【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

57 / 130
#56.第一の課題

 11月24日、火曜日。

 いよいよ開幕される三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)、その第一試合が行われる当日だ。

 第一の課題開始前から、競技場は白熱とした熱気に包まれている。

 競技内容は、雌ドラゴンが守る金の卵の奪取。

 言わなくともわかる、危険極まりない、無謀とも勇敢とも捉えられる行為だ。

 魔法生物の中で最も有名なドラゴン。

 その爪は人間の身体を容赦なくズタズタに切り裂き、牙は骨の髄まで粉々に粉砕するほどの絶大な威力を誇る。巨大な口から吐き出される炎に飲み込まれた者は灰塵と帰して、この世から跡形もなく消え去るだろう。

 そんな怪物を相手に、各選手はどう出し抜くのか。またはこの世界からその姿を失せるのか。

 興味や期待、恐怖など様々な感情を各々胸で渦巻かせながら、観客席に居るギャラリー達は今か今かと試合開始のホイッスルが鳴り響くのを待ち望んでいた。

 

 代表選手が待機するテントの中。

 クラムは渋顔で立ち、ルークは落ち着きなく歩き回り、ハリーは緊張でガチガチで、フィールは無表情だった。

 ピリピリしたムードに包まれるテント内へ、審査員の一人、ルード・バグマンが入ってきて紫の袋から模型を取るよう促された。

 レディーファースト、ということでフィールが先に手を突っ込み、ゆっくりと引いた。

 

 引いたドラゴンは―――4番、ハンガリー・ホーンテール種。

 

 ホーンテールを知っているハリーはサッと青ざめた顔になり、心配そうな眼差しでフィールを見つめた。

 しかし彼女の顔に恐れや不安の色は少しも滲んでいない。

 ただただ、掌にある自身が対敵するべき怪物を縮小させたモデルを睨み付けていた。

 続いてルーク、クラム、ハリーの男性陣三人が袋の中に手を突っ込み、ゆっくり引く。

 

 ルークが引いたのは1番、スウェーデン・ショート・スナウト種。

 クラムが引いたのは2番、ウェールズ・グリーン種。

 ハリーが引いたのは3番、チャイニーズ・ファイアボール種。

 

 特に危険なのは、先頭切って模型を手にしたフィールのドラゴン、ハンガリー・ホーンテール種だ。ホーンテールは、この第一試合のラストを飾るのに相応しい大敵だろう。4体のドラゴンの中で最もデカい上に強靭な鱗を持ち、武器もまた多い。

 それに比例するよう対するのはフィール・ベルンカステルという最年少選手なのだから、観客のボルテージは最高潮という単語さえも易々とオーバーするかもしれない。

 トップバッターになったルークは顔を強張らせたが、深呼吸後は、勇気あるものへと変わっていた。

 バグマンは誰がどのドラゴンと対決するのかが決まるとテントを飛び出していき―――少ししてから、彼の『拡声魔法(ソノーラス)』を使ってのハキハキとした声が聞こえ、それに応えるようギャラリーの歓声がこちらまで反響してきた。

 粗方ドラゴンの説明を終えると、トップバッターのルークの名を呼ぶ声がした。彼は大きく息を吸い、テントから出ていった。

 

♦️

 

『さあ、まず最初に挑む勇者は………ボーバトン魔法アカデミー代表! ルーク・ベルンカステル!』

 

 その声と同時にルークが競技場に姿を現した。

 途端に耳をつんざくほどの大歓声が―――特に女子から―――上がる。

 ルークは煩いくらいの大音量に表情を変えることなく―――スウェーデン・ショート・スナウト種と真っ正面から向き合った。魅力的な銀青色の鱗に覆われ、丸太や骨を数秒で灰にしてしまう強力な明るい青色の炎を吐き出し、その皮は保護用の手袋や盾として重用されるほど防御力はピカイチなドラゴンだ。

 

『競技………開始!』

 

 バグマンの一声と共にホイッスルが鳴り響く。

 遂にゴングが高らかに鳴らされた。

 もう、後戻りは許されない。

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」

 

 ルークの杖先から、銀色の大型犬が飛び出す。

 高位呪文の一つ『守護霊の呪文』の彼の保護者シベリアンハスキーだ。

 銀のシベリアンハスキーはドラゴンの周りを自由奔放に駆け回り、見るからに卵を奪取しに来た外敵に顔を上げて標準を定めようとするが、ちょこまかと素早く走るのでどうにもならない。

 どうやらルークは陽動作戦を選択肢したみたいだ。変身術でそこいらに在る岩を動物にするよりも、高度な魔法『守護霊の呪文』を用いた囮作戦は高得点は狙えるだろう。

 現に審査員五人は揃って感嘆の表情だ。

 まだ成人魔法使いに成り立てほやほやの学生が大人ですら創り出せない呪文を成功させのだから、そのような反応をしてもおかしくない。

 『守護霊の呪文』を知る上級生達もハッキリとした実体化のそれを見て、更に期待高まる面持ちになった。

 

フームス(煙よ)!」

 

 続けてルークは煙を辺りに巻いた。

 スモークが立ち上ぼり、周囲の視界を遮る。

 ドラゴンは銀色の大型犬に気を取られてたがため、突発的に視界が悪くなった状況にパニックになり、闇雲に口から火を放つ。ルークはそれを『姿くらまし』で避け、少し離れた先に『姿現し』をした。

 霧のように立ち込める雲煙を振り払おうとするドラゴンは、今や卵を抱えて伏せていた巨体を持ち上げている。

 金の卵を手にすれば、ミッションクリアだ。

 ルークはチャンス到来とばかりに、その場から一気に駆け出した。

 上手くいけば、短時間で任務完遂を果たせるだろう。だがしかし、如何に状況が悪くなってもこの場に自身の大切なモノを捕ろうとしてる外敵が居るのを理解してるのがドラゴンだ。

 ドラゴンはこちら側へ疾走する敵の気配を足音で感じ取り、大体の位置を把握すると、ギッと鋭い目付きで巨体な尾を、ブンッ! と大きく振り薙ぐ。

 ルークは慌てて後退しようとするが、今急ブレーキを掛けたら、まず間違いないなくあの攻撃をまともに喰らってしまうだろう。だが、このまま勢いに乗ったまま走り続けても、攻撃の範囲内には収まってるのもまた事実。

 

 刹那の思考。

 ルークは守護霊に割り込みを念じた。

 シベリアンハスキーは急転換し、まさに稲光の速さで主人の彼の前に立ちはだかり、その身を挺する。

 そして、ドラゴンの強靭な尾と衝突!

 途端にシベリアンハスキーは消滅し、盾を失ったルークへドラゴンの振った尾が直撃し、彼の身体が軽く吹き飛ばされた。

 先程シベリアンハスキーが庇ってくれたことで尾の勢いを削ぎパワーを弱めてくれたおかげで致命傷にはならなかったとはいえ、モロ直撃されたら生身の人間など一発で粉々にするほどのドラゴンの武器には流石に敵わない。

 吹き飛ばされたルークは岩に身体をしたたかに打ち付け、その衝撃に息が詰まり一瞬意識が遠退いた。

 観客席から悲鳴が上がる。

 万が一のためにスタンバイしているドラゴンキーパー達は、いつでもレスキュー出来るよう臨戦態勢に入った。

 形勢を取り戻したドラゴンは視界も良好になったことから、戦闘不能になったルークへジリジリ近付いていく。彼の手には、杖が無い。さっき、身体が岩に衝突した反動で手から杖が飛ばされてしまったのだ。

 唯一の武器が手元に無いことは、すなわち丸腰になったのも同然。反撃する余地は最早皆無と言っても過言ではない。

 固唾を呑んで見守る中、ルークは軽い脳震盪を起こしながらもふらふらとこめかみを押さえて立ち上がり、決して諦めない心を宿した瞳でドラゴンを睨み付けた。

 その彼の勇ましい姿にこんな時で不謹慎だと思っても仕方ないが、惚れる女子が続出した。

 

 ドラゴンとルークは互いに背を見せぬ形でゆっくりゆっくり移動し―――不意に、ドラゴンが大きな口を開けて放火する準備をした。

 同時、ルークが杖を拾いに再び駆け出す!

 観客席から大声援が送られる。

 ドラゴンが先に攻撃を仕掛けるのか、その前にルークが武器を取り戻して反撃に出るのか。

 緊張が高まる末に………ルークが杖をガッシリ掴み、その場から姿を消した! 同時刻、ショート・スナウトの鮮やかな青色の火炎が先程彼が居た場所へ放たれる!

 数秒後、青色の炎が消化した後、地面はドロリと溶けており、深く抉られていた。

 

 もしも………もしもだ。

 ルークが後1秒でも『姿くらまし』をするのに遅れていたら………最悪の結末を想像した生徒達はゾッとし、思わず身震いした。

 それはルークも同じなのか、『姿現し』でドラゴンの背後に現れた彼はこの日初めて恐怖に歪んだ青い顔を公の場に晒した。しかし、今自分が果たすべき使命は忘れず、ショート・スナウトが振り返る前に全速力でダッシュ! 

 無事に卵をゲットし、しっかり抱えて走り抜け―――安全地帯まで来ると、全身の緊張を解き、満面の笑顔を浮かべて地面を転がった。

 課題を見事遂行したルークへ、ボーバトン生は普段から意識してる優雅さや上品さをかなぐり捨てて、称賛の声を張り上げた。会場中が、まるで地震が起こったみたいに激しく揺れる。

 

 選手が卵を手にした時点で競技は終了だ。

 すぐに待機していた魔法使い達が、未だに暴れるスウェーデン・ショート・スナウト種を数人掛かりで抑え込み、檻の中に閉じ込める。

 その間に別の魔法使い達が次なる選手が相手となるドラゴンを檻の外から解放し、いつでも投入出来るよう用意した。

 

『やりました! ルーク・ベルンカステル選手、よくやりました! それでは、審査員の点数です!』

 

 審査員五人―――現在実況放送をしているバグマンを初め、ダンブルドア、カルカロフ、マダム・マクシーム、そしてバーテミウス・クラウチ・シニアがそれぞれ点数を掲げ、生徒達は一斉に注目した。

 

 総合得点は―――42点。

 1回目の機会で不慮のアタックに対処出来なかったため減点対象とされたが、やはり『守護霊の呪文』を有体で成功させた時点で高得点は確実だったみたいだ。満点が50点だと考えればこれは上の方だろう。

 ルークはどこか惜しみある表情だったが、何はともあれ、トップバッターのプレッシャーを乗り越えて課題を無事パスしたことから、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 

『さあ、次に参りましょう! 二人目の勇者はダームストラング専門学校代表! ビクトール・クラム!』

 

 少しして、第二試合の準備が整った。

 2番手はビクトール・クラムだ。

 これにはダームストラング生だけでなく、クィディッチを心底愛してやまない生徒全員が立ち上がって、彼の勇姿をこの眼に焼き付けようと興奮状態MAXであった。

 流石は世界的トップスターのクラムだ。

 歓声はルークのそれと匹敵、あるいは上回っているだろう。彼もそうだが、ルークもまたずば抜けた美男で1日で女性ファンを多数獲得した。主に女子生徒の黄色い歓声を送られるクラムとはいい勝負だ。

 そしてそのクラムは世界を股に掛ける超有名人だからなのか、大会慣れしてる彼は緊張感といった空気が感じられない。メンタルがかなり強くなければ、トップ選手という名誉は務まらないのだろう。

 クラムが対戦するのは―――ウェールズ・グリーン普通種。気性が荒く獰猛なドラゴンの中では比較的大人しく、遠吠えは音楽のように美しい、口から細い噴射火を放つ緑色の火竜だ。

 

『競技………開始!』

 

 観衆の声援に一切動じることなくクラムは相対するウェールズ・グリーン普通種に向けて正攻法の『結膜炎の呪い』を撃ち込んだ。

 呪文は見事ドラゴンの眼球にクリティカルヒット。『結膜炎の呪い』は視界さえも奪ってしまうため、ドラゴンは狂ったように暴れ出し、接近してくるクラムの存在に気付いてない。爪を振り下ろされても余裕で回避する所は、流石クィディッチで鍛えた運動神経抜群な反射神経である。

 だが、スタートはよかったが、ここでアクシデント発生。のたうち回って悶え苦しむドラゴンが金の卵の半分を踏み潰してしまったのだ。クラムは顔面蒼白し、慌ててドラゴンの足元にタイミングを見計らって滑り込み、卵の回収に回った。

 こればかりは不幸としか言えない上に減点も免れない。クラムは少し後悔した顔だった。

 

 さて、総合得点は―――40点。

 やっぱり、卵が潰れたことが点数に大きく響いたみたいだ。カルカロフがあからさまな贔屓で10点を与えたが、本来ならばもう少し低いスコアになっていたはずだ。クラムも納得していないらしく、不機嫌そうに、むっつりとした表情で自身が通う学校の依怙贔屓校長を遠目から見つめていた。

 

『では、第3試合に移りましょう! 今大会最年少選手の一人、ホグワーツ魔法魔術学校代表! ハリー・ポッター!』

 

 スリザリン生が座っていたスタンド以外からは歓声が上がった。レイブンクロー生も、抑えめな感じだったが………。というものの、ハリーが正式選手のフィール同様にホグワーツ代表に選ばれて以降、祝福したのは彼と同じ寮所属のグリフィンドール生とハッフルパフ生の一部であった。

 スリザリン生は自分達の寮から成人魔法使いを凌いで選抜された最年少プレイヤーとは違い、卑怯な手口を使って華やかな栄誉を奪おうとしたイヤなヤツ、というポジションで元々悪感情を持っていた宿敵ハリーへ、更に不信感の火がついた。

 レイブンクロー生は基本的に勉学を重んじる人柄が集う寮というのもあってか、時として人間としてどうかと思うほど、冷酷非道な点が垣間見られる。ハリーが更に有名になろうと躍起になったのだと思い込んでいたのが、何よりの表れだ。

 

 そしてとても珍しいことに、スリザリン生とフィールとハリーへ対する扱いは変わらず、グリフィンドール生の彼を忌避し、逆にスリザリン生の彼女を祝福した。

 ハッフルパフ生は、最初の頃はハリーのみならずフィールにも冷たく当たっていた。彼らはセドリック・ディゴリーやクリミア・メモリアルといった17歳の生徒という基準を通過してる別格の学年首席が選手に選ばれると期待してたが故に、敵対する寮生でしかも17歳以下の4年生が選定されたこともあって、悔しさからフィールへ突っ掛かっていた。

 それでも、新たなルールを追加させるきっかけとなったのは、まさにフィールのおかげだ。そういう経緯もあり、今はフィールを応援し、何人かはハリーのことも応援している。

 周囲がサイレントモードのため、クシェルやアリアは無言ではあったが、内心では競技場内に入ってきたハリーにエールを送っていた。

 ハリーが対敵とするのは―――チャイニーズ・ファイアボール種。ドラゴンの中では素早く聡明な部類に入り、ライオンドラゴンとしても知られている。顔の周囲はライオンのような金色の毛の棘で囲まれており、怒ると鼻腔からマッシュルーム型の火玉を吹く。

 

『第3試合、開始!』

 

 バグマンの号令と一時にハリーは杖を掲げ、呪文を唱えた。

 

アクシオ・ファイアボルト(ファイアボルトよ、来い)!」

 

 チャイニーズ・ファイアボール種は、ハリーの不可解な行動に警戒心を剥き出しにする。数十秒後、ホグワーツ城がある方角から何かが飛んでくるのが見えた。

 炎の雷ことファイアボルトだ。

 世界最高峰の箒であり、去年のクリスマスに名付け親のシリウス・ブラックがプレゼントとして贈ったギフトである。

 ハリーは背後から冬の空気を切り裂く音を確認すると、

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」

 

 ドラゴンの注意を引くための囮として、彼もまた『守護霊の呪文』を叫び、彼の杖先から銀色の牡鹿が力強く飛び出してきた。牡鹿はドラゴンの脇を走り抜け、視線が釘付けになっているのを認めたハリーはその場から駆け出し、タイミング良く跳躍、ファイアボルトに跨がり、ダイナミックに空高く舞い上がった。

 今のは『呼び寄せ呪文』と箒の手段を伝授してくれたフィールの動きを真似たものだ。ファイアボルトが止まってから乗るのではなく、飛んできた勢いを殺さずに乗り手が乗り物の動きにタイミングを合わせ、そこから自分のフィールドへと持ち込んだ、あの動き方だ。

 100年ぶりの最年少シーカーとして大活躍したハリーは箒のセンスが抜群である。誰もが予想だにしなかった箒の手段に会場は圧倒され、ビックリ仰天した。

 その間にも、ハリーは自分が知りうる限りのありとあらゆる様々な呪文―――『武装解除呪文』『失神呪文』『全身金縛り呪文』等を空中からドラゴンの鱗に叩き込み、卵があるその場から退けようと果敢に攻める。

 

 恐れず、隠れず、退かない、見ている側が見られる側の者へ期待し待ち望んでいる―――迫力満点の正面突破。魔法界では英雄として敬意を払っているハリー・ポッターの勇猛果敢な姿に、いつしかクレームの嵐は何処かへ消え去り、大声援へ激変。

 ハリーはドラゴンの周囲を飛び回って空中デッドヒートを繰り返し、時に前へ行進、時に後ろへ後退、そして時に無謀にも突撃したりと、対抗してくるドラゴンの炎の射程外ギリギリのラインで飛翔する。

 これもまた、日々の練習の成果だ。

 如何にどれだけ素早く飛び、避けられるか。

 それを推定し、ハリーはずっと鍛練してきた。

 そう、全てはこの競技を合格するためにだ。

 そして、その彼の努力が遂に報われる瞬間が訪れた。

 業を煮やしたドラゴンが両翼を広げ、大空で彼を追い掛けようと飛んだ。

 

 が、それが仇となった。

 ハリーは、この瞬間を待っていた。

 守るべき卵がある足元が留守となるその刹那。

 彼は目標目掛けて一直線に急降下!

 自ら前へ飛んできた敵へドラゴンは容赦なく火を吐くが、それをサッと躱し………ハリーは金の卵をゲット!

 一瞬の沈黙………そしてそれから、今までにない大歓声に包まれ、爆弾が爆発したかと思うほどの拍手が鳴り響く。

 総合得点も現時点で1位のルークと並んでの42点を獲得したので、彼らの興奮は高まるばかりだ。

 だがしかし、彼らはまだ忘れてはならない。

 あともう一人、最年少選手が戦うことを。

 

♦️

 

「………いよいよ、だな」

 

 選手が待機するテントの中。

 ハリーが第一の課題を無事に突破したのを観衆の拍手喝采で悟ったフィール。

 彼女が戦うハンガリー・ホーンテール種は、これまで登場してきた3体のドラゴンを凌駕する部類だ。

 果たして、どう立ち向かうのか。

 スタジアムに居る人々は、それを待ち焦がれているのだ。

 

 自分の名を呼ぶ声が聞こえたフィールは口角を微かに上げ―――荒れ果てた戦場へと、優雅な足取りで向かった。

 

♦️

 

『それでは、最後は今大会最年少選手の一人であり紅一点! ホグワーツ魔法魔術学校代表、フィール・ベルンカステル!』

 

 いよいよ、第4試合―――もとい第一の課題ラストの試合が開幕される。スタジアムはこれまでにないくらいの緊張と期待と恐怖が漂いながらも、白熱とした熱気で支配する。

 フィールが対敵するのは―――ハンガリー・ホーンテール種。トカゲのような漆黒の風貌で、尾は銅色で尖っている。雄叫びは轟音で、吐く炎は15mにも達するほどの一番危険な部類とされるドラゴンだ。

 バグマンはラストバッターの姿を認めるのと同じくして、声を張り上げた。

 

『第4試合………開始!』

 

 バグマンの号令とリアルタイムに、ラストの試合開始ホイッスルが、高らかに戦場の隅々まで響き渡った。

 

プロテゴ・トタラム(万全の守り)!」

 

 開口一番。

 フィールが唱えたのは攻撃魔法ではなく、何故か防御魔法だった。物理攻撃や魔法攻撃から身を護るバリアを展開する多種多様の『盾の呪文』の一つで、一定の区域や住居をバリアで護る『プロテゴ・トタラム』。

 しかしながら、ドラゴンが吐き出す炎の前ではそれも無意味に等しい。スタンドに居た生徒も審査員も疑問であった。彼女が、『悪霊の火』と同レベルのパワーを誇るドラゴンのファイアから並みの防壁では身を護れないことくらいわかっているはず。ならば何故………?

 

 困惑に飲まれる魔法使い達。

 それを視界の隅と隅で捉える少女は大胆不敵な笑みを浮かべる。

 彼らは気付いていない。

 彼女が護るべき対象としたのは、自身の身体ではないと。

 現に、彼女の目の前に半透明な防壁は出現していない。よく眼を凝らせばわかることだが、皆は混乱に陥ってるため、気付かないでいた。

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」

 

 本日三度目の『守護霊の呪文』を唱える声が反響する。フィールの杖から白銀に光輝く狼が飛び出した。これまで2回とも囮として使用されてきたことから、生徒達はまた同じ手口かと、ちょっと落胆気味なため息をつく。

 流石に3回もくると飽きてしまうのだろう。

 が、フィールはまるで動揺していない。

 表情を変えることなく、ドラゴンを見据える。

 そして、どういう訳か―――ホーンテールへ、あからさまな挑発行為の攻撃を次々と仕掛けた。

 色とりどりの閃光を流れ弾のように撃って撃って撃ちまくる、フィール。

 焼き殺されるというのをまるで知らないバカな人間のような無謀な行動に、ギャラリーも審査員もただただ衝撃を喰らった。

 空中デッドヒートが可能であったハリーと違って、此処は荒野の地面だ。逃げ場など何処にも無い。

 ホーンテールは当然の如くぶちギレ、目の前で容赦無く襲撃してくる彼女を殺すべき敵と認識し、自ら戦いの場へ赴いてきた。そして、鬱陶しいハエを叩き潰すよう、口を大きく開けて15mにも達する火炎で灰塵にしようと、高温のそれが彼女へ襲い掛かった。

 あっ! と誰もが悲鳴を上げた。

 

 ―――最後の最後で死者が出てしまう!

 

 響き渡る、観客達の絶叫。

 それを無視し、炎はフィールの身体全身を飲み込んだ―――ように、見えた。

 その前に銀色の狼が割り込み、身を挺してフィールを救った。

 守護霊のウルフだ。これはルークの時にも同じことがあった。ならば、次の展開は容易に予想出来る。

 狼は迫り来る業火から主人を護ったがために消滅………こう予想するのが、一般だろう。

 ―――だが、それは覆いに破られ、覆された。

 巨大な炎が小さくなっていくと思いきや、なんとそこには………先程、炎に飲まれそうになったフィールの前に立ち塞がった銀の狼が、凄まじい熱波を身に纏っていたのだ!

 悠然と構える、紅蓮の狩人。

 その光景は、3年生から7年生のホグワーツ生には見覚えがあるものであった。

 

 ―――一昨年の決闘クラブで、スネイプが放った火炎を黒狼に吸収させた技だ!!

 

 まさかのあの決闘クラブでフィールが行った戦略方法が、ここに再現されたのだ。

 途端に、驚愕からの喚声が沸き起こる。

 これにはダームストラング生、ボーバトン生は喫驚し、またもや驚き入った。

 

オパグノ・マキシマ(強襲せよ)!」

 

 荒れ狂う獣に襲い尽くしを許可。

 ファイアウルフは咆哮を上げ、ドラゴンに襲い掛かった。

 守護霊にドラゴンの炎を吸収させるという常人には真似出来ない神業。この時点で、最早彼女の高得点は確実だ。

 

パリエス(壁よ)!」

 

 突如、フィールの目の前の地面がボコボコと盛り上がり、彼女はそれに飛び乗ると、一気に駆け抜けた。

 走る度に壁は高さを増し―――やがて、上昇する壁の最終地点に到着すると、高く跳躍した。

 

グランディス・グリント(巨大なる刃よ)!」

 

 空中から、光輝く巨大な大剣が顕現する!

 今この場に居る全員が口をあんぐりと開けて見上げる大空のシルエットとして浮かぶ青色の光輝を放つそれは、炎の狼に強襲されているドラゴンへ更なる追い討ちを掛けるよう、そして、息の根を止めるよう、存分に暴れまくった。

 

 荒れ狂う獣と荒れ狂う刃。

 

 2つの勢力はドラゴンの眼を、翼を、尾を、胴体を、手足を容赦無く切り裂き、その強靭な巨体をいとも簡単に貫き通す。

 ドラゴンは断末魔の声を上げ続け、血を大量に流しながら、降下していくフィールを焼殺しようと最後の力を振り絞って口を開く―――が。

 

インベル・グランス(弾丸の雨よ)

 

 勝利を確信して冷たい笑みを形作っていたフィールが杖を振り下ろしたその瞬間、巨体な剣が無数に枝分かれし、弾丸の雨となりて強烈な閃光を放つ!

 無慈悲に振り注がれた無数の光の弾丸に、全身をズタズタに掻っ捌かれて脆弱になっていたドラゴンは遂に力尽き、最期のトドメを炎の守護霊が刺した。

 その激しさと眩しさに堪らず眼を覆っていた観衆が瞼を開いた時―――視界に飛び込んできたのは、無残にも崩れ去るドラゴンの巨体と、荒れ果てた戦域へヒラリと降り立つ黒髪の少女の姿であった。

 

♦️

 

 競技場から、一切の音が消え失せ、沈黙に包まれる。

 ドラゴン討伐………成人にも満たぬ学生が、信じられない偉業をやってのけのだ。

 これはもう、文句無しの満点だろう。

 しかし、果たしてそうなるだろうか?

 あれだけ派手に激戦に事を運んだのだから、金の卵は無傷では済まされないに違いない。

 つまり、せっかく満点を与えられるほどの結果で終えたのに、減点対象にされるという、虚しいものだ。

 ゆっくりと、番人の遺体を背に、金の卵へ近付くフィール。彼女が辿り着いた時、そこで初めて、スタートを切った際に詠唱した呪文の意図を理解した。

 ドラゴンの足元に在った物を防護するための、半透明の膜が見えるようになったからだ。

 

 ―――金の卵の周囲に、バリアが張られてあった! アレは自分の身を護るためではなく、奪取するべきターゲットを傷付けないようにするため前もってガードするためだったのだ!

 

 完璧に策略されていた、彼女の戦略。

 唖然としたバトルフィールドへ彼女は微笑みを讃えながら屈んで金の卵を手にすると、天高く掲げて見せた。

 それと同じくして、先程フィールが造った壁の突き当たりでスタンバっていた紅蓮の守護霊が大空へ向かって高らかに遠吠えを上げる。

 

 ―――そう。それはまさに、勝利の雄叫び。

 

 炎の狼の咆哮を契機に、今日一番の大爆発が発生した。

 全員が総立ちになり、割れんばかりの拍手と空の彼方まで届きそうなほどの喝采が、競技場を覆い尽くす。

 観戦しに来た者は各々、14歳とは到底思えぬ少女へ畏怖や崇拝といった感情を胸の内側で渦巻かせる。

 

 

 

 興奮冷めぬ戦場の中―――フィール・ベルンカステルの総合得点、満点50点が発表された。

 

 

 




【ドラゴン×4】
1→ルーク、スウェーデン・ショート・スナウト
2→クラム、ウェールズ・グリーン
3→ハリー、チャイニーズ・ファイアボール
4→フィール、ハンガリー・ホーンテール

順番的にはこんな感じ。
実はオリ主のドラゴンはグリンゴッツで金庫守ってる特大クラスのウクライナ・アイアンベリー種にし原主のドラゴンをハンガリー・ホーンテール種にしようかとも考えたのですが、人数は四人と原作と同じなので、種類は変えずにしました。
多分ウクライナ・アイアンベリーは、ホグワーツ決勝戦で地下深くから遥々這い上がってきて闇の陣営側の魔法生物で参戦するでしょう。光の陣営逃げろおぉぉぉぉぉ!

【エクスペクト・パトローナム】
クラム以外の三人が取り入れた高位呪文。
オリ主に守護霊創出させるのは決定事項で、このままでは点数差が大幅に出てしまうと焦った末、せっかくだし他の人にも創出させるかとのことで、ルークとハリーにもエクスペクト・パトローナムさせました。
あ、今回でルークの守護霊の形がワンワンおのシベリアンハスキーだと判明。
ちなみにシレンの守護霊はゴールデンレトリバー、セシリアはラブラドールレトリバー、ライアンはジャーマンシェパードドッグ。
こちらのベルンカステル一家は種類は違うけど全員が大型犬の守護霊で統一感があると思われる。

【フームス(煙)】
オリジナルスペルの煙霧を巻く『煙幕呪文』。
オリキャラの数もそうですが、魔法の数も多数。

【ファイア・パトローナス】
まさかの2章でフィールがスネイプが放火した炎を黒狼に吸収させたあの技がここで再登場。しかも守護霊に吸引させるっていう神業を披露。たまにこの作品ドッキリ系のバラエティー番組な部分があるなって思う時あります。本当になんでもありだな………。
最後のフィールが金の卵を掲げた直後に守護霊の炎狼が勝利の雄叫びをしたシーンは作者的にはメチャクチャ大満足です。

【グランディス・グリント(大剣)】
作者オリジナルで作った光の大剣。
このビッグライトソードとファイア・パトローナスとのコンビネーションによりドラゴンはズタズタにされそして最後は『インベル・グランス(弾丸の雨)』に全身を撃ち抜かれて見事なまでのKO。
もう止めてあげて! ホーンテールのライフは0よ!

【順位&得点配分】
1位→フィール、50点(満点)
2位→ルーク&ハリー、42点
3位→クラム、40点

オリ主を満点にさせるのはまあ許容範囲だけど原主を低位にするのはちょっとアカンヤツやと、もう一人のオリキャラと同点にして2位にランクインさせました。どうか許してくれ(-)_(-)。

原作とは異なりハリーの撃退方法を微変化。
ルーク、本来ならば満点取れる実力あったのですが……まあ、満点を二人も出させたらいくらなんでもチートだろうとのことで、その点は自重しました。というか、オリ主さんが規格外すぎる……まあ、中々にぶっ倒れることが多くなってきた彼女の久々に強い姿を見たと思ってくれたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。