【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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原作変化の回。


#63.暗闇の攻防

 時は流れ、イースター休暇も終わり―――第三の課題及びラストプロブレムの発表当日、5月24日を迎えた。

 変身術の授業の後、ハリーとフィールはマクゴナガルから夜の9時にクィディッチ競技場に向かうように言われ、玄関ホールを集合場所に決めた二人は、午後8時半にそこで合流した。

 

「今度は何だと思う?」

「次の課題はちょうど1ヶ月後だ。前回と違って猶予期間が圧倒的に少ないってことは、比較的簡単な内容だと思うけど………」

 

 そうは言いつつ、フィールの表情は冴えない。

 

 第一の課題は殺伐激越なドラゴンと対峙。

 第二の課題は冬の時期に水中ダイビング。

 

 数で言うならばたった2つ。

 しかしながら、その『たった2つ』の試練で選手達が危うく命を落とし掛けそうになったのは記憶に新しい。

 なので、その最終試験となる第三の課題も決して手緩いものではないだろう。

 ハリーとフィールは今の天気みたいに雲行きが怪しくなりそうな予感を抱きつつ、二人は暗い芝生の上を歩き、スタンドの隙間を通ってクィディッチ戦が行われるグラウンドに出た。

 

 到着した二人は、その場に立ち竦んだ。

 そこには見慣れたクィディッチ競技場の面影は一切無く、代わりに、生垣が複雑に絡み合いながら一面を覆い尽くしていた。

 ピッチの真ん中に、ルード・バグマンの立っていた。クラムとルークも居る。ハリーとフィールは生垣を乗り越え、バグマン達の方へ向かった。

 だんだん近付いていくと、ルークが二人へ笑い掛ける。

 最後の垣根を越え、全員が揃ったのを確認すると、バグマンは生垣もとい第三の課題について説明を施した。

 

「よく集まった。それでは早速だが、第三の課題について説明しよう。まずこの生垣だが、コイツは今も育ち続けており課題当日までには6m程の高さにまで成長しているはずだ。競技が終わればさっぱり消えるから安心しなさい。さて、我々がこの生垣で何を作っているのか、想像出来るかね?」

「………迷路」

 

 クラムはチラリと見ながら簡潔に答えた。

 よく見てみれば、複雑に入り組んでいる生垣同士の間に隙間があるため、そこがスタート地点なのだろう。

 

「その通り! 第三の課題は極めて明快、この迷路の中心に置かれている優勝杯を最初に獲得した選手が優勝者だ」

「迷路を一番早く抜ければ勝ちなんですか?」

「そうだ! しかし、当然だが迷路を抜けるまでには様々な障害が君達の行く手を阻む。ハグリッドが様々な魔法生物を放つし、呪いや魔法具といった障害も配置される。君達はこれらの障害を全て破る必要があるのだ」

 

 ハリーとフィールは顔を見合わせた。

 なんてこったい。よりにもよってハグリッドが出てくるなんて。

 呪いや魔法具はともかく、ハグリッドがこういうイベントで放ちそうな生き物なんて、ロクでもないモノばかりだ。

 授業等で散々見てきてるが故に、二人はそれが一番不安要素だと、口に出さずとも共通の意思を共有していた。

 そんな二人の懸念は露知らずのバグマンは、最後にスタートの順番について教えてくれた。

 現時点での獲得点数が高い順からのスタートらしいので、トップバッターを切れる満点のフィールが圧倒的に有利なポジションだ。その次に同点のルークとハリー、そしてラストバッターはクラム。順番は違えど、遭遇するトラップや対処能力次第では逆転勝利も十分考えられる。

 

 以上で第三の課題発表は終わり。

 後は1ヶ月後の本番を待つのみだ。

 今夜はここで解散となり………何故だかクラムとハリーが禁じられた森へと行くのを不思議そうに見送りつつ、フィールもすぐには戻らず、次なる試験会場をじっと見上げた。

 

「………いよいよ、か」

 

 壮絶な試合にも、ゲームセットが間近に迫ってきた。このゲームが終われば、またいつもの学校生活が戻ってくる―――はず、なのだが。

 フィールはいつからか、胸の奥で鈍く燻るような胸騒ぎが四六時中止まなかった。

 具体的には表せない、でも、心の何処かで警告音が鳴っている。

 そんな感じが自分の中でつっかえていて―――答えを求めるように、胸に手を当てた。

 その時、服越しに何か固い物の感触がした。

 フィールはそれを取り出し………寝る時以外は肌身離さずぶら下げている銀色のロケットに、視線を一点集中させる。

 

(………そういえば―――)

「フィール」

 

 聞き慣れた従兄に名前を呼ばれ、ハッと振り向くよりも前に、肩に手が置かれた。フィールはロケットを服の下に戻し、隣に並んだルークを横目で見上げる。

 

「お互い頑張ろうぜ」

「ああ……そうだな」

 

 従兄妹は不敵な笑みを浮かべながらグータッチをし、両者共に健闘を祈った。

 それからルークは、フィールへ気になってたことを質問した。

 

「なあ、フィール」

「なんだ?」

「フィールはあのセドリックってヤツのこと、どう思ってるんだ?」

 

 意外な質問に、フィールは言葉を詰まらせる。

 フィールは考え込むように顎に手を当て、こう言った。

 

「一言で表すなら文武両道な先輩……かな」

「じゃあ、恋愛対象としては?」

 

 その問いにフィールはセドリックに告白された事と手の甲にキスされた事を急速に思い出し、生まれて初めての経験故に恥ずかしい気持ちが一気に込み上げてきて、

 

「そういうルークはいつからクリミアのことが恋愛対象として好きだったんだ?」

 

 と、顔どころか身体が熱くなってきた事を悟られたくないフィールは逆に質問し返した。ルークは少し困った面持ちになったが、

 

「いつから、か………いつだろ。気付いた時にはクリミアのことが家族とは別の意味で好きだったな。気を抜けば、頭の中はクリミアのことでいっぱいになるくらい」

「そうか。……クリミアを幸せにしてあげろよ。泣かせたら、承知しないからな」

「なんか父親が言う言葉みたいだな」

 

 ルークは笑い、少しはクールダウンしたフィールも笑う。

 そろそろ帰ろうかと踵を返そうとした、その時だ。

 

「フィール! ルーク!」

 

 ハリーの焦りと安堵が入り交じった声が耳を打ち、二人は反射的にそちらを見ると、彼が急いで駆け寄ってきた。

 

「ハリー、どうしたんだ?」

「そ、それが―――」

 

 ハリーは早口で二人に話した。

 なんでも、禁じられた森にここ最近行方不明だったバーテミウス・クラウチ・シニアが現れ、よくわからないことばかりをブツブツと木に話し掛けているらしく、何故かは知らないがダンブルドアに会いたがってたそうだ。

 その必死さに気圧され、ハリーはダンブルドアを呼びに、クラムはクラウチの監視のため、彼と共にその場に残したとか。

 

「ハリー、すぐに校長を呼んでこい!」

「俺達は二人の所へ行く!」

 

 フィールとルークは同時に地面を蹴り、飛び出した。ハリーはオロオロしたが、すぐに自分の成すべきことを思い出し、ホグワーツ城の3階を目指して走り出した。

 二人が森の奥に辿り着いた時、電光石火のスピードで紅い光が2つ迸る光景を眼にし、地面を蹴る足裏に力を入れた。

 地面に倒れたシルエットがハッキリするほどの距離まで近付いたフィールは、眼を剥く。

 

「クラム! 大丈夫か!?」

 

 クラムが倒れていた。

 フィールはいち早く彼の側に膝をつき、首に指を当てて脈を取る。

 どうやら『失神呪文』を受けただけのようだ。

 ホッとしたのも束の間、クラムの後ろで寝転がるクラウチの姿に驚きを隠せない。

 だがそれ以上に、先程森の奥深くから二人を撃ち抜いた閃光に驚愕した。

 

「! プロテゴ(護れ)!」

 

 ルークが咄嗟に魔法の防壁を張り、またもや暗がりから飛んで来た閃光から身を護る。バリアの表面で弾かれたそのスパークは、暗い森の中でスッと消滅した。

 

「フィール! クラウチとクラムの周りに結界を張れ!」

「言われなくてもわかってる!」

 

 フィールはヒップホルスターから素早く杖を抜き出し、地面に横たわる二人を防護するため、強力な結界を構築した。完全に出来上がったら、フィールは立ち上がり、ルークに加勢する。

 

ステューピファイ(麻痺せよ)!」

インペディメンタ(妨害せよ)!」

 

 ルークは『失神・麻痺呪文』、フィールは『妨害呪文』を詠唱有りの高威力で暗闇に向かって素早く放つ。2つの光線は眼にも止まらぬ速さで駆け抜けた。

 が、相手は先読みしていたのか、綺麗なまでに反射してきて、今度は咄嗟にフィールが『盾の呪文』を唱え、自分とルークをガードした。

 

「かなりの手練れな魔法使いみたいだな!」

 

 時間で言うならば、僅か数秒間。

 その数秒間の中で二人は向かい側から襲撃してくる相手を『敵』と判別し、この場をどう打開するか、必死に頭を絞らせる。

 

 まず、敵の狙いはクラウチに違いない。

 クラムはすぐ側に居て邪魔者だったから、襲われたのだろう。

 敵の目的はわからないが、ここで退く訳にはいかない。下手すれば、クラムも殺されてしまう可能性がある。対抗選手として、そして戦友として少なからずの友情を育んだ彼を見捨てるなんて真似は出来ない。

 

 けれども、最後まで護り切れるかは不明だ。

 何故ならば―――相手は相当強者だからだ。

 それも、今、対戦してるのは………死喰い人(デスイーター)だと思われる。その証拠に、フィールとルークはビシバシと闇の魔法の気配を肌で感じ取っていた。

 まるで空気を吐き出すかのように繰り出される一閃に帯びたパワーは、直撃したらヤバいものだと感受してる。

 

 魔法界でそれらを利用する者と言えば―――多くの魔法使いやマグルを恐怖と死と血のドン底に叩き落とす、死喰い人くらいだ。

 フィールとルークは出来るだけ後退しないよう前線に出てはいるが、力量的にはあちらもかなりの強さを誇っているのか、中々決着がつけられない。

 

「くそっ、一体誰なんだ!? ルーモ―――」

 

 ルークが『強化版・照明呪文(ルーモス・マキシマ)』で敵の正体を露見しようと杖を大きく振り上げた、その瞬間。

 小さな白い光が雷速で放たれ、ルークの胸元に命中。眼には見えない鋭い剣で斬りつけられたような傷口の波紋が浮かび上がり、皮膚は切り裂かれ、大量の血が噴き出した。

 

「がはっ………!」

 

 呻き声を上げ、ルークは倒れ込んだ。

 隣に居たフィールは頬や口元に彼の返り血を浴び、口の中が鉄の味で充満する。

 

「ルーク!」

 

 フィールは膝をつき、ルークの容態を看る。

 彼はぐったりと眼を閉じており、顔や胸は血だらけである。並みの魔術ではないと悟ったフィールは、ハッとある呪文が頭に浮かんだ。

 

(まさか………セクタムセンプラか?)

 

 だとすれば、何故相手はスネイプが開発した呪文を知っているのだ?

 そう疑問に思ったフィールであったが、今はそれどころではないと思い返し、『セクタムセンプラ』の反対呪文である歌うような治癒呪文『ヴァルネラ・サネントゥール』を唱えるべく、時間稼ぎのための壁を造り上げた。

 ボコボコと地面が盛り上がり、強力な壁が片膝立ちのフィールと血まみれのルークの前で造られると、

 

ヴァルネラ・サネントゥール(傷よ、癒えよ)

 

 フィールは壁が崩れないよう左手を当て、急いで杖先をルークの胸元に向けて、呪文名を歌うようにして唱える。すると、徐々に大きな傷口が塞がっていくが、戦闘中の緊張感で集中力が途切れ途切れになり、上手く治癒出来ない。

 戦闘の手を止めてることから、相手は存分に攻撃し放題だ。次々と呪いを壁に連発していき、やがて土壁にヒビが入り込んだ。

 

(ああ、もう! まだ来ないのか!?)

 

 ダンブルドアを呼び出しに奔走したハリーが偶然居合わせたスネイプに引き留められているのを知らないフィールは、亀裂が生じてきた壁に焦燥に駆られる。

 ルークの怪我も治っていない。

 なのに、このままでは………。

 フィールの焦慮を弄ぶよう、遂に壁が崩壊し、無惨な瓦礫となって、自分達の姿が露になってしまった。

 

「ちっ………!」

 

 フィールは戦闘モードに入り、ルークを庇うように立ち上がると、無言呪文で応戦した。

 口を閉じ、相手に何の効果を持つ呪文かを知られないようにする、無言で魔法を構成させる高度なテクニックだ。本来ならば6年生から習うものだが、成人生徒を凌いで最年少選手となったフィールにその定義は当てはまらない。

 杖を振るい、反撃に打って出るフィールは、これ以上大切な人達に傷を負わせはしないと、ハリーがダンブルドアを連れて来るのを信じて孤軍奮闘した。

 

(頼む、早く来てくれ………!)

 

 額に滲んできた汗を拭う暇もなく、腕を振り上げ、杖を掲げるフィールは奥歯をギリッと噛み締め、ひたすら攻撃の手を止めない。

 そんな彼女の身に、突如激痛が走り出した。

 

「―――ッ!!」

 

 それは、今までの痛みを遥かに越える耐え難い苦痛であった。身体に風穴を開けられるくらいグッサリと刺し貫かれるよりも、肉体をボコボコに殴られ蹴られ続けるよりも、圧倒的に上回るだろう激しい痛み。

 まるで、白熱としたナイフに全身の皮を削がれるような気分。心臓に鋭い刃を突き立てられ、深く抉られるような、尋常じゃない痛覚。

 フィールは耐えられず、地面に転がり、荒く息をついた。身体を海老のように丸くし、痛みを和らげようとするが、それで少しでも楽になれるならば、こんな思いはしない。

 

「ぁ……ぅ………ぁぁ………」

 

 許されざる呪文の一つ、『磔の呪文(クルーシオ)』。

 死ぬ方がマシだと思わせられるほどの苦痛を与える拷問の呪文だ。

 それをフィールは実際に受け、身に染みてイヤになるほど一瞬で理解させられた。

 気絶してしまいたい………死んでしまう方がずっといい………。彼女はそう思うほどの激しい痛みに身を襲われ、正気が削られた。

 でも、意識を手放してはいけない。

 自分が戦闘不能になったら、誰も護る人がいなくなってしまう………。

 朦朧とする意識を奮い立たせ、杖を強く握り締め直し、左手を地面について気合いと根性でふらふらと起き上がると、

 

「来るなら来い! 相手になってやるぞ!」

 

 腹の底から声を張り上げ、フィールは決して諦めない心を宿した瞳で暗闇を睨み、再び進撃を開始した。

 そして再度襲われる、磔の呪いによる半端じゃない苦しみ。

 色とりどりの光が飛び交い、痩せ我慢でその場に立っている彼女の身体にモロに当たり、制服が切り裂かれる。

 全身から脂汗が噴き出し、視野が霧みたいにぼんやりとしてきた。着ている制服は既にボロボロで、血液が肌の上を伝っているのを感じる。

 

「はぁ………はぁ………ッ…………」

 

 膝を折り曲げてはいけないと言い聞かせてるのに、疲労困憊した傷だらけの身体は言うことを聞かない。

 ガクッ、と左膝を折り、身体が崩れ落ちた。

 紅い染みが、白いワイシャツの生地に広がる。

 服はボロボロに破け、皮膚は切り裂かれ。

 顔色は蒼白し、呼吸も弱くなっていく。

 

(マズい………このままじゃ…………)

 

 眼の焦点が合わないフィールは、武器だけは離してはいけないと、柄の部分を強く握った。

 磔の呪いを受けた肉体的痛みから、精神的にも限界が来て、意識を失いかけている。

 ほぼ戦闘不能と同じになったフィールは、完全に倒れるまでは戦い続けると、戦意の意志を帯びた双眸で暗がりを見上げた、その時。

 突如縄が飛来してきて、彼女の細い首をギリッと縛り上げた。

 

「かはっ………!」

 

 突然呼吸することを封じられ、フィールは冷たい地面に転がり、空気を求めてほどこうと必死にもがく。が、首に巻き付けられるロープは、その隙間を与えなかった。

 

(ヤバい………このままだと………窒息………するッ…………)

 

 急速に脱力感に見舞われる肉体では満足には動かせず、見える世界が霞んで意識が薄れかける。

 指先から、力が抜けていく。

 彼女の頭の片隅に"死"の単語が過り―――

 

 

 

「―――ディフィンド(裂けよ)!」

 

 

 

 凛とした女性の声が暗い森林に響き―――ギリギリの差でフィールの首を絞めていた縄が切れ、彼女は咳き込んだ。

 

「げほっ、げほっ………」

「フィール! 大丈夫!?」

 

 誰かに抱き起こされたフィールは、朧気な瞳で絶体絶命のピンチから救ってくれた救世主を見上げた。

 

「クリ………ミア………?」

 

 水色の長い髪に紫色の瞳。

 まごうことなく、クリミアだ。

 ………クリミアだけじゃない。

 やっとのことで、校長のダンブルドアを連れてきてくれたハリーもやって来た。すると、先程まで一戦を交えていたヤツは、一切奇襲攻撃を仕掛けてくることはなかった。

 でも、まだ残留してるかもしれないと警戒するダンブルドアは前線に立ち、『盾の呪文』を唱えて防壁を展開した。

 常人を遥かに凌ぐシックスセンスの持ち主故の胸騒ぎがして此処に来たクリミアは、辺りを見回す。

 側には結界に護られているクラウチとクラム、顔や胸が血で濡れているルークが倒れている。クリミアは流血しているルークを止血し、此処で何が起きたのかと眼を見張っていると、いつまで経っても襲撃して来る気配が無いのを安全と判断したダンブルドアが振り返った。

 

「………彼らを医務室まで運ぶとしよう。話はそれからじゃ」

 

♦️

 

「フィー!」

「ルーク!」

 

 翌日の夕方。

 昨夜、それぞれの校長から友人、兄が医務室で一晩中過ごすと聞き及んだクシェルとシレンが駆け付けてきた。

 幾つもある寝台の一つに寝かされているクラウチは酷く静かで、遺体のように見えてもおかしくない。

 そして、ベッドには横にならず腰掛けているフィールの背をルークとクリミアがさすっていた。

 フィールの首には、縄で強く締め付けられた跡が痛々しく残っている。

 

「フィール………何があったの………?」

 

 シレンはフィールの前に来て両肩に手を置いたが、彼女は弱々しく項垂れるだけだった。彼女はシレンにもたれ掛かるよう、深く息をつく。

 

「………シレン………ごめん……なさい………」

「なんで謝るのよ………?」

 

 謝罪してきた従妹に戸惑った顔をしてると、

 

「フィール、何度も言ってるでしょ? 貴女の責任じゃないって」

 

 クリミアが叱るように言った。

 が、フィールは首を弛く振る。

 

「私のせいで………ルークは怪我した………シレン………ごめ……んなさ………い………」

 

 拙く謝ってくるフィールへ、シレンは責めることなく、頭を撫でた。

 

「フィール、謝らないで。貴女達が無事ならそれでいいのよ。………昨日の夜、禁じられた森で何が起きたの?」

 

 シレンの問いにクリミアが簡単に説明した。 

 

 昨夜―――何者からの襲撃によって重傷を負ったルーク達をクリミア達が医務室に運んだ後、ダンブルドアはダームストラング生のクラムが襲われたのを彼の学校の校長・カルカロフに伝えようと、守護霊の不死鳥でハグリッドを呼び出した。

 ハグリッドがカルカロフを連れてくるまでの間に、ダンブルドアは『甦生呪文』を使ってクラムを復活。意識が戻ったクラムは現状がよくわからない様子だったが、「紅い閃光が2つ飛んできた」と言う証言から『失神呪文』を当てられたのを知ると、その『失神呪文』を当ててきたヤツから自分を護ってくれたベルンカステル血族者の二人に感謝した。

 それからほどなくして、ハグリッドとカルカロフがやって来た。カルカロフは自分の生徒が襲われたと聞いて激怒していたが、無傷のクラムに窘められて渋々身を引き、彼と共にダームストラングの船へと帰った。ダンブルドアはムーディに禁じられた森に謎の襲撃者の痕跡を辿るよう命じ、彼は禁じられた森へ急行した。

 

「でも、手掛かりは何もなかったみたいだ」

「そう………ところで―――」

 

 シレンは、目線を別方向に走らせた。

 

「この人、確か審査員の一人じゃなかった?」

「ええ。最近行方不明だった、クラウチさんよ」

 

 と、その時だ。

 医務室の扉が、バンッ! と派手に開かれ、全員がビクッと身体を震わせて勢いよく扉方向に振り返った。

 そこに立っていたのは、ハリー達一行だった。

 

「フィール、貴女、大丈夫なの!?」

 

 ハーマイオニーは涙ぐみながら、物凄い速さでフィールに走り寄り、形振り構わず彼女をギュッと強く抱き締め、扉を閉めてきたハリーとロンも心配そうに近付いてきた。

 

「ちょっ、ハーマイオニー、痛い………」

 

 フィールは昨日の疲れと怪我から、綺麗に修復された制服の下には包帯が巻かれている。身体全身が悲鳴を上げ、彼女自身も顔をしかめた。

 

「あ、ごめんなさい………」

 

 ハーマイオニーはハッとして慌てて離れたが、その顔は心配そのものだった。

 

「大丈夫? 昨夜、ハリーから聞いたわ。………貴女、『磔の呪文』を当てられたって」

 

 それを聞き、シレンとクシェルはゾッとした。

 

「え? 今、『磔の呪文』って言った?!」

「ウソでしょ……なんでそんな呪いが!?」

 

 前者はフィールに激しく問い詰めた。

 

「身体、大丈夫でしょうね!?」

「…………大丈夫だって………」

 

 そうは言うものの、フィールの顔色は優れていない。

 身に染みたあの痛みは1日が経過しても尚、彼女の身体に残存していた。

 

「………ごめん、少し、休ませて」

 

 フィールはクリミアの膝を借りて横になると、フッと眼を閉じた。それから程無くして、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

「寝るの早いな」

「疲れが溜まってたのでしょう。ここ最近、色んなことがあったし」

 

 リータ・スキーターによるデタラメな記事に、レイブンクロー生との一悶着。

 シレンの言う通り、フィールは主に精神を疲労に導く出来事が次々とあったので、本人に自覚はなくとも身体は相当疲れていたのだろう。

 今はそっとしておこうと、クリミアはフィールの黒髪を撫でる。

 夢の世界に居るにも関わらず、いつもなら可愛いと思う寝顔ではなかった。

 

「まだガキだってのに、デッカイもん背負っちまったって顔して………」

 

 ルークは従妹の険しい顔付きに、オッドアイの両眼を鬱屈そうに細める。

 それから、ハーマイオニーの方を見た。

 

「フィール、学校ではどうしてるんだ?」

 

 いきなり話の趣旨が変わってハーマイオニーはキョトンとしたが、

 

「え? えーと………いつも無口無表情で何を考えてるかわからないけど………友達思いで凄く優しい、です」

「………そうか」

「あの………フィールは昔から、独りでなんでも無理するような人だったんですか?」

「いや………そんなことはなかったぞ。それと、敬語は使わなくていい。さん付けとかもいらないからな」

 

 ルークにそう言われ、ハーマイオニーは頷く。

 今度は、ハリーが訊いた。

 

「フィール、昔はどんな感じだったんだ?」

「何処にでも居るような、普通の女の子だ。でもある日を境に豹変してしまった。痛みは人の心を病む。おかげでフィールはガラリと変わった。信じられないかもしれないけど、昔のフィールは明るくて笑顔も多かったし、底抜けに可愛かった従妹なんだぜ」

「…………………え」

「それが今となっては、無口無表情で多くを語らない、他人との触れ合いを嫌う、まさに氷のような性格だ。でも昔は、お母さんのクラミー伯母さんが大好きでべったりの甘えん坊な性格だったんだ」

 

 今のフィールからは想像が出来ない、昔の彼女の一面を聞いて、ハリー達は眼を見張った。

 あのフィールが、明るくて笑顔が多かった?

 お母さんにべったりの甘えん坊さん?

 ………それは本当なのだろうか?

 

「あんなことが起きていなければ、フィールは今とは違うヤツだったかもな」

「あんなことって………?」

「ああ………それは―――」

「ルーク」

 

 続けて言おうとしたルークを、クリミアが重苦しいトーンで遮った。

 

「私達が軽々しく誰かに教える権利はないわ。全てを話す権利はフィールにあるわよ」

「そんなことはわかってる。………だけど、そろそろ、コイツらにも知って貰った方が、フィールとしては気が楽じゃないか?」

「あのね………お姉ちゃんが言いたいことがわからないの? この娘が過去の事情を誰かに1から話すってことの意味が」

 

 頭の回転が鈍い兄に、シレンはハリーやクシェルを見ながら、呆れて説明した。

 

 

 

「フィール本人が『あの日』のことを全て話すってことは、その人に全幅の信頼を置いているのを意味しているのよ。最初から全てを知っている私達は、他人には一切教えず語らず見守ること。それが私達が一番この娘にしてあげられることなのよ」

 

 

 




【クラウチパパ生存ルート】
フィールとルークが命懸けで護ってくれた結果、どうでもいい人間さえも生存ルートになった。ま、どうせ生き残ったところで結局は後で尋問されて悪事が露見しアズカバン送りにされるので無意味に終わるっていう、チャララーンな結果に。

フィール&ルーク「「ふざけるなああぁぁ!」」

【セクタムセンプラ】
ルークが受けた闇の魔術に属する斬撃呪文。
セクタムセンプラが闇の陣営で流行したかは不明だがレビコーパスは大流行してたんだ。半純血のプリンスことスネイプがデスイーターだった頃に当時仲間だったデスイーターは教われていてもおかしくないだろう。

【クルーシオ】
フィールが受けた許されざる呪文の一つ。
これを食らったには飽きたらず、クラウチジュニアに危うく殺されそうになった寸前に。
あれ? クラウチ息子よ、お前フィールもハリーと一緒にヴォルヴォルさん所に連れていくのが目的じゃなかったっけ? お前後で痛い目遭うぞ。

【昔のフィールを知るハリー達】
ここでフィールの過去の熟知度のまとめ。

全貌を知っている→クリミア、ベルンカステル一家、ベイカー夫妻、教師陣

断片的に知ってる→クシェル

何も知らない→ハリー達一行

全て知ってるのがクリミア達フィールの家族と彼女の両親の親友、ダンブルドア等の教師陣。
断片的にフィールの両親がどんな末路を辿ったのかを知ってるのが盗み聞きしたクシェル。
両親がいないこと以外は他何も知らないハリー達三人。
ここでクシェルとハリー達一行は昔のフィールがどんな娘だったのかを初めて知ったため少し知識が増えた。
 
【まとめ】
今回はクラウチパパ救済ルート回。
次回はいよいよ第三の課題回。
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