【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
「―――お父さんを殺さないで………!」
冷たい空気。鉄の匂いが漂う周囲。
齢5歳の少女には酷な現状で、さっきから次々と変わり起こる出来事に頭が追い付かない。
だがしかし、これだけはわかる。
突然現れ、襲来してきた魔法使いが父を殺そうとしている。だから………嫌になるほど、辺りは鉄の匂いが充満し、目前にいる父は大量の紅い液体を流している。
少女は眼に涙を光らせながら、決死の頼みで黒いローブを纏った魔法使いと父の間に割り込み、前者に呼び掛けた。でも………敵の耳に、少女の言葉は届かない。
男は握り締めていた細長い杖を振るい―――その杖先から、黒くて禍々しい、槍のように先が尖った閃光が走り、その一筋の光は、黒髪の少女目掛けて迸った。
♦️
「………―――ッ!!」
まだ夜明け前の、薄暗い部屋の中で。
ガバッと、勢いよくフィールは跳ね起きた。
寝起き早々、酷い吐き気や頭痛に悩まされ、身体全身から脂汗が噴き出しているのが、気持ち悪い。
荒い息遣いと共に、辺りを見渡す。
ぼんやりとしていて見えにくいが、壁に掛けてある時計を見て時刻を確認してみると、夜が明けるまであと数時間だった。
「はぁ………ぁぁ………」
苦しそうな呻き声を漏らしながら、フィールは身体を再びベッドに委ね、ワイシャツ越しに左胸を押さえた。
胸の奥が痛い。
動悸が早くて………苦しかった。
「………ッ………」
………偶然見た訳ではない。
これは本当にあったことだ。
数年前、危うく………。
その時、フィールは頬を伝うものの存在に気付いた。
「………涙?」
温かくも、冷たい雫。
泣くほど嫌な夢だったのかと、薄暗がりの室内で自嘲気味な笑みを浮かべ、フィールは横方向に視線を走らせる。
この部屋で同室なのはクシェルだけだ。
クシェルが起きなかったのは幸いだったと、フィールはベッドから降りようとして、毛布が掛けられているのに気付いた。きっと、クシェルが掛けてくれたのだろう。
寝起き直後の寝惚けが解消されてから、フィールは記憶を辿っていった。
昨日、吸魂鬼がホグワーツ特急を抜き打ち調査して襲ってきたので、有体守護霊で退散。
その後、クリミアと共に残存してた連中も追っ払い………列車は無事に発車、アクシデントは挟みつつ、ホグワーツに無事到着し、顔色が悪いのをソフィアとアリアに指摘されて、新入生歓迎会パーティーは欠席して一足先に部屋に行き―――疲労が蓄積していたフィールは体力の限界を迎え、制服を着たまま眠りに落ちた。
「全く………もっと………シャキッとしないと」
スリザリン寮に配備されている女子用の大浴場に行ってさっぱりしようと、フィールはクシェルを起こさないように新品の制服を持ってそっと部屋を後にした。
暁闇というのもあって、談話室にはまだ誰も居らず、当然ながら脱衣室にもひとっこ一人居なかった。
フィールは汗を吸って重くなったワイシャツや下着を脱ぎ、タオルを巻いて浴場に足を踏み入れる。そして、迷いや不安を全て洗い流そうとシャワーのお湯を頭から勢いよく浴びた。
身体と髪を洗い、少し湯船に浸かったフィールはバサバサとタオルで全身に纏わりつく雫を拭きながら制服に着替えようとして、ふと、脱衣室に設備されている鏡に映る自分を見た。
皆からは「ご飯ちゃんと食べてる?」と心配されるほど痩身らしく、「肌が綺麗」とも言われるのだが………フィール本人は、そういった自覚がない。
これが他人への嫌味とかではなく本当に無自覚なのだなら、周りからすると
「………………」
パッと鏡から顔を逸らし、フィールは制服に着替え始めた。
………大丈夫だ。
自分は『あの日』のことを乗り越えているはず。
だから、何も恐れる必要はない。
強くなるために………長年、魔法の練習や勉強を積み重ねてきたんだから。
制服に身を包んだフィールは部屋に戻ると、力無くソファーに座り、横になった。心もそうだがなによりも身体が重くて動くことすら億劫なのだ。
「………このままでは………ダメ………」
―――自分はベルンカステル家の現当主なのだから。
辛く、苦しい時は………心が折れそうになる時はそうやって励まし、奮い立たせた。
だけど………見えない圧力に心が圧されるのにはどうしても抗えなくて。
フィールは顔を上げることなく、残存する眠気に迫られ、それに身も心も任せてフッと瞼をおろした。
―――次に目を覚ました時には、あの悪夢を綺麗さっぱり忘れていることを願いながら。
♦️
普段は早起きのフィールが起きた後に起床するクシェル。
いつもの時間帯に起きたクシェルは、何故かフィールの姿が見当たらないなと、ベッドから降りて部屋の中を見回し―――ソファーで寝ているフィールを見つけた。
昨夜は確かにベッドで寝ていたのにソファーで寝ているということは、一度起きたけど場所を変えてまた寝てしまったのだろうか。
とりあえず、まずは着替えようとクシェルは寝間着を脱ぎ、制服に着替え終えたら、最後にローブを羽織る。
そして、珍しく寝過ごしている友人の身体を揺さぶった。
「フィー、起きて、フィー!」
「………ん…………」
身体を揺さぶられる振動にフィールは重い瞼を開き、クシェルの翠色の瞳を捉えた。
「………ああ、クシェルか……」
「珍しいね、二度寝するなんて」
「………そうだな」
「こんなところで寝るなんて、昨日はあまり寝られなかったの?」
「………まあ、ちょっと………」
夜明け前よりも幾分楽になった身体の半身を起こし、目元を擦る。まだ全身は倦怠感に見舞われていたが気合いで乗り切り、立ち上がって壁に掛けてあるローブを取ろうと歩くが、なんとなく、ふらふらしているようにクシェルには見られた。
「大丈夫? もしかしたら、昨日の疲れが溜まってるんじゃないの? 今日は無理しないで、医務室で休んだ方がいいんじゃない?」
「大丈夫だっての。寝起きでまだボーッとしてるだけだから」
フィールはローブを羽織りながら普通に答え、ショルダーバッグを手にすると、一瞬だけ身体をよろめかせて部屋を出ていった。
クシェルはそれを見逃さなかったため、慌ててショルダーバッグを手にすると、フィールの後を追い掛けた。
「ちょっ、待って! やっぱりフィー、体調悪いんじゃないの!」
「………さっきも言っただろ。寝起きだから、若干気だるいだけだって」
そう言っているフィールの端正な顔は、微かに血色が悪い。明らかに、寝起き後の怠さとは別で体調不良なのがわかる。
「………フィー、嘘つくのは止めて。顔色は蒼白してるし、吐く息も荒い。あからさまに、身体に異常が起きてるって証拠でしょ」
「………ッ」
図星を突かれ、フィールの瞳は気付くか気付かないかの微妙な程度で揺れた。が、瞬く間に平常に戻し、無表情という仮面を貼り付ける。
「………別になんともない」
素っ気なく返答し、早足で通り過ぎていく。
クシェルはため息をつき、どこか遠い眼で彼女の背中を見ながら、歩みを進めた。
大広間に辿り着くと、スリザリンのテーブルが朝っぱらから嫌に盛り上がっていた。
その訳は、同僚同輩のドラコ・マルフォイを中心に見れば一目瞭然だった。どうやら彼が吸魂鬼によって気絶したハリー・ポッターの物真似をしそれをスリザリン生が爆笑するというものだ。
とにかく、非常に煩い。
フィールとクシェルは顔をしかめた。
「鬱陶しいな………」
唯でさえストレスを抱えてイライラしていたのに、更に精神を刺激してくる出来事が起きれば流石のフィールも不機嫌になってしまう。
フィールは舌打ちし、マルフォイに近寄った。
「おい、マルフォイ」
フィールの声に、マルフォイは振り返る。
「なんだ、ベルンカステル」
「朝っぱらからそんなくだらない真似するなよ、朝食が不味くなるだろ」
と一言言うと、フィールはマルフォイとは遠く離れた席に座った。隣にはクシェルが居る。
フィールは朝食を口に運びつつ、昨日の列車内でやむを得ずある呪文の使用をし、それが原因でズキズキと身体のあちこちが時々痛むことに腹立たしさを覚えていた。
(………『
『破滅守護霊』は、フィールが元来の魔法にアレンジをプラスして創出したオリジナルスペルの一つだ。一般のパトローナスとは違い、殺傷不可能とされている吸魂鬼の殺傷が可能、まさに魔法界の常識を身勝手なまでにぶっ壊した創作呪文である。
しかし………退魔魔法として最強レベルを誇る反面、膨大な魔力や気力を大量に消費する。
その代償は激しく、下手すれば身体を本気で壊しかねない命懸けの魔術で、フィールは創りたての頃にこの魔法を駆使した際、瀕死状態になったことも少なからずあった。
「それにしても………ハリー、大丈夫かな?」
クシェルはグリフィンドールのテーブルを見ながら、心配そうに呟く。ついさっきマルフォイが誰の真似をしていたかと言えば、吸魂鬼の影響を受けて気を失った、グリフィンドールの英雄でスリザリンの宿敵ハリーなのだから。
「………今日の午後に『魔法生物飼育学』で会うだろうし、その時にでも様子を見に行くか」
フィールからの意外な発言に、クシェルは大きく眼を見張った。とてもではないが、基本無愛想で無関心な性格のフィールの口からそんな言葉が出るとは思わなかったため、クシェルは思わず意表を突かれた。
「フィー、変わった?」
「は? 何が?」
「性格だよ」
「性格?」
「うん。だってさ、前のフィーだったら絶対に言わなそうだし」
2年前の今日、フィールはクシェルからの「友達になろう」というせっかくの誘いを「いらない」と一刀両断にバッサリ断り捨てた。
あれから2年後の現在。
今ではなんだかんだ言いながら、友達を大切にするようになった。
「………それは気を付けないとな」
「いやいや、気を付けなくていいの! むしろそっちの方が断然いいよ!」
慌ててクシェルはそう言い、フィールはちょっと複雑そうな表情を作る。
「………ああ、そう」
冷たい声音で一言返したフィールは、紅茶を飲み干した。
♦️
午前中の授業が終わり、いよいよ生徒の不安を誘う3年度になって初めて追加された『魔法生物飼育学』の授業だ。
野外で行うとのことで、皆は『怪物的な怪物の本』を手に実施場へ案内するハグリッドの後をついていく。どうやら、魔法生物飼育学の新任教師はハグリッドらしい。ちなみにルーピンは『闇の魔術に対する防衛術』の担当だ。
「ハリー、身体は大丈夫か?」
「うん、今は大丈夫だよ」
フィールとクシェルはハリー達一行と共に道中を歩いていた。毎回の如くロンは友人二人が仲良くしているスリザリン生二人に警戒心を剥き出しにしているが、以前と比べれば薄れているような気がする。
「ねえ、フィール。
ハーマイオニーは、あまり詳細を知らない闇の生物について、あらゆる分野で博識なフィールに質問した。
「
その説明を聞き、ハリーは表情を曇らせる。
彼はフィールの隣に行き、こそっと訊いた。
「あのさ、フィール。僕、昨日吸魂鬼が近付いてきた時、女の人の叫び声が聞こえたんだ。……でも、ハーマイオニー達には聞こえなかったって。僕だけにしか聞こえなかったって。………もしかして、それって―――」
「………アンタの母親のリリーさんがヴォルデモートに………赤ん坊のアンタの命乞いをした、泣き叫ぶ声だろうな」
無慈悲なくらいに、とてもストレートで。
でも、誤魔化したりはしないで静かにちゃんと伝えてきた、フィールの言葉。
ハリーは俯き、沈黙した。
しばらくは顔を伏せていたが、顔を上げ、またフィールに話し掛ける。
「………僕、赤ん坊の時、母さんが殺されたのを目の前で見たけど………部屋の中が一瞬緑色の閃光でいっぱいになったのと、アイツが高笑いする冷たい声しか覚えていない。でも、母さんの声が聞こえてきたってことは、どこかで覚えてるのかな………」
「………多分そうだろうな。普段は無自覚でも、ふとした拍子に記憶が鮮明に甦ったり、忘れていた出来事が不意にフラッシュバックしたりする。今回のことも、そんな感じかもな」
ハリーとフィールがそんな会話を交わしていた間に、いつの間にか実施場に到着していた。そこは放牧場のようで、ハグリッドは教科書を開けと言うが、生徒達は一様に困惑の表情を浮かべた。
この本は背表紙を上にしてシャカシャカ走ったり、近くの者に噛み付こうと暴れたりするので、開こうにも開けないのだ。
「これ、どうやって開けばいいの?」
「背表紙撫でれば大人しくなる」
「え、マジで?」
クシェルは言われた通り、恐る恐る本の背表紙を撫でてみた。すると、途端に暴れていた本が大人しくなった。他の皆もそれに倣う。
「なんでフィー知ってたの?」
「エミリー叔母さんが教えてくれた」
それはさておき、流石は怪物大好きのハグリッド。初っぱなからアクセル全開で連れてきた魔法生物はヒッポグリフだ。
ヒッポグリフ。胴体・後脚・尻尾は馬で、前脚と翼・頭部が巨大な鷲の姿をしている。残忍そうな嘴と大きくギラギラしたオレンジ色の眼、鋭い鉤爪を持っている。非常に誇り高いが、短気なので絶対に侮辱してはならない。騎乗可能だが、相手が悪意がないことを示すお辞儀をし、それを認めた者しかその背に乗せない。
大方説明をし終えたハグリッドは誰が一番先にやってみせるかと生徒達を促したが、鎖に繋がれて嫌そうに首を振り動かしたり翼を広げたりしているヒッポグリフを前にして戸惑い、皆は一斉に後退し、結果的にハリーとフィールの二人だけがその場から動かなかった。
「………フィール、どうする?」
ハリーは唯一自分以外で残ってくれた友人に小声で尋ねると、彼女は嘆息した。
「………このままじゃ誰もやらなそうだし、私達がやってみるか」
「う、うん………僕達で頑張ってみよう」
ということで、二人が出した結論は前進。
ハグリッドは大喜びしたが、大半の生徒は息を呑み、残りの生徒はそれぞれ激しく嫌っているグリフィンドールの英雄とスリザリンの女王が失敗するのを拝めるかもしれないと言いたげに、眼を細めていた。
そしてハグリッドは一番綺麗だというヒッポグリフ・バックビークを群れから離して二人の前まで立たせた。
「どっち先に行く?」
「僕が先にやってみるよ」
レディーファースト、という単語はあるが、この場合はジェントルマンファーストだろうと、ハリーは男のプライド的な気持ちが働き、率先して名乗り出た。
フィールはそれを察し、一歩下がって腕を組んで待機した。ハリーはバックビークの正面に立ち、目線を合わせてゆっくりとお辞儀する。しかし、バックビークはお辞儀し返さない。
ハグリッドが心配そうにハリーを下げようとした時になってようやく、バックビークは鱗に覆われた前足を折り、深々とお辞儀してきた。
「やったぞ、ハリー!」
ハグリッドの歓喜の声と、生徒達の歓声が重なり合う。フィールもバックビークの嘴を撫でるハリーに称賛の拍手を送った。
ハリーが成功したので、次はフィールの番だ。
フィールは臆することなくバックビークの前に立ち、お辞儀をする。すると、驚いたことに早くもバックビークはお辞儀をしてきた。
ハグリッドは二人目の成功者に最早狂喜し、再び拍手喝采が沸き起こる。フィールは安堵の息を吐くと、近寄って嘴を撫でた。少し離れた場所に居たハリーもフィールに笑いかけ、彼女は微笑した。
さて、これで終わりかと思いきや、ハグリッドは成功した二人にはバックビークの背に乗って貰うと唐突に言い出した。
「「え?」」
ハリーとフィールは見事シンクロ。
二人を軽々と持ち上げたハグリッドは、あろうことか本当にバックビークの背中に乗せた。
二人は慌ててしがみつき、ハグリッドはしっかり掴まっているのを確認したら、バックビークの尻を叩いて送り出した。
「はぁ……ったく、いきなり乗せるとか……」
「でも、これは凄い楽しいよ」
「……まあ、それもそうだな」
バックビークと共に大空を飛翔するハリーとフィールは、普段は見ることが出来ない貴重な景色にハグリッドの強引さに呆れを忘れて視界を埋め尽くす、まさに花鳥風月という言葉がピッタリの世界に思わず見入った。
爽やかに吹き抜ける風が二人の黒髪を揺らし、日の光が温かくて気持ちいい。
「………暗い気持ちが吹き飛ぶな」
「うん、そうだね」
フィールの呟きに、ハリーは頷く。
二人共、憂鬱だった想いが存分に晴れて、自然と笑みを浮かべた。
「クィディッチの練習で箒に乗って飛行しても、此処まで来ることはないから、新鮮じゃないか?」
「うん。飛んだりするのは基本的に競技場だけだからね。あ、クィディッチで思い出したんだけどさ。フィールはシーカーならないの?」
「………正直なことを言ってしまえば代表選手になるのは面倒だし、あのラフプレーをどうにかしてくれないんじゃ、参加心が消え失せる」
「でも、僕はマルフォイなんかよりもフィールがシーカーになって欲しいな。君と戦うってことになる方が、ずっと張り合いが出るし」
「………光栄だな。強者シーカーから誉め言葉を貰うのは」
次第に会話内容がクィディッチ話題に移り変わり、フィールは自分が所属する寮と敵対する寮の凄腕シーカーのハリーから「選手になって欲しい」と言われ、フッと笑みを溢す。
だがしかし、実際に各寮の代表選手として対敵するとなれば、そこに友達という関係は一切無くなり、倒すべき敵という認識へ、大きく変わる。
そう思うと、こうして笑い合っていられるのはこの時のみかと、二人は内心で同じ考えを抱懐した。
そうして、途中で振り落とされることなく二人は無事に地上に降り立ち、拍手と歓声に出迎えられた。マルフォイとその取り巻き、グリフィンドール生の数人は今もさっきも酷くガッカリした様子だったが。
ハリーとフィールのおかげで怖々としながらも生徒達は放牧場に入っていく。一頭ずつ解き放たれたヒッポグリフを前にして何人かのグループに別れた。既にクリアした二人の元に友人三人が向かい、一つのグループとなった。
「ちょっとヒヤッとしたけど………無事に終わってホッとしたわよ。ていうか、フィールもやるなんて少し意外ね。なんか、スムーズに動いていたような感じがしたわ」
「叔母が『魔法省魔法生物規制管理部』に勤務しているから、魔法生物との接触の仕方とか色々教わってた」
ハーマイオニーとフィールがそのような話をしていると、不意に後者の肩をクシェルが叩いた。
「ん? どうした?」
「フィー、あれ見て」
クシェルの視線の先を見てみれば、マルフォイとその取り巻きが先程フィールとハリーが同乗したバックビークを前にお辞儀している光景だった。ハリーの近くにいるというのもあって、その彼に見せつけるように壮大な態度でバックビークの嘴を撫でている。
フィールとクシェルは、嫌な予感がした。
二人が本能的に杖を抜き出すのと同時、二人の胸騒ぎは不運にもどストライクで的中した。
「お前、全然危険なんかじゃないな。そうだろ? 醜いデカブツの野獣君」
「―――
身体が本調子でないことから反応がワンテンポ遅れたが、間一髪フィールが『盾の呪文』を発動し、展開されたそれに怒り狂ったバックビークの鋭い鉤爪がぶつかり、ガキンッ! という硬質な音が響いた。
マルフォイは青白い顔のまま情けなく腰を抜かし、派手な音の発信源に眼を向けた生徒達は突発的なアクシデントに悲鳴を上げた。
「………ッ、早くマルフォイを退かせろ!」
フィールは苦しい息を吐き、荒い声で精一杯張り上げる。
だが、誰も動くことなくその場でただひたすら周章狼狽するため、苛立ちと苦しさが彼女をどっと追い詰めた。
ただでさえ辛い身体なのだから、『盾の呪文』を長時間保つことなんて出来ない。なんとかしてマルフォイをガードしているが、次第に、そのバリアに亀裂が入り込み、いつ破られてもおかしくない現状になった。
(マズい………!)
万全ではない身体での魔法行使は厳しい。
防壁維持のために、今のフィールにとって強い集中力と精神力は欠かせない。刹那気を緩ませれば、すぐに破損してしまう。せっかく回復に向かっていたのに、また苦痛に心身共に苛まれることとなった。
ハグリッドが慌ててすっ飛んでいき、フィール達が相手していたヒッポグリフもバックビークを窘めてくれたおかげで、一大事には至らなかったが………。
防壁を展開させる必要がなくなったフィールは消失させると、ふらっと体勢を前へ傾かせた。
「フィール!」
危うく地面に倒れかけたフィールを、駆け寄ったハリーが急いで抱き留める。
クシェルも懸念したが、第一優先はマルフォイが怪我をしていないかを確認してからだと、顔面蒼白して放心状態の馬鹿をやらかした同級生の男子生徒の側へ駆け寄った。
「大丈夫!?」
「はぁ………はぁ………大………丈夫………」
一言一言を絞り出すように、掠れた声で拙く言葉を発する。端正な顔は苦痛で歪み、その額には汗が滲んでいた。身体的にも精神的にも両方共限界で、意識が遠退いてきた。ハリーに支えて貰わなければ、立っていられない。
「マルフォイ。侮辱しちゃなんねぇって言っただろうが。もしもベルンカステルが助けてくれなかったら、お前さんは怪我してるか、最悪死んでたかもしれんだぞ」
大怪我を負うのは免れたが未だに恐怖から抜け出せないマルフォイに厳しく叱責した後、ハグリッドはフィールに加点を与え、生徒達の怯えた表情を見回して、今回はここで切り上げることにした。硬直化しているマルフォイはハグリッドが運び、他の皆は慄然としたまま、ホグワーツ城へ早足でそそくさに帰る。
だが、クシェルは彼らとは反対側に方向転換すると、すぐにフィールの側へ走った。顔色が悪い彼女を見て、表情を険しくする。
「フィー、医務室まで行こう。やっぱり、体調悪いんでしょ?」
「…………ッ」
反論が出来ず、フィールは顔を下に伏せる。
クシェルはハリーとは逆の位置で、フィールを支えるようにしながら、言葉を続ける。
「夕食時間までは休ませて貰おう。ね?」
「………わかったよ」
流石にこの辛い状態を隠し通せるはずもなく、フィールは観念してクシェルの意見に素直に従うことにし―――友人二人に両サイドから支えられながらゆっくりとホグワーツ城へ戻っていった。
【ダブル主人公】
今回ちょっと距離近かった? バックビーク同乗しちゃいましたし。なんか、何気にここの主人公主人公は共通点多いですね。
同い年、黒髪、各寮のヒーローorヒロイン、防衛術の成績トップクラス、天才シーカー気質、容姿端麗、勇敢だけど時に無謀、そして悲惨な過去の持ち主。
もしかしたらハリーとフィールほど、似た者同士は中々いない?
作者的な二人の愛称は『ハリフィー』。
あれ? なんか意外とお似合い?
※『破滅守護霊』の『破滅』部分で『アグレッシブ』とルビを振りました。アグレッシブは『攻撃的』や『侵略的』などの意味ですが、言い方がカッコいいし、たまにアグレッシブと表記します。ただし本命は『破滅』です。
作者は何事もカッコよく決めたいタイプなので、どうか温かい眼差しで見てください(*´ω`*)。