【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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#41.夜中の出来事

 クリスマス休暇明けの木曜日。

 午後8時の魔法史の教室の中で、黒髪の少年少女は椅子に座りながら、闇の魔術に対する防衛術の教師が此処にやって来るまで、ある箒の話題で華を咲かせていた。

 

炎の雷(ファイアボルト)、早く僕も使ってみたいよ」

 

 くしゃくしゃな黒髪に丸眼鏡を掛けた少年、ハリー・ポッターは、さらさらちょっと癖毛の黒髪の少女、フィール・ベルンカステルへじれったさを表情に滲ませながら熱弁を振るい、彼女は微笑するのと同時に警戒心も持っていた。

 休暇明け前のクリスマスの日―――クィディッチ戦でニンバス2000を失ったハリーへ、差出人不明の不気味な、でもプレゼントの中身は超高級品の箒が贈られてきたのだ。

 それは、炎の雷(ファイアボルト)である。

 去年発売された世界最高峰の箒で値段500ガリオンという、学生の身分では到底買えない品物で、現在フィールしかファイアボルトを持参するホグワーツ生はいない。

 ハリーの命を狙っているシリウス・ブラックが付近に潜んでいる現状で差出人不明の人物からそんな高額な物がプレゼントとして贈られてきたのだから、まずは先生に渡して確認して貰うべきだとハーマイオニーが1秒でも早く使いたいハリーを引っ張りながらフィールの元へ来た時、「呪いが掛かっていなかったら次の試合までには戻ってくるだろ」と彼女が言うと彼はやっとのことで納得したため、ハーマイオニーから「ありがとう、助かったわ」と謝礼されたのをよく覚えている。

 そんなことをつらつらと思い出していると、不意に教室の扉が開き、荷造り用の大きな箱を手にリーマス・ルーピンが中に入ってきた。

 

「それは?」

 

 ハリーの問いに、ルーピンは魔法史の教科担任ビンズの机に箱を置き、マントを脱ぎながら丁寧に答えた。

 

真似妖怪(ボガート)だよ。火曜日からずっと城を隈無く探したら、幸い、コイツがフィルチさんの書類棚の中に潜んでいてね。本物の吸魂鬼に一番近いのはこれだ。君を見たら、コイツは吸魂鬼に変身するから、それで練習出来るだろう。使わない時は私の事務室に仕舞っておけばいい。真似妖怪の気に入りそうな戸棚が、私の机の下にはあるから」

「なるほど………練習台には最適ですね」

 

 フィールは顎に手を当ててナイスアイディアと頷くが、吸魂鬼が自身の恐怖であることをハリーは気にしている様子だった。

 夜の誰も居ない教室に三人が居る訳。

 それは、ハリーの吸魂鬼(ディメンター)対策だった。

 彼は人一倍、吸魂鬼の影響力が酷い。

 それ故に、去年のグリフィンドールVSスリザリンのクィディッチ戦で気絶してしまい、ニンバス2000を喪失した。

 そのため、フィールとハーマイオニーからの意見で防衛術を担当し、尚且つ『守護霊の呪文』を扱えるルーピンに相談し―――クリスマス休暇明けに、特訓しようと提案。ハリーと同い年で有体守護霊を呼び出せるフィールへサポート役を依頼し、彼女自身も手伝うと約束してたことから、事はスムーズに進んだ。

 そして、今日この日が特訓初日である。

 

「さて………ハリー、私がこれから君に教えようと思っている呪文は、非常に高度だ。いわゆる『普通魔法レベル(ふくろう)』資格を遥かに越える。『守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)』と呼ばれるものだ。フィール、手本を見せてくれるかい?」

 

 まずは手本として、フィールが杖を構えて呪文を唱えた。

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)

 

 杖先から銀色の霞が噴き出し、徐々にその気体は狼の形へと形状する。白銀の狼は空中を一周飛び回ると、ハリーの前へ行儀良く座った。

 

「前にも言ったけど………『守護霊の呪文』は、吸魂鬼を追い払うハイレベルの魔法だ。そして、術者によって形が違うから、個性が表れる呪文と言ってもいいかもな」

「へえ………」

 

 足下の付近に座った銀の狼の頭を撫でながら、ハリーは興味深そうに見つめる。ルーピンが来る前に『守護霊の呪文』の創り方はフィールが軽く教えてたが、彼は再確認としてハリーに説明を施す。

 

「呪文を唱える時、何か一つ、一番幸せだった想い出を渾身の力で思い詰めた時に、初めてその呪文が効く」

 

 ハリーは少し何かを考え………幾つか思い浮かんだのか、幾度となく呪文を唱え、杖先から白い煙みたいなものが現れた際には、顔に喜色が浮かべられた。

 さて、次はボガートを用いた実践練習だ。

 フィールは腕を組ながら、守護霊の狼は彼女の脇に座りながら、離れた場所でスタンバイ。

 ルーピンが箱を開けると、吸魂鬼の姿に変身したボガートが出てきた。

 流石はボガート。

 より本物に近い禍々しいオーラが漂う。

 

(偽者でも、やっぱり変わらない………か)

 

 不穏な気流を敏感に感受し、少し離れた場所に居るフィールの首筋に、冷や汗が流れた。

 ハリーは『守護霊の呪文』を唱えるが………床に倒れてしまい、フィールは狼を襲撃させて、箱の中に閉じ込めた。

 ルーピンが駆け寄って声を掛け、何度目かの呼び掛けでハリーは目を覚ました。フィールはポーチからチョコレートを取り出し、ハリーの口に突っ込む。

 

「ハリー、大丈夫か?」

「大丈夫………もう一回、やってみるよ」

 

 ハリーはふらふらと立ち上がりながら、気合いを入れ直してもう一度挑戦してみるが、またもや倒れてしまった。今度はフィールがハリーを叩き起こすと、

 

「父さんの声が聞こえた」

 

 と、ハリーは小さく呟いた。

 ハリーの呟きに、ルーピンがピクッと僅かに反応したのを、フィールは見逃さなかった。

 が、ハリーは自分のことで精一杯なのか、気付いていない。

 

「父さんの声は初めて聞いた。母さんが逃げる時間を作るために、独りでヴォルデモートと対決しようとしたんだ………」

「ああ………だからこそ、ハリーは生きている。いい両親じゃないか。アンタの父親は闇の帝王を相手に屈することなく真っ正面から対峙し、そして母親は息子を護り抜きたいと言う感情(あい)が勝ったからこそ、アイツを打ち破った」

 

 フィールはハリーの肩を叩き、フッと笑う。

 

「アンタのご両親の愛は、アンタの中にある。それはいつまでも消えることはない」

 

 フィールからの励ましに、ハリーの顔に自信が戻っていき―――次のリベンジで、見事、守護霊を盾の形にしてみせ、ボガートの進行を防いだ。

 最後にフィールの保護者である銀の狼がボガートを再び箱の中に押して、きっちりと蓋が閉まった。

 

「よくやった! ハリー、立派なスタートだ!」

「順調な出だしだ。アンタには防衛術の才能がある」

 

 ルーピンは心底嬉しそうな声を上げ、フィールも高い評価を送る。

 

「ありがとう………もう一度?」

「いや、もう止めよう。特訓は後日だ」

 

 ハリーの身体が限界なので、今日はここまでにして切り上げた。グリフィンドール寮へハリーを送ることをフィールはルーピンに言うと、二人は彼と別れた。

 寮に続く道を帰るがてら、二人は会話する。

 

「初日の実践練習で盾の形を形成させられる人は少数だ。ハリー、これからも頑張れよ」

「うん、勿論」

 

 首を縦に振ってから、ふとハリーは言った。

 

「………あのさ、フィール」

「なに?」

「フィールは、両親がいないの淋しい?」

「え………」

 

 思わぬ問いに、フィールは言葉を失う。

 ハリーのみならずクシェルさえも詳しいことは知らないが、フィールも彼と同じく両親がいないことは知っていた。

 

「………淋しくないと言えば、嘘になるな。昨日まで私の隣に居たはずの父親と母親が急に居なくなって、何をするにも気力が沸かないってのは何度もあった」

 

 フィールの言葉に、今度はハリーが沈黙する。

 ハリーは物心つく前に両親が亡くなったので、最初から両親のことも自分の素性のことも知らないで育っているが、フィールは違う。

 物心がついた頃のまだまだ幼い時に両親を亡くすという経験が、どれだけの衝撃をフィールの心に与えたのか、ハリーには想像もつかない。

 

(………どっちが幸せなんだろ………?)

(………どっちが幸せなんだ…………?)

 

 口には出さずとも、二人は同じことを、傷心に問い掛けていた。

 

 

 ―――同じ『両親がいない』でも………知らないと知っているでは………どちらが、まだ幸せなんだろうか。

 

 

♦️

 

 

 クリスマス休暇が終わった1週間後。

 その日はスリザリンVSレイブンクローのクィディッチ戦が行われ、前者のチームが圧勝してみせ、優勝までの獲得点数が大幅に近付いた。

 これで、ハッフルパフ戦と再戦の対グリフィンドールに打ち勝てば、スリザリンは優勝を奪還である。

 一方のグリフィンドールのクィディッチチームは去年手にした優勝杯を今年も手にしてみせると練習に気合いが入っている状態だった。

 

「だんだん守護霊の盾の形を維持する時間が長くなってる。これなら、次に吸魂鬼が競技場に乱入してきても、しばらくは遠ざけて、地面に安全着陸が出来るな」

「と言うより、もう乱入なんてして欲しくないけどね」

 

 ある日の夜中の魔法史の教室。

 ハリーとフィールは、吸魂鬼対策のレッスンの休憩時間、ホットチョコレートが入ったマグカップを手に椅子に座っていた。近くの椅子にはルーピンが座っている。

 

「………あの。吸魂鬼の頭巾の下には、何があるんですか?」

 

 不意に。

 ハリーは遠慮がちに、訊いてきた。

 ルーピンは表情を曇らせ、フィールは挙動が止まった。

 束の間流れる、奇妙な静寂。

 それを最初に破ったのは、意外にもフィールであった。

 

「………『吸魂鬼の接吻(ディメンター・キス)』という最後の最悪な武器を使う時に、彼らは頭巾を取る」

「その通りだ。吸魂鬼は徹底的に破滅させたい者に対してこれを実行する。多分あの下には、口のようなものがあるのだろう。ヤツらは獲物の口を自分の上下の顎で挟み、そして餌食の魂を吸い取る」

「殺されるんですか?」

「いや………殺されるよりも、ずっと酷い。脳や心臓が動いている限りは()()生きている。だけど治る見込みはない。記憶も感情も何もかもが失われた、空虚の存在。いわば空っぽの抜け殻だ」

「そう、なんだ…………」

「………あらゆる生き物に、魂がある。それは永遠に続く、まさに輪廻の連鎖だ。魂が無ければ人も動物も生きることは出来ない。簡単に言えば、吸魂鬼というのは生きる者の生命力を断ち切る恐ろしい存在だ」

「………………」

「世界は拡い。何処までも行ける。私達はこの世界の彷徨いの旅人も同然だ。魂だってそうだ。その人と共に彷徨い、共に死に、そしてそこからまた別の形で廻り巡る。輪廻転生と言うのは、ありとあらゆる形を持った魂と出逢える。それが真髄かもな」

 

 人も動物も、大なり小なり、魂という生命力を身体という器に兼ね備えている。

 それを吸い、奪うのが吸魂鬼だ。

 吸魂鬼に魂を吸われた者は新たな吸魂鬼―――魂の捕食者へと成り果てる。

 フィールは、魂を吸い尽くす、哀しくも虚しい闇の生物の存在の吸魂鬼を激しく嫌い、同時に憐れんでいた。

 

♦️

 

 2月に入り、グリフィンドールVSレイブンクローのクィディッチ戦当日。

 大広間は騒然としていた。

 その訳は、ハリーの箒だ。

 スリザリン戦の時に彼はニンバス2000を不慮の事故で喪失したのに、彼が現在持っている箒はファイアボルトという最高峰の箒だ。

 尤も、既に知っていたフィールやハーマイオニー達は特段驚きはしなかったが。

 

 試合で目立ったのは、やはりハリーだ。

 正確に言えば、彼の箒・ファイアボルトへの注目と興味なのだが。噂でホグワーツ生は聞いていたが、この試合を迎えるまでは公表されていなかったので、生徒達は興奮気味だが、彼よりも先にファイアボルトを使いこなしていたシーカーを持つスリザリンのクィディッチチームは同等のウエポンを手にしたところで彼女には勝てないと、人知れず冷笑を浮かべていた。

 

「ポッターにあの箒をプレゼントねえ………ホント、誰が彼に贈ったんだか」

 

 観客席でそう呟いたのはフィールとクシェルの同僚同輩の友人、ダフネ・グリーングラスだ。

 ダフネは、誰がわざわざ箒一本のために500ガリオンを支払い、プロのクィディッチ選手でもない学生のハリーにプレゼントしたのかと、クィディッチファンが聞いたら即殺人光線を飛ばしそうな考えを持っていた。

 

「ま、呪いが掛かってないなら、邪心がある訳じゃないだろ」

「そうだとしても、不気味なことには変わらないわよ」

「………それは否定しないな」

 

 二人がそんなやり取りをしている暇に、金のスニッチを見付けたのか、ハリーが猛スピードで飛翔した。

 

「………?」

 

 フィールは、ハリーの手元を凝視した。

 よく見てみれば、片手には杖が握られている。

 サッと競技場を見渡し………黒い頭巾を被った影が数名待ち受けているのが眼に入った。

 

「! あれって………」

「………いや、待てよ」

 

 クシェルも謎の影に気付き、反射的に杖を抜こうとしたが、なんとなく妙な感じがしたフィールは彼女の手を止める。彼女達が呪文を唱えるのを止めた時、

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」

 

 ハリーは黒い集団に向かって『守護霊の呪文』を詠唱。

 杖先から白銀の霞が噴き出すと、それは謎の黒い影にモロ直撃し、彼は脇目も振らずスニッチへ一直線。

 見事キャッチし、高々にスニッチを手にした腕を突き出していた。

 レフェリーのマダム・フーチが鳴らしたゲームセットのホイッスルをどこか遠くのように聞いていたのは、なにもフィール達だけでないはずだ。

 彼女らの視線の先には、ドラコ・マルフォイを初めとする他数名のスリザリン生が折り重なるように倒れていた。

 

「………アイツらはバカか」

「ええ。正真正銘の馬鹿ね」

 

 フィールとダフネの呆れた呟きは、静まり返った観客席に響いた。

 

♦️

 

 スリザリンから50点が引かれた翌日、事件が起きた。

 昨夜、グリフィンドール寮にシリウス・ブラックが侵入したらしく、襲われそうになったのはハリーではなく、意外や意外、ロンだった。

 生徒が奇襲されたことにより、ホグワーツは一層警備を強化した。呪文学の教科担任でレイブンクローの寮監・フリットウィックは城壁の壁と言う名の壁にシリウス・ブラックの写真を貼り付けて生徒に人相を覚えさせ、警備係として城内を徘徊させるトロールを配備させた。

 

「なんでよりにもよってトロールなの………」

「無駄に犠牲者を増やす気か、ホグワーツは」

 

 1年生の時に危うくトロールに殺されかけたクシェルは普段の生き生きとした顔を青くさせ、もしも生徒に襲い掛かったらどうするんだとフィールは怒っていた。

 

「でも、なんでロンが襲われたんだろ?」

「そうだな、そっちの方が問題だな。ま、これで判明したことがあるけど」

「え、なに?」

 

 クシェルは蒼白してた表情を一変、フィールの言葉に、緊張と期待を滲ませる。

 

「シリウス・ブラックの目的は、ハリーを殺すことではない。グリフィンドール寮に侵入したのは別の理由があるからだな」

「え、じゃあシリウス・ブラックは、死喰い人(デスイーター)じゃないってこと?」

「恐らくな。そもそも死喰い人だったんなら、彼らにとって崇拝するべき主人を倒した最大の宿敵であるハリーを殺さない訳がない。寮内に侵入してまで誰一人として殺害しないで逃走したなんておかしいだろ」

「あー………確かに。でも、なんで今更此処に来たんだろうね? あのアズカバンから脱獄するほどの並外れた実力があったんなら、わざわざ十数年間も待つ必要なんてないと思うけど」

 

 クシェルは、高い天井を見上げる顔に疑問符を浮かべる。

 ふと、横を見てみれば、フィールが何処かへ行こうとしているのを捉えた。

 

「フィー? 何処行くの?」

「トロフィー室」

「トロフィー室? これまたなんで?」

 

 クシェルが小首を傾げると、

 

「ついてくれば、わかるよ?」

 

 と、フィールは選択肢を投げ掛けた。

 クシェルは逡巡したが、フィールの後をついていくことにした。

 そうして、二人は4階にあるトロフィー室へとやって来た。

 そこには、数々の輝かしい功績を残した銀杯やカップ、賞状などが飾られている。

 

「それでフィー。此処に何の用があるの?」

 

 クシェルは室内をキョロキョロ見回し、フィールは手招きした。クシェルが素直にそちらに向かうと、

 

「クシェル、これ見てみろ」

 

 フィールは手に握っている一枚の写真をクシェルに見せ―――彼女は、翠の眼を大きく見開かせた。

 それには、四人の少年が写っている。

 三人は真紅と黄金のレジメンタルのネクタイを締め、一人は真紅のローブを羽織っており、肩を組み合い笑っている。

 クシェルが驚いているのは、四人の顔だ。

 グリフィンドール寮の代表選手が羽織る真紅のローブに身を包んでいるのはハリーとそっくりな顔の男子生徒で、その隣で満面の笑顔を浮かべているのは、四人の中でも一番背が高い黒髪の美少年だ。

 こちらから見て後者の右隣に居る小太りで小柄な少年に見覚えはないが、前者の左隣に居る、何故か顔に傷を負っている少年の顔には、クシェルにも見覚えがあった。

 

「え? ちょっ、この人、もしかして、ルーピン先生?」

「そうだろうな」

「………なんで、フィーはこのことを?」

「ハリーの吸魂鬼対策のレッスン初日、彼が父親の名前を呟いたら、ルーピン先生、反応したんだよな。それで、もしかしたらハリーの父親のことを知ってるんじゃないかって考え………此処で、この写真を見付けた」

 

 ハリーの父、ジェームズ・ポッターはクィディッチの代表選手でもあったのだ。なら、その時の写真が一枚くらいあるのではと、暇な時間を利用して此処に来て、発見したのだ。

 

「まず、この丸眼鏡を掛けた少年はハリーの父親で間違いない。右隣に居る少年は………手配書の写真からはとても信じられないけど、シリウス・ブラックだろうな」

「うん………で、この小柄な人は、ブラックに殺されたっていうピーター・ペティグリュー?」

 

 まじまじと写真を見つめながら、誰が誰なのかを見分けていき………そこでクシェルは「ん?」と顔を上げた。

 

「あれ? ちょっと待って………ペティグリューって、ハリーのお父さんやブラックの腰巾着的存在だったんだよね? ブラックは成績優秀だったんだし、殺害するんだったら、なにも『爆死』なんてしなくてもよかったんじゃ………?」

「ああ。仮にも死喰い人であったのなら、『爆死』じゃなく『死の呪文』1つで終わらせたはずなのに、こんなにも目立つ派手な殺し方をしたなんて、かなりの目立ちたがり屋だよな」

「………ねえ、まさかとは思うけど………『爆破呪文』で木っ端微塵にして証拠隠滅………とか、そんな訳―――」

「いや、その可能性はあるぞ。こんなことが考えられないか? 『秘密の守人』がシリウス・ブラックではなく、ピーター・ペティグリューで、彼が本当の二重スパイで尚且つ闇の陣営側の魔法使いだったのなら………合点がつかないか?」

「あー、なるほど………って、ええええええええええええええっ!?」

 

 推測の意味をやっと飲み込んだクシェルは、絶叫してフィールの両肩に手を置き、ぐわんぐわんと激しく揺らした。

 

「え? え? それ、本当に!?」

「まずは落ち着け。これは私の推測に過ぎない。だけど、不自然すぎる死に方をしたペティグリューを考えれば、これも一理あるかもよ?」

「た、確か小指一本だけを残してペティグリューは死んだんだっけ? ……身体が跡形もなく消し飛ぶほどの威力なのに、小指だけが残るなんて、変、だよね………」

 

 クシェルは幾分落ち着きを取り戻し、フィールの肩から手を離す。

 

「………ねえ、もしかして、ピーター・ペティグリューは生きているの?」

「………生きてるか死んでるかで言うなら、前者の可能性が高い………かもな」

「で、でも、それじゃあ、どうやってペティグリューは生きてるの………?」

「それはまだわからないし、そもそも生存してるかも不明だ。とにかく―――」

 

 フィールは真っ直ぐに、クシェルを見据えた。

 

「クシェル、常に気を緩ませるなよ。ボケッとしてたら、いつ、私達も寝首を掻かれるかわかったものではないんだからな」

 

 いつになく真剣な表情と声音で伝えるフィールに、クシェルは神妙な面持ちで小さく頷いた。

 

♦️

 

 時は流れ、イースター休暇。

 この休暇中、生徒達は学年試験へ向けての課題の量が半端でなく、四六時中談話室や各部屋のテーブルや机と向かい合って勉学に励む生徒が多数である。

 クィディッチの選手は練習も挟むので一般生よりも負担が大きいが、フィールは既に課題を終わらせたので、何もする必要はない。

 が、彼女はある人物の課題消化のサポートのために、夕食前の時間帯でも図書室に居た。

 

「ハーマイオニー、少しは休め」

 

 かなり窶れた様子で羊皮紙や教科書、参考書を図書室の一角のテーブルに広げて羽ペンを動かす獅子寮の友人へ、蛇寮の少女も羽ペンを走らせながら呼び掛けた。彼女の眼の下には隈が出来ており、病人のようだ。

 それもそのはず、ハーマイオニーは必須科目だけでなく全ての選択科目にも出席しているのだから、疲労困憊するのも無理はない。

 とは言え、授業全体の時間帯を考えればそれは不可能な話………のように見えるが、時間を遡る魔法道具があれば、話は別だ。

 『逆転時計(タイムターナー)』。時間操作が出来る貴重なアイテム。アレは魔法省が厳重に管理している物だが、特例として学校側が掛け合えば許可が下りる。だから、彼女は全ての選択科目を履修可能だった。

 フィールはクシェルと同じ魔法生物飼育学と古代文字ルーン学を取っており、ある日、古代文字ルーン学と数占い学を取っている友人のダフネが「グレンジャーが数占い学の授業にも出ている」と話したため、どういうことかと考え―――逆転時計の使用というゴールに辿り着いたのだ。

 それで、フィールは課題の消化が激しいであろうハーマイオニーに手伝える時は出来るだけ手伝うと声を掛け、現在、こうしてサポートしていたのである。

 

「でも、まだまだあるのよ………」

「私がなんとかするから、そろそろ仮眠取れ。じゃないと、身体壊すぞ」

 

 そこまで言って、フィールはハッとした。

 

(………ああ、そうか………そういうこと、か。なんか、クシェルが言ってたこと、わかった気がする…………)

 

 一度、クシェルに自分が言った言葉を言われ、それに対し「身体を壊すなんて、慣れてる」と返して叱られた………あの日の記憶に、思考を遡らせた。

 ………クシェルの気持ちが、今ならよくわかったような気分に、フィールはなった。

 フィールは思考を今に戻し、ハーマイオニーの方を見ると、彼女は精神的にも身体的にも限界を迎えたのか、テーブルに突っ伏して寝ていた。余程疲れていたのだろう。深い眠りに落ちている。

 

(この様子だと、睡眠時間、ほとんど取らなかったな………)

 

 フィールは変なところで頑固な友人にため息を吐くと、テーブルから長椅子にそっと寝かせ、椅子の背もたれに掛けていたローブを彼女の身体に被せた。

 それから、無言で『守護霊の呪文』を唱えて銀色の狼が飛び出すと、クシェルへの伝言を託し、室外へ駆けるのを見届けたら、周囲に物音を遮断する魔法や気配を隠滅させる魔法を張った。

 

(さて、もう一頑張りするか)

 

 フィールは背筋を伸ばして気合いを入れ直し、魔法が掛けられている青のだて眼鏡を掛けたら、残りの課題を終わらせようと、教科書のページをパラパラと捲った。

 

♦️

 

「―――ん………っ…………?」

 

 闇の中で、ハーマイオニーは目を覚ました。

 目を覚ますが否や、図書室全体は暗闇に包まれており、人の気配をまるで感じない。そして、テーブルに突っ伏してたはずなのに、何故だか長椅子で横になっている。

 ガバッと、勢いよく跳ね起きた。

 起きると、誰かが身体にローブを毛布代わりとして掛けてくれていた。

 

(私、もしかして寝てたの!?)

「やっとお目覚めか、ハーマイオニー」

 

 何処からか声が聞こえ、そちらに顔を向けてみると、フィールが腕組みして壁に背を預けながら立っていた。

 ゆっくりと、辺りを見渡す。

 昼頃、テーブルに広げっぱなしだった本などは綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「フィール、残りの課題は………?」

「結構な量だったから、全部終わらせた。中々楽しかったよ」

 

 事も無さげにフィールは言ったが、ハーマイオニーはあれだけの凄まじい量の課題を一人でやってのけたという物言いに、褐色の瞳を驚愕で揺らした。

 

「え、あの量を、全部………?」

「ああ」

「一人で………?」

「ああ」

「………貴女、やっぱり規格外だわ」

「それは誉め言葉として受け止める」

 

 不意に、ハーマイオニーはテーブルに置かれているキャンドルスタンドが放つ淡い光が周囲しか照らしていなく、まるで見えない壁があるかのように、暗闇とハッキリ区別されている空間に気が付いた。

 

「ねえ、今、何時なの?」

「真夜中の3時」

「………ええええええええええええええっ!?」

 

 ハーマイオニーは現時刻を聞き、思わず大声を上げてしまい、慌てて口元を押さえる。

 今の絶叫は、確実に外まで響いただろう。

 にも関わらず、誰も来る気配はなかった。

 

「此処ら辺に魔法は施していたけど、やっぱり正解だったな。だから、安心しろ」

「………ちょっと待って。でも、それじゃあ、ハリー達が…………」

「それも大丈夫だ。クシェルに守護霊の伝言で『今日は図書室に1日中居るだろうから、心配しなくていい』って伝えて、彼女からも『わかった』って返事が返ってきたし」

 

 それから、粗方説明をし終えたフィールは、

 

「ほら、まずは栄養補給」

 

 と、軽食のクッキーと紅茶が入ったティーカップを出して手渡した。

 ハーマイオニーは「校則違反よ」と言うが「真夜中に居る時点で校則違反だ」とフィールはさらりと返した。その返答に、渋々ながらも、ハーマイオニーは空腹から、素直に口に運ぶ。

 

「貴女がルールを破るなんてちょっと意外だわ」

「アンタ達が思ってるほど、私も完璧な優等生って訳じゃないからな。と言うより、この2年間、充分過ぎるほど規則は破ってきてるんだし、今更だろ」

 

 1年の時は教師陣が仕掛けたトラップの道中、2年の時は秘密の部屋へと大人の助けを不必要として向かった。

 なので、これは些細な破りに過ぎない。

 さて、それはさておき、ハーマイオニーはフィールも軽食を摂っているのを見て、怪訝な顔になる。

 

「………貴女、夕食出なかったの?」

「お腹空いてなかったから、別に行く必要はないなって」

 

 フィールは微笑しながら言うが、ハーマイオニーは、自分を気遣って敢えてそう言っているように思えた。

 

「………本当、貴女って、スリザリン生かどうかを疑うわ」

「そうか?」

「ええ」

 

 フィールは「結構スリザリン生っぽいのにな」と呟きつつ、ハーマイオニーに尋ねた。

 

「それで、これからどうするんだ? 私としては今更戻るのもダルいから、夜明けまで此処に居るのも悪くないけど」

「……………そうね。そうしましょう」

 

 刹那の思考。

 ハーマイオニーも、夜が明けるまで図書室に残ることを決めた。

 フィールは少し眼を見張ったが、久方ぶりの長時間の睡眠の寝起きなので、まだ身体を満足には動かせないのだろうと思い、棚にある本を手にすると、ハーマイオニーの隣に座った。

 

「夜明けまでまだ数時間あるし、暇潰し兼ねて読書でもするから、まだ寝とけ」

「そうするわ………あ、そうだ、フィール」

「なんだ?」

「一つ、貴女にお願いがあるのよ」

「お願い?」

「ええ。………ハグリッド、裁判に負けたの。まだ控訴があるんだけど、委員会はマルフォイの言いなりで………フィールの叔母さん、確か魔法省魔法生物規制管理部に勤務していたわよね? だから、なんとかして貰えないかしら」

 

 控訴に勝つには、ルシウス・マルフォイを上回る権力を使うか、彼自身が取り止めのために訴えを下げて貰うしかない。

 前者はほぼ無理な手段だが、後者には少なからずの希望が残ってる。

 今回の件で裁判の決定が任されている危険生物処理委員会が含まれている部門・魔法生物規制管理部には、フィールの叔母、エミリー・ベルンカステルが就いている。

 だから、姪のフィールが彼女へ事情を説明し、バックビークを救ってくれないかと、ハーマイオニーは依頼した。

 フィールとしても、バックビークの処刑は避けたかったので、ハーマイオニーのお願いを引き受けることにした。

 

「そうだな………わかった。エミリー叔母さんに頼んでみる。じっとしてちゃ始まらない。一か八か賭けてみるか」

「本当に!? ありがとう!」

 

 この時ばかりはハーマイオニーも疲労を忘れ、キラキラした瞳でフィールに感謝した。フィールはハーマイオニーの頭をポンポンと軽く叩くと、彼女の頭を抱えて、自分の膝の上に寝転がす。

 所謂『膝枕』というヤツだ。

 ハーマイオニーはフィールの意外な行動に戸惑いを見せる。

 

「え、ちょっ、フィール………?」

「こっちの方が寝やすいだろ。今は気力と鋭気を取り戻すことだけを考えて、もう少し寝とけ」

「………貴女がたまに見せるその優しさは何なのよ」

 

 ハーマイオニーは不思議そうに、でも、どこか安心したような笑みを浮かべ、フィールの太腿に顔を埋めて眼を閉じた。

 フィールはハーマイオニーの栗色の髪を優しく撫で、周囲に張っていた魔法を掛け直すと、本のページを捲り、夜が明けるのを待った。




【夜中のレッスン】
ハリーの吸魂鬼対策にフィールがサポート役。
グリフィンドール生とスリザリン生だけど、もうそんなもの関係無い。

【似ているけど違う、二人の家族事情】
原作主人公ハリーと本作主人公フィールの対比部分。
ハリーは1歳の時に両親が亡くなったからどんな人だったのか知らないで育ったけど、フィールは5歳の時に両親を亡くしたから、どんな人だったのか知っている。
知らないと知っているでは、大きな違い。

【去年優勝していたグリフィンドール】
原作と違って、去年のグリフィンドールVSハッフルパフは続行。前者のチームが勝利。
最終結果は、優勝杯ゲット。
そのため、スリザリンは優勝奪還を目標。
レイブンクロー戦とハッフルパフ戦でスコアを沢山獲得し再戦もとい決勝戦ともなるグリフィンドールに勝てば、優勝決定。

【名探偵フィール&クシェル?】
ホグズミードでの盗み聞き、トロフィー室の写真、ペティグリューの死因。
それらから事の真相を推測する二人。
結果→全部当たってる。
この二人、スリザリンじゃなくてレイブンクローに行けばよかったんじゃないのだろうか?

【夜中の図書室】
規則を思い切り破らせたかった回。
学年首席次席のフィールとハーマイオニーの二人だけが登場なのはちょっと珍しい。#2の軽ーい衝突は何処行ったんでしょうね?
そしてスゲー久々のだて眼鏡登場。
一体いつ以来だ?!
それはさておき、裁判沙汰のバックビークの件はベルンカステル家の人間に託された。
エミリーさん、お願いします!

【ハーフィル】
作者的なフィールとハーマイオニーの愛称。
学年首席次席の二人は成績が滅茶苦茶優秀。
意外とこの二人の組み合わせも悪くない。
余談ですが、ハーマイオニーが制服をきっちり着込むタイプなら、フィールはシャツの裾をスカートからちょっと出すタイプって感じです。
なんて言うか、この物語の脳内イメージ図でキャラ達の制服の着方は映画版の時みたいに結構自由スタイルです。
私は『ローブ・ワイシャツ・ネクタイ』と『カーディガンスタイル』が好きなのですが、映画の影響が強いためか、フィール達が5年生を迎えるまでは記述でもちょくちょく『セータースタイル』にしてます。
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