監のスネイプからスリザリン生に語られた内容だった。

 聖28一族にも選ばれた間違いないなく純血だとされるウィーズリー家の末っ子が誘拐され、スリザリン生はクシェルの時みたいにこれは他人事でははないと恐怖に飲まれる。

 スネイプは「本日は何があっても外を出歩いてはならん。わかったな? では監督生、後を頼む」と言い残して寮を出ていった。

 

 寮内に、嫌な静寂が訪れる。

 純血の生徒が犠牲者になったことから、今までは心の何処かでまだ自分は無関係だと考えていた純血主義者さえもこの時ばかりは威張り散らすことなく、ただ無言でいた。

 それに耐えかねたのか、一人また一人と寝室に歩いていき、遂にはアリアとダフネの二人だけが残された。二人が此処に残っているのには、訳がある。

 

「ダフネ、フィール見なかった!?」

「いえ、見てません!」

 

 なんと、フィールがスリザリン寮の何処にも居ないのだ。

 此処に来る前は確かに廊下に居たはずなのに、気付いた頃には彼女の姿が全く見当たらない状況になっており、一度部屋をノックしてみても返事はなく、少し扉を開けて中を見てみても、そこには居なかった。

 

「嘘でしょ………何処行ったのよ!?」

 

 アリアは談話室内を見回して声を上げるが、ダフネはある予感がし、扉に視線を移す。

 

(まさか、あの娘―――!)

 

 突然消えたフィール。

 誘拐されたジニー。

 ジニーはグリフィンドール生徒だ。

 当然、あの三人組が寮で大人しくしてろと言われて大人しくする訳がない。

 もしも、フィールが彼らと同じ目的ならば、現在、彼女はジニーが連れ去られた場へ出向いているのでは………?

 そしてその場所は、恐らく一つだけ。

 そう………あの部屋だ。

 長年、創設者のサラザール・スリザリンがバジリスクを封じ込めてきた―――秘密の部屋。

 

♦️

 

 嘆きのマートルのトイレ。

 そこでは、黒髪蒼眼の少女が杖先に灯りを灯してその存在感をうっすらと現し、彼女は複数ある手洗い場を隈無く照らしてあるモノを探していた。

 先程の放送はきっと何かが起きたのだろうと予測はしたが、フィールはジニーが誘拐されたことまでは知らない。だが、決して良いことではないということだけはわかる。

 

 フィールは、秘密の部屋がこの城内の何処にあるのかをずっと思考していた。

 最長15mにまで及ぶ大蛇を約1000年ほど封印出来るほどの部屋は、ホグワーツ城をどんなに探索しても見つかるはずがない。けど、バジリスクによる被害者は実際に存在するのだから、絶対にあるはずだ。

 そこで、フィールは0から状況を考え直し、パズルのピースを組み立て直した。

 

 まず、石化事件の犯人はバジリスクだ。

 それだけは唯一明確な事実だ。

 そして、バジリスクを操作しているヤツは何かしらのモノで操り人形のように、自分の意思とは無関係に操られている可能性が高い。そして、そのモノは恐らくあの黒くて古ぼけた日記………トム・リドルの日記だ。アレにはきっと、闇の魔術が含まれていると考える。多分、トム・リドルという者は未来の闇の帝王の姿。つまり、ヴォルデモートの学生時代の頃の名前だろう。

 ヴォルデモートがサラザール・スリザリンの子孫であるならば、パーセルマウスも頷ける。何故ハリーもパーセルマウスなのかを考えるのは後回しだ。まずはこの一連の出来事を片付けてからだと、フィールは割愛する。

 

 話が少し脱線したが―――クシェルが持ってたはずのトム・リドルの日記が行方不明だった。

 クシェルのショルダーバッグが開いていたのを見て、医務室に運び終えた後、中身を漁ってみたが、日記だけが無くなっていた。ということは、クシェルをバジリスクに襲わせたのは本体を取り返すためだろうか。

 誰が継承者なのかは、未だに謎だ。

 でも、さっきのマクゴナガルの指示で、直感的に感じた。

 遂に、黒幕が尻尾を出したのだと。

 あの短時間、フィールは思考をフル回転させ、ヒントを見つけた。

 

 マートルだ。

 マートルは、バジリスクの被害者だ。

 それならば、恐らく彼女が居座っているトイレに何かが隠されている。トム・リドルが当時本気でマグル生まれの生徒を排斥する気であったのなら、言い方は悪いが、マートル以外の死亡者が一人や二人いてもおかしくない。それなのに、彼女だけが死亡した。つまりは、マートルだけを排除する必要性があったことを意味している。ならば、その理由は何か。

 

 フィールは、こう推測した。

 学生時代、トム・リドルは秘密の部屋を発見した。しかし、開くにはいつもトイレに居座る彼女を排斥しなければならなかった。彼女をバジリスクで殺害したってことはそのトイレにスリザリンの怪物を封じ込めていた部屋があったから………だと、フィールは恐ろしい仮説を立てた。

 勿論、これはただの憶測に過ぎない。

 でも、完全否定する要素があるかと問われれば嘘になる。

 だからこそ、フィールは一人此処に赴いてあちこちを探し回っていた。

 

「………あった」

 

 フィールが見付けたモノ。

 それは、銅製の蛇口の脇に小さな蛇の形が彫ってある手洗い場。

 これこそが、『秘密の部屋』への入り口である。

 しかしながら、開く方法は一つしかない。

 蛇語による、ロック解除のみだ。

 そのため、事実スリザリンの継承者と謎のパーセルマウス・ハリーしか、入り口を開くことは出来ない。

 フィールは彼らも此処に来るだろうと信じ、待つことにした。

 

♦️

 

 そうして、待つこと数十分。

 フィールしか居なかった嘆きのマートルのトイレに、三人の少年少女が無能教師を連れて颯爽と現れた。

 

「えっ、フィール!?」

 

 ハリーは驚いた声を上げ、ハーマイオニーとロン、そしてロックハートも瞠目した。

 

「な、なんで此処に………?」

「『秘密の部屋』に向かうため。此処に来たってことは、アンタ達もだろ」

「う、うん、そうだけど………まさか、君も?」

「ああ、そういうこと。それと、『秘密の部屋』の入り口だと思われる場所を見つけた」

「え、ホント!?」

「これでジニーを助けられるわ!」

「ジニー? 彼女がどうしたんだ?」

 

 怪訝な顔でフィールが問うと、代表してハーマイオニーが簡単に説明してくれた。

 やはり、先程の放送は誰かが襲われたものらしく、今回はこれまでとは激変して一人の女生徒が誘拐され、その誘拐された人物がロンの妹のジニーだそうだ。

 三人は『秘密の部屋』へ通じるゲートはバジリスクによって殺されたマートルのトイレでないかと推理し、現在に至る。

 

「―――と言うことよ」

「やっぱり、ハーマイオニーもそう思う?」

「ええ。どうやら、貴女もそうらしいわね」

「そうだな………って、今は呑気なこと言ってる場合じゃないよな」

 

 フィールは彼らにある場所を、光を灯した杖先で示す。

 複数ある中で一つだけ、銅製の蛇口の脇に小さな蛇の形が彫ってあるのが、『秘密の部屋』の門口だ。

 

「これね。でも、どうやって開くのかしら?」

「ハリー、これに向かって蛇語で話してみろ」

「蛇語で?」

「サラザール・スリザリンが『秘密の部屋』にバジリスクを封印したのなら、開けるのは蛇語を話せる人物―――パーセルマウスだけだ。だからこそ、トム・リドルは開けた」

「なるほど………わかった」

 

 言われた通り、ハリーは蛇の模様が彫られた蛇口の前に立ち、蛇語で語りかけた。

 すると、蛇口が光り、手洗い場の仕掛けが動き出した。仕掛けが終わると、そこには太いパイプが姿を現した。暗すぎて、底が全く見えない。そして、この先にジニーや黒幕がいる。

 

「よし、お前が先に行け」

「ま、待て! 話せばわか―――」

 

 ハリーとロンがロックハートをパイプの中へ突き飛ばす前に、

 

「ほらさっさと行けよ、顔だけ無能男が」

 

 様子見とこれまでのイライラを晴らすために、フィールがドカッとロックハートを華麗な回し蹴りで思い切り蹴飛ばして先に行かせた。ロックハートの虚しい悲鳴が響き渡り―――ハーマイオニーからは「やりすぎよ!」と非難されるが、ハリーとロンはいい気味だなとしか思えなかった。

 

「フィール、君、最高」

「それはよかった」

 

 程無くして、ロックハートが特に問題無いと判断したハリーとロンが先にパイプの中へと飛び降り、その後に続く様、フィールとハーマイオニーもパイプの中へと飛び降りた。滑り台のようにパイプを滑り降り、どんどん下へ下がっていく。

 出口が見えなかったが、唐突に終わりを告げられる。放り出されたフィールは立ち上がりながらも、油断することなく厳重に警戒し、

 

ルーモス(光よ)

 

 灯りをつけるのと同時、ハーマイオニーが滑り降りてきた。

 

「痛ッ………全く、どれだけ長いのよ」

 

 愚痴を溢しつつ、ハーマイオニーも杖先に灯りをつけ、辺りを見渡す。墓のように、怖いくらいに静まり返ったトンネルだ。湿った床に先が見えない暗闇。よく見れば、地面には動物の骨が幾つもの散らばっており、歩くこともかなり苦労だった。

 それでも、連れ去られたジニーを救い出すために此処まで来たのだ。今更後戻りするなんていう愚考は四人にはない。だが、無能教師は戦慄している。何処までも使えないヤツだと思いながら、ハーマイオニーとフィールが先頭に立ち、ハリーとロンがロックハートに杖を突き付けながら、トンネル内を歩いた。

 

「………ちょっと、これって…………」

「………バジリスクの抜け殻…………」

 

 ハーマイオニーとフィールが見たモノ。

 それは、6m程の全長の蛇の抜け殻だった。

 つまり―――健在するバジリスクはこれ以上だと言うことが明らかになり、四人を恐惶させた。

 先頭に居るハーマイオニーとフィールが身体を硬直させているのを見て、ロックハートは同じく硬直していたロンを殴り飛ばし、杖を奪取した。

 立場が形勢逆転したからなのか、ロックハートの顔は歪むくらいに超スマイルだ。

 

「お遊びはお仕舞いだ! 私はこの抜け殻を持ち帰り、女の子を救うには遅かったと皆に告げよう。そして君達は、ズタズタになった無惨な死骸を見て哀れにも気が狂ったと言おう」

 

 フィールは倒れたロンの側まで駆け寄るとその前に立ち、両サイドにハリーとハーマイオニーも立った。

 

「フィール、どうする………!?」

「………なあハリー、アレって確か、ウィーズリーの折れかけの杖だよな?」

「え? うん、そうだけど………」

 

 フィールとハリーが、今ロックハートの手に握られている杖がどんな物かを話していると、

 

「さあ、記憶に別れを告げるがいい! オブリビエイト(忘れよ)!」

 

 テープで補強された、ロンの杖。

 ロックハートはそれを大きく振り上げ、『忘却呪文』を撃とうとしたが―――呪文が響くと、杖先からは発射されることなく、小型爆弾並みに爆発した。

 フィールは咄嗟にハリーを突き飛ばしてトンネル内の奥へと押しやり………天井がガラガラと崩れていったため、上から覆い被さる。

 大雨のように降り注いできた瓦礫がフィールの背中にモロに当たり、鋭い痛みと僅かな血が走った。轟音を轟かせながら岩の壁が形成され、ハリーはすぐに立ち上がる。

 

「フィール、大丈夫!?」

「………ッ、大丈夫だ。軽く背中に当たっただけだ」

 

 ズキッ、と背中に来る痛みに端正な顔を歪めつつも、ハーマイオニーとロンへ呼び掛ける。

 

「ハーマイオニー、ウィーズリー! そっちは無事か!?」

「大丈夫よ! フィール達は!?」

「こっちも大丈夫だ! ………それにしても、ロックハートは馬鹿か」

 

 フィールは全身そのものが馬鹿の細胞でいっぱいなのかと、背を伝う血の感触をこの時ばかりは忘れ、額に手を当ててため息ついた。

 ロンの杖は今やガラクタも同然で、呪文を詠唱しても本来のようには放たれず、自分自身へ逆に返ってくるのだ。

 

 それが原因で―――グリフィンドールのクィディッチチームがクィディッチの朝練をしている最中、スリザリンのチームが乱入し、マルフォイがハーマイオニーを差別用語で貶した際、ナメクジの呪いを掛けようとしたロンは逆噴射で自分に呪いが掛かってしまった。

 まさかのそれが、意外な形で悪辣行為を散々行ってきたロックハートに悪因悪果という言葉をピッタリ具現化してくれた。

 

「いつもアイツは具体的に再現してくれるな。主に悪いことに関して」

「うん、全くその通りだね」

 

 ハリーは、冷ややかな笑みを浮かべながら大きく首を縦に振って全面的に同意する。

 

「ロンの杖は駄目になったけど、私の杖は大丈夫だから、ロンと一緒に岩を壊すわ!」

「わかった! 僕とフィールはここから先に進むよ!」

「大丈夫なの!?」

「大丈夫! 岩の方は君達に任せるよ!」

「わかったわ! 二人共、気を付けて!」

 

 声を張り上げながら互いの無事を祈り、ここから先は二人一組になって進行した。

 フィールとハリーは互いに無言のまま、一歩一歩歩いていく。警戒しながら奥へ進むと、ようやく前方に固い壁が見えてきた。壁には2匹の蛇が絡み合っている彫刻が施され、眼には大きなエメラルドが埋められている。

 ハリーはもう一度、蛇語で扉に向かって話し掛けたら、絡み合っていた蛇が分かれ、両サイドの壁が消えた。

 いよいよ………毒蛇の王として恐れられているスリザリンの怪物ことバジリスクと未来には闇の帝王と化して恐れられる青年によって、一連の不可解な現象を引き起こした少女がこの先に待っている。

 

 

 黒髪の少年少女はこの事件に終止符を討とうと―――一度頷き合って、覚悟を決めると、秘密の部屋へと入った。

 




【没シーン:効果音多数のワンシーン】

ハリー&ロン「「よし、お前が先に行け」」
ロックハート「ま、待て! 話せばわか―――」
フィール「ほらさっさと行けよ、顔だけ無能男が」ドガッ!
ロックハート「うわあああああああああ!!」
フィール「フー、スッとしたぜ( ・`ω・´)」
ハリー&ロン「「ナイスゥ~!Σb( `・ω・´)グッ」」
ハーマイオニー「(;゚Д゚)!!」

【新たなる犠牲者発生】
さて、薄々感付いていた人も多いと思いますが。
クシェル、トム・リドルの日記(本体)を持ってたがために新たな犠牲者となり………。
なんとか混血だとはバレませんでしたが、これからの時勢を考えると危険ポジション大ですね。
でも、フィールがいればきっと大丈夫!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。