【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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アズカバンの囚人編ラスト。


#45.無実の証明

 時は数十分前に遡り―――。

 クリミアは椅子に腰掛けて、ハッフルパフ生が集うテーブルの上に置かれている料理を口にしていた。

 ふと、ソフィアはまだ来てないのかと顔を上げて大広間を見回すと、スリザリンのテーブルから此方までやって来る彼女の姿を捉えて首を傾げる。

 

「お待たせ、クリミア」

 

 ソフィアはクリミアの隣に座る。

 クリミアは気になっていたことを訊いた。

 

「貴女がスリザリンのテーブルに行くなんて、珍しいわね」

「あ、そのことなんだけどさ―――」

 

 ソフィアは先程の出来事をクリミアに伝えた。

 

「………あのグリフィンドール生の子達が?」

「うん。フィールに手紙を渡してって」

「どんな内容かは知ってる?」

「いえ、知らないわ。でも、何も訊かないで受け取ったら、あの子達、ホッとした感じになったわよ」

「………そう。わかったわ。ありがとう」

 

 話を聞き終え、クリミアは思考を巡らせる。

 

(………また、何かに巻き込まれそうな空気が漂うわ。全く、なんでこうも立て続けに起こるかしら。………それはそうと、あの子達は何が目的でフィールを?)

 

 クリミアは思考をフル回転させる。

 何も起きなければいいのだが、相手はあのトラブルメーカーのハリー・ポッターとその友人二人だ。それにプラス、フィールもまた、危険な場へ首を突っ込んだり緊急事態に巻き込まれることが多い。

 その時は決まって彼らが付き物だ。

 ということは、今年も事件発生かと、クリミアは去年一昨年と連続で起きるホグワーツのアクシデントの数々に、鬱屈そうに眼を細めた。

 

「クリミア。今度はフィールをほったらかしにしないように、しっかり捕まえなさいよ」

 

 今のクリミアの心境を悟ったのだろう。

 ソフィアが、そう言った。

 

「何かあったら、私が上手いこと誤魔化すわ。だから、気にしないで動きなさい」

「………ありがとう。助かるわ」

「礼はいらないわよ。貴女が妹を過剰なくらいに心配する性格だってのは、承知済みなんだから」

 

 ソフィアは優しげな笑みをクリミアに見せる。

 クリミアは、心底ソフィアに感謝した。

 ひとまず、夕食後にフィールに会いに行こうとゴブレットを傾けた。

 

 そうして、夕食もお開きになり、クリミアはフィールを探しにキョロキョロ廊下を見回した。

 寮へ戻っていくスリザリン生の集団を観察してみるが、そこにフィールの姿は見当たらない。

 なんだか、クシェルの姿もないような………。

 

「アリア、フィールを見なかった?」

 

 運良くスリザリン生の友人のアリアを見つけたクリミアは彼女に訊いた。しかし、アリアは首を横に振った。

 

「見てないわよ。そういえば、クシェルもね。二人共、いつもより大広間から出ていくの早かったわ。何か、用あるの?」

「………まあ、ちょっと」

「………その顔は、何かあったわね?」

 

 ソフィア同様、クリミアとの付き合いが長いアリアは鋭く突っ込む。クリミアは簡単に事情を説明した。

 

「………そういうことね。わかったわ。スリザリン寮で二人が居るか、確かめてみる。もしも居なかったら、談話室で待ってみるわ」

「ありがとう、アリア」

「気にしないの。ほら、早く捜しに行きなさい」

 

 クリミアは頷き、ある場所へと駆けた。

 

 8階にある、ホグワーツ城で最も高い天文台の塔。

 そこに、クリミアはやって来た。

 此処は、フィールのお気に入りの場所()()()なのだ。

 だから、此処なんじゃないかと思って来てみたのだが………見当違いだったらしい。

 クリミアは顎に手を当て………不意に、雲が切れて姿を現した、暗闇の中に存在する自分を照らすある物を仰いだ。

 

「満月………」

 

 今日は満月の夜だ。

 満月の日は決まって此処に来て月見するらしいフィールが居ないとは、何処か別の場所に居るのだろうか。

 ………話は変わるが、狼人間であるルーピンはちゃんと『脱狼薬』を飲んだろうか。

 クリミアも、ルーピンが狼男であるのを気付いていた。そして、前にスネイプがルーピンに何かの薬を手渡す所を見掛けたことがある。

 

(………そういえば―――)

 

 クリミアは、フィールが話していたことを思い出した。

 それは、ハリーがルーピンに『忍びの地図』とやらの魔法道具を没収されたっていう内容だ。

 その忍びの地図は、ホグワーツ全体の姿を露にする便利なアイテムみたいで、そのマップ上を動く小さな点が誰が何処に居るのかを示してくれるとか。

 クリミアは、ルーピンの部屋を目指した。

 彼になんとかその地図を貸して貰えないかを頼みに行くためだ。質問はされるだろうが、そこは上手い言い訳で回避するしかない。今のところ手段があるのすれば、その地図くらいだ。

 そうして、クリミアはやって来たのだが、何故か彼の部屋の扉が開けっ放しであるのを見て怪訝な顔になり、首を傾げた。

 

(変ね………ルーピン先生みたいな人が扉を閉めないなんて………)

 

 そっと中を見てみると、そこには誰も居ない。

 が、机の上に広げられている地図らしき物を発見して、好都合だと言わんばかりに、周りに人が居ないのを確認して、部屋に入る。

 そうして、忍びの地図を見た。

 地図の表面上で黒い点が幾つも動いていて生徒や教師の名前も記されているが、そこにフィールやハリーの名前はなかった。

 

(フィール達の名前がない? どういうことかしら………)

 

 忍びの地図に彼女らの名が表記されていない。

 それはつまり、この地図がホグワーツ全体の姿を露にすることが可能な範囲内から除外された場所に居るのを意味している。

 

「嘘でしょ、何処に居るのよ………?」

 

 焦燥感に駆られた、その直後。

 ふと、クリミアはすぐ側に置いてあるゴブレットが視線の片隅に映り、そちらを見た。

 中を覗いてみると空っぽに近かったが、微かに青い煙が昇っているのを捉える。

 

「………脱狼薬かしら?」

 

 ゴブレットを持ちながら、そう呟く。

 中身が無いということはルーピンがこれを飲んだ訳だろうが、しかしそれにしては、口をつけた跡が何処にも無い。

 どちらかと言えば、脱狼薬を何か別の容器に移し入れた、の方が正しいかもしれないと思ったクリミアは、ハッとする。

 

「………もしかして、フィールが?」

 

 洞察力が鋭いフィールのことだ。

 ルーピンの正体が狼人間であることくらい、感付いているだろう。

 ということは、もしかしたら、フィールは一度此処に足を踏み入れたのか………?

 クリミアはセンスを研ぎ澄ませる。

 この部屋に漂う微かなフィールの魔力を感知し―――クリミアは駆け出した。

 疾走する度、魔力がどんどん強くなっていく。

 やがて暴れ柳の付近に到着したクリミアは『停止呪文』を唱えて挙動をストップ。

 根元に大きな空間があるのを認めると、滑るようにして降りた。

 『遮音呪文』を掛けて、クリミアは長いトンネルを抜けていき、雑然とした小さな部屋へ到着すると、『飛行術』で一気に飛び上がり、声がした方へ顔を向け………闇の魔法使いの気を察知したのと同時、行く手を閉ざす扉をド派手にブレイクして魔法を発射した。

 

♦️

 

「………どうやら、間に合ったみたいね」

 

 杖を振り下ろし、一息つく。

 フィール達は意外な人物の登場に唖然とした。

 

「クリミア? なんで、此処に………?」

 

 フィールは眼を剥きながら尋ねる。

 するとクリミアはハリー達三人に眼を向けた。

 

「ソフィアから、ハリー達がフィールに手紙を渡して欲しいって頼まれたのを聞いてね。またトラブルに巻き込まれる予感がしたから、会ってみようと思ったけど見当たらなくて、それでルーピン先生の部屋に行ったのよ」

 

 そこで、忍びの地図と脱狼薬が入っていたと思われるゴブレットを見つけ………中身を見てみたところ、飲んだというよりは、別の容器に移し入れた感じがし、もしかしたらフィールがそうしたのではと推測。センスを働かせ、微かなフィールの魔力を元に奔走し―――現在に至る。

 

「―――と言うことよ」

 

 事の成り行きを話し終えたクリミアは、先程自分が吹き飛ばしたペティグリューと、呆然と立ち竦むシリウスを見たり来たりする。

 

「………今度は私が訊くわ。貴方達、これはどういうことなのかしら?」

「………それは―――」

 

 頭の整理が追い付いたシリウスが、此処に来たばかりのクリミアに事の真相を一から語る。

 真実を知ったクリミアは紫眼を丸くした。

 

「………つまり、シリウス・ブラック、貴方は無実の人間で、ピーター・ペティグリューが真の二重スパイだったと?」

「ああ、そうだ」

「それじゃ、私がさっき吹っ飛ばした相手はピーター・ペティグリューってことなのかしら?」

「そういうことになる。君には感謝するよ。おかげでコイツを殺しやすくなった」

 

 そう言うと、シリウスは歩き出す。

 ルーピンも歩みを進め………気絶している、かつては友だった男を冷めた瞳で見下ろした。

 

「コイツは気付くべきだったな。ヴォルデモートがコイツを殺さなければ、私達が殺すと」

「そうだな。リーマス、準備は?」

「勿論出来ている。―――さらばだ、ピーター」

 

 そして二人は同時に杖を振り上げた。

 が、その瞬間。

 

「ダメだ!」

 

 ハリーが駆け出した。

 彼はペティグリューと二人の間に立つ。

 

「殺しちゃダメだ」

「何故だ!? ハリー、君はこのクズのせいでご両親を亡くしたんだぞ? もし、あの時君も死んでいたとしても、コイツは平然と眺めていただろう。裏切り者の自分の命の方が、君達の命より大事だったんだ」

「わかっている。でも、ダメだ。コイツを城まで連れて行って、吸魂鬼に引き渡すんだ。裏切り者はアズカバンに投獄されるのがお似合いだ。僕の父さんは、こんなヤツなんかの為に親友が殺人者になるのを望まないと思うよ」

 

 誰も何も言わなかった。

 シリウスとルーピンは互いに顔を見合わせ、それから二人同時に杖を振り下ろした。

 

「………………」

 

 両親の仇を前にしても尚、鉄槌を下そうとしなかったハリーの行動に、フィールはやれやれと肩を竦める。

 自分だったら、今頃どうしていただろう?

 彼とは違い………自分の気が済むまで永遠とボコボコにし、殺したに違いない。

 そう思ったフィールはまだまだ自分の未熟な精神面に自嘲気味な笑みを浮かべ、それと同じくして深くため息をついた。

 

♦️

 

 満月の夜が明けた翌日。

 ホグワーツ城内はざわめきに溢れた。

 と言うのも、今朝発行された『日刊預言者新聞』に記載されている大見出しに、一同は愕然としている様子である。

 

 昨夜、ペティグリューの吸魂鬼引き渡しを決定した後―――気を失っていたスネイプを甦生させ、彼にも事実を全て話した。本来ならば大幅に減点しただろうが、事情が事情なだけに、今回ばかりは特別に免除してくれた。

 バックビークの件でホグワーツに出向いていた英国魔法省大臣、コーネリウス・ファッジにペティグリューの件を任せるべく、ルーピンがダンブルドアを呼びに行き、ファッジも揃ったところで、ハリーの透明マントを借りて吸魂鬼の眼を掻い潜ったシリウスと一旦ネズミにさせて元の姿に戻したペティグリューに、スネイプから渡された真実薬(ベリタセラム)を使って、真相を全て自白させた。

 ファッジはまさかの衝撃的な事実に茫然自失としたが、ここまで明白な現実と証拠を突き付けられれば認める他無く………翌朝の朝刊は、シリウス・ブラックの無実とピーター・ペティグリューの逮捕&逃亡で装飾された。

 魔法省はシリウスに十分な賠償金等を払い、これで一件落着に見えたのだが―――ペティグリューに関する情報誌から見てわかる通り、彼はアズカバン護送中に逃亡してしまった。

 なんでも、ネズミの動物もどきだという情報がちゃんと伝わっていなかったらしく、隙を突かれて逃がしてしまったとのことだ。

 

 そして、これまた残念なことがある。

 名教師のルーピンが辞職してしまったのだ。

 スネイプがスリザリン生にルーピンが狼人間であることを()()()()口を滑らせて暴露したみたいで、その日の内に彼はホグワーツを立ち去るのを決めた。

 これにはマルフォイなど一部のスリザリン生を除いた生徒達をガッカリさせ、ハリー達も残念そうに肩を落とした。

 

「僕、狼人間だって知った後でも、卒業するまでルーピン先生が『闇の魔術に対する防衛術』の先生だったらよかったのにって今でも思う。僕だけじゃない。皆だって、ルーピン先生が辞任したのを残念がっていたし………自分の子供が狼人間に教えを受けることなんて望まないって言ってたけど、そんなことないと僕は思うよ」

 

 その日の放課後。

 湖の畔に座り、静かに漂う水面を見るとはなしに眺めるハリーは独り言のように呟いた。近くにはいつも共に行動するロンとハーマイオニー、そしてフィールとクシェルが居る。

 

「………あのさ、皆。僕があの時、シリウスとルーピン先生がペティグリューを殺そうとしたのを止めたのって、本当に正しかったのかな。もしもヴォルデ………あ、いや………闇の帝王が復活したら、僕の責任だ」

 

 ヴォルデモートの名を口に出されるのを恐れるロン達(フィールは別だが)の手前、闇の帝王に言い直したハリーは、今しがた何気に不吉な発言をした自身に向けられる非難するような視線を無視して、言葉を紡ぐ。

 

「ダンブルドアは、いつか必ずペティグリューの命を助けて本当によかったと思う日が来るだろうって言ってたけど………アイツは僕の両親を裏切ったヤツで、親友さえも裏切ったヤツだ。そう思える日が来るとは、僕は思えない」

 

 すると、それまで黙っていたフィールは、自分の行動に対する善悪や間接的に両親を殺した男へ対する嫌悪や憎悪が入り交じった表情のハリーの顔を見ながら、静かに口を開いた。

 

「ハリー。自分の行動がいつ、何処でどんな影響が及ぼすかなんて、誰にもわからないし、想像もつかない。先の未来を予知出来るなら、今頃はこんなことにはなってなかっただろうし、誰も傷付く必要なんてなかっただろう。だから、そう深く思い詰めるな。誰もアンタのことは責めないし、責めさせやしない」

 

 その言葉に、ハリーはフィールを見る。

 彼女の瞳には一切の嘘が滲んでいない。

 本心からそう言ってくれた言葉だった。

 ハリーは顔を綻ばせる。

 

「フィール………ありがとう」

 

 ハリーが礼を述べると、フィールは頷いて、スッと立ち上がった。

 

「さて、それじゃ………ハリー、今は闇の帝王復活やペティグリューの話題は一旦忘れて、最後にもう一度だけやるぞ」

「え、何を?」

「『守護霊の呪文』の特訓」

 

 言われて、ハリーは「あっ」と思い出す。

 

「本当の裏切り者が発覚した昨日の今日で、幸せかどうかと訊かれたら難しいかもしれないが、念のため訊かせてくれ。幸せか?」

「うん………幸せだよ。やっと………やっと、大好きな家族と言える、僕の名付け親と出会えたんだから」

「そうか。それはよかった。………今だったら、アンタは最高の守護霊を創り出せるだろうな」

 

 フィールはヒップホルスターから杖を抜き出して湖に足が触れるか触れないかのギリギリな場所まで近付き、立ち上がったハリーも慌てて杖を取り出し、フィールの後を追う。

 

「私がカウントするから、0になったら同時に唱えるぞ。準備はいいか?」

「うん、バッチリだよ」

「それじゃ、行くぞ。………3、2、1―――」

 

 次の瞬間、フィールとハリーの、杖を高く掲げて同時に詠唱する声がシンクロした。

 

「「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」」

 

 フィールの杖先から銀色の狼が飛び出す。

 スタイリッシュで凛々しい顔付き、刃の切っ先のように鋭い瞳、耳には主人と同じイヤーカフがついていて尾が太く、一般の狼を遥かに上回る巨体が特徴的だ。

 そして―――ハリーの杖先からは、月のように眩い輝きを放つ銀色の牡鹿が力強く噴き出した。

 3~4本に枝分かれした立派な角にしなやかな身体が特徴的な牡鹿は、その大きな銀色の瞳で真っ直ぐにハリーの緑色の瞳をじっと見つめ、驚きと喜びが織り交ざった笑顔を浮かべる彼の前に立っている。

 

 それから、それぞれ主人の目の前に居た狼と鹿は向きを変えてゆっくりと歩み寄り、鼻を近付けて互いにクンクンし合った。

 犬同士でもよく見掛ける、お互いのことをよく知るための仕草だ。自分の耳から首の辺りを相手の同じ所にスリスリと擦り付ける動作も加えた感じ、恐らくはポジティブな意味での「君のことが大好き」と言う気持ちの表れなのだろうか。

 これが初対面であるはずなのに、なんなんだろうか、この超フレンドリーなコンタクトは。守護霊に意思の有無を追究したいくらいに随分あっさりとコミュニケーションを取るなと、フィールとハリーは顔を見合わせる。

 

 白銀の狼と牡鹿は自由に宙を駆け回ったり、太陽の光を反射してキラキラと輝く湖面を共に疾駆した。その幻想的で神秘的な光景に、全員が思わず見入る。

 この時はまだ、誰も知る由はなかった。

 ハリーの守護霊は、彼の亡き父親と同じ姿形であることに。

 動物もどきだったジェームズは牡鹿に変身したからこそ、ルーピン達は『プロングズ』と呼んでいたことに。

 

 彼は母の愛だけに護られていたのではない。

 父の強い愛にもちゃんと護られていたのだ。

 

♦️

 

 毎年恒例の学年末パーティーの時間。

 今年の寮杯とクィディッチ優勝の2冠を奪還したスリザリン生は、これまたクィディッチ決勝戦で見せた時と同等かそれ以上のどんちゃん騒ぎで狂喜乱舞だった。

 寮杯に大きく貢献したスリザリンのクィディッチチームを囲むようにして座りながらスリザリン生達は称賛の言葉を送り、チームの花形でありピンチヒッターのフィールを特に誉め称えた。

 

「フィー、大変だねえ」

「ああ、全くだ………」

 

 やっと解放されてへとへとになったフィールは疲れ気味に返答する。

 ゴブレットに注いだカクテルを喉に通すフィールへタイミングを見計らったクシェルが声を掛けた。

 

「ねえ、フィー」

「なんだ?」

「夏休みに入ったらさ、皆でどっか遊びに行かない? ほら、皆で一緒に遊んだことって、まだないじゃん?」

 

 言外に、監獄に長年閉じ込められたシリウスの気分転換にもなれば、というクシェルの気持ちを察したのだろう。

 フィールは少し考えた後、フッと笑いながら頷いた。

 

「そうだな。皆で、どっか遊びに行くか」

 

 フィールが賛同すると、クシェルはパアッと顔を輝かせた。

 

「やった! そうと決まれば、早速ハリー達も誘おうよ! 何処行く? やっぱり真夏の時期に行くとしたら、海とか?」

 

 と、早くも予定をあれこれ口にして、クシェルははしゃぐ。

 フィールは淡く笑みと―――夏季休暇中に友人と遊ぶのはこれが初めてだと思いながら、一昨年褒美としてダンブルドアから貰った蛇の彫刻が施されたゴブレットを指先で弄り、ゆっくりとカクテルを傾けた。

 

♦️

 

 今年の無事ホグワーツでの全日程を終え、ホグワーツ生達は紅い蒸気機関車に揺られながら、数時間後、キングス・クロス駅に到着した。

 クシェルとプラットホームで別れたフィールは後にクリミアと合流し―――迎えに来てくれたライアンとエミリーに、痛いくらいに抱き締められた。

 

「フィール、クリミア、大丈夫だったか?」

「吸魂鬼がホグワーツで警護するって聞いてからずっと心配してたわよ………」

「私達は大丈夫ですよ。ね、フィール」

「ああ………それと、エミリー叔母さん。バックビークを救ってくれて、本当にありがとう。ハグリッドも感謝してた」

「どういたしまして。貴女達の役に立てて、私も嬉しいわ」

 

 エミリーが優しい笑顔を見せる横で、不意にライアンは神妙な顔付きになる。

 

「それにしても………シリウスとピーターのことに関しては本当に驚いたよ」

 

 シリウスとペティグリューの事情はフクロウ便でクリミアから説明を受け、前者は解放されてから今日に至るまでライアン達が住んでいるフランスのベルンカステル邸で寝泊まりした。

 シリウスは自宅であるはずのブラック家そのものを憎悪しているらしく、魔法省からたんまり貰った金で一軒家を購入し、そこで夏休みの半分はハリーとルーピンと共に過ごすそうだ。

 

「君達」

 

 何処からか、男の声が耳を打つ。

 そちらに顔を向けてみれば、シリウスが居た。

 ベルンカステル邸でまともな食事と念入りな入浴をしたおかげで血色や身なりは幾分か良くなっている。

 伸び放題だった髪を切り髭も剃ったため、彼の学生時代の頃の容姿を知っているベルンカステル兄妹とフィールは、昔に近付いていると現実味に実感した。

 

「シリウスか」

「また会ったな、フィール」

「今日はハリーを迎えに?」

「ああ、そうだよ。それと、彼の叔母夫妻にもちょっと話をしにね。………フィール、君には感謝してもしきれない。君が力を貸してくれて、助かった」

「礼はいらない。………それに、ペティグリューには逃げられたし」

「そうだったな………あの野郎、いつかこの手で始末してやる」

 

 シリウスは拳を握り締め、決意を新たにする。

 程無くして、シリウスは名付け子のハリーを迎えに行った。ライアンとエミリーはフィールとクリミアを促し、『付き添い姿くらまし』でベルンカステル邸へ直行した。

 

 ベルンカステル邸へ辿り着き、フィールとクリミアは去年同様、ライアンの妻セシリアと双子の兄妹ルークとシレンに出迎えられた。

 セシリアは真っ先に二人の頭を抱く。

 

「はぁ、よかった………貴女達が無事で、安心したわよ」

「セシリア叔母さん、ただいま」

「今日は此処に泊まってもいい?」

 

 二人の言葉に、セシリアは柔らかく笑む。

 

「ええ、勿論よ。………おかえりなさい」

 

 セルリアンブルーの瞳を優しげに細めたセシリアは、もう一度フィールとクリミアを抱き締めると、二人の頬に口付けを落とした。




【魔力感知】
ドラゴンボールでいう『気を察知する』と同じ能力。
ハリー・ポッターで登場する魔法使い達が他人の魔力を感知出来るかどうかはあまりハッキリしてませんが、この作品では魔力感知能力を兼ね備えている設定にしています。
熟練者になればなるほどレベルアップする的な感じですかね?
ま、物に魔法の痕跡が残るなら人でもあるでしょう。

【シリウス、無罪放免!】
やったね!

【駄菓子菓子!】
お決まりのワームテール逃亡!

【アズカバンの囚人編終了】
第3章も無事終了です。
本章ではフィールの過去が幾つか判明。
魔法の腕前で言うなればとても強いフィールですが、ディメンターの影響力はハリーと同等かそれ以上に酷いことも明らかになりました。
そして謎の人物・『彼女』の正体は如何に?(と言ってもバリバリバレバレですけどね………)
ま、真相は後にハッキリしますので、その時までお待ちを。
さて、次回からは『炎のゴブレット』編。
第4章へ続きます。また見てね、バイバイ。
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