【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
その日、4年のスリザリン生が最初に受ける授業は『闇の魔術に対する防衛術』だ。
怪物大好きなハグリッドが担当して行う行き当たりばったりな授業内容の『魔法生物飼育学』とは打って変わって、この授業は経験豊富なプロが行うため、完成度の格差が激しくなりそうだ。
「教科書はいらん。そんな物は仕舞ってしまえ」
教卓に乗ったムーディは出席簿を取り出すと、生徒の名前を一人一人読み上げた。2つある眼の内普通の眼は出席簿のみに注がれているが、青の義眼はギョロギョロと生徒達を見回している。
「お前達は闇の生物と戦うための術を多く学んできた。だがお前達は遅れている。非常に遅れていると言わざるを得ない。一番肝心の闇の魔法、呪いの扱い方がまるでなっていない。魔法省によれば6年生になるまでは幼すぎるため見てはいかんということになっているが……油断大敵ッ!!」
突如叫び出したムーディに生徒はビクッと身体を震わせた。今のは完全な不意打ちである。未だに心臓がバクバク鳴っている人は何人かいるだろう。しかし、当の本人はさらっと続きを言うのだから、別の意味で尊敬してしまう。
「見たこともない物、知らない物から身を守ることなど出来るものか。そこでわしの役目は持ち時間であるこの1年でお前達を最低ラインにまで引き上げることにある。戦うべき呪文を知り、そこで初めて身を守ることが出来るようになるのだ。さて………魔法法律により最も厳しく罰せられる呪文が3つある。答えられる者はいるか?」
ムーディがそう尋ねると、数人の生徒がおずおずと手を挙げた。元・
だが、ムーディはそれらを全てスルーし、ある生徒の前まで来ると、魔法の眼と普通の眼の両方でその生徒の顔を見下ろした。
「ベルンカステル。お前は答えられるか?」
中途半端に手を挙げていた人達とは違い、珍しく腕組みをして手を挙げていなかった学年首席様―――フィール・ベルンカステルへ、ムーディはクエスチョンした。彼女は蒼眼に鋭さを持たせ、深く息をつく。
「………勿論」
「ならば、答えてみろ」
「………服従の呪文インペリオ。磔の呪文クルーシオ。そして―――死の呪文アバダ・ケダブラ。『服従の呪文』は完全に抗わない限り、術者の命令には逆らえない。『磔の呪文』は死ぬ方がマシだと思わされるほどの苦痛が身体と精神を追い詰める。そして『死の呪文』は当たれば最期。身体には一切の外傷を残すことなくこの世を去る。魔法界の歴史上、『死の呪文』を受けて生きた者はただ一人だけ」
そのただ一人とは、言わずと知れた―――ハリー・ポッターである。
反対呪文も抗う術もない『死の呪文』を確かに喰らったのにも関わらず、この世に生き延びてみせたのが獅子寮所属の彼だ。
故にハリーは『生き残った男の子』として、魔法界の住民からは敬意を払われてそう呼ばれている。
「完璧な回答だ、ベルンカステル。流石、スネイプと互角に戦えるほどの実力者だ。技術面だけでなく、知識面も飛び抜けている」
「………それはどうも」
満足そうに頷くムーディを、フィールは鋭い目付きで頷き返す。あの一件以来、フィールはムーディに対して違和感と警戒心を覚えた。そのせいか、自然と臨戦態勢を解く気にはなれなかった。
その後ムーディは蜘蛛を実験台に、許されざる呪文3つを実演。その恐ろしさや効果を、親切すぎるほどわかりやすく教えてくれた。
『服従の呪文』を掛けられた蜘蛛は糸を器用に使って空中ダンスを披露し、『磔の呪文』を掛けられたら誰が見てもわかるほど悶え苦しみ、当たったら最期の呪文である『死の呪文』を受けたら本当に一切の外傷を残すことなく、呆気なく他界した。
「これから1年間、わしはこれらの呪文と戦う術をお前達に与えていく。お前達は知っておかねばならん………そして、常に身構えていなくてはならんのだ。わかったら羽ペンを出せ。わしが言うことを書き取るのだ」
ムーディの、これから先実戦を意識した授業になるのを予感させる発言を、フィールはどこか遠くのように聞いていた。
さっきの………自然的な、杖の振るい。
当たり前のように………空気を吐くように行われた、許されざる呪文の実演。
その光景が、フィールにとってはどうしても、彼が元々闇祓いに勤めてた人間とは思えないと思ってしまった。
あの動き方は、闇祓いのものではない。
そう………まさにそれは、闇の魔法使い―――死喰い人が撃つかのような、そんな感じを受け、フィールは事切れた蜘蛛を見つめながら、気が気じゃなくなった。
♦️
その日の授業も全て終わり、夕食の時間帯になったら午後の授業で費やしたエネルギーを摂取するべく、ホグワーツ生は大広間へ向かう。
クシェルは現在図書室に居るだろうフィールは後で来ると思い、一人で向かっていた。同じように大広間へと歩く人達にぶつからぬよう、人混みの中をスルリと器用に縫っていく。
「疲れた………」
顔に疲労を滲ませてそう呟くクシェル。
すると、右隣に座った誰かに頭をポンと軽く叩かれた。
そちらを見てみると、同輩のダフネが居た。
「あ、ダフネ………」
「お疲れ、クシェル。全く………最近の授業は疲れやすいわ。私達を過労死させる気かしら」
恐らく、先程のクシェルの呟きが聞こえていたのだろう。ダフネの顔にも隠しきれない疲れが滲み出ていた。
「寝不足になりがちの時期だから、余計に疲労が蓄積していくわね。全く、一体誰がテストなんて傍迷惑なモノ考え付いたのよ………」
「だね。ホント、ヤダよね………」
ダフネとクシェルは顔を見合わせ、共感する。
まあ、技量も知識も完璧に兼ね備えているフィールにとっては手緩いモノかもしれないが、一般生徒からすれば最早拷問に近い。
しかし、こちらはまだ軽い方だろう。
将来的に重大なテストを控えている5年生・7年生が一番神経質になる時期だと思うと、4年生の課題なんてまだマシな方だ。
来年がとてもヤバい年になりそうだと予想して既にこの時から気が滅入ってしまった。
ゴンッ、とクシェルはテーブルに撃沈する。
それから、大きく息を吸って大きく吐いた。
「はあああぁぁぁ……………」
もうイヤだ………と思った直後。
髪をぐしゃぐしゃとやられ、ハッと顔を上げると図書室から真っ直ぐ大広間までやって来たフィールの蒼い瞳が見下ろしていた。
「まずは夕食食べて元気出せっての」
ぶっきらぼうながらも励ますフィールに、クシェルは笑顔を取り戻す。
「そだね………ありがと、フィー」
「………ああ、そう」
フイッと顔を逸らし、左隣に座る。
ダフネはハイハイと肩を竦めた。
「フィール、随分とクシェルには優しくなったわね。とてもじゃないけど、3年前にクシェルを突き放していたとは思えない豹変ぶりだわ」
「なんだよ、それ。それじゃまるで、私がクシェルを嫌ってたみたいに捉えられるじゃないか」
「事実を言ったまでよ。口が悪いのは相変わらずだなって思うけど、今となっては無愛想な口調じゃなかったら、フィールがフィールじゃないって思うようになったわ」
「何気に失礼な言い草だな」
「と言うか、今はどう思ってるのよ? クシェルのこと」
………普通、本人の前で質問するだろうか?
フィールとダフネの間に挟まれているクシェルは割り込む隙が与えられず、両サイドに居る二人に視線を慌ただしく走らせて忙しそうだ。
そんな友人をチラリと見たフィールは、言いにくそうな表情になる。
「別に私がどう思っていようが構わないだろ」
「いいじゃない。ほら、言いなさいよ」
ダフネはフィールの本音を聞いてみたいようでウズウズしている。そこで、クシェルがおずおずと割り込んだ。
「えと………私、フィーから直接聞いて知りたいな。だからさ、教えてよ」
こう言われては、フィールも反論出来ない。
ダフネにも「ほら、本人が知りたがってるんだから言っちゃいなさいよ」と急かされる。
「………ああ、もう。………1回しか言わないから、聞き逃すなよ」
フィールは遂に決心した。
クシェルとダフネはグッと耳を傾ける。
「…………………私は…………」
が、声が小さすぎて、聞き取れない。
クシェルは首を傾げた。
「? どしたの?」
「~~~っ」
その動作にフィールは何か言おうとしたが、喉の奥に引っ込める。
それから、隣に座るクシェルの方へ身体ごと向けると、彼女の手首を掴んでグイッと強い力で引き寄せた。
「―――えっ?」
突然過ぎて引き寄せられるがままのクシェルの耳元に唇を寄せたフィールは、彼女だけに聞こえる声で伝えた。
「………私は―――」
フィールが小声で言ってきた言葉に。
クシェルは一瞬思考が停止し、放棄した。
しかし、それも束の間。
「フィー!」
つい先程まで疲れ切っていた表情が何処かへ吹き飛び、満面の笑顔を浮かべてフィールに思い切り抱きついた。
「え、ちょっ………!?」
場所が場所なだけに、フィールはいきなり全体重がのし掛かってきたのを支えきれず、椅子から滑り落ちる。
クシェルはそれをモロともせず、フィールを勢いそのままに押し倒してしまった。
「クシェル!?」
ダフネはまさかの展開にビックリし、思わず大声を上げてしまった。その声に何事かと大広間に居たホグワーツ生は一斉に注目し、クシェルがフィールを押し倒している構図が視界に飛び込んできたので、大きく眼を見張る。
一体何があったんだ!?
と、ホグワーツ生全員が疑問を抱いた。
「クシェル、早く離れろ!」
フィールはクシェルに向かって叫ぶ。
夕食時間帯の大広間はとても目立つ。
遠巻きに見ているホグワーツ生達はいけないモノを見ている気持ちがあるのか、遠慮と好奇が入り交じった表情だ。
自分に向けられるそのような面持ちに羞恥するフィールは赤面している。しかし、状況が状況なだけに更なる誤解を招いたのか、余計に彼等の眼差しが輝きを増したように感じた。
「クリミア、助けに行かなくていいの?」
遠巻きに観測する生徒の集団の中で、ハッフルパフテーブルから遠目に様子を見ていたソフィアはクリミアに問う。
クリミアは何やら意味深な笑みを浮かべているので、おおよその検討がついているソフィアは苦笑いだ。
「今は放っときましょ。時間が経てば、騒ぎも収まるわよ」
「とか言って、本心はちょっと面白がってるんじゃないの?」
「あら? ふふっ、何のことかしら」
こういう時、クリミアは
そのことを、ソフィアはよく知っている。
「私が邪魔するのも悪いし、好きなだけ二人の世界を楽しませてあげましょ」
「はぁ………フィールが聞いたら泣くわよ?」
やや呆れ顔になり、ソフィアは額に手をやる。
「さっ、お邪魔虫はご退場しましょう」
「絶対フィール後で泣くわよ」
姉という味方が話を信じてくれなくて、後にフィールは激しく落ち込むだろうと思ったソフィアは、深くため息をつく。
まあ、その時は自分がフィールの姉になってあげればいいかなと、友人二人がそれぞれ姉妹持ってるが故のちょっとした羨ましさから来る感情にソフィアは口角を上げた。
その後、なんとかクシェルは落ち着きを取り戻し、ハッとした頃には全校生徒にフィールを押し倒したシーンをバッチリ目撃されたのを今更ながら気付いて、あたふたした。
余談だがこの日以降、噂好きなホグワーツ生の間では面白い事実として、しばらく学校内での話題性に困ることはなかったとか。
そして………フィールがクシェルに伝えた言葉が何なのか、それを知っているのは、クシェル本人だけである。
♦️
目を覚ましてみれば、まず真っ白な天井が視界に飛び込んでくる。
黒髪の少女は半身を起こし、軽く頭を振った。
周りを囲むカーテンの隙間から眩しいくらいの日光が差しているのを見ると、どうやら朝方であるらしい。
(もう朝なのね………早いわ)
フィールは一息つき、ベッドから降りる。
着ている病衣からサイドテーブルに綺麗に折り畳まれている制服に着替えると、校医のマダム・ポンフリーに外出許可を得に向かう。
許可を得ると、医務室を出た。
医務室の外には、クリミア・メモリアルが壁に背を預けて腕組みしている。
「おはよう―――
「ええ。おはよう、クリミア」
と、至って普通に挨拶し返した。
それから、二人は誰も居ない所まで行く。
念のため『遮音呪文』を周囲に掛けてから、二人は本題に入った。
「それじゃ、クリミア。わたしは今日1日、
「ええ………わかっているわ」
頷くクリミアの顔には憂いが浮かんでいる。
そんな彼女へ、フィールは微笑み掛けた。
「大丈夫よ。フィールを傷付ける人は決して許さない。必要とあらば、意地でも黙らせるわ」
「ふふっ………そういう所、変わらないわね」
「当たり前よ。見てるこっちが本当にイライラするもの」
瞳に僅かな怒りを帯びたフィールはやれやれと肩を竦め、クリミアは苦笑した。
「そろそろ、朝食摂りに行きましょ」
「そうね。そうしましょう」
フィールとクリミアは大広間へ歩みを進める。
途中から微妙な距離感を置いて目立たないようにし、扉前まで来ると、二人は別れた。
「あ、フィー、おはよう。身体は大丈夫?」
椅子に座ってコーンフレークを食べていたクシェルが声を掛けてきた。
「え………あ、ああ、大丈夫」
歯切れが悪い返答をしたフィールに、クシェルは心配そうな顔付きになった。
「本当に? まだ、具合悪いんじゃないの?」
「いや………大丈夫、だ」
(はぁ………この語尾慣れないわ………フィールったら、昔みたいな口調に戻せばいいのに)
と、内心正体がバレないかヒヤヒヤしながら、フィールは朝食のクロワッサンに手を伸ばして口に運ぶ。
ふと、何処からか視線を感じ、横目でホールのドア付近に目線を移すと、グリフィンドール生数人が此方を見てニヤニヤしていた。
(あの人達って………フィールによく悪口言ってた連中じゃない)
フィールは拳をギリギリと握り締める。
流石に2日間も意識不明の昏睡状態となれば変な所で情報伝達が早いホグワーツ内では噂になったらしく、さっきからグリフィンドールのテーブルが嫌に盛り上がっているのが、侮蔑する雰囲気や時折笑い声と共に混じって聞こえてくる陰口で認識せざるを得なかった。
(許せないわ………)
本能的にホルスターから杖を抜き出しそうになるが、今此処で騒ぎを起こすのはよくない、後々面倒事になることは避けるべきだと、高ぶる精神を理性という鎖で縛り上げた。
そうして、居心地が悪かった空間を我慢して朝食を食べ終え、昼食と夕食以外は医務室で絶対安静と言い渡されているフィールは大人しく戻ってきたのだが………帰って来るなり、退室する前にはサイドテーブルに無かったある物の存在に気付いた。
それは、1枚のメモであった。
開いてみると、
『昼食後、7階の空き部屋に来てください』
というメッセージと共に、ご丁寧にも地図が入っていた。7階の空き部屋と言っても漠然としているので、★印で場所を指定してある。
「なによこれ………」
一体誰がこんな物を置いたのだろうか。
7階………8階建てのホグワーツ城で2番目に高い階だ。
現状からして身体がキツいだろうフィールをそんな場所へわざわざ呼び出すとは何事か。
そう思った彼女の頭に―――朝食時に嘲笑しながら見てきたグリフィンドール生数人の顔が思い浮かべられる。
(………なるほど。身体的にも精神的にも弱っているフィールを更に苦しませるのが目的ね)
恐らくそうだろう、と思い、フィールは深くため息を吐き出す。
きっと、あの人達は大広間へ行く前に医務室に寄ってこのメモを残したに違いない。
それならば、あの時笑いながらこちらを見ていたのも頷ける。
(さて、どうしようかしら)
正直言ってしまえば面倒だ。
行く理由が見つからないし、無意味だろう。
だが、これは同時にアイツらを黙らせる絶好のチャンスだ。
争い事は好まないが………フィールを苦しませるのが目的なら、黙っていられない。
(引っ掛かってやりましょうか)
ハッとしながら、フィールはベッドで横になってもしもの時のために体力を温存した。
そうして、数時間が経過し―――。
昼食を食べ終えたフィールはメモを手に、指定された場所へと向かったのだが。
(なによ………誰も居ないじゃない)
そこは椅子や机等が全く無い、まさに空き部屋の名が相応しい室内であった。
フィールが8階にある必要の部屋を見つける前は、よく7階の空き部屋で訓練していたことがある。
(此処は誰も通らないような場所にあるから、特に心配はないってことね………ん?)
後ろから、人の気配が生まれる。
振り返ってみると、ぞろぞろとグリフィンドール所属の男女が五人程やって来た。
身長や顔付きから、年上だとわかる。
彼らはパタンとドアを閉じて鍵を掛けると、袋の鼠状態になったフィールを取り囲む。
「よう、ベルンカステル」
「アンタがあんな手紙に引っ掛かるなんてね」
五人はゲラゲラ笑う。
フィールは不快に眉根を寄せ、
「引っ掛かる、と言うより、引っ掛かってあげたの方が正しいけど?」
と言って、メモをヒラヒラさせた。
カチン、ときた彼らは、たちまち笑いを引っ込め、険しい顔になったが、すぐに勝ち誇ったような笑みになる。
「お前、クィディッチ戦で吸魂鬼が乱入してきて気絶しただけには飽き足らず、その後2日間も意識不明の重体になるなんて、スリザリンの女王様と言われてるヤツの滑稽な有り様だな」
「次に吸魂鬼が乱入してきたら、果たしてどこまで耐えられるか見物ね。あ、そっか。その時には恐怖で縮み上がって公衆の面前で無様な醜態を晒しているわね、きっと」
まるで吸魂鬼を前にして気絶した宿敵ハリー・ポッターを嘲たスリザリン生のように、目の前に居るグリフィンドール生も宿敵フィール・ベルンカステルが見せた醜態を喜んでいた。
「わざわざそれを言ってくる為だけに此処まで呼び出すなんて幼稚としか言えないわね。こんな誰が見ても無駄としか言い様がない真似をするあなた達は上級生として恥ずかしくないの?」
やってられないとばかりにメモを捨て、さっさと行こうとすると、
「余裕ぶってんのも今の内だぞ!」
「ちょっと痛い目に遭わせて、そのデカい態度を直してやる!」
と脅してきた。
しかし、その程度の脅迫にビビる程フィールも弱くない。
「痛い目? ふーん、
「コイツ………!」
神経を逆撫でするような物言いに彼らは眉を釣り上げる。
そして懐から杖を一斉に取り出し、その杖先を突き付けてきた。
実力行使で威嚇してきた彼らにフィールは慌てることなく肩を竦める。
「集団で取り囲んで数的優位を確保するのは、いつの時代でも、何処に行っても変わらないわね。まあ、そうするのが人間の心理だし、仕方ないと言えば仕方ないけど―――」
そこで言葉を区切り、眼を閉じる。
「……ここまでされて、わたしがただ黙ってると思ったのかしら? 集団じゃないと強気になれない臆病なライオンさん方?」
再び開いた双眸に浮かんだ冷酷な眼差しに、彼らはゾクリと背筋が凍り、身を縮める。
そしてフィールがヒップホルスターから杖を電光石火のスピードで抜こうとした、その時。
「
室外から響く『開錠呪文』を唱える声が、一触即発の空気を打ち破った。
全員がそちらを見た瞬間、荒々しくドアが、バンッ! と音を立てながら、全開になる。
現れたのは、フィールを痛め付けようと計画立てた彼らと同じライオン寮に所属している男女四人―――グリフィンドールのクィディッチチームのキャプテン兼キーパー、オリバー・ウッドとチェイサー三人娘、アンジェリーナ・ジョンソン、アリシア・スピネット、ケイティ・ベルだった。
「お前ら、何やってんだ!」
オリバーは鋭い目付きで同寮生へ問い詰める。
「ちっ、ウッドか………」
「何って、別に」
「俺達は遊んでただけだ、なあ」
「ええ、そうよ」
マズいと思いながらも彼らは咄嗟に下手な言い訳をして取り繕うとしたが、オリバー達は騙されなかった。
「皆でその子をどうしようとしてたのよ?」
アンジェリーナが尋ねてる間に、アリシアとケイティはフィールの側へ駆け寄る。
「大丈夫?」
「怪我はない?」
「………大丈夫」
まさかの展開にフィールはしばし一驚しながらも小さく頷く。
「別にどうもしてねえよ」
アンジェリーナの質問に一人の男子生徒がめんどくさそうに吐き捨てた。
「だったら、なんでその子に杖を向けてたのよ?」
「五月蝿いわね。別に何でもないって言ってるでしょ」
それからもう一人の男子生徒が、
「お前ら、何でグリフィンドールのクセにスリザリン生のそいつを庇うんだよっ」
と鋭い口調と共に睨み付けるが、四人はそれに怯む事はない。
「別に庇ってなんかいない。ただ俺達は、寮に関係無く上級生が寄って集って年下一人にカッコ悪いことするヤツらを、黙って見過ごすことが出来ないだけだ」
オリバーの強い瞳と口調に気圧されたのか、彼らはチッと舌打ちすると踵を返した。
「………行こうぜ」
「そ、そうね」
彼らが空き部屋から去って行くと、四人は全身の緊張を解いた。
「ベルンカステル、大丈夫か?」
「え……ああ、大丈夫」
「そうか。ならよかった」
「それはそうと、四人は何で此処に?」
フィールがそう尋ねると、オリバー、アンジェリーナ、アリシアの三人はケイティを見た。
ケイティはフィールの顔をしっかり見ながら、事情を話す。
「実はね、私、あの人達の話を盗み聞きしたの。詳しい内容はあまり聞こえなかったんだけど、『7階の空き部屋』とか『ベルンカステル』とか、此処や貴女に関する単語だけはハッキリと聞こえたから、これは何かあるのかなって思って、私、三人に相談したの。そしたら、『今すぐ7階に行くぞ!』って―――」
粗方ケイティの説明から状況を察したフィールは、オリバー達を見上げた。
「何故あなた達はスリザリン生のわたしを助けに此処まで来たの?」
「言っただろう? 俺達は上級生のヤツらが年下をそんな所に呼び出すってのを聞いて、黙って見過ごすことは出来ないってな。それに―――」
オリバーはフィールを見下ろして、言った。
「ベルンカステル。お前は2年前にネビルを助けた際、こう言ったんだろう? 『目の前で誰かが死ぬかもしれないのに、
オリバーの言葉にフィールは眼を見張る。
そんな彼女の肩をアンジェリーナとアリシアはポンポンと叩いた。
「貴女が他のスリザリン生とは違うってことは、この2年間でよくわかったわ」
「それに、去年フレッドとジョージの妹が救われたのは貴女のおかげでもあるんだし」
先輩方の屈託のない笑顔にフィールは目元を和らげる。
それからふと、ケイティが尋ねてきた。
「そういえば………あの人達、貴女を此処に呼び出して何をしようとしていたの?」
その質問に、三人も真顔になる。
フィールは一息ついてから、簡単に教えた。
「なるほどな………ったく、アイツら、グリフィンドールの名に泥を塗っているってことがわからないのか?」
話を聞き終えたオリバーはイライラと呟き、メモを拾い上げる。
そこには、見慣れた筆跡で悪意が込められた文章が執筆されていた。
「ところでベルンカステル」
「何?」
「アイツらの後でこの言葉は誤解されるかもしれんが………クィディッチ戦後に2日間も寝たっきりになるなんて流石に心配したぞ。大丈夫か?」
今度こそちゃんと心配してくれる人からの言葉を受け、あの連中と違うのは何となく分かるフィールは小さく頷く。
が、その直後にクラっと眩暈がした。
まだ身体は完全に回復しておらず、長時間立っていたことで具合が悪くなってしまったのだ。
「おっと………」
身体をふらっとよろめかせたフィールをオリバーが急いで抱き留める。
「顔色が悪くなったな………これは早く医務室まで運んで安静にさせるか」
「いや、大丈夫………。一人で行けるから」
「何バカなこと言ってんのよ。どっかであの人達が待ち伏せしていたらシャレにならないでしょ。それに、そんなにも弱ってる状態じゃ今度こそ痛め付けられるわよ」
グサリとアンジェリーナに痛い所を突かれ、言葉が詰まる。
「どのみち貴女を医務室まで送っていく予定だったんだから、私達を安心させるためにも、送らせてちょうだい」
アリシアも加わり、ケイティも頷いたので、最終的にフィールは甘えることにした。
どのみち、手足に力が入らないので、動こうにも動けない。
ガッチリ筋肉質の肉体を誇るオリバーは、自分よりも背が低く華奢で軽すぎるフィールをヒョイと背負い、アンジェリーナがサポートにつく。
そうして、慎重に部屋を退室した。
しばらくは無言で廊下を歩いていたが、少しして、オリバーがフィールへ話し掛ける。
「ベルンカステル、軽すぎないか? 全然背負ってる感がないぞ。メシちゃんと食ってるのか?」
「失礼………だな。ちゃんと食べてるぞ」
「それでこの軽さは異常レベルだ。お前がもしもグリフィンドール生だったら、俺がいいと認めるまで食べさせていたぞ」
身長と体重が比例しないフィールに顔をしかめながらそう言ったオリバーに、アンジェリーナが声を掛ける。
「そんなに軽いの?」
「ああ。マジで軽い。こんなんでよく今まで生きてこられたなって疑うほどだ」
「まあ、腕とか足とか本当に細いからね。遠目からでも痩身なのはわかるけど………こうして間近で観察してみると、一般人よりもずっと華奢な体つきよね。なのに、ピンチヒッターのシーカーを務めるんだから、油断も隙もあったものじゃないわ」
それを聞き、オリバーは何かを思い出したように口を開く。
「そういえば、お前がピンチヒッターのシーカーとしてクィディッチ参戦を許す条件で、あのスリザリンチームにラフプレーを封印したんだよな」
「正直言うと、この間のクィディッチ戦を迎えるまでは半信半疑だったけど………噂は本当だったみたいね」
「素直にスゴいと思ったわ。あんな風に正々堂々と戦ってきたスリザリンチームなんて、初めてだもの」
「貴女、意外とカリスマ性あるんだね」
四人の言葉にフィールは苦笑し、オリバー達も笑う。
そして、医務室がある4階まで来たらフィールをベッドまで無事運び終えたら、
「それじゃ、お大事にね」
「じゃあな、ベルンカステル」
「クィディッチの再戦までにはちゃんと元気になりなさいよ」
「今度こそ決着をつけてやるわよ!」
学年別に四人は各自午後の授業が行われる教室へ向かうべく、医務室を後にした。
それを見ながら、フィールは思う。
当初は、ハリー・ポッターやハーマイオニー・グレンジャーといった一部の善良なグリフィンドール生を除くグリフィンドール生に対して不愉快な印象が強かったが、どうやらそれは違ったらしい。
本当の姿とは、違う視点から知ることも時にはあるのだと胸に深く刻まれた気分だ。
(………人間って不思議よね。あんなムダな行為を楽しむ人間もいれば、危険を顧みず割り込む人間もいる………謎が謎を呼ぶ世界も、悪くないのかもしれないわ)
彼女は改めて、人間という存在感の凄みを実感し………胸にそっと手を当てた。
♦️
ある日の真夜中、スリザリン寮にある女子部屋の寝室で目を覚ましたフィールは、随分不思議な夢を見ていたような気がした。
が、どんな夢だったかは思い出せない。
考えることを諦めたフィールは、まだ夜明けまで数時間あることからもう一眠りしようと、ベッドに身を倒す。
再び眠りに落ちた時、フィールは先程の夢を忘れ、暗闇の中で安らかな寝顔を浮かべる。
それが、自分の記憶が―――一時期の出来事が頭からポッカリと抜け落ちていることを、全く知らずに。
【ムーディ】
フィール→アイツマジで本物か?
作者&読者→アイツは偽者です!
【テストなんて誰が傍迷惑なモノ考えたんだ】
これは全国の中・高生が共感します。
【勢いそのままにフィールを押し倒すクシェル】
クシェフィルとはまさにこのことだと思わせるシーン。3章のマーカスとデジャブを感じるのは何故だろうか。
【3章のクリスマス休暇前の裏話】
ここであの空白の時間を書けました。
中身はフィールのまま? それとも?
読者さんなら、もうお分かりですよね?
一人称がひらがなで○○○でしたし。
それにしても………うん、原作と違ってやたらグリフィンドール生がイイヤツになっているのは気のせいだろうか。
【誰も居ない教室へ呼び出し】
というか、リアルで誰も居ない教室に呼び出しなんてあるんでしょうかね? イメージとしては、漫画やドラマくらいの世界なんですが………。
【救世主・Gのクィディッチチーム】
それにしても、オリバー達、スゴくいいヤツになったなあ。原作では決して有り得ない一面を見せてくれましたし。
上っ面の言動では断じてなく、殴り合う覚悟と勇気もあれば、実際に腕力もあるから、相手は勝ち目がなくて引っ込むしかないという。
オリバーやアンジェリーナは背が高いし、しかも前者は骨折させる威力を持つブラッジャーを顔面に食らってもピンピンしてますから、ハリポタの原作キャラでもトップクラスで屈強な体格を誇ってるでしょう。
キャプテンも務めてるので、運動神経も抜群。
そんなヤツと真っ正面からケンカすれば、どうなるかは火を見るよりも明らかですね。