【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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第4章炎のゴブレット編スタート!


Ⅳ.THE GOBLET OF FIRE
#46.マリンブルーの想い出


 7月もそろそろ下旬と言う頃―――。

 午後のからりとした日差しの中、バスケットボールをドリブルで前進する音とスポーツシューズの甲高い音が炎天下の元で響き合う。

 バスケットゴールがある公園で、バスパンとバスケットウェアに身を包む黒髪の少年が、同じくバスパンとバスケウェアに着込んだ黒髪の少女からボールを奪い取ろうと立ちはだかる。

 

「ハリー! ボールを奪い取れ!」

「フィール! ボールを渡すな!」

 

 1on1の真剣勝負をする黒髪の少年少女を観戦していたギャラリーの内、黒髪の男性二人が声を張り上げる。

 中々勝負がつかないゲームに四人の少年少女はハラハラし、水色髪の少女と黒髪の女性と白髪混じりの茶髪の男性は、微笑ましそうに見守る。

 

「ハリー! 頑張って!」

「ま、負けないで!」

 

 茶髪の少女が、黒髪の少年へ声援を送る。

 それに続く様、赤毛の少女も精一杯応援した。

 気合い注入が効いたのか、彼の動きが一段と素早くなった。

 

(どうしよう………)

 

 黒髪の少女は突破口を見つけようとドリブルしながら眼を走らせる。

 このままでは取られてしまう、と流石のクールな彼女にも表情に焦りの色が見えた時、

 

「フィー、頑張って―――っ!」

 

 と茶髪の少女の声が聞こえた。

 次の瞬間………黒髪の少女は一瞬の隙を突いて驚異的なスピードで黒髪の少年のディフェンスを掻い潜り、

 

「―――っ!」

 

 奇跡の身のこなしで、ボールを手にジャンプ。

 黒髪の少年が必死に手を伸ばすが、僅かな差でその指先がボールに触れることなく―――センターライン近くから放たれたボールは大きな弧を描くと、ボードに跳ね返らず直接リングに吸い込まれた。

 ネットをすり抜けたボールがコートに落ちるのと同時に、黒髪の少女も両足の裏をコートについて着地した。

 

「フィー、スゴい!」

「今のロングシュート、カッコよかったわね」

 

 ロングシュートを決めた黒髪の少女―――フィール・ベルンカステルへ、茶髪の少女クシェル・ベイカーと、黒髪の女性エミリー・ベルンカステルは称賛の言葉を届ける。

 

「フィール、君、バスケも得意なんだね」

 

 と額に滲む汗を拭いながら若干悔しそうな表情で声を掛けたのは、ハリー・ポッターだ。

 彼はスポーツが得意みたいだが、ホグワーツ入学前に通っていたマグルの学校、セント・グレゴリー小学校では従兄のダドリー・ダーズリーを初めとするダドリー軍団の皆から虐められていたことから、思う存分にスポーツを楽しめなかったらしい。それを差し引いてでも、夏季休暇中にダードリー家に居るのは憂鬱だとか。

 

 そこで、今年の夏季休暇は皆で何処かへ行って楽しく遊ぼうと提案したクシェルと、それに賛成したフィールの二人に誘われたハリーは、嬉々としてOK。

 フィールの義姉のクリミア・メモリアルと、友人二人のロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーも勿論同意したのだが………前者の妹のジニー・ウィーズリーが「私も仲間に入れて欲しい」とのことで、彼女も加わった。

 彼らの保護者は、ハリーの父親と親友だったシリウス・ブラック、リーマス・ルーピン。フィールの叔父叔母のライアン・ベルンカステル、エミリー・ベルンカステルの四人だ。

 そのため、ウィーズリー夫妻も、頼もしい知り合いが息子と娘の保護者を務めてくれることに快く許可した。ちなみにウィーズリーツインズは、クィディッチ決勝戦で優勝奪還に導いた宿敵ピンチヒッターのシーカー・フィールとその友人のクシェルが居るとの理由で誘いを断ったため、今回は居ない。

 

「ハリー、今の気分はどうだ?」

「物凄く最高だよ。こんなにも楽しい夏休みなんて初めてだ」

 

 ハリーは満面の笑顔でそう言った。

 彼の体内に施された母親の血の護りの効果を継続させるため、夏休み前半はダードリー家に居ないといけなかったが、それを乗り越えれば、シリウスとの同居、仲間達との遊びが待っているとハリーはこの日をずっと楽しみにしていた。

 

「ハリー君、他に行きたい所はあるかい?」

 

 フィールの叔父、ライアン・ベルンカステルはハリーへそう訊いた。ハリーはその質問に、遠慮がちになる。

 

「え、でも………それだと、ライアンさん達に悪いですよ………」

「なに、気にしなくていいさ。僕達も休暇だと思って楽しんでるよ。君のことは、フィールから聞いている。遊び盛りの年頃なんだ。せっかくの夏休みなんだし、楽しまなきゃ損だろう?」

 

 そう言って、ライアンはハリーの頭をポンポンと軽く叩いた。

 息子と娘を持つ父親、そして姪を持つ叔父なだけに、ライアンはフィールから聞き及んだハリーの叔母夫妻の残酷な扱いに憤っていた。

 

「シリウス、リーマス、予定は大丈夫かい?」

「全く大丈夫だ。むしろ、私も楽しみたいよ」

 

 シリウスも満面の笑顔で言い、ルーピンも微笑んで頷いた。

 

「そういうことよ。ハリー君。他に何処か行きたい所はあるかしら?」

 

 エミリーがハリーと目線を合わせて尋ねると、

 

「じゃあ………クシェルが言ってた通り、海に行きたいです」

 

 夏と言えば、やはり海だ。

 真っ青な海水。白い砂浜。晴れ渡る晴れ空。潮風の匂い。

 それを連想しただけで、心が踊る。

 エミリー達は、ニッコリと頷く。

 

「よし! じゃあ、明日は水着を買いに行って、明後日海水浴しに行くか!」

 

 ライアンは意気込み、クシェル達も「やった!」とはしゃぐ。ハリーも嬉しそうだった。

 その後、今後の予定を計画した彼らは自販機でジュースを購入し、明日はロンドン郊外のデパートで集合しようとハーマイオニーの意見で待ち合わせ所を決めたら、各自帰るべき家へと帰宅した。

 

♦️

 

 イギリス最大の老舗百貨店・ハロッズ。

 そこは、大勢の人々で賑わっていた。

 ロンドンはイングランド及びイギリスの首都で現代的な都市である一方、その歴史はローマ時代まで遡るほど太古の昔から続く。中心部には威厳ある国会議事堂、象徴的な時計塔ビッグ・ベン、英国君主の戴冠式が行われるウェストミンスター寺院などがある。

 

「マグルのデパートってスゴいんだね」

 

 人混みの多さとその大規模さに、初見のクシェルは眼を点にしてビックリする。ロンやジニーも初めて来たことから、物珍しげにキョロキョロ辺りを見渡した。

 

「………………」

「フィー? どしたの?」

「! あ、いや………なんか、懐かしいなって」

「懐かしい?」

 

 クシェルが首を傾げると、ハーマイオニーとエミリーは「ああ………」と懐かしそうな表情を浮かべた。

 

「そういえば、私達、2年前にハロッズに来たわよね」

「その日はホント、ハラハラな1日だったわ」

 

 2年前の人攫いグループとの対決。

 最初は家出した少年の捜索だったのに、それがまさかの事件解決へ繋がった―――。

 

「カイやマナさん、元気にしてるかな」

「元気にしてるわよ、きっと」

「再会した時は、当時よりも大きくなってるでしょうね」

 

 ハーマイオニーとエミリーはそう言って、微笑む。今でもフィールとカイが姉弟みたいだったのを思い返すと、笑みを溢してしまうのだ。

 

「皆、そろそろ中に入りましょ」

「そうだな。そうしよう」

 

 売り場の前で突っ立ったままなのも他の人に迷惑なので、クリミアとルーピンがそう促し、カラフルな水着が売られている店内に入る。

 そうして、多種多様で色とりどりの水着が掛けられている場所に足を運び、皆はどの水着を買おうかと物件探しに色々見て回った。

 

♦️

 

 翌日―――知名度・規模ともにイギリス有数の海浜リゾートで、イングランド南東部に位置する都市・ブライトンにやって来た。

 その日は快晴で、雲一つない晴れ空に浮かぶ太陽がギラギラと照り付ける。流石はイギリス有数の海浜リゾートだ。既に多くの海水浴客でワイワイ賑わっており、楽しげな声が聞こえてきた。

 

「今日は天気がいいな」

「ええ。曇りじゃなくてよかったわね」

 

 オレンジカラーのヤシ柄サーフパンツにシルバーネックレスをつけたライアンと、黒いビキニの水着の上にクリーム色のパーカーを羽織るエミリーは、夏の日差しを降り注ぐ青い空を仰ぎ見る。

 エミリーは長い髪を緩く結んでいて、いつもとは違う印象を受けた。

 

「海、綺麗だね」

「そうだな、綺麗だな」

 

 薄い緑色のドット柄水着に水色のパーカーを羽織るクシェルと、海を連想する青色の水着の上に大きめの白いパーカーを羽織るフィールは、ガラスのように煌めく海が作り出す美しい光景を共に眺めていた。

 幾つかのパラソルが差された場所には、クリミアやルーピン達が居た。彼女らも各自それぞれの水着に身を包み、持ってきたクーラーボックスなどを置き整える。

 此処に来る前にエミリーが日焼け止め効果の魔法を掛けてくれたので、皆は軽く準備運動をして身体を解したら、

 

「よし! それじゃ、泳ぎに行くぞ!」

 

 早速、海を遊泳しに白い砂浜を駆け出した。

 海水に浸かった途端、ひんやりとした冷たさが全身を駆け抜け、この時期特有の真夏の猛暑を忘れさせてくれる。

 特に、長年監獄に閉じ込められていたシリウスと夏休み中に叔母夫妻からこうして自由な時間を与えられることがなかったハリーは、心底嬉しそうな表情でエンジョイした。

 

「ハリー達、楽しそうだな」

 

 少し離れた場所で仲間と笑い合う友人の姿を、フィールは淡い微笑みで見守った。それを見てエミリーは「ええ」と頷くのと同時、金眼を細めて彼女を見下ろす。

 

「フィール。私はね、今、とても嬉しいわよ」

「………何がだ?」

「だって、前の貴女なら、友達の誘いとか、適当にあしらって断りそうだなって。娘が交友関係を築くようになって、喜ばずにはいられないわよ」

 

 姪、ではなく、娘、と言ってフィールの頭をポンポン叩いたエミリーは、目元を和らげて微笑んでいた。

 フィールは、去年のクリスマス休暇中にクリミアにも似たようなことを言われたなと、自分と瓜二つの叔母を見上げる。

 

「さ、私達も泳ぐわよ」

「………ああ」

 

 太陽に負けぬくらいの眩しい笑顔を向けてきたエミリーの後を、フィールは追い掛けた。

 

 泳ぎ始めてから数十分後―――。

 フィール達は休憩として、自分達の荷物やクーラーボックスが置いてあるビーチパラソルの下へやって来た。

 皆は座り込み、持参した大きなスイカを切ってそれを食べたり、炭酸飲料水のコーラを飲んだりしたのだが―――。

 

「ん? アレはなんだ?」

 

 シリウスが、アレ、と指したのは、バレーボールから派生した球技の一つで砂浜にネットを張ったコートで二人一組のチーム同士で対戦するビーチバレーだ。

 

「アレはビーチバレーっていうスポーツよ」

 

 首を傾げるシリウスへ、生粋のマグル生まれであるハーマイオニーが丁寧に説明した。

 

「へえ、そんなものがあるとは………よし、ライアン。私とビーチバレーで勝負しないか?」

 

 と、シリウスはライアンへ勝負を持ち掛けた。

 

「この間のハリーとフィールのバスケの試合は、君の姪が勝ったからな。だから、私がハリーの雪辱を君との勝負で果たす」

「いいだろう。だけど、普通に勝負するのはなんだか面白みがない。負けた方がかき氷を奢るってのはどうだい?」

「悪くない。受けて立つさ」

 

 シリウスは不敵な笑みをライアンへ向け、二人はシートから立ち上がる。

 パーカーを脱ぎ、空いてるスペースに移動した長身でイケメンの登場に、近くに居た女性がキャーキャーと騒ぎ出した。

 フランスで闇祓い(オーラー)に勤務しているライアンと、殺人鬼の汚名返上を果たした後に、英国魔法省で闇祓い(オーラー)に就いたシリウスは、仕事の関係上、どちらとも身体が相当鍛えられている。

 そのため、全体的に細く筋肉質の肉体を誇るライアンとシリウスは、一気に女性からの注目の的を浴びた。

 

「ねえ、あの人達、カッコよくない?」

「うんうん! あんなイケメン、二人も見たことないよね~!」

「どっちタイプ?」

「え~、迷うな~。でも、どちらかと言えば、私はあの金眼の人かな? 精悍な顔付きだけど、そこがまたイイって的な?」

「あ~、わかる~。でも、あのグレーの瞳の男性も捨てがたいよね。明るく社交的な感じで、気さくそうだよね」

 

 と、ライアンとシリウスの内、どちらが好みのタイプだとかで、周囲の女性達から黄色い歓声が上がりに上がる。中には彼氏持ちの女性もいるのか、男性陣は嫉妬の眼差しでライアンとシリウスを睨み付けていた。

 

「じゃあ、先に3回得点を取った方が勝ちな」

「ああ、わかったよ」

 

 ―――ということで、試合開始(ゲームスタート)

 

「とおっ!」

「とりゃ!」

 

 ライアンとシリウスは、ビーチバレーで男の熱き戦いを繰り広げた。試合は白熱とし、コートへボールを打ち込み打ち返したりと長らくは接戦を続け、中々決着がつかない。気付けば、いつの間にか彼らの周囲には、ギャラリーが大勢集まっていた。

 

 試合を始めてから数十分後。

 現在、二人の点数は2対2。

 つまり、どちらかがあと1点入れれば、勝者が決する。

 

「シリウス、ファイト!」

「負けるな!」

 

 ハリーとルーピンがシリウスへエールを送る。

 名付け子と親友から鼓舞されたシリウスは、スパイクやレシーブが鋭くなった。

 

「ライアン叔父さん! 頑張って!」

 

 クリミアの応援が、ライアンの耳に入る。

 ライアンは高くジャンプし、飛んできたボールを、バシッ! と鋭くスパイクを決めた。

 シリウスはレシーブしようと必死に手を伸ばすが、それはすんでで触れず―――彼の目前でビーチボールは砂浜に突き刺さった。

 結果、ビーチバレーの勝者はライアン。

 シリウスは、ハリーの雪辱を果たせなかったのを悔やんでいた。

 

「シリウス、また対決しないか?」

「ああ………今度こそは勝つぞ!」

 

 二人はパシッと握手し、互いの健闘を讃えた。

 そうして、ライアンとシリウスは愛する者達が待っている場所まで行こうと歩みを進めたが、

 

「あの~」

 

 背後から、声が掛けられる。

 ライアンとシリウスは、ゆっくり振り返る。

 途端に「きゃあ」と賑やかしい声が上がった。

 そこに立っていたのは、数人の若い女性だ。

 高校生か大学生くらいだろうか。

 全員が髪を明るく染め、濃い化粧を目の上や頬に施し、小麦粉色の肌に派手な水着を纏っていた。

 一見してシリウスは彼女達の意図を悟ったが、

 

「何か用があるのかい?」

 

 と、ライアンは首を傾げながら問い掛けた。

 すると、それまで話し掛けながらもあと一歩勇気が出せなかった女性陣の中で、真ん中に居た女の子が意を決したように前へ踏み込み、上目遣いがちにライアンを見つめながら、

 

「さっき、ビーチバレーをしているのを見て、スゴくカッコよかったなって………その。私達と一緒に遊びません?」

 

 すると、他の女の子達も口々に誘ってきた。

 押しの強い女の子達に囲まれて、ライアンとシリウスは内心、圧倒されたが、

 

「すまないが、連れがいるんでね」

「そういう訳だから、申し訳ない」

 

 と、あくまで丁重に断りを入れて頭を下げ、背を向けてすたすたと歩き去った。

 シリウスは肩越しにチラリと見る。

 フラれた彼女らは、顔を強張らせていた。

 ………余程自信があったのだろう。

 よくよく見てみれば、全員が可愛い顔立ちをしている。

 化粧も水着も最新の流行に沿っているし、それに見合うスレンダーなスタイルも抜群だ。

 ただ如何せん、ライアンは今更他の女に食らい付くような真似はこの先一生無いだろう。

 ライアンには、既に愛する妻子がいる。

 彼は不倫などという道を踏み外すような軽い男ではないし、妻だけでなく、血の繋がった妹や姪もハッと息を呑むほどの超美形だ。そして、今は亡き姉も人間離れした美しいフェイスだったのだ。

 生まれた頃からそれをずっと見てきたのなら、先程所謂『逆ナン』をしてきた美女数人など彼にとっては彼女達の足元にも及ばないのだろう。

 

(ま、仕方ないな)

 

 シリウスは苦笑し、前へ向き直る。

 少し歩いた先で、トロピカルジュースを手にしたエミリーがライアンとシリウスへ手渡した。

 

「はい、二人共、お疲れ様」

「ああ、ありがとう」

「気が利くな。サンキュ」

「どういたしまして。じゃ、シリウス。かき氷を奢るって約束、忘れないでちょうだいね?」

「勿論、わかってるよ。男と男の約束はちゃんと守るさ」

 

 親しげな会話が耳に届き、彼らにフラれたばかりの彼女らは自尊心を大いに傷つけられた。

 誰が見ても認めるほどの、美女だった。

 背はスラリとした長身で、余分な脂肪が一切と言ってもいいくらいに無い、雪のように真っ白な肌とは相反する黒い水着の上からクリーム色のパーカーを羽織る、温厚そうな女性―――。

 プライドをズタズタにされた女の子達の内、最初に声を掛けた子は引きつった頬を無理矢理に上げ、やけに大きな声を出した。

 

「なぁんだ………連れって言っても、そこいらに居るような平凡な女じゃん!」

 

 勿論、黒髪金眼の女性―――エミリーが、そこら辺にでもいるような女ではないことくらい、わかっている。

 それでもなお『平凡な女』と強調したのは、彼女が自分達のような化粧を施している様子が無いのに肌とかも綺麗で、シンプルな水着なのにも関わらず、他人との格差を圧倒的に生み出していることへの嫉妬心からだった。

 そのため、少しでも自分達の方が『彼女よりも容姿端麗』だと言いたくて、揶揄しているのだろう。

 周りに居た女性陣もそれに同調し、皮肉な笑い声を上げる。

 

「だよねー。私達みたいに化粧とかしないで、よく男の前に立てるよねー」

「ちょっと釣り合い取れてないし………ねえ、もう行こ行こ!」

 

 クスクスと嘲りを含めた笑いを浮かべ、新たな出会いを求めに踵を返す女性軍。

 エミリーは、彼女達から発せられる悪意に満ちた発言が自分に向けられたことに、唇を噛み締めた。

 あんなのは所詮戯れ言だ。

 気にする必要はない。

 だが………見ず知らずの人にあそこまで言われて、心中穏やかではいられない。

 思わず、それまで浮かべていた悪戯っ子な笑顔を引っ込め、下に俯く。

 ライアンは妹を傷つけられ、片眉を上げた。

 近くに居て今の会話が聞こえてたシリウスやルーピン、クリミア達も、せっかくの楽しかった気分を粉々にぶち壊され、笑顔が消える。

 苛立つ感情のままライアンが一歩踏み出すよりも前に―――見慣れたビーチボールが突風のように物凄い速さで横を通り抜けた。

 何処からか投げられたそのボールは、真っ先にエミリーの悪口を叩いた女性の後頭部に見事クリティカルヒットした。

 

「イッタ~………ったく、一体誰よ!?」

 

 女性はぶつけられた後頭部をさすりながらイライラと振り返ってみれば、そこには、あの黒髪金眼と瓜二つの黒髪蒼眼の少女が、静かな怒りを滲ませた表情で隠すことなく、こちらを睨み付けていた。

 女性は、例え子供であろうと遠慮無しに文句を言おうとズンズン歩み寄っていったが………近付いていく内に、少女とは思えぬ殺気立たせる威光を肌で感じてきたのか、徐々に速度が落ちていった。

 立ち止まった時には、すっかり怒りの表情は鳴りを沈め、顔面蒼白してしまった。

 狼のように鋭い、蒼色の双眸。

 狙った獲物は決して逃さないと言わんばかりにこちらを見据えてくるそれに、真夏日で照り付くような炎天下の元に居るのに、背筋から悪寒が走って冷や汗が止まらない。

 他の女性数人も、鞭打たれたように静まってフリーズしているので、助けを求めても無意味だ。

 

「ちょっ、フィール!?」

 

 エミリーは姪っ子の意外すぎる行動にビックリし、クシェル達も口をあんぐりと開けて呆然と立ち竦んでいたが、

 

「おい………それ以上悪口言ってみろ。次はこんなものでは済まさないぞ」

 

 と、低音で威厳ある声音で脅迫とも捉えられる発言をかました。

 女性陣は彼女の得体の知れぬ威風に気圧されて後退りし、逃げるようにその場から走り去っていった。

 たった一言。ただそれだけの言葉に、大人数人を負かしたのだ。これにはライアンもエミリーも、揃って唖然とする。

 フィールはさっき投げ付けたビーチボールを拾い上げると、

 

「………ごめん。嫌なことに巻き込んで」

 

 と、争い事を好まぬ叔母や仲間達に険悪な雰囲気を感じさせてしまったことを謝罪し、ボールを戻して何処かへ歩いていった。

 

♦️

 

「………はぁ」

 

 エミリー達からかなり離れた距離。

 そこで、フィールは砂浜に座って海を見るとはなしに眺めて深くため息を吐いた。

 あんな他人の揶揄など無視すればよかったなのに、エミリーが俯いていたのを見て、怒りが込み上げてきた。

 気が付けば短気と言われても仕方ないほどの早さで行動したのだから、自分に自嘲してしまう。

 

「フィール」

 

 声がした方向を見ると、エミリーが居た。

 フィールはバツの悪そうな顔になる。

 

「………エミリー叔母さん」

 

 口を濁すと、エミリーが隣に座り、額を軽く小突いてきた。

 

「フィール。見ず知らずの人にさっきみたいなことは、もう止めなさい」

「………ごめんなさい」

 

 小声でフィールが謝ると、

 

「でも………ありがとう」

 

 エミリーはフィールをギュッと抱いた。

 身長差と体格差の関係上、フィールはエミリーの胸に顔を押し付けられた。

 フィールは気恥ずかしさからジタバタする。

 

「ちょっ、エミリー叔母さん………!」

「なに?」

 

 フィールは頬を少し赤く染め、胸に顔を押し付けてきたエミリーの腕から逃れようとジタバタするが、力の差があるせいか、どう足掻いても敵わない。

 

「貴女の焦った所、久々に見たわね」

「………イジワル…………」

「ええ、私はイジワルよ?」

 

 ニヤリ、とエミリーは悪戯っ子な笑顔を浮かべる。

 すっかり、落ち込んでた様子はなくなった。

 

「いつもそれくらい可愛ければ、もっと人気が上がるのにねえ」

「………煩い」

 

 エミリーの言葉に口を尖らせたフィールは、不意に昔の記憶が甦った。

 9年前―――部屋で夜更かししていた所を母・クラミーに見つかって、「一緒に寝るわよ」と言って胸に顔を押し付けた………あの時の、頬と耳とを伝わって聞こえてきた心臓の鼓動を、唐突に思い出した。

 

(………あの頃はまだ、お母さんもお父さんも生きてたんだよな……………)

 

 あれから、9年の月日が経とうとしている。

 父と母を失い………心にポッカリと、穴が空いたような喪失感を背負ったまま、生きてきた長い年月だ。

 その時私は、自分の殻に閉じ籠ってしまった。

 ライアンやエミリー、クリミアがどんなに励ましてくれても、その心は救われなくて―――。

 

(………いや……違う………)

 

 今、何故か、そう思った。

 ―――閉じた心を、開いた者はいない。

 それに、心の何処かが、否定した。

 いない、ではない。いた、と。

 ショックで立ち直れなかった自分を、再び立ち直らせてくれた人がいた。

 何故か………そんな気がした。

 でも………わからない。

 本当に、そうだったのか。

 何も………思い出せない。

 

「お姉ちゃーん! 待ってよ~!」

 

 何処からか、そんな声が聞こえる。

 二人がそちらを見てみれば、黒髪の小さな女の子が、『お姉ちゃん』と思われる銀髪の女の子を追い掛けている姿が眼に入った。

 それを見てフィールは、同じくその姉妹の光景を眺めていたエミリーの腕からスルリと抜け、ゆっくりと立ち上がる。

 脳裏の片隅に、白銀の少女が浮かび上がった。

 整った顔立ちが形作る微笑みに、自然と安心感をもたらしてくれる………そんな、少女を。

 そして―――遠くから見える、見知らぬ銀髪の少女の背中を見つめて、こう呟いた。

 

 

 

 

「―――お姉ちゃん………?」

 

 

 

 




【スポーツ① バスケットボール】
ハリーはスポーツ得意らしいので、フィールとバスケでデュエルゲームさせました。結局、彼女がロングシュートで勝ちましたけど。

【海水浴】
やっぱり夏と言えば! 海でしょ!

【水着スタイルの皆さん】
これは滅多に見られない超貴重なシーン。
恐らくは、ハリポタ二次創作小説で初なんじゃ?

【スポーツ② ビーチバレー】
ライアンVSシリウスのデュエルバトル。
①で1on1にさせた理由はこういうこと。

【超モテモテなお二方】
そりゃ、ねえ。細マッチョでハンサムな男が二人もいるんだったら、女が騒ぐ訳がありませんからね~。
ライアンは元々人外じみた美形の顔だし、シリウスも伸び放題だった髪をショートにして髭も剃り、長年摂ってこなかったまともな食事と闇祓いに必要な体力を養うための訓練をした結果、学生時代の頃のルックスに近付きましたからね。

【逆ナン×美女数人】
男なら誰もが一度は経験したい逆ナンな上に誘ってきた女は数人。
普通の男なら(*ノ゚Д゚)八(*゚Д゚*)八(゚Д゚*)ノィェーィ! な所でも二人はそれを断るという。

【フィール、キレる】
普段はクールな彼女ですが、大切な人を侮辱されたら殺気立たせる威光の空気をぶっ放す。
それには大人であろうと思わず恐怖心を持つ。
お、恐ろしい………((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル。

【まとめ】
今回は完全にマグル界での話でした。
夏ならではとのことで、クシェルの言ってた通り海へと遊びに行った出来事。楽しんでいただけたでしょうか?
私も書いてて、スゴく楽しかったです♪
たまにはこうして戦いが無いストーリーも悪くはないかなと思います。どのキャラにどんな水着を着させようかなと考えたのも楽しかった一つですね。
ちなみにクィディッチ・ワールドカップ決勝戦後にも海が出てくるので、ダブルマリンストーリーになりますね。海好きな人には必見なのでは?

さて、話は変わりますが……いよいよ、これまで曖昧にしてきた伏線や謎が本格的に明るみになっていくでしょう。読者さんの大半以上が既に感付いている部分もあると思いますが、どれだけ答えが合っているかの答え合わせだと思って読んでくれたら嬉しいです。
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