【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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前半はタイミング的に書けなかったフィールとクリミアのクリスマス休暇中のちょっとした出来事からスタート。


#43.寂寥感、喪失感、孤独感

 ハッフルパフ談話室。

 厨房の廊下右手の陰にある樽の山が入口になっていて、二つ目の列の真ん中の樽の底を2回叩く(通称:ハッフルパフ・リズム)と、寮への扉が現れる。

 間違えると寮のセキュリティ対策として熱されたビネガーが掛けられる仕組みだ。

 中は広い円形の黄色と黒のインテリアが施された温かな雰囲気の部屋で、同じく黄色と黒の掛け布がぶら下がっていたり、中央には大きなふかふかのソファーがあって、その周りには沢山のロッキングチェアがある。

 寮監は薬草学担当のポモーナ・スプラウトで、多種多様な植物を持ち込むのもあってか、ハッフルパフ寮は薬草学に秀でている生徒が多い。

 また、厨房と繋がっている扉があり、そこから屋敷しもべ妖精が料理や軽食を持ってきてくれるので、とても最高な寮だ。

 

 クリスマス休暇中・穴熊寮の女子用寝室。

 そこに、此処の寮生の女子監督生で別格の超優等生として人気者の水色髪紫眼の少女―――クリミア・メモリアルは、現在彼女だけがハッフルパフ生で残ったことから、他寮のスリザリン所属の義妹フィール・ベルンカステルを呼んで、二人で時間を潰していた。

 時刻は既に夜中で、フィールは一晩此処で寝泊まりすることになった。勿論、クシェルには断りを入れているので、問題は無い。

 二人は木製の丸い椅子に座っていた。

 既に寝間着を着ている状態であった。

 

「スリザリン寮とは、まるで違う寮だな」

「フィールも此処に来てたら、いつでも私の所に来れたのにねえ」

「………子供扱いするな」

「私からすれば、充分子供よ」

 

 クリミアはからかい気味にそう言った。

 フィールはジト眼で睨むが、クリミアは涼しい顔を崩さない。

 

「そういえば、エミリー叔母さんから、バックビークの件の返事が届いたわよ」

「エミリー叔母さんは、なんて?」

「『わかったわ。なんとかしてルシウス・マルフォイを説得してみるから、安心しなさい』って」

「………そうか。よかった」

 

 今、魔法省で裁判沙汰になっているヒッポグリフ・バックビーク。

 あの日の夜中の図書室で、ハーマイオニーから「エミリーさんが魔法省魔法生物規制管理部に勤務しているなら、彼女に事情を伝えてバックビークを救ってくれないか」と頼まれ、それを引き受けたフィールは、夜が明けたらすぐに手紙を書いた。

 その後、エミリー達と手紙のやり取りをするのが多いクリミアにも状況を説明して彼女のフクロウ・ホーリーを貸して貰い、速達で送り出して、後日、手紙が返ってきたみたいだ。

 返答はOK。

 あとはエミリーに全てを賭けるしかない。

 

「フィール。私は嬉しいわよ」

「は? 何がだ?」

「だって、貴女はこうして誰かのために動けるようになったじゃない。妹が成長したんだなって、喜ばずにはいられないわよ」

 

 瞳に嬉しさを宿らせ、クリミアは伝える。

 だが、素直じゃないフィールはプイッと顔を背けた。

 

「もう。こういうのは、素直に受け入れなさい」

 

 クリミアは苦笑しながら、黒髪を梳く。

 今回はシャンプーを変えた関係上、ちょっと癖毛の髪は完璧にサラサラな髪質で、指通りが特段良い。

 フィールは心地よさに蒼い眼を細める。

 自然と、華奢な身体がクリミアの方へもたれ掛かった。

 クリミアはフィールの身体を受け止め、甘い香りが漂う黒髪に鼻腔をくすぐられながら、彼女へ問い掛ける。

 

「………もう寝る?」

 

 姉の問いに、妹は無言で頷く。

 クリミアはフィールをベッドまで運ぼうとしたが、そこで彼女はある意見をぶつけた。

 

「………あのさ、クリミア」

「なにかしら?」

「………一つ、お願いがあるんだけど、いい?」

「お願い?」

 

 フィールからのお願いとは、とても珍しい。

 一体なんだろうか、と少し緊張感を持ちながら待っていると、フィールは体勢を直して少し頬を紅く染め、やがて言いにくそうな表情で、静かに口を開いた。

 

「その……、い………、一緒に寝てくれない?」

 

 クリミアは一瞬思考がフリーズした。

 予想外過ぎる発言に、頭が追い付かないのだ。

 けど、それも束の間。

 ニヤニヤ、と悪戯っ子な笑みを浮かべる。

 

「フィールからのお願い、まさかそういうものだとはねえ。なに? 私がいなくて、急に淋しくなったの?」

「ち、違っ………! そんなんじゃ………!」

 

 普段のクールさは何処へやら。

 端正な顔を恥ずかしそうな表情にして、フィールはクリミアに背を向ける。

 

「そんなに恥ずかしがることはないのにねえ。じゃあ、一つ言ってみてもいい? こんなことを言ってくるなんて、ちょっとは誰かに甘えたくなったんじゃないのかしら?」

「………………」

 

 フィールは答えない。

 だが、それは肯定とみなされる。

 図星であったからだ。

 彼女はポツリポツリと語り出す。

 

「………前にハリーの吸魂鬼(ディメンター)対策の為の特訓に付き合って………その帰り道でハリーに言われた。『フィールは、両親がいないの淋しい?』って」

「それで、寂寥感に心が圧されたのね」

 

 長い付き合いであるフィールの心境をすぐに察したクリミアは、その背中を優しくさする。

 

「……あまり、他の人にお父さんやお母さんの話はしたがらないわよね、フィールは。それは、勿論複雑な事情があるからって理由もあるけど……言えば言うほど、生きてた頃のお父さんやお母さんとの想い出が甦って、辛くなるからなんじゃない?」

 

 クリミアは、フィールの心の裏側をよく知っている。

 熟知しているが故に、クリミア自身、フィールの前では父ジャックと母クラミーの話題は出来るだけしないように心掛けていた。

 

「………本当、クリミアには敵わないな」

「私は貴女の姉よ。幼い頃からずっと一緒に居たんだから、当たり前じゃない」

 

 クリミアは、何を当然なことを、と言いたげに椅子から立ち上がると、自分が寝起きで使用するベッドの中に潜り、ポンポン、と空かせたスペースを手で叩いた。

 

「ほら、来なさい」

「………お邪魔します」

 

 フィールもベッドに潜り、彼女はまだ若干赤面している顔を見られたくない気恥ずかしさから後ろ向きになった。

 

「全く………お互い、気心知れてる者同士なんだからそんなに羞恥することないじゃない」

「………煩い」

 

 ムキな口調になるフィールに、クリミアはニッコリとする。

 

「それで、何かして欲しいことはあるかしら?」

「普通に寝かせて欲しい、だけど?」

「あら? なでなではいらないの?」

 

 どうせこれもまた拒否するだろう、と思いつつそう訊くと、

 

「…………………クリミアの好きなようにすればいいだろ」

 

 と、意外や意外、まさかの了承してくれた。

 クリミアは一驚の連続に、本日何度目の不慮かとしばし唖然していたが、

 

「ふふ、なら、遠慮なく」

 

 柔らかい微笑みを湛え―――慣れた手付きで、フィールの長い黒髪を優しく撫でた。

 クリミアに髪を撫でられる感触に、フィールは全身から力が抜けていく。

 何かある度―――淋しさや孤独に耐えられず、独り涙した時は何も言わず傍に居てそうしてくれた感触に、フィールの意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 一体、いつ以来だろう。

 こんなにも、心が和んだのは。

 少なくとも、父と母を失い、喪失感に見舞われる日々の現実では、久方ぶりだった。

 ホグワーツに入学してから、嬉しいことは、勿論あった。

 

 同寮同輩で自分を親友だと言うクシェル。

 同い年だけど他寮に所属のハリー達三人。

 妹みたいに可愛がってくれる年上の三人。

 

 ホグワーツではトラブルがやたら起きるが、楽しい時間を過ごせる場所に変わりはない。

 孤独感に感情が支配されて生きてた頃とはまるで異なる学校生活に、自然と、身体にポッカリと穴が空いてた気分は消え去った。

 でも………それも、もうすぐ無くなる。

 自分の存在は誰からも否定されている。

 だから、8年前、あんなことを言われた。

 何故、父は死んで自分は生きてるのかと。

 どうして、こんな世界に生きてるのか。

 それが…………自分にも、わからない。

 

 

 

「―――フィール、もう寝た?」

 

 ふとした拍子に、自分の存在意義に彷徨っていたフィールの耳に―――クリミアの寝ていたら起こさないようにと小さく抑えた声が入る。

 その声に、フィールは眼を開けた。

 

「………いや、まだ…………」

 

 フィールはもんどり打って、クリミアと向き合った。

 

「………少し、話す?」

「……………そうだな」

「………また何か思い詰めてるわね?」

「まあ、色々あるから、ちょっと………」

「逆に楽しいことはないの?」

「楽しいこと? ………あー。アリア先輩とチェスして、結構盛り上がったこととか?」

「アリアはチェス強いからね。それで? どっちが勝ったの?」

「アリア先輩。クリミアが言ってた通り、やっぱり強かった」

 

 今度は、フィールがクリミアに訊いた。

 

「………そういえば、去年アリア先輩が年上の姉妹はいるとか言ってたけど………クリミアは知ってる?」

「ええ、知ってるわよ。セリア・ヴァイオレット先輩。アリアの4歳年上のお姉さんで、同じ青紫色の瞳を持っていたわ。アリアやフィールと同じスリザリン寮に所属していて、とても優しい人だったわよ」

 

 懐かしい声音で話すクリミアへ、フィールは微笑する。

 ふと、穏やかな表情を浮かべていたクリミアは真顔になり、フィールへ尋ねた。

 

「……………フィール。ついさっきまで、何を考えてたの?」

 

 クリミアの質問に、フィールは戸惑った。

 先程、考えていたことを正直に話せば、間違いなく彼女は怒るだろう。

 けど、嘘をついてもすぐにバレてしまうのも、また事実。

 故に、数秒間逡巡し………回答した。

 

「………私はなんで、この世に生きてるのかなって。………お父さんとお母さんが、命を投じて私を救ってくれたのは…………わかってる。でも、心の何処かで…………あの時、そのまま放置してくれたら……どんなにこんな冷たい世界と………サヨナラ出来たんだろうなって………混乱する」

 

 語る間、ただ黙って髪を優しく撫でて聞いてくれるクリミア。

 彼女が僅かに怒っているのを肌で感じつつ、心地よさに意識が奥底に封じられるのを無理矢理押し返して、フィールは言葉を続ける。

 

「私は………いつも思う。あんなにも、自分の存在を否定されるくらいなら……私が皆の近くに居るせいで危険に晒されるなら………いっそのこと―――」

 

 口にしようとした瞬間。

 喉の奥に、言葉が引っ込んでしまった。

 ―――何をしている。早く言え。

 ―――なんで躊躇っているんだ。

 意識なのか無意識なのかは不明だが、言うのを躊躇った途端、全身に張り過ぎていた気が一気に緩み………どっと眠気に襲われた。

 重い瞼が閉じられるのと同時、脳裏に様々な想い出が過る。

 悲劇が起きる前の―――幸せだった日々。

 そこにいつも私の傍に居た、最愛の家族。

 力強い腕で抱き上げ、満面の笑顔で見上げてくれた父。たおやかな手で頬を包み、ふわりと柔らかに微笑んでくれた母。

 でも、もう二度と会うことは出来ない。

 世界中何処を探しても、見つからない。

 

「………………何のために生きてるのかって訊かれたら………私はきっと、こう答える」

 

 意識が闇に飲まれる前―――両親の顔が、頭の中で思い浮かべられた。

 

「―――殺されるために、生きているんだって」

「………フィール?」

 

 ………寝息だけが応えた。

 どうやら、寝てしまったらしい。

 クリミアは深い眠りに落ちたフィールの寝顔を眺め………紫の眼を悲しそうに細めた。

 

「………『殺されるために、生きている』?」

 

 虚言とは捉えがたい、フィールの発言。

 死ぬために生きている、であるならば、まだわからなくもない。

 だが、『殺されるために』とは………。

 

「………あの人に言われたこと、まだ気にしているのね。仕方ないと言えば、仕方ないけど」

 

 小さく呟きつつ、クリミアは先程フィールが言い掛けた言葉の続きを愁思した。

 彼女が一体なんて言おうとしたのか、そのことだけを考えていたクリミアの頭に、一つの続きが浮かび上がった。

 

「………ああ、なるほど。『いっそのこと、私が居なくなった方が皆のため』って、言いたかったのかしらね」

 

 恐らくそうだろう、と思い、クリミアは深く息を吐き出す。

 

「………んっ…………」

 

 ため息が寝ていたフィールの耳に掛かり、彼女はくすぐったそうに身動ぎした。クリミアは愛くるしい気持ちが込み上げ、思わずフィールをそっと抱き締める。甘いシャンプーの香りがする髪を梳きながら、瞼をおろした。

 

「………貴女が目の前から消えたら悲しむ人達がいるってこと、いつになれば気付くのかしら」

 

 クリミアの希望的観測とも言える呟きは、温かな空間へと消えていった。

 

♦️

 

「クリミア? ボーッとしてるけど、大丈夫?」

 

 穴熊寮の女子部屋・試験勉強の休憩時間。

 テーブルに教科書や羊皮紙を広げ、羽ペンを手に持っていた桃色髪青眼の6年生、ソフィア・アクロイドはクリミアの手が止まっているのを見て、声を掛けた。

 

「! ………ええ、大丈夫よ」

 

 ソフィアの声に、意識が過去に遡っていたクリミアは現実に引き戻され、再度手を動かす。

 すると、ソフィアが何気に鋭く突っ込んできた。

 

「フィールのことを考えてたの?」

「………そう見える?」

「貴女が考え事に耽る時って大抵はフィールのことに関してだからね。すぐわかるわよ」

 

 ソフィアは勉強の手を止め、「紅茶でも飲みましょ」と気分転換のために手早く作った。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 ソフィアとクリミアはティーカップを傾け、紅茶で喉を潤した。それから、タイミングを見計らったように、ソフィアはクリミアに言った。

 

「クリミア、ちょっと心配し過ぎじゃない? フィールなら、きっと大丈夫よ」

「そうだといいんだけど………」

「クリミアってさ、フィールが危険な事件に巻き込まれたら我を忘れる性格?」

 

 5年前、ハッフルパフに組分けされてからクリミアとはずっと一緒にいるソフィアは彼女の性格をよく知っていた。

 普段は他人よりもずっと大人びていて、温厚な性格なのだが、一度義妹のフィールのことになると周りが見えなくなるタイプなのだと、ソフィアは察していた。

 現に、去年『秘密の部屋』へフィールとハリー達一行がジニーを救うため、そして事件を解決するために危険を冒してまで向かったと、後者達の同級生、ネビル・ロングボトムから話を聞いたマクゴナガルがクリミアの元へ来てそのことを報告しに来た際、彼女が顔面蒼白したのを、ソフィアは見ている。

 

「ええ………どうしても、私にとっては誰よりも大切な家族だから、もう失いたくないっていう気持ちが強くてね」

「そういえば、貴女のご両親、貴女が生まれて間もなく亡くなって、それであの娘のお父さんとお母さんが引き取ったのよね………」

 

 そして、そのフィールの両親さえもが数年前に亡くなったのも、ソフィアは知っている。が、クリミアの手前、敢えてそれは言わなかった。

 

「私のこと、シスコンだって思うでしょ?」

「ま、それは否定しないわ」

 

 一切否定せず首肯したソフィアは笑い、クリミアも思わず苦笑いする。

 そして、ソフィアはクリミアの水色の髪をくしゃくしゃと雑に撫でた。

 髪の毛を乱され、クリミアは手で押さえながら僅かに紫の眼を見張る。

 

「少しは空気抜かしなさい。今は試験勉強のことだけを考えて、フィールのことは忘れなさい」

 

 ソフィアはソフィアなりに、心配性過ぎるクリミアのことを考えて、そう言ったのだろう。

 クリミアはフッと息を吐き―――ソフィアに向かって小さく頷いたら、置いていた羽ペンを手に持った。

 

♦️

 

 さて、今年も学年末試験の日を迎えた。

 

 1日目は変身術、呪文学、魔法史。

 変身術のテストはティーカップを陸亀にさせるもので余裕でクリア。

 呪文学は『元気が出る呪文』が出され、フィールはクシェルと共に掛け合った。

 魔法史は大半以上が苦しみ、ほとんどの生徒が落第しただろう。

 

 2日目は魔法生物飼育学、魔法薬学、天文学。

 魔法生物飼育学はレタス喰い虫が試験終了まで生存していたら合格という非常に簡単すぎる内容なので、テストとしては成立しない。

 魔法薬学と天文学は暗記勝負なので、これもまた変身術の授業と並んで格差が出た。

 

 3日目は薬草学、古代ルーン文字学、闇の魔術に対する防衛術。

 最後の試験内容である、闇の魔術に対する防衛術はこれまでとは打って変わって独特なテストだった。

 障害物競争である。

 通り道に魔法生物を配置されていて、それを突破していき、ラストに真似妖怪(ボガート)と戦う仕組みだ。

 フィールは平常心を保ったまま堂々と進撃していき魔法生物が現れれば光の速さで速攻対処。

 最後のボガートも変身直後に撃破したので、あの授業の時みたいに精神が悩乱することはなかった。

 ルーピンは文句なしの満点を言い渡し、今年の学年末試験も無事に幕を下ろした。

 

♦️

 

 3日間に渡る試験を終え、ハリーは一人、グリフィンドール寮の談話室で考え事に耽ていた。

 それは、ついさっき起きた出来事についてだ。

 今学期最後の試験教科・占い学を終え、やっと解放される、と思った矢先、教師のシビル・トレローニーが野太く荒々しい声で言ったのだ。

 

『闇の帝王は、友もなく孤独に、朋輩に打ち棄てられて横たわっている。その召し使いは12年間鎖に繋がれていた。今夜、真夜中になる前に、その召し使いは一度囚われる。しかし、すぐに自由の身となり、主人の元へ馳せ舞いずる。闇の帝王は召し使いの手を借り、再び立ち上がるだろう。以前よりもさらに偉大に、より恐ろしく………』

 

 これで終わると思ったら、トレローニーは続け様にこう言った。

 

『今から約2年後………闇の帝王の暗躍と同じにして、力ある者が呪縛から解き放たれる。その者はこの世界に光をもたらす可能性を秘めておるだろう。しかし、忘れてはならぬぞ。力ある者が目覚めの刻を迎えるその日、多大なる代償を支払うことになるというのを………』

 

 闇の帝王の暗躍。

 それは間違いないなく、ヴォルデモートを指しているだろう。

 だが、ハリーは二つ目の発言にあった単語の数々に首を傾げていた。

 

(一体どういうことなんだ? 闇の帝王はヴォルデモートのことだろうけど………。力ある者? 多大なる代償? 一体何のことなんだ………?)

 

 結論が出ない思考にウンウン唸っていると、ハーマイオニーとロンが駆け寄ってきた。

 

「ハリー! これ見て!」

 

 なにやら興奮状態のハーマイオニーが差し出してきた手紙。ハリーはそれを受け取って差出人を確認してみると、ハグリッドからだった。

 便箋に書かれていたのは、なんとバックビークの処刑が取り止めになったとの内容である。

 

「バックビーク、救われたのよ!」

「やったじゃないか! でも、なんで?」

「実はね、私、フィールに頼んだのよ。ほら、フィールの叔母さん、魔法省の部門の魔法生物規制管理部に勤務しているじゃない? だから、なんとかして貰えないか言ってみたのよ」

「叔母さん? ………あ、もしかして、去年ダイアゴン横丁で会った、あの人?」

「そうよ! エミリーさんよ!」

 

 便箋の詳細を見てみると、ハーマイオニーの言う通り、フィールの叔母、エミリー・ベルンカステルがルシウス・マルフォイと危険生物処理委員会に無実を訴えてくれたらしく、最終的に、前者が危うく怪我をしそうになった息子を救ってくれた彼女の姪の頼みに免じて、バックビークの処刑を取り下げてくれたらしい。

 敵対心を燃やしてる一族からの訴えを最初は聞き入れなかったとはいえ、何よりも一番大事な息子を助けてくれたことに変わりはないため、借りは返した、という感じみたいだ。

 それで、今日の夕食後、自分達の他にフィールにも礼を言いたいから、彼女も玄関ホールまで連れて来て欲しいと手紙の下にPSとして執筆されていた。

 

「どうやってフィールを呼ぶ?」

 

 フィールは友達だが、彼女は自分達が嫌って嫌われているスリザリン寮の生徒だ。

 人目の触れる場所で話し掛けるのは得策ではないし、その内容が夕食後の外出ともなれば、尚更避けるべきだ。

 

「クリミアに依頼するのは?」

「いや、止めましょ。クリミアはハッフルパフの監督生よ? きっと訝しんで色々と訊いてくるわ」

 

 第一候補としてハリーがハッフルパフ寮所属のクリミア・メモリアルの名を挙げるが、ハーマイオニーがそれを却下した。

 クリミアは、来年の最高学年で女子首席になるだろうと言われてるほどの超優等生で、現在は監督生にも務めてるほど優秀な人だ。

 それに、彼女は雰囲気的に他人よりもずっと勘が鋭そうな気がする。

 ハーマイオニーの言う通り、まず間違いないなく勘繰ってくるかもしれない。

 嘘ついても即見破られそうな、そんな予感もしてきた。

 

「じゃあ、どうするんだ?」

「二人は、クリミア以外にフィールと知り合いのハッフルパフ生って知らないの?」

 

 クリミア以外のハッフルパフ生、と聞き、ハリーとロンは「あっ」という表情になり、顔を見合わせる。

 

「………あの人に頼むのはどう?」

「でも、あの人はクリミアと友達だぜ?」

 

 二人が何やらヒソヒソ話をするので、ハーマイオニーは首を捻る。

 

「知ってるの?」

「まあ、うん………3年前、フィールとクリミアと一緒に居た人なんだけど………その人、クリミアと友達なんだ」

「誰なの?」

「えっと………確か、ソフィア・アクロイドって名前だった気がする」

 

 ハリーとロンが第二候補として挙げたのは、クリミアの同僚同輩の友人、ソフィア・アクロイドであった。

 ハーマイオニーは難しい顔になる。

 

「クリミアと友達、ね………。ちょっと危ない路線を渡ることになるわね。でも、クリミア本人に訊くよりはマシじゃないかしら?」

 

 三人はどうか詮索してきませんようにと強く祈りつつ、フィールと知り合いであるならそれで構わないと、夕食前に呼び掛けることにした。

 

♦️

 

 そうして、夕食前の廊下。

 三人は、目当ての人物を見つけた。

 暖かな春色をしたセミロングヘアの女性を。

 運がいいことにクリミアは隣に居なかった。

 

「ソフィア」

 

 ハリーはそっと声を掛け、ソフィアは後ろに振り返った。

 

「あら? ハリー、久し振りね。………ロンもだけど」

 

 ハリーに対しては笑みを浮かべていたが、2年前にロンがスリザリン嫌いな発言をしたのが癪に障ったのを思い出したのか、ほんの少し表情が凍り付いたような気がした。

 

「話し掛けてくるなんて珍しいわね。何か用事があるの?」

「えっと………これをフィールに渡して欲しいんです」

 

 ハリーの隣に居たハーマイオニーが一歩前に出ると、便箋が入った封筒をソフィアに突き出した。彼女はそれをスッと受け取った。

 

「これね? わかったわ」

 

 ソフィアは特に詮索せずに引き受けてくれたため、ホッと安堵の息を吐いた。

 

「それじゃあ、私達は行きます」

 

 ハーマイオニーは笑って言い、ハリーとロンを連れてそそくさにグリフィンドールのテーブルへと歩いていく。

 

「………………」

 

 ソフィアは、これは何かあるなと、あの三人の顔を見た時から察していた。だが、表面上には出さず、敢えて何も詮索しなかった。

 そして、何故か素直に封筒を受け取れば、あの三人が密かに安堵の息を吐いたのを、ソフィアは見逃さなかった。

 

(これは………またトラブルの予感がするわ)

 

 歩くフラグ一級建築士のハリー・ポッターとその友人二人はとにかくトラブルを引き寄せる体質がある。

 それはもうこの2年間で存分に見てきた。

 そしてあの三人にはフィールが付き物だ。

 

(とにかく、まずは渡しに行きましょうか)

 

 ソフィアは封筒を手に、スリザリン生が集まるテーブルへと足を運んだ。




【没シーン:本物or偽者】

~穴熊寮での出来事を読んできた四人~

クシェル「誰ーーーーーっ!?」
ハリー「偽者じゃないよね!?」
ハーマイオニー「いや偽者よ!」
ロン「そうだ絶対にそうだ!!」

その後も偽者だのあり得ないだの言うクシェル達一行は真実を突き止めるべくフィールの元へ急行。

四人「「「「Youはマジで本物のフィールですか!!!?」」」」
フィール「バリッバリ本物だわ! そんなに信じられないか!?」
四人「「「「Yes!!」」」」
フィール「いや待て待て待て待ていくらなんでもそれは酷過ぎないか!?」
四人「「「「あ、このツッコミは間違いないなくフィールだ。よかったぁ(人´▽`*)♪」」」」
フィール「いや全くよくないけどな!?」

【サブタイトル】
前半にあった3つの『――感』がベース。

【超レアなフィール】
おいマジであのフィールか!?
とキャラ崩壊レベルな姿をお見せしたオリ主さん。
たまにはこんな一面も出してみるかということで、ここで出してみたのですが………果たしてどうなんだ。

【セリア・ヴァイオレット】
アリアの4歳年上の姉。ロンの兄のチャーリーやトンクスさんと同い年。アリアと同じ青紫色の瞳を持ってるけど髪の色は違う(アリアは黒色、セリアはクリーム色)。
ちなみに作中では登場しません。ただ単に『アリアには姉がいて名前がセリア』という認識をすればOK。

【珍しくハッフルパフ寮からの出演】
中々にこの二人だけで登場するの少ないのでここでちょっと出しました。

【予言】
後の伏線。予言通りに進めるかは未定。

【バックビークの処刑取り止め】
息子を救ってくれたフィールの頼みに免じて訴えを取り下げてくれたルシウス。………コイツ、意外とまとも?
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