【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
10月31日、ハロウィーンの日。
その日の朝の玄関先では、3年生の生徒達が副校長のマクゴナガルと管理人のフィルチにホグズミード村行きの許可証とサインを確認して貰っている。
それが終わると、生徒はグループを作ってホグズミード村に足を運ぶ。村はハロウィーンムードに包まれ、様々なイルミネーションが施されており、各自興味ある店へ訪問していた。
そんな、楽しげな雰囲気が漂う場とは裏腹に、降りしきる白い雪の道を黒髪の少女は一人上着のポケットに両手を突っ込みながら歩いていた。
あの一件以来、友人と仲違いしたままハロウィーンの日を迎えてしまい、本当だったら一緒に見て回るはずの予定が急遽変更して、単独行動となった。
「…………………………」
黒髪の少女―――フィールは、生徒達の楽しそうな声が遠くから聞こえ、黒い感情が沸々と沸き上がった。
あのことは自分にも落ち度があると反省しているが、だからといってすぐに謝れるチャンスなどなく………結果的に、フィールは喧嘩状態をほったらかしにしていた。
時折、クシェルが視線を送っていることに気付きつつも気付いていないフリをし、スタスタと歩き去っていく。
それが余計、亀裂を入れ込んでいるのだとフィールは自覚している。
わかっては、いる。
けど、じゃあ一体どうすればいいのだ?
友人と喧嘩したことがないフィールは、どうやって仲直りすればいいのか、また、どう動けばいいのか―――わからなかった。
「フィール」
後ろから、声が掛かる。
ゆっくりと振り返れば、そこには先輩のアリアが暖かそうな格好にスラリとした長身を包んで、立っていた。
姓と同じ
「………なんですか」
「貴女、クシェルとケンカしているんでしょ? あの後、何があったの?」
アリア達スリザリン生は、唐突にフィールとクシェルが共に行動しなくなったことを喫驚するのと同時、憂苦していた。
だが、皆は物思いしながらも、知らんぷりを決め込んでいるため、アリアは周囲に人が居る状況ではどんなに詮索しても二人共口は絶対に開かないだろうと思い、どちらかと一対一になって話をしようと愁思した末、フィールの後を追い掛けたのだ。
「………別に。なんでもありませんよ」
フィールはたとえ先輩であろうと話す気にはなれず、背を向けて再び歩もうとしたが………アリアもそれで大人しく引き下がるはずもなく、後輩の腕を掴み、真っ正面に向き合わせると、彼女の両肩に自身の両手を置き、ぐっと力を込めた。
「『なんでもない』なんて、嘘よね? じゃなかったら、貴女達が一緒に居ないはずがないもの。フィール。気に入らない物事から逃げてばかりいないで、真っ正面から向き合いなさい」
アリアが真剣な瞳で言うと、フィールは歪んだ笑みを浮かべた。
「気に入らない物事から逃げてばかり、ねえ」
見下すような冷たい笑い。
アリアはカチンときた。
「………フィール。貴女、クシェルにも、そんな風な態度を取ったんじゃないのかしら?」
優しい先輩の顔を捨て、アリアは静かな怒りを含ませて訊いた。
自然と、肩に置く手に力が入る。
フィールは煩わしそうな表情になり、
「貴女には関係ないことです」
と、手袋をしていない手をポケットから取り出してパシッと、アリアの手を払い除けた。
そうして、もう用はないと言わんばかりに去って行こうとしたフィールを、アリアは見過ごす訳がない。
払ってきた彼女の手を強く握り、真っ直ぐに見つめる。
「クシェルが時々貴女に視線を送っているの、気付いているでしょ? なら、少しくらい見向きしなさい。歩み寄ろうとしなかったら、いつまで経っても解決しないわよ」
雪と同化する、少し冷えてる色白の手を暖めるように包みながらそう言ったが………フィールの氷のような心へ響かせることは、叶わなかった。
「貴女に、私の何がわかるんですか?」
「え………」
絶句するアリアを尻目に、フィールは乱暴に手を振り払うと、今度こそこの場から早足に立ち去った。
フリーズしたアリアは慌てて振り返り、悲壮感が滲むフィールの背中を認めると、駆け寄って彼女の腕をガッシリ掴み、何処かへ行くのを阻止しようと引き留めた。
「………離してください」
「駄目よ。絶対に離さないわ。フィールが、クシェルと歩み寄るのを約束するまで」
白い息を吐きながら、アリアはギュッと握る力をプラスし、逃す隙間を与えない。
「今の貴女にとって、クシェルと顔を合わせるのは酷かもしれないけど………それは、あの娘だって同じよ。だから、逃げようとしないの。一人だけ逃げようとするなんて、反則よ」
フィールが一度寮を外出し、それから戻って来た後、クシェルと一体どんなことが起きたのか、アリアは知らない。
だが、間違いないなく、互いに悪かったことがあったから、このような出来事を招いてしまったと、それだけは、なんとなくわかる。
故に部外者の自分に出来るのは、仲裁。
双方の事情や気持ちを最後まで聞き、そこから解決へ導くよう手助けする。
アリアはそう思って、まずは自分の本心に素直じゃないフィールを仲直りするためにちゃんと動くことを約束させようと、ここまで粘るのだ。
「今日、ハロウィーンパーティーが終わって談話室に帰ってからでもいいから、クシェルと話をしなさい。わかった?」
有無を言わぬ声音で言われ、フィールは肩を竦めた。
「………………わかりましたよ」
「約束よ?」
確認を取るように、念を押すアリア。
フィールは小さく頷き、アリアはわしゃわしゃと乱暴に雪が積もった黒髪を乱した。
「じゃあ、気分転換にホグズミード村のお店、見て回ろっか。案内するわよ。まずは『三本の店』って言うパブで、バタービールでも飲みましょ」
バタービールとは、魔法界で人気の温かい飲料で寒い冬には欠かせない品物だ。
アリアは本来の整った顔立ちが作り出す優しげな笑みを浮かべ、おいでよ、というようにフィールの手首を掴み、活気溢れるホグズミード村の中の道中へと向かった。
♦️
今年のハロウィーンパーティーもまた、素晴らしいものだった。大広間はハロウィーン仕様のデザインに装飾され、くりぬかれたカボチャに蝋燭が灯っていて蝙蝠が群れを成して天井を飛び回り、それぞれの寮のテーブルにはこれでもかというほどのカボチャ料理が並んでいる。
今日はホグズミード行きだったということもあって生徒全員が何かしらのお菓子を持参しているため、あちこちで仮装した生徒達によるお菓子の譲渡とトリックオアトリート合唱が行われていた。
「フィール」
一人で大広間に行こうとしていたフィールは背後からの聞き慣れた声に振り返る。そこには、クリミアが心配そうな瞳で立っていた。
「………なんだ?」
「クシェルと喧嘩してるって、本当なの?」
このことは、アリアから聞いたことだ。
最近、フィールとクシェルが一緒に居ないのを偶々見掛けたクリミアが疑問に感じてたら、偶然にもアリアと遭遇し、彼女が教えてくれたのだ。
「………クリミアには、関係ないだろ」
フィールは素っ気なく答え、スリザリンのテーブルへと歩いていった。
クリミアは軽く肩を竦めつつ、心配そうな眼差しを送り、憂えてた。
クシェルと喧嘩してることもそうだが………何より、
違う寮に所属している以上、フィールを見守るには限界がある。あちらには友人のアリアがいるため、時々様子を聞いたりなどはしているが、やはり物憂げしてしまう。
親友と離ればなれ、という事態になってはいないとはいえ、それがいつまでも続くとは限らないし、このままの状態でいるのも心苦しいはずだ。
だけど、それに対して、自分は何もしてあげられないのが辛く、そして歯痒い。
「………………………」
込み上げてくる感情を抑えるように、胸の前でギリギリと拳を握り締める。
フィールの姉なのに、助けとなってやれないのだろうか。
自分の無力さに苛立つクリミア。
そんな彼女の肩に誰かの手が置かれる。
肩に手を置いてきたのはソフィアだった。
「クリミア? 立ち止まってどうしたの?」
「………ちょっと、ね」
「………もしかしてフィール、まだクシェルと仲直りしてないの?」
遠く離れた先で歩いているフィールの後ろ姿を横目にソフィアがそっと訊き、クリミアは「多分ね」と頷く。
「まさか、あの二人がケンカするなんてねえ……ちょっと意外だわ。というか、二人共、どういう顔で会えばいいか、困ってるのかもね」
それも一理あるだろう、とソフィアの言葉にクリミアは思いつつ、別の考えも浮かんだ。
(フィールはクシェルを見ると、訳もなくイライラするのかも………許せない気持ちと、寄れば傷付けてしまう自分に腹が立って、余計に態度が硬化してる気がするわ………)
詳しいことまでは知らないが、きっとそうだ。
フィールは、昔からそうだった。
一度
「でも、大丈夫よ、きっと。クリミア。あの娘達が前みたいに一緒に行動するのを信じましょ? 貴女が信じなかったら、誰が信じるのよ」
ソフィアはクリミアの背中をさすり、彼女の不安だった表情に笑みが取り戻される。
「そうね。………ありがとう、ソフィア」
クリミアは励ましてくれた友人へ、感謝の微笑みを向けた。
一方のフィールはというと―――一人で黙々とカボチャ料理を口に運んでいるクシェルをじっと見ながら、足を進ませていた。
「………………」
そして、それを少し離れた席で見守るアリアが居た。ホグズミード行きの今日、クシェルと話をすることを約束したが、果たしてそれを守るだろうかと、さりげなく気に掛けていると、
「…………クシェル」
なんと、早くもフィール自らがクシェルへ声を掛けた。
「………談話室戻ったら、話がある。いいか?」
「………うん。わかったよ」
と、クシェルは軽く眼を見張りつつ、了承の首肯を見せた。
(フィール! 貴女、やれば出来るじゃない!)
アリアは思わず歓喜の叫びを上げたくなったがすんでで喉の奥に引っ込める。
が、胸の中は、フィールへの称賛でいっぱいだった。
無愛想な口調ではあったが、それでもしっかりと伝えたのだ。とても些細なことだが、個人的には後輩が人間的に成長したと、自分のことのように喜ばずにはいられなかった。
そうして、楽しい一時を過ごし終え、パーティーがお開きになって憩いの場のスリザリン寮へハロウィーンへの余韻を残しながら帰宅し、各自友人達と談笑したり、趣味に興じているとはよそにフィールとクシェルはぎこちない空気を漂わせ、だが、互いに向き合おうと決心を固めていた。
けど、いざ本番となると中々踏み込めず―――さっきから、二人はよそよそしい様子で落ち着き無さげであった。
「………………」
「………………」
それから数分後………意を決したフィールが口を開こうとした、次の瞬間、
「生徒は全員大至急大広間へ集まれ! 監督生は下級生共の誘導をしろ! さあ早く!」
突然、スリザリンの寮監・スネイプの鋭い声が介入してきた。スリザリン生は戸惑いつつ、大人しく入り口に向かっていく。フィールはせっかくの決意を踏みにじられてキリッとしていた顔を歪ませ、未だに混乱しているクシェルの腕を掴んで立ち上がらせると、生徒の波に乗って移動した。
全校生徒が大広間に揃うと、今夜は此処で就寝と命じられた。
なんでも、指名手配中のあの大量殺人鬼、シリウス・ブラックが城内に潜入し、グリフィンドール寮の入り口である太った
「フィー………これって………」
「ああ………かなりヤバイことだな―――」
クシェルとフィールは顔を見合せると、すぐに「あっ」と気まずそうに顔を逸らした。
今、普通に数秒間会話を交わしたものの、関係はまだ修繕されていないのだ。
お互いに顔を背けたまま、沈黙していたが、
「それで、話って、一体、何?」
と、クシェルがそっぽを向いたまま、尋ねてきた。
「その………前はアンタに酷いこと言って悪かった。…………ごめん」
拙い言葉で、フィールはクシェルへ謝った。
クシェルは、驚いて彼女の方へ向き、少し眼を見張ったが………次第に、自分も謝らないとという気持ちが出てきて、
「私も、いきなり打ったりして、ごめんね」
と、謝罪した。
まず、二人共謝ることはした。
けど、わだかまりはすぐには解消はされず。
二人は背を向け合い、寝袋に深く潜り込んだ。
♦️
シリウス・ブラックがホグワーツ城内に侵入してきたその日以降、生徒達はどんな方法を用いて成功したかと考察する者が増えた。
フィールも勿論推理する者の一人だ。
そして彼女の中では、ある技能を使用した手段が挙げられた。
それは、
動物もどき。非常に高度で珍しい変身魔法で、ほとんどの魔法使いが魔法省に登録されていて、いつ何処で何をしたかが厳重に監視される。
ほとんど、というのは魔法省へ自身が動物もどきであることを秘匿し、未登録状態を一貫する魔法使いが少なからずいるからだ。そういった魔法使いは大抵悪用に用いるため、また、危険性が高いことから、魔法省への報告が義務付けられている。
もしも、シリウス・ブラックが魔法省に登録されている動物もどきであるならば、とっくの昔に捕虜されているはずだし、彼もそれくらいは知っているだろう。それに、非合法の動物もどきであると推測すれば、脱獄不可能と言われてきたアズカバンの脱獄可能が出来た理由にもなる。動物もどきになるのに杖は無くてもやれるので、尚更理解出来る。
動物もどきによって変身した人間の感情は抑制されるので、幸福な感情を吸い取る吸魂鬼相手であろうと難を逃れられただろうし、恐らくはそれが長年アズカバンで正気を失わなかった真髄だと考えられる。
問題は、どうやって潜入したかだ。
いくら感情を吸い取られない方法があるにしても、ホグワーツ城の入り口には吸魂鬼が配備されているため、発見されずに忍び込むのはほぼ無理だ。となれば、シリウス・ブラックは吸魂鬼も学校側も知らない侵入経路を熟知しているということだ。でなければ、数多の吸魂鬼が眼をギラつかせているこの現状で誰にもバレずに侵入するなど出来ないのだから。
「ベルンカステル! そろそろ戻ってこい!」
クィディッチ初戦のグリフィンドールVSスリザリンに向けて豪雨の中、飛行練習をしていたフィールはキャプテンのマーカス・フリントのくぐもった声が耳を打つと、ハッと思考の海から意識が急速的に引き上げられた。
どうやら、練習中でも知らぬ間にあれこれ考えていたらしい。フィールは一旦割愛しようと気持ちに区切りをつけると、コートへと降り立った。
「どうした? 体調でも悪いのか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうか。よし、皆、次は―――」
それから、視界が不良な状況下になることを予想した戦術を編み出していき、スリザリンチームは『打倒グリフィンドール!』を目標に数時間練習を重ね―――最後に確認を取ったら、今日の特訓は解散となった。
♦️
酷い雨が降りしきる、クィディッチ競技場。
そのフィールド内のど真ん中に、黒髪の少女は立っていた。
先輩選手六人は全員が居なくなり、ただ一人、チームの花形シーカーのピンチヒッターとして今年参戦を許したフィール・ベルンカステルは、雨空を仰いでいた。
その綺麗な顔が濡れているのは、雨のせいだ。
しかし、彼女以外の人には、わからない。
彼女の顔を濡らしているのは、冷たい雨だけでない、と。
「…………………」
少女は静かに瞼をおろし、蒼瞳を覆い隠した。
閉じた瞼から、何故かはわからないが、熱い雫が流れている。
降り注ぐ雨が、自身の存在を否定するかのように、非情なくらいに打ち付けてくるから。
意味もなく胸の底から込み上げてきた感情に負けて、泣いてしまったのだろうか。
少女は全身の力が抜けたみたいに膝から崩れ落ちていき、仰向けになって寝転がり、左腕で目元を覆う。
ぬかるだ地面が、濡れた緑色のユニフォームと少女の黒髪を汚していく。
だが、フィールはそれをモロともせず、訳もなく涙した自分へ自嘲しながら………左腕を振り払い、一度、重い瞼を開く。
冷たい雨と熱い涙が、世界を歪ませる中―――フィールは、幼さの裏に隠した