【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
その日、ホグワーツ魔法魔術学校に通う全校生徒達はこれまでにないほどの白熱とした熱気と活気にオーバーフローしていた。
その理由は、今シーズン最後において再戦及び決勝戦にまで持ち運んだクィディッチ優勝戦・グリフィンドールVSスリザリンが開戦されるからだ。
両チーム共、あの没収試合となった初戦以降のレイブンクロー戦とハッフルパフ戦で快進撃を続け、ここまで這い上がってきた。
点数差は1点たりとも無い。
即ち、優勝の決定は―――ハリー・ポッターとフィール・ベルンカステル、どちらかのシーカーが金のスニッチを手にした瞬間だ。
「さあ皆、決勝戦に向けて鱈腹食え」
「マーカス、それはアンタもだ」
決勝戦前の大広間・蛇寮テーブル。
スリザリンのクィディッチチームのキャプテンであるマーカス・フリントは、スリザリン生達からの応援に手を振りつつ、自分は何も食事に手を伸ばさないでそう言ったため、彼の隣に座っていたピンチヒッターのシーカー・フィールが突っ込んだ。
「飲み物でもいいから何か飲め。糖分を摂った方がいいぞ。オレンジジュースで構わないか?」
「ああ、貰おう」
機械のロボットみたいな手の動かし方で、フィールからゴブレットを受け取るマーカス。
まあ、彼のみならず他の先輩選手も皆緊張でガチガチになっているのだが………。
そんな彼らへ、勝利をもたらすシーカーであり紅一点の黒髪の少女は不敵な笑みを浮かべて、ニヤリと口の端を上げた。
「大丈夫だ。どんなにレイブンクローとハッフルパフがグリフィンドールが勝つと予想しても、最後に勝つのは私達スリザリンなんだからな」
フィールからの絶対優勝宣言。
それは、緊張と不安に飲み込まれていたマーカス達の心に大きく響かせた。
「そうだ! 最後は俺達が絶対に勝つ! よく言ったぞ、ベルンカステル!」
バシバシとフィールの背中を叩くマーカスはさっきまでの硬くしていた表情をすっかり満面の笑みに緩ませ、ゴブレットの中身を一気に飲み干した。
「フィー、頑張ってね」
「フィール、頑張りなさいよ」
クシェルとダフネから応援されたフィールは表情を微かに綻ばせて、トーストを口にした。
朝食を摂り、ロッカールームへ行こうとしたフィールへ、クリミアが駆け寄ってきた。
「フィール、おはよう」
「ああ、おはよう」
「今日はいよいよ決勝戦ね。無理はしないで、精一杯頑張ってきなさい。………それと、貴女が首に下げているロケット、私に渡してちょうだい」
「ロケット?」
「ええ。今回は激しい試合になるだろうし、チェーンが切れたりしたら危ないでしょ? だから、私に預けなさい」
「………そうだな。お願い」
フィールは寝る時以外は肌身離さず首に下げている銀色のロケットを取り出し、クリミアへ手渡した。
クリミアはしっかりと受け取り、大切そうに首から下げ、フィールは再び歩みを進める。
彼女の後ろ姿をクリミアは遠くから見つめ、ロケットに触れた。
(………フィールなら、きっと、スリザリンを優勝まで導けるわよね?)
心の中で疑問系の言葉を呟くクリミア。
そんな彼女へ、返す言葉が飛んできた。
《―――ええ、勿論よ。だって、フィールはわたしの自慢の娘よ?》
何処からか聞こえる、謎の声に。
クリミアは淡い笑みを浮かべ、応援席へと向かった。
♦️
ロッカールームでユニフォームに着替えたフィールはマーカス達と合流後、一回グータッチし合って各自の箒に跨がり、時折爽やかな風が吹く絶好の快晴日和の大空へと飛翔した。
競技場内に選手達が入場すると、この日をずっと待望していたギャラリーから大歓声と大拍手で出迎えられる。
グリフィンドールのキャプテン、オリバー・ウッドとスリザリンのキャプテン、マーカス・フリントが毎度恒例の握手という名の握り潰し合いを交わし―――
―――
クアッフルが放たれる。
それに真っ先に食らい付いたのは、チェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンとグラハム・モンタギューだ。二人は身体と身体を衝突させ、一歩も譲らぬ凄まじい勢いで奪い合う。
ブラッジャーが飛び回る。
2つあるそれをフレッド・ウィーズリーとルシアン・ボールが片手サイズの棍棒を振るい、それぞれ敵チームのシーカーへと打ち込む。
シーカー二人は素早く避ける。
物凄いスピードで向かって飛んで来た、暴れ玉とも呼ばれる鉄製のボールを軽々と躱したチームの花形、ハリー・ポッターとフィール・ベルンカステルは空中で対峙し、鋭く睨み付ける。
「………ハリー」
「……フィール」
勝機を敵には譲る気は殊更ない強い両眼で相手を見つめ、交錯する蒼と緑の瞳には、今日、此処で打ち負かすべき大敵をハッキリと映す。
そして二人は、静かに口を開いた。
「今日こそ、決着をつけよう」
「今日こそ、決着をつけるぞ」
二人が注意深く周囲を見回す間にも、チェイサー同士のタックルやキーパーのセーブ、ビーターが放つブラッジャーの豪速球が行き交い、決勝戦の名に相応しい乱戦模様へとなっていく。
特にビーターはシーカーを叩き落とすのに集中的なのか、中々にフィールとハリーはさっきから狙われていた。
(ちっ………これは早めに取らないとまずいな)
フィールはグリフィンドールのビーターを務めるフレッド&ジョージのウィーズリーツインズを遠目から睨むようにしつつ、長引けば大怪我を負いそうだと競技場内全体を360゜注視する。
一方のハリーも同感なのか、彼もキョロキョロ辺りを見渡しながら飛翔していた。
空中を飛び回るシーカー二人に、観客席に居る生徒達の視線は釘付けであった。
シーソーゲームを繰り返していた決勝戦。
開戦から数十分後―――歓声が一際大きくなった。
ギャラリーの目線の先には、ほぼ同時に金のスニッチをロックオンしたスリザリンのシーカー・フィールとグリフィンドールのシーカー・ハリーが高速で飛び出した姿。
二人は肩と肩をぶつかり合わせ、スニッチに向かって手を伸ばす。
その二人へ、各チームのビーターを務めるジョージ・ウィーズリーとプレグリン・デリックが打ち込んだ2つのブラッジャーが、サイドから物凄いスピードで飛んできた。
スニッチを手にするだけに気を取られていたハリーは前方の片隅に映った鉄の球を慌てて避け、体勢を立て直そうとする間に―――
―――同じく、豪速球で飛んできたブラッジャーを華麗にスピンして回避したフィールは、ハリーを置き去りにしてまっしぐらに飛翔した。
「………ぁ」
ハリーは絶望的な声を漏らす。
たった数秒間、バランスを崩した、ただそれだけの刹那で、彼女は自分よりも一歩前進した。
彼は急いで、現存する箒でも最高速度を誇るファイアボルトの特性を活かして、追い縋る。
けど、それは敵わない。
何故なら、彼女も同じ最高峰の箒だからだ。
自分と相手が同等のレベルであるのならば、一つのミスだけでも、敗北してしまうのは火を見るよりも明らかだ。
金色に輝くスニッチが、空高く上昇する。
ハリーはそれを、どこか遠くのように見上げていた。
―――決着は、つけられた。
観客席に居た、生徒達と教師陣。
箒に乗って飛翔していた選手達。
そして、ハリーの眼に飛び込んできたのは。
―――黒髪の少女が、高々に金のスニッチを掴み取った腕を突き出している姿だった。
♦️
競技場内から、一切の音が消えた。
皆は呆然と、輝く晴れ空に浮かび上がっているスニッチを手にした少女を見上げていただけであった。
だが―――。
「………俺達の―――」
静寂に包まれていた、クィディッチ競技場。
先頭切って口を開いたのは、歓喜に満ちた表情で優勝奪還に導いたシーカーを仰ぎ見るスリザリンチームのキャプテン、マーカス・フリントだった。
「
それを契機に、スリザリン生全員が爆発した。
久方ぶりのグリフィンドールの敗北に絶望のどん底へ叩き堕とされた3寮の生徒達へ追い打ちかけるかのように、グリーンとシルバーのレジメンタルのネクタイを締める蛇寮の生徒達がグラウンドに流れ込んでいく。
地面に着地したフィール・ベルンカステルにマーカス・フリントは、嬉し涙で濡れた顔で抱きつき、ルシアン・ボールとプレグリン・デリックは彼女の背中をバシバシ叩き、カシウス・ワリントンとグラハム・モンタギューとマイルズ・ブレッチリーは共に優勝だと叫んで抱き合っていた。
クシェル・ベイカーは喜びのあまりダフネ・グリーングラスの手をブンブン振ってはしゃぎ、この時ばかりは、彼女も嬉しそうな表情で頷いていた。アリア・ヴァイオレットも柔らかい微笑みを形作り、スリザリンチームへ称賛の拍手を送っていた。
スリザリンが狂喜するとは裏腹に。
グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローは金縛りにあったように、怖いくらいに静まり返っていた。
応援団は信じられないという表情で顔を凍り付かせ、グリフィンドールの選手は愕然として両膝をつき、地面に両手をつけて顔を伏せている。
彼らが止めどもなく目元から流しているのは、スリザリンの選手とは真逆の、悔し涙。
今シーズンのスタートで開幕し、中止となったあのクィディッチ戦で見せつけられたスリザリンチームの突然の正々堂々とした戦法と圧倒的実力と連携に、次こそは負けぬよう、そして、ただただ勝つことを目標に、何日も厳しい猛特訓を積み重ねてきたはずなのに。
なのに、負けた。無様に、敗北した。
どうしても負けを受け入れたくない彼らは現実に眼を背けていることだと自覚しつつ、けれども認めたくない一心で嗚咽混じりに泣いていた。
グリフィンドールの花形―――ハリー・ポッターは、ファイアボルトを手から落として、虚空を仰いだ。
魔法でも成績でも、何をやっても完璧にこなし誰もが認める学年首席のフィールに、唯一勝てる自信があった、クィディッチ。
しかし、これで判明したことがある。
自分は、彼女には勝てない、と。
たとえ自分のフィールドであろうとも、最強の彼女の足元には及ばないんだ、と。
(いや………そんなこと、ない!)
ハリーは拳を握り締める。
確かに、フィールは強い。何事にも。
だが、それがこれから先でも打ち勝てないなんて理由には、ならない。
相手が強いなら、頂上に君臨しているなら、自分はそれ以上の高みまで必死こいてでも、這い上がる。
それが、今の自分に出来ることだ。
弱気になる心を、ハリーは奮い立たせた。
そして、彼はゆっくりと立ち上がり、スリザリンの集団へと歩んでいく。
それに気付いたフィールは、マーカス達に片手を上げて制し、彼女も歩んだ。
再び、競技場内に静けさが訪れる。
スタジアムのど真ん中で向き合う、黒髪の少年と少女。
少年は、強い緑の瞳で腕組みしながら蒼い瞳で真っ直ぐ見てくる少女を見据えた。
「…………僕は君に負けた。無様に」
「…………………」
「でも、諦めない。君に勝つまでは、絶対に。だから、僕が君に追い付くまでその日まで、越えることを目標とする存在に君臨したままで、待っていてくれないか?」
「…………ああ。楽しみにしてるよ」
フィールはグローブを嵌めた手を差し出した。
ハリーも手を伸ばし、二人は握手した。
試合場から、歓声と拍手が沸き上がる。
―――固い約束を交わした二人に微笑みを称えるかのように、爽やかな風が一つ、この場に流れてきた。
♦️
誰も居ない、競技場から遠く離れた場所に配置している観客席。
そこに、大きな優勝杯を抱え、メンバーと一緒に記念写真を撮って貰っている黒髪の少女を遠目から見守る人影があった。
水色の髪に、紫色の瞳の少女だ。
カナリア・イエローとブラックのレジメンタルのネクタイを締め、首には銀色のロケットを下げている。
少女―――クリミア・メモリアルは、ひとっこ一人居ないこの場所に『認識阻害魔法』を掛け、終戦するその瞬間まで、此処で観戦していた。
「フィール、優勝したわね。流石だわ」
まるでそこに誰かが居るみたいに話すクリミアだが、当然ながら、人は居ない。
しかし、彼女の隣には、白銀の光を纏う女性の影があった。
20代半ばくらいの品の良さそうな感じで、面差しはあの少女と瓜二つの女性だ。
沈黙を持って試合の結果を見届けていた白銀の女性は、やがて静かに口を開いた。
《―――フィール。貴女の活躍は、ちゃんと見ていたわよ。流石、わたしの自慢の娘だわ》
誇らしげに話す、白銀の女性へ。
クリミアは、そっと笑い掛けた。
「ええ。私の自慢の妹よ―――お母さん」
♦️
スリザリンが優勝を奪還してから、数日間が経過した。
スリザリン生は皆四六時中狂喜乱舞し、優勝したその日の夜は談話室で宴を開き、数時間ぶっ通しでどんちゃん騒ぎだった。
ピンチヒッターのシーカーを務めたフィールは廊下ですれ違う度に、他寮の生徒達―――主にグリフィンドール生―――から殺気混じりの眼差しで睨まれる日々が続いた。
だが、それも6月に突入して学年試験の日が間近に迫ってきたら、ホグワーツ城内は煩いくらいの喧騒が鳴りを潜め、ピリピリとした空気に包まれるようになった。
そんな、至って普通の学校生活が送られる日常の裏側で―――ある少女達は、ある話題について試験勉強をしつつも推測を交わしていた。
「そういやさ、フィー」
「ん? なんだ?」
蛇寮の女子部屋・試験勉強の休憩時間。
クッキーが入った皿をテーブルに載せ、それをバリボリ齧っていたクシェルは、ミルクティーが入ったティーカップを傾けているフィールへ話し掛ける。
「シリウス・ブラックがアズカバンから脱獄出来たのかもしれないのって、
「ああ、そうだけど」
「だったらさ、ピーター・ペティグリューも動物もどきだって考えられない?」
「私もそう思う。動物もどきなら、アズカバンからの脱獄も何処かへ逃亡するのも、そこまで不可能ではないし」
「でもさー、仮にも動物もどきだっていうなら、なんで覚えようと思ったんだろうね? アレって確か、変身術の中でも最高位に難しくなかったっけ?」
クシェルは小首を傾げ、訳がわからないと疑問符を顔に浮かべる。
何故、わざわざ習得困難な能力を覚えようとしたのか。
その理由がさっぱりわからず、また、そんなものを覚えたところで結局は使い道が無いように見えるのだ。
余程の目的があったのならば、話は別だが。
「ま、でも、ある程度予想はついてるけどな」
「え、それ、ホント?! 教えて!」
「構わない。ただし」
フィールは、真っ直ぐクシェルを見据えた。
「予想を聞くっていうなら、これは他言無用だ。それを約束しろ。いいな?」
いつになく真剣な面持ちで言うフィールに、クシェルは緊張感を走らせつつ、固く頷く。
「うん………わかったよ」
約束の首肯をしたクシェルへ、フィールは飲み掛けのミルクティーが入ったティーカップをテーブルに置き、推測を口にした。
「ブラックやペティグリューが動物もどきだと仮説を立て、そこから何故なのかと考えると………その訳は、ルーピン先生の存在が教えてくれる」
「ルーピン先生が?」
「クシェル、覚えてるか? クィディッチ初戦の前日、スネイプ先生がルーピン先生の代理で授業をした時の内容を」
「え? えーと、確か『人狼』だったような……って、え? ………まさか―――」
「そう。ルーピン先生は、狼人間だと思う」
クシェルは、ハッと息を呑んだ。
狼人間と言えば、魔法界から差別されている人格者だ。生まれつき狼人間の人もいれば、噛まれて新たな狼人間になったパターンもある。
現存する人狼の中で、最も残酷で獰猛と危険視されているのは、フェンリール・グレイバックという男だ。彼は闇の陣営側の人狼のリーダー的存在としても恐れられている。
「………確かに。ルーピン先生、満月の日の前後は決まって体調不良だったよね」
クシェルは納得したのか、一息ついて、フィールの顔を見つめる。
「ルーピン先生は良い先生だし、ホグワーツから追い出したいとは、私は思わないよ。でも、これがバレたら、絶対にパニックが起きるよね」
「生徒の保護者は黙っていないだろうな。ルーピン先生が人狼だって知った瞬間、吼えメールを送り付けると思う。………彼は被害者だっていうのに、迫害されるなんて、あんまりだよな」
「私もそう思う。狼人間の中にも、なりたくてなった訳じゃない人だっている。………今の時勢、ルーピン先生は過酷な現状で生きることになるんだね…………」
クシェルは俯いた。
誰かのために心を痛めている様子であった。
それを見て、フィールは眼を細め、ポンポン、とクシェルの頭を叩いた。
「ちょっ、フィー?」
クシェルはビックリして眼を丸くした。
フィールがこんなことをするなんて、意外すぎて思いもしなかったからだ。
「………アンタは、本当にいい人だよな。世辞とか虚偽とか、そういうんじゃなくて………誰かのために痛みがわかってあげられる人は限りなく少ない。だから、アンタみたいな人がいるだけでも救われる人はいるんじゃないか?」
話していく内に変わっていく、彼女の瞳。
いつもと変わらない蒼い眼のはずなのに、それに宿る光はどこか闇夜のように暗く、微かに羨望の色が混じっているように、クシェルには感じ取られた。
「………なんて、柄にもないこと言ったな。気にしないでくれないか?」
「………う、うん………わかった………」
突然変わったフィールの雰囲気に呑まれそうになったクシェルは、慌てて首を縦に振った。
「さて、それはそうと………ここまで来れば、私の推測もわかるだろ?」
「うん。つまり……ブラックやペティグリュー、そして多分だけどハリーのお父さんは、人狼のルーピン先生が変身後も一緒に居られるように、動物もどきを習得した………」
人狼は確かに変身すると凶暴になるが、それは人間に対してのみだ。動物に対してはそうではない。人間としての思考があり、かつ襲われない対象の動物になれる………双方兼ね備わっているのは、動物もどきのみだ。
「ブラックやペティグリューがどんな動物なのかはわからないけど……多分、真実はこういうことだよね。12年前、裏切り者のペティグリューは全てを知っているブラックに追い詰められた時、彼に濡れ衣を着せるため周囲に居たマグルの人達を爆死させた後、小指だけを残して動物もどきになり、逃亡した………が、一番辻褄が合うよね」
「恐らく、そうだろうな」
なんてヤツだ、と言いたげな表情でクシェルとフィールは顔を見合わせる。
「フィー、これがもしも本当だったら………」
「………とんでもない、冤罪事件だよな」
「………ねえ、フィー」
「なんだ?」
クシェルは、思い切った様子でフィールに訊いた。
「フィーはさ………相手が学生時代からの親友だったとしても、自分の命が脅かされたら、その親友を裏切って生きる道を選ぶ?」
クシェルは、現在話題としている内容から、もしも自分が同じ立場になったらどうするのか、と―――唐突な質問に、フィールは眼を細めた。
自身の身を投じてでも、友を救うか。
あるいはその逆で、友の命を犠牲にして、のうのうと生きるのか。
眼を閉じて黙考していたフィールが、やがて静かに口を開いて答えたのは、
「―――友達を裏切ってまで生きるくらいなら、私は私の命を差し出す覚悟でその人を護り抜く」
自分が死ぬことに対しては、何も厭わない。
だけど、大切な人達が殺されることは、絶対にあってはならない。
「………やっぱり、フィーってカッコいいよ」
「…………ああ、そう」
「でも、さ。だからと言って、なんでも独りで抱え込んだり無理したりするとは、別だよ?」
なんとなく、フィールはクシェルが言いたいことを察した。
―――独りだけで抱えないで、自分に頼れ。
遠回しでそう言っているように、フィールには感じられた。
「………なんのことだか」
とぼけたように、フィールは肩を竦めた。
クシェルはまだ何か言いたげな顔だったが、口を噤み………あっ、と何かを思い出した顔になり、話を戻した。
「………ちょっと待って、フィー。数十年前にペティグリューを追い詰めてたはずのブラックは、なんで今になってアズカバンから脱走しただけには飽き足らず………グリフィンドール寮に侵入してロンを襲ったの?」
「………考えられるのは、動物もどきのペティグリューが生徒のペットに紛れてる…………だな。ブラックがグリフィンドール寮にまで侵入したってことは………多分だけど、ロンが飼っているペットが、動物もどきのペティグリューなんじゃないか?」
「ええええええええええええっ!?」
クシェルは絶叫し、フィールの肩を掴む。
「ちょっ、それ、ロンがマズいんじゃ!? それにハリーも!」
「落ち着けクシェル。流石にそれはわかってる。だけど、確証が無い現状で私達が事を急かしたら尚更パニックが起こるし、これが此処に居るだろうペティグリューの耳に行き渡ったら、それこそ見つけるのが困難になるだろ? だから、私達は知らないフリをして、ペティグリューが姿を現す瞬間まで待つんだ」
「でも………だけど………!」
「アンタが言いたいことはわかる。けど、なんでも早く動けばいいって訳じゃない。去年も言っただろ? 時には相手が尻尾を出すまでじっと堪えるのも大切だ、と。全ての真相を知るブラックが此処まで来てるんだ。ペティグリューに逃げ場は無いのも同然だ」
肩に置かれたクシェルの手を包むようにしながら触れるフィールは、言葉を続ける。
「万が一、ハリーやアンタに命の危機が迫れば、私がなんとかする。だから、安心しろ」
フィールからの予想を遥かに上回る意外な言葉に、クシェルは翠の眼を大きく見張る。
とてもではないが、フィールがそんなことを言うなんて、出会った当初の彼女からは到底考えられないからだ。
「………ありがと。そう言ってくれるのは、嬉しいよ。でも―――」
クシェルはフィールの手からスルリと抜け、彼女の色白の手を取る。
「―――それってさ、貴女自身が孤高の存在になりかねないことだよ?」
フィールは、確かに頼もしい。
正直なことを言ってしまえば、そこいらに居る先輩方よりもずっとだ。
けれども、それはフィール自身が孤立しかねない危うさも秘めている。
だから、クシェルは心配だった。
強いからこそ、独りにならないか。
自分達からすれば彼女は遠い存在だと、誰にも追い掛けられなくなるんじゃないか。
そう、フィールが孤立しないかをクシェルは気に掛けていた。
「…………………」
握られた手のぬくもりに浸るフィールは、クシェルの心配そうな翠の瞳を見つめ―――フッと笑みを向けた。
「―――私は大丈夫だから、アンタが心配する必要はない」
何に対して、「大丈夫」だと言ってるのか。
それがわからないクシェルは、何も言わず、ただ、悲しげな笑みだけを向けた。
【謎の声の主】
クリミアは既に知っている模様。
【気になる決勝戦の結果は?】
スリザリンが優勝を奪還。
オリ主さん、ピンチヒッターの役目、お疲れ様でした。
【白銀の女性】
最早ネタバレもいいところです。
【真犯人をロックオン】
けどまだ動かない。時が来るまでスタンバーイ。