【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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原作とはちょっと違った飛行訓練の出来事(映画版の一部を含めたと言った方がわかりやすいかもしれません)。


#5.飛行訓練

 次の週の木曜日。

 談話室の掲示板にはグリフィンドールと合同で飛行訓練をするという連絡が貼り出されていた。

 何故対敵している寮同士を合同で行うのかと皆は憤るが、こればかりは彼方側が決めることなので、どれだけ文句を言っても変えられない。

 

「フィー、いよいよだよ!」

「ああ、そうだな」

 

 一番楽しみにしている教科が待ち遠しいと言わんばかりの興奮気味な様子でクシェルは熱弁を繰り広げ、フィールは小さく相槌を打った。

 

「フィーは箒乗ったことある?」

「まあ、乗ったことあるよ」

 

 魔法というのは確かに知識や理論が重要だが、完璧に構成するには凄まじい気力、精神力が必要不可欠とされる。

 身体能力もブレインと同じくらい鍛え上げ、体力もつけなければ、いざというときに所謂『燃料切れ』を起こしてノックアウトされてしまうのがオチだ。

 そのためフィールは、ベルンカステル城に完備されている訓練場でパルクール(移動動作を用いて、人間が持つ本来の身体能力を引き出したり追求する方法)を独学で身に付けたり、箒に乗ったりして飛行技術やバランス感覚を養ってきた。

 その結果彼女は驚異的な運動神経を獲得した。

 マグルの人間を馬鹿にしているヤツらには、決してわからないだろう。実際にパルクールをやってみてわかったことがある。これは本当に危険な運動であった。

 しかし、パルクールの技能を活用して自由に世界を駆けるマグルの者達は、身体一つで何処へでも行くのだ。

 魔法という万能な力を持たずとも限界突破をやってのける人達を見習って欲しいと、フィールは改めて純血主義者のマグル差別行為に嫌悪感を抱いた。

 

「へえ、なんかスゴい意外だね」

「? なんでだ?」

「だって、フィーっていつも本読んでるじゃん。インドアなイメージが強いから、尚更アウトドアとは程遠いなあって」

「ああ………これでもスポーツは好きだよ。身体を動かすのは悪くないし、ストレス解消にもなるから」

「そうなの? なんか、親近感沸くよ」

「………………」

 

 フィールはクシェルの笑った顔が可愛いなと思いながら、自分には無い明るさが眩しいと考えたことに軽くビックリした。

 

♦️

 

 午後3時半の校庭。

 いよいよ生徒の殆どが朝から楽しみにしていた飛行訓練の時間を迎え、校庭にはグリフィンドール生とスリザリン生が集っていた。

 担当教師が来るまでの間、彼等は箒やクィディッチの話題で各自友人と華を咲かせる。

 それは無口なフィールも例外ではない。

 というより、クシェルが一方的に話し掛けてくるので、無口になれないでいると言った方が正しいかもしれないが。

 

「そういや、フィー。箒に乗ったことあるって言ってたけど、何の箒使ってるの?」

銀の矢(シルバーアロー)

「シルバーアロー!? 今は生産中止になった、あの競技用箒の先駆けの!?」

 

 クィディッチマニアのクシェルが瞳をキラキラさせながら熱狂的になり、フィールはその勢いに気圧されつつもコクリと頷く。

 

「ああ、そうだよ。箒は沢山(いえ)にあるんだけど、その中でもシルバーアローが気に入ったから、手入れをしてちょっと魔法を施した。それ以降は私の愛用箒となっている」

「ん? 魔法? どんなの?」

「別に大したことじゃない。スピードアップさせただけだ。と言っても今は最新のニンバス2000を購入してそれに乗る回数が多くなったけど」

 

 なんて話を交わしている内に、飛行訓練担当教師のマダム・フーチがやって来た。

 マダム・フーチは短く切り揃えた白髪に鷹のような黄色い眼が特徴の魔女だ。

 彼女は到着するなり、ワイワイ賑わいを見せる生徒達に向かって怒鳴り散らした。

 

「何をボヤボヤしているんですか! 皆箒の側に立って。さあ早く!」

 

 その一声に皆は慌てて箒の側にスタンバイ。

 フィールとクシェルは既にスタンバっていたので、慌てることは無い。

 フィールは足元にある箒を見下ろす。

 流れ星(シューティングスター)と言う、()()()()()カッコいい箒だ。

 1955年にユニバーサル箒株式会社から発売された箒で、最安値だがかなりアンティークな品物で劣化速度も早い。

 チープな上にロークオリティー。

 事故率が高く、クレームも殺到。

 そのせいで、現在ユニバーサル箒株式会社は倒産している。

 なので、なんでそんな危険物を学校の授業で扱うのかと批判したいのは仕方ない。

 ………まあ、早い話、安いからなんだろうが。

 いくらなんでも、これは無いだろう。

 

「右手を箒の上に突き出して、そして『上がれ』と言う!」

 

 マダム・フーチの合図と共に生徒達は一斉に「上がれ!」と叫んだ。

 フィールもそれまでの腕組みを崩して他生徒同様「上がれ」と言うと、箒は彼女の右手にふわりと収まる。フィールは一発で成功させ、あと一発成功したのはクシェルやマルフォイ、ハリーと他数人で、珍しくハーマイオニーですら悪戦苦闘していた。

 マダム・フーチはなんとか全員が手にしたのを確認したら一人一人見回り、正しい乗り方をレクチャーする。宿敵マルフォイが指摘されたら、ハリーとロンはニヤニヤした。

 さて、全員が正しい握り方になったら、いよいよ飛行訓練開始だ。

 

「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2mくらい浮上してそれから前屈みになってすぐ降りて来てください。笛を吹いたらですよ。では、いきますよ。1………2の―――」

 

 と、その時だ。

 

「うわぁああああああああッ!」

 

 カウントの途中でネビルが慌てて飛び出してしまった。恐らく緊張や恐怖といったプレッシャーに耐え兼ね、フライングしたのだろう。

 

「こら、戻って来なさい!」

 

 マダム・フーチはそう叫ぶが、それが出来るならそもそもフライングなんてしない。なんとかネビルは箒にしがみついているが、このままではいずれ落下してしまう。

 高度は既に15mを超えていた。

 もしも、あの高さから落ちたら―――ネビルは即死だ。

 

 と、思った次の瞬間。

 必死に箒にしがみついていたネビルが手を放してしまい、そのまま地面へとまっ逆さまに落下していった。

 その光景に全員がハッと息を呑むが、運良くネビルは城壁に設置されている松明台の針に引っ掛かったので、ホッと安堵の息を吐く。

 けれどそれも束の間。

 ビリッ、ビリッ―――とネビルのローブから嫌な音が聞こえ、徐々に彼の身体が落ちてきた。

 

(マズい! このままじゃ、アイツは確実に地面に打ち付けられる………!)

 

 箒を握るフィール手に、力が込められる。

 

(―――こうなったら、一か八かだ!)

 

 そして意を決すると、再度訪れる緊急事態に顔面蒼白して硬直する集団の中からフィールは地面を強く蹴って飛び出し、手にしていた箒を前へ放り投げると、勢いそのままに跳躍。

 箒に跨がり、前屈みになって加速した。

 箒に乗った瞬間―――フィールの世界から一切の音が消えた。身体の全神経を研ぎ澄ませ、救出することのみに意識を働かせる。

 フィールはネビルが墜落するであろうポイントを目掛けて真っ直ぐ前進し―――箒に乗ったままクルリと一回転。

 宙返りするのと同じくして、ローブが限界を迎え重力に引かれて降下したネビルを空中キャッチすると、目の前の城壁に両足の裏側をつけ、固定した。

 

 校庭に居た人達は揃って唖然とする。

 なんと言っても、スリザリン生がグリフィンドール生を助けたのだ。驚くのも無理はない。

 だが、それ以上に彼等はフィールのずば抜けた飛行技術にビックリしていた。

 あの緊迫した状況での冷静な対応に、常人よりも遥かに優れた反射神経。

 一部始終を見た人達はポカーンと、驚異に言葉を失っていた。

 そんな彼等を他所に、フィールはネビルに声を掛けた。

 

「ふぅ………おい、大丈夫か?」

 

 生存確認も兼ねて呼び掛けてみたが、彼は放心状態であるため、反応は無し。恐怖が抜けない様子で微かに痙攣しており、無意識の内にフィールのローブをギュッと掴んでいた。

 ………無理も無い。

 本来だったら死んでいてもおかしくないし、針が引っ掛かったとはいえ、あと少しでもズレていたら身体に突き刺さって風穴が開いていたかもしれない。

 最悪なシチュエーションが脳内に思い浮かんだフィールは頭を振る。

 それから、いい加減安全地帯まで連れて行かなければネビルが可哀想だと思い、片腕で彼をしっかりと抱えると、ゆっくりと降り立った。

 

「はああぁぁぁ……………」

 

 グラウンドにソフトランディングした直後、フィールは全身の緊張を解き、大きく息を吸って吐いた。

 あれでもし助けられなかったら………と少しばかり懸念していたので、無事救出成功出来たことへの安心感をフィールは覚える。

 ふと、後ろに振り返ってみると、ほぼ気絶状態に近いネビルと同等かそれ以上に顔面蒼白しているマダム・フーチとグリフィンドール生達が近寄って来た。爆笑しながらスリザリン生達が後に続いて来たが、クシェルは心配そうな表情を浮かべていた。

 

「フィール、ネビル、無事ですか!?」

「私は大丈夫です。ロングボトムは………少し落ち着かせた方がいいですね」

「ああ、よかった………ミス・ベルンカステル。適切な対応と判断でした。箒の腕も素晴らしかったです。スリザリンに30点あげましょう」

 

 途端にスリザリン生は歓喜の声を上げる。

 グリフィンドール生は反対に、ネビルが無傷なのを一度は安堵した顔を凍り付かせた。

 

「私がネビルを医務室まで連れて行きますから、その間誰も動いてはいけませんよ。そんなことをしたら、クィディッチの『ク』の文字を言う前に出て行って貰いますからね!」

 

 厳しい声音で忠告したマダム・フーチはネビルを医務室へと連れて行く。二人の姿が見えなくなると、マルフォイが大声で笑い出した。

 

「お前ら見たか? あの笑える大マヌケ面を!」

 

 他のスリザリン寮生も呼応するかように囃し立て、嘲笑う。

 すると、長い黒髪のグリフィンドール女生徒がマルフォイを咎めた。

 パーバティ・パチルである。

 

「止めてよ、マルフォイ」

「へー、アンタ、ロングボトムの肩を持つの? パーバティったら、まさかアンタが、チビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかったわ」

 

 パグ犬顔のスリザリン女生徒、パンジー・パーキンソンが冷やかした直後、マルフォイが飛び出して草むらの中から何かを拾い上げた。

 

「見ろよ、ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ。こんな物を送られて来るなんて、アイツは底抜けのバカだと言ってるようなものだって思わないか?」

 

 マルフォイが高々と掲げたのは思い出し玉(忘れていることがあると赤く光る玉)だ。

 ガラス玉は太陽の光が反射してキラキラと光輝を放っている。

 

「マルフォイ、その玉を返せ」

 

 ハリーの静かな声に、場は静まり返る。

 マルフォイはニヤリと口元を歪ませた。

 

「イヤだね。ロングボトム自身に後で見つけさせるさ。そうだな、あの木の上なんてどうだい?」

「いいから返せったら!」

 

 ハリーが強い口調で言い、手を伸ばす。

 マルフォイはヒラリと躱して箒に乗ると空高く舞い上がり、宙に浮いたままハリーへ向かって、

 

「此処まで取りに来いよ、ポッター。それともなんだい? 怖くて追って来られないのか?」

 

 と誰が聞いても明らかに挑発としか捉えられない言葉を発し、ハリーは過剰に反応を示して箒に跨がろうとしたその瞬間、ハーマイオニーが叫んだ。

 

「ダメよハリー! フーチ先生が『飛んではいけない』と仰ったでしょう!? 下手すればグリフィンドールは大幅に減点されるわ。そうなったら私達皆が迷惑するのよ! 貴方、そんなこともわからないの!?」

 

 しかしハリーはハーマイオニーの制止を振り切ると、最早『本能』と呼べる勢いで地面を強く蹴り大空へ颯爽と飛び立った。

 周りの人達は黄色い声援を送り、ロンは感心して歓声を上げるが、ただ一人ハーマイオニーは呆れ顔でため息をつく。

 フィールはなんとも言えない表情になりつつ、大空を見上げて二人の勝負の行方を見送ることにした。

 

 今日初めて箒に乗ったはずなのに操縦技術はハリーの方が上らしく、マルフォイは微かに動揺の色を見せている。

 このままではヤバいと思ったのか、マルフォイはガラス玉を高く放り投げ、投球されたそれは物凄いスピードで地面へ落ちていった。

 

 ハリーは前屈みになり、一直線に急降下。

 手を伸ばし、地面スレスレのところでガラス玉をキャッチすると、箒を引き上げて水平に立て直し、草の上に転がるように軟着陸した。

 ハリーが地面に降り立った直後、グリフィンドール生達はまるで英雄が凱旋してきたかのようなボルテージで誉めちぎり、彼の周囲で拍手喝采が沸き起こる。

 

「ハリー・ポッター!」

 

 不意に。

 校庭に鋭い声が響き渡り、それは異様な熱気に包まれている場の空気を切り裂いた。

 声の主はミネルバ・マクゴナガルである。

 いつの間にか現れていたマクゴナガルは、ビクリと身体を震わせたハリーの元まで走り寄る。

 

「まさか………こんなことは、ホグワーツで一度も………」

 

 マクゴナガルはショックで言葉を失っている感じであったが、フィールは副校長の瞳に喜悦が帯びているのを感じ取り、「ああ………」と彼女の心意を察した。

 

「よくもまあ、こんなことを………。首の骨を折っていたかもしれないのに………」

「先生、ハリーが悪いんじゃないんです」

「お黙りなさい、ミス・パチル」

「でも………マルフォイが………」

「くどいですよ、ミスター・ウィーズリー。ポッター、さあ一緒にいらっしゃい」

 

 マクゴナガルは「ついて来なさい」と青ざめているハリーを促し、急ぎ足で城に向かって歩き出す。問答無用で校庭から連れ出そうとするマクゴナガルにハリーはトボトボついていく。

 フィールの脇を通り過ぎる時、一瞬、マクゴナガルは彼女に視線を落とした。

 が、瞬く間にその視線を真っ正面に定めると、ハリーと共に城の出入口に入る。

 ハリーとマクゴナガルの姿が見えなくなると、またしてもマルフォイは笑い出した。

 

「お前ら、さっきのアイツの顔を見たか? ロングボトム以上に大マヌケ顔だったあの顔を! きっとアイツは退学になるぞ!」

 

 スリザリン生は爆笑の嵐を渦巻かせた。

 グリフィンドール生は先程の興奮気味な様子から一変して悔しそうな顔で唇を噛み締めていたが―――そんな彼等へ水を差すような発言をかましたのは、意外や意外、スリザリン生のフィールであった。

 

「狂喜乱舞しているところを邪魔するようで悪いけど、ポッターは退学にならないと思うぞ」

「………は? ベルンカステル、それはどういう意味だ?」

 

 聞き捨てならないフィールのセリフに思わず勝ち誇った顔がピキンと固まったマルフォイはフィールに詰め寄る。周りの人達もどういうことだと彼女に注目した。

 

「仮に副校長が退校処分にするために此処に来たっていうなら、同じように飛んでいたマルフォイも同罪で今頃連行されていたはずだ。なのに副校長は咎めるどころか何故かポッターだけを連れて行った。冷静に考えればおかしいだろ」

 

 淡々と語るフィールに周囲の眼が強くなる。

 マルフォイは青白い顔が若干強張った。

 

「じゃ、じゃあなんでポッターだけが連れて行かれたんだ?」

「答えは簡単。1年生とは思えない箒の操縦技術のセンスを目撃した副校長は、ポッターをクィディッチの代表選手―――正確に言えば、シーカーにさせるためにわざわざ此処まで来て、アイツを連れ出したんだろうな」

「な、なんだと………!?」

「要するに、だ。マルフォイ、言い方は悪いけどポッターは宿敵のお前を踏み台にして栄光を掴み取ったって訳だ」

「だ、だけどアイツは僕達と同じ1年生だぞ!」

「確かにそうだな。校則上では許されていない。でも過去に最年少選手がいなかった訳でもないのもまた事実。曲げられないルールなんてのは存在しないんだよ。都合や場合次第で何とでも出来るんだからな」

 

 認めたくないが認めざるを得ない最悪な現実。

 今まで感極まっていたスリザリン生は激しく落ち込み、グリフィンドール生はハリーの活躍を称えた時並みに喜んだ。

 

「そんな戯れ言、僕は信じないぞ! ベルンカステル、お前の言ってることは全部嘘だ! ポッターは退学になる! それ以外の事実なんて僕は認めないからなッ!」

 

 マルフォイはフィールを睨みながら喚き、取り巻き二人を連れて走り去った。

 スリザリン生達は小さくなっていく同輩の背中を憐れみ深い眼差しで見送ると、フィールを冷めた瞳で見る。

 ネビルを救ったというのもそうだが、今しがた伝えてきた内容は全てグリフィンドール生にとってメリットになるものばかりだ。

 スリザリン生なのに、グリフィンドールの味方的な言動を見せたフィールに、同輩達は蔑視し、まるで異端者から距離を取るように彼等はゾロゾロと歩き去っていく。

 自分から離れていったスリザリン生達にフィールは鬱屈そうに眼を細め、その場から立ち去ろうとすると、

 

「おい、ちょっと待て」

 

 グリフィンドールの集団から、何故か呼び止められる声が耳を打った。

 フィールは振り返る。

 

「なんだよ?」

 

 すると、一人の男子生徒が一歩前に出てきた。

 

「なあ、お前………あの時、どうしてネビルを助けた? お前はスリザリン生だろ!?」

 

 大声で叫んだ、男子生徒の発言。

 その発言に、そういえばそうだったと、歓喜の気持ちでいっぱいだったグリフィンドール生の大半がハッと思い出して大きく頷く。

 忘れがちであったが、ずば抜けた箒の操縦技術を披露したのはハリーだけでない。

 

 壁に激突する前に宙返りしての人命救助。

 

 並みの者には到底出来ない行為だ。

 だが、それをフィールはやってのけたのだ。

 普通ならば、仲間を助けてくれたことへの感謝や卓越した技能への称賛を受けても、何もおかしくないはずだ。

 

 しかし、現実はなんとも非情で。

 寮で人を判断する者の集いと言っても過言ではないのがホグワーツに在校する生徒だ。

 それは今年入学したばかりの1年生であろうとも、例外ではない。

 『スリザリン生』というだけで、フィールは自身が助けた少年が所属する寮生に、悪口を受ける羽目となった。

 何故、あれだけ「友達になろう」とアプローチしてくる同輩を冷たくあしらうようなヤツが、敵対するグリフィンドール寮生を救済したのかと、彼等は口々にフィールを罵倒する。

 

 ちょっとした騒ぎになった校庭の一角。

 けれども、騒ぎを沈めたのは意外にも喧騒の中心人物となったフィール本人だ。

 彼女は長めの前髪を掻き上げると、

 

「―――目の前で誰かが死ぬかもしれないのに、()()()()()()()()()()()()とかの理由で助けないなんて馬鹿な真似はしない」

 

 と低く抑えた声でキッパリと言い放った。

 とてもではないが、イヤなヤツの集まりだと言われているスリザリン生とは思えない発言に、グリフィンドール生は驚愕の表情でフィールを凝視した。

 

「あの高さから落下して打ち所が悪かったら最悪死んでいたかもしれないのに? ()()()()()()()()()なんで助けた? ―――お前らの発言は、馬鹿馬鹿しいの一言に限るな」

 

 11歳の少女が発しているとは到底信じられない、冷たさと鋭さが孕んだ恐ろしい声音。

 グリフィンドール生は、密かに恐怖という感情を覚えた。

 宿敵スリザリン生の口から出た正論の言葉だからなのか、それとも低音で威圧感ある声に臆したのか、あるいはその両方か―――睨み付けながらも、誰も何も言い返してこない。

 

「と言うか、助けようとする気が無かったら、そもそも動く訳無いだろ。それこそ、敵対する寮の人間が大怪我しようが最悪死のうが、別に何とも思わないだろうが。―――あんな状況になったにも関わらず、同級生を助けようとするどころか、何もしようとしなかったお前らが、よくそんな口叩けるな?」 

 

 ギクリ、と彼等は肩を微かに揺らす。

 動揺の色を見せたグリフィンドール生達へ、フィールは言葉を紡ぐ。

 

「―――目の前で死にそうになっているヤツを助けようとすることの何が悪いんだよ? もし、あの時私がアイツを救った行動そのものを否定するって言うなら、お前らは間接的に人を見殺しにする行為そのものだと思わないのか?」

 

 すると、さっきフィールへ敵意を剥き出しにしたグリフィンドール生が声を荒げてきた。

 

「うるせえッ! スリザリン生のお前に、そんなこと言われる筋合いは無いッ!」

 

 凄まじい形相で睨むグリフィンドール生であるが、フィールは涼しい顔でさらりと受け流す。

 そして何と無く理解した。

 ああ、これが『傲慢なヤツが多い』と言われるグリフィンドール生の特徴かと。

 スリザリンの方が少しだけ上だが、グリフィンドールもこちらをやっつけるのが好きだと、9月1日にスリザリン寮の入り方や誤解等を述べてくれた女子監督生ジェマ・ファーレイの言葉の意味がわかった気がした。

 

「………なるほど、そういうことか。今なら、あの人が言ってた意味、わかる気がする」

 

 一人納得して首肯するフィール。

 そんな彼女の態度を喧嘩を売ってると勘違いしたのか、そのグリフィンドール生は憤怒の表情でズンズン近付いていく。

 

「大体、なんでお前みたいなヤツに俺達が文句を言われなきゃいけねーんだよ! エルシー・ベルンカステルの孫だかなんだか知らねーが、有名人の血縁者だからって調子に乗んな!」

 

 そして拳を握り締め、フィールの顔面狙って殴り掛かろうとしたが―――その前にフィールはサッと躱し、綺麗なまでに空振りした男子を横目に深くため息を吐いた。

 

「口では言い返せないから、それを隠そうと実力行使に出たってか? 幼稚だな。そういうところが、グリフィンドールの評判を下げる要素だって自覚を持った方がいいんじゃないのか?」

「コイツ………!」

 

 神経を逆撫でするような物言いに、グリフィンドール男子生徒は眉を釣り上げる。

 フィールが呆れて肩を竦めると、男子は更に突っ掛かってきた。

 が、動作がまるでスローモーションのように見えるフィールは、

 

「鬱陶しい」

 

 再び顔面に放たれた右ストレートをいとも簡単に掴むと、まさに赤子の手を捻ると言った要領で捩り上げた。

 

「がああぁああッ………!」

 

 物凄い力で右腕を捻り上げられ、呻き声が漏れる。その細い腕の何処からそんな力が沸いてくるのか疑問に思うほどの剛力だった。

 フィールは先程のお返しとばかりに、ケンカを仕掛けられた分の無慈悲な力を加える。

 男子は腕を元の位置に戻そうとするが、フィールがそれを許さない。望んでもいないのにケンカを売られたのだからこれは当然の報いだ。

 やがて男子は腕が折れるんじゃないかという恐怖に心が屈し、屈辱のギブアップをした。

 

「や、止めろ………ッ!」

 

 寮同士、犬猿の仲のヤツの懇願なんて普通なら聞き入れようとしないだろう。

 自分を殴ろうとしたヤツならば、尚更。

 しかし、フィールは無表情でパッと放した。

 途端、男子は痛む腕を押さえながら、その場にへたり込む。

 足元で踞るグリフィンドール男子生徒を冷たく見下ろしながら、フィールは一言告げた。

 

「止めろ、って言ったから放してやったぞ」

 

 恐ろしいくらい、冷たくて低い声音。

 獅子寮所属の彼は、ライバル関係にある蛇寮所属の彼女に情けを掛けられたことが屈辱で、羞恥に赤面した顔を下に伏せたままだ。

 他のグリフィンドール生はフィールをキッと睨むが、フィールは無表情を崩さない。

 

「そいつのせいで余計な時間を食ったな。私はもう行く」

 

 だが、何人かの男子が、この場から立ち去ろうとしたフィールを包囲した。

 

「余裕ぶってんのも今の内だぞ!」

「お前を痛い目に遭わせて、そのデカい態度を直してやる!」

「痛い目? ふーん、自分のことを棚に上げて人に物を言うようなお前らが?」

「この野郎………!」

 

 慌てた様子は一片も無く、軽く肩を竦めて煽動する言い草を言い放つフィールに、男子達は凄まじい形相になる。

 

「一人の相手に対し、集団で寄って集って数的優位を見せ付け、威圧するのは確かに得策かもな。でも―――」

 

 フィールは冷たい光を宿した視線を向ける。

 獲物を前にした獣のような蒼い瞳に、男子達は背筋が粟立ち、身を縮こませる。

 

「………数人居れば、勝てると思ったか?」

 

 挑発的な発言と態度。

 滲み出てくる圧迫感。

 フィールの双眸に宿る冷酷な眼差しに、男子達はフリーズする。

 

「悪いことは言わない。さっさと退いてくれないか? なるべくは、傷付けたくはないし」

 

 知らず知らずの内に額に冷や汗が流れ、固まっていた男子達であったが―――恐れを振り払うように、一人の男子が殴り掛かった。

 男子は何度もパンチを繰り出すが、ことごとく躱されてイライラする。

 いい加減鬱陶しく思ったフィールは、拳を握り締める。

 そして―――男子の右フックを食らう前に、左フックを決めた。

 フィールが今しがた行ったのは、所謂『カウンター』だ。

 カウンターは相手の攻撃に対しての攻撃だ。

 相打ちではなく、相手の攻撃を躱して自分の攻撃を与える(相打ちでも構わない)。

 まともにカウンターが入れば、ほとんどKO勝ちすることが出来る。

 モロに打撃を受けた男子は唾液を吐いた。

 全身から、急激に力が抜けていく。

 

「だから言っただろ? なるべくは、傷付けたくないって」

 

 フィールのアイスボイスをどこか遠くのように聞きながら、男子は地面に倒れ込んだ。草いきれが鼻腔を満たし、その上で微かに痙攣する。

 グリフィンドールの集団から悲鳴が上がった。

 キャーキャーと、耳障りな協奏曲を奏でる。

 ケンカを仕掛けようとしていた残りの男子達はすっかりブルブル震えていた。

 パニックになったこの場で唯一冷静なのは、フィールただ一人だけだ。

 

「私は忠告したはずだぞ? さっさと退け、と。にも関わらず、コイツは襲ってきたんだ。当然の報いだな。………もう一度言うぞ。さっさと退いてくれないか?」

 

 フィールは男子数人を冷たい瞳で見回し、

 

「それともなんだ? まだやんのか?」

 

 と、ケンカをするか否か問い掛けた。

 すると、ついさっき起きた出来事に恐れをなしたのか、包囲していた彼等は後退り、「お、覚えてろよ!」と捨て台詞を吐き捨てて、逃げるように走り去った。

 邪魔な障壁が無くなり、フィールはグリフィンドールの集団に背を見せる形で歩いて行く。

 その背中に向かって、幾分か落ち着いた男子が鼻で笑った。

 

「ふ、ふんッ! ベルンカステル、負け惜しみも程々にしたらどうだ! ポッターは最年少選手になれても、お前はなれない! だからこその腹いせだろ! 残念だったなッ! お前はこの上無い惨めな敗者だよッ!」

 

 意趣返しの叫声は、瞬く間に伝染した。

 口々に皮肉の言葉を吐き、嘲笑う。

 フィールは肩越しにチラッと見る。

 嘲笑するグリフィンドール生がほとんどの中、入学前に面識あるロンとハーマイオニーの二人はなんだか複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「…………………………」

 

 爽やかな風が髪を優しく揺らす。

 その風に入り交じって聞こえてくる嘲笑った声を背中に浴び続けるフィールは、自分が受けた周りからの扱いを思い返し、気持ちが重く沈んでため息をついた。

 そしてフィールは、ふと自問する。

 

 

 ―――自分がしたことは………何か間違っていたのだろうか、と。

 

 




【ジェマ・ファーレイ】
スリザリン所属の女子監督生。
今までスリザリン生で名前有りの年上がいないと思ってましたが、ポッターモアでこの人を発見。これには少々ビックリしました。
明確な年齢は不明ですが、せっかく見つけた貴重な原作年上女キャラなので、どうせならオリバーやマーカスと同い年(ハリーやフィールより4歳年上)にして、年が近いオリキャラのアリアとの絡みを書いてみるのも悪くはないかもしれません。
と言うか、アリアが作られたのは現役でスリザリン女先輩が居なかった(と今まで思っていた)からなので、原作で居たって発覚したらこれは絡ませなきゃですね。
さて、どんな感じに絡ませようか………。

【運動神経抜群のフィール】
パルクールや飛行技術は、魔法を扱うにおいて必要な体力や精神力を養うために身に付けています。前者に関しては8割がた作者の好み。
作中でもちょくちょく取り入れるつもりです。
最終章ではかなりの回数で出てくるでしょう。
ハリポタ二次創作でトップクラスでアクションシーンが多い。
私はそんな作品にしてみたい。

【マクゴナガル】
実はフィールの並外れた操縦センスで人命救助するシーンをバッチリ目撃しました。
ですが、まあ、はい。マクゴナガルは他寮の生徒だからと言う理由で、フィールの凄い技能は見てなかったことにしてます。
その代わり、自分が受け持つ寮生のハリーは最年少選手にさせようと連れていきましたけどね。

【喧嘩を仕掛けるグリフィンドール生】
口では言い返せないから実力行使に出るヤツの例とはまさにコイツのこと。自分から喧嘩を売ったのにも関わらず惨敗するのだからアホと言えるだろう。

【所属寮が違うだけで扱い方がまるで違う】
ハリーはグリフィンドール生、フィールはスリザリン生。
たったこれだけの違いで、皆からの扱いは大きく変わってしまう。
世の中なんて理不尽なんだ。
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