【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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※1/11、サブタイトル変更。


#49.クィディッチ・ワールドカップ【後編】

「え? 知り合いだったの?」

 

 フィールとクリミアが過去のことに記憶を巡らせていたところに、クシェルの頓狂声が響く。

 その声にハッとした二人は、回答するのに躊躇した。

 正直に話してもいい。

 クシェルの母親が、フィールの母親の主治癒で彼女が昔よく世話になったと。

 だがしかし、ここでバカ正直に答えれば、空気を壊してしまうのは眼に見えている。

 故に、今は真実を明かすべきではないと思い直し、咄嗟にフィールが言い繕ってぼやかした。

 

「私が魔法の練習で怪我をした時、よく治療してくれた人。………なんとなく、治癒魔法の腕前がライリーさんとなんか似てるなって思ってたんだけど………まさか、本当に親子だったなんてビックリだな」

 

 このことは、嘘ではない。

 フィールが『破滅(アグレッシブ)守護霊』を創出する際や過度な魔法の鍛練で膨大な魔力や気力のピークを迎えて瀕死状態や大怪我を負った時、決まっていつも治療に当たってくれたのが、ライリーただ一人だけだった。

 

「私もよ。トロールが現れた際に一切臆することなく倒した、普段はクールだけど、実はなんだかんだで優しい親友っていうのがフィールちゃんだってわかった時、本当に驚いたわ」

「ちょっと待ってよ! なんで二人共、私に何にも言ってくれなかったのさ!?」

「だって、半信半疑だったし」

「今度会ったら、貴女を驚かせよっかなって」

 

 フィールとライリーはそう言い、ふと、後者はクリミアに眼を向けた。

 

「クリミアちゃんも大きくなったわね。今年で、最高学年よね?」

「はい。今年で7年生です」

「ってことは、来年卒業するのね。何の職業に就こうか、もう決めた?」

「えっと………癒者(ヒーラー)です。ライリーさんのテキパキ働く姿に憧れたというか………貴女みたいな癒者になりたいって思ったのがきっかけです」

「あら? それなら嬉しい限りだわ。是非来てね。色々教えるわよ」

「はい。その時はよろしくお願いします」

 

 ライリーとクリミアが将来の師弟関係を約束する中、クシェルはフィールからライアンとエミリーに視線を移した。

 

「ライアンさん、エミリーさん。もしかして、最初から知ってたんですか?」

「ああ。2年前、ダイアゴン横丁で君と会った時、フィールの友達がライリーさんの娘だと、改めて再確認したよ」

「もっと言えば、貴女のことはちっちゃい時から知ってたけどね」

「え? そうなんですか?」

「ええ。でも、結構昔のことだから、多分覚えてないだろうなって思って、言わなかったのよ」

 

 ライアンとエミリーは微笑みながら言った。

 クシェルは翠色の両眼を瞠目させる。

 彼らは自分のことを出会った当初からわかっていたのだ。

 それを知って、驚かずにはいられない。

 

「な、なんかビックリなんだけど………」

 

 クシェルはフィールを見た。

 

「フィー、貴女、昔から無茶ぶりしてたの? ダメでしょ。めっ」

 

 と、フィールが幼い頃から魔法の訓練をしてきたことを聞いて、クシェルはポンポンと彼女の頭を軽く叩いた。

 フィールは「……子供扱いするな」とクシェルの手を止め、ジト眼で睨む。

 その光景を見てライリーは笑み、

 

「フィールちゃん。3年前、クシェルを助けてくれて、本当にありがとう」

 

 と、フィールに礼をした。

 

「………やっぱり、親子ですね」

 

 微笑んだ顔が今ならハッキリとクシェルとオーバーラップし、フィールは眼を細める。

 一方のライリーも、今は亡き親友と目の前の少女がオーバーラップし、瞳を伏せた。

 

(やっぱり、クラミーの娘なのね………)

 

 この娘はどんどん、母親と似てきている。

 昔の頃よりもずっと、クラミーに近付いているような気がする。

 だから、顔を合わせるのが少し辛かった。

 親友の面影を感じ、感傷に浸ってしまうから。

 だけど、いつまでも避けるような真似は駄目だと、気持ちを切り替え、

 

「フィールちゃん。今日は楽しんでね」

 

 と、フィールの頭を優しく撫でた。

 それから、ライリーは腕時計を見る。

 

「私、そろそろ待機場所に行かないと。試合前に医療班の人達と打合わせ会議をしたら、そのまま仕事に入ると思うわ。試合が終わるまでは戻って来ないと思うから、ライアン、エミリー。クシェル達をよろしくね」

「ああ、勿論さ」

「任せてください」

「お母さん、いってらっしゃい」

「頑張ってください」

「無理はしないでください」

 

 と、三者三様ならぬ五者五様に、ライリーはニッコリと笑い、テントを出ていった。彼女は若いが、世界選手権大会の治療チームのリーダーに選定されたというくらいなのだから、その仕事量は半端ではないのだろう。プロが行うゲームなのだから、怪我の重度や頻度もホグワーツのそれとは比べ物にならないのだから。

 

 テントを出たライリーは、一息ついた。

 

(………私、ちゃんと笑えてたかしら)

 

 今日、ジャックとクラミーの忘れ形見―――フィールとクリミアを会うことは、随分前から覚悟していた。

 後者はともかく、前者は二人の実娘だ。

 数年ぶりに対面することは嬉しくも、苦しかった。

 ライリーはフィールの顔を思い浮かべる。

 気を抜けば、あの少女が親友の娘ではなく、本人と錯覚してしまうくらい、容姿も雰囲気も瓜二つだ。虹彩と語尾は、母親と違うが………。

 

 ―――クラミー(お母さん)が必要なら……私がいらないなら……私がクラミー(お母さん)に……なるから………。

 

「………ッ」

 

 ライリーはこめかみを押さえた。

 もう何年も前………幼いフィールが涙ながら言ったあの言葉は、今でも忘れられない。

 自分(フィール)という存在意義を失い、代わりに母親(クラミー)になると決意した………。

 

(………クラミーになる………か)

 

 確かに、フィールはクラミーと似ている。

 似ているけど、それとこれとは話が別だ。

 母親は母親で、自分は自分。

 自身の代わりなど、何処にもいるはずがない。

 しかし、フィールはわからないのだろう。

 血の繋がりがある人から存在を否定され、嫌になるほど散々に痛め付けられてきたせいで、心に歪さが生まれてしまったから。

 虚偽の自分を装い、苦闘してきたから………。

 

(フィールちゃんは………今でも、自分のことが好きじゃないのね………)

 

 自分自身を愛せないから。

 だから、他人を受け入れることが上手く出来ないのかもしれない。

 でも、それは徐々に変わっていると思った。

 あのフィールが、娘を助けてくれたのだ。

 危険を顧みず、窮地に駆け付けてくれた。

 昔に比べれば、断然変化していると思う。

 

(………このまま、何事もなく過ごせればいいのだけれど…………)

 

 ライリーはある事実に、深くため息をついた。

 

♦️

 

「それにしても、フィーとクリミア、お母さんと知り合いだったなんて、ビックリしたよ」

 

 ライリーがテントから出ていくのを見届けたクシェルは呟いた。

 

「お母さん、髪ロングだからわかりにくい?」

「いや………今なら、なんとなく、笑った顔とかがそっくりだなって思える」

 

 密かな半信半疑から確信へと変わったフィールは、ライリーとクシェルの笑みが重なって見えるようになった。

 

「そっか。………あ、フィー達は試合の時間までどうする? 私、出店を見て回るけど」

「そうだな………暇だし、私も行こうかな」

「じゃあ、一緒に行かない?」

「構わない。一緒に行くか」

「うん!」

 

 クリミア達はテントに居るとのことで、クシェルはフィールの左腕を掴み、引っ張りながら元気よく飛び出していった。

 

「………やっぱり、クシェルちゃんはライリーさんの娘だな」

 

 フィールとクシェルの姿が見えなくなるまで見届けたライアンは、染々と呟く。

 

「ええ………そうね」

 

 エミリーは金色の眼を細め、笑みを溢す。

 クリミアも淡い微笑みを浮かべると、現時刻を見て、

 

「まだ早いけど、先に夕食作って食べましょ。食材とかって、使ってもいいのかしら」

「ええ、大丈夫よ。ライリーさん、『冷蔵庫に食材とか沢山あるから、お腹空いたら作るなりして自由に使っていいわよ』って言ってたから」

 

 クリミアをそれを聞き、早速夕食作りに取り掛かろうと、キッチンの方へ歩いた。

 

 その頃、フィールとクシェルは出店で賑わっている一角へ向かっていた。

 出店は食べ物や飲み物だけでなく、様々なクィディッチ用品が並べられており、クィディッチファンのクシェルはキラキラした瞳でキョロキョロ見て回っていた。

 

「クシェル、はぐれないようにな」

「フィーもね。はぐれないでよ」

 

 と、互いに人混みの中で見失わぬよう、呼び掛ける。二人は歩く途中で飲み物を購入し、飲み歩きしながら色々探索してると、

 

「あら? フィールとクシェルじゃない」

 

 声がした方向に、二人は顔を向けた。

 そこには、3歳年上の先輩、アリア・ヴァイオレットが居た。

 周囲の魔法使い達の奇抜感駄々漏れの服装を見続けてきたせいか、彼女が着こなす正しいマグルの服装に、思わず感心してしまう。

 

「アリア先輩、こんばんは」

「こんばんは。貴女達も観戦しに?」

「はい。アリア先輩も?」

「ええ。両親と姉とね。もう少しお話したかったけど、そろそろ行かないといけないから、また今度、ゆっくり話しましょ」

 

 そう言って、アリアは人混みの中に消えた。

 フィールとクシェルは現時刻を見て、自分達も戻ろうかと、踵を返した。

 

♦️

 

 試合開始1時間前になり、大きい鐘の音が鳴り響くと、競技場までの道の誘導灯が一斉に点った。

 フィール達の予約席はクィディッチ・ワールドカップ関係者用のテントのため、一般客が予約した場所よりも遥かにスタジアムからの距離が近い。

 急いで戻ってきたフィールとクシェルは、長蛇の列が出来る前に、先に入り口ゲートに来ていたクリミア達と合流した。そしてそこには、ある人物も居た。

 

「あ、お父さん。間に合ったんだね」

 

 クシェルの父―――イーサン・ベイカーが、ライアンと話していた。イーサンは娘と、亡き親友の娘に気付き、笑顔を向ける。

 

「ああ、なんとかギリギリな。………フィールちゃん、久し振りだな」

「ええ、お久し振りです。イーサン」

 

 パキッとした金色の髪に明るい翠の瞳。

 英国魔法省勤務の闇祓い(オーラー)のため、体格はガッシリしている男だ。

 フィールとイーサンが握手してると、その彼女とクシェルへ、クリミアがチケットを手渡してきた。二人はそれを受け取る。

 受付の魔女にチケットを検めると、最上階貴賓席に繋がる階段を指差した。階段には、深紫色の絨毯が敷かれている。

 一番上の階まで登ると、そこはボックス席だった。ポジションは両サイドの金色のゴールポストのど真ん中であり、尚且つ最上階だ。広大な競技場内全体を360゜見渡せる、まさに最上級の席であった。

 

「彼処に居る屋敷しもべ妖精、大丈夫かな?」

 

 貴賓席は二列に別れており、後ろの列の奥から2番目に屋敷しもべ妖精が居るのだが、高所恐怖症なのか、眼を覆って震えていた。

 

「大丈夫じゃなさそうね」

「ま、問題はないだろ」

 

 フィール達は指定されている席に座り、この馬鹿デカイ競技場内を見渡す。数十分が経過し、何人かの魔法省の重鎮や名家の当主が貴賓席にやって来た。

 

「あれ? もしかして、フィール達?」

 

 後ろから声が聞こえ、振り返ると、ハーマイオニー・グレンジャーが立っていた。

 

「久し振りだな」

「ハーマイオニー達も観戦しに?」

「ええ。ロンのお父さんに誘って貰ったの」

 

 ハーマイオニーの後ろには、赤毛で統一されたウィーズリー一家とハリー・ポッターが居た。

 ウィーズリーブラザーズの内、ツインズのフレッドとジョージは、フィールとクシェル、特に前者を見て顔をしかめた。

 フィールがピンチヒッターのシーカーとしてスリザリンのクィディッチチームに参戦、連勝を断ち切られ、優勝奪還された屈辱は彼らにとって記憶に新しい。

 グリフィンドールのクィディッチチームのビーターを務めてる二人はフィールを激しく嫌悪してるため、その彼女が此処に居ることを居心地悪そうにしてた。

 

(なんか凄い嫌そうにされてるな………)

 

 彼らの手前、そんなことはおくびにも出さないでいるが、内心では不愉快極まりなさそうにイライラを募らせた。

 

「ところで、そこの男の人は?」

 

 見慣れない金髪翠眼の男性にハーマイオニーが首を傾げていると、

 

「はじめまして。僕はイーサン・ベイカー。クシェルの父親だよ」

 

 と、イーサンがにこやかに答えてくれた。

 初対面のハーマイオニー達は、眼を見張る。

 

「クシェルのお父さんなの?」

「うん。そうだよ」

 

 イケメンのライアンに引けを取らない金髪のイケメンが友人の父親と知り、ハーマイオニーはまじまじと見つめた。

 

「………確かに、クシェルと似てるわね」

 

 クシェルとイーサンを見比べ、二人のアクティブ感が漂う雰囲気を感じ取ったハーマイオニーはそう呟く。加えて二人は翠眼も同じなため、尚更理解を深められた。

 その後、フィール達は初対面のウィーズリー家の長男・ビルと次男・チャーリーと軽く挨拶を交わし、ハーマイオニーとクシェルは暇な時間を他愛もない話で潰し、フレッドとジョージはフィールを一瞥したらそそくさに前列の席に座った。

 

「…………………………」

 

 相変わらずな嫌われっぷりだと肩を竦めていると、

 

「フィール。あの二人と何かあったの?」

 

 と、小声でエミリーが訊いてきた。

 フィールは小声で、エミリーに答える。

 

「別に。………去年、私がピンチヒッターのシーカーになってから、嫌われ度が格段上がっただけ」

「あー………そういうこと」

 

 ウィーズリー家がスリザリン嫌いなのを知っているエミリーはすぐに察し、苦笑すると、

 

「まあ、でも………ロンとジニーとは、交流あるからそんなに気にする必要はない」

 

 フィールにしては珍しいことを言った。

 エミリーは微かに眼を見張ったが、微笑むと、フィールの頭をポンポンと軽く叩いた。

 

 此処に来てから30分ほど経過し、試合開始間近となった頃。

 英国魔法省大臣コーネリウス・ファッジとブルガリア魔法省大臣がやって来た。前者はハリーに話し掛け、後者に彼を説明しているが、言葉は通じてない。まあ、外国語で説明されても、それがわかる人じゃなければ通じないなとクシェルは思い、ふと、大人組に眼を向ける。

 

 フィールの叔父叔母のライアンとエミリー、父のイーサンは、ファッジを見て微かに怒りを顔に滲ませてるような気がした。

 そして、フィールは………彼を見た瞬間、激しい頭痛に見舞わされ、胸が焼けるように熱くなった。

 キリキリと、頭を締め付けるような痛み。

 それは徐々に、大雨の場景を滲み出させた。

 こめかみを押さえる手に、力を込める。

 見慣れてないはずなのに、何故か、見覚えがある。だけど、顕現しない。霧が掛かったみたいに遮られてしまう。

 もどかしい気持ちを募らせつつも、抑えきれない感情を必死に抑圧させ、視線を英国魔法省大臣から外し、ドロドロした気分を打ち消す努力をした。

 

 どういう訳か、ファッジを見た瞬間、胸の奥底から怨念が沸き上がり、それは抑制心が確実に削られていくほどだ。もっと言うなれば、今すぐにでも息の根を止めたくなる………。

 それがトリガーなのか単なる偶然なのか。

 誰かの輪郭がぼんやりと浮かび上がった。

 

(あれは…………)

 

 意識を研ぎ澄ませ、更に探ろうとした時、

 

「―――! フィー!」

 

 身体を揺さぶられる振動がフィールの意識を正常に戻し、同時に頭の中で浮上していたシルエットも崩れ去った。

 彼女はハッと我に返り、横を見てみれば、クシェルの心配そうな顔が覗き込んでいた。クシェルは首筋に手を伸ばし、指を当てる。

 

「フィー、大丈夫? 顔色悪いよ………」

 

 癒者の娘なだけあって、クシェルは体調が不良そうな人を発見すると、脈を取って確認する癖がある。突然、冷や汗が首筋や額に噴き出したフィールに彼女は顔を険しくした。

 

「………ああ、大丈夫。………少し、人酔いしただけだから」

 

 嘘がバレバレな口実をしたフィール。

 全てを見透かしてるように、クシェルが口を開こうとした、その時。

 

「ああ、ルシウス。来たか」

 

 指定席が貴賓席の純血名家マルフォイ一家が姿を現した。ファッジはアーサー・ウィーズリーとルシウス・マルフォイが犬猿の仲だと知らないのか、二人を引き合わせる。その瞬間、緊張感が走ったが、大した騒動はなく、ルシウス達は席に向かって歩いた。

 フィールとクシェルの同僚同輩、ドラコは二人が此処に居ることに驚いた顔になり、彼女達は目礼する。その際、フィールは彼の母親だと思わしきブロンドの髪の女性と眼が合った。

 

「……ん? 貴方、ちょっと待ってちょうだい」

「なんだ、ナルシッサ」

「ねえ、もしかして、その娘かしら? クラミーの娘ってのは」

 

 その女性―――ナルシッサは、黒髪の少女を眼で示し、ルシウスに問う。彼は彼女を見て、「そうだ」と頷いた。

 

「やっぱり。………瞳の色を除いて、クラミーとそっくりだわ」

 

 ナルシッサはどこか冷ややかな表情になり、咄嗟にエミリーがフィールを抱き寄せ、ライアンとイーサンが護るように立ち塞がる。

 

「………2年前の時みたいだな」

「不用意にフィールに近付くような人には、警戒する癖があるものですので」

 

 ルシウスは軽く肩を竦め、エミリーは鋭い眼差しで彼を睨む。

 彼女は元・死喰い人(デスイーター)であるルシウスには敵意を少なからずとも持っており、特に闇の魔法使いを屠る職業に就いているライアンとイーサンは闇の帝王が凋落後、本心ではなかったと言い逃れして裁判を免れたルシウスを信用してなど殊更ない。

 ガードの磐石が固い三人にマルフォイ夫妻は大人しく身を引くことにし、指定席へ再び歩みを進めた。

 彼らが席に着いた時、貴賓席に飛び込んできた魔法省魔法ゲーム・スポーツ部部長、ルード・バグマンの一声で、クィディッチ・ワールドカップ決勝戦の幕が上がった。

 

♦️

 

 試合はアイルランドの勝利で幕を閉じた。

 点数はアイルランドが170点でブルガリアが160点。最終的にスニッチを取ったのはブルガリアのチームの天才シーカー、ビクトール・クラムだった。彼がスニッチを手にした時、点数差は160点ついていて、逆転勝利は不可能と判断したのだろう。

 あのまま試合を続行して無様に惨敗するより、自分の手で終わらせて潔く敗北を受け入れるのを決断したに違いない。

 

 終戦後、フィール達はライリーとイーサンの勧めで一晩彼女達のテントに泊めさせて貰うことにした。

 仕事から帰ってきたライリーのためにクリミアが料理の腕を振るい、皆でワイワイ酒盛りを楽しんだ。

 そうして、夜が更けてきたのでそろそろ寝ようかと皆が立ち上がった時、慌ただしい喧騒と逃げる足音、行き交う悲鳴が聞こえてきた。

 

「え? 何が起きたの?」

 

 テントを出て辺りを見渡してみると、奥のキャンプエリアの空中に人が浮かんでいるのが見えた。

 多くの人が此処のテントの位置とは真逆の方角にある森へと逃げていき、その後を追い掛けるように嘲笑しながら行進し周囲一体のテントを蹴散らして暴れる、黒いローブの集団がチラリと見えた。

 彼らの顔を覆う仮面に見覚えがあるライアンとイーサンは目付きが鋭くなる。

 

「イーサン! アイツらは!」

「ああ、間違いない! 死喰い人(デスイーター)だ!」

 

 死喰い人(デスイーター)闇の帝王(ヴォルデモート)の思想に賛同し、忠誠心を誓う闇の魔法使いの呼称だ。

 

「アイツらが向かう方向は此処とは真逆だが、だからと言って此処にいつまでも居たらマズい!」

「そうだな、とにかく、早く此処から―――」

 

 と、その時、あるものが眼に止まった。

 口から蛇が出ている、おどろおどろしい骸骨が緑色に光る煙に描き出され、暗い夜空を装飾していた。

 

「あれって………!?」

「『闇の印』………!」

 

 闇の印。かつて闇の帝王や闇の魔法使い達が殺戮声明に用いた狼煙であり、死喰い人の左腕にも同じ印が刻まれている、人々からは恐怖の象徴として恐れられているマークだ。

 

「………ッ!」

 

 フィールは無意識の内に、闇の印が上げられた方角へ急行しようと駆け出した。

 

「フィールちゃん! 待ちなさい!」

 

 ライリーが声を上げ、ライアンがそれを追い掛けようとしたが、

 

「ライアン! お前は此処に居て護衛しろ!」

「私達が追い掛けるわ!」

 

 イーサンがライアンに此処に留まってライリー達のガードを頼み、エミリーと共にフィールの背中を追った。

 フィールは自分のシックスセンスの勘に従い、本能が赴くままに疾走する。

 三人が闇の印の周辺に到着すると、魔法省役人が血相を変えながら『姿現し』し、20人近くの魔法使いがそこに居た人影を囲んで、一斉に『失神呪文』を撃った。

 紅い光があちこちに飛び交い、その内1つのスパークがフィールの目前にまで迫ったため、イーサンは地面を強く蹴って彼女に飛び付き、難を逃れる。

 

「大丈夫か!?」

「………大丈夫です」

 

 声を抑えて安否確認するイーサンに、フィールは頷く。エミリーがホッとしつつも、誰を撃ったのかと眼を凝らし、

 

「止めてくれ! 私の息子達だ!」

 

 アーサーの悲鳴に近い声が聞こえ、中心に居たハリー達一行に近付くのが見えた。

 

「三人共無事か!?」

 

 アーサーの声は震えていた。まさか、自分の息子や親友を攻撃してるとは予想だにしなかったのだろう。

 

「邪魔だ、アーサー」

 

 ナイフのように鋭くアイスのように冷たい男の声がアーサーの後ろから聞こえる。アーサーを押し退けて現れた人物に、遠くの場所で観察している三人は視線を走らせると、

 

「………クラウチか」

 

 バーテミウス・クラウチ・シニア。国際魔法協力部部長。元魔法省執行部部長。彼は「暴力には暴力を」と言う姿勢で、死喰い人が被害者に対して行った犯罪には同じくらい無情で残酷な処置を取ったことで有名であった。その功績から魔法界の支持を集め、次期魔法省大臣と期待されていたが、身内の不祥事で失脚した。

 

「誰がやった? 誰が闇の印を打ち上げた!?」

 

 クラウチの怒鳴り声がビリビリと響き渡り、その一方的な糾弾に、ハリーとロンが抗議の声を上げた。

 

「僕達じゃない!」

「そうだ! 何のために攻撃したんだ!?」

 

 二人は憤然とし、周囲の役人達は相手が子供であったことを理解し、動揺していた。が、クラウチは三人に杖を向けたまま、尚も激しく問い詰める。

 

「白々しいことを! お前達は犯行現場に居た!」

「犯行現場に居たからといって、それが犯人だという根拠は何処にあるんだ?」

 

 これ以上は我慢の限界だ。

 イーサンは低音の声で、彼らに歩み寄りながら言葉を発する。

 突如響き渡る威厳ある声の方へ、クラウチと役人達は杖を構えるが、その相手が、闇祓い勤務の男だとわかり、杖をゆっくり振り下ろした。

 

「クラウチ。仮にも魔法省執行部部長を務めてたお方が、闇の印を今まで一度も見たことがない子供にアレを創り出すのは不可能だと言うのを理解出来ないなんて、それでもアンタ、いい歳した大人か?」

 

 イーサンはクラウチに問い、彼は口を噤む。

 その間、エミリーとフィールが三人に寄る。

 

「ハーマイオニーちゃん。何があったのか、教えてくれるかしら?」

 

 三人の中で比較的落ち着いているハーマイオニーにエミリーが目線を合わせて優しく尋ね、彼女は拙くも語った。

 

「私達、あの黒いローブの集団が現れてから、森に避難したの。その途中でジニー達とはぐれて、三人を探しながら奥に進んできて。途中でバグマンさんにも会ったわ。それで此処に辿り着いて休んだの。そしたら、あの木立の陰から、誰かが呪文を叫んで………」

 

 皆の視線はその木立に顔を向ける。

 イーサンが「様子を見てくる」と果敢に突き進んでいき、数秒後、彼は貴賓席に居た屋敷しもべを抱えて戻ってきた。屋敷しもべを見た瞬間、クラウチは顔面蒼白し、まだ木立に誰かが居るのではないかと、おぼつかない足取りで周辺を捜索し始めた。

 どうやら、クラウチの屋敷しもべらしい。

 イーサンは屋敷しもべ―――ウィンキーが持っていた杖を『直前呪文(杖が最後に使った魔法の幻影を再生する呪文)』で調べると、杖からは闇の印の幻影が放たれ、犯行に使用されたものだと証明された。

 驚くことに、それはハリーの杖であったらしいが、とにかくまずは、最優先事項として気を失っているウィンキーを『甦生呪文』で復活させ、尋問した。

 目を覚ましたウィンキーは周囲の状況を確認して哀れなほど震撼し、エミリーと同じ部門に勤務してる役人、エイモス・ディゴリーは何も知らないと言い張るウィンキーに畳み掛ける。

 そこから、クラウチとの口論も行き交ったりなどしてこの場は混沌としたが、闇の魔法使いとの実戦経験が豊富で専門家のイーサンが、ウィンキーは本当に何も知らないと判断し―――結果的には荒れたまま、解散となって解放された。




【クリミアの将来の夢】
癒者。首席女帝のクリミアならきっとどころか絶対になれますね。クリミア、ファイト!

【幼少期のクシェルを知ってた二人】
2章は一応読み直してみましたが、矛盾点がないかが不安。

【クシェル父登場!】 
クシェルのお父様、初登場。
フィール達は名前の関係上、『ライリーさん』のようにさん付けではなく『イーサン』とさん付け無しで彼を呼んでおります。
それにしても………名前『イーサン』で姓『ベイカー』がまさかのバイオ7で出てきた、主人公の名前、謎の家族の姓、っていうのは、クラミーとフィールの時みたいにあとでわかって超ビックリしました。
しかも、バイオ7のキャラの名前でジャックがいたのにもアンビリバボーです。

【ファッジ】
エミリー達、なにやら憤ってる様子。

【大雨の場景】
色々予測してみてください。

【闇の印騒動】
原作と多少変化。
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