【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
秘密の部屋に入った二人の少年少女。
何処と無く、得体の知れない不気味な空気を肌で感じ、前へ進む度に波打つ鼓動が早くなる。
左右一体となって等間隔に並ぶ蛇の柱は圧倒的で、その瞳を視界に収めたくないと無意識に思うのは、やはりバジリスクに対する恐怖心からだろうか。
薄暗い壁は二人が歩く度にその足音を嫌に反響させ、より一層緊張感を与えてくる。
最後の柱を越えた先。
そこには、巨大な石像が壁に背を見せて建っていた。
あれこそが、この秘密の部屋をまさに秘密裏に創設した―――サラザール・スリザリンの人物像だ。
フィールとハリーはスリザリンの顔を見上げていたが、ふと、下方に視線を定めると、そこには誰かの人影が映っていた。
黒いローブに、燃えるような赤毛の少女。
その少女は二人が知っている少女であり、救出対象の女の子。
「ジニー!」
ハリーは杖を投げ捨て、赤毛の少女―――ジニーの元まで、脇目も振らず駆け出し、フィールも駆け寄った。
ソバカスのある顔は不健康という言葉さえ軽いとばかりに白い。それに飽きたらず、肌は冬眠してるかのようにひんやりと冷たい。
誘拐され、石化された訳ではないのにこの生気の無さは………。
最悪な考えがハリーの頭に浮かび、どうか外れて欲しいと願いながら、その小さな両肩に手を置いて揺さぶった。
「ジニー! 死んじゃ駄目だ! お願いだから、生きていて!」
「ハリー、倒れている人を揺さぶるのは止めろ!」
フィールはハリーの行動を叱責した。
倒れている人を揺さぶり起こそうとするのは、アウト行為である。まず、傷病者(倒れている人)を発見した場合、近付く前に周囲を見渡して安全かどうかを確認することだ。万が一そこが危険地帯であったら、傷病者を安全地帯に移動してから、優しく肩を叩いたり声を掛けるなどして意識を確認するのが、救命処置の初歩的な流れである。
「ジニーの容態を確かめる」
フィールはジニーの胸に耳を当て、心臓の鼓動が動いているかを確認した。
「………大丈夫。鼓動は動いている。だけど、体温を全く感じられないし、呼吸も弱い」
駄目元でもいいからフィールは羽織っていたローブを脱いで寒威に対抗する『暖房呪文』を掛けてジニーの冷えきった身体に被せ、彼女自身にも掛けた。
「ひとまず、体温は上昇している。だけど、根本的なものを潰さない限り、命に危機が伴う」
フィールはスッと立ち上がると、ハリーとジニーに背を向ける。そして、柱へ向かって鋭く問い掛けた。
「そうだろ? トム・マールヴォロ・リドル?」
すると―――彼女の問いに応えるかのように、一人の背が高い少年が現れた。彼はハリーが先程投げ捨てた杖をクルクルと弄びながら、ゆっくりと近付いてくる。顔立ちはハンサムで、初見の人ならばその見た目に魅了され、警戒心を和らげてしまうだろう。
だが、この二人は違う。
ジニーを操っていたご本人様が、今、目の前に平然とした態度で立っているのだ。
ハリーは怒りの表情を見てわかるほどに滲ませながら片膝をつき、武器を握り直したフィールは蒼の瞳に激怒を宿しながら、低い声で問う。
「トム・リドル………いや、ヴォルデモートと言った方がいいか。1年ぶりだな?」
「ああ、本当にだ。随分と成長した姿を見せてくれるじゃないか」
黒髪の少女は皮肉げに笑うが、その眼は一切笑っていない。対し、黒髪の少年も嗤い返し、微かに紅が混じった黒の瞳からは蔑みの感情が容易に読み取れる。
スリザリン所属の文武両道の美男美女は互いに眼光炯々としてその両眼を射抜き、両者一歩も譲らずの瞳で見えない気迫を押し合う。
ハリーは常人を逸する二人の迫力に身震いしたが、それに屈しないよう、周章する精神を奮い立たせた。
―――トム・リドルもといヴォルデモートは、一連の事件の真相を語り始めた。
これまでの一連の事件の犯人は、ジニー・ウィーズリーだと。
彼女は何処からかトム・リドルの日記を手に入れ、そこに様々なことを書き込んだ。
偉大で有名なハリー・ポッターが自分を好きになってくれることは絶対にないだろうと言う淡い恋の悩み。
兄達にからかわれ、どうすれば子供扱いすることなく接してくれるかと言う兄妹の悩み。
おさがりの物で学校生活を送り、それを他寮の生徒から馬鹿にされてとても憂鬱だと言う家庭の悩み。
しかしそれらは、知らぬ間にトムに魂を与える行動であった。
大なり小なり、心の闇を渦巻かせる苦悩を注げば注ぐほど、トムは力を得、挙げ句の果てに実体化出来るほどまでに達し―――今度は逆に、ジニーに自分の魂を注入した。
そうすることで、
「………………ふざけるな」
トムの説明が終わるが否や、フィールは血の底から這い上がってくるような低い声を発し、杖を強く握り締める。
「何の罪も無い人を玩具のように扱ってきたヤツが、何故そんなふざけた発言を清々しく言えるんだ?」
フィールは人間を使い捨ての道具のように見てきた人間に対し、言い様のない嫌悪感を覚える。
今すぐにでもコイツを殴り飛ばしたい衝動に駆られるが、感情のルーズコントロールは自分自身を見失う。
そうなってしまったら、護れるものも護れなくなる。故に、沸き上がる激昂を抑止した。今は激情に走る暇はないと。終わった後で気が済むまで文句を言えばいいと、精神を束縛する。
「流石はエルシーの血を継ぐ者だな。あの女と似た出で立ちだ」
トムの口から、母方の祖母の名が出される。
フィールの眼が、一瞬だけ蒼く鋭く光った。
「………私の祖母と同級生だったんだよな、アンタは」
「そうさ。今や有名人となったエルシーとはね。彼女の力は本当に凄かったよ。ヴォルデモート卿として魔法界の愚民共から恐れられたこの僕に真っ正面から反発した上に、幾人もの魔法使い達を護り抜いたんだからな」
だけど、とトムは邪悪な笑みを浮かべ、ニヤリとしながら、勝ち誇った笑みを貼る。
「最後に勝ったのはこの僕さ。やっとのことでエルシーを殺してやったよ。あの女は何度も僕の計画を邪魔するから、やむを得ずね。でも、僕はなんとも思っていないよ。なんて言ったって、僕からすればエルシー・ベルンカステルという存在はただの邪魔者という認識でしかないんだから」
トムはゲラゲラと嗤い事を上げる。
フィールとハリーは憤慨した。
人の命を奪うことを平気でやってのけられたこの男へ、言い様の無い嫌悪感を覚える。
二人は肩越しから、巨大な石像の足指の辺りの床にある黒い日記を振り返った。
行方不明となっていたトム・リドルの日記があんな所にあると言うことは、やはり、本体を取り戻すために手持ちしていたクシェルをバジリスクに襲わせたのか。
そして、アレを破壊しない限り………ジニーの命が危ない。
「
二人の動きを俊敏に察したトムは咄嗟に『呼び寄せ呪文』で命を繋ぎ止める分霊箱の一つであり実体化を維持するための主要物の日記を自分の手元に持ってこさせ、難を逃れる。
―――マズい………よりにもよって本人の手に戻った! このままじゃ………!
フィールとハリーに、焦燥が駆け抜ける。
あの日記を破壊しないと、ジニーが死んでしまう!
しかも、バジリスクが健在するこの戦況をどう突破すればいい………!?
敵の手前、ポーカーフェイスは崩さない。
だが、内心は大いに焦り、頭を絞らせる。
(落ち着け。焦れば焦るほど、勝機は失う! 冷静になれ。そして、不本意な現状を打破する手段を考えろ!)
周章する自分を叱責するように、心で叫ぶ。
此処で諦めたら、皆に合わせる顔がない!
本体が本人の元にあるだけだ。
何処に焦る必要がある!
「おや? 顔付きが変わったね?」
「ああ。お前を今此処で倒す。この手で」
「果たして、それが君に出来るかな!?」
トムとフィールは同時に杖を相互に向け、
「「
黒髪の少年少女の杖先から殺戮効果を帯びた緑色の閃光が一直線に迸り、中間地点で衝突し、火花を散らした。
どちらも譲る気は殊更無い、激しい押し合い。
ハリーは肌でビシバシとその凄まじい力の格差を感じつつも、杖を持っていないことから、何も出来ないのかと下唇を噛み締めていた、その時だ―――。
真紅の羽毛に孔雀のように長い金色の尾羽と爪と嘴を持つ白鳥ほどの大きさを誇る鳥が、この緊迫した秘密の部屋へ乱入してきた。
ダンブルドアのペット・
フォークスは何かを咥えており、ハリーの手にそれを落とした。
それは、新入生組分け時のみに使用されるあの古ぼけた帽子―――組分け帽子だった。
「これは………組分け帽子?」
この時だけ、ハリーは眼前の緑の光と光でぶつかり合っている二人から意識が逸れ、疑問符を顔に浮かべつつ、不思議な重さが伝わったことから帽子の中に手を突っ込んだ。
すると、どうだろう。
眩い光を放つ白銀の剣がその姿を顕現とした。
刃は銀色に輝き、ルビーが嵌め込まれ、鍔のすぐ下には『
ハリーは明るい緑の両眼を驚異に見開かせ、手に取って見回していると………トムとフィールが杖をそれぞれ横に薙ぎ、2つのスパークはまちまちに飛んで、石像や固い床に焦げ跡となって焼失した。
トムは自分が唯一恐れている人物のペットが持ってきた組分け帽子から出てきた銀色の剣を、微かな警戒心を宿らせた眼差しで捉え、フィールは「アレは………まさか、ゴドリック・グリフィンドールの剣か?」とスリザリンの遺産と対になるグリフィンドールの遺産を見つめる。
トムはハンサムな顔を醜悪に歪ませ―――言語なざらぬ音をその口から発した。
二人はすぐにわかった。今のは
そして、サラザール・スリザリンの石像の口が開かれ、そこからバジリスクが出現したことも。
フィールはすぐに眼を閉じ、飛び込み前転の要領で別方向へ地面を転がりながら距離を取り、ゆっくりと眼を開けて肩越しから見る。
鮮緑色の体表に巨体を誇る蛇の後ろ姿を蒼の瞳に映らせ、グリフィンドールの剣を手に逃げ出したハリーを追跡したのを瞬時に悟った。
「さて、と………ハリーの始末はバジリスクに任せるとしよう。君は確か、フィール・ベルンカステルと言ったかな? エルシーの孫である君とこうして戦えるなんて、武者震いしてきたよ」
「そう。それなら私もだな。未来には闇の帝王として恐れられる存在の青年と、1対1のコンバットが出来るなんて」
不死鳥がハリーとバジリスクを追い掛けたのを確認したフィールはジニーの周囲に強固な防壁を展開し、スッと立ち上がったら、改めて倒すべき敵を見据えた。
「勝負だ、フィール・ベルンカステル!」
「望むところだ、ヴォルデモート!」
トムとフィールはあらんかぎりの声で叫び、並みの魔法使いには到底真似することが出来ない激戦へ持ち込んだ。
「
「
トムの杖先から出現したのは、火炎の蛇。
制御出来なければ術者さえも焼き殺してしまう深い闇の魔術―――『悪霊の火』だ。
フィールがそれに応戦するのは、銀色の狼。
魂を喰らう闇の生物を唯一退けられる『守護霊の呪文』で迎え撃つ。
衝突し、途端に消え失せる、蛇と狼。
入れ替わりに放たれる、色とりどりの閃光。
同じ黒色の髪を揺らしながら、少年と少女は実力伯仲の激闘を繰り広げていた。
「
「
トムが撃った『爆破呪文』は、フィールが造り上げた強固な壁が阻み、直撃するのと同時にガラガラと崩れ去っていく。瓦礫の山を飛び越え、今度はフィールが反撃に出た。
「
『粉砕呪文』をマキシマで強化した強力な魔法を光の速さで放つが、トムはそれを軽く躱すと、
「
こちらもマキシマで強化した『切断呪文』の流れ弾を闇雲に連発した。
「………ッ!」
フィールはそれを持ち前の運動神経で避けていくが、トムは彼女が避けた先を狙い撃ちする。
運良く身体には当たらなかったが、着ている制服の生地の部分がザックリと切り裂かれた。
「
続け様にトムは杖先から巨大な火を噴き出し、意思ある『悪霊の火』のようにその炎は、フィールへ向かって飛んでいく。
(マズい………!)
フィールはその場から走り出し、背後に迫り来る火から逃れようと、思い切って飛び込み前転をした。地面を転がったフィールはすぐに態勢を立て直そうと、地面に手をつき、身体を捻って起き上がろうとしたが―――。
「熱ッ………!」
先程地面に焼失したはずの火が少しだけ残存しており、制服の腕部分に燃え移った。フィールは慌てて杖から水を出して消火し、濡れた箇所を乾かすと、制服の焦げ跡に視線を落とす。
不幸中の幸いで軽い火傷で済んだが、もしも消火するのに遅れていたら………そう思うだけでもゾッとする。
「ちっ………流石、ベルンカステル家の者だな」
舌打ちするトムの表情は醜悪でハンサムな顔が歪んでいるが、どこか感嘆したようにも捉えられる。
フィールは額に滲み出た脂汗を拭い、再び杖を振るって進撃した。トムもそれに応戦し、二人はまたもや激戦を交える。
戦い始めてから数十分以上が経過した頃―――トムは杖を大きく振るい上げながら、ノンストップのバトルが愉しいのか、高笑いした。
「ははは! やるじゃないか、フィール!」
「誉められて光栄だな、ヴォルデモート!」
両者共に投げ合う、皮肉混じりの発言。
表面上は余裕を見せていても、内面はかなり焦っていた。
(ちっ………流石は未来の闇の帝王。格が全然違う。コイツと数年後になったら戦うかもしれないって考えると、今からでもゾッとする………)
将来を達観する、黒髪の少女。
その少女に向かって放たれる、緑の光線。
ギリギリでそれを回避し、次の呪文を撃とうとした、その時―――。
「
トムは『身体強化
平等に身体に魔力を纏った『身体強化』で、通常よりも倍の瞬発力と跳躍力でフィールとの距離を一気に縮め、彼女の腹部に杖先を突き付けて零距離からの攻撃を仕掛けた。
「!
咄嗟にフィールは『盾の呪文』を展開。
半透明のバリアが至近距離で発射した魔法をブロックしたのと同時並行でフィールは後方宙返りし、背後の床に出現した真っ黒な穴の中に消えると―――トムの背後に現れた。
間一髪『
「はぁ……はぁ………ッ」
一度戦闘の手を止めてしまえば、意識しないようにしてきた疲労や緊張がどっと押し寄せてきて身体が急速に脱力感に見舞われる。
今のフィールに、序盤戦で繰り広げた激しい戦いを続行出来るほどの余力は、もうあまり残っていない。
そろそろ決着をつけなければ、形勢が圧倒的に不利になってしまう。
『姿くらまし/姿現し』以外の手段で瞬間移動したフィールに驚いた表情を浮かべていたトムはふと顔を別方向に向けた。
フィールもそちらに視線を移せば、不死鳥・フォークスに両眼を潰されたバジリスクが大口を開けてハリーを飲み込もうとしたものの、彼が手にしているゴドリック・グリフィンドールの剣に口蓋を突き立てられ、緑色の巨体がサイドに傾き、鈍い音を立てながら床に倒れた光景であった。
バジリスクを見事討伐したハリーは、壁にズルズルとしゃがみこむ。彼の腕には、バジリスクの牙が突き刺さっていた。
バジリスクの牙には、腐食性の猛毒がある。
このままでは、ハリーの身体は蝕まれ、やがて死んでしまうだろう。彼は牙を傷口から抜き、鮮血が溢れ出す。
フィールはハリーの側に駆け寄りたいが、何分彼女にも体力の限界があり、それは厳しい。
「フィール、君はそこで大人しく見てるといい。ハリー・ポッターは死ぬ。ダンブルドアの鳥もそれがわかっているそうだ」
せせら笑いするトム・リドルを無視して、フィールはハリーの腕に不死鳥が涙を落としている場景に見入っていた。
不死鳥の涙には、癒しの力がある。
それは、バジリスクの猛毒にさえも効くほどの強力な力だ。
そのことにまだ気付いていないトムへ、フィールは顔を向ける。
「………ヴォルデモート。お前は重大なことを見落としていないか?」
どういうことだ、と言いたげな表情になったトムは、再度ハリーへ視線を走らせ―――彼の腕に傷痕が一切無いのを見て、そこでようやく気付いたらしい。
トムはすっかり忘れていた事実に、一瞬だけ身体を硬直化させた。
そして、そのチャンスを見逃すほど、フィールは甘くない。
トムの手にある日記を見ていた蒼眼を、彼の驚愕している顔に移し、スッと細めて鋭く見据えると―――
―――フィールは一度深呼吸し………床を強く蹴ってその場から飛び出して、フリーズしているトムとの距離を一気に縮めた。
「なにッ!?」
完全に不意を突かれたトムは応戦しようと身構えるが、一瞬遅く、
「
最後の余力に全てを賭け、杖先から、凄まじい熱波を放つ巨大な炎が噴き出し、その火炎は徐々に翼竜の形状となった。
フィールは分霊箱さえも破壊する絶大な威力を秘めた『悪霊の火』による奇襲攻撃を、至近距離から打って出たのだ。
トムは疲労困憊していたフィールに勝利を過信していた気の緩みと、戦闘中で初めて見せた隙から、彼女の突発的な動きに反応がワンテンポ遅れ―――気付いた時には最早声にならない断末魔を上げているのが、圧倒的だった戦況を最後の最後で形勢逆転され、無様にも敗戦したのだと彼は認めざるを得なかった。
やがて、耳をつんざく絶叫が止まったと思い、伏せていた顔を少しだけ上げてみると―――そこにトム・リドルの姿は何処にもなかった。
「はぁ………はぁ………ッ」
学生時代の闇の帝王とのコンバットに打ち勝ったフィールは、次は安心感からの急速な脱力感に身体が見舞われた。
疲れから眼の焦点が合わなくなり、意識が遠退きそうになる。けれども、唇をキツく噛み締めて肉体的な痛みで無理矢理にでも繋ぎ止める。
フィールはトムが先程立っていた場所に落ちている焼け焦げた黒い日記と若干黒焦げになったハリーの杖を拾い上げ、後者を魔法で新品同様にピカピカにすると、バジリスクからグリフィンドールの剣を引き抜いているハリーの側へ駆け寄った。
「勝った、な。この戦い」
「うん………そうだね」
荒く息をつく二人は互いの無事を喜び合い、ハイタッチし、フィールはハリーへ杖を手渡した。
「………ところで、その紅い鳥はもしかして不死鳥か?」
「うん。ダンブルドアのペットのフォークスだよ。フォークスがバジリスクの眼を潰してくれたんだ」
「そうか………フォークス、ありがとな。助かったよ」
フィールはフォークスの頭を撫で、フォークスは撫でるフィールの手に頭を擦り付ける。
ふと、二人は人の気配を感じた。
横たわっていたジニーが目を覚まし、半身を起こしたのだ。
フィールとハリーはジニーの元へ歩き、前者は彼女の周囲に掛けていた結界を解いた。
「…………ジニー………」
「あ………わ、私………」
「………無事で良かった」
フィールはしゃがんで、彼女の手の中にあるトム・リドルの日記を見て顔面蒼白したジニーの頭にポンと手を置くと―――ジニーは嗚咽交じりにこれまでのことを語り出した。
最初は何も自覚していなかったことが、いつしか疑念の怯えへと変わっていき、だんだんと自分の行動に気付いていくようになった。
誰かに打ち明けようにも打ち明けられず、恐怖に精神の限界を迎えて日記を嘆きのマートルのトイレに投げ捨て―――本体の日記が赤の他人のクシェルに行き着いた時、トムは自身の魂を注いでいたジニーを操って彼女をバジリスクに襲わせ、取り返した。
その際の記憶が、自分は操られていると自覚していたジニーは、ほんの僅かにトムの意識を通じて知っていたのだ。
「アンタは操られていたんだ。でも、もう大丈夫だ。ほら、早く此処から出るぞ」
「わ、私退学になる! ビ、ビルがホグワーツに入ってからずっと、この学校に入るのを楽しみにしていたのに、も、もう退学になるんだわ。パパやママが、な、なんて言うかしら!」
ジニーは涙を眼に光らせながら叫んだ。
「馬鹿言うな。無事だったのを喜ぶのはわかるとして、なんで戻って来たんだって怒る
軽く叱責しながら、ジニーの頭を優しく撫で、落ち着かせる。ジニーはわあっと泣き、フィールの胸に顔を埋めて抱きついた。二人は顔を見合わせ、「泣き止むまで待とう」とアイコンタクトを交わし、フィールはジニーの背中に腕を回して優しく撫でた。
♦️
―――瞼が、酷く重い。
力を入れているつもりだけど、それでも、開かなくて。
身体はまるで深い水の中を歩いているかのように重く、必死に足掻いていると、淀んだ沼の中から這い上がってくるような感覚と共に―――クシェルはゆっくりと、瞼を開いた。
まず、視界を埋め尽くす白い天井が眼に飛び込み、数秒間はそれを茫然自失で眺めていたが、ハッと何かを思い出したかのように勢いよく跳ね起きた。
そうだ! 自分はバジリスクに襲われたんだった! そして、それを操っていたのはあの赤毛の少女………ウィーズリー家の末っ子、ジニー・ウィーズリーであった!
そこまで考え、クシェルはバジリスクの瞳を窓越しから見た時のことが頭に浮かび、サッと顔を青ざめる。今、この瞬間にもあのスリザリンの怪物が存在していたら、とクシェルは早く医務室を出ようとしたが、いきなり起き上がったためか、身体のあちこちが悲鳴を上げ、満足に動かせなかった。
「無理に動こうとするな」
「え………あ」
掛けられた声に顔を上げてそちらを見てみれば、そこには腕組みしながら壁にもたれ掛かって見下ろすフィールが居た。
着ている制服は乱れており、所々切り裂かれたり焦げ跡があったりする部分がちらほらと見られ、彼女の端正な顔には隠しきれない疲労が滲んでいる。
「え、と………フィー」
「なんだ?」
「なんで、そんな………」
「ああ………『
フィールは、簡単に説明した。
まず、石化していた生徒は全員マンドレイクによって無事に石化解除。事件解決に奔走した四人には一人200点の加点と『ホグワーツ特別功労賞』を与え―――今年の寮杯はグリフィンドールの独占となった。
学年末試験は免除され、5年生と7年生の将来的に重要性がある『
生徒に対して忘却術を使おうとしたのとこれまでの悪事が露見したロックハートはアズカバン送りは免れたが、聖マンゴ魔法疾患傷害病院の隔離病棟に入院という結果になった。
「それと………マルフォイの父親が、あの日記をジニーの私物に紛れ込ませたんだ」
今回の全ての元凶であり、クシェルが襲われる理由となった『トム・リドルの日記』。
アレはドラコ・マルフォイの父親、ルシウス・マルフォイが紛れ込ませ、理事会を脅していたのも彼らしく、それが発覚した後理事を止めさせられたとか。
そして、これまでハリーの前に現れては警告していたマルフォイ家の屋敷しもべ妖精・ドビーはハリーの機転で解放されたとのことだ。
「そっか………フィーとハリーが倒したんだね」
「………クシェル」
フィールはクシェルと目線を合わせ、謝罪した。
「………ごめん」
「え?」
「あの日記、持たせてごめん」
(あ………)
「………私、継承者の疑い掛けられてたんだな」
「………うん。私、そのこと盗み聞きして………もしも日記が『あの人』のだってわかったら、尚更フィーを避けると思って………」
クシェルはポツリと話し、フィールは重いため息を吐くと、ベッドに腰掛けた。その時、クシェルはフィールが背中に怪我をしているのを見た。
秘密の部屋へ向かう途中、崩れ落ちてきた瓦礫の山からハリーを庇った際に負った怪我である。
「フィー、背中怪我してる。じっとしてて」
クシェルは寝起き直後よりも動きやすくなった右腕をサイドテーブルに置いてある杖に伸ばし、『治癒呪文』で治した。
ついでに腕の火傷も治し、制服の乱れを元通りにする。
「フィー」
「ん?」
肩越しに振り返ったフィールへクシェルは、
「―――ありがとう」
と、弾んだ声音で感謝の言葉を述べた。
「………別に」
フィールは顔をプイッと素っ気なく背け………ベッドから降りて両膝をつくと、両腕を枕にして押し寄せてきた睡魔に抗うことなく、フッと眼を閉じた。
規則正しい寝息を立てているところを見ると、どうやら本当に寝てしまったらしい。
「全く………他人に無関心なクセしてクシェルのことになるとまるで違うんだから、別人みたいだわ」
やや呆れ気味に、それでもってどこか温かみのある声が聞こえ、クシェルはフィールから視線を外すと、同級生のダフネが医務室の扉を完全に開け、こちらまで歩いてくるのが見えた。
「あ、ダフネ………」
「クシェル、身体は大丈夫かしら?」
「うん、大丈夫」
「ならよかったけど………ホント、この娘ってバカよね」
「え? それはどういう―――」
ため息つきながら寝ているフィールを見下ろすダフネに、クシェルが尋ねようとすると、
「クシェル、目を覚ましたのね」
遅れて、先輩のアリアが安堵の表情で医務室に入ってきた。
「アリア先輩………」
「クシェルが目を覚ましてよかったわ。皆心配してたわよ。特にフィールはね」
「あ、はい。えと、ダフネ、それでさっきのはどういう………?」
「フィールったら、校長代理のマクゴナガル先生の寮に戻れっていう放送を無視してハリー・ポッター達よりも真っ先に『秘密の部屋』に向かったのよ。ポッター達もそうだけど、この娘が一番バカよね」
ダフネはやれやれと肩を竦め、クシェルは明るい翠の眼を見開かせた。
「とにかく、クシェル。貴女が居ないとフィールはバカになって無謀な行動を取るわ。そうならないように、しっかり面倒見なさいよ」
「それだけ、クシェルのことを大切にしてるってのがわかるけどね」
ダフネとアリアは去年までの冷血さは何処に行ったんだと言わんばかりに笑った。
「それじゃ、私達は戻るわね」
「うん。お見舞い、ありがとう」
ダフネはすやすや寝ているフィールを起こすのを躊躇い、今はそっとしておこうと、身体に毛布を掛けたら、アリアと共に医務室を出ていった。
「………………」
二人が退室すると、静けさが訪れる。
クシェルは扉から下に視線を落とした。
安らかな寝顔を浮かべるフィールを見ると、スリザリンの継承者を討伐したとは到底思えないなとクシェルは感じる。
それから、思い切ったようにクシェルはフィールをグッと引き上げると、自身の胸に顔を押し付けて、身体を後方に傾かせた。
(軽すぎでしょ………)
女の子なので体重は軽い方だろうが、フィールはそれ以上に軽い。
引っ張り上げた感がゼロである。
怪訝な面持ちになりつつ、クシェルは起きる気配が無いフィールを見る。
少しばかり目を覚ますかもしれないと危惧したのだが………相当疲れているのか、相変わらず年齢相応かそれ以下の可愛い寝顔を、クシェルの胸を枕にして保ったままだ。
(ホント、寝顔可愛いなぁ………それに温かい)
ぬくもりに溺れるよう、眼を閉じる。
密着しているから、凄く温かい。
フィールの体温を感じているクシェルの耳に、規則正しい寝息が聞こえてくる。
ゆっくりと眼を開け、彼女の黒髪を捉える。
黒色の髪から甘い香りが漂い、クシェルの鼻腔をくすぐった。
(あー………なんか私も眠くなってきた………)
深い眠りに落ちているフィールを見ていたら、自分も凄まじい眠気に襲われた。
欠伸を一つし、寒くならないよう先程ダフネがフィールに掛けていった毛布を自分達に被せてから、最後に彼女の髪を優しく撫でると、クシェルは意識を手放して、重い瞼をフッと下ろした。
医務室を出たアリアはダフネと別れ―――別方向に視線を向ける。
そこに居るのは、フィールの姉・クリミアだ。
クリミアは壁に背を預け、腕組みしている。
「クリミア、入らなくていいの?」
「今はあの娘達だけにしておくわ」
「そう。貴女の妹、私の後輩に取られたわね」
からかい半分にアリアが言うと、
「フィールが友達を大事にして、嬉しいわよ」
だが、その言葉とは裏腹に、温和そうな顔の彼女が浮かべている表情は険しかった。
「フィールとあのグリフィンドール生三人が事件を解決したそうだけど………あまりにも無謀で、命知らずとも言えるわ」
彼女らは2年生と言う下級生だ。
だが、黒幕を倒したり怪物を倒したりなど、一般生徒よりも遥かに強い。
しかし、クリミアが述べた通り、勇気と正義感が人一倍ある行動だが、同時に無謀かつ命知らずの行為とも言える。
「………帰ったら、とことん説教ね」
クリミアは、深く息を吐く。
それは、愛する妹がもしかしたら自分の前から突然消えてしまうのではないかと思わせるようなことをした彼女への咎めであり、無事に生きていることへの喜びでもあった。
♦️
長かった恐怖の日々を乗り越えたホグワーツ生全員を乗せたホグワーツ特急はキングス・クロス駅へ到着した。
それぞれの友人に挨拶をし、改札口を出た黒髪の少女と水色髪の少女を出迎えた黒髪の男女は痛いくらいに二人を強く抱き締めた。
「フィール、クリミア! よかった、本当に!」
「冗談抜きで寿命が縮まったわよ………!」
叔父のライアンと叔母のエミリーが今年は迎えに来てくれ、ライアンは妻と子供二人と生活するためにフランスに建築させたベルンカステル邸に二人をそのまま連れていった。
ベルンカステル邸に着くと、ライアンの妻セシリアと、双子の兄妹ルークとシレンが心配そうな顔で駆け寄り、それぞれ二人をハグした。
「ああ、本当によかった………クリスマス休暇中とイースター休暇中は気が気じゃなかったわよ」
「………ごめんなさい」
クリミアは申し訳なさそうに答え、セシリアはホッと一息つくと、彼女を更に強く抱き締めた。
一方、フィールは同じベルンカステルの血を引く従兄のルーク従姉のシレンとは久々に会ったのだが、二人は会うが否や、フランス人の母親の血を引いているためか………従妹の頬に何度も口付けを落とし、彼女を戸惑わせた。
「………流石に何度もしすぎじゃないか?」
フランスの方では親しい人や家族などといった相手との距離を示す証明書のようなものでビズ(習慣・挨拶の一種のキス)をするため、やはりと言うかなんと言うか………この二人は、母親の血も強く引いていると、改めて認識した。
父親譲りの右の金色の眼。母親譲りの整った顔立ちと金髪、左の空色の眼。
双子の兄妹・ルークとシレンは、両親の特徴をしっかり受け継いでいるのだ。
「いいだろ、久し振りに会うんだから!」
「ええそうよ! 別にいいじゃない!」
フランス語ではなく英語で伝えてきたルークとシレンに、フィールはそのまま母国語で返す。
「………ありがとう」
ルークとシレンは身体を離すと、双子の兄妹と入れ替わるようにフィールの色白の頬をセシリアのたおやかな手が包み、安心したような眼差しで見つめた。黒髪の少女の蒼い瞳に、金髪の女性のセルリアンブルーの瞳が映る。
「何があったのか、話してくれない?」
セシリアにそう訊かれ、フィールとクリミアはやっと本題に入ることが出来た。そうして、全ての出来事を話し終えた頃には夕方になっており、今日は此処に泊まるよう言われた二人はお言葉に甘えることにした。
「フィール」
夕食を食べ、誰も居なくなったのを見計らったクリミアはフィールを部屋に呼んだ。そうして、二人だけの空間になったら、クリミアはフィールを叱咤した。
「貴女が秘密の部屋に向かったって知った時は、本当に心臓が止まったと思ったわ」
「………っ」
「一歩間違えたら貴女が死んでいたかもしれないのに、無茶ぶりするなんて、ただの命知らずの馬鹿がやる事よ」
基本的に温和な性格のクリミアだが―――怒った時の威力は、友人の命を奪われそうになった際にフィールが見せる激怒と匹敵する。
静かな声だが、その声にはフィールにとって充分すぎるほどの迫力が孕んであり、言葉を口にしようにも、喉の奥に引っ込んでしまった。
「………でも、最後はこうしてちゃんと戻って来て、本当によかったわ」
一通り説教したら、クリミアはそれまでの厳しい面持ちから一変、神秘的な光を宿す紫の眼に涙を光らせながらフィールをギュッと抱き締めた。
「………ごめん」
フィールは、どれだけクリミアに心配を掛けてしまったのかを知り、申し訳ないと思うのと同時に、自分にとって彼女の存在が何よりの居場所であり、帰るべき場所なのだと、愛する姉のぬくもりと香りを肌で感じながら、抱き締め返した。
【没シーン:早期決着】
トム「かくかくしかじか………」
フィール&ハリー((話なっが………もうどーでもいいわ))
トム「そういう訳で―――」
フィール「ハリーρ(・ω・、)ニッキチョウダイ」
ハリー「うん(; ・`ω・´)ニッキポイッノ⌒○」
トム「ああっ!? !!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ!! ちょっとちょっと待って待って待っ―――」
フィール「うるさい、黙れ( ・`ω・´)」
ハリー「またね、バイバイ( ・`ω・´)」
フィールは悪霊の火を放った!
トム・リドルは完全消滅した!
フィール「よし、帰るか(ゝω・´★)」
ハリー「うん、帰ろう..゚+.(・∀・)゚+.゚」
こうして、話長いゴーストはこの世から滅せられ、学校の平和とジニーの命は救われたのであった(♪チャンチャン)。
【パリエス(城壁)】
名の通り、壁を造り出す呪文。
原作既存の呪文ではありませんが、まあ誰でも簡単に造れるでしょう。だって壁を思い浮かべればいいだけなので。
一見地味なように見えて、広範囲で攻撃を防いでくれるし場合によっては自分の周りに造出も可能だから、実は意外と幅広く使える魔法。
【インフェルノ・フィニス(終焉の業火)】
作者オリジナルの『悪霊の火』のスペル名です。悪霊の火ってなんか無言呪文らしいけど、呪文って口にした方が威力高いらしいし、まあ、これはいっかな?
【セシリア・ベルンカステル】
金髪空眼。フランス人。ハッフルパフ出身。ライアンの妻でルークとシレンの母。
セルリアンブルーはラテン語で空色の意味なので空眼と表記してます。ま、セルリアンブルーの瞳って表現が好きですけどね。
【ルーク&シレン・ベルンカステル】
金髪オッドアイ(空・金)。ボーバトン生。双子の兄妹。イギリス人とフランス人のハーフ。フィールの母方の従兄と従姉で2歳年上。クリミアより1歳年下。母親譲りの美貌と金髪、左の空眼。父親譲りの右の金眼。
【秘密の部屋編終了】
はい、2章も無事終了です。
本章ではフィールの叔母・エミリーが初登場しました。顔は姉のクラミーや姪のフィールと似てますが、金瞳は兄のライアンと同じです。
ルークとシレンについては、前作では名前とハーフってことだけが情報だったので、ここでやっと見た目が明らかになりました。
他校のオリキャラも出したかったことから、ルークとシレンがハーフキャラだってことをより印象的にするためオッドアイに。
この二人は4作目で登場数多くなるので、その時までお待ちを。
さて、次回からは『アズカバンの囚人』編。
第3章へ続きます。また見てね、バイバイ。