【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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作戦会議回。


#55.作戦会議

 大広間から一切の音を無くし、その中を顔面蒼白のハリー・ポッターが信じられないという表情で、ハーマイオニーから背中を押されたのを契機におぼつかない足取りで歩いていく。

 ダンブルドア直々に張った『年齢線』が17歳以上の生徒と匹敵する者と認識すれば未成年者でも可能となった後でも、ハリーは名乗り出ていないのだから、そのような反応を示しても無理はない。

 

 ―――なんで? なんで、僕の名前が?

 

 今のハリーには、それしか考えられない。

 けれども口にすることが出来ないのは、あまりにも予想がつかない事態に、混乱する頭が追い付いてないからだ。

 周囲の蔑む眼差しに困惑した空気。

 奇妙な静寂と物言わぬ激昂。

 それを肌でビシバシ感じながら、ダンブルドアに選手達が待機する部屋へ入るよう促され、ハリーは静かに入室した。

 

♦️

 

「流石だな! フィール!」

 

 代表選手三人が待機する部屋。

 そこで、ボーバトン代表のルークがホグワーツ代表となったフィールをぎゅうぎゅう抱き締め誉め称えていた。

 フィールは成人魔法使いを飛び越え、未成年魔法使いが伝統ある魔法学校の最優秀生徒として、ホグワーツ魔法魔術学校のシンボルとして、見事正式選手になった。

 そんな従妹を従兄は誇りに思い、盛大なハグでそれを証明していた。

 

「ルーク、流石に離れて」

「あ、そうだな」

 

 まだ二人が従兄妹だと知らないダームストラング代表のクラムが唖然としているのを見て、フィールはルークにフランス語で尋ねた。

 

『従兄妹だって教えていいのか?』

『まあ、どうせ今教えなくても対抗試合の選手紹介で知るだろうけど―――』

 

 二人がそれまでの英語での会話からフランス語の会話に変えた訳。

 それは、クラムの学校の校長―――イゴール・カルカロフが仲間を売ることでアズカバン行きを免れた元・死喰い人(デスイーター)であるからだ。

 闇の帝王………ヴォルデモートは、ベルンカステル家の者を殺戮対象としている。

 もしもヴォルデモートが復活したら、仲間を裏切ってきたカルカロフは多くの仲間に制裁されるのを恐れて逃亡するだろうが………三大魔法学校対抗試合で、二人のベルンカステル血族者が出場する。

 つまり―――フィールとルークを殺せたら全てチャラに出来るかもしれないと、彼は何も知らないクラムを利用して情報を探ってくるのが考えられる。

 フランスの方でも『闇の印』の噂は流れていたため、ルークはフィールがフランス語で話し掛けてきた真意を瞬時に理解した。

 

『あの印って、何年も見てこなかったんだよな。つーことは、「あの人」の復活も十分考えられるよな………』

『ああ……ルーク、気を付けてよ?』

『勿論だ。フィールも気を付けろよ』

 

 と二人が互いの無事を祈ってると―――フィールの視界の隅に、見慣れた友人の姿を捉えた。

 

「ハリー? なんで此処に?」

「フィール―――」

 

 フィールは首を傾げ、ハリーは事情を説明しようと口を開きかけた時、彼の背後から足音が聞こえ、ルード・バグマンがやって来た。バグマンはハリーの腕を掴み、三人の前へ引き出す。

 

「紳士淑女諸君。信じられないかもしれないが、四人目の代表選手だ」

 

 その言葉を聞くが否や、クラムは暗い表情になり、フィールとルークは困惑しつつも、早速事件発生かと、警戒心を露にした。

 また足音が聞こえてきた。今度は複数である。

 入ってきたのはダンブルドアを初めとする後の審査員三人とマクゴナガル、スネイプだ。壁の向こう側から、生徒達がワーワー騒ぐ声がこちらまで聞こえてくる。

 ダンブルドアはハリーに「『炎のゴブレット』に名前を入れたのか?」「上級生に頼んで名前を入れて貰ったのか?」と質問し、彼はそれらの質問に「いいえ」と激しい口調で答える。

 ハリーの言葉を信じる者はダンブルドアとマクゴナガル、そしてフィールのホグワーツ関係者三人―――スネイプは論外―――とルークだ。

 だがしかし、クラムやカルカロフ、マダム・マクシーム、スネイプなどはハリーが嘘をついていると思ってるのか、「どうやって『年齢線』を越えた?」と彼が答えられるはずがない質問をぶつけたり、上級生に頼んで貰ったとか、意味不明な言葉を投げ―――。

 

「―――ったく、いい歳した大人達がみっともない面晒してんなよ」

 

 と、舌打ちしながらの冷たい声が、混沌するこの場に振り下ろされた。

 見なくともわかる、フィール・ベルンカステルだ。

 フィールはオロオロしてるハリーの前に立ち、カルカロフ達をハッと鼻で笑いながら、冷ややかな眼差しで見上げる。

 

「一体何をどうすれば、ダンブルドアが直々に張った『年齢線』をハリーが越えられるっていうんだ? アレは確かに一部の年少者なら越えられるようになった。なら、一つ訊くぞ? 彼が自ら名乗りを挙げた姿を見たヤツは、誰かいるのか?」

 

 フィールの問い掛けに、彼らは口を噤む。

 鋭い眼を向けても尚反論してこないカルカロフやマダム・マクシームを一瞥し、

 

「根拠が無いクセして不確かな発言を発するってならば、さっさとそのいい加減な口を閉じてろ。聞いてるこっちが腹立つんだよ」

 

 と最後に鉄槌を下した。

 その蒼眼は恐ろしいほど冷たかった。

 ルークは「あ、コイツはヤバい」と従妹がどれだけ不機嫌なのかを察し、冷や汗を流す。ハリーは頼もしい味方の登場に、清々しいくらいにスカッと気分が少しだけ晴れた。

 嫌な静寂に包まれた室内に、重々しい声音が突如として発声される。

 全員がそちらを見てみれば、マッド・アイ・ムーディが立っていた。

 ムーディは「恐らく炎のゴブレットに『錯乱呪文』を掛け、ポッターの名を入れたのだろう」と推測し、フィールも「それが一番考えられる」と同意の首肯を見せる。カルカロフ達はまだ納得出来てない顔だが、ルークはその意見に同感なのか、より一層険しい顔付きになった。

 ムーディは「闇の魔術を利用すればこのようなことも可能だ」とかつて捕らえた事例を持つカルカロフに視線を向ける。が、ダンブルドアがそれを窘め、「代表選手になった以上は戦う義務を負う。魔法契約とはそういうことじゃ」とハリーを四人目の選手として競技参加を押し通した。

 四人は最後にクラウチから、

 

「最初の課題は、君達の勇気を試すものだ。君達は未知の脅威に、杖一本を武器として立ち向かわなければならない。試合は11月24日、全校生徒の前で行われる。今は、これ以上のことは明かせない。以上だ」

 

 と第一の課題の簡単な説明を施され、荒れたまま会合は解散となった。部屋を出たフィールはルークやクラムとは玄関ホールで別れ、そのままスリザリン寮へと真っ直ぐに帰らず、ハリーをグリフィンドール寮まで送り届けることにして彼を追い掛ける。

 

「大丈夫だ、ハリー。私はアンタの味方だ。力になれることは出来るだけする」

「フィール………」

 

 ハリーは涙ぐみ、「ありがとう」を礼を言う。

 フィールは優しげに笑みつつ、胸中は重苦しい気持ちでいっぱいだった。

 今回ばかりは全面的にサポートは出来ない。

 彼自身の力で乗り越えて貰わなければならない部分も多々あるだろう。

 ならば、自分は手を差し伸べるのも、時には黙って見守るのも相手のために出来る方法かと、ジレンマに陥り、深くため息をついた。

 ハリーをグリフィンドール寮の扉前まで送り届けたフィールはまずは全て忘れようと、合言葉を言ってスリザリン寮に入り―――談話室に辿り着いたら、スリザリン生総勢から拍手喝采で出迎えられた。

 

♦️

 

 日曜日の翌朝。

 フィールとクシェルは湖の畔で、散歩をしていたハリーとハーマイオニーと出会した。

 

「おはよう、二人共」

「ロンはどうしたの?」

 

 いつもならロンも一緒に居るのに、とクシェルが首を傾げると、ハーマイオニーは口ごもり、ハリーも僅かに苛立ちを滲ませた。フィールはなんとなく察する。

 

「もしかして、ケンカしたのか?」

「ケンカ………と言えば、ケンカかな」

 

 二人も湖の畔に座り、大きく息を吐く。

 ダームストラングの船が黒い影を落としている湖面をじっと見つめながら、二人はポツリポツリ語った。

 昨夜、ハリーはロンとケンカしたらしい。

 ケンカの原因は、やはりハリーが存在しない四校目の代表選手となったのが理由みたいだ。

 

「ロンのヤツ、なんで信じてくれないんだ? 僕がそんなことする訳ないのに!」

「ハリー、まだわからないの? ロンは貴方に嫉妬してるのよ!」

 

 ハーマイオニーの捨て鉢な言い方に、ハリーは眼を見張る。フィールとクシェルは「ああ、そういうことか」と納得した。

 

「それに………多分、フィールにもよ」

「いや、それを言うなら、ハーマイオニーとクシェルにも、だろ?」

「………そう、なのかしらね………」

 

 ハーマイオニーは俯き、クシェルは「え? なんで私も?」と眼をパチパチする。フィールとハーマイオニーは、イマイチ状況を飲み込めてないクシェルとハリーへ簡単かつ簡潔に説明した。

 優秀で個性派揃いの兄が五人もいるが故、ロンは小さい頃から兄達と比較されてきて元々コンプレックスを持っていた。その上ホグワーツでの友人も、これまたなにかと超ハイスペックな持ち主だ。

 

 まず、ハリー・ポッター。

 言わずと知れた魔法界の英雄で『生き残った男の子』として敬意を払われている超有名人。3年前には約100年ぶりの最年少シーカーになってグリフィンドールに栄光をもたらし、今では獅子寮のヒーローだ。

 

 次に、ハーマイオニー・グレンジャー。

 生粋のマグル生まれでありながら、総合成績は学年次席という超優等生。どの分野においても知識が豊富で聡明。もしも昔から魔法の英才教育を受けていたら、今頃物凄い魔女になっていただろう、将来が楽しみな期待の星だ。

 

 加え、クシェル・ベイカー。

 孤立気味で陰気なスリザリン寮に所属する生徒にしては珍しく社交的で明るく、誰とも隔てなく接する性格から人気者。実技と治癒系魔法の技量はそこいらの生徒よりも高く、学年5番と非常に好成績だ。

 

 最後、フィール・ベルンカステル。

 一匹狼の性格で孤高の雰囲気を身に纏う、強者教師と対峙出来るほどの規格外の強さを誇る学年首席。当初は避けられがちだったが、現在は『スリザリンの女王』と尊敬の眼差しを浴び、ホグワーツ1の美女とも言われるほどだ。

 

 ………と、友人四人もまた、色んな分野で優秀で個性派揃いだ。そのため、言い方は酷いが、五人の中でもロンは平凡である。勿論、ハリー達にとってムードメーカー的存在のロンは友人関係を成り立たせるにおいて必須だ。

 だがそれでも、彼からすれば自分はオマケに思えてしまうのだろう。今まではそれを口にせず我慢してきたが、今度という今度は親友へ対する嫉妬や自身の不満が爆発したに違いない。

 

「ロンだって、本当は貴方がゴブレットに名前を入れた訳じゃないってわかってるわ。きっと、意地を張ってるだけよ」

「そうだな。………でも、まあ。今回はあまり口を挟まず関係修復を気長に待った方がいいかもな」

「え………だ、だけど―――」

「アイツだって、こんな話題を振られてずかずか踏み入られるのは嬉しくはないだろ。むしろ、亀裂を入れ込む行為になりかねない。だから、今はほっとけ」

 

 非情とも捉えられる発言に、ハリーは堪らず眼を剥く。フィールは更に続けた。

 

「嫉妬してるのはロン個人の思いだ。そのことに関してはハリーの責任じゃない。勝手にジェラシーを感じてるロンがハリーと口を利くつもり気がないっていうなら、無駄に話し掛けようとするな」

 

 四人の間に、静寂が訪れる。

 ハリーはフィールの発言に戸惑い、クシェルは微妙な顔になる。ハーマイオニーは「………そうしましょう」と半ば躊躇しながら賛成した。

 

「こんな事態になったのは、ハリーの責任じゃないもの。時間が経てば、ロンだってわかるわよ」

「……………」

「………今のロンには気持ちの整理をつける時間が必要かもな。それを待つのが、今のハリーに出来ることじゃないのか?」

 

 フィールはハリーの肩を叩きながらそう言う。

 ハリーは少し考え込む表情になり………数秒後には、持久戦になるのを覚悟した面持ちを滲ませた。

 

♦️

 

 それから数日間、今まで英雄扱いされてきたハリーにとって入学以来最低最悪の学校生活を送る羽目となった。

 それまで上手く付き合ってたハッフルパフやレイブンクローにさえも敵意を持たれ、軽蔑の眼差しで見られるようになったハリーは今や学校で孤立していた。スリザリン生は彼の姿を見ると正式選手になったフィールと比較するかのように笑い声を上げ、皮肉な言葉を投擲する。

 四六時中敵対心を燃やし燃やされる後者はともかく、前者2寮から無条件に敵視されるのはハリーにとって辛かった。

 

 だがしかし、ハリーがゴブレットに名を入れてないと信じてくれる人は少なからずいた。

 その中でも、ムーディとフィールは大きな救い主であった。

 ムーディが言うには、ハリーの命を狙っている者がゴブレットに名を入れた可能性があるとのことだ。被害者だと信じ、主張してくれる教師の存在はハリーにとってこの上なく有り難かった。

 フィールに関してはスリザリン生で正式選手であるにも関わらず、咎めるどころかマルフォイが作った『汚いぞポッター』バッジを付けてるホグワーツ生達へ、それを外せと庇ってくれた。

 ムーディもそうだが、ハリーはオフィシャルホグワーツプレイヤーのフィールが自分の訴えを信じてくれるのが嬉しかった。本当になんで彼女はスリザリンに所属してるのかと疑心したくなるほどだ。

 

 けれども、どんなに頼もしい味方がいても、その数は極僅か。それ以外の多数はハリーを敵対視するため、ただでさえ居心地悪い生活を過ごしているというのに、現状は益々悪化した。

 選手の杖が万全な機能を備えているかをリサーチする杖調べの際―――最年少選手のフィールとハリーに取材しようとしたリータ・スキーターとかいうインチキ記者のせいだ。

 そいつに身の危険を感じたフィールは部屋に連れていかれそうになったら即振り払い、気圧されて了承する姿勢は一ミリたりとも見せなかった。

 それが4度目になったら流石のスキーターでも諦め、彼女の取材は渋々断念。

 せめて『生き残った男の子』ことハリー・ポッターの記事は書こうと、フィール同様嫌がる彼を手近な部屋に無理矢理連れていき、でっち上げなことばかりを書き溜め、最終的には『日刊預言者新聞』で出版。

 ハリーはその記事を見て、「あの時フィールみたいに乱暴にでもいいから振り払えばよかった」と激しく後悔したくらい、彼は更に窮地に追い詰められた。

 

 生徒達からの侮蔑に世間からの声。

 誰が見ても最悪としか言えない状況の中で、1年間も競技に参加しなければならないのかと、最早ハリーは何処かへ逃げ出したい気持ちで胸の中はいっぱいである。

 2年前、ハリーが蛇語を話せるパーセルマウスという衝撃事実が発覚後、似たような感覚が彼の心を占めていた。

 今とあの時と大きく違うのは………あの時は、一番の親友が傍に居て支えてくれたことだ。

 だから、孤立気味な日々にも耐えられた。

 なんとか堪え忍ぶことが出来た。

 でも………今は違う。

 その親友と絶好状態になっている。

 ハリーは、どうしてこんなことになったのかと精神がどんどん軋んでいくのを感じながら、泣きたくなるのを必死に堪えた。

 

♦️

 

 ある日の休日、校庭の敷地内にある湖の畔。

 そこでは、四人の少年少女がなにやら重大な会議を開いていた。

 

「第一の課題はドラゴンだ。僕達はドラゴンを出し抜かないといけない」

 

 そう言うハリーの声は微かに震えていた。

 今此処に居るのはハリーの他に、ハーマイオニーとクシェル、公認選手のフィールの三人。

 ハリーが彼女らに語り始めるのは、初っぱなから命が危険に晒されるファーストプロブレムの極秘情報だ。

 本来代表選手達は課題当日まで中身は知らないはずだが、如何せんカンニングは昔からの伝統で最も効率の良いベストな手段だ。

 ハリーは昨夜、ハグリッドから試験の内容を誰よりも早く教えられ、しかも実物大も目の当たりにしその眼に深く焼き付けられた。そして、二校の校長二人もあの場に居たことから、クラムとルークは知らされただろうと考え、代表選手の中で唯一ドラゴンのことを知らないフィールにも教えた。

 彼曰く、「4体居るドラゴンの内ハンガリー・ホーンテール種って言うドラゴンが一番デカくて一番危険」らしい。

 畔に座り、湖面を見るとはなしに眺めているフィールの顔は真剣そのものだった。

 

「それと、僕の名前を入れたのはカルカロフかもしれないってシリウスが言ってた」

「カルカロフ? ………ああ。元・死喰い人で、現ダームストラング専門学校校長のあの男か」

「それなら十分考えられるわね。でも、とにかくまずは貴方が火曜日の夜も生きられるようにしましょう。それからカルカロフのことを心配すればいいわ」

「だね。まずはドラゴンの問題を先に解決しよ」

 

 ハリーの名付け親で今年闇祓いに勤めたシリウス・ブラックからの助言によると、元・死喰い人のイゴール・カルカロフには十分警戒しろとのことだ。

 今年になってムーディが防衛術の教師になったのもカルカロフを監視するためと考えれば辻褄が合うし、ハロウィーンの夜でも彼は眼をギラつかせていた。

 フィールはより一層険しい顔付きになり、ハーマイオニーは驚きつつも最優先事項の話題に思考を切り替え、クシェルは彼女の言葉に同意する。

 

「だけど、一体どうすればドラゴンを出し抜けるのかしら? ドラゴン相手だと一筋縄ではいかないわよ。何人ものの訓練されたドラゴンキーパーじゃないと扱うことは難しいし、どの部位にも強力な魔法特性を持っているから、魔法はほとんど効かないわ」

 

 ハーマイオニーの呟きは尤もだ。

 ハリーは4年生で技量も浅はか。

 だというのに、絶対戦わなければならないのだから皮肉な話だ。挙げ句の果てに、そこまで練習時間もない。

 7年生の呪文や技術を持たず焦るハリーとは違って余裕を見せるフィールへ力を貸して欲しいと、座っている彼女を見下ろしながら、ハーマイオニーが尋ねた。

 

「フィール。貴女が7年生の生徒を上回る実力者なら、何かハリーの実力でも勝てる手段ってないかしら?」

「………そうだな」

 

 フィールは立ち上がり、顎に手を当てる。

 

「ハーマイオニーも言った通り、ドラゴンは大抵の呪文が利かない最強格の魔法生物だ。半ダースのプロの魔法使いが対峙してやっと失神出来るレベル………つまり、ストレートに言ってしまえば『失神呪文』や『武装解除呪文』といったベーシックな魔法で勝つのは不可能だ」

 

 いつになく真剣なフィールに、ハリーは肩を強張らせる。ただでさえ勝ち目がないのを嫌になるほどわかっていたのに、それに追い打ち掛けられるようなことを言われては、緊張するのも無理はない。

 だが、だからといって甘やかしてはいられないのだ。一歩間違えれば冗談抜きで命を落とすのが現実だから、フィールは有耶無耶になどせず厳しく告げる。それが彼女の情けだ。

 

「ま、だから手段は0って訳でもないけどな」

 

 厳しかった声音から一変したフィールは、

 

「ドラゴンの注意を引くための囮作戦や、ウィークポイントの眼に戦闘の際に効果的な『結膜炎の呪い』や思考力を掻っ攫う『錯乱呪文』『疑惑の呪文』を撃ち込む………これらは見栄えはしないけれども、手段としては使える。だけど、私としては、これが一番ハリーにピッタリだと思うぞ」

 

 杖を抜き、何故だか歩き出した。

 彼等はついていこうとしたが、フィールが片手を上げて制したので、そこに留まる。

 ハリー達から結構な距離を取ったフィールは、意味深な笑みを浮かべ、

 

アクシオ・ファイアボルト(ファイアボルトよ、来い)!」

 

 呪文を唱えるのと同時に駆け出した。

 城がある方角から、世界一速い競技用箒が物凄い速さで飛んでくるのが見えた。

 フィールは疾走しながら高く跳躍。

 ファイアボルトの柄部分に両足を乗せて絶妙なバランスを取り、水飛沫を派手に上げながら、滑るようにしてクルリと一回転した。

 

「あ!」

「『呼び寄せ呪文』!」

 

 クシェルとハーマイオニーは声を上げる。

 ハリーはフィールの箒に乗ってる姿を見上げ、希望の光が見えたと言わんばかりにキラキラした瞳になった。

 

「ここまで来れば、もうわかるだろ? これこそがハリーのストロングポイントを最大限に発揮させ尚且つ高得点を存分に狙える―――箒を利用しての空中戦、迫力満点の正面突破。この戦術は、アンタの得意技だろ?」

 

 つまり―――『呼び寄せ呪文』を用いり、自身がウエポンとするファイアボルトと共に翼を持つドラゴンに立ち向かえと、フィールはアドバイスしたのだ。

 ハリーは自信を取り戻し、弱気になっていた精神を奮い立たされた。彼は箒から降り立ったフィールへ何度も礼をし、彼女は優しげに微笑んだ。

 

♦️

 

 ホグワーツ城6階にある監督生専用の浴室。

 蝋燭の灯った豪華なシャンデリアが一つ、白い大理石造りのバスルームを柔らかく照らす。

 湯と一緒に蛇口によって違う種類の入浴剤の泡が水面をたなびかせ、そこに居る誰かの存在をうっすらと隠していた。

 

「いよいよね」

「ああ………」

 

 誰も居ない真夜中の時間帯。

 現在、クリミアとフィールは普段はおろしている髪を結い上げ、向かい合いながら共に湯に浸かっていた。

 紫眼の彼女は、蒼眼の少女を心配そうに見つめる。なんと言っても、明後日の11月24日火曜日は、第一の課題本番なのだ。

 ミッション1の情報を得てからフィールは必要の部屋で訓練を積み重ね、ハリーもまた、『呼び寄せ呪文』の練習や実戦を考えての箒の操作に力を入れてきた。今日の夕食後、二人は顔を見合せたが、やはりというか、本番が近いがために顔には緊張感は滲んでいた。

 クリミアが心配するのも、無理はない。

 いつもなら楽しめる入浴時間も、この時ばかりは素直に楽しめなかった。

 

「自信はある?」

「………あるよ」

「じゃあ………怖くは?」

「………無いと言えば嘘になる。でも、逃げる気は殊更ない」

「ふふっ、それでこそフィールよ」

 

 クリミアは励ますように微笑み、フィールも緊張が解れた表情で笑い返す。

 しかしながら、憂い顔なのには変わらない。

 ドラゴンと一戦交えるその日、無事生還出来るのかわからないという様子だ。

 それはクリミアも同じで―――彼女はフィールの細い腰に手を回し、抱き寄せた。バシャッ、と水音を立てながら身体を引き寄せられてフィールは戸惑い、そんな妹をクリミアはギュッと抱き締める。

 

「ちょっ、クリミア………?」

 

 クリミアは戸惑うフィールの耳元に唇を寄せ、

 

「………生きて、私の元に帰ってきなさいよ」

 

 と、本心を伝えた。

 小刻みに震える両腕から、クリミアが心底心配してくれているのだと、フィールはフッと大きく深呼吸する。

 

「勿論。………私は貴女の所に帰ってくるから」

 

 触れ合う肌と肌から感じる愛しい姉の体温の心地よさに、全身を張り詰めていたプレッシャーが幾分軽くなる。

 クリミアも硬かった顔付きがちょっとは解れ、フィールの両肩に手を置き、真っ正面に彼女と向き合う。

 真っ直ぐに見据える、何度も見てきた蒼い瞳。

 それをじっと見つめ―――クリミアは顔を近付けて、フィールの白い頬に口付けを落とした。

 

「クリミア………?」

 

 チークキスしてきた姉へ、妹は戸惑う。

 心なしか、顔が火照るのを感じていた。

 そんな彼女へ「あら?」と微笑みかける。

 

「ルークとシレンを見てたら、私も貴女にキスしたくなったのよ。あの二人に何回キスされてもポーカーフェイスを崩さないのにねえ」

「……………煩い」

「もう、恥ずかしがることないじゃない」

 

 クリミアがひとしきり笑うと、フィールはジト眼で睨み―――顔を近付けて、彼女の頬に自身の唇を押し付けた。

 

「………え?」

 

 クリミアは、今何をされたのかわからない。

 だが、自分の頬に口付けされたと思考が再起動すると、驚愕と共に顔が紅潮した。

 赤面したクリミアへ、フィールは貴重な一面を見られたと悪戯っ子の笑顔でニヤリとする。

 

「いつもは私が赤面される側だからな。たまにはこうするのも悪くはない」

「もう………よくもやったわね?」

 

 クリミアはフィールの不敵な笑みに闘争心を燃やし、こちらも不敵な笑みを浮かべる。

 フィールが「マズい」と思った時には手遅れで―――逃げようとする前に、クリミアに先程よりも遥かに強い力で抱かれた。体勢の関係上、胸の形が変わるほど身体がピッタリ密着し、フィールは心臓の鼓動が高鳴る。

 早鐘のように早まるフィールの鼓動と彼女の体温が熱く上昇しているのは、今のクリミアからすれば手に取るかのようにわかった。

 

「形勢逆転………ね?」

 

 クリミアはフッと笑い掛ける。

 フィールは何か言おうにも、負け惜しみになってしまうと、反論出来ないでいた。

 どうしようもないと判断したのか、フィールは諦めることにし、クリミアに抱かれるままでいることを決断する。

 

「………イジワル…………」

「ええ、私はイジワルよ?」

 

 フィールの悔しげな呟きに、クリミアは尚余裕綽々な態度を崩さない。フィールは深く息を吐き捨て、クールダウンを心掛ける。

 けど、依然として胸の高鳴りは収まらない。

 むしろその逆で高鳴るばかりだ。

 フィールはクリミアの耳元に唇を寄せ、

 

「…………して」

「え? なに?」

「……キスして」

 

 こんな時くらいはクリミアに甘えたいと、フィールは言いにくそうにしながらお願いした。

 クリミアは意外過ぎるフィールの言葉に紫眼を大きく見張った。が、それもまた、数秒後にははにかむような笑顔に変わる。

 クリミアは少しフィールをからかおうと、

 

「―――ええ、いいわよ。何処にキスされたいのかしら?」

 

 と、クエスチョンした。

 

「何処って………(チーク)に決まってるだろ」

「あら? (リップ)じゃなくていいの?」

「からかうのは止めて」

 

 間髪入れずに返答するフィール。

 肌を通して伝わってくる体温から、彼女が羞恥してると感受したクリミアは満足そうに笑う。

 そして、11月24日の第一の課題当日―――フィールが無事に生きて帰れるよう祈りを捧げ、彼女の頬にそっと口付けを落とした。




【めっちゃ口悪いフィール】
敬語は一切使わず本音ぶっちゃけるオリ主さん。
清々しいくらいにスカッとしましたね。

【仲良し四人組】
ロン完全なる空気。
作者の好きな原作キャラのカップリングの一つは『ハリハー』。これはこのSSでも顕現するでしょう。なんと言っても原作者ですらハリーとハーマイオニーをくっ付ければよかったと後悔したくらい………ロン、お前もう少し頑張れよぉ!

【リータ・スキーター】
(マスゴミへ)神は言っている………ここで死ぬ定めではないと………。

なんとかNO取材を貫いたフィール。スキーターはどうするんでしょうね? なんつっても、あのインチキ記者としての執念さは半端じゃねえ。身の危険を感じたフィールのあの行動は正しい。

【作戦会議】
ムーディに教えられる前にハリーの強みを活かす方法を伝授するフィール。これからも彼女は彼をサポートするでしょう。こんなにも協力的なオリ主さんは中々いない。

【夜のバスルーム】
2章以来のin浴室で密会。
クリミアさんのシスコンスキルもアップ。
どうやらクリミア嬢はルークとシレンに感化されスキンシップ部に入部したそうです。

【次回予告】
今回は極秘情報の報告、夜の密会の2本立て。
次回は第一の課題回。
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