【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
その日の授業も全て終え、スリザリン生はホグワーツ城の地下牢に位置するスリザリン寮の談話室に戻っていた。
いつもならワイワイ盛り上がるはずなのだが、今日ばかりは奇妙な静寂に覆われている。
間隔を取って遠目から無言で観察するスリザリン生総員の目線の先には、ソファーに腰掛けながら本を読んでいた黒髪の3年生女子生徒へ、黒髪の7年生男子生徒が冷たいフローリングで土下座し、必死こいて頭を下げている姿。
前者はめんどくさそうな表情で本をパタンと閉じてそれをテーブルに置いて腕組みし、後者は眼に涙を浮かべてただひたすら懇願するという、なんとも憐れみ深い光景である。
厳つい雰囲気を身に纏った青年―――スリザリンのクィディッチチームキャプテン、マーカス・フリントは4歳も年下の後輩、フィール・ベルンカステルへ、蛇寮の代表選手及びシーカーへのスカウトを続けていた。
「頼む、ベルンカステル! 今年こそはシーカーになってくれ!」
「そうは言われてもな………」
「もう、お前しかいないんだ! グリフィンドールのシーカー、ハリー・ポッターに勝てる可能性と希望があるのは!」
スリザリンの大敵ハリー・ポッターは箒の乗り手として、ずば抜けたセンスや天性の才能を持って生まれた。故に100年ぶりの最年少シーカーという華やかな名誉を掴み取り、デビュー戦では見事勝利を収めた。
昨年度の試合でスリザリンチームは当時最高速度を誇る箒・ニンバス2001を全員が手にしておきながらも、試合では惨敗。無様な結果と不名誉な汚名を余計作り出した。
だからこそ、チームに絶対必要となったのだ。
あのハリー・ポッターを凌駕するセンスと凄腕の操縦技術を兼ね備えた、フィール・ベルンカステルというジョーカーが。
「俺達は勝ちたい………3寮からどれだけ卑怯と言われようがなんだろうが、2年分の雪辱を今年こそは果たしたいんだ!」
マーカスは、心の叫びをフィールへ訴える。
それに続く様、彼と同じく何としてでも彼女をチームへ引き入れたい五人の代表選手もガバッと頭を下げた。
邪魔にならぬよう離れた場所から見守っていた一般のスリザリン生達は、流石にここまでせがまれたら頑なに依頼を受け入れないスリザリンの女王様も助力を貸すだろうと思った。
だがしかし、その女王様は優しくなかった。
「ああ、そう。なら、その腐った根性叩き直してから懇願してくれないか?」
「なっ………!?」
年上としてのプライドや年下に対する恥じらいを捨ててまで哀願した男の願いを容赦なく突き返す少女の鋭さと冷たさの両方を孕ませた言い合いに、彼のみならずメンバーもギャラリーも………談話室に居た生徒全員が、意想外の結論に愕然とし、瞠目した。
「卑怯と言われようが勝てればいい? 何馬鹿なことを言ってるんだ? そんなのが通じるのは実戦のみ。試合では別だ。そもそも、何故ラフプレーで試合に挑むんだ?」
「そ、それは………と、とにかく、勝てばいいんだ! 勝てば!」
「なら、一つ言ってもいいか? 殊更にラフプレーで勢力誇示しようとするのは、自信の無さの表れじゃないのか?」
「うっ………」
グサリと痛い所を突かれ、言葉が詰まる。
反論する余地もなく、また、言い返す言葉も見付からず………マーカスは、彫が濃い顔を誰が端から見てもわかるくらいに、悔しそうに歪めた。
「もしも本当に勝つ意欲があるなら、卑劣行為なんてしなくても勝てるはずだろ? 先輩達が手にしたいのは『勝利』の2文字。そして、誰が見ても認めるフェアプレーで挑み、かつ相手に圧勝してこそ『優勝』と言う華やかな結果がその先で待っているんじゃないのか?」
剣呑な雰囲気にならぬよう穏やかに、だが、その一つ一つの単語に含まれた感情や重みは、スリザリンチームの心へ響かせた。
『卑怯』だと言われる筋合いが一切ないゲームでの勝利は、どれだけの屈辱も雪辱も存分に晴らせるだろう。
スリザリンが敗北する度に浮かれる3寮のヤツらを敗北と言う名の絶望のドン底へ叩き堕とし、磨き上げてるプライドをズタズタにしてみせられるだろうか。
これまで文句を飛ばしてきたアイツらに異論することを全て封じ、それを笑い飛ばしながら、栄冠をこの手で奪取した姿を想像したら―――今までにない優越感と心残りない達成感に、身も心も溺れられた。
「………………わかった」
マーカス達は決心し、立ち上がった。
主導権も勝利も優勝も、全てはこの少女の手中にあるのだ。ならば、彼女のやりたいように従おうじゃないか。
それで勝てたのならば、もう何も要らない。
この蛇寮に―――もう一度優勝を奪い返したい! そのためならば、なんだってしてやる! 勝利のためならば手段を選ばぬ、スリザリン生としてのプライドに賭けて!!
「―――フェアプレーで試合に挑むことを、此処に誓う! そんでもって、絶対にスリザリンに優勝を取り返す!」
キャプテン・マーカスは大声で宣告。
メンバーからの不満はなく、むしろキャプテン同様にやる気に満ちているため、ギャラリーは驚異にポカーンと呆気に取られた。
「だから、頼む………シーカーになってくれ! フィール・ベルンカステル!!」
恥も迷いも全部捨て、最後の希望をこの一心に賭け、ガバッ、とキャプテンもチェイサーもビーターもキーパーも、全員が頭を下げた。
「………優勝に導けるかはわからない。だけど、私は全力尽くして、スリザリンに勝利を奪還してみせると此処に誓う」
それまで座っていたフィールはスッと立ち上がり、頭を下げていた選手六人へ力強く宣言した。
スリザリンチームは、遂に最強切り札を引いたのだ。
「………ベルンカステル!!」
マーカスは狂喜乱舞してフィールに抱きつき、勢いそのままに彼女を押し倒した。
メンバーとギャラリーは慌てて引き離そうとするが、キャプテンの耳には届かない。
フィールは離れて欲しいと身体を押し退けようにも、力は相手側が遥かに上である。
如何に学年外レベルの強さを秘めたフィールでも身体は一般人よりもずっと華奢なのだから、ガッチリ筋肉質の肉体をした男に単純な力比べでは到底敵わない。
数分後―――落ち着きを取り戻したマーカスはハッとし、背後からの殺気をビシバシ喰らいながら恐る恐る振り返ってみれば、今すぐにでも殺しに掛かりそうなほどの眼光炯々のスリザリン生達に囲まれていて、サッと顔面蒼白した。
その隙にクシェルと同僚同輩のダフネ・グリーングラスがフィールをマーカスから引き離し、それと同時に包囲していた彼らはボコボコに制裁。
スリザリン談話室に男の悲鳴が響き渡り、別の意味で賑やか日になった。
♦️
「フィー、ハグリッドはクビになると思う?」
1週間のラストを飾る金曜日。
初めて『闇の魔術に対する防衛術』の授業が行われるため、教室に向かいながら、クシェルはフィールに言った。
あの『魔法生物飼育学』の授業で起きたアクシデント。
ハグリッドの説明を無視してヒッポグリフを侮辱し襲い掛かられたドラコ・マルフォイは寸前でフィールが護り、クシェルが負傷していないかを確認してみたら、彼は別になんともなかったのだが………危険生物を連れてきて挙げ句の果てに生徒が襲撃されたという事態が起きたため、スリザリン生は皆怒りに燃えていた。
フィールやクシェルは「マルフォイの自業自得なのに」と呆れているが、他の面々はそうでもないらしく、元々あった怪物好きのハグリッドへの不信感に火がつき、口々に罵っていた。
「ならないだろ。あれはハグリッドの話をちゃんと聞かないで問題起こしたアイツが悪い。じゃなかったら、私やハリーだって怪我してる」
「フィールがそこまで言うの、なんか珍しいね」
「誰だって侮辱されるのは嫌だろ。それは例え人間ではなくても、生きる者全てが共通で抱く気持ちだ」
人間と生物は、確かに生き方も習慣も価値観も異なる。
しかし、それが世界と言うものだ。
数え切れないほどの個性や性格を持つ生物が共存する。
それがこの世の中なのだから。
「それよりも問題なのは、このことで魔法省が動かないかが心配だ」
「あー………それは言えるかも」
ドラコの父親―――ルシウス・マルフォイは魔法省に多大な影響を持つ重鎮だ。その彼の一人息子に危害が及びそうになっただけでも、魔法省が動くほどの大問題である。
「……って、教室着いたか」
「今年は持つかなぁ………」
クシェルは不安そうに呟きながら教室に入る。
一昨年は変人、去年は無能といった具合の教師が行うのが防衛術の授業なので、今年の新任教師はどうなのかと懸念するのは仕方ない。
少しして、リーマス・ルーピンが教室に入ってきた。新学期当日もそうだったが、彼の格好はみすぼらしい。が、血色は幾分良くなっている。ホグワーツでまともな食事を摂っているおかげだろう。
「やあ、皆。せっかく準備してくれたのにすまないんだが、今日は実施訓練なんだ。だから、杖だけを持って、私についてきてくれ」
そう言ってルーピンは、生徒達を手招きした。
皆は小首を傾げつつ、言われた通り杖だけを持ってルーピンの後を追い掛けた。
生徒の波に混じりながら、フィールは彼の背中を見つめる。
(………ルーピン先生か………)
9月1日―――ホグワーツ特急内で
消滅させる場面を誰かに見られてはいけないと威力を調整して吸魂鬼をギリギリ蹂躙したら、最後はノーマルに戻して追い払った。
だが………理性が勝って吸魂鬼を破滅しなかったとは言え、強襲したシーンは現場近くの場所に居たルーピンにバッチリ目撃されたに違いないと、今となっては後悔している。
あの時、フィールは精神的に色々と余裕がなかったので、周りの状況をよく見ることが出来なかった。
彼女は内心舌打ちし、これからはもう少し心に余裕を持とうと反省して思考の海から帰還してきた頃には、ルーピンが誘導してきた職員室に到着していた。
教員用の机が並べられていて横に空いたスペースに箪笥が一つ置いてあり、何故か箪笥はガタガタと震えている。
「怖がらなくていい。中に入っているのは真似妖怪『ボガート』が入っているだけだ」
ルーピンは何事もないように言っているが、その実これはかなり怖いものだ。だけど、生徒達の不安を消し去るように彼は柔らかく言う。
「ボガートは暗くて狭い所を好む。洋箪笥、ベッドの下の隙間、ロッカーの中。さて、最初の質問だ。ボガートとは、一体何かな?」
「相手の一番怖いものに変身する形態模写妖怪」
フィールはさらりと問題に答えた。
ボガート自体はそんなに珍しくはないため、魔法族の者ならほとんどが知っている。
「その通りだ。だから、暗い場所にいるボガートはまだ何の姿にもなっていない。箪笥の中では、誰が何を恐れるかを判断出来ないからね。ボガートが独りの時、どんな姿をしているかは誰も知らないけど、外に出た途端に皆がそれぞれ怖いと思うものに姿を変える」
ルーピンの簡単かつ簡潔な説明はとてもわかりやすく、生徒達の間でどんどん好評が高まっていった。
「しかし、有利なのは私達の方だ。なんと言っても数が多い。一番いいのは、誰かと一緒に居るのがいいんだ。なんでだかわかるかい?」
「ええっと、誰の怖いものに姿を変えればいいかわからなくなるからですか?」
「その通りだ、クシェル。ボガートは複数の人の怖いものには姿を変えることが出来ない。相手の恐れる姿に化けることは確かに出来るけど、それが可能なのは一人の人間に対してのみなんだ」
ルーピンはクシェルの回答に補足説明をしてくれた。どうやら今年の新任教師はまともだと、誰もが確信した。
「ボガートを倒すことは非常に簡単。だが、これは精神力が必要とされる。コイツを倒すのは『笑い』なんだ。君達は、ボガートに滑稽だと思える姿を取らせる必要がある。さて、まずは杖無しでの練習だね。私の後に続いて言ってごらん………
「「「「「「「
ルーピンに続いて皆が一斉に唱え、彼は満足そうに笑った。
「よし、とても上手だ。だけど、呪文だけじゃまだ足りない。そうだな………クシェル、ちょっと来てくれるかな?」
「え? あ、はい………」
クシェルは急に指名されておずおずと前へ進み出るとルーピンは安心させるように肩に手を置きながら、彼女にチュートリアルをして貰おうと、恐れるものを尋ねる。
「君の一番怖いものは何だい?」
「あ、えっと……………バジリスク、です」
言いにくそうに、クシェルは呟いた。
バジリスク、と聞きスリザリン生はビクッと震撼する。
昨年、四六時中何処に居ようと常に警戒心を解くことが許されなかった日々の元凶
何人もの被害者を出し、クシェルはスリザリン生唯一の犠牲になった。2年前にトロールに襲われて命を落としかけたこともトラウマなのだが、それを遥かに上回る恐怖の体験として1年が経過した今も、彼女の心には深い爪痕として残っているのだろう。
「バジリスクか。わかった。バジリスクの一番怖いものは眼だね。ところでクシェル。好きな動物はいるかい?」
「はい? 好きな動物? えーと、犬です」
「よし、ならこうしよう。まず、私が箪笥を開けたらボガートが出てきて、バジリスクの姿に変身する。君は呪文を唱えながら、犬の眼をしたバジリスクを強く念じる。いいね?」
バジリスクが犬の眼になる。
クシェルはそれを想像したのか、ふはっ、と吹き出し、周りも釣られて笑った。
「クシェルが上手くやっつけたら、ボガートは君達の方へと向かうだろう。今の内に考えておきなさい。自分の一番怖いものが何であり、どんな姿にさせるかを」
その言葉に、教室内は静寂に包まれる。
―――自分が怖いと思うものは何か。
皆、恐怖の記憶を思い返しているのだ。
フィールも他生徒同様、黙想する。
………ハッキリ言ってしまえば、恐怖の感情を抱いている自分自身が屈辱的であり、そして腹立たしい。
だが、真に強くなりたいのならば、弱さをこの眼に焼き付け、胸に深く刻んでこそだと、フィールは片っ端から脳内に浮上させた。
(………怖いもの………か………)
………定まらない。この胸に刻まれている、嫌な思い出もトラウマも。それらがごちゃごちゃになり、一つだけに絞り込むのが難しかった。
フィールはまだ定まらなかったが、ルーピンは合図と共に箪笥を開け、中から毒々しい緑色の体表で巨体のバジリスクが出てきた。生徒達は本能的に眼を閉じ、クシェルも蒼白して一瞬喉を鳴らしたが、すぐに気を取り直し、
「
杖を振り上げ、呪文を詠唱。
バジリスクの恐ろしかった黄色い瞳が子犬のような可愛らしい瞳になり、実にアンバランスで爆笑ものである。室内に笑いが広がり、ルーピンも笑みを溢す。それから次々と生徒達は皆それぞれ怖いものを滑稽な姿へ変えてみせ、爆笑の渦を生み出していたが………。
「よし、フィール。次は君だ」
ルーピンはフィールを指名。
スリザリン生は一斉に注目した。
学年首席で教師とタイマン出来る唯一の生徒、と評されている彼女が恐れるものは一体何になるのだろうかと、好奇の眼を向ける。
フィールがゆっくりと前に進み出ると―――
「―――ッ!」
そこに立っていたのは―――銀髪蒼眼の背の高い男が立っていた。凄まじい形相で、狂気と絶望で見開いた両眼で目の前のフィールを睨み付けている。
「なっ…………」
フィールが恐れるもの。
それは、自分達の知らないある一人の男性と言うことにスリザリン生全員は思わず絶句し、ルーピンは驚愕の表情でフィールと銀髪の男を見たり来たりする。
やがてボガートが変身した男は、口を開いた。
「お前のせいで、兄さんは………!」
………兄さん?
それって―――私のお父さんのこと?
「お前が………お前が………!」
そして銀髪の男はあらんかぎりの声で叫んだ。
「―――お前が死ねばよかったんだ………!!」
(私が………死ねばよかった………?)
フィールは後ずさる。
脳裏に、墓場での出来事が甦る。
数年前、父の葬儀で泣いていた自分を誰かがドンッと突き飛ばしてきて―――。
「………ッ………!」
フィールは身体を震わせ、ドクリ、と心臓が高鳴った。激しく脈打つ度、鮮明に記憶が甦り、頭痛や嘔吐が迫り、首筋と額に冷や汗が流れる。
(止め……て………もう……止めてよ………)
如何に目の前に立っている銀髪の男が本物ではないとは言え………これまであまり意識しないように生活してきたフィールにとっては、十分過ぎるくらいの無慈悲な威力であった。
ボガートは相手の恐れるものに化け、それに反する笑いを嫌悪する。
故に、心を覗いて模倣するボガートからすればフィールが恐怖に心が染まっていくのにこの上なく歓喜し、それまで退治されてきたことで疲弊していた気力がみるみる内に回復した。
―――お前のせいで、兄さんは………!
―――お前が死ねばよかったんだ………!!
再び脳裏で響き渡る、男の鋭い声。
それは頭の中でガンガン反響する。
フィールは奥歯をギリッと噛み締め、傾きそうになった身体を気合いと根性で安定させ、ダンッ! と両足で踏み留まる。
(止めろ………これ以上、私の心を―――侵食しようとするなッ!!)
次の瞬間。
フィールはギッと鋭い目付きになり、杖を一回転させた。
彼女の身体から、鬼気迫る殺気が放たれる。
「ッ! こっちだ!」
いち早くフィールの凄まじい気迫を感じ取ったルーピンがこのままではマズいと判断し、ボガートを自分の方へ引き寄せる。
直後、ボガートは銀髪の男から銀白色の玉となってルーピンの前で浮遊した。
「
ルーピンは詠唱し、ゴキブリへと変える。
シンと静まり返って誰も言葉を発することがなかったので、スリザリン生達は途端に我に返って思考が再起動する。が、フィールの瞳は変わらずの輝きが失せた絶対零度で、目の前の空間を見るとはなしに眺めていた。
「クシェル、前へ! やっつけろ!」
ルーピンは重苦しい場を転換しようと何事もなかったみたいにクシェルを指名し、彼女はハッとして慌てて前へ進み出る。
クシェルは一度対決したことで慣れたのか、臆することなく杖を振るって高らかに唱え、バジリスクを手のひらサイズの小さな体長に変えてみせた。そして追い打ち掛けるように、少しは元気を取り戻したスリザリン生の多くが笑えば、ボガートは破裂し、白い煙となって消滅した。
「よーし、よし! 皆よくやった! ボガートと対決したスリザリン生一人につき5点をあげよう! クシェルは10点だ。2回対決し、トドメを刺したからね。寮に帰ったら各自ボガートに関する章を読んでまとめてくれ。それが今日の宿題だ」
タイミング良く終業のチャイムがスリザリン生達を称賛するみたいに教室内に響き渡り、彼等は今までにないハイクオリティーな授業に興奮した面持ちで出ていった。
「フィール、君は少し残ってくれるかな?」
ルーピンは静かな声でフィールを呼び止める。
いつの間にか殺気を霧散させていたフィールはゆっくりと顔を動かし………小さく頷く。
静けさに包まれる、授業実地場の職員室。
二人きりになった室内で、ルーピンは此処で立ち話するのもアレだから、場所を変えて話をしようと言った。
♦️
ルーピンが割り当てられた教員部屋。
椅子に腰掛けて黙って待っていると、マグカップが、コトン、と前に置かれた。
クリーム色をした、甘い香りと温かな湯気が漂うホットホワイトチョコレートであった。
「ホワイトチョコレートだ。これでいいかな?」
「………ええ、ありがとうございます」
マグカップの取っ手を掴み、口をつける。
ホワイトチョコレートは一般のチョコレートと違って独特の苦味成分がなく、風味とクリーミーな口どけが身体を暖めてくれた。
「美味しいですね、とても」
「気に入って貰えて嬉しいよ」
ルーピンは笑い、フィールも笑う。
一見すると普通のお茶会のように見えるが、その実前者は『開心術』を、後者は『閉心術』を使用していた。
(この歳で『閉心術』を使えるとは………)
(……やっぱり『開心術』を使ってきたか)
フィールは教師が生徒に対して『開心術』を使って心を覗いてくる行為に腹を立たせたが、それは決して悪意あって使用してる訳ではないのだろうと思うようにして、敢えて何も言わなかった。
一方、ルーピンの方は下級生が並外れた強力な『閉心術』を扱える事実に驚きを隠せず、外面上は普通通りだが、内心では動揺していた。
しばらくは互いに無言でホワイトチョコレートを飲んでいたが………タイミングを見計らったのか、ルーピンは神妙な面持ちでフィールへそっと問い掛けた。
「フィール、一つ訊いてもいいかな?」
「………なんですか?」
「さっき、ボガートが変身したのは―――」
「ルーピン先生、それは訊かないでください」
即、フィールはルーピンが言い切る前に言葉を遮った。ボガートが変身した姿についての詳細は出来れば話したくないからだ。
「………すまなかった。君のような生徒がいるかもしれないことを考えずにボガートを用意したのは、配慮が足りなかった」
「いえ、大丈夫です。………確かに心はかき乱されましたけど、おかげで一つ、わかったことがありますから」
「わかったこと?」
ルーピンが首を傾げると、
「私の中で、アイツへ対する恐怖が奥底に巣食っていたということです。………これから先、自分自身を強くさせるための糧となりました」
それからフィールは、一気にホワイトチョコレートを飲み干す。空になったマグカップをテーブルに置くと、椅子から立ち上がった。
「ただ、それ以上でもそれ以下でもありません」
強めの口調で言い放ったフィールは呆然としているルーピンへ背中を向け、部屋を退室した。
【フィール、遂にシーカーになる】
F<シーカーニナッテヤロウ。
M<ベルンカステル!!
ダキツイテカラノオシタオシ。
ALL<!!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ!! フィール!
F<((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル。
ALL<L(゚皿゚メ)」L(゚皿゚メ)」L(゚皿゚メ)」。マーカス……ユルサン!
M<ヽ(; ゚д゚)ノ ビクッ……………ウシロニクルリ。
ALL<(*`Д´)ノ!!! セイバイ!!!
M<ヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァァァァァァァァァ!!!
マーカス………お前は別の意味で勇者だったよ。
ご冥福をお祈りします(※ちゃんと生きてます)。
【クシェルが恐れるもの】
バジリスク。
そりゃまあ、石化前は正体知ってるが故の恐怖心を持ちながら逃走したし………死を目の当たりにした出来事はトロールだろうけど、あの時はフィールが助けに来てそれがきっかけで仲良くなったので、毒蛇の王様です。
こうしてみてみると、クシェルって間接的に事件に関わってますね。そして毎回危うく死にそうになる………もしもバジリスクによってクシェルが即死したら、あの子発狂してズタズタに惨殺しそう((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル。
バジリスク、石化で済ませて正解だったな。
お前、解体されるなんて手緩いことは1000%の確率でされなかったぞΣヽ(゚∀゚;)!
【フィールが恐れるもの】※1/8、変更
銀髪蒼眼の男。
コイツが誰なのか、読者の皆さんなら粗方予想がつくはず。
不意打ちで変身されて思いっきり殺気をぶっ放したので、もしあのままルーピンが止めなかったら………ちょっとヤバかったかもしれません。