【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
―――ル。フィール。起きなさい。
(………誰?)
底が見えない、淀んだ沼へと引き摺り込まれる感覚と共に、微かに眼を開けたフィールのぼんやりとした頭の中に誰かの声が朧気に聞こえてきた。
その声は、クシェルでも、クリミアでも、その他友人達でもない、別の誰かの声。
くぐもっていてぼんやりとだが、確かに自分を起こすために発せられている。
誰が自分を呼んでいるのか。
ハッキリとは、聞こえない。
でも、フィールはわかった。
長年の月日が経過しようとも、耳が覚えている―――亡き母の声だ。
(起きなさい………か)
聞こえてくる言葉を他人事のように聞き流すフィールは、自嘲気味な笑みを浮かべた。
周りは一面、漆黒の闇に覆われている。
そして、自分の身体が闇の底へと落ちていくのが、体感で感じ取っていた。
動かそうにも、動かせない。
もう………諦めるしかない。
―――起きなさい。貴女が起きるのを待っている人達がいるわよ。
………待っている人達………?
それは、クシェル達のことだろうか?
そう考えたフィールの脳内に、自分がよく知っている人達の顔が次々と思い浮かべられた。
妹のように可愛がってくれる、クリミア、ソフィア、アリアの先輩三人組。
後ろから自身の名前を呼び、振り返ってみれば、優しげな笑みを浮かべてるハリーやハーマイオニー、反対に、無愛想な顔を浮かべているロン、満面の笑顔を向ける………クシェル。
(………ああ。そうだ………そうだった………)
半ば諦めていた暗闇の世界のど真ん中に、一筋の眩い光が射した気がした。
そうだ………私には、帰る場所がある。
此処で終わったら………二度と、会えない。
それは嫌だと、フィールは必死に手を伸ばす。
あの光の先に、仲間が待っている。
だから………戻ろう。
皆の元へ……………。
―――私を待ってくれている人達の元へ。
♦️
「………ん………くっ…………」
長い眠りから醒めるように、医務室のベッドの上で寝ていたフィールは目を醒ました。
もう何回目の医務室での目覚めかと、フィールはそこまで考え、ハッとした。
自分は確か、スリザリン寮の女子用の大浴場でシャワーを浴び、その後、脱衣室で喀血して倒れたはずだ。
なのに、医務室に居るということは、誰かが此処まで運んでくれたということだろうか?
………いや、それしか考えられない。
フィールは青みが掛かった病衣に身を包んだ上半身を起こし―――額に掌を当て、弱々しく項垂れながら深くため息を吐いた。
「フィール? 起きたの?」
カーテンをシャッと開けて姿を現したのは、獅子寮の友人・ハリーだった。
ハリーはクィディッチ戦の日、主に精神安寧のために1週間医務室で入院することを言い渡されていたため、まだ退院日を迎えてはいないことを意味している。現に彼はまだ病衣を着たままであった。
「ビックリしたよ………退院したと思ったら、また此処に運ばれてきたんだから………」
「………私、いつ此処に運ばれたんだ………?」
「2日前だよ。その間、君はずっと寝込んでた」
それを聞いて、流石のフィールも瞠目した。
まさか、2日間も意識不明だったとは、予想外過ぎたからだ。
「変身術の授業中、クシェルが『なんか嫌な予感がする』とかでスリザリン寮に戻って………脱衣室で倒れてた君を見つけたみたいなんだ。それでクシェルが応急処置をして、マクゴナガル先生が此処まで連れてきてくれたんだよ」
ハリーは先を読んで経緯を教えると、フィールは額に手を当ててため息ついた。
「………ホント、クシェルとマクゴナガル先生には感謝だな」
「それにしても、フィールは人気者だね。医務室に沢山の人が詰め掛けたし。皆、凄い心配してたよ」
しかし、フィールはハリーの言葉をどこか上の空の表情で聞いていた。
聞いてはいるだろうが、心此処に在らずといった感じだった。
「何か、悩み事ある? なんでも聞くよ」
「……………いや、大丈夫」
フィールは輝きが失った瞳で答え、視線を明後日の方向へ向ける。ハリーは一瞬沈黙し、すぐに話し掛けようと口を開こうとしたが、
「目を覚ましたようですね」
と、ホグワーツの校医、マダム・ポンフリーが医務室の扉を開けて中へ入ってきた。
二人はそちらを見、マダム・ポンフリーはフィールへ薬と水が入ったゴブレットを渡す。またあの苦い薬を飲まないといけないのかとフィールは嫌だったが、仕方ない、とそれらを受け取り、気合いで飲み干した。
良薬口に苦し、とはまさにこのことだと、フィールは顔をしかめる。
それから、彼女はフィールの脈を取り、しばらくは医務室で入院させると言ったら、医務室を後にした。
「………入院生活……か………」
フィールはゴロンと横になり、眼を閉じた。
いつくらい、医務室のベッドの上で過ごすことになるのか未定なので、不安感漂う雰囲気が彼女から発せられる。
「………回復するのを地道に待つしかないか」
「うん。ゆっくり休んで、元気になろうよ」
ハリーは励ましの言葉を送ると、食事を摂って戻ってくるなら医務室の退室を許可されているため、「何か、持ってくる?」とフィールに尋ね、「いや、いい」と答えると彼は病衣から制服に着替え、医務室を後にした。
ハリーが病棟から居なくなり、静寂が訪れた。
が、それも束の間。
ガチャリ………パタン、とドアを開け閉めする音が響き渡り、フィールは眼を開けた。
その者は此方まで近付いて来てるのか、コツコツと足音が大きくなる。
そして、ゆっくりと開かれ、姿を現したのは。
「フィール。目を覚ましたようね」
クリミア・メモリアルであった。
クリミアはフィールの顔を見てホッとして表情になり、見舞い客用の椅子に座った。
「貴女が2日も寝込んだんだから、本当に心臓が止まったと思ったわ………」
「………ッ」
「………やっぱり、
クリミアの問いに、フィールは小さく頷く。
「………お母さんが吸魂鬼に魂を吸われている光景が何度も頭の中で流れて………その後に、お父さんが殺された瞬間の記憶が鮮明にフラッシュバックした」
クリミアだけには苦悩を打ち明けるフィールは辛そうな表情を隠そうとせず、姉を見た。
「………いつの間に、私はこんなにも弱くなったんだろうな。これじゃあ、本当に学年首席の人間なのかどうか、疑うよな」
自嘲するように、でも、苦しそうに。
フィールは何とも言えない笑みを見せた。
クリミアは紫の眼を悲しそうに細めると、椅子からベッドへ座り移り、コツン、とフィールの額に自分のそれを合わせた。
「………止めなさい。それ以上言うのは」
「………………」
「今は、意識が戻ったことを喜びなさい」
息遣いを感じ取るほど近い、クリミアの僅かに歪んだ表情をフィールは見つめていたが―――医務室の外から、かなりのスピードで駆けてくる音が聞こえてきたため、二人が慌てて離れるのと同時、勢いよくドアが、バンッ! と開かれた。
荒々しい登場を果たしたのは、ハーマイオニーとロンの二人であった。
休まず走り続けたのか、肩で息をしている。
ベッドから起き上がっているフィールを眼にして、二人は即座に胸を撫で下ろした。
そして、その場から物凄い勢いで飛び出し、ハーマイオニーは涙ぐんだ瞳で呆然とするフィールに抱きつく。
「え、わ、ちょっ………」
急にハグされてフィールは戸惑うが、ハーマイオニーはお構い無しにお得意の早口言葉でズバッと言い切る。
「はあぁぁぁぁ………貴女が目を覚まして本当によかった。心配したわよ!」
充血して真っ赤になった眼でフィールを見たハーマイオニーは、彼女の豊かな胸に泣き腫らした顔を深々と埋める。
甘いフィールの香りが胸いっぱいに広がり、安心感を得てまた涙が流れた。
「大丈夫か? 2日間も寝込んだんだから、マジでビックリしたぜ………」
心配と安堵が入り交じった声音で声を掛けたロンはベッドに腰掛け、フィールを見た。
「さっき、ハリーから『フィールがようやく目を覚ました』って聞いて来たんだ。とにかく、まずは意識が戻って安心した」
「ええ、ロンの言う通りよ! 退院したっていうのに、また医務室に搬送されて………しかも2日間も意識不明の昏睡状態になって………本当に、本当に心配したわよ!」
ロンとハーマイオニーの言葉を聞き、フィールは胸がじんわりと温かくなるのを感じる。
眼を優しげに細め、フィールは涙でぐちゃぐちゃになった顔を胸に隠しているハーマイオニーの頭を撫でた。
「心配掛けてごめんな。………それと―――」
フィールは二人を見たり来たりして言った。
「………ありがと」
こういう時に感謝の言葉を述べるのは、なんとなく気恥ずかしい。
それを隠すように、ハーマイオニーの栗色の髪を指先で弄っていると、
「もう……これじゃ、全然私が入れないじゃん」
クシェルの声が、耳を打った。
三人はハッとして、声がした方向に視線を走らせる。
クリミアは最初から気付いていたのか「来てくれたのね」と柔らかく微笑んでいた。
「………フィー、よかった」
クシェルはフィールの側まで来ると、最早恒例となりつつのやり取りというかなんというかで、ギュッと強く抱き締めた。
「心配したよ………胸騒ぎがしたからスリザリン寮に戻って脱衣室に行ってみれば、フィーが血を吐いて倒れてたんだから………」
クシェルは実際にフィールがどうなっていたかを見た者の一人で、言うまでもなく喀血して気を失ったフィールを応急処置したのもクシェルだ。
恐らくは、誰よりもフィールの安否を心配していたのだろう。ハグしている腕が、小刻みに小さく震えている。
「クシェルとマクゴナガル先生には、感謝だな」
「あ、聞いたの?」
「ハリーが教えてくれた」
それはさておき、とフィールは呟く。
「………こんなにくっつかれると、流石に息苦しいんだけど」
胸元にはハーマイオニー、首元にはクシェルが居るので、何かと呼吸がしづらい。
だが、二人は離れるどころか、むしろもっとピッタリ密着してくるので、これではまるで満足に身体が動かせない。
(……………………)
でも、おかげで心を壊されないで済んだ。
もしも、この人達が居なかったら、他寮の生徒―――特にグリフィンドール生からの、これから先に受けるだろう悪口や侮蔑に、耐えられる自信がなかったかもしれない。
(退院後は辛い日々になるんだろうけど………)
私には、居場所がある。
そして―――
―――私には、帰る場所がある。
だから、大丈夫。
それが例え、どんなに過酷な現実でも。
フィールはそう思いながら、滅多に浮かべない優しげな笑みを形作った。
♦️
生徒が寝静まる深夜2時頃。
ホグワーツ城内に位置する病棟の中で、気配を殺して身を起こした者が居た。
(………フィール。大分心が弱っているわね)
闇の中で胸に手を当てる『彼女』は、この身体の少女の心がだんだんと蝕まれ、ひび割れていくのがビシバシと伝わってきた。
辛い記憶を嫌なほど鮮烈に思い出され、苦しんでいるのを強く感受し、どうにか出来ないのかと『彼女』はずっと苦悩していた。
(………どうしましょう)
『彼女』は頭を抱えた。
このまま戻っても、フィールが苦しむのをただただ黙ってみることにしかならないし、これ以上ほったらかしにしていたら、身体がボロボロになっていくだろう。
だからといって、身体を借りた状態で四六時中動き、いざ戻ったら………フィールを余計混乱させてしまう。
なんとかならないのかと『彼女』は悩み………少し外に出ようと、サイドテーブルの杖を手にして軽く振るい、綺麗に折り畳まれている新品同様の制服に一瞬で着替え、『目くらまし術』を掛けると、そっと医務室を出た。
辺りはすっかり静寂に覆われていた。
ホグワーツ城内は夜の闇に包まれておるが、夜空には満天の星や月がきらびやかに煌めき、輝いている。
それを、『彼女』は天文台の塔で眺めていた。
やはり、此処はお気に入りの場所だ。
そして、身体を借りた状態で知ったことなのだが………フィールも此処がお気に入りの場所であると知った時、『彼女』は嬉しく思った。
『目くらましの術』を解いた『彼女』はフッと息を吐き、さあどうしようかと、暗闇を明るく装飾する星空の点々に答えを探すように、しばらくはその大空を見上げていたが―――。
「………フィール?」
誰かの声が耳を打ち、『彼女』は振り返った。
水色の髪に紫色の瞳。胸には監督生の胸バッジをつけている―――クリミアだった。
「此処に居たのね。今日、監督生の見回り担当だったから医務室に少し寄ったんだけど………貴女が居なかったから、少しヒヤッとしたわよ」
安堵の息を吐いて近寄ろうとしたクリミアは、ふと、フィールの雰囲気がいつもと違うのに気付いた。
何故だか、目の前の少女は微笑んでいる。
その笑みは、普段とはどこか違う。
が、その笑みには見覚えがあった。
もう何年も前に見れなくなった………黒髪の少女と瓜二つの女性が浮かべていた、微笑み。
それと、全く同じだった。
いや………同じではない。
本人そのもの、であった。
困惑するクリミアへ向かって、優しく笑いかけていた『彼女』は静かに口を開いた。
「―――久し振りね、クリミア。いつもフィールの傍に居てくれて、ありがとう」
天文台の塔へ渡って吹いてきた冷たい夜風が、二人の頬を撫で、髪をやさしく揺らす。
やけに現実的な空気の中で。
クリミアは『彼女』の言葉に紫眼を見張った。
♦️
クリスマス休暇前日。
ホグズミード行きが許可され、ホグワーツ生は大はしゃぎだった。
生徒達は冬の寒さを防ぐために暖かな私服を着込んだら元気よく玄関から飛び出していく。
今回、数週間前に退院したフィールはクシェルと共に白い雪が降り注ぐホグズミード村へ続く道中をサクッ、サクッ、と軽やかな音を立てながら歩いていた。
「フィーは今年のクリスマス休暇、どうするの?」
「例年通り、残るよ。
「私も残るよ。お母さんとお父さん、仕事で忙しいから」
クシェルの母親は
「お父さんは一流だから上の人から色んな仕事任されるし、お母さんも聖マンゴで一番の使い手として人気ナンバーワン。そういえば、来年開催されるクィディッチ・ワールドカップ決勝戦の医療班のリーダーに選抜されたよ」
クシェルが言うには、来年の夏、約30年ぶりに魔法界の住民ならば誰もが観戦したいクィディッチ・ワールドカップ決勝戦が、イギリスで開催されるとのことだ。そのため、聖マンゴ魔法疾患傷害病院に勤務する癒者達は去年の今から早速準備に取り掛かっているらしい。重大な大仕事なだけに、皆やる気満々みたいだ。
「初耳だな。来年決勝戦やるとか」
「私も休暇中に知ったからね。多分、何人かは知ってるんじゃないかな」
なんて会話を交わしながら、フィールとクシェルは冷えた身体を暖めようと、パブ『三本の箒』へ真っ先に訪問した。クシェルは席を確保しに向かい、フィールは注文しに行った。
バーテンのマダム・ロスメルタという女性がバタービールをジョッキに注いでカウンターに出し、フィールは料金を払うとクシェルが座っているテーブルまで、溢さないように運んだ。
「暖かい場所だな」
「ずっと此処に居たいよね。あ、そういやさ、フィー」
「なんだ?」
ジョッキを傾けてバタービールを飲んでいたフィールへ、クシェルは尋ねる。
「
命令違反した
「とりあえずはな。クリスマス休暇が終わったら一応飛んでみるけど」
と、その時だ。
店の扉が開き、店内にマクゴナガル、フリットウィック、ハグリッド、そして何故だか英国魔法省大臣のコーネリウス・ファッジが入ってきて、マダム・ロスメルタにそれぞれ注文したら四人は二人の横の通路を通り過ぎて行った。
「あの人、魔法省大臣だよね? なんで此処に来たんだろ?」
何故、お偉いさんがこんな所に来たのかとクシェルが首を傾げていると、
「………シリウス・ブラックと吸魂鬼の件じゃないのか?」
「あー、そうかもね」
数秒で会話を切ったフィールとクシェル。
自然と二人は、彼らの飲み会及び話し合いが聞こえる距離まで移動していた。
(フィーは物好きだね)
(クシェルもだろ)
眼と眼で頷き合い、好奇心旺盛な二人は大人四人からは死角のクリスマスツリーの背に隠れ、ひっそりと息を殺して盗み聞きする。
意外や意外、ハグリッドとファッジが話し込んでいた。
内容は、あのヒッポグリフ―――バックビークについてだ。
どうやら、危害を受けそうになったドラコ・マルフォイの父親で魔法省の重鎮のルシウス・マルフォイの手によって裁判沙汰になろうとしているらしく、ハグリッドは大臣に無実を訴えていた。
そこに、マダム・ロスメルタが注文の品を持ってきて、彼の誘いで一緒に飲むこととなった。
当初はホグズミードを巡回する吸魂鬼に対する不満などがメインだったが、次第に話題はシリウス・ブラックのことへ移り変わった。
シリウス・ブラックは学生時代からハリーの父親ジェームズ・ポッターと唯一無二の親友であったらしく、その仲の良さは実の兄弟同然だったとか。どちらも成績優秀ではあったものの、素行の悪さやガキ大将っぷりは今で言うウィーズリーツインズのフレッド&ジョージに匹敵するレベルらしい。卒業後、シリウスは婚礼を上げたポッター夫妻の花婿付き添い人を務め、ハリーの名付け親となったみたいだ。
そしてある日、ポッター家―――正確に言えば息子のハリー―――が闇の帝王に命を狙われていると知った際、ダンブルドアの勧めで身を隠すことにした二人はシリウスを隠れ家の場所の秘密を守る『秘密の守人』へ選んだ。
秘密の守人。『忠誠の術』という、一人の人間の中に魔法で秘密を封じ込める術の選ばれた者を指す用語。この守人が誰かに密告しない限りその秘密は永久に守られ、外部に漏れることはない。
ポッター家の秘密の守人だったシリウスはヴォルデモートとダンブルドアの二重スパイで、前者に隠れ家の居場所を密告。
その結果、ポッター夫妻は殺害された。
だが、ヴォルデモートは赤ん坊のハリーの前に破れ………それを知ったシリウスを追い詰めたのは学生時代の同僚同輩で親友の、ピーター・ペティグリューだった。
成績優秀なジェームズやシリウスの腰巾着的存在で落ちこぼれな生徒であったが、果敢にシリウスに立ち向かい、この世に小指一本を残して死んだ。
シリウスは逮捕されると、裁判無しでアズカバンに投獄され―――12年後の今年、突如脱獄した………。
「フィー、これって…………」
クシェルは友人の両親の死因の経緯を知り、息を呑む。フィールも黙っていたが、それは何かを考え込んでいる様子だった。
「…………複雑だな」
「うん………ねえ、フィー」
「………なんだ?」
「ハリーにこのことは―――」
「いずれ、ハリーも知るだろ」
フィールは足音を立てないで元居た席へ戻り、何事もなかったような雰囲気で残りのバタービールを飲み干す。クシェルも風の流れの如くスッと戻り、自分達は何も聞いてませんというようなムードを漂わせる。
「………店を出て、ハニーデュークスにでも寄って帰るか」
「うん。お菓子買って、ホグワーツに帰ろ」
フィールとクシェルは肩越しからチラリと、大人四人がこちらからは見えない所で乾杯しているのをなんとも言えない表情で振り返り、二人は一瞬だけ顔を見合わせた。
♦️
クリスマス休暇に入り、今年はほとんどの生徒が一時帰宅したことから、ホグワーツ城内から暑苦しいほどの活気や生徒達の笑い声が消え失せた。
スリザリンで残ったのはフィールとクシェルのみで、休暇1日目にして二人は昼食後、8階にある必要の部屋に来ていた。
毎度の如く、目的は魔法の訓練だ。
クシェルは人一倍の努力とフィールからの魔法の手解きで、既に一般のホグワーツ7年生を凌ぐ実力を身に付けている。実技面で言えば、学年次席のハーマイオニーと同等かそれ以上かもしれない。筆記面に関しては、まだまだ教えなければ危うい部分もあるが。
「今年は5番以上行きたいなぁ」
「行けるだろ、きっと」
休憩時間。
仰向けで天井を見上げている白いワイシャツ姿のクシェルへ、同じく白いワイシャツ姿のフィールは微笑する。
「私の目標は、いつか首席のフィーを越したい」
「それは私も譲れないな。卒業するまでは、首席一貫を目指す」
不敵な笑みを浮かべるフィールへ、クシェルは言った。
「………どうすれば、私もフィーみたいに強くなれるの?」
「どうって………」
「だってさ………これからも、この間みたいに上手くいくとは限らないでしょ? だから、いつ、何が起きても対応出来るようになりたい」
クシェルは半身を起こし、椅子に座っているフィールを見る。
「フィーはなんで強くなりたいって思ったの?」
いつになく、真剣な表情のクシェル。
フィールは長い睫毛を伏せて、一息ついた。
………強くなりたいと思ったのは、8年前に起きた惨劇の日がきっかけだ。自分という存在のせいで、それまでの平穏な日々を壊してしまった、あの日から。
当時の自分は、とても弱かった。
…………弱かったばかりに、母は廃人にされ、父は殺された。
だからこそ、強くなることを決意した。
もう、奪われるがままでは終わらせないと。
例えそれが自分の身体を壊すことになろうと、心がひび割れ、壊れることになろうと―――
―――最後に犠牲を払うのは、私だけでいい。
【『彼女』とクリミアの対面】
後々の伏線。
【スリザリン組、嘘の真相を盗み聞きする】
何気に大人の会話に興味津々なお二方。
そりゃまあ、13歳だし、仕方ないか。